説明

炭化ケイ素被覆炭素基材の製造方法及び炭化ケイ素被覆炭素基材並びに炭化ケイ素炭素複合焼結体、セラミックス被覆炭化ケイ素炭素複合焼結体及び炭化ケイ素炭素複合焼結体の製造方法

【課題】黒鉛などの炭素基材の表面に炭化ケイ素被膜が緻密にかつ均一に被覆された炭化ケイ素被覆炭素基材を製造する。
【解決手段】未結合手を有しないSP炭素構造からなるベース部と、未結合手を有するSP炭素構造からなるエッジ部とを表面に有する炭素基材を準備する工程と、温度1400〜1600℃、圧力1〜150Paの雰囲気中で、炭素基材の表面と、SiOガスとを反応させて炭化ケイ素を形成することにより、炭化ケイ素で被覆された炭素基材を製造する工程とを備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛などの炭素基材の表面を炭化ケイ素で被覆した炭化ケイ素被覆炭素基材の製造方法、炭化ケイ素被覆炭素基材、炭化ケイ素炭素複合焼結体及びセラミックス被覆炭化ケイ素炭素複合焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭素材は、低比重で、耐熱性、耐食性、摺動性、電気伝導性、熱伝動性、加工性に優れ、半導体、冶金、機械、電気、原子力等の広範な分野で利用されている。
【0003】
しかしながら、炭素材は、一般に、耐酸化性と強度において劣っているという問題がある。この問題を解消するため、セラミックスなどの他の材料との複合化が検討されている。
【0004】
特許文献1〜3においては、炭素系材料の表面に、炭化ケイ素被膜を形成することにより、耐酸化性を向上させる方法が開示されている。
【0005】
炭化ケイ素被膜を形成する方法としては、気相反応により生成する炭化ケイ素を堆積させる化学気相蒸着法(以下、CVD法という)や、基材の炭素を反応源としてケイ素成分と反応させることにより炭化ケイ素を形成する転化法(以下、CVR法という)などが用いられている。
【0006】
また、炭化ケイ素と炭素材の複合材料として、炭化ケイ素微粉末と黒鉛粒子とを混合し、プラズマ放電焼結により高密度に焼結した炭化ケイ素炭素焼結体が提案されている(特許文献4)。
【0007】
このような炭化ケイ素炭素焼結体を製造する方法として、炭化ケイ素被膜を被覆した黒鉛粒子を焼結する方法が考えられる。
【0008】
特許文献5においては、カーボンナノチューブの表面を、CVD法またはCVR法により炭化ケイ素で被覆することが提案されている。特許文献6においては、ダイヤモンドの表面を、CVD法またはCVR法により炭化ケイ素被膜で被覆することが提案されている。
【0009】
しかしながら、黒鉛などの炭素基材の表面を、CVD法またはCVR法により炭化ケイ素被膜で被覆する場合、均一に被覆することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−133173号公報
【特許文献2】特開平9−52777号公報
【特許文献3】特開平6−263568号公報
【特許文献4】特開2004−339048号公報
【特許文献5】特開2005−75720号公報
【特許文献6】特開2001−198834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、黒鉛などの炭素基材の表面に炭化ケイ素被膜を、緻密にかつ均一に被覆することができる炭化ケイ素被覆炭素基材の製造方法、該製造方法により製造することができる炭化ケイ素被覆炭素基材、該炭化ケイ素被覆炭素基材を用いて製造することができる炭化ケイ素炭素複合焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の炭化ケイ素被覆炭素基材の製造方法は、未結合手を有しないSP炭素構造からなるベース部と、未結合手を有するSP炭素構造からなるエッジ部とを表面に有する炭素基材を準備する工程と、温度1400〜1600℃、圧力1〜150Paの雰囲気中で、炭素基材の表面と、SiOガスとを反応させて炭化ケイ素を形成することにより、炭化ケイ素で被覆された炭素基材を製造する工程とを備える。
【0013】
