説明

炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材及びその製造方法

【課題】耐酸化性や耐食性に優れた炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材を提供する。
【解決手段】有機多孔質構造体の有形骨格に樹脂類及びシリコン粉末を含んだ第一スラリーを含浸させ真空或いは不活性雰囲気下において炭素化し、真空或いは不活性雰囲気下において反応焼結させて炭化ケイ素化し、シリコンを溶融含浸してシリコン被覆層を形成し、次いで樹脂類を含む第二スラリーを含浸させ炭素化するとともにシリコン被覆層の少なくとも表面を炭化ケイ素化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンと炭素との反応焼結後にシリコンを溶融含浸するという二段反応焼結法により、スポンジ状、織布、不織布及び段ボール形状などの連続多孔質の形状を保持した超軽量の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材及びそれを製造する方法に関するものであり、更に具体的には、高温用フィルター、高温構造部材、断熱材、溶融金属濾過材、バーナープレート、ヒーター材、高温用消音材等の多くの用途に適する耐熱性超軽量多孔質構造材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素系セラミックスは軽量で、耐熱性、耐磨耗性、耐食性などに優れていることから、近年、例えば、高温耐食部材、ヒーター材、耐磨耗部材や、さらには研削材、砥石などの用途に幅広く用いられている。この炭化ケイ素系セラミックスは、主に焼結技術により製造されているため、気孔率90%以上のフィルター形状の超軽量多孔質材としての実用化までには至っていない。
【0003】
最近では、このような耐熱性軽量多孔質セラミックスの研究が行われはじめている。例えば、ブリジストン社では、鋳鉄用セラミックフォームフィルターとして、ポリエチレンあるいはポリウレタンのスポンジに炭化ケイ素粉末スラリーを含浸後、余剰スラリーの除去を行い、乾燥、焼成して多孔質炭化ケイ素構造体を得ている。カタログでの物性値では、空孔率は85%、見掛比重約0.42g/cm3 となっている。
【0004】
しかしながら、上記方法では炭化ケイ素粉末スラリーを用いるので、余剰スラリーの除去作業を行っても、余剰スラリーが残り気孔となる部分を塞いでいるところがある。基本的にはセラミックスの粉末焼結法で作製するので、スポンジ骨格部分の中心部は粉末が入らずに空洞になるし、骨格部分の粉末付着量が少ないと低強度となるので、骨格部分はスポンジ骨格より太くなる。また、気孔率も85%程度と低く、見掛比重も約0.42g/cm3 と高い。また気孔径も1〜5mm程度(標準セル数13ヶ/25mm〜6ヶ/mm)と大きい。
【0005】
そこで本願発明者らは、繊維強化炭化ケイ素複合材の研究において、フェノール樹脂の炭素化による緻密なアモルファス炭素のみのマトリックスは溶融シリコンとほとんど反応しないが、シリコン粉末とフェノール樹脂の混合物が反応焼結(体積減少反応)して生成した炭化ケイ素は溶融シリコンとの濡れ性がよいこと、ポーラスな残留アモルファス炭素のマトリックスには、溶融シリコンが容易に浸透し反応することができることを見いだした(特開2000−313676号公報)。
【0006】
そして炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材についてさらに鋭意研究を重ねた結果、スポンジ等の多孔質構造体の有形骨格にシリコン粉末と樹脂を含浸させ、シリコン粉末及び上記構造体からの炭素との体積減少を伴った炭化ケイ素生成反応により、ポーラスな炭化ケイ素、残留炭素部分を生成させ、このポーラスな骨格部分にシリコンの溶融含浸を行うことにより、炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材を、複雑な形状のものであっても、容易に多孔質構造体の有形骨格の形状を保ったままで製造し得ることを見いだした(特許第3699992号)、(特開2010−30888号公報)。
【0007】
