炭化タングステン粒子を処理するための方法
炭化タングステンを処理するための方法が提供される。出発材料は、液相線によって上方に画定された、面心立方構造を有するγ相の単相領域を示す状態図に表されるW-C系の炭化タングステン粒子を含有する。粒子は、単相領域において均質化処理にかけ、その後、融解させて球状化することができる。次いで焼入れを行って、単相化構造を周囲温度で凍結させる。任意選択で、単相領域を広げるために、少なくとも1種の合金元素を出発材料に添加することができ、それによって、単相化粒子の焼入れ性を増大させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性の適用例に用いられる構成成分の分野に関し、より詳細には、改善された機械特性を有する炭化タングステン粒子を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油採掘分野では、レーザによってまたはプラズマトランスファアーク(PTA)によって、炭化物含量の高い耐摩耗性コーティングを、金属製の工具に付着させることが周知である。そのような処理によって、ある特定の部品の耐用年数を大幅に延長することが可能であり、ある特定のプロセスにかかるコストを大幅に削減することが可能である。石油採掘分野は典型的な例であるが、金属成形や鉱石処理など、その他の分野では、このタイプの耐摩耗性コーティングに対する関心が高まりつつあることを示している。
【0003】
レーザおよびPTAを使用すると、希釈率および多孔率の低い溶着コーティングを付着させることが可能になる。しかし、これらのほぼ完全なコーティング技法は、堆積粉末そのものに対する品質上の期待を大幅に高める。したがって、使用中の硬度が高く靭性が良好な製品に対する需要が、高まりつつある。
【0004】
炭化物粉末の場合、コーティング内の応力集中を制限し、またその付着中に、最良の流動を可能にする、丸みの付いた形を有する粒子を提供することも望ましい。したがって最近は、レーザおよびPTAの適用例に適った直径を有する球状溶融炭化タングステン粉末に対し、かなりの潜在的需要が湧き起こっている。
【0005】
いくつかのタイプの炭化タングステン生成物が、当技術分野で知られている。これら生成物のそれぞれおよびそれらの欠点について、以下に論じる。簡単に参照できるよう、タングステン(W)および炭素(c)系(以下、W-C系と呼ぶ)の状態図を、Cの原子パーセントによって表したものを、図1に示す(従来技術)。
【0006】
角状溶融炭化タングステン
市販の溶融(または鋳造)炭化タングステンは、アーク炉内に置かれた黒鉛坩堝内でタングステンと炭素とを反応させることによって液体を形成することにより作製される。次いで得られた共析晶組成の液体を、水冷した銅製の金型に投入する。次いで得られた固体を破砕して、所望のメッシュサイズにする。溶融炭化タングステンは、約3.9重量%の炭素を含有し、約80%のW2Cと20%のWCとからなる。W2C相は六方最密構造を有し、一般により硬く、しかしより脆いことが知られている。WC相は、簡単な六方晶構造を有し、6.1重量%の炭素を有している。微細なミクロ構造から粗いミクロ構造に至る溶融炭化タングステンは、典型的な場合、層状構造にフェザーとして挿入されたW2C結晶からなり、鉄(Fe)は、通常、存在する最大の不純物である。溶融炭化タングステン粒子のミクロ構造を、図2(従来技術)に示す。
【0007】
市販の溶融炭化タングステンの組成を、図1の状態図に示す。これは、今世紀初頭に開発され、その炭素含量は、その機械的性質が最適になるよう選択しなければならなかった。金型内での凝固中に得られる冷却速度が遅いため、硬度は低く、約2200〜2400ビッカース(HV)である。この低い硬度は、その粗いミクロ構造と相俟って、溶融炭化タングステンを耐摩耗性コーティングの適用例として用いるのに不向きなものにしている。
【0008】
純粋な炭化タングステン
市販の純粋なWCは、酸化タングステンを浸炭処理することによって、固体状態で生成される。生成された粒子はミクロンサイズのものであり、主に超硬合金の生成に使用される。耐摩耗性コーティングとしての適用例では、WC粒子を微細なコバルト(Co)粉末と混合し、加圧して所望の形状にし、次いで液相中で焼結させる。コバルトの量は、適用例のニーズに合わせて耐摩耗性および靭性が最適になるように、様々に変えることができる。
【0009】
Kennametalからの「マクロ結晶質」と呼ばれる新しく純粋なWCも、当技術分野で知られており、これは、溶融炭化タングステンの粒径に近いものが入手可能である。新たなWCは、この後者と同じ適用例に用いられ、改善された性質を有する。これらの粉末が溶融炭化タングステンに好ましい理由の1つは、WCの拡散速度が、主に後者を構成するW2Cよりも遅いからである。この性質は、溶着中に熱が多すぎる場合に重要であるが、その理由は、マトリックス中で、WCよりもW2Cのほうに多量のストリッピングが生ずるからである。マトリックス中、炭化物のストリッピングによってもたらされたタングステンは、マトリックスを弱くし、コーティングの摩耗性能をかなり妨げる。
【0010】
純粋なWCは、図1の状態図が示すように、約2785℃で分解して、炭素が少ない液体と、固体炭素を形成する。
【0011】
球状溶融炭化タングステン
上述の、市販の溶融炭化タングステン粒子は、耐摩耗性コーティングの適用例としていくつかの欠点を有する。粒子が持つ非常に数多くの鋭角が、粉末流動およびコーティング内の応力集中に関する問題を引き起こす可能性がある。さらに、これらの粒子は、むしろ精製されていないミクロ構造であり、約2400HVの硬度を有する。溶融炭化タングステン粉末の機械的性質を改善するには、粒子を球状化することが知られている。
【0012】
球状炭化タングステンを得るための、1つの知られている方法は、溶融炭化タングステンの塊または大きい粒子を、一般に低温坩堝で、しかし場合によってはプラズマによって、またはその他の加熱プロセスによって融解し、その後、得られた液相を霧状にすることである。出発材料は、低温坩堝の使用の際に操作上の問題が回避されるよう、一般に、そのサイズが少なくとも1mmのものでばければばらない。この技法は、均一なミクロ構造を与えるが、広範な粒径、典型的な場合には10μmから3mmの粒径を与える。生成された粉末は、球状であり、または丸みの付いた縁部を有し、非常に微細な針状構造を有し、それが、粒子の硬度を2600HVから3300HVに及ぶ値に増大させるのを助ける。
【0013】
しかし、上述の方法には欠点がある。既に述べたように、室温での溶融炭化タングステンは、図1の状態図に示されるようにW2CおよびWCからなる。生成物の融解によって、存在するWCが液体ゾーンに至り、遊離炭素(c)を生成することができる。炭化物の融点で、遊離炭素が昇華する。これは、生成物中での多孔性の形成を伴うが、この形成は、コーティングの亀裂形成をもたらす可能性があるために避けなければならないものである。さらに、霧状化プロセスは、若干の多孔性が生成される原因でもある。この多孔性は、融解中の生成物分解に依存しないので、より濃度が高まる。これは、小さな散在した一群の細孔ではなく、いくらか大きい細孔をもたらすことになる。
【0014】
得られた広範な粒径は、耐摩耗性コーティングの適用例で使用するのに相応しい粉末を処理する上記技法の欠点でもある。炭化タングステン粒子を球状化する際の低温坩堝の使用は、小さいサイズの最終的な粒子、例えば200μm未満などの粒子が望まれる場合、特に限定的なものである。
【0015】
図3および4(共に従来技術)は、上述の低温坩堝技術を使用して、Technogeniaによって得られた球状化炭化タングステン粒子を示す。図に示すように、大きい細孔が存在し、粒子には様々なサイズがある。しかし粒子のミクロ構造は非常に一定しており、平均硬度は3200HVである。
【0016】
図5(従来技術)も、球状化炭化タングステン粒子を示し、今回はドイツのWoka GmbHから得たものである。粒子中の細孔および不規則性を見ることができる。粒子のミクロ構造は、比較的均一であり、いかなる亀裂も示していない。平均硬度は3040HVである。
【0017】
球状化粒子は、回転電極による霧状化を使用しても得られる。しかしこのプロセスは、電極の直径および回転速度により制約を受け、したがって、少なくとも200μmの直径を有する粒子の生成が可能になる。
【0018】
別の知られている球状化技法は、誘導プラズマ、DCプラズマ、放射カラムなどに粒子を通すことによって、角状粉または凝集塊を直接加熱し、最終的には融解することによる。これまでの技法とは異なり、粒子を霧状化しないが、材料の表面歪みにより、液体状態で球状の形をとる。400〜500μm未満の直径を有する球状化粒子を、そのような技法を使用して得、変態した炭化タングステン粉末の硬度を2900HV超に増大させる。しかし、低温坩堝技法の場合と同様に、生成物中に存在するWCの存在および部分分解では、遊離炭素の解放および細孔形成が伴う。さらに、熱経路における差異と、その後の様々な粒子の差異が、得られる粒子のミクロ構造に広範な不均一性を生じさせる。
【0019】