本発明における炭素基材は、未結合手を有しないSP炭素構造からなるベース部と、未結合手を有するSP炭素構造からなるエッジ部とを表面に有している。本発明者らは、黒鉛などの炭素基材に対し、CVD法またはCVR法により炭化ケイ素被膜を表面に形成する場合において、炭化ケイ素被膜を均一に形成することができない理由について検討した結果、黒鉛の表面には、未結合手を有するSP炭素構造からなるエッジ部が存在しており、このエッジ部の反応活性が高いため、CVD法及びCVR法で炭化ケイ素を形成する場合、この反応活性の高いエッジ部において炭化ケイ素被膜が優先的に形成されるため、均一な被膜を形成できないことを見出した。SP炭素構造は、3つの結合手を有しており、ベース部においては3つの結合手が全て結合に関与しているが、エッジ部においては3つの結合手の内の1本もしくは2本が結合していない状態となっている。このため、エッジ部においては反応活性が高くなっていると考えられる。
【0014】
特にCVD法により炭化ケイ素被膜を形成すると、エッジ部において炭化ケイ素被膜が優先的に形成されやすく均一な被膜が形成されない。また、CVD法により炭化ケイ素被膜を形成すると、析出する粒子が大きく、また空隙の多いポーラスな被膜が形成され、緻密な炭化ケイ素被膜を均一に形成することが困難となる。
【0015】
本発明においては、温度1400〜1600℃、圧力1〜150Paの雰囲気中で、炭素基材の表面と、SiOガスとを反応させて炭化ケイ素を形成している。従って、本発明の炭化ケイ素被膜は、CVR法で形成される。本発明に従い、温度1400〜1600℃、圧力1〜150Paの雰囲気中で、CVR法により炭化ケイ素被膜を形成することにより、ベース部及びエッジ部を有する炭素基材の表面に炭化ケイ素被膜を、緻密にかつ均一に形成することができる。
【0016】
温度が1400℃未満であると、炭化ケイ素形成のための反応が進行しにくくなり、炭化ケイ素被膜が形成されにくくなる。また、温度が1600℃を越えると、CVD法による炭化ケイ素被膜が形成されやすくなるため、緻密で均一な被膜を形成することができなくなる。
【0017】
また、圧力が1Pa未満になると、CVR法による炭化ケイ素被膜の形成速度が遅くなるため好ましくない。また、圧力が150Paを越えると、CVD法による炭化ケイ素被膜が形成されやすくなり、緻密でかつ均一な被膜が形成できなくなる。
【0018】
本発明における炭素基材としては、例えば黒鉛基材が挙げられる。黒鉛はSP炭素構造を有しているので、その表面にはベース部とエッジ部が存在している。
【0019】
本発明における炭素基材は、ブロック状のものであってもよいし、粒子状のものであってもよい。従って、炭素基材は、炭素粒子であってもよい。炭素粒子である場合、炭素粒子の平均粒子径としては、50nm〜500μmの範囲内のものが好ましく用いられる。
【0020】
本発明において、SiOガスは、炭素基材とともに配置されるSiO源から発生させることができる。このようなSiO源としては、SiO粒子が挙げられる。この場合、炭素基材及びSiO源を、例えば、反応容器としての坩堝内に配置し、この坩堝を焼成炉内に配置することにより、坩堝内を加熱し、坩堝内を排気することができる。
【0021】
本発明の炭化ケイ素被覆炭素基材は、未結合手を有しないSP炭素構造からなるベース部と、未結合手を有するSP炭素構造からなるエッジ部とを表面に有する炭素基材の表面をケイ素成分と反応させて炭化ケイ素を形成することにより、表面を炭化ケイ素の層で被覆した炭素基材であって、炭化ケイ素の層の厚みが、20μm以下であることを特徴としている。
【0022】
本発明の炭化ケイ素被覆炭素基材は、炭化ケイ素の層の厚みが20μm以下である。炭化ケイ素の層の厚みが20μm以下であっても、均一にかつ緻密に炭化ケイ素が形成されている。このような本発明の炭化ケイ素被覆炭素基材は、上記本発明の製造方法によって製造することができる。
【0023】
炭化ケイ素の層の厚みは、さらに好ましくは1nm〜20μmの範囲であり、さらに好ましくは5nm〜20μmの範囲である。
【0024】
本発明の炭化ケイ素被覆炭素基材における炭素基材としては、例えば、黒鉛基材が挙げられる。また、上記と同様に炭素基材は炭素粒子であってもよい。この場合、炭素粒子の平均粒子径は50nm〜500μmの範囲内であることが好ましい。