さらに、この方法を木材、紙、プラスチック製或いは炭素粉末製多孔質構造体に用いると、樹脂及びシリコン粉末を含浸させ、炭素化後、シリコン粉末を反応焼結させ、シリコンの溶融含浸を行うことにより、炭化ケイ素系耐熱性軽量多孔質構造材を、複雑な形状のものであっても、容易に多孔質構造体の有形骨格の形状を保ったままで製造し得ることを見いだした。特に炭素粉末を含む多孔質構造体を用いる場合は、シリコン粉末を添加せず、樹脂のみの含浸でもよい。これは、多孔質構造体が炭素粉末を多く含む場合は、シリコン粉末が含まれなくともシリコンの溶融含浸が可能であるためである(特許第4110244号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−313676号公報
【特許文献2】特許第3699992号
【特許文献3】特開2010−30888号公報
【特許文献4】特許第4110244号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1−4に記載の製造方法で炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材を製造すると、最終工程でシリコンの溶融含浸を行っているため、表面の大部分は金属シリコンで覆われている。ところが金属シリコンは、耐酸化性や耐食性が炭化ケイ素に比べて低いために、この炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材をディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)や耐食性も求められる高温用のフィルタとして用いるには難点があった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、耐酸化性や耐食性に優れた炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材を提供するとともに、その炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材を容易に製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の製造方法の特徴は、樹脂、ゴム、布、繊維、木材及び紙から選択される少なくとも一つの材料から形成された有機多孔質構造体の有形骨格に、炭素源としての樹脂類及びシリコン粉末を含んだ第一スラリーを含浸させ余分な第一スラリーを除去した後、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃で炭素化して炭素化多孔質構造体を形成する炭素化工程と、
炭素化多孔質構造体を、真空或いは不活性雰囲気下において、1300℃以上の温度で反応焼結させることにより炭化ケイ素を生成させると同時に体積減少反応に起因する開気孔を生成させ炭化ケイ素化多孔質構造体を形成する炭化ケイ素化工程と、
炭化ケイ素化多孔質構造体に、真空或いは不活性化雰囲気下において1300℃〜1800℃の温度でシリコンを溶融含浸して残留炭素を炭化ケイ素とするとともに表面にシリコン被覆層を形成しシリコン被覆多孔質構造体を形成する溶融含浸工程と、
炭素源としての樹脂類を含む第二スラリーをシリコン被覆多孔質構造体に含浸させ余分な第二スラリーを除去した後、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃に加熱して炭素化するとともに1300℃〜1600℃の温度で反応焼結させることによりシリコン被覆層の少なくとも表面を炭化ケイ素化する表面炭化ケイ素化工程と、をこの順で行うことにある。
【0012】
また有機多孔質構造体に炭素粉末を含む場合における本発明の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の製造方法の特徴は、樹脂、ゴム、炭素粉末、布、繊維、木材及び紙から選択される少なくとも一つの材料から形成され炭素粉末を含む有機多孔質構造体の有形骨格に、炭素源としての樹脂類を含んだ第一スラリーを含浸させ余分な第一スラリーを除去した後、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃で炭素化して炭素化多孔質構造体を形成する炭素化工程と、
炭素化多孔質構造体に、真空或いは不活性化雰囲気下において1300℃〜1800℃の温度でシリコンを溶融含浸して残留炭素を炭化ケイ素とするとともに表面にシリコン被覆層を形成しシリコン被覆多孔質構造体を形成する溶融含浸工程と、