図6および7(共に従来技術)を参照すると、Transmateriaによって得られた球状化粒子が示されている。これらの粒子は、極めて高い温度の誘導プラズマに溶融炭化タングステンの角状粒子を通すことによって、作製した。
【0020】
これらの粒子を得るのに使用した加熱および冷却プロセスの、種々の相の相変態動力学は、図1の状態図を参照することによって、より良く理解される。出発材料は、角状溶融炭化タングステンからなり、したがってWCを約20%、W2Cを80%含み、プラズマ中で加熱されたときに、2段階で一体化する。WC相は、炭素含量が低い液相と、固体炭素とに変態する。W2Cは、いかなる炭素も自由にすることなく、液相に直接向かう。WC相によって解放された炭素は、通常、粒子から解放されるが、昇華を引き起こすことのできる臨界温度に粒子が到達した場合、蒸気相に分解する可能性がある。その場合、炭素ガスは、その体積が固体の場合よりも非常に大きいので、球状化粒子に多孔性を引き起こす可能性がある。
【0021】
次いで液体の炭素含量がわずかに低下し、組成が状態図の左に移動する。これは、得られた球状化炭化タングステンの炭素含量が約3.77重量%であるのに対し、初期の角状炭化タングステンが、典型的な場合に約3.95重量%の炭素を有することの理由を説明している。炭素含量は、粒子サンプル全体に関して測定され、また全ての粒子がプラズマ中で同一の熱曝露にかけられるとは限らないので、個々の球状化粒子同士の炭素含量に著しい相違があることを予測することができることに留意されたい。プラズマを通過した後、粒子は、その小さいサイズを考慮して非常に素早く冷却される。したがって得られる構造は、主に、当初の粒子の場合と同様にW2CとWCの混合物からなるが、そのサイズはより微細である。
【0022】
プラズマ中の粒子の滞留時間が非常に短いとしても、その粒子を球状化することは依然として可能である。この方法の主な問題は、プラズマの熱に幅広いばらつきがあるので、処理する粒子ごとに熱条件を制御することである。プラズマ中にシャワーとして投じられる粒子は、全てが同じ熱経路を経るとは限らない。したがって、球状化粒子のミクロ構造の非常に幅広いばらつきは、図6で明らかなように観察することができるが、そのような限られたゾーン内で、数多くの種々のタイプのミクロ構造を見出すことは、典型的なものではない。文字Aで識別される粒子は、得られた粉末において最も一般的なミクロ構造を示す。しかし、この典型的なミクロ構造は、粒子によっては多かれ少なかれ微細であり得る。粒子Bは、粒子Aに類似した構造を示すが、粒子Bは、互いに約60°の角度をなす真っ直ぐな分割線(straight separation)も有する。CやDなどのその他の粒子は、Murakami溶液の影響をほとんど受けない構造を示し、したがって、他の粒子の場合とは基本的に異なる構造を持たなければならない。硬度測定では、値に非常に幅広いばらつきが示され、これらは、得られる様々なミクロ構造に容易に結び付けられるものである。
【0023】
この方法によって得られた球状化炭化タングステンは、図7からわかるように、高い硬度を持つが多くの亀裂があることを特徴とする。望ましくない相または相構造の存在は、低温坩堝によって得られた球状化炭化タングステン粒子と比較してこのように不十分な品質になる原因であるように思われる。亀裂は、一般に、侵襲を受けたミクロ構造を容易に見ることができる場合よりも、より白い粒子でよりしばしば生ずるように思われる。
【0024】
上記事項に鑑み、いかなる多孔性も持たず、高い硬度および微細で均質なミクロ構造を有する炭化タングステン粉末が、明らかに求められている。約2400HVの硬度では、市販の溶融炭化タングステンは、明らかに不適当である。低温坩堝を使用して球状化した粒子は、良好な硬度を有するが、多孔質であり不規則であり、非常に幅広い範囲のサイズで生成される。利用可能なDCプラズマおよび誘導プラズマ加熱システムは、経路および不均一な熱圧力勾配を提供するが、これはWCの分解を助けるものであり、また細孔の形成も促進させる。
【0025】
特定のニーズを満たす製品には、市場が熱心であることに留意されたい。十分立証されているケースは、スチールフォーミング分野で焼付き防止コーティングを付着させることが可能な球状炭化ニオブ粉末に対する要求である(例えば、Patric Klar、Franz Kiefer、Klas Stjernberg、James J.Cakes、「Optimization of the microstructure of cemented carbide grades for hot rolling applications」P/M Science & Technology Briefs、Vol.1、No.4、1999、第5〜9頁;およびK.Tsubouchi、M.Akiyama、M.Tsumura、およびS.Amano、「Development of wear-resistant surface layer for a tool to be used for high-temperature stainless steel rolling」、Proc.Instn.Mech.Engrs.、Vo/213 Part J、1999、第473〜480頁参照)。そのような粉末の使用は、ニオブおよび炭化ニオブへの炭素の拡散速度が低いことにより、制約を受ける。この遅い拡散速度は、高温で充填チャージを維持するための高いコストと相俟って、PTAおよびレーザの適用例では使用することのできない非常に微細な粉末を生成させる。この粉塵を凝集し、焼結することが可能であるが、このようにすると、再び生産コストが高くなる。ニオブの高いコストは、その使用を制限する別の要因である。チタンやバナジウム、ニオブをベースとした炭化物など、その他の炭化物は、市場にとっていくらか興味あるものと考えられるが、その高い融点、影響を受け易い相、および生産コストが、その使用を妨げている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
したがって、本発明の目的は、改善された特性を有する炭化タングステン粒子を提供することである。
【0027】
本発明の好ましい目的は、高硬度であり、微細で均質なミクロ構造であり、かつ細孔を比較的含んでいない炭化タングステン粒子を提供することである。
【0028】
本発明の別の好ましい目的は、上記列挙した特性を有する角状(angular)炭化タングステンを提供することである。
【0029】
本発明のさらに別の目的は、上記列挙した特性を有する球状炭化タングステンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
したがって本発明は、炭化タングステン粒子を処理するための方法であって、
a)組成、ミクロ構造および相分布が、面心立方構造を有するγ相の単相領域を示す状態図に表されるW-C系の炭化タングステン粒子を含有する出発材料を提供するステップであって、前記単相領域は、液相線によって上方に画定されており、前記粒子は、該粒子が単相領域を横切る熱経路を有するように選択された炭素含量を有するものであるステップと、
b)前記出発材料を、前記単相領域において均質化処理にかけ、それによって、面心立方構造を有する単相化粒子を得るステップと、
c)前記炭化タングステンを焼入れして、前記単相化粒子を周囲温度で凍結させるステップと
を含む方法を提供する。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によれば、単相化粒子を液相線を超える温度で加熱して該粒子を球状化させる追加のステップを、均質化処理と焼入れとの間で実施する。
【0032】
本発明の別の態様によれば、本発明の方法により処理された、単相化炭化タングステン粒子が提供され、これらの粒子は面心立方ミクロ構造を有するものである。
【0033】
本発明は、その好ましい実施形態を添付図面と併せて読むことによって、より良く理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1の状態図を参照すると、炭素含量約37%〜39%で単相領域γを示すことがわかる。この単相領域を、以下、均質化ゾーンと呼ぶ。特定のW-C系の場合、相γはWC1-x組成に対応し、準安定であり、面心立方構造を有する。これは、従来の溶融炭化タングステンでは一般に見られない。なぜなら、材料を鋳型に入れた後の冷却速度が、比較的限定された平衡ゾーンを有するこの準安定構造を凍結するほど十分速くないからである。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によれば、周囲温度で単相化立方面心粒子が得られるように、炭化タングステン粒子を処理するための方法が提供される。この方法は、一般に、以下のステップを含む。
【0036】
a)組成、ミクロ構造および相分布が、面心立方構造を有するγ相の単相領域を示す状態図に表されるW-C系の炭化タングステン粒子を含有する出発材料を提供するステップ。この単相領域は、液相線によって上方に画定され、粒子は、この粒子が単相領域を横切る熱経路を有するように選択された炭素含量を有する。本発明の好ましい実施形態では、出発材料は、市販されている溶融炭化タングステンであり、したがって、W2CおよびWCの共析晶組成を有する角張った形の粒子を含んでいる。
