説明

炭化コバルト系ナノ粒子永久磁石材料

【課題】ナノスケールの炭化コバルト粒子に基づく結晶性強磁性体炭化コバルトの組成物、及びポリオール反応を介して本発明に係る強磁性体材料の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の結晶性強磁性体炭化コバルトナノ粒子は、高性能永久磁石用途に有用である。本発明のプロセスは、炭化Fe、炭化FeCoの如き他の炭化物相に拡張可能である。炭化Fe、炭化FeCoは、鉄塩、コバルト塩の前駆体として使用することによって実現可能で、取り分け、酢酸塩、硝酸塩、塩化物、臭化物、クエン酸塩及び硫酸塩の様なFe−及びCo−塩の混合物および/または混和剤として使用される。本発明の材料は、CoC、CoCの両相の如き炭化コバルトの混合物を含む。混合物はCoC及びCoCの独立した粒子の収集物の形体或いは個別の粒子内でCoC及びCoC各相の密接な組合せからなる粒子の収集物としての形態をも取り得る。各相の形態と同様にこれら2つの相の相対比は、特に室温から400K超の低温でそれらの誘引的永久磁性へ貢献する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本願は、2009年9月10日付出願日の米国仮出願番号61/241,207の利益を請求し、その全ての開示はここに参照によって組み入れられる。
【0002】
<連邦支援研究開発に関する記述>
本発明は、海軍研究事務所によって授与された、契約書N000140910590の連邦政府支援によって発明された。よって、米国政府は本発明における何某かの権利を有する。
【背景技術】
【0003】
高性能永久磁石、その高エネルギー乗数(BH)max(ここでBは磁気誘導、Hは保磁場を表す)を有するものは広く3つの分類に分けられる:希土類3d遷移金属の金属間化合物(例えば、NdFe14B、SmCo並びにSmCo17)、AlNiCo(主に鉄と、アルミニウム、ニッケル、コバルト、銅、及び時折チタンの添加からなる合金)、およびセラミック磁石(一般的にはストロンチウム・ドープされたバリウム・ヘキサフェライト)である。商用永久磁石用途は、誘引力及び反発力を及ぼすもの(例えば、磁力分離機、掛け金、トルク駆動、及び軸受け)を含み、エネルギー転換用(磁石発電機、発電機、交流発電機、渦流ブレーキ、モーター、および作動装置)、粒子ビームおよび電磁波指示および形成用(陰極線管、進行波管、クライストロン、サイクロトロン、およびイオンポンプ)、並びに無線周波数、マイクロ波、およびmm−波機器類の広い範囲のための磁気バイアス波供給用(アイソレータ、循環器、位相移動機、及びフィルタ)である。希土類元素を含む磁石は、最高のエネルギー乗数(BH)maxをもたらすが、それらは高価で、錆びやすく、厳しいコスト限界と商業界にサプライ・チェーン競争を引き起こす。それに反して、AlNiCo及びセラミック・フェライトは実質的に低い(BH)max値を有すが、著しく廉価で多くのソースからより容易に入手可能である。そのため、AlNiCo及びセラミック・フェライトは、実質的に全世界的永久磁石市場セグメントを占領している。セラミック磁石の年間売上は、Nd−Fe−Bの高性能磁石のそれ次いで2番目である。
【0004】
しかし乍ら、1980年代初期におけるNd−Fe−Bの開発以来、寿命の長い永久磁石材料のその後の開発は殆ど進んでいない。同様に、AlNiCo及びセラミック・フェライトは、ここ数十年の間、永久磁石性能の著しい向上を経験していない。
【0005】
