説明

炭化水素原料油からの軽質オレフィンの製造方法

【課題】炭化水素原料油からの軽質オレフィンの製造方法を提供すること。
【解決手段】
炭化水素原料油から軽質オレフィンを製造する方法を開示する。該方法は、−Si−OH−Al−基の骨格を有する分子ふるい、水不溶性金属塩及びリン酸化合物を含む原料混合物から水分を蒸発することによって得られた生成物からなる多孔性分子ふるい触媒が、軽質オレフィンに対する優れた選択性を維持しつつ、炭化水素原料油から軽質オレフィン、特にエチレン及びプロピレンの製造に使用される点に特徴がある。前記工程によれば、水熱安定性を有する特定の触媒を用いることによって、軽質オレフィンを、炭化水素原料油、特にフルレンジナフサから高収率及び高選択性で選択的に製造することができる。特に、前記工程は、従来の軽質オレフィン製造工程のための熱分解工程に要求される反応温度より高い分解活性が維持され、従って炭化水素原料油から高選択度性及び高転換率で軽質オレフィンを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素原料油から軽質オレフィンを製造するための方法、及びより特には、高温多湿な雰囲気の下でも、比較的安定した構造を有し、その結果その触媒活性を長時間保持し、及び水熱安定性を示す触媒を用いて炭化水素原料油から高い選択性とともに高収率で軽質オレフィンを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン、特に軽質オレフィン、例えばエチレン及びプロピレンは石油化学産業において広く用いられている。
それらの軽質オレフィンは、一般に水蒸気の共存下でナフサの熱分解(スチームクラッキング)によって製造される。前記スチームクラッキング技術は、高い工程温度と滞留時間の減少に対応し、またエネルギー効率を最適化するために多くの分野において改善がなされている。しかしながら、技術工学におけるただ単純な改善によるだけではエネルギー効率を改善することは容易ではなく、及び前記スチームクラッキング工程は現在のところ石油化学産業において必要とされる総エネルギーの約40%の割合を占める。従って、環境汚染の低減及び経済性を向上させるために、エネルギーの最適化、原料油使用量の低減、二酸化炭素放出の最小化などのための改善された工程技術が必要である。また、軽質ナフサは典型的に原料油として使用されるが、後述のようなフルレンジナフサ(full range naphtha)と比べて高価であり、従って、必然的に経済性向上における制限となるだろう。特に、現在適用されているスチームクラッキング技術においては、オレフィンの組成を調節することが容易ではないうえ、反応温度が800ないし900℃の水準であり、大量の熱エネルギーを必要とすることを示している。従って、スチームクラッキング技術における改善のための必要性が提案されている。
また、軽質オレフィン化合物は、 流動接触分解(FCC)工程によって製造し得る。こ
のFCC工程は、水蒸気で処理するとき流体のように挙動する、微粒子の形態を有する触媒を用いる接触分解技術として当該技術分野において広く知られている。特に、深度接触分解(DCC)技術が知られており、該技術はガソリン以外のオレフィン(主に、プロピレン)の収率を増大するためにFCC工程を改造することにより改良された工程である。FCC工程において、減圧残油、常圧残油、又は軽油のような、本発明において用いられるフルレンジナフサより重質な留分が原料油として用いられる。
オレフィンの製造に関して、上述のスチームクラッキング及びFCC工程に加えて、接触分解を用いるオレフィン転換工程が提案されている。これら工程の大部分において、固体酸触媒としてHZSM−5触媒が広く用いられる。しかしながら、固体酸触媒を用いる従来の接触分解工程において、反応温度が典型的に少なくとも650℃であり、及び反応供給物の少なくとも30%が水蒸気である。上記接触分解工程に用いられる多孔性固体酸触媒(例えば、ゼオライト)は、500℃より高い水蒸気雰囲気下に置かれた場合、その四面体骨格の脱アルミニウムが起きてその構造破壊を引き起こし、固体酸触媒の酸性側が減少し、その結果触媒活性及び反応性の急激な減少をもたらすという問題を有する。
よって、接触分解工程を含む上記従来の軽質オレフィン製造工程において、触媒の不安定性、及び従って、触媒が高温及び多湿の苛酷な工程雰囲気下に置かれた場合に発生する加工性能における減少を低減するための研究が活発に行われている。
【0003】
これら研究に関して、特許文献1はアルミニウム原子の分布及びゼオライトの結晶サイズを調整することによって得られるナフサ分解触媒、並びにこの触媒を用いる分解ナフサのための方法を開示する。前記特許の開示によれば、該触媒は細孔の外側に存在するアルミニウムを化学的に中和することにより細孔の表面における芳香族化合物の生成が最小限化され得るように意図されているのに対して、小さいサイズを有する、エチレン及びプロ