【0037】
b)出発材料を、単相領域において均質化処理にかけるステップ。それによって、単相化粒子が得られる。
【0038】
c)炭化タングステンを焼入れして、単相化した粒子を周囲温度で凍結させるステップ。
【0039】
焼入れ後、WC1-x相がその面心立方構造を持った状態で存在することは、生成された粉末の機械的性質を高めるのに有利である。市販の溶融炭化タングステンは、主に六方最密構造を持つW2Cからなり、この構造は一般に、最も硬いものであるがWC相の六方単純構造よりも脆いことが認められており、これを一般に、弱い靭性を有すると言う。
【0040】
溶融炭化タングステンを、液相線を横切らせずに上述の均質化処理にかけると、粒子は球状化されないが、その硬度が高まるように、典型的な場合は2900HVを超えるように、角状炭化タングステンのミクロ構造が再構成される。あるいは、ステップb)とc)の間に、液相線を超える温度で炭化タングステンを加熱するステップを付加することが可能である。それによって、粒子が球状化される。
【0041】
WC1-x相は、融解中に分解しないという特徴を有する。これは非常に興味深いものである。なぜなら、分解が生じないことによって細孔の形成が妨げられ、最終の粉末ミクロ構造の均一性がより高まるからである。さらに、この相の均質化によって、融解の際にDCおよび誘導プラズマトーチによって提供された典型的な熱経路を、得られた粒子が追従することが可能になり、それによって、生成物の最終的な均一性が高められる。さらに、分解が生じないことにより、その融解中に粒子の過熱を引き起こす現象がなくなる。
【0042】
上記方法は、耐摩耗性コーティングの適用例にしばしば必要とされる、200μm以下など小さいサイズの炭化タングステン粒子を得るのに適している。本発明の方法は、大量の霧状化を必要とせずに出発材料を変態させるので、最終生成物の粒子は出発材料の粒子と同じ平均サイズであり、異なる形状およびミクロ構造を持つ。したがって、蒸発および形状のファクタに起因する相違のみを考慮にいれ、1μmから5mmの間にあるどの最終粒径も、ほぼ同じ粒径の出発材料を使用して得ることができる。
【0043】
本発明による炭化タングステン粒子の均質化処理および球状化は、炉、加熱塔、プラズマシステム、レーザシステム、あるいは所望の効果を実現することが可能な任意のシステムまたはそれらの組合せを含めた任意の適切な加熱プロセスによって、実現することができる。図8を参照すると、本発明の好ましい実施形態による方法を実施するのに適切な、黒鉛炉20が示されている。本発明の方法での黒鉛炉の使用は、液相線を横切ることなく、炭化タングステン粒子を均質化するのに十分な温度で、出発材料を加熱するのに有利である。図示される実施形態では、炉20は供給システム21を有し、そこから出発材料が炉20内へと挿入される。次いで粒子は上部チャンバ22と底部チャンバ24とを横切る。上部チャンバ22と底部チャンバ24は、粒子が上部チャンバ(22)から底部チャンバ(24)まで循環できるように互いに接続されている。各チャンバごとに適切な温度を選択することによって、上部チャンバ22は均質化処理を行うのに使用され、一方底部チャンバは、得られた粒子を液相線を超える温度で加熱することにより球状化する。図1に示すW-C系の場合、上部チャンバは、例えば2600〜2700℃の間の温度で加熱され、底部チャンバは、2750℃よりも高い温度で加熱される。2つのチャンバを含む炉は、その他の適用分野ですでに知られており、本発明の方法を実施するのに使用することができる。炭化タングステンの融解に必要とされる高温までより良好に到達するために、誘導プラズマで底部チャンバを加熱することも、興味深いものである。そのような場合、プロセス中に実際に炉が消耗されるような温度まで達してしまわないように、注意を払うべきである。最後に、炉20は、焼入れ領域26と回収領域28とを含む。
【0044】
しかし、本発明の範囲は、黒鉛炉の使用に限定されないことを理解すべきである。必要な温度で溶融炭化タングステンを加熱することが可能であり、また変態した粒子を直接急冷することが可能な、噴霧化を必要としない任意の装置を使用して、本発明のステップを実施することができる。
【0045】
図13を参照すると、本発明の別の実施形態が概略的に示されている。この場合、出発材料は、供給システム32内に供給され、第1の炉34に運ばれ、そこで、本発明の原理に従って均質化処理が実行されるように選択された温度で、予熱ステップにかけられる。次いで、得られた単相化粒子を任意選択で第2の炉36に運び、そこで、対応する状態図の液相線を超える温度で加熱し、したがって球状化される。このステップを省略する場合は、角状単相化粒子が得られることになる。最後に、粒子を焼入れエンクロージャ38に供給し、そこで粒子が、好ましくはアルゴンガスを使用してガス焼入れにかけられ、それによって、得られた面心立方ミクロ構造を凍結する。図示した実施形態では、振動フィーダ40を使用して、粒子を1つのステーションから次のステーションへと移動させる。
【0046】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、出発材料は、少なくとも1種の合金元素を含有することができる。合金元素の重量比は、0.1%程度に低くてよい。合金元素の好ましい選択肢は、チタン、ニオブ、バナジウム、およびタンタルである。これらの出発要素での使用には、W-C系のWC1-X相の単相領域を拡大することによって均質化処理を促進させ、また焼入れ後に面心立方構造の安定性が増大する、という全般的な効果がある。図9〜12は、これらの合金元素のそれぞれを添加することによって得られた、W-C系に関する状態図を示す。各元素ごとに、所与の比率を例として選択するが、本発明の範囲から逸脱することなく、広範な組成が可能であることを理解すべきである。溶融炭化タングステンの比率は、1〜100%の間のいずれかでよく、炭化ニオブ、炭化バナジウム、炭化タンタル、および炭化チタンのそれぞれの比率は、1〜99%の間のいずれかでよいと考えられる。合金元素を組み合わせたものも可能である。
【0047】
合金元素の適正な選択および使用は、いくつかの利点をもたらす。得られる(W,X)C1-x単相領域に対して安定な範囲の温度および炭素組成を増大させることができる。これは、図9〜12で観察することができる。また、焼入れによって引き起こされる硬度の深さおよび分布によって測定されるように、面心立方構造の焼入れ性、すなわち焼入れによって硬化する能力を、増大させてもよい。金属の焼入れ性は、T-T-T曲線の比較によって明らかにされる。より大きな焼入れ性は、TTTプロットが時間軸に対して右にずれたときに示される。この結果、焼入れ後に、より高いパーセンテージの面心立方構造が得られ、したがって硬度や靭性などの、最終的な生成物の機械的性質が改善される。また、粉末の最終的なミクロ構造を精製し、最終的なミクロ構造の、より高い均一性を促進させる。
【0048】
特に興味深いのは、合金元素としてニオブ(Nb)を使用する場合である。混合炭化物中にニオブを添加すると、溶着中にそれらの混和性が低下するが、それはニオブおよび炭化ニオブの拡散速度が特に遅くなることが知られているからである。得られた生成物は、溶着中、マトリックスでのストリッピングの影響が非常に少なく、それによって、その後のマトリックス中での脆弱な相の形成が制限される。その性質は、この点に関し、Kennametalの純粋なWC「マクロ結晶質」粉末で認められている利点と類似している。バナジウムは、ニオブと類似した性質を有し、タングステンを持つ混合炭化物に添加することの利点は類似している。ニオブおよびバナジウムの炭化物は、ニッケル、鉄、クロム、およびコバルトの合金中、高温での混和性が低いので、高性能超合金鋼用の粒界安定剤として既に使用されていることに留意すべきである。ニオブの特定の場合、炭化タングステンにおけるその有益な効果は、炭化ニオブに対するタングステンの有益な効果でもあることに注目することができる。前述のように、優れた焼付き防止特性を有し、かつPTAおよびレーザ堆積に好ましい粒径を有するニオブ粉末の生成は、後者およびその炭化物中の炭素拡散の問題によって制限される。混合物中のNbCの比率が50%を超えた場合に事実上対応する、ニオブまたは炭化ニオブへのタングステンまたは炭化タングステンの添加は、それによって、生成の過程で均質化がなされかつPTAおよびレーザ適用に対して良好な粒径分布(10〜200μm)を有する微細構造の混合炭化物粉末の生成を促進させる。これは、W2Cの寄与が、混合炭化物中の炭素の拡散に好ましく作用するからである。
【0049】
試験は、炭化タングステンに8%のNBを導入した場合について行ったが、これは、特に好ましい比率であることが見出されている。ニオブの導入により、単相(W,Nb)C1-xへの包析晶変態が始まる温度では、炭素の拡散係数が64%よりも大きく低下した。包析晶変態が始まる温度は2260℃まで下がり、純粋な溶融炭化タングステンの場合に比べ、この特定のポイントの270℃よりも大きい低下であった。さらに、炭化ニオブが存在すると、ニオブと炭素の結合エネルギーが炭素とタングステンとの結合エネルギーよりも3倍高くなるので、炭化物中の炭素の拡散が著しく遅くなる。やはり、この拡散係数の低下によっても、(W,Nb)C1-x相の焼入れが可能になり、したがって、炭化物の靭性が増大する。