炭素源としての樹脂類を含む第二スラリーをシリコン被覆多孔質構造体に含浸させ余分な第二スラリーを除去した後、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃に加熱して炭素化するとともに1300℃〜1600℃の温度で反応焼結させることによりシリコン被覆層の少なくとも表面を炭化ケイ素化する表面炭化ケイ素化工程と、をこの順で行うことにある。
【0013】
そして本発明の製造方法によって製造される本発明の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の特徴は、その気孔構造が、用いた有機多孔質構造体の気孔構造に対応した構造であることにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材は、シリコン被覆層の少なくとも表面が炭化ケイ素化されている。したがって表面に金属シリコンが表出していないので、耐酸化性や耐食性に優れ、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)や高温用のフィルタとして用いることができる。
【0015】
そして本発明の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の製造方法によれば、シリコン被覆多孔質構造体に第二スラリーを付着させ炭素化と反応焼結を行っているので、気孔内のシリコン被覆層にも第二スラリーが容易に付着して反応する。したがってシリコン被覆層の表面全部を炭化ケイ素化することができ、耐酸化性や耐食性に優れた炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1において、表面炭化ケイ素化工程を行う前のシリコン被覆多孔質構造体の破面のSEM写真である。
【図2】実施例1に係る炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の破面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
請求項3に記載の製造方法では、先ず、炭素源としての樹脂類とシリコン粉末とを含む第一スラリー又はこのスラリーにさらに炭化ケイ素粉末を含む第一スラリーを有機多孔質構造体に含浸させる含浸工程を行う。ここで有機多孔質構造体とは、樹脂、ゴム、炭素粉末、布、繊維、木材及び紙から選択される少なくとも一つの材料から形成された気孔を有するものを用いることができる。その形状や気孔径、気孔分布などは特に制限されず、目的に応じて種々選択することができる。例えば樹脂からなる有機多孔質構造体としては、スポンジなどのウレタン発泡体、発泡ゴム、発泡ポリオレフィンなどが例示される。また布からなる有機多孔質構造体としては織布、編み布、不織布が例示される。
【0018】
炭素源である樹脂類としては、溶媒に溶解して溶液となるものを用いることができ、フェノール樹脂、フラン樹脂、あるいはポリカルボシラン等の有機金属ポリマー、または蔗糖などが例示される。これらから選ばれる一種でもよいし、複数種を混合して用いてもよい。また添加剤として、炭素粉末、黒鉛粉末、カーボンブラックを添加してもよく、骨材や酸化防止剤として炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、シリカ、ムライト、二ケイ化モリブデン、炭化ホウ素、ホウ素粉末などを添加することもできる。
【0019】
シリコン粉末は、平均粒径が30μm以下の微粉末が好適である。粒径が大きなものは、ボールミルなどによって粉砕して用いることが好ましい。シリコン粉末は、純シリコン粉末であってもよいし、Mg、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Wなどの金属を含むシリコン合金粉末、あるいは純シリコン粉末とこれらの金属粉末との混合粉末を用いることもできる。
【0020】
第一スラリーにおける樹脂とシリコン粉末との混合比は、原子比でSi/C=0.05〜5.00の範囲とするのが好ましい。この原子比が0.05未満では、反応焼結で生じる多孔質炭化ケイ素量が少なく、溶融シリコンの含浸が困難となる。またこの原子比が5.00を超えると、第一スラリー中のシリコン粉末量が多くなって沈殿し易くなる。
【0021】
また樹脂とシリコン粉末とを含むスラリーにさらに炭化ケイ素粉末を混合した第一スラリーを用いることもできる。この場合、炭化ケイ素粉末はシリコン粉末重量の3倍以内の範囲とするのが好ましい。炭化ケイ素粉末がシリコン粉末重量の3倍を超えると、混合が不十分となる場合がある。