【0025】
また、炭素基材が炭素粒子である場合、本発明の炭化ケイ素被覆炭素基材は、空気中650℃1時間の加熱による重量減少が、5重量%未満であることが好ましい。炭化ケイ素の層が表面において緻密にかつ均一に形成されているので、上記条件における重量減少を5重量%未満にすることができる。
【0026】
本発明の炭化ケイ素炭素複合焼結体は、炭化ケイ素で被覆された炭素基材粒子を焼結することによって得られる炭化ケイ素炭素複合焼結体であって、相対密度が90〜100%であり、Al、Be、B及びSeの合計の含有量が0.1重量%未満であることを特徴としている。
【0027】
本発明の炭化ケイ素炭素複合焼結体は、上記本発明の炭化ケイ素被覆炭素基材を焼結することによって得ることができる。上記本発明の炭化ケイ素被覆炭素基材は、その表面に緻密な炭化ケイ素被膜が均一に形成されているので、焼結助剤を用いることなく、2200℃以下の低温で焼結することができる。このため、相対密度を90〜100%にすることができる。また、焼結助剤の成分であるAl、Be、B及びSeの合計の含有量を0.1重量%未満にすることができる。
【0028】
本発明の炭化ケイ素炭素複合焼結体に用いられる炭素基材粒子としては、例えば、黒鉛粒子が挙げられる。また、炭素基材粒子の平均粒子径としては、50nm〜500μmの範囲内であることが好ましい。
【0029】
また、炭素基材粒子の表面の炭化ケイ素の層の厚みとしては、1nm〜20μmの範囲内が好ましく、さらに好ましくは200nm〜10μmの範囲であり、さらに好ましくは500nm〜5μmの範囲である。
【0030】
本発明のセラミックス被覆炭化ケイ素炭素複合焼結体は、炭化ケイ素炭素複合焼成体の表面の少なくとも一部の上に、セラミックス被覆層を形成したことを特徴としている。
【0031】
本発明の炭化ケイ素炭素複合焼結体の製造方法は、上記本発明の炭化ケイ素炭素複合焼結体を製造する方法であり、2200℃以下の温度で焼結することを特徴としている。
【0032】
上述のように、本発明の炭化ケイ素被覆炭素基材は、表面に緻密な炭化ケイ素被膜が均一に形成されているので、2200℃以下の低い温度でも焼結することができる。焼結温度としては、一般に、1600〜2200℃の温度が挙げられる。
【0033】
本発明の炭化ケイ素炭素複合焼結体の製造方法においては、焼結助剤を用いずに、2200℃以下の温度で焼結することができる。焼結助剤を用いずに焼結することができるので、高純度でかつAl、Be、B及びSeの合計含有量が低い緻密な炭化ケイ素炭素複合焼結体を製造することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の炭化ケイ素被覆炭素基材の製造方法によれば、黒鉛などの炭素基材の表面に、炭素ケイ素被膜を緻密でかつ均一に形成することができる。
【0035】
本発明の炭化ケイ素被膜炭素基材は、炭化ケイ素の層の厚みが20μm以下である。従って、相対密度が高い緻密な炭化ケイ素炭素複合焼結体を製造することができる。
【0036】
本発明の炭化ケイ素炭素複合焼結体は、相対密度が90〜100%であり、Al、Be、B及びSeの合計の含有量が0.1重量%未満である。このため、不純物の少ない緻密な炭化ケイ素炭素複合焼結体とすることができる。
【0037】
本発明のセラミックス被覆炭化ケイ素炭素複合焼結体は、炭化ケイ素炭素複合焼成体の表面の少なくとも一部の上にセラミックス被覆層が形成されているので、セラミックス被覆層と炭化珪素炭素複合焼結体中に含まれる炭化ケイ素とを容易に焼結させて、極めて密着性の高いセラミックス被覆層とすることができる。
【0038】
本発明の炭化ケイ素炭素複合焼結体の製造方法によれば、上記本発明の炭化ケイ素炭素複合焼結体を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に従う実施例における坩堝内の配置状態を示す模式的断面図。
【図2】炭素基材を示す断面図。
【図3】炭化ケイ素被覆炭素基材を示す断面図。