炭素含有磁性材に対して改良がなされたが、それには多くの潜在用途があり、例えば、高密度記録媒体、高抵抗性ソフト磁性材、ゼログラフィのトナー、および高解像度磁気共鳴画像形成おけるコントラスト剤としての如くである。以前の研究においては、研究者はコバルト/カーバイド関連材料に焦点を当て、炭素被覆の磁性金属ナノ結晶(Wangら、2003年)、Co−C粒状フィルム(Leeら、2007年;Konntoら、1999年;Wangら、2001年)MnC(M=Fe,Co,Ni,Cu,n=1−6)ナノクラスター(Blackら、2004年)およびCoCフィルム(Premkumerら、2007年)などがある。これらの初期の研究において、炭素関連複合体の組立てや用途に焦点が当たった。粒状フィルムは、非磁性ホストに懸濁した単離粒子からなり、低ノイズ、高密度磁性媒体を製造することが期待された。所謂コア−シェルのナノ粒子はナノ複合体の別の形体からなる。1990年代に、McHenryら(1994年)は、炭素被覆したコバルトのナノ微結晶の磁性について報告している。これらナノ微結晶は、記録材から画像形成および癌の修復治療における新興の生体医学的用途に至るまでの範囲の用途のために提案された。追加的研究は、MnC(M=Fe,Ni,Co等)クラスター(Zhangら、2008年)の理論的および実験的検討を含み、それらは独特の構造的化学的安定性を立証する炭素原子を含む遷移金属の籠状の構造である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ナノスケールの炭化コバルト粒子に基づく結晶性強磁性体材料の組成物に関し、さらに、ポリオール反応を介して本発明に係る強磁性体材料を製造する方法に関する。本発明の結晶性強磁性の炭化コバルトナノ粒子は、高性能永久磁石用途にNdFeBおよびSmCoに代替する希土類元素を含まない物質を提供する。それらは直接的にAlNiCo及びセラミック系永久磁石と競合する。加えて、本発明による方法は、例えばFe−、FeCo−炭化物のその他の炭化物に拡大し得る。Fe−、FeCo−炭化物は、前駆体塩としてFe−、Co−、及びFe−、Co−塩の混合物を用いることによって、実現可能で、塩はとりわけ酢酸塩、硝酸塩、塩化物、沃化物、クエン酸塩、及び硫酸塩である。本発明の材料は、炭化コバルトの、CoC、CoCの両方の相として、混合物および/または混和材を含む。混合物は、CoC及びCoCの独立した粒子の集合形状、または個別の粒子内の密接な組合せからなる集合粒子としての形状を取り得る。これら2つの相の相対的比率、各相の形態も同様に、特に室温から400Kを超える低温において、引力性の永久磁性に貢献する。
【0007】
本発明の炭化コバルト系磁性材は、金属塩の化学的ポリオール還元によって加工される。反応の沈殿物は、洗浄され、包装前に乾燥される。包装は、等方性または異方性の高密度充填、結合磁石、粒子懸濁物等の形状である。本発明の炭化物粒子の最良の永久磁性は、4kOe(キロ・エルステッド)の室温飽和保磁力及び70emu/g(電磁単位/g)までの室温飽和磁化を有する。増加する保磁力は飽和磁化に伴なって逆に変化するので、特定の用途のためのこれらの性質の各々の値の適当なバランスが最適化される。最高室温(BH)max、永久磁石用の長所の主な数値は、本発明による自由な(すなわち圧縮されない)炭化物粉体に対して>20KJ/mである(本比較は他の永久磁石を含まない粉体に対するもので、圧縮試料に対するものではない。)。高エネルギー製品を要する永久磁石用途に加えて、本発明は、高磁性積率、低保磁力粒子の合成のために適用され、それらの用途は、粉体転換、生成、コンディショニングのための高抵抗率、ソフト磁性材;ゼログラフィ用の磁性トナー;および高解像度磁気共鳴画像形成におけるコントラスト剤である。一方、炭化コバルト粒子は高密度磁気記録材としての使用をもたらすべく高保磁力を有する様に合成され得る。
【0008】