【0022】
第一スラリー中の樹脂濃度、シリコン粉末の濃度あるいは炭化ケイ素粉末の濃度は、有機多孔質構造体にスラリーを含浸可能であれば特に制限されない。またスラリーに用いられる溶媒は特に制限されないが、樹脂を溶解可能なものが用いられる。
【0023】
第一スラリーを有機多孔質構造体に含浸するには、単に浸漬して引き上げるだけでもよいし、減圧下で含浸させることも好ましい。そして有機多孔質構造体から余剰のスラリーが除去される。有機多孔質構造体から余剰の第一スラリーを除去するのは、連続気孔部に充填された第一スラリーを除去するためであり、有機多孔質構造体から余剰のスラリーを吸引する方法、あるいは有機多孔質構造体を絞って余剰のスラリーを除去する方法などを用いて行うことができる。余剰のスラリーが除去されることで、有機多孔質構造体の骨格内部や表面にスラリーが付着した前駆体が形成される。
【0024】
除去工程後には、スラリー中の溶媒を乾燥させる乾燥工程を行うことが望ましい。乾燥工程は大気中で行うことができ、70℃で12時間程度保持すれば十分である。
【0025】
炭素化工程では、第一スラリーが付着した有機多孔質構造体を、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃で炭素化して炭素化多孔質構造体を形成する。この炭素化工程では、樹脂類が炭素化するとともに、有機多孔質構造体を分解焼失させる。不活性雰囲気としては、アルゴンガスなど不活性ガス雰囲気が好ましい。樹脂の熱分解による炭素化過程では、タール状のものや気化物質が生成するので、真空中で行うのは好ましくない。また窒素ガス雰囲気では、窒化ケイ素が生成する場合があるので好ましくない。
【0026】
炭化ケイ素化工程における加熱温度は、先ず 900℃〜1300℃の範囲で加熱して炭素化し、次いで1300℃以上の温度で加熱するのが好ましい。
【0027】
したがって炭素化後には、炭素とシリコン粉末あるいは更に炭化ケイ素粉末で有機多孔質構造体の骨格と同様の骨格が形成される。そして1300℃以上に加熱されることで炭素とシリコン粉末とが反応し、炭化ケイ素を主成分とする立体骨格部と立体骨格部の間に形成された連続気孔部とを有し、立体骨格部が緻密ではない炭化ケイ素系多孔質構造体が形成される。この反応は、シリコンと炭素が系内にあるので体積が減少する反応であり、炭素が拡散してシリコンと反応することで炭化ケイ素の生成と同時に立体骨格部の内部に微細な細孔が形成される。
【0028】
次の溶融含浸工程では、真空或いは不活性雰囲気下において1300℃〜1800℃の温度で炭化ケイ素化多孔質構造体にシリコンを溶融含浸してシリコン被覆層を形成し、シリコン被覆多孔質構造体を形成する。この工程は、金属シリコンをその融点(約1410℃)以上に加熱して溶融シリコンとし、炭化ケイ素化多孔質構造体に含浸すればよく、特に真空中で行うことが好ましい。溶融含浸用シリコンは、粉末状、顆粒状、あるいは塊状でもよい。
【0029】
溶融含浸工程では、溶融シリコンは炭化ケイ素に対する濡れ性が良好であるので、立体骨格部の内部に形成された微細な細孔にまで溶融シリコンが浸入し、残留している炭素と反応して炭化ケイ素が形成される。この反応は、シリコンを系外から加えているので体積が増加する反応であり、立体骨格部の内部に形成された微細な細孔がシリコン又は炭化ケイ素で充填されることになる。したがって立体骨格部の強度が向上するとともに、投錨効果によってシリコン被覆層と立体骨格部との付着強度が著しく高まる。
【0030】
そして溶融含浸工程では、真空中又は不活性雰囲気中にて1410℃以上の高温に晒されるため、残留している炭素は全て炭化ケイ素となる。なお溶融含浸工程は、炭化ケイ素化工程と同時に行うこともできる。すなわち、先ず 900℃〜1300℃の範囲で加熱して炭素化した後に、溶融含浸用シリコンを加えて真空あるいは不活性雰囲気にて1300℃以上に焼成し、シリコン粉末と炭素を反応させて炭化ケイ素化多孔質構造体を生成させるとともに、シリコンの融点以上の温度でシリコンを溶融含浸させる。
【0031】
表面炭化ケイ素化工程では、炭素源としての樹脂類を含む第二スラリーをシリコン被覆多孔質構造体に含浸させ余分な第二スラリーを除去した後、70℃で12時間程度乾燥させ、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃に加熱して炭素化するとともに1300℃〜1600℃の温度で反応させることにより、シリコン被覆層の少なくとも表面を炭化ケイ素化する。反応時の温度は1300℃以上、かつシリコンの融点以下で炭化ケイ素化することが望ましい。