【0050】
チタンは、例外的な硬度を有し、後者およびその炭化物で認められた拡散速度も非常に遅い。したがって、合金元素として、炭化タングステン粒子にチタンを組み込むことが有利である。炭化チタンは、混合炭化物の、硬度、焼入れ性、および(W,Ti)C1-x相における炭素組成の安定性を、増大させる。炭化チタンに溶融炭化タングステンを添加することにより、後者における拡散速度も速くなり、炭化チタンの含量が高くかつPTAおよびレーザ適用例に適したサイズを持つ混合粉末の生成が促進される。
【0051】
本発明の別の態様によれば、本発明の原理に従って処理され、それによって単相化WC1-xからなるミクロ構造を有する、炭化タングステン粒子が提供される。当業者なら、これは、必ずしも各粒子が厳密に面心立方構造を有する必要がなく、粒子はそのような構造の利益が得られるよう実質的に転位されていることが理解されよう。得られる粒子は、実施形態に応じて球状または角状粉末でよい。
【0052】
本発明から得られた炭化タングステン粉末は、混合したものであれまたはその他の方法で得られたものであれ、使用した堆積方法とは無関係に、焼付き防止コーティングなどのいくつかの適用例に特に適合される。レーザおよびPTAによる堆積は、可能な堆積方法の例である。得られる焼付き防止コーティングは、例えば高温または低温成形ローラ、プラスチックまたは金属成型分野、機械分野(シャフト、ジャーナル、スクリュ、ギア、ベアリングなど)、油の分野(掘削ストリングの自走部品など)、および輸送分野(ブレーキディスクなど)に使用することができるが、これに限定するものではない。混合炭化物は、鉄、コバルト、ニッケル、およびクロムにおける炭化物のストリッピングが少ないコーティングを得るという特定の目的に合わせた溶着に、特に適切である。これには、添加または投入粉末、ワイヤまたはフレキシブルコード、あるいは溶接棒または蝋付け部品としてのその使用が含まれる。
【0053】
当然ながら、添付の特許請求の範囲で定義された本発明の範囲から逸脱することなく、上記実施形態に数多くの変更を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】Cの原子パーセントによる、タングステンおよび炭素の状態図である(従来技術)。
【図2】市販の溶融炭化タングステン粒子のミクロ構造を示す図である(Marakami、1000×)(従来技術)。
【図3】50×で拡大した、低温坩堝により球状化されたTechnogenia製炭化タングステン粒子のミクロ構造を示す図である(従来技術)。
【図4】500×で拡大した、低温坩堝により球状化されたTechnogenia製炭化タングステン粒子のミクロ構造を示す図である(従来技術)。
【図5】200×で拡大した、低温坩堝により球状化されたWoka GmbH製炭化タングステン粒子のミクロ構造を示す図である(従来技術)。
【図6】500×で拡大した、誘導プラズマにより球状化されたTransmateria製炭化タングステン粒子のミクロ構造を示す図である(従来技術)。
【図7】200×で拡大した、誘導プラズマにより球状化されたTransmateria製炭化タングステン粒子のミクロ構造を示す図である(従来技術)。
【図8】本発明の好ましい実施形態による方法を実施するための、黒鉛炉を示す概略側面図である。
【図9】C重量による、8重量%のNbを有するW-C-Nb系の状態図である(従来技術)。
【図10】C重量による、19重量%のTiを有するW-C-Ti系の状態図である(従来技術)。
【図11】C重量による、20.5重量%のVaを有するW-C-Va系の状態図である(従来技術)。
【図12】C重量による、9.4重量%のTaを有するW-C-Ta系の、状態図である(従来技術)。
【図13】本発明の好ましい実施形態による、炭化タングステン粒子を処理する方法のステップを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性の適用例に用いられる構成成分の分野に関し、より詳細には、改善された機械特性を有する炭化タングステン粒子を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油採掘分野では、レーザによってまたはプラズマトランスファアーク(PTA)によって、炭化物含量の高い耐摩耗性コーティングを、金属製の工具に付着させることが周知である。そのような処理によって、ある特定の部品の耐用年数を大幅に延長することが可能であり、ある特定のプロセスにかかるコストを大幅に削減することが可能である。石油採掘分野は典型的な例であるが、金属成形や鉱石処理など、その他の分野では、このタイプの耐摩耗性コーティングに対する関心が高まりつつあることを示している。
【0003】
レーザおよびPTAを使用すると、希釈率および多孔率の低い溶着コーティングを付着させることが可能になる。しかし、これらのほぼ完全なコーティング技法は、堆積粉末そのものに対する品質上の期待を大幅に高める。したがって、使用中の硬度が高く靭性が良好な製品に対する需要が、高まりつつある。
【0004】
炭化物粉末の場合、コーティング内の応力集中を制限し、またその付着中に、最良の流動を可能にする、丸みの付いた形を有する粒子を提供することも望ましい。したがって最近は、レーザおよびPTAの適用例に適った直径を有する球状溶融炭化タングステン粉末に対し、かなりの潜在的需要が湧き起こっている。
【0005】
いくつかのタイプの炭化タングステン生成物が、当技術分野で知られている。これら生成物のそれぞれおよびそれらの欠点について、以下に論じる。簡単に参照できるよう、タングステン(W)および炭素(c)系(以下、W-C系と呼ぶ)の状態図を、Cの原子パーセントによって表したものを、図1に示す(従来技術)。
【0006】
角状溶融炭化タングステン
市販の溶融(または鋳造)炭化タングステンは、アーク炉内に置かれた黒鉛坩堝内でタングステンと炭素とを反応させることによって液体を形成することにより作製される。次いで得られた共析晶組成の液体を、水冷した銅製の金型に投入する。次いで得られた固体を破砕して、所望のメッシュサイズにする。溶融炭化タングステンは、約3.9重量%の炭素を含有し、約80%のW2Cと20%のWCとからなる。W2C相は六方最密構造を有し、一般により硬く、しかしより脆いことが知られている。WC相は、簡単な六方晶構造を有し、6.1重量%の炭素を有している。微細なミクロ構造から粗いミクロ構造に至る溶融炭化タングステンは、典型的な場合、層状構造にフェザーとして挿入されたW2C結晶からなり、鉄(Fe)は、通常、存在する最大の不純物である。溶融炭化タングステン粒子のミクロ構造を、図2(従来技術)に示す。
【0007】
市販の溶融炭化タングステンの組成を、図1の状態図に示す。これは、今世紀初頭に開発され、その炭素含量は、その機械的性質が最適になるよう選択しなければならなかった。金型内での凝固中に得られる冷却速度が遅いため、硬度は低く、約2200〜2400ビッカース(HV)である。この低い硬度は、その粗いミクロ構造と相俟って、溶融炭化タングステンを耐摩耗性コーティングの適用例として用いるのに不向きなものにしている。
【0008】
純粋な炭化タングステン
市販の純粋なWCは、酸化タングステンを浸炭処理することによって、固体状態で生成される。生成された粒子はミクロンサイズのものであり、主に超硬合金の生成に使用される。耐摩耗性コーティングとしての適用例では、WC粒子を微細なコバルト(Co)粉末と混合し、加圧して所望の形状にし、次いで液相中で焼結させる。コバルトの量は、適用例のニーズに合わせて耐摩耗性および靭性が最適になるように、様々に変えることができる。
【0009】
Kennametalからの「マクロ結晶質」と呼ばれる新しく純粋なWCも、当技術分野で知られており、これは、溶融炭化タングステンの粒径に近いものが入手可能である。新たなWCは、この後者と同じ適用例に用いられ、改善された性質を有する。これらの粉末が溶融炭化タングステンに好ましい理由の1つは、WCの拡散速度が、主に後者を構成するW2Cよりも遅いからである。この性質は、溶着中に熱が多すぎる場合に重要であるが、その理由は、マトリックス中で、WCよりもW2Cのほうに多量のストリッピングが生ずるからである。マトリックス中、炭化物のストリッピングによってもたらされたタングステンは、マトリックスを弱くし、コーティングの摩耗性能をかなり妨げる。
【0010】
純粋なWCは、図1の状態図が示すように、約2785℃で分解して、炭素が少ない液体と、固体炭素を形成する。
【0011】
球状溶融炭化タングステン
上述の、市販の溶融炭化タングステン粒子は、耐摩耗性コーティングの適用例としていくつかの欠点を有する。粒子が持つ非常に数多くの鋭角が、粉末流動およびコーティング内の応力集中に関する問題を引き起こす可能性がある。さらに、これらの粒子は、むしろ精製されていないミクロ構造であり、約2400HVの硬度を有する。溶融炭化タングステン粉末の機械的性質を改善するには、粒子を球状化することが知られている。
【0012】