本発明に係る結晶性強磁性炭化コバルトナノ粒子は、当業者に良く知られた方法を使用する永久磁石に加工される。永久磁石は、一般的には圧縮した核(コア)として用いられる。これらは一般的に単軸で圧縮され、その後寿命を延ばすために昇温下で焼結される。これらの成形体は、等方性成形体または異方性成形体として調製され、後者は配列の際に適用される場を伴なう。異方性成形体は、モーターや粉体成性用途に好ましい。本発明による結晶性強磁性炭化コバルトナノ粒子の成形体の幾つかの好ましい用途は、宇宙探査及び衛星通信のための進行波管(TWT)、加速度計やジャイロスコープ用の慣性機器、医療用の電源ツール、航空機エンジン用の永久磁石モーター及び発電機、高密度磁性材およびビデオテープ、バイオラベル化剤、薬物担体用途、ハイブリッド車両モーター、並びにトナー粒子の代替材料などである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明に係るその他の特徴や利点は、以下の好ましい態様の記述、特許請求の範囲から明細書に添付される図面を参照すると明らかになる:
【図1】本発明によるポリオール還元反応を用いて加工された本発明による粉末粒子から得られた代表的なθ−2θX線回折スキャンを示す。縦軸は、JCPDS標準粉末回折ファイルCoC(65−1457)及びCoC(26−0450)からの回折ピークの位置及び増幅に相当する;
【図2a】本発明による代表的な炭化コバルトナノ粒子試料の高解像度透過型電子顕微鏡(HRTEM)画像である。図2aの挿入は、直径300〜500nmの凝集粒子クラスターを示す。
【図2b】本発明による代表的な炭化コバルトナノ粒子試料の別の部分のHRTEM画像である。図2a及び2bは1〜4nmのグラファイト状層(矢印で記した)によって囲まれたロッド状の炭化コバルト結晶のTEM画像である;
【図2c】図2cは、アスペクト比が5:1近傍のロッド状炭化コバルトナノ粒子のHRTEM画像である。;
【図3a】[010]ゾーン軸に近い配向のCoCナノ粒子のHRTEM画像である;
【図3b】[ 010]ゾーン軸に近い配向のCoCナノ粒子の別のHRTEM画像である。FFT(高速フーリエ変換)(図3b)は、二重回折のために現れる追加的反射を伴なうCoC相(空間群:a=5.03A、b=6.73A、c=4.48AのPnma)でインデックス化されている;
【図3c】[010]ゾーン軸に近い配向のCoCナノ粒子のHRTEM画像である。図3cに比較のためにこのゾーン軸に沿ってCoCのシミュレーションされた回折パターンを示す;
【図3d】相当するIFFT(逆高速フーリエ変換)画像を図3dに示し、格子空間5A、粒子の長軸に沿って[100]方向に一致する;
【図4a】ゾーン軸[001]に近いCo2C結晶のHRTEM画像である(空間群:a=4.45A,b=4.37A,およびc=2.90AのPnnm)。
【図4b】結晶部分からのFFT(図4bにおけるシミュレーションした回折パターンで図4aへ挿入)は、格子定数aおよびbが概ね等しいこのゾーンを示す正方形類似パターンを示す。(100)および(010)反射は、二重回折のために現れる。
【図4c】IFFT画像で、これは、(100)及び(010)の格子空間が約4.4Aであることを示す;
【図5】図5は、本発明による、73emu/gのMs及び3.1kOeのHcを有する代表的なナノ粒子試料の室温ヒステリシス曲線を示す。(BH)maxは、20.7kJ/mである;
【図6】図6は、本発明による多くのナノ粒子粉体試料のための保磁力場(Hc)データに対してプロットされた室温飽和磁化(Ms)を示す。飽和磁化値は、17kOeの適用の下に測定された磁気モーメントに相当する;
【図7】図7は、特定の試料の位相容積比に対してプロットされた本発明のナノ粒子粉体の数の磁性(飽和磁化及び保磁力)を示し、飽和磁化、保磁力及びX線回折により測定されたCoC及びCoCの容積分率間の相互関係を説明する。プロット線は目視のガイドとして意図されている。誤差棒(エラーバー)は測定値の不確かさを反映している;
【図8】図8は、10K〜900Kに加熱された本発明の代表的試料の温度に対する磁化応答を示す。磁化値は、10kOe場の適用下で決定される。実線の曲線は510KのTcで分子場理論近似化にぴったり当てはまる。700Kの接近する温度で、不可逆転移が起こる。700K以上に加熱された試料の高磁化およびキュリー温度は、その温度の金属コバルトに一致する;