ピレンが酸性部位の数を増加するために細孔の内側のアルミニウムイオンの濃度を増加することによってより選択的に生成され得る。その一方で、前記特許に記載されるように、この技術により得られるフェリエライトゼオライト触媒が接触分解において用いられる場合、該触媒の反応性は690℃で50%の水蒸気雰囲気下において2時間触媒を維持するような比較的苛酷な工程環境下でも優れるだろう。しかしながら、該触媒の熱水安定性に関して、それが750℃、100%の水蒸気で24時間処理される場合、該触媒の構造安定性及び反応性が信頼できないことが予想される。
【0004】
特許文献2は、5ないし75質量%のZSM−5及び/又はZSM−11、25ないし95重量%のシリカ又はカオリン並びに0.5ないし10重量%のリンを含有するペレット状触媒を用いる接触分解ナフサ(沸点:27ないし221℃)によって軽質オレフィンを製造する方法を開示する。しかしながら、高温及び多湿の苛酷な環境における熱水安定性の言及はない。
【0005】
特許文献3は、620ないし750℃の温度及び1ないし200h-1のWHSVにおいてHZSM−5及びHZSM−11触媒(SiO2/Al23のモル比:150ないし3
00)を用いて炭素原子数2ないし12のパラフィン含有軽質ナフサ(密度:0.683g/cc;組成:n−パラフィン42.7質量%、イソ−パラフィン36.1質量%、オレフィン0.1質量%、ナフテン14.0質量%及び芳香族7.1質量%;並びにパラフィン成分の分布:C3 0.1質量%、C4 5.2質量%、C5 18.7質量%、C6 19.0質量%、C7 15.2質量%、C8 13.5質量%、C9 6.1質量%、C10 0.
1質量%及びC11 0.1質量%)からエチレン及びプロピレンを製造するための接触分
解工程を開示する。前記特許の開示によれば、680℃及び25h-1のWHSVの反応条件の下で、93.6質量%の転換率及び44.9質量%のエチレン+プロピレン生成が示される。しかしながら、HZSM−5又はHZSM−11触媒はペレット化されていない状態で接触分解反応において用いられ、及び水蒸気又は不活性ガスは該反応中に供給されない。従って、該触媒は素晴らしい初期活性を有するが、該触媒は容易に不活性化する可能性がある。このため、高温及び多湿の苛酷な環境において触媒の反応性が著しく減少することが予想される。
【0006】
一方、特許文献4は、炭素原子数2ないし12のパラフィンを含有する軽質ナフサからの主生成物としてエチレン及びプロピレンを製造するための接触分解工程において、鉄(Fe)100ppmを有するプロトン−ゼオライト(SiO2/Al23=20ないし5
00)触媒の使用が優れた選択性で軽質オレフィンの製造を可能にすることを報告する。該触媒は水蒸気又は不活性ガスが反応中に供給されないため素晴らしい初期活性を有するが、水蒸気を含む高温反応において触媒が容易に不活性化する可能性がある。このため、高温及び多湿の苛酷な環境において触媒の反応性が著しく減少することが予想される。
【0007】
従って、エチレン及びプロピレンのような軽質オレフィンが反応原料油、特にフルレンジナフサから高転換率及び高選択性で選択的に製造できるように、高温及び多湿の苛酷な工程環境においても反応活性が維持される方法の開発が差し迫って必要である。
【特許文献1】米国特許第6、867、341号明細書
【特許文献2】米国特許第6、835、863号明細書
【特許文献3】特開平6−192135号公報
【特許文献4】特開平6−199707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
技術的課題
従って、本発明者等は、従来技術で発生する上記課題を解決するために広範囲に及ぶ研
究を行い、そして結果として素晴らしい熱水安定性を有する特定の触媒が用いられた場合、苛酷な工程環境においてさえ触媒の反応性の減少無しに炭化水素原料油から高い選択性とともに高収率で軽質オレフィンを製造し得ることを見出した。この事実に基づき、本発明は完成された。
従って、本発明の目的は、高温及び多湿な過酷な環境においてさえ炭化水素原料、特にフルレンジナフサから高選択性とともに高収率で、軽質オレフィン、例えばエチレンやプロピレンを選択的に製造することが可能な方法を提供することである。
本発明の他の目的は、軽質オレフィンを炭化水素原料油から高選択性及び高転換率で製造し得るために、軽質オレフィン製造のための従来の熱分解工程において要求される反応温度より低い温度でも高い分解活性を維持する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
技術的解決
上記目的を達成するために、本発明は、炭化水素原料油から軽質オレフィンを製造するための方法であって、
(a)原料油として炭化水素留分を提供する工程;