【0032】
第二スラリーに含まれる樹脂類としては、分子中の炭素原子が多く、シリコン被覆層に対する濡れ性が高いものが好ましい。このような樹脂類としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、蔗糖などが例示される。しかし炭素源として樹脂のみを含む場合には、シリコン被覆層と反応する炭素が少ない場合があるので、第二スラリーにはカーボンブラックなどの炭素粉末を含むことが望ましい。第二スラリー中の炭素粉末の量は、スラリーとしてシリコン被覆多孔質構造体に含浸可能な粘度範囲であれば特に制限されない。また過剰の炭素粉末を含んでいても、未反応炭素粉末は加熱により容易に焼失する。
【0033】
第二スラリーに添加される炭素粉末は、黒鉛、カーボンブラックなどを用いることができるが、シリコンとの反応性および分散性の観点からはカーボンブラックが特に好ましい。
【0034】
シリコン被覆多孔質構造体への第二スラリーの塗布量は、炭素粉末を含まない場合には、樹脂量を多くするために厚く塗布することが望ましい。またカーボンブラックなどの炭素粉末を含む場合には、炭素粉末の含有量によっても異なるが、比較的薄く塗布することができる。
【0035】
こうして得られる本発明の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材は、その有形骨格表面、気孔の内表面など少なくとも表面が炭化ケイ素となっている。したがって表面に金属シリコンが表出していないので、耐酸化性や耐食性に優れている。
【0036】
請求項4に記載の製造方法では、炭素粉末を含む有機多孔質構造体を用いたこと、第一スラリーにシリコン粉末を含まないこと、炭化ケイ素化工程を行っていないこと、以外は請求項3に記載の製造方法と同様である。
【0037】
炭素粉末を含む有機多孔質構造体は、樹脂、ゴム、炭素粉末、布、繊維、木材及び紙から選択される少なくとも一つの材料から形成されている。例えば炭素粉末を含む樹脂、炭素粉末を含むゴム、炭素粉末を含む布(織布、不織布、編み布)、炭素粉末を含む繊維集積体、炭素粉末を含む木材、炭素粉末を含む紙などから形成することができる。また炭素粉末に結合材を添加してハニカム形状、段ボール形状または厚紙形状に成形してなる炭素製品を用いてもよい。
【0038】
樹脂を炭素化して得られるアモルファス炭素は、緻密な状態であると、溶融シリコンとはほとんど反応しない。しかし、炭素化工程で形成された炭素化多孔質構造体は、多孔質である。また炭素化多孔質構造体に含まれる炭素粉末は、溶融シリコンと濡れ性がよくシリコンと直接反応して炭化ケイ素を生成する。
【0039】
そこで請求項4に記載の製造方法では、第一スラリーにシリコン粉末を含まず、炭素化工程後に炭化ケイ素化工程を行うことなく溶融含浸工程を行っている。なお、請求項4に記載の製造方法においても、第一スラリーにシリコン粉末を含んでもよいし、炭化ケイ素化工程を行ってもよいことは言うまでもない。
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0041】
フェノール樹脂の炭素化による炭素とシリコンとの原子比がSi/C=0.6になる割合にフェノール樹脂と平均粒径約20μmのシリコン粉末との混合量を設定し、シリコン粉末重量の約 1.5倍の重量のエチルアルコールでフェノール樹脂を溶解してスラリーを調製し、シリコン粉末の粒径を小さくするために1日間ボールミル混合し、更に平均粒径約3μmの炭化ケイ素粉末をシリコン粉末と同重量添加して第一スラリーを調製した。
【0042】
<含浸工程>
#13(1インチ当たり13セル数)のポリウレタンスポンジを用意し、上記第一スラリーを十分に含浸し、第一スラリー液が連続気孔を塞がない程度に絞った後、70℃で12時間、乾燥させた。この時、スポンジは軸方向で約20%膨張した。
【0043】
<炭素化工程、炭化ケイ素化工程、溶融含浸工程>
スラリーが付着したスポンジを、アルゴンガス雰囲気下にて1000℃に加熱して炭素化した。この時、スポンジが分解焼失するとともにフェノール樹脂が炭素化し、用いたスポンジと同じ骨格を有する炭素化多孔質構造体が形成された。スポンジは炭素化の際に収縮し、炭素化前に比べて軸方向で約12%の収縮を生じて僅かに小さくなった。
【0044】