【図9】図9は、本発明のナノ粒子粉体試料の300K(RT)および10K(低温)の履歴曲線を示す。10Kで膝状部が残留磁気近傍に観察され、硬い相及び柔らかい相のデカップリング(分離)を示す。これらの結果は、CoC及びCoC相が室温下で10Kでない温度で交換結合される;および
【図10】図10は、AlNiCoの粉末およびセラミック・フェライト系と比較した本発明の炭化コバルトナノ粒子粉体のための固有保磁力に対してプロットされたkJ/mで表したエネルギー乗数を示す。CoCの(BH)max値は記載されたように訂正された磁化で計算される。
【0010】
[発明が解決しようとする課題]
本発明によるサイズの、組成物の、及び位相のコントロールされた高い保磁力の炭化コバルトを作るためにここで採用された化学合成法は、溶剤および還元剤の両方として作用する液体ポリオール媒体中の金属塩の還元に基づく。本方法の還元反応速度論は、そのタイプ、温度、及びポリオール媒体濃度を調整することによって、および還元されたイオンの再酸化を制限し、反応が進行するにつれて粒子の成長を調整する適当な界面活性剤を添加することによって促進される。反応は、ここに記載されたようにSmIIのような希土類ランタニドシリーズ部分の存在下で起こる。
【0011】
一般的に、好ましい態様の本発明による結晶性CoCナノ粒子にとって、本発明の化学合成法は、Co(II)塩溶液(とりわけ、酢酸塩、硝酸塩、塩化物、臭化物、クエン酸塩並びにスルホン酸塩)の四エチレングリコールへの追加で、他の分子量のグリコールと等しく実施可能に開始する。ポリビニルピロリドン(PVP,MWは概ね40,000)は、触媒の苛性ソーダと共にキャップ剤として導入され、その他のキャップ剤及び触媒も等しく実施可能である。例示方法として、反応はSmIIの存在下で起こる。SmIIイオンは、造核剤として導入され、それらイオンは、追加的な触媒として働く。溶液は、反応開始前に10−15分間、窒素ガス(あるいは例えばArガス)中で脱ガスされる。当該溶液は、四エチレングリコールの沸点(約573K)まで機械式撹拌機でもよいが磁性撹拌機で撹拌しながら蒸留装置を用いて1−2時間、加熱される。反応の完遂後、当該溶液は磁気的に数回分離され、外部希土類磁石を用いて室温まで冷却され、このとき、遠心分離等他の形体の分離でも等しく用いられ、未反応の薬剤を除去するためにメタノール中で繰り返し洗浄される。キャラクタリゼーションの前に、沈殿を室温下で真空乾燥される。
【0012】
乾燥された粉体は、X線回折(XRD)、透過顕微鏡(TEM)及びで試料振動磁気測定(VSM)によって、それぞれ相、形態、および温度依存磁性の決定のために、特徴付けされる。XRD測定は、Rigaku−Ultima−III Bragg−Brentano回折計を用いて、θ−2θ粉体回折配列においてCu−K照射(λ=0.15418nm)をしながら行なわれた。熱磁気測定は、Lakeshore Cryotonics Inc. Model 7400 VSMを用いて、室温から1000Kの温度範囲で行なった。量子デザイン(Quantum Design)物性測定システムが10Kまで温度検討を拡大すべく採用された。粉体は、JEOL(日本電子)200−FX高解像度透過型電子顕微鏡を用いて、200kVの促進電圧で特徴付けされた。TEMサンプルは、ナノ粒子添加液体懸濁物の1滴を銅メッシュ(400グリッド・メッシュ)によって支持された炭素フィルム上に分散し、その後液媒を飛ばして調製した。高速フーリエ変換(FFTs)および逆高速フーリエ変換(IFFTs)はデジタルマイクログラフTMソフトウエアを用いた高解像度の実験的TEM画像から得られた。エネルギー分散X線分光法(EDXS)が粉体粒子の組成を検定するために使用された。
【0013】
以下のサンプルが本発明の利点を説明するため、および当業者がそれを作り使用するのを助けるために示される。これらのサンプルは、如何なる場合も開示の範囲を制限するために意図されたものではない。