【図4】本発明に従う実施例における炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率2500倍)。
【図5】本発明に従う実施例における炭化ケイ素被覆黒鉛粒子の表面の炭化ケイ素を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率25000倍)。
【図6】比較例の炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率2500倍)。
【図7】比較例における炭化ケイ素被覆黒鉛粒子の表面の炭化ケイ素を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率25000倍)。
【図8】本発明に従う実施例における炭化ケイ素被覆黒鉛粒子の表面の炭化ケイ素を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率25000倍)。
【図9】比較例における炭化ケイ素被覆黒鉛粒子の表面の炭化ケイ素を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率25000倍)。
【図10】本発明に従う実施例において用いた未被覆黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)
【図11】本発明に従う実施例における炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率2500倍)。
【図12】比較例における炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率2500倍)。
【図13】比較例における炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【図14】本発明に従う実施例における炭化ケイ素被覆黒鉛粒子の加熱温度に対する重量減少率を示す図。
【図15】本発明に従う炭化ケイ素炭素複合焼結体を示す模式的断面図。
【図16】本発明に従うセラミック被覆炭化ケイ素炭素複合焼結体を示す模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
〔炭化ケイ素被覆処理〕
図1は、炭化ケイ素被覆処理に用いた坩堝内の配置状態を示す模式的断面図である。図1に示すように、黒鉛製坩堝1内に、カーボンシート2を配置し、その上にSiO源として、SiO粉末3を配置した。SiO粉末3の上に、カーボンフェルト4を配置し、カーボンフェルト4の上に、炭素基材として黒鉛粒子5を配置した。黒鉛粒子5の上に、カーボンフェルト6を配置し、その上にカーボンシート7を配置した。
【0042】
本実施例では、黒鉛製坩堝1を用いているが、アルミナ製坩堝を用いてもよい。
【0043】
図1に示すように配置した黒鉛製坩堝1を、焼成炉内に配置し、焼成炉内を排気し、加熱することにより、黒鉛製坩堝1内を所定の温度及び所定の圧力に加熱及び排気した。
【0044】
黒鉛製坩堝1内を所定の圧力に排気し、所定の温度に加熱することにより、SiO粉末から、SiOガスが発生し、このSiOガスが、黒鉛粒子の表面と、以下のように反応することにより、黒鉛粒子の表面が炭化ケイ素に転換し、CVR法により炭化ケイ素被膜が形成されると考えられる。
【0045】
SiO(g)+ C(s) → SiC(s)+ CO(g) …(1)
SiO(g)+ 3CO(g) → SiC(s)+2CO(g) …(2)
CO(g) + C(s) → 2CO(g) …(3)
【0046】
〔CVR法とCVD法の比較〕
(実施例1:CVR法による炭化ケイ素被膜の形成)
SiO粉末として、平均粒子径300μmの粉末を用い、黒鉛粒子として、平均粒子径20μmの粒子を用い、表1に示す坩堝内の配置状態で、黒鉛粒子の表面に炭化ケイ素被膜を形成し、炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を得た。加熱温度は1500℃とし、加熱時間は2時間とした。また、圧力は、20Paとなるように制御した。
【0047】