球状炭化タングステンを得るための、1つの知られている方法は、溶融炭化タングステンの塊または大きい粒子を、一般に低温坩堝で、しかし場合によってはプラズマによって、またはその他の加熱プロセスによって融解し、その後、得られた液相を霧状にすることである。出発材料は、低温坩堝の使用の際に操作上の問題が回避されるよう、一般に、そのサイズが少なくとも1mmのものでばければばらない。この技法は、均一なミクロ構造を与えるが、広範な粒径、典型的な場合には10μmから3mmの粒径を与える。生成された粉末は、球状であり、または丸みの付いた縁部を有し、非常に微細な針状構造を有し、それが、粒子の硬度を2600HVから3300HVに及ぶ値に増大させるのを助ける。
【0013】
しかし、上述の方法には欠点がある。既に述べたように、室温での溶融炭化タングステンは、図1の状態図に示されるようにW2CおよびWCからなる。生成物の融解によって、存在するWCが液体ゾーンに至り、遊離炭素(c)を生成することができる。炭化物の融点で、遊離炭素が昇華する。これは、生成物中での多孔性の形成を伴うが、この形成は、コーティングの亀裂形成をもたらす可能性があるために避けなければならないものである。さらに、霧状化プロセスは、若干の多孔性が生成される原因でもある。この多孔性は、融解中の生成物分解に依存しないので、より濃度が高まる。これは、小さな散在した一群の細孔ではなく、いくらか大きい細孔をもたらすことになる。
【0014】
得られた広範な粒径は、耐摩耗性コーティングの適用例で使用するのに相応しい粉末を処理する上記技法の欠点でもある。炭化タングステン粒子を球状化する際の低温坩堝の使用は、小さいサイズの最終的な粒子、例えば200μm未満などの粒子が望まれる場合、特に限定的なものである。
【0015】
図3および4(共に従来技術)は、上述の低温坩堝技術を使用して、Technogeniaによって得られた球状化炭化タングステン粒子を示す。図に示すように、大きい細孔が存在し、粒子には様々なサイズがある。しかし粒子のミクロ構造は非常に一定しており、平均硬度は3200HVである。
【0016】
図5(従来技術)も、球状化炭化タングステン粒子を示し、今回はドイツのWoka GmbHから得たものである。粒子中の細孔および不規則性を見ることができる。粒子のミクロ構造は、比較的均一であり、いかなる亀裂も示していない。平均硬度は3040HVである。
【0017】
球状化粒子は、回転電極による霧状化を使用しても得られる。しかしこのプロセスは、電極の直径および回転速度により制約を受け、したがって、少なくとも200μmの直径を有する粒子の生成が可能になる。
【0018】
別の知られている球状化技法は、誘導プラズマ、DCプラズマ、放射カラムなどに粒子を通すことによって、角状粉または凝集塊を直接加熱し、最終的には融解することによる。これまでの技法とは異なり、粒子を霧状化しないが、材料の表面歪みにより、液体状態で球状の形をとる。400〜500μm未満の直径を有する球状化粒子を、そのような技法を使用して得、変態した炭化タングステン粉末の硬度を2900HV超に増大させる。しかし、低温坩堝技法の場合と同様に、生成物中に存在するWCの存在および部分分解では、遊離炭素の解放および細孔形成が伴う。さらに、熱経路における差異と、その後の様々な粒子の差異が、得られる粒子のミクロ構造に広範な不均一性を生じさせる。
【0019】
図6および7(共に従来技術)を参照すると、Transmateriaによって得られた球状化粒子が示されている。これらの粒子は、極めて高い温度の誘導プラズマに溶融炭化タングステンの角状粒子を通すことによって、作製した。
【0020】
これらの粒子を得るのに使用した加熱および冷却プロセスの、種々の相の相変態動力学は、図1の状態図を参照することによって、より良く理解される。出発材料は、角状溶融炭化タングステンからなり、したがってWCを約20%、W2Cを80%含み、プラズマ中で加熱されたときに、2段階で一体化する。WC相は、炭素含量が低い液相と、固体炭素とに変態する。W2Cは、いかなる炭素も自由にすることなく、液相に直接向かう。WC相によって解放された炭素は、通常、粒子から解放されるが、昇華を引き起こすことのできる臨界温度に粒子が到達した場合、蒸気相に分解する可能性がある。その場合、炭素ガスは、その体積が固体の場合よりも非常に大きいので、球状化粒子に多孔性を引き起こす可能性がある。
【0021】
次いで液体の炭素含量がわずかに低下し、組成が状態図の左に移動する。これは、得られた球状化炭化タングステンの炭素含量が約3.77重量%であるのに対し、初期の角状炭化タングステンが、典型的な場合に約3.95重量%の炭素を有することの理由を説明している。炭素含量は、粒子サンプル全体に関して測定され、また全ての粒子がプラズマ中で同一の熱曝露にかけられるとは限らないので、個々の球状化粒子同士の炭素含量に著しい相違があることを予測することができることに留意されたい。プラズマを通過した後、粒子は、その小さいサイズを考慮して非常に素早く冷却される。したがって得られる構造は、主に、当初の粒子の場合と同様にW2CとWCの混合物からなるが、そのサイズはより微細である。
【0022】
プラズマ中の粒子の滞留時間が非常に短いとしても、その粒子を球状化することは依然として可能である。この方法の主な問題は、プラズマの熱に幅広いばらつきがあるので、処理する粒子ごとに熱条件を制御することである。プラズマ中にシャワーとして投じられる粒子は、全てが同じ熱経路を経るとは限らない。したがって、球状化粒子のミクロ構造の非常に幅広いばらつきは、図6で明らかなように観察することができるが、そのような限られたゾーン内で、数多くの種々のタイプのミクロ構造を見出すことは、典型的なものではない。文字Aで識別される粒子は、得られた粉末において最も一般的なミクロ構造を示す。しかし、この典型的なミクロ構造は、粒子によっては多かれ少なかれ微細であり得る。粒子Bは、粒子Aに類似した構造を示すが、粒子Bは、互いに約60°の角度をなす真っ直ぐな分割線(straight separation)も有する。CやDなどのその他の粒子は、Murakami溶液の影響をほとんど受けない構造を示し、したがって、他の粒子の場合とは基本的に異なる構造を持たなければならない。硬度測定では、値に非常に幅広いばらつきが示され、これらは、得られる様々なミクロ構造に容易に結び付けられるものである。
【0023】
この方法によって得られた球状化炭化タングステンは、図7からわかるように、高い硬度を持つが多くの亀裂があることを特徴とする。望ましくない相または相構造の存在は、低温坩堝によって得られた球状化炭化タングステン粒子と比較してこのように不十分な品質になる原因であるように思われる。亀裂は、一般に、侵襲を受けたミクロ構造を容易に見ることができる場合よりも、より白い粒子でよりしばしば生ずるように思われる。
【0024】
上記事項に鑑み、いかなる多孔性も持たず、高い硬度および微細で均質なミクロ構造を有する炭化タングステン粉末が、明らかに求められている。約2400HVの硬度では、市販の溶融炭化タングステンは、明らかに不適当である。低温坩堝を使用して球状化した粒子は、良好な硬度を有するが、多孔質であり不規則であり、非常に幅広い範囲のサイズで生成される。利用可能なDCプラズマおよび誘導プラズマ加熱システムは、経路および不均一な熱圧力勾配を提供するが、これはWCの分解を助けるものであり、また細孔の形成も促進させる。
【0025】
特定のニーズを満たす製品には、市場が熱心であることに留意されたい。十分立証されているケースは、スチールフォーミング分野で焼付き防止コーティングを付着させることが可能な球状炭化ニオブ粉末に対する要求である(例えば、Patric Klar、Franz Kiefer、Klas Stjernberg、James J.Cakes、「Optimization of the microstructure of cemented carbide grades for hot rolling applications」P/M Science & Technology Briefs、Vol.1、No.4、1999、第5〜9頁;およびK.Tsubouchi、M.Akiyama、M.Tsumura、およびS.Amano、「Development of wear-resistant surface layer for a tool to be used for high-temperature stainless steel rolling」、Proc.Instn.Mech.Engrs.、Vo/213 Part J、1999、第473〜480頁参照)。そのような粉末の使用は、ニオブおよび炭化ニオブへの炭素の拡散速度が低いことにより、制約を受ける。この遅い拡散速度は、高温で充填チャージを維持するための高いコストと相俟って、PTAおよびレーザの適用例では使用することのできない非常に微細な粉末を生成させる。この粉塵を凝集し、焼結することが可能であるが、このようにすると、再び生産コストが高くなる。ニオブの高いコストは、その使用を制限する別の要因である。チタンやバナジウム、ニオブをベースとした炭化物など、その他の炭化物は、市場にとっていくらか興味あるものと考えられるが、その高い融点、影響を受け易い相、および生産コストが、その使用を妨げている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