【0014】
I.構造、相および形態学
構造的キャラクタリゼーションのために、X線回折が相の同定のために使用され、指定領域の回折付き電子顕微鏡高解像度が、相の確認だけでなく回転楕円体または針状の如き粒子形態学の同定のために手段として用いられた。
【0015】
図1は、本発明によるポリオール還元反応を用いた粉体加工から得られた代表的θ−2θX線回折スキャンを示す。図1において、室温で化学的加工、洗浄および乾燥された粉体から収集されたデータは、強度および各ブラグの回折ピーク位置が縦線で表される、JCPDS参照粉体回折ファイルCoC(65−1457)及びCoC(26−0450)からのデータのオーバーレイ(上書き)で描かれる。(回折ファイルのJCPDSデータベースは、相および未知の材料システムの相対内容を同定するために、材料科学者に普遍的に用いられる。)
【0016】
幾つかの回折特徴があり、例えば、2θの67度近傍に、その増幅が炭素および/または未反応前駆体の異なる同素体を含み得る残留相から起こる。XRD分析はCoCおよびCoCが本発明のこれらナノ粒子に存在する支配相であることを確認する。
【0017】
図2a〜2cは、高解像度の透過電子顕微鏡画像を表す。TEM観察は、アスペクト比が概ね2:1を有する針状またはロッド状の形態を有する、ナノ結晶子の炭化コバルト粒子からなる、直径が約300〜500nmの凝集粒子のクラスターを示す(図2aの挿入参照)。これら粒子の強磁性は粒子凝集の原因となる原動力である。粒子の針状性は、場に配列した粒子成形体、すなわち、発電、調整及び転換操作に優れた性能を発揮する異方性成形体ポテンシャルを与える。図2aおよび2bはロッド状炭化コバルト結晶のTEM画像である。これらの結晶は、図2a及び2bの矢印によって示された薄い、1〜4nmの黒鉛様の層によって囲まれている。そのような黒鉛層は合成中に前駆体と活性剤の還元から形成され、結晶成長を邪魔する障壁として働き得る。図2cは、アスペクト比が5:1近傍の、ロッド状の炭化コバルトナノ粒子のHRTEM(高解像度TEM)画像である。結晶構造及び好ましい成長方向を決定するために高速フーリエ変換(FFT)が、個々のナノ結晶子の粒子のHRTEMから得られた。
【0018】
図3aは、ゾーン軸[010]に近い配向のCoCナノ粒子のHRTEM画像である。図3bのFFTは、結晶の部分から得られ、CoC相(空間群:a=5.03A,b=6.73A及びc=4.48AのPnma)にインデックス化され、二重回折のために追加の反射発現を伴なう。ゾーン軸に沿った炭化コバルトのシミュレーションされた回折パターンが比較のために提供される(図3c参照)。相当する逆高速フーリエ変換(IFFT)画像(図3d)は、約5Aの格子空間を示し、その粒子の長軸に沿った[100]方向に一致する。
【0019】
図4aは、ゾーン軸[001]に近いCoC結晶(空間群:a=4.45A,b=4.37A及びc=2.90AのPnma)のHRTEM画像である。結晶部分からのFFT(図4b)は、このゾーンを表す正方形類似パターンを示し、そこでは、格子定数a及びbは概ね等しい。このゾーンでは、二重回折のために(100)および(010)反射が存在する。相当するIFFT画像(図4c)は、(100)および(010)の格子空間が約4.4Aであることを示す。そのようなHRTEM分析は、本発明の炭化物ナノ粒子が針状形態を有することを確認し、そのアスペクト比は1.5:1〜10:1(より頻繁には、2:1〜7:1である)に、相組成や調製条件に関係して変化し、微結晶は薄い黒鉛層によって包囲される。
【0020】
表1は、幾つかの試料のXRDデータのRietveld(リートベルト)還元分析によって決定された各相の相容積比および格子定数を表す。これらXRD分析から誘導されたデータに加えて、指定領域電子回折(SAED)からの類似したデータ、及びバルク標準からの文献報告された数値を示した。格子定数から決定されたXRDおよびSAEDは、測定及び分析の不確定性の範囲内で報告されたバルク値に一致する。