図4は、得られた炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真である。図5は、得られた炭化ケイ素被覆黒鉛粒子の表面の炭化ケイ素被膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【0048】
図4及び図5に示すように、黒鉛粒子の表面には、緻密な炭化ケイ素被膜が均一に形成されていることがわかる。
【0049】
SiC転換率は、55重量%であり、炭化ケイ素(SiC)被膜の厚みは1μmである。
【0050】
図2及び図3は、CVR法による炭化ケイ素被膜の形成を説明するための断面図である。図2は、黒鉛粒子10を示している。図2に示す黒鉛粒子10の表面にSiOガスが接すると、黒鉛粒子10の表面の炭素と、SiOガスが、上記反応式(1)〜(3)で示すように反応し、表面の炭素が、炭化ケイ素に転化される。
【0051】
図3は、CVR法により炭化ケイ素被膜が形成された黒鉛粒子を示す図である。図3に示すように、黒鉛粒子10の表面には、炭素とSiOガスが反応することにより、炭化ケイ素被膜11が形成され、炭化ケイ素被覆黒鉛粒子12が形成される。
【0052】
図8は、CVR法により形成された初期の炭化ケイ素被膜を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率25000倍)である。図8に示すように、炭化ケイ素被膜が緻密にかつ均一に形成されていることがわかる。
【0053】
(比較例1:CVD法による炭化ケイ素被膜の形成)
温度を1500℃、圧力を105kPaとする以外は、上記実施例1と同様にして、炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を作製した。
【0054】
図6は、得られた炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率2500倍)である。図7は、得られた炭化ケイ素被覆黒鉛粒子の表面を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率25000倍)である。
【0055】
炭化ケイ素被膜は、CVD法により形成されており、図6及び図7に示すように、比較的大きな粒子で炭化ケイ素被膜が形成され、かつ空隙の多い被膜となっている。
【0056】
SiC転換率は、60重量%であり、炭化ケイ素(SiC)被膜の厚みは、2μmである。
【0057】
図9は、CVD法により形成された初期の炭化ケイ素被膜を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率25000倍)である。図9に示すように、黒鉛粒子のエッジ部に優先的に炭化ケイ素が形成されていることがわかる。
【0058】
〔加熱温度による影響〕
加熱温度を、1200℃、1300℃、1400℃、1450℃、1500℃、1550℃、1600℃、1700℃、及び1800℃に変化させて、加熱温度による影響を検討した。なお、圧力は、20Paとした。その他の条件は、上記実施例1と同様にして、黒鉛粒子の表面に、炭化ケイ素被膜を形成した。
【0059】
得られた炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を、走査型電子顕微鏡写真(SEM)で観察し、表面の炭化ケイ素被膜の状態を評価した。評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示す結果から明らかなように、加熱温度が1400℃〜1600℃の範囲内においては、炭化ケイ素の被膜を、緻密にかつ均一に形成することができる。加熱温度が1400℃未満であると、被膜が十分に形成されていない。また、加熱温度が1600℃を越えると、CVD法による薄膜形成が優先的となるため、ポーラスでかつ粗い被膜が形成される。
【0062】
図10は、炭化ケイ素被膜を形成する前の黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)である。
【0063】