(b)触媒の存在下で前記原料油を反応させる少なくとも1つの固定床又は流動床反応器に前記原料油を供給する工程;及び
(c)反応領域の流出物から軽質オレフィンを分離及び回収する工程
を含み、ここで前記触媒が、−Si−OH−Al−基の骨格を有する分子ふるい100質量部、水−不溶性金属塩0.01ないし5.0質量部、及びリン酸化合物0.05ないし17.0質量部を含む原料混合物の水分蒸発によって得られる生成物からなる方法を提供する。
【0010】
本発明において、前記原料油は好ましくはフルレンジナフサ又はケロシン、及びより好ましくは炭素原子数2ないし15の炭化水素を含有するナフサである。
好ましくは、フルレンジナフサ中のパラフィン成分(n−パラフィン及びイソ−パラフィン)の総含有量が60ないし90質量%であり、及び該ナフサ中のオレフィン含有量が20質量%未満である。
また、本発明の方法はさらに段階(c)における軽質オレフィンの分離及び回収後に残った炭素原子数4ないし5の炭化水素とナフサとを混合し及び原料油として炭素原子数4ないし5の炭化水素/ナフサ混合物を提供する段階を含み得る。
一方、前記反応器が固定床反応器である場合、前記反応は好ましくは500ないし750℃の温度、0.01ないし10の炭化水素/水蒸気質量比、及び0.1ないし20h-1の空間速度で行われる。
前記反応器が流動床反応器である場合、前記反応は好ましくは500ないし750℃の温度、0.01ないし10の炭化水素/水蒸気質量比、1ないし50の触媒/炭化水素質量比、及び0.1ないし600秒の炭化水素滞留時間で行われる。
一方、前記触媒が750℃で、100%水蒸気の雰囲気における24時間の水蒸気処理後に使用される場合、反応領域の流出物中のエチレン及びプロピレンの総含有量は30質量%より多く、及びエチレン/プロピレン質量比は0.25ないし1.5である。
【発明の効果】
【0011】
有利な効果
本発明によれば、水熱安定性を有する特定の触媒の使用は、高温及び多湿の過酷な工程環境においてさえ炭化水素、特にフルレンジナフサから高選択性とともに高収率で軽質オレフィンを選択的に製造することにおいて優れた反応性能を示す。特に、本発明の方法は軽質オレフィン製造のための従来の熱分解において要求される反応温度より低い温度でも高い分解活性を維持し得、従って、炭化水素原料油から高選択性及び高転換率で軽質オレフィンを製造し得るという点において非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施例及び比較例に従う軽質オレフィン製造中の触媒の反応活性を測定するためのシステムを図式的に示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
最良の形態
以下、本発明をより詳細に説明する。
上述したように、本発明によれば、水熱安定性を有する多孔性分子ふるい触媒の使用は、炭化水素原料油、特にフルレンジナフサから高選択性とともに高収率で軽質オレフィンを選択的に製造することを可能にする。
軽質オレフィン製造のための本発明の方法において使用される多孔性分子ふるい触媒は、−Si−OH−Al−基の骨格を有する分子ふるい100質量部、水不溶性金属塩0.01ないし5.0質量部、及びリン酸化合物0.05ないし17.0質量部を含む原料混合物の水分蒸発によって得られる生成物からなる。この生成物が軽質オレフィン製造のための触媒として使用される場合、経済性を向上すると同時にそれは優れた水熱安定性、反応活性及び選択性を示し得る。多孔性分子ふるい触媒は、改質剤のための出発物質の種類、それぞれの成分の組成比、投入量、投入中の溶液のpH及び温度等を適切に選択すること及び調節することによって望ましい物理的及び化学的特性を有するように調製され得る。触媒調製工程の間、下記の技術的事項が考慮される:
(1)リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、及びリン酸イオンから選択されるイオンの形態で存在するリン酸化合物で分子ふるいの表面気孔だけを選択的に改質する技術;(2)多量に溶解した金属イオンで分子ふるい中のプロトンのイオン交換を防ぐと同時に、分子ふるいを改質するリン酸化合物を安定化するための水−不水溶性金属塩を用いた技術;及び
(3)水分蒸発によってリン酸化合物及び金属で改質された分子ふるいを安定化する技術。
【0014】
この技術的背景で、触媒が−Si−OH−Al−基の骨格を含有する分子ふるいである場合、触媒のためのいかなる支持体も使用し得る。
4ないし10オームストロングの孔径を有するゼオライトを含む、10ないし100オームストロングの孔径及びSi/Alモル比1ないし300及び好ましくは約25ないし80を有するメソ多孔性(mesoporous)分子ふるいから選択されるいずれか1つを使用することが好ましい。