【0021】
表1:X線回折および電子回折測定によって決定された、本発明の炭化コバルトのナノ粒子サンプルの構造的性質

【0022】
II.室温磁性
図5は、本発明による1つの炭化コバルトナノ粒子サンプルの室温履歴ループ曲線である。このサンプルのために、〜17kOeの適用場の下の室温磁性は3.1kOeの飽和保磁力で73emu/gである。17kOeの適用場に相当する磁化は、飽和に到達せず、よって全ての積は予測に過ぎないが、飽和磁化(Ms)として報告される。このサンプルは、20.7KJ/m3の室温(BH)maxを有する。全ての磁化値は、非磁性黒鉛状表面層の存在のために訂正された(訂正は、高解像度TEM画像で測定された厚みに基づいて表面層の計算を含み、長方形の断面は磁性モーメントの繰り込みに通じると想像する)。
【0023】
図6は室温飽和磁化およびこの実験中に収集された幾つかのCoC粒子サンプルの飽和保磁力データを表す。化学工程パラメータの広い範囲に適合した性能値の大幅な変化が存在することが観察され得る。それにも拘らず、図6から、磁性のバランスが存在すること、−すなわち、飽和磁化が大きくなればなる程、飽和保磁力は低下する。これら磁性値は、CoC:CoC容積分率における変化及び相対粒径、各相の形態に適合する。図6のデータ点の誤差棒(エラーバー)は、粒子サンプルの容積および質量における曖昧さのために、飽和磁化の測定における不確かさを表す。当業者には、反応剤および溶剤モル濃度の変化、造核剤のタイプと濃度、界面活性剤のタイプと濃度、及び反応温度の如きその他のファクターは、CoC:CoC比のコントロールへ通じることは明らかであろう。
【0024】
図7は、飽和磁化および飽和保磁力間の相互関係が×線回折によって測定されたCoC:CoC比の容積分率に相当する(表I参照)。CoCの相対分率が、例えば、0.8から2.0へ増加するにつれ、サンプルの磁化値は減少し、その間に同時に飽和保磁力値も増加する。誤差棒(エラーバー)は、測定の不確かさを反映する(飽和保磁力場値についての誤差棒は符号よりも小さい)。これらの結果は、各炭化相の役割を示唆する。例えば、CoC相はサンプルの高い飽和磁化値の大きな原因となるように見え、一方で、CoC相は大きな飽和保磁力値の大きな原因となる。これらの結果は、しかし乍ら、これらサンプルについて測定された室温飽和保磁力の基礎的起源を示す。粒子は明らかに形態学上針状であり、双極子または形状異方性が大きな飽和保磁力の幾つかの分率の原因となることを結論し得る。さらに、立方対称からのこれらの相誘導体における原子構造、及びしたがって異方性の第2ソースが、磁気結晶の特性を持つものとして期待される。飽和保磁力のその他のソースは、粒子間の交換に関係する。そのような粒子間の交換は、CoC−CoC、CoC−CoC、およびCoC−CoCを含めて、異方性に、そして、引き続いて、これらナノ粒子炭化物系において飽和保磁力に著しい貢献をもたらし得る。
【0025】
III.材料の温度依存性
代表的な炭化粉体の熱磁性を図8及び9に示す。図8は、10Kから900Kに加熱したサンプルの磁化の温度応答を表す。磁化データは、0.5kOe及び10kOe場の適用下で温度の関数として収集された。図8のデータは、10kOe場の適用の下に収集され、10Kで始まり〜510Kのキュリー温度に近付く。固体曲線は分子場近似に適合する。700Kに近接する温度において、磁化の急激な増大が測定される。熱サイクルは不可逆変換を曝露する。磁化及び700Kを超えて加熱されたサンプルの高いキュリー温度は、金属コバルトに一致する。この真空加熱処理しながら、炭化物は金属コバルトと遊離炭素に分離されることが可能である。510K近傍のキュリー温度を有し、これらの材料は、室温から400K超までの永久磁石用途に有用であり得る。
【0026】