図11は、加熱温度1500℃で炭化被膜ケイ素を形成した炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率2500倍)である。
【0064】
図12は、加熱温度1800℃で炭化ケイ素被膜を形成した炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率2500倍)である。
【0065】
図13は、加熱温度1200℃で炭化ケイ素被膜を形成した炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)である。
【0066】
〔圧力による影響〕
加熱温度を1500℃とし、炭化ケイ素被膜を形成する際の圧力を、20Pa、50Pa、100Pa、150Pa、及び200Paに変化させて、炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を作製した。作製した炭化ケイ素黒鉛粒子の表面の炭化ケイ素被膜の性状について、表2に評価結果を示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示すように、圧力を150Pa以下とすることにより、緻密にかつ均一に炭化ケイ素被膜を形成することができる。
【0069】
圧力が150Paを越えると、CVD法による炭化ケイ素被膜の形成が優先的になるため、炭化ケイ素被膜がポーラスでかつ粗い被膜として形成される。
【0070】
〔酸化開始温度の測定〕
実施例1の炭化ケイ素被覆黒鉛粒子、比較例1の炭化ケイ素被覆黒鉛粒子、及び炭化ケイ素で被覆していない黒鉛粒子について、熱重量分析(TG)を行った。
【0071】
図14は、加熱温度と重量減少率を示す図である。図14に示すように、本発明に従う実施例1の炭化ケイ素被覆黒鉛粒子は、酸化開始温度が750℃以上であった。これに対し、比較例1の炭化ケイ素被覆黒鉛粒子の酸化開始温度は700℃であった。また、未被覆黒鉛粒子の酸化開始温度は約550℃であった。
【0072】
実施例1の炭化ケイ素被覆黒鉛粒子は、空気中650℃1時間の加熱による重量減少が、5重量%未満であることが確認された。
【0073】
〔炭化ケイ素炭素複合焼結体の作製〕
実施例1の炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を用いて、炭化ケイ素炭素複合焼結体を作製した。炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を大電流放電接合装置(住友石炭工業社製、「SPS−1050」)を用い、加圧焼結することにより、炭化ケイ素炭素複合焼結体を作製した。この装置を用いることにより、放電プラズマ焼結により焼結させた。放電プラズマ焼結は、電流による直接加熱に加え、パルス通電による電流衝撃を発生させ、通常より低温で粉体を焼結させることができる。
【0074】
ここでは、40MPaに加圧した状態で、2000℃の温度で、20分加熱することにより焼結体を作製した。
【0075】
図15は、炭化ケイ素炭素複合焼結体を示す模式的断面図である。図15に示すように、炭化ケイ素炭素複合焼結体22は、黒鉛粒子20の周りに、炭化ケイ素界面層21を有している。炭化ケイ素界面層21は、3次元の網目状に連続して、炭化ケイ素炭素複合焼結体22内に設けられている。本発明の炭化ケイ素被覆黒鉛粒子は、その表面に緻密にかつ均一に炭化ケイ素被膜が形成されているので、この炭化ケイ素被覆黒鉛粒子を用いて焼結体を作製することにより、黒鉛粒子20の周りに、連続して均一な厚みで形成された炭化ケイ素界面層21が形成される。
【0076】
また、表面に緻密でかつ均一な炭化ケイ素被膜が形成されているので、焼結助剤を用いずとも、2200℃以下の低い温度で焼結体を製造することができる。
【0077】
得られた焼結体の曲げ強度は、150MPaであり、かさ密度は、2.52g/cmであった。実施例1の炭化ケイ素被覆黒鉛粒子のSiC転換率は55重量%であるので、理論密度は2.62g/cmであり、相対密度は、96%となる。
【0078】
また、焼結助剤を用いていないので、Al、Be、B及びSaの合計の含有量は、0.1重量%未満である。
【0079】