中でも、より好ましいのはZSM−5、フェリエライト(Ferrierite)、ZSM−11、モルデナイト(Mordenite)、ベータ−ゼオライト、MCM−22、L−ゼオライト、MCM−41、SBA−15及び/又はY−ゼオライトであり、その一般的な性質は技術的に幅広く知られている。
【0015】
ここで使用される、用語水不水溶性金属塩は10-4未満の溶解度積(Ksp)、すなわち4より大きいpKspを有する金属塩を意味する。この金属塩の例は、+2より大きい酸化数を有する金属の酸化物、水酸化物、炭酸化物又はシュウ酸塩であり得る。好ましくは、該金属塩は、アルカリ土金属、遷移金属及び+3ないし+5の酸化数を有する重金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物、水酸化物、炭酸化物又はシュウ酸塩である。
好ましくは、前記アルカリ土類金属がMg、Ca、Sr及びBaを含み得、前記繊維金属がTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuを含み得、及び前記重金属がB、Al、Ga、In、Ti、Sn、Pb、Sb及びBiを含み得る。
【0016】
一方、リン酸化合物は、それが技術的に知られているものであれば特に限定されない。
しかしながら、リン酸化合物としてのリン酸の使用は多孔性物質の結晶性が減少する点で欠点を有するので、リン酸に代えてアルキルホスフィン誘導体も使用し得るが、該誘導体は不経済及び扱い難いために大量生産における使用に適さないという点で問題を有する。そういう訳で、リン酸化合物としてリン酸、リン酸アンモニウム塩[(NH43PO4
(NH42HPO4、(NH4)H2PO4]、又はアルキルリン酸塩を使用することが好ましい。
リン酸(H3PO4)の酸の解離定数pKa(1)、pKa(2)及びpKa(3)は、それぞれ2.2、7.2及び12.3であり、及びリン酸は、pH2.2、7.2、12.3で、それぞれリン酸一水素イオン([HPO42-)、リン酸二水素イオン([H2PO4-)及びリン酸イオン([PO43-)として存在することが一般的に知られている。
従って、リン酸イオンの望ましい化学種はリン酸化合物を含有する水溶液のpHを適切に調節することによって選択的に形成され得ることが自明であろう。
【0017】
上述の組成物から形成される多孔性分子ふるい触媒は、下記式1ないし3によって表される化合物から選択される1つの化合物で改質される:
[式1]
x(H2PO4y(式中、Mは金属を表し、xは1を表し、及びyは2ないし6の整数を表す。);
[式2]
x(HPO4y(式中、Mは金属を表し、xは2を表し、及びyは2ないし6の整数
を表す。);及び
[式3]
x(PO4y(式中、Mは金属を表し、xは3を表し、及びyは2ないし6の整数を表
す。)。
従って、多孔性分子ふるいの気孔の外部に露出した酸性部位は、高温及び多湿の雰囲気において物理的及び化学的安定性を有する改質剤によって選択的に改質され、そのためにゼオライトの表面が脱アルミニウム化から保護され得る。
【0018】
分子ふるい触媒の調製のための説明は特定の理論に制限されないが、該分子ふるいを形成する−Si−OH−Al−基は、ゼオライトのプロトンと縮合するように、下記の反応式1及び2に示されるようにリン酸化合物/金属複合構造によって改質され、その結果
【化1】

が不安定なAlを安定させると同時に2つの−OH基が金属で安定化され、それによって骨格構造は高温及び多湿の雰囲気においても比較的安定に維持されると考えられる。
[反応式1]
【化2】

[反応式2]
【化3】

多孔質分子ふるい触媒を調製するための方法は2つの方法に大別され、及び固体生成物を回収するための選択的な蒸発工程による上述の原料混合物に含有される水分の除去工程を含む。
【0019】
以下、本発明の1つの好ましい態様に従う触媒調製方法を記載する。
(1)リン酸化合物を、水不溶性金属塩を含有する水性スラリーに添加し、そして混合する。リン酸化合物が水溶液中にリン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン及びリン酸イオンから選択されるイオンの形態で存在するように、この混合物をNaOH、KOH、NH4OH、HCl又はHNO3のような従来のアルカリ性又は酸性水溶液を使用して適したpHに調節し、そして約20ないし60℃及び好ましくは約40ないし50℃の温度で、約30分ないし3時間及び好ましくは約1ないし3時間攪拌する。
特に、望ましいpH範囲で存在するリン酸イオンの1種の化学種のみが水溶液中で形成されるように前記混合物を望ましいpH範囲に調節することが好ましい。すなわち、特定のpH範囲を満たさなければ、1種以上のリン酸イオンが水溶液に共存することにより、分子ふるいの気孔表面を改質する化学種が不均一となり、改質触媒の耐久性を保障することが難しくなるだろう。