したがって、本発明の目的は、改善された特性を有する炭化タングステン粒子を提供することである。
【0027】
本発明の好ましい目的は、高硬度であり、微細で均質なミクロ構造であり、かつ細孔を比較的含んでいない炭化タングステン粒子を提供することである。
【0028】
本発明の別の好ましい目的は、上記列挙した特性を有する角状(angular)炭化タングステンを提供することである。
【0029】
本発明のさらに別の目的は、上記列挙した特性を有する球状炭化タングステンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
したがって本発明は、炭化タングステン粒子を処理するための方法であって、
a)組成、ミクロ構造および相分布が、面心立方構造を有するγ相の単相領域を示す状態図に表されるW-C系の炭化タングステン粒子を含有する出発材料を提供するステップであって、前記単相領域は、液相線によって上方に画定されており、前記粒子は、該粒子が単相領域を横切る熱経路を有するように選択された炭素含量を有するものであるステップと、
b)前記出発材料を、前記単相領域において均質化処理にかけ、それによって、面心立方構造を有する単相化粒子を得るステップと、
c)前記炭化タングステンを焼入れして、前記単相化粒子を周囲温度で凍結させるステップと
を含む方法を提供する。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によれば、単相化粒子を液相線を超える温度で加熱して該粒子を球状化させる追加のステップを、均質化処理と焼入れとの間で実施する。
【0032】
本発明の別の態様によれば、本発明の方法により処理された、単相化炭化タングステン粒子が提供され、これらの粒子は面心立方ミクロ構造を有するものである。
【0033】
本発明は、その好ましい実施形態を添付図面と併せて読むことによって、より良く理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1の状態図を参照すると、炭素含量約37%〜39%で単相領域γを示すことがわかる。この単相領域を、以下、均質化ゾーンと呼ぶ。特定のW-C系の場合、相γはWC1-x組成に対応し、準安定であり、面心立方構造を有する。これは、従来の溶融炭化タングステンでは一般に見られない。なぜなら、材料を鋳型に入れた後の冷却速度が、比較的限定された平衡ゾーンを有するこの準安定構造を凍結するほど十分速くないからである。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によれば、周囲温度で単相化立方面心粒子が得られるように、炭化タングステン粒子を処理するための方法が提供される。この方法は、一般に、以下のステップを含む。
【0036】
a)組成、ミクロ構造および相分布が、面心立方構造を有するγ相の単相領域を示す状態図に表されるW-C系の炭化タングステン粒子を含有する出発材料を提供するステップ。この単相領域は、液相線によって上方に画定され、粒子は、この粒子が単相領域を横切る熱経路を有するように選択された炭素含量を有する。本発明の好ましい実施形態では、出発材料は、市販されている溶融炭化タングステンであり、したがって、W2CおよびWCの共析晶組成を有する角張った形の粒子を含んでいる。
【0037】
b)出発材料を、単相領域において均質化処理にかけるステップ。それによって、単相化粒子が得られる。
【0038】
c)炭化タングステンを焼入れして、単相化した粒子を周囲温度で凍結させるステップ。
【0039】
焼入れ後、WC1-x相がその面心立方構造を持った状態で存在することは、生成された粉末の機械的性質を高めるのに有利である。市販の溶融炭化タングステンは、主に六方最密構造を持つW2Cからなり、この構造は一般に、最も硬いものであるがWC相の六方単純構造よりも脆いことが認められており、これを一般に、弱い靭性を有すると言う。
【0040】
溶融炭化タングステンを、液相線を横切らせずに上述の均質化処理にかけると、粒子は球状化されないが、その硬度が高まるように、典型的な場合は2900HVを超えるように、角状炭化タングステンのミクロ構造が再構成される。あるいは、ステップb)とc)の間に、液相線を超える温度で炭化タングステンを加熱するステップを付加することが可能である。それによって、粒子が球状化される。
【0041】
WC1-x相は、融解中に分解しないという特徴を有する。これは非常に興味深いものである。なぜなら、分解が生じないことによって細孔の形成が妨げられ、最終の粉末ミクロ構造の均一性がより高まるからである。さらに、この相の均質化によって、融解の際にDCおよび誘導プラズマトーチによって提供された典型的な熱経路を、得られた粒子が追従することが可能になり、それによって、生成物の最終的な均一性が高められる。さらに、分解が生じないことにより、その融解中に粒子の過熱を引き起こす現象がなくなる。
【0042】
上記方法は、耐摩耗性コーティングの適用例にしばしば必要とされる、200μm以下など小さいサイズの炭化タングステン粒子を得るのに適している。本発明の方法は、大量の霧状化を必要とせずに出発材料を変態させるので、最終生成物の粒子は出発材料の粒子と同じ平均サイズであり、異なる形状およびミクロ構造を持つ。したがって、蒸発および形状のファクタに起因する相違のみを考慮にいれ、1μmから5mmの間にあるどの最終粒径も、ほぼ同じ粒径の出発材料を使用して得ることができる。
【0043】
本発明による炭化タングステン粒子の均質化処理および球状化は、炉、加熱塔、プラズマシステム、レーザシステム、あるいは所望の効果を実現することが可能な任意のシステムまたはそれらの組合せを含めた任意の適切な加熱プロセスによって、実現することができる。図8を参照すると、本発明の好ましい実施形態による方法を実施するのに適切な、黒鉛炉20が示されている。本発明の方法での黒鉛炉の使用は、液相線を横切ることなく、炭化タングステン粒子を均質化するのに十分な温度で、出発材料を加熱するのに有利である。図示される実施形態では、炉20は供給システム21を有し、そこから出発材料が炉20内へと挿入される。次いで粒子は上部チャンバ22と底部チャンバ24とを横切る。上部チャンバ22と底部チャンバ24は、粒子が上部チャンバ(22)から底部チャンバ(24)まで循環できるように互いに接続されている。各チャンバごとに適切な温度を選択することによって、上部チャンバ22は均質化処理を行うのに使用され、一方底部チャンバは、得られた粒子を液相線を超える温度で加熱することにより球状化する。図1に示すW-C系の場合、上部チャンバは、例えば2600〜2700℃の間の温度で加熱され、底部チャンバは、2750℃よりも高い温度で加熱される。2つのチャンバを含む炉は、その他の適用分野ですでに知られており、本発明の方法を実施するのに使用することができる。炭化タングステンの融解に必要とされる高温までより良好に到達するために、誘導プラズマで底部チャンバを加熱することも、興味深いものである。そのような場合、プロセス中に実際に炉が消耗されるような温度まで達してしまわないように、注意を払うべきである。最後に、炉20は、焼入れ領域26と回収領域28とを含む。
【0044】
しかし、本発明の範囲は、黒鉛炉の使用に限定されないことを理解すべきである。必要な温度で溶融炭化タングステンを加熱することが可能であり、また変態した粒子を直接急冷することが可能な、噴霧化を必要としない任意の装置を使用して、本発明のステップを実施することができる。
【0045】
図13を参照すると、本発明の別の実施形態が概略的に示されている。この場合、出発材料は、供給システム32内に供給され、第1の炉34に運ばれ、そこで、本発明の原理に従って均質化処理が実行されるように選択された温度で、予熱ステップにかけられる。次いで、得られた単相化粒子を任意選択で第2の炉36に運び、そこで、対応する状態図の液相線を超える温度で加熱し、したがって球状化される。このステップを省略する場合は、角状単相化粒子が得られることになる。最後に、粒子を焼入れエンクロージャ38に供給し、そこで粒子が、好ましくはアルゴンガスを使用してガス焼入れにかけられ、それによって、得られた面心立方ミクロ構造を凍結する。図示した実施形態では、振動フィーダ40を使用して、粒子を1つのステーションから次のステーションへと移動させる。
【0046】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、出発材料は、少なくとも1種の合金元素を含有することができる。合金元素の重量比は、0.1%程度に低くてよい。合金元素の好ましい選択肢は、チタン、ニオブ、バナジウム、およびタンタルである。これらの出発要素での使用には、W-C系のWC1-X相の単相領域を拡大することによって均質化処理を促進させ、また焼入れ後に面心立方構造の安定性が増大する、という全般的な効果がある。図9〜12は、これらの合金元素のそれぞれを添加することによって得られた、W-C系に関する状態図を示す。各元素ごとに、所与の比率を例として選択するが、本発明の範囲から逸脱することなく、広範な組成が可能であることを理解すべきである。溶融炭化タングステンの比率は、1〜100%の間のいずれかでよく、炭化ニオブ、炭化バナジウム、炭化タンタル、および炭化チタンのそれぞれの比率は、1〜99%の間のいずれかでよいと考えられる。合金元素を組み合わせたものも可能である。