得られた焼結体について、バリスタ特性を測定した結果、バリスタ特性の典型的なI−V特性グラフが得られた。
【0080】
〔セラミックス被覆炭化ケイ素炭素複合焼結体の作製〕
図16は、本発明に従う実施形態のセラミックス被覆炭化ケイ素炭素複合焼結体を示す模式的断面図である。
【0081】
図16に示すように、本実施形態のセラミックス被覆炭化ケイ素炭素複合焼結体24は、炭化ケイ素炭素複合焼結体22の表面上に、セラミックス被覆層23を設けることにより構成されている。本実施形態においては、炭化ケイ素炭素複合焼結体22の全表面上に、セラミックス被覆層23が設けられているが、本発明において、セラミックス被覆層23は、必ずしも全表面上に設ける必要はなく、炭化ケイ素炭素複合焼結体22の少なくとも一部の表面上に設けられていればよい。例えば、炭化ケイ素炭素複合焼結体22の上面、下面、及び側面のいずれかにのみ設けられていてもよい。
【0082】
セラミックス被覆層23は、酸化物、炭化物、窒化物などのセラミックスから形成することができる。セラミックス被覆層23を形成するセラミックス材料は、炭化ケイ素であってもよいし、異なる種類のものであってよい。セラミックス被覆層23の組成は、内部から外部に向うにつれて変化させてもよい。この場合、セラミックス被覆層23の内部の組成を、炭化ケイ素に近い組成とし、内部から外部に向うにつれて、徐々に異なる組成としてもよい。
【0083】
セラミックス被覆層23を形成する方法としては、焼成前の炭化ケイ素炭素複合焼結体22の成形体を成形し、この成形体の表面の少なくとも一部の上に、セラミックス被覆層23を形成するためのセラミックス粉末の層を設け、この状態で炭化ケイ素炭素複合焼結体22とセラミックス被覆層23を一体的に焼結する方法が挙げられる。
【0084】
この場合、セラミックス被覆層23を複数の層から形成し、セラミックス被覆層23の厚み方向に組成を変化させてもよい。これにより、炭化ケイ素炭素複合焼結体22とセラミックス被覆層23との接着性を高めることができ、全体の強度等の特性を高めることができる。
【0085】
また、セラミックス被覆層23を形成するためのセラミックス粉末として、炭化ケイ素の粉末と、他の粉末とを混合したものを用いてもよい。これにより、セラミックス被覆層23と炭化ケイ素炭素複合焼結体22との接着性を高めることができ、強度等の特性を向上させることができる。
【0086】
また、セラミックス被覆層23を形成する他の方法として、炭化ケイ素炭素複合焼結体22の焼結体を製造し、この焼結体の表面の少なくとも一部の上に、セラミックス焼結板もしくはセラミックス単結晶板を配置し、そのセラミックス焼結板もしくは単結晶板を、炭化ケイ素炭素複合焼結体22の表面上に接合する方法が挙げられる。接合する具体的な方法としては、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法、圧接加熱法等が挙げられる。
【0087】
この他、炭化ケイ素炭素複合焼結体を基板にし、通常のCVD法や反応性スパッター法でセラミックスを被覆してセラミックス被覆層23を形成することも可能である。
【符号の説明】
【0088】
1…黒鉛製坩堝
2…カーボンシート
3…SiO粉末
4…カーボンフェルト
5…黒鉛粒子
6…カーボンフェルト
7…カーボンシート
10…黒鉛粒子
11…炭化ケイ素被膜
12…炭化ケイ素被覆黒鉛粒子
20…黒鉛粒子
21…炭化ケイ素界面層
22…炭化ケイ素炭素複合焼結体
23…セラミックス被覆層
24…セラミックス被覆炭化ケイ素炭素複合焼結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未結合手を有しないSP炭素構造からなるベース部と、未結合手を有するSP炭素構造からなるエッジ部とを表面に有する炭素基材を準備する工程と、
温度1400〜1600℃、圧力1〜150Paの雰囲気中で、前記炭素基材の表面と、SiOガスとを反応させて炭化ケイ素を形成することにより、炭化ケイ素で被覆された炭素基材を製造する工程とを備える炭化ケイ素被覆炭素基材の製造方法。
【請求項2】
前記炭素基材が、黒鉛基材であることを特徴とする請求項1に記載の炭化ケイ素被覆炭素基材の製造方法。