(2)前記(1)の混合物に、−Si−OH−Al−基の骨格を有する分子ふるいを添加する。その結果生じた混合物を、水性スラリー中の水分が完全に蒸発されるまで、目的に応じた特定のpH範囲において、好ましくは約10ないし90℃、及びより好ましくは約50ないし70℃の温度で攪拌する。このように、スラリー中に存在する水分を除去すると同時に、分子ふるいを改質するリン酸イオン種が、金属イオンで安定化する。次に、固体生成物を回収するために減圧濾過を行う。このような方法で、リン酸金属塩で改質した−Si−OH−Al−骨格を有する分子ふるい触媒を調製する。
一方、触媒の調製において使用する原料混合物の組成は下記の通りである:−Si−OH−Al−骨格を有する分子ふるい100質量部;水不溶性金属塩0.01ないし5.0質量部;及びリン酸化合物0.05ないし17.0質量部。
【0020】
本発明の別の態様に従う触媒の調製方法を今記載する。
(1)リン酸化合物を、水不溶性金属塩を含有する水性スラリーに添加し、そして混合する。リン酸化合物が水性スラリー中にリン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン及びリン酸イオンから選択されるイオンの形態で存在するように、前記混合物をNaOH、KOH、NH4OH、HCl又はHNO3のような従来のアルカリ性又は酸性水溶液を使用して適したpHに調節し、及び約20ないし60℃及び好ましくは約40ないし50℃の温度で、約30分ないし3時間及び好ましくは約1ないし3時間攪拌する。次に、前記水性スラリーを水性スラリー中の水分が完全に蒸発されるまで、目的に適する特定のpH範囲において、好ましくは10ないし90℃、及びより好ましくは50ないし70℃の温度で水分蒸発させる。次に、固体生成物を減圧濾過及び洗浄し、第一固体生成物を分離する。このような方法で、水不溶性リン酸金属塩を調製する。
(2)前記(1)の第一固体生成物を−Si−OH−Al−基の骨格を有する分子ふるい
を含有する水溶液に添加し、そして混合する。その結果生じた混合物を、好ましくは約20ないし60℃、及びより好ましくは約40ないし50℃で、約30分ないし7時間、及び好ましくは約1ないし5時間、前記混合物中の水分が完全に蒸発するまで攪拌する。次に、残った固体生成物を減圧濾過して第二固体生成物を分離する。このような方法で、リン酸−金属塩で改質された−Si−OH−Al−骨格を有する分子ふるい触媒を調製する。
【0021】
一方、触媒の調製において使用される原料混合物は、該原料混合物の組成が下記の通となるような制御された方法において使用される:−Si−OH−Al−骨格を有する分子ふるい100質量部;水不溶性金属塩0.01ないし5.0質量部;及びリン酸化合物0.05ないし17.0質量部。特に第一固体生成物を分子ふるい100質量部に基づき0.01ないし20.0質量部の量で使用することが、望ましい効果の点で好ましい。
触媒調製の上記方法において、水溶液中のいくつかの金属塩を溶解することによって形成される金属イオンは分子ふるいのプロトンとイオン交換せずに改質されたリン酸イオン種だけを安定化し得る条件を見つける必要がある。そうでなければ、溶解した金属イオンが分子ふるいのプロトンとイオン交換され、酸性部位の数が減少し、その結果改質された触媒の反応性の低減をもたらすだろう。
従って、上述のように、水溶液において10-4未満の溶解度積を有する水不溶性金属塩、好ましくはアルカリ土類金属、遷移金属、及び+3ないし+5の酸化数を有する重金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物、水酸化物、炭酸化物又はシュウ酸塩の使用によって、水溶性金属塩を使用する場合の問題である、多量の金属イオンの存在による分子ふるいのプロトンとのイオン交換現象を実質的に防ぐことが可能となり、及び同時に、改質されたリン酸イオンを望ましい金属イオンによって安定化する効果を最大化することが可能である。
【0022】
一方、触媒の調製のための水性スラリーにおける原料混合物は下記の組成に維持されなければならない;分子ふるい100質量部、水不溶性金属イオン0.01ないし5.0質量部;及びリン酸化合物0.05ないし17.0質量部。原料混合物の組成が特定の組成範囲から外れる場合、分子ふるいの表面気孔が改質剤で選択的に改質されず、そして酸性部位の数が著しく減少し、触媒活性の減少をもたらす。特に、水不溶性金属塩とリン酸化合物のモル比は1.0:0.3ないし10.0、及び好ましくは1.0:0.7ないし5.0である。リン酸化合物と水不溶性金属塩のモル比が0.3未満の場合、不要な金属イオンが過剰に存在するために分子ふるいにおける酸性部位の数が減少し、改質された触媒の反応性の低減をもたらすという問題がある。他方では、リン酸化合物と水不溶性金属塩の比が10.0より多い場合、分子ふるい骨格が十分に改質されないために、改質された分子ふるいの熱水安定性が不良になるという問題がある。
【0023】