【0047】
合金元素の適正な選択および使用は、いくつかの利点をもたらす。得られる(W,X)C1-x単相領域に対して安定な範囲の温度および炭素組成を増大させることができる。これは、図9〜12で観察することができる。また、焼入れによって引き起こされる硬度の深さおよび分布によって測定されるように、面心立方構造の焼入れ性、すなわち焼入れによって硬化する能力を、増大させてもよい。金属の焼入れ性は、T-T-T曲線の比較によって明らかにされる。より大きな焼入れ性は、TTTプロットが時間軸に対して右にずれたときに示される。この結果、焼入れ後に、より高いパーセンテージの面心立方構造が得られ、したがって硬度や靭性などの、最終的な生成物の機械的性質が改善される。また、粉末の最終的なミクロ構造を精製し、最終的なミクロ構造の、より高い均一性を促進させる。
【0048】
特に興味深いのは、合金元素としてニオブ(Nb)を使用する場合である。混合炭化物中にニオブを添加すると、溶着中にそれらの混和性が低下するが、それはニオブおよび炭化ニオブの拡散速度が特に遅くなることが知られているからである。得られた生成物は、溶着中、マトリックスでのストリッピングの影響が非常に少なく、それによって、その後のマトリックス中での脆弱な相の形成が制限される。その性質は、この点に関し、Kennametalの純粋なWC「マクロ結晶質」粉末で認められている利点と類似している。バナジウムは、ニオブと類似した性質を有し、タングステンを持つ混合炭化物に添加することの利点は類似している。ニオブおよびバナジウムの炭化物は、ニッケル、鉄、クロム、およびコバルトの合金中、高温での混和性が低いので、高性能超合金鋼用の粒界安定剤として既に使用されていることに留意すべきである。ニオブの特定の場合、炭化タングステンにおけるその有益な効果は、炭化ニオブに対するタングステンの有益な効果でもあることに注目することができる。前述のように、優れた焼付き防止特性を有し、かつPTAおよびレーザ堆積に好ましい粒径を有するニオブ粉末の生成は、後者およびその炭化物中の炭素拡散の問題によって制限される。混合物中のNbCの比率が50%を超えた場合に事実上対応する、ニオブまたは炭化ニオブへのタングステンまたは炭化タングステンの添加は、それによって、生成の過程で均質化がなされかつPTAおよびレーザ適用に対して良好な粒径分布(10〜200μm)を有する微細構造の混合炭化物粉末の生成を促進させる。これは、W2Cの寄与が、混合炭化物中の炭素の拡散に好ましく作用するからである。
【0049】
試験は、炭化タングステンに8%のNBを導入した場合について行ったが、これは、特に好ましい比率であることが見出されている。ニオブの導入により、単相(W,Nb)C1-xへの包析晶変態が始まる温度では、炭素の拡散係数が64%よりも大きく低下した。包析晶変態が始まる温度は2260℃まで下がり、純粋な溶融炭化タングステンの場合に比べ、この特定のポイントの270℃よりも大きい低下であった。さらに、炭化ニオブが存在すると、ニオブと炭素の結合エネルギーが炭素とタングステンとの結合エネルギーよりも3倍高くなるので、炭化物中の炭素の拡散が著しく遅くなる。やはり、この拡散係数の低下によっても、(W,Nb)C1-x相の焼入れが可能になり、したがって、炭化物の靭性が増大する。
【0050】
チタンは、例外的な硬度を有し、後者およびその炭化物で認められた拡散速度も非常に遅い。したがって、合金元素として、炭化タングステン粒子にチタンを組み込むことが有利である。炭化チタンは、混合炭化物の、硬度、焼入れ性、および(W,Ti)C1-x相における炭素組成の安定性を、増大させる。炭化チタンに溶融炭化タングステンを添加することにより、後者における拡散速度も速くなり、炭化チタンの含量が高くかつPTAおよびレーザ適用例に適したサイズを持つ混合粉末の生成が促進される。
【0051】
本発明の別の態様によれば、本発明の原理に従って処理され、それによって単相化WC1-xからなるミクロ構造を有する、炭化タングステン粒子が提供される。当業者なら、これは、必ずしも各粒子が厳密に面心立方構造を有する必要がなく、粒子はそのような構造の利益が得られるよう実質的に転位されていることが理解されよう。得られる粒子は、実施形態に応じて球状または角状粉末でよい。
【0052】
本発明から得られた炭化タングステン粉末は、混合したものであれまたはその他の方法で得られたものであれ、使用した堆積方法とは無関係に、焼付き防止コーティングなどのいくつかの適用例に特に適合される。レーザおよびPTAによる堆積は、可能な堆積方法の例である。得られる焼付き防止コーティングは、例えば高温または低温成形ローラ、プラスチックまたは金属成型分野、機械分野(シャフト、ジャーナル、スクリュ、ギア、ベアリングなど)、油の分野(掘削ストリングの自走部品など)、および輸送分野(ブレーキディスクなど)に使用することができるが、これに限定するものではない。混合炭化物は、鉄、コバルト、ニッケル、およびクロムにおける炭化物のストリッピングが少ないコーティングを得るという特定の目的に合わせた溶着に、特に適切である。これには、添加または投入粉末、ワイヤまたはフレキシブルコード、あるいは溶接棒または蝋付け部品としてのその使用が含まれる。
【0053】
当然ながら、添付の特許請求の範囲で定義された本発明の範囲から逸脱することなく、上記実施形態に数多くの変更を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】Cの原子パーセントによる、タングステンおよび炭素の状態図である(従来技術)。
【図2】市販の溶融炭化タングステン粒子のミクロ構造を示す図である(Marakami、1000×)(従来技術)。
【図3】50×で拡大した、低温坩堝により球状化されたTechnogenia製炭化タングステン粒子のミクロ構造を示す図である(従来技術)。
【図4】500×で拡大した、低温坩堝により球状化されたTechnogenia製炭化タングステン粒子のミクロ構造を示す図である(従来技術)。
【図5】200×で拡大した、低温坩堝により球状化されたWoka GmbH製炭化タングステン粒子のミクロ構造を示す図である(従来技術)。
【図6】500×で拡大した、誘導プラズマにより球状化されたTransmateria製炭化タングステン粒子のミクロ構造を示す図である(従来技術)。
【図7】200×で拡大した、誘導プラズマにより球状化されたTransmateria製炭化タングステン粒子のミクロ構造を示す図である(従来技術)。
【図8】本発明の好ましい実施形態による方法を実施するための、黒鉛炉を示す概略側面図である。
【図9】C重量による、8重量%のNbを有するW-C-Nb系の状態図である(従来技術)。
【図10】C重量による、19重量%のTiを有するW-C-Ti系の状態図である(従来技術)。
【図11】C重量による、20.5重量%のVaを有するW-C-Va系の状態図である(従来技術)。
【図12】C重量による、9.4重量%のTaを有するW-C-Ta系の、状態図である(従来技術)。
【図13】本発明の好ましい実施形態による、炭化タングステン粒子を処理する方法のステップを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステン粒子を処理するための方法であって、
a)組成、ミクロ構造および相分布が、面心立方構造を有するγ相の単相領域を示す状態図に表されるW-C系の炭化タングステン粒子を含有する出発材料を提供するステップであって、前記単相領域は、液相線によって上方に画定されており、前記粒子は、該粒子が単相領域を横切る熱経路を有するように選択された炭素含量を有するものであるステップと、
b)前記出発材料を、前記単相領域において均質化処理にかけ、それによって、面心立方構造を有する単相化粒子を得るステップと、
c)前記炭化タングステンを焼入れして、前記単相化粒子を周囲温度で凍結させるステップと
を含む方法。
【請求項2】