上述の通り、本発明の典型的な炭化コバルトナノ粒子は2つの相、すなわちCoCおよびCoCとして存在する。図5の室温履歴ループは、2つの炭化物相の交換結合と一致する挙動である、残留磁気を介して磁化の連続変化を表す。図9は代表的サンプルの300K及び10K両方での履歴ループを含み、この主張を明確にする。10Kにおいて、ハード及びソフトフェーズ、推測するにCoCおよびCoC相の分離を示す膝状部(ニー部)が残留磁気近傍に観察される。図7の傾向から磁性ソフトフェーズはCoCと思われる。これらの結果は、CoC及びCoC相は室温交換結合されていることをほのめかす。その交換が粒子−粒子の性質か又は、単一粒子内の2相の密接な混合なのか未だ解明されていない。
【0027】
本発明の炭化コバルトナノ粒子、すなわちCoCは、CoC+Co(金属)に還元され、交換結合されたCoC/Co,CoC/Co,または(C0C+C0C)/Coナノ粒子システムを創造することが、予想される。これらナノ粒子は、高温操作のため極めて高価値で、上記のC0C/C0Cナノ粒子システムの如く飽和保磁力、磁化値の同じ良好な範囲を有すると期待されるであろう。当業者は、熱析出は或いは熱析出(図10でデモしたよう)、或いは直接粒子混合によって、金属コバルト(鉄又は鉄コバルト)の高いキュリー温度のために、優れた高温性能の粒子の交換結合された金属炭化物のヘテロ構造をこうして形成する還元化学による炭化コバルト(鉄、又は鉄コバルト)粒子の混合物を合成し得る。このような磁気システムは、取り分けタービン発電システムにおけるステーターおよびローター成分のように高温永久磁石用途において使途を見出し得る。
【0028】
図10は、CoC、AlNiCo、およびBa/Srフェライト・セラミック磁石の中で、(BH)max対Hcの対比を表示する。AlNiCoは35kJ/mの高い(BH)maxを発揮するが、低い固有飽和保磁力を発揮するように示され、多くは<1kOeである。Ba/Srフェライト・セラミックは、3〜4.5kOeの高い固有飽和保磁力を記録するが、一般的な(BH)maxは25kJ/m3以下である。しかし乍ら、本発明の多相炭化コバルトナノ粒子は、注目される永久磁石特性を発揮し、すなわち、Hc〜3.5kOeおよび(BH)max〜20kJ/m3である。この系は、フェライト・セラミック磁石及びAlNiCoの両者と競合する潜在力を持ち;特にフェライトの市場セグメントは、Nd−Fe−Bに次いで僅か2番目である。今日まで、これら炭化コバルトの粒子の検討はここに上げられた結果に限定されている。しかし、表面デッド層およびナノ磁気表面被覆の存在の故に、大きなCoC粒子のための磁化における増加を見るべく予想する。したがって、高い(BH)max値が炭化物永久磁石において、当業者の能力の範囲内における最適化、サイズ、形状、二相の容積比率の最適化と共に達成されることが期待される。
【0029】
[引用文献]
Black ら , 2004年, J Organometallic Chemistry 689巻 2103-2113頁.
Konno ら , 1999年, J Magnetism and Magnetic Materials 195巻 9-18頁.
Lee ら , 2007年, J Magnetism and Magnetic Materials 310巻 913-915頁.
McHenry ら, 1994年, Phys . Rev. B 49巻, 11358頁.
Premkumar ら , 2007年, Chem. Mater. 19巻, 6206-6211頁.
Wang ら , 2001年, Materials Science and Engineering C 16巻 147-151頁.
Wang ら , 2003年, Carbon 41巻 1751-1758頁.
Zhang ら, 2008年, J. Molecular Structure: THEOCHEM 863巻 22-27頁.
Zengら, 2007年, J Magnetism and Magnetic Materials 309巻 160-168頁.