この炭素化多孔質構造体にこの炭素化多孔質構造体とほぼ同重量のシリコン顆粒を加えて、真空中にて1450℃で1時間焼成した。この焼成では、まずシリコンの融点(約1410℃)以下の温度で、炭素がシリコン粉末と反応して、スポンジ状の炭化ケイ素と未反応の炭素からなる炭化ケイ素化多孔質構造体が形成される。温度がシリコンの融点以上になるとシリコン顆粒がこの炭化ケイ素化多孔質構造体に溶融含浸して残存炭素とも反応し、最終的にシリコン被覆層をもつシリコン被覆多孔質構造体を得る。
【0045】
得られたシリコン被覆多孔質構造体の骨格を一部切り取り、その表面をSEMの反射電子像で観察した画像を図1に示す。図1において白色の部位がシリコンであり、灰色の部位が炭化ケイ素である。
【0046】
<表面炭化ケイ素化工程>
フェノール樹脂を5gと、カーボンブラックを0.5gと、エチルアルコール10gとを混合して、第二スラリーを調製した。この第二スラリー中にシリコン被覆多孔質構造体を浸漬し、引き上げて余分な第二スラリーを除去し、70℃で12時間乾燥させた後、1000℃でアルゴン雰囲気下において炭素化し、真空雰囲気下にて1450℃で1時間熱処理した。
【0047】
この炭素化処理で形成された第二スラリーの被覆層が表面で炭素化され、次いでシリコン被覆層の表面で炭素とシリコンとが反応して炭化ケイ素層が形成された。
【0048】
得られた炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の骨格を一部切り取り、その破面をSEMの反射電子像で観察した画像を図2に示す。表面には一部炭素(黒色部)が残るもののその内側に炭化ケイ素(灰色部)があり、その内側に炭化ケイ素(灰色部)とシリコン(白色部)の混合状態がある。
【0049】
すなわち得られた炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材は、骨格及び連通気孔の表面が炭化ケイ素からなり、用いたスポンジと同じ構造で、気孔径500〜600μm、開気孔率97%、密度0.07g/cm3であり、つぶれた気孔は見つからなかった。
【実施例2】
【0050】
実施例1と同様のスポンジを用い、実施例1と同様にして含浸工程、炭素化工程、炭化ケイ素化工程、溶融含浸工程を行った。次いでフェノール樹脂を5gと、エチルアルコール10gとからなり、カーボンブラックを含まない第二スラリーを用いたこと、この第二スラリー中にシリコン被覆多孔質構造体を浸漬し、引き上げて余分な第二スラリーを除去し、70℃で12時間乾燥させる工程を3回繰り返して第二スラリーを厚く付着させたこと以外は実施例2と同様にして表面炭化ケイ素化工程を行った。
【0051】
得られた炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材は、実施例1と同様の構造をなし、表面は全て炭化ケイ素で構成されていた。
【実施例3】
【0052】
実施例1と同様のスポンジを用い、実施例1と同様にして含浸工程、炭素化工程、炭化ケイ素化工程、溶融含浸工程、表面炭化ケイ素化工程を行った。ただし、表面炭化ケイ素化工程の処理温度を1350℃にした。
【0053】
得られた炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材は、実施例1と同様の構造をなし、表面は全て炭化ケイ素で構成されていた。
【実施例4】
【0054】
ポリウレタンスポンジに代えて、活性炭素粉末製の積層状段ボールを用い、実施例1と同様に含浸工程と炭素化工程を行った。ただし、第一スラリーにはシリコン粉末及び炭化ケイ素粉末は含まれていない。得られた炭素化多孔質構造体は、加工が十分可能な程度の強度があり、収縮も3%程度と極めて小さかった。この炭素化多孔質構造体を、真空下で1450℃、1時間でシリコン溶融含浸を行い、段ボール形状のシリコン被覆多孔質構造体を得た。
【0055】
このシリコン被覆多孔質構造体に対して実施例3と同様にして表面炭化ケイ素化工程を行った。得られた炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材は、活性炭素粉末製の積層状段ボールの構造をなし、表面は全て炭化ケイ素で構成されていた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材は、高温用フィルター、高温構造部材、断熱材、溶融金属濾過材、バーナープレート、ヒーター材、高温用消音材等の多くの用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂、ゴム、布、繊維、木材及び紙から選択される少なくとも一つの材料から形成された有機多孔質構造体の有形骨格に、炭素源としての樹脂類及びシリコン粉末を含んだ第一スラリーを含浸させ余分な該第一スラリーを除去した後、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃で炭素化して炭素化多孔質構造体を形成する炭素化工程と、