均質化処理ステップと焼入れステップとの間に、単相化粒子を液相線を超える温度で加熱して該粒子を球状化するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記出発材料の前記炭化タングステン粒子が角状の形を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記出発材料の前記炭化タングステン粒子が、200μm未満の平均直径を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記出発材料の前記炭化タングステン粒子が、原子Cを37%から39%の間で含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記出発材料の前記炭化タングステン粒子が、WCおよびW2Cの共析晶組成を有する鋳造炭化タングステン粒子である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記出発材料が、前記単相領域を広げるために少なくとも1種の合金元素を含有し、それによって単相化粒子の焼入れ性を増大させる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記合金元素が、Ti、V、Nb、およびTaからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記出発材料が、少なくとも0.1重量%のNbを含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記出発材料が、8重量%のNbを含有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記合金元素が、前記出発材料中、炭化タングステンと共に鋳造される、請求項7から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記単相化粒子が、WC1-x組成の粒子を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記単相化粒子の第1の部分がWC1-x組成の粒子を含み、前記単相化粒子の第2の部分がXC1-x組成の粒子含み、Xが、Ti、V、Nb、およびTaからなる群から選択される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項14】
ステップb)の均質化処理が、前記出発材料を黒鉛炉内で加熱することを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
上部チャンバから底部チャンバへ粒子を循環させるように接続された、上部チャンバと底部チャンバとを有する黒鉛炉の使用を含み、前記均質化処理を該上部チャンバ内で実施し、液相線を超える温度での前記加熱を該底部チャンバ内で実施する、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記底部チャンバを誘導プラズマによって加熱する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の方法によって処理された、面心立方ミクロ構造を有する単相化炭化タングステン粒子。
【請求項18】
前記粒子がWC1-x組成を有する、請求項17に記載の単相化炭化タングステン粒子。
【請求項19】
請求項8または9に記載の方法によって処理された単相化炭化タングステン粒子であって、前記粒子が面心立方ミクロ構造を有し、前記粒子の第1の部分がWC1-x組成を有し、前記粒子の第2の部分がXC1-x組成を有し、Xが、Ti、V、Nb、およびTaからなる群から選択される、単相化炭化タングステン粒子。
【請求項20】
XがNbからなり、前記粒子の第2の部分が、前記単相化炭化タングステン粒子の0.1%を超える部分を構成し、それによって、高温でのその混和性が低下している、請求項19に記載の単相化炭化タングステン粒子。
【請求項1】
炭化タングステン粒子を処理するための方法であって、
a)組成、ミクロ構造および相分布が、面心立方構造を有するγ相の単相領域を示す状態図に表されるW-C系の炭化タングステン粒子を含有する出発材料を提供するステップであって、前記単相領域は、液相線によって上方に画定されており、前記粒子は、該粒子が単相領域を横切る熱経路を有するように選択された炭素含量を有するものであるステップと、
b)前記出発材料を、前記単相領域において均質化処理にかけ、それによって、面心立方構造を有する単相化粒子を得るステップと、
c)前記炭化タングステンを焼入れして、前記単相化粒子を周囲温度で凍結させるステップと
を含む方法。
【請求項2】
均質化処理ステップと焼入れステップとの間に、単相化粒子を液相線を超える温度で加熱して該粒子を球状化するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記出発材料の前記炭化タングステン粒子が角状の形を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記出発材料の前記炭化タングステン粒子が、200μm未満の平均直径を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記出発材料の前記炭化タングステン粒子が、原子Cを37%から39%の間で含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記出発材料の前記炭化タングステン粒子が、WCおよびW2Cの共析晶組成を有する鋳造炭化タングステン粒子である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記出発材料が、前記単相領域を広げるために少なくとも1種の合金元素を含有し、それによって単相化粒子の焼入れ性を増大させる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記合金元素が、Ti、V、Nb、およびTaからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記出発材料が、少なくとも0.1重量%のNbを含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記出発材料が、8重量%のNbを含有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記合金元素が、前記出発材料中、炭化タングステンと共に鋳造される、請求項7から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記単相化粒子が、WC1-x組成の粒子を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記単相化粒子の第1の部分がWC1-x組成の粒子を含み、前記単相化粒子の第2の部分がXC1-x組成の粒子含み、Xが、Ti、V、Nb、およびTaからなる群から選択される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項14】
ステップb)の均質化処理が、前記出発材料を黒鉛炉内で加熱することを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
上部チャンバから底部チャンバへ粒子を循環させるように接続された、上部チャンバと底部チャンバとを有する黒鉛炉の使用を含み、前記均質化処理を該上部チャンバ内で実施し、液相線を超える温度での前記加熱を該底部チャンバ内で実施する、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記底部チャンバを誘導プラズマによって加熱する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の方法によって処理された、面心立方ミクロ構造を有する単相化炭化タングステン粒子。
【請求項18】
前記粒子がWC1-x組成を有する、請求項17に記載の単相化炭化タングステン粒子。
【請求項19】
請求項8または9に記載の方法によって処理された単相化炭化タングステン粒子であって、前記粒子が面心立方ミクロ構造を有し、前記粒子の第1の部分がWC1-x組成を有し、前記粒子の第2の部分がXC1-x組成を有し、Xが、Ti、V、Nb、およびTaからなる群から選択される、単相化炭化タングステン粒子。
【請求項20】
XがNbからなり、前記粒子の第2の部分が、前記単相化炭化タングステン粒子の0.1%を超える部分を構成し、それによって、高温でのその混和性が低下している、請求項19に記載の単相化炭化タングステン粒子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2006−521987(P2006−521987A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504079(P2006−504079)
【出願日】平成16年3月15日(2004.3.15)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000391
【国際公開番号】WO2004/085690
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(505360258)インベジャイアー インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年3月15日(2004.3.15)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000391
【国際公開番号】WO2004/085690
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(505360258)インベジャイアー インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]