以下、高温及び多湿の苛酷な環境における触媒の熱水安定性が必ず要求されるところの上述の多孔性分子ふるい触媒を用いて炭化水素原料油から軽質オレフィンを製造するための本発明の方法が説明される。
炭化水素原料油として、フルレンジナフサ又はケロシンが使用され得る。より好ましくは、炭素原子数2ないし15の炭化水素を有するフルレンジナフサが使用され得る。この炭化水素原料油のための最も適する加工反応は接触分解反応であり得るが、特にこれに限定されない。
本発明において使用され得る原料油の例は、フルレンジナフサに加えて、軽質オレフィンの製造のためのスチームクラッキング工程において使用される高価な軽質ナフサ、及び多数の接触分解工程で典型的に使用されるオレフィン含有原料油、及び従来のFCC工程において使用されてきた炭素原子数20ないし30の重質留分を含む。
それらの中でも、フルレンジナフサは原油精製工程において直接製造される炭素原子数2ないし12の炭化水素含有留分であり及びパラフィン(n−パラフィン及びイソ−パラ
フィン)、ナフテン、芳香族化合物などを含有し、及び場合によってはオレフィン化合物を含有し得る。一般に、ナフサ中のパラフィン成分の含有量が高くなるほど軽質ナフサになり、及び他方では、パラフィン成分の含有量が低くなるほど重質ナフサになる。
【0024】
本発明によれば、原料油は収率、経済性などを考慮することにより選択される。この考慮の下、パラフィン成分(n−パラフィン及びイソ−パラフィン)の総含有量が60ないし90質量%、より好ましくは60ないし80質量%、及び最も好ましくは60ないし70質量%であるフルレンジナフサが使用され得る。また、選択されたナフサは20質量%未満、好ましくは10質量%未満、及び最も好ましくは5質量%未満の量でオレフィンを含有し得る。表1は、本発明において使用され得る具体的な原料油組成物を示す(単位:質量%)。
さらに、本発明において、ナフサ原料油はまた、触媒を含有する反応領域の流出物から軽質オレフィン及び重質生成物の分離及び回収後に残った炭素原子数4ないし5の炭化水素との混合物においても使用され得る。
【表1】

【0025】
本発明において、反応領域は少なくとも1つの反応器、及び好ましくは固定床又は流動床反応器を含み得る。反応器において、原料油は本発明の触媒を用いて転換反応(例えば、接触分解反応)によって多量の軽質オレフィンに転換される。
一般に、触媒活性は反応温度、空間速度、ナフサ/水蒸気の質量比などに大きく依存する。この場合、下記の考慮すべき事項によって決められる反応条件が示されなければばらない:エネルギー消費を最小化するために出来る限り低い温度、最適な転換率、最適なオレフィン生成、コークス精製によって引き起こされる触媒不活性の最小化など。本発明の好ましい態様によれば、反応温度は約500ないし750℃、好ましくは約600ないし700℃、及びより好ましくは約610ないし680℃である。また、炭化水素/水蒸気の質量比は約0.01ないし10、好ましくは0.1ないし2.0、及びより好ましくは約0.3ないし1.0である。
固定床反応器を使用する場合、空間速度が約0.1ないし20h-1、好ましくは約0.3ないし10h-1、及びより好ましくは約0.5ないし4h-1である。更に、流動床反応器を使用する場合、触媒/炭化水素の質量比が約1ないし50、好ましくは約5ないし30、及びより好ましくは約10ないし20であり、また炭化水素の滞留時間は約0.1ないし600秒、好ましくは約0.5ないし120秒、及びより好ましくは約1ないし20秒である。
【0026】
一方、本発明に従う分子ふるい触媒が苛酷な環境においてもある程度その触媒活性を維持し得るか、又はこの環境において失活するかを試験するために、本発明の触媒は750℃で、100%水蒸気の雰囲気において24時間水蒸気が当てられる。すなわち、本発明の触媒が上述の雰囲気中で水蒸気を当てた後に使用される場合、前記反応領域の流出物における軽質オレフィン(すなわち、エチレン及びプロピレン)の含有量は、好ましくは約30質量%より多い、より好ましくは35質量%より多い、及び最も好ましくは40質量%より多い。この場合、エチレン/プロピレンの質量比は、好ましくは約0.25ないし1.5、より好ましくは0.5ないし1.4、及び最も好ましくは0.7ないし1.3であり、プロピレンが相対的に多量に生成されることを示す。
【実施例】
【0027】
[発明のための形態]
以下、本発明は実施例によってより詳細に説明される。しかしながら、それら実施例は本発明の範囲を限定すると解釈されるべきものではない。
実施例1
A)触媒の製造
蒸留水100mLにSi/Alのモル比25を有するHZSM−5(ゼオリスト社製)10gと濃縮リン酸(85%H3PO4)0.55gを加えて、そして20分間攪拌した。攪拌した溶液に、Mg(OH)20.36gを添加し、そしてこの混合物をアンモニア水を