該炭素化多孔質構造体を、真空或いは不活性雰囲気下において、1300℃以上の温度で反応焼結させることにより炭化ケイ素を生成させると同時に体積減少反応に起因する開気孔を生成させ炭化ケイ素化多孔質構造体を形成する炭化ケイ素化工程と、
該炭化ケイ素化多孔質構造体に、真空或いは不活性化雰囲気下において1300℃〜1800℃の温度でシリコンを溶融含浸して残留炭素を炭化ケイ素とするとともに表面にシリコン被覆層を形成しシリコン被覆多孔質構造体を形成する溶融含浸工程と、
炭素源としての樹脂類を含む第二スラリーを該シリコン被覆多孔質構造体に含浸させ余分な該第二スラリーを除去した後、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃に加熱して炭素化するとともに1300℃〜1600℃の温度で反応焼結させることにより該シリコン被覆層の少なくとも表面を炭化ケイ素化する表面炭化ケイ素化工程と、を行うことで形成されてなる炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材であって、
該炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の気孔構造は、該有機多孔質構造体の気孔構造に対応した構造であることを特徴とする炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材。
【請求項2】
樹脂、ゴム、炭素粉末、布、繊維、木材及び紙から選択される少なくとも一つの材料から形成され炭素粉末を含む有機多孔質構造体の有形骨格に、炭素源としての樹脂類を含んだ第一スラリーを含浸させ余分な該第一スラリーを除去した後、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃で炭素化して炭素化多孔質構造体を形成する炭素化工程と、
該炭素化多孔質構造体に、真空或いは不活性化雰囲気下において1300℃〜1800℃の温度でシリコンを溶融含浸して残留炭素を炭化ケイ素とするとともに表面にシリコン被覆層を形成しシリコン被覆多孔質構造体を形成する溶融含浸工程と、
炭素源としての樹脂類を含む第二スラリーを該シリコン被覆多孔質構造体に含浸させ余分な該第二スラリーを除去した後、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃に加熱して炭素化するとともに1300℃〜1600℃の温度で反応焼結させることにより該シリコン被覆層の少なくとも表面を炭化ケイ素化する表面炭化ケイ素化工程と、を行うことで形成されてなる炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材であって、
該炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の気孔構造は、該有機多孔質構造体の気孔構造に対応した構造であることを特徴とする炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材。
【請求項3】
樹脂、ゴム、布、繊維、木材及び紙から選択される少なくとも一つの材料から形成された有機多孔質構造体の有形骨格に、炭素源としての樹脂類及びシリコン粉末を含んだ第一スラリーを含浸させ余分な該第一スラリーを除去した後、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃で炭素化して炭素化多孔質構造体を形成する炭素化工程と、
該炭素化多孔質構造体を、真空或いは不活性雰囲気下において、1300℃以上の温度で反応焼結させることにより炭化ケイ素を生成させると同時に体積減少反応に起因する開気孔を生成させ炭化ケイ素化多孔質構造体を形成する炭化ケイ素化工程と、
該炭化ケイ素化多孔質構造体に、真空或いは不活性化雰囲気下において1300℃〜1800℃の温度でシリコンを溶融含浸して残留炭素を炭化ケイ素とするとともに表面にシリコン被覆層を形成しシリコン被覆多孔質構造体を形成する溶融含浸工程と、