【0030】
本発明は好ましい態様と共に記載されているが、当業者は前記明細書の記載を読んだあとで、種々の変更、等価物の置換、及びその他の変更を組成物やここに記載した方法に加えることができる。したがって、特許証によってここに付与された保護は、添付された特許請求の範囲、およびその等価物に含まれる定義によってのみ制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子がCoCおよびCoC相としての炭化コバルトの混合物からなり、前記ナノ粒子が、室温において500Oe以上の飽和保磁力値を有することを特徴とする結晶性強磁性体の炭化コバルトナノ粒子。
【請求項2】
前記ナノ粒子が室温において、1kOe以上の飽和保磁力値を有することを特徴とする請求項1のナノ粒子。
【請求項3】
前記ナノ粒子が室温において4kOe以上の飽和保磁力値を有することを特徴とする請求項1のナノ粒子。
【請求項4】
ナノ粒子が室温において、20emu/g超の磁化値を有することを特徴とする請求項1のナノ粒子。
【請求項5】
ナノ粒子が室温において、40emu/g超の磁化値を有することを特徴とする請求項1のナノ粒子。
【請求項6】
ナノ粒子が室温において、70emu/g超の磁化値を有することを特徴とする請求項1のナノ粒子。
【請求項7】
前記ナノ粒子が針状の形態を有することを特徴とする請求項1のナノ粒子。
【請求項8】
前記ナノ粒子がアスペクト比1.5:1〜10:1を有する針状形態を有することを特徴とする請求項1のナノ粒子。
【請求項9】
CoC相のCoC相に対する容積比が0.8〜2.0であることを特徴とする請求項1のナノ粒子。
【請求項10】
成形体が、請求項1の結晶性強磁性体の炭化コバルトナノ粒子からなる高性能永久磁石のための等方性成形体。
【請求項11】
成形体が、請求項1の結晶性強磁性体の炭化コバルトナノ粒子からなる高性能永久磁石のための異方性成形体。
【請求項12】
前記ナノ粒子がCoCおよびCoC相としての炭化コバルトの混合物からなり、前記ナノ粒子が室温において500Oe以上の飽和保磁力値を有することを特徴とする結晶性強磁性体炭化コバルト−コバルトナノ粒子。
【請求項13】
前記ナノ粒子が室温において1kOe以上の飽和保磁力値を有することを特徴とする請求項12のナノ粒子。
【請求項14】
前記ナノ粒子が室温において4kOe以上の飽和保磁力値を有することを特徴とする請求項12のナノ粒子。
【請求項15】
前記ナノ粒子が室温において20emu/g以上の磁化値を有することを特徴とする請求項12のナノ粒子。
【請求項16】
前記ナノ粒子が室温において40emu/g以上の磁化値を有することを特徴とする請求項12のナノ粒子。
【請求項17】
前記ナノ粒子が室温において70emu/g以上の磁化値を有することを特徴とする請求項12のナノ粒子。
【請求項18】
前記ナノ粒子がCoCおよびCoC相としての炭化コバルトからなり、前記ナノ粒子が500Oe以上の飽和保磁力値を有し、以下の工程からなる結晶性強磁性体炭化コバルトナノ粒子を作る方法:
1種以上の希土類部分からなる液体ポリオール媒体中の1種またはそれ以上のコバルト金属塩を化学的に還元し;
反応沈澱物を炭化コバルトナノ粒子として収集し;そして
前記炭化コバルトナノ粒子沈殿物を洗浄、乾燥させる。
【請求項19】
前記ナノ粒子がFeCおよびFeC相としての炭化鉄からなり、前記ナノ粒子が500Oe以上の飽和保磁力値を有し、以下の工程からなる結晶性強磁性体炭化鉄ナノ粒子を作る方法:
1種以上の希土類部分からなる液体ポリオール媒体中の1種またはそれ以上の鉄金属塩を化学的に還元し;
反応沈降澱物を炭化鉄ナノ粒子として収集し;そして
前記炭化鉄ナノ粒子沈殿物を洗浄、乾燥させる。
【請求項20】
請求項19の方法において、さらに1種またはそれ以上の鉄金属塩を前記1種またはそれ以上のコバルト金属塩と化学的還元させる工程からなる。
【請求項21】
前記ナノ粒子が多相混合物としての炭化鉄コバルトからなり、前記ナノ粒子が500Oe以上の飽和保磁力値を有し、以下の工程からなる結晶性強磁性体炭化鉄コバルトを作る方法:
1種またはそれ以上の希土類部分からなる液体ポリオール媒体中の1種またはそれ以上の鉄金属及びコバルト金属塩化学還元し;
反応沈殿物を炭化鉄コバルトとして収集し;そして
炭化鉄コバルトナノ粒子沈殿物を洗浄、乾燥する。

【図1】
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【図2a−2c】
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【図3a−3d】
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【図4a−4c】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−504879(P2013−504879A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528935(P2012−528935)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/048477
【国際公開番号】WO2011/032007
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(592233750)ノースイースタン ユニバーシティ (7)
【Fターム(参考)】