用いてpH7ないし8に調節した後、約45℃の温度で約20分間攪拌した。次に、該混合物を約50℃で水分が全て蒸発するまで攪拌し、そして次に減圧濾過して固体生成物を分離した。分離された固体生成物を空気中で500℃の温度下で5時間焼成してMg−HPO4−HZSM−5触媒を製造した。
B)水熱安定性の評価のための水蒸気処理工程
触媒の水熱安定性を評価するために、前記触媒を750℃で、100%水蒸気の雰囲気中で24時間維持した。
C)軽質オレフィンの製造
図1に示すように、軽質オレフィンの製造の間に触媒の活性を測定するためのシステムは、互いに一体的に連結されている、ナフサ供給装置4、水供給装置3、固定床反応器5及び5’、及び活性評価装置を含む。この場合、上記表1に明記されたナフサを原料油として使用した。液体注入ポンプによって供給されたナフサ及び水を、300℃の予熱器(図示せず)において互いに混合し、そしてヘリウム供給装置2及び2’並びに窒素供給装置1及び1’、それぞれによって供給された6mL/分のHe及び3mL/分のN2と混合
し、そしてこの混合物を固定床反応器5及び5’に供給した。このとき、それぞれの気体の量及び速度を流量調節器(図示せず)で調節した。前記固定床反応器を、内部反応器及び外部反応器に分け、該外部反応器、インコネル(Inconel)反応器は、長さ38cm及び外径4.6cmの大きさに製作され、そしてステンレス鋼製の内部反応器は長さ20cm及び外径0.5インチの大きさに製作された。反応器内の温度は温度出力装置7及び7’によって示され、そして反応条件はPID調節器(8及び8’NP200:ハンヨン電子株式会社製、韓国)によって調節された。
反応器に供給された気体は内部反応器を通過後、次に40mL/分のHeが流れる外部反応気を通過した。内部反応器の下部は触媒が充填されている。混合気体を触媒層6及び6’を通し接触分解し、そして反応後、気相生成物12をガスクロマトグラフィ(モデル:HP6890N)によってオンラインで定量した。凝縮器9及び9’を通った残りの液相生成物13を貯蔵タンク10及び10’に回収し、そしてガスクロマトグラフィ(モデル:DS6200);図示せず)によって定量化した。接触分解反応において使用した触媒の量は0.5gであり、ナフサ及び水のそれぞれの供給量は0.5g/時間であり、そして該反応を675℃で行った。
その結果得られた転換率、反応生成物における軽質オレフィンへの選択性、及びエチレン/プロピレンの質量比を、以下の表3に示す。
【0028】
実施例2
A)触媒の調製
蒸留水100mLに、Si/Alのモル比25を有するHZSM−5(ゼオリスト(Zeolyst)社製)10g、及び濃縮リン酸(85%H3PO4)0.26gを添加しそして約20分間攪拌した。攪拌した溶液に、Mg(OH)20.08gを添加し、そしてこ
の混合物を硝酸水溶液を用いてpH2ないし3に調節した後、約45℃約20分間で攪拌した。水が完全に蒸発するまで該混合物を約50℃で攪拌した後、減圧濾過を行い、固体生成物を分離した。分離した固体生成物を500℃の温度で5時間空気中で焼成し、Mg−H2PO4−HZSM−5触媒を調製した。
B)水熱安定性の評価のための水蒸気処理工程
水蒸気処理を実施例1と同様な方法で行った。
C)軽質オレフィンの製造
軽質オレフィンの製造を実施例1と同様な方法で行った。
その結果得られた転換率、反応生成物における軽質オレフィンへの選択性、及びエチレン/プロピレンの質量比を、以下の表3に示す。
【0029】
実施例3
A)触媒の調製
実施例2の(A)で調製した6.6kgのMg−H2PO4−HZSM−5、0.7kgのYゼオライト及び3kgのアルミナバインダーを含むスラリーを攪拌した後、噴霧乾燥し、平均粒径80μmを有するペレット化した触媒を調製した。
B)水熱安定性の評価のための水蒸気処理工程
水蒸気処理を実施例1と同様な方法で行った。
C)軽質オレフィンの製造
本実施例において、流動床反応システムを軽質オレフィン製造中の触媒活性を測定するために使用した。該流動床反応システムはライザー反応器、再生器、ストリッパー及びスタビライザーを含む。前記ライザー反応器は高さ2.5m及び直径1cmであり、前記再生器は高さ1.5m及び直径12cmであり、前記ストリッパーは高さ2m及び直径10cmであり、前記スタビライザーは高さ1.7m及び直径15cmである。
原料油として、上記表1に明記されたナフサを使用した。
ライザーの入口では、原料油、水蒸気及び触媒を供給し、そして互いに混合し、該原料油を133g/時間、400℃で供給し、該蒸気を45g/時間、400℃で供給し、そして触媒を5320g/時間、725℃で供給した。混合物のライザーの通過の間、流動床接触分解反応が起こり、そして該ライザー出口は675℃の温度を有した。ライザーを通過した混合物を500℃でストリッパーにおいて触媒及び留分に分離した。分離した触媒を、再生器に再循環し、そして留分はスタビライザーに流入した。再生器に導入した触媒を725℃で空気と接触させ再生し、そして再生触媒をライザーに再び供給した。スタビライザーに供給した留分を、−10℃で気体成分と液体成分に分離した。