【請求項3】
前記炭素基材が、炭素粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化ケイ素被覆炭素基材の製造方法。
【請求項4】
前記炭素粒子の平均粒子径が、50nm〜500μmの範囲内であることを特徴とする請求項3に記載の炭化ケイ素被覆炭素基材の製造方法。
【請求項5】
前記SiOガスが、前記炭素基材と共に配置されるSiO源から発生することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭化ケイ素被覆炭素基材の製造方法。
【請求項6】
前記炭素基材及び前記SiO源が、反応容器内に配置されており、前記反応容器が焼成炉内に配置されていることにより、前記反応容器内を加熱し、排気することを特徴とする請求項5に記載の炭化ケイ素被覆炭素基材の製造方法。
【請求項7】
未結合手を有しないSP炭素構造からなるベース部と、未結合手を有するSP炭素構造からなるエッジ部とを表面に有する炭素基材の表面をケイ素成分と反応させて炭化ケイ素を形成することにより、表面を炭化ケイ素の層で被覆した炭素基材であって、
前記炭化ケイ素の層の厚みが、20μm以下であることを特徴とする炭化ケイ素被覆炭素基材。
【請求項8】
炭化ケイ素の層の厚みが1nm〜20μmの範囲内であることを特徴とする請求項7に記載の炭化ケイ素被覆炭素基材。
【請求項9】
前記炭素基材が、黒鉛基材であることを特徴とする請求項7または8に記載の炭化ケイ素被覆炭素基材。
【請求項10】
前記炭素基材が、炭素粒子であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の炭化ケイ素被覆炭素基材。
【請求項11】
前記炭素粒子の平均粒子径が、50nm〜500μmの範囲内であることを特徴とする請求項10に記載の炭化ケイ素被覆炭素基材。
【請求項12】
空気中650℃1時間の加熱による重量減少が、5重量%未満であることを特徴とする請求項10または11に記載の炭化ケイ素被覆炭素基材。
【請求項13】
請求項1〜6に記載の方法により製造されることを特徴とする炭化ケイ素被覆炭素基材。
【請求項14】
炭化ケイ素で被覆された炭素基材粒子を焼結することによって得られる炭化ケイ素炭素複合焼結体であって、
相対密度が90〜100%であり、Al、Be、B及びSeの合計の含有量が0.1重量%未満であることを特徴とする炭化ケイ素炭素複合焼結体。
【請求項15】
前記炭素基材粒子が、黒鉛粒子であることを特徴とする請求項14に記載の炭化ケイ素炭素複合焼結体。
【請求項16】
前記炭素基材粒子の平均粒子径が、50nm〜500μmの範囲内であることを特徴とする請求項14または15に記載の炭化ケイ素炭素複合焼結体。
【請求項17】
前記炭化ケイ素の層の厚みが、1nm〜20μmの範囲内であることを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載の炭化ケイ素炭素複合焼結体。
【請求項18】
請求項10〜13のいずれか1項に記載の炭化ケイ素被覆炭素基材を焼結することによって得られることを特徴とする炭化ケイ素炭素複合焼結体。
【請求項19】
請求項14〜18のいずれか1項に記載の炭化ケイ素炭素複合焼成体の表面の少なくとも一部の上に、セラミックス被覆層を形成したことを特徴とするセラミックス被覆炭化ケイ素炭素複合焼結体。
【請求項20】
請求項14〜18のいずれか1項に記載の炭化ケイ素炭素複合焼結体を製造する方法であって、
2200℃以下の温度で焼結することを特徴とする炭化ケイ素炭素複合焼結体の製造方法。
【請求項21】
焼結助剤を用いずに焼結することを特徴とする請求項20に記載の炭化ケイ素炭素複合焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−51866(P2011−51866A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205041(P2009−205041)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】