炭素源としての樹脂類を含む第二スラリーを該シリコン被覆多孔質構造体に含浸させ余分な該第二スラリーを除去した後、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃に加熱して炭素化するとともに1300℃〜1600℃の温度で反応焼結させることにより該シリコン被覆層の少なくとも表面を炭化ケイ素化する表面炭化ケイ素化工程と、をこの順で行うことを特徴とする炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の製造方法。
【請求項4】
樹脂、ゴム、炭素粉末、布、繊維、木材及び紙から選択される少なくとも一つの材料から形成され炭素粉末を含む有機多孔質構造体の有形骨格に、炭素源としての樹脂類を含んだ第一スラリーを含浸させ余分な該第一スラリーを除去した後、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃で炭素化して炭素化多孔質構造体を形成する炭素化工程と、
該炭素化多孔質構造体に、真空或いは不活性化雰囲気下において1300℃〜1800℃の温度でシリコンを溶融含浸して残留炭素を炭化ケイ素とするとともに表面にシリコン被覆層を形成しシリコン被覆多孔質構造体を形成する溶融含浸工程と、
炭素源としての樹脂類を含む第二スラリーを該シリコン被覆多孔質構造体に含浸させ余分な該第二スラリーを除去した後、真空或いは不活性雰囲気下において900℃〜1300℃に加熱して炭素化するとともに1300℃〜1600℃の温度で反応焼結させることにより該シリコン被覆層の少なくとも表面を炭化ケイ素化する表面炭化ケイ素化工程と、をこの順で行うことを特徴とする炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の製造方法。
【請求項5】
前記第一スラリーには、シリコンと炭素の原子比がSi/C=0.05〜5.00の比率になるように前記樹脂類と前記シリコン粉末が含まれている請求項3に記載の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の製造方法。
【請求項6】
前記第二スラリーにはカーボンブラックが含まれている請求項3又は請求項4に記載の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の製造方法。
【請求項7】
前記第一スラリーに含まれる樹脂類は、フェノール樹脂、フラン樹脂、有機金属ポリマー、及び蔗糖から選ばれた少なくとも1種である請求項3又は請求項4に記載の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の製造方法。
【請求項8】
前記第一スラリーには、添加剤として、炭素粉末、黒鉛粉末、及びカーボンブラックから選択される1種以上が含まれている請求項3又は請求項4に記載の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の製造方法。
【請求項9】
前記第一スラリーには、骨材或いは酸化防止剤として、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、シリカ、ムライト、二ケイ化モリブデン、炭化ホウ素、及びホウ素粉末から選択される1種以上が添加されている請求項3又は請求項4に記載の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の製造方法。
【請求項10】
前記第一スラリーにはさらにシリコン粉末が含まれ、前記炭素化工程と前記溶融含浸工程との間に、前記炭素化多孔質構造体を、真空或いは不活性雰囲気下において、1300℃以上の温度で反応焼結させることにより炭化ケイ素を生成させると同時に体積減少反応に起因する開気孔を生成させ炭化ケイ素化多孔質構造体を形成する炭化ケイ素化工程を行う請求項4に記載の炭化ケイ素系耐熱性超軽量多孔質構造材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−171824(P2012−171824A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34474(P2011−34474)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】