反応によって生成された気体成分及び液体成分留分の分析を、実施例1と同様な方法で行った。
その結果得られた転換率、反応生成物における軽質オレフィン(エチレン及びプロピレン)への選択性、及びエチレン/プロピレンの質量比を、以下の表3に示す。
【0030】
実施例4
A)触媒の調製
蒸留水100mLに、Si/Alのモル比25を有するHZSM−5(ゼオリスト(Zeolyst)社製)10g、及び濃縮リン酸(85%H3PO4)0.18gを添加し、そして約20分間攪拌した。攪拌した溶液に、Mg(OH)20.146gを添加し、そし
て該混合物をアンモニア水を用いてpH12ないし13に調節した後、約20分間約45℃で攪拌した。水が完全に蒸発するまで該混合物を約50℃で攪拌した後、減圧濾過を行い、固体生成物に分離した。分離した固体生成物を5時間約500℃の温度で空気中で焼成し、Mg−PO4−HZSM−5触媒を調製した。
B)水熱安定性の評価のための水蒸気処理工程
水蒸気処理を実施例1と同様な方法で行った。
C)軽質オレフィンの製造
これを実施例1と同様な方法で行った。
その結果得られた転換率、反応生成物における軽質オレフィン(エチレン及びプロピレン)への選択性、及びエチレン/プロピレンの質量比を、以下の表3に示す。
【0031】
実施例5ないし10
A)触媒の調製
原料混合物の組成を以下の表2に示すように変えた以外は触媒を実施例1と同様な方法で調製した。
B)水熱安定性の評価のための水蒸気処理工程
水蒸気処理を実施例1と同様な方法で行った。
C)軽質オレフィンの製造
これを実施例1と同様な方法で行った。
その結果得られた転換率、反応生成物における軽質オレフィン(エチレン及びプロピレン)への選択性、及びエチレン/プロピレンの質量比を、以下の表3に示す。
【0032】
比較例1
A)触媒の調製
HZSM−5触媒を、HZSM−5(Si/Al=25、ゼオリスト社)10gを5時間、約500℃の温度で空気中で焼成することにより調製した。
B)水熱安定性の評価のための水蒸気処理
水蒸気処理を行わなかった。
C)軽質オレフィンの製造
これを実施例1と同様な方法で行った。
その結果得られた転換率、反応生成物における軽質オレフィン(エチレン及びプロピレン)への選択性、及びエチレン/プロピレンの質量比を、以下の表3に示す。
【0033】
比較例2
A)触媒の調製
HZSM−5触媒を、HZSM−5(Si/Al=25、ゼオリスト社)10gを5時間、約500℃の温度で空気中で焼成することにより調製した。
B)水熱安定性の評価のための水蒸気処理
水蒸気処理を実施例1と同様な方法で行った。
C)軽質オレフィンの製造
これを実施例1と同様な方法で行った。
その結果得られた転換率、反応生成物における軽質オレフィン(エチレン及びプロピレン)への選択性、及びエチレン/プロピレンの質量比を、以下の表3に示す。
【0034】
比較例3
A)触媒の調製
蒸留水100mLに、HZSM−5(Si/Al=25;ゼオリスト社製)10g及び濃縮リン酸(85%H3PO4)0.15gを添加した。この混合物をアンモニア水を用いてpH7ないし8に調節し、次に水が完全に蒸発するまで約50℃で攪拌した。次に減圧濾過を行い、固体生成物に分離した。分離した固体生成物を約500℃の温度で5時間空気中で焼成し、HPO4−HZSM−5触媒を調製した。
B)水熱安定性の評価のための水蒸気処理
水蒸気処理を実施例1と同様な方法で行った。
C)軽質オレフィンの製造
これを実施例1と同様な方法で行った。
その結果得られた転換率、反応生成物における軽質オレフィン(エチレン及びプロピレン)への選択性、及びエチレン/プロピレンの質量比を、以下の表3に示す。
【0035】
比較例4
A)触媒の調製
蒸留水100mLに、HZSM−5(Si/Al=25;ゼオリスト社製)10g及びL
a(NO33・xH2O1.4gを添加した。この混合物を、水が完全に蒸発するまで約
50℃で攪拌した。残っている材料を減圧濾過し、固体生成物に分離した。分離した固体生成物を500℃の温度で5時間空気中で焼成し、La−HZSM−5触媒を調製した。B)水熱安定性の評価のための水蒸気処理
水蒸気処理を実施例1と同様な方法で行った。
C)軽質オレフィンの製造
これを実施例1と同様な方法で行った。
その結果得られた転換率、反応生成物における軽質オレフィン(エチレン及びプロピレン)への選択性、及びエチレン/プロピレンの質量比を、以下の表3に示す。
【0036】
比較例5
A)触媒の調製
蒸留水100mLに、HZSM−5(Si/Al=25;ゼオリスト社製)10g及び濃縮リン酸(85%H3PO4)0.74gを添加し、そして約20分間攪拌した。該溶液にLa(NO33・xH2O1.40gを添加し、そしてこの混合物をpH7ないし8に調
節した後、約45℃の温度で20分間攪拌した。水が完全に蒸発するまで該混合物を約50℃で攪拌した後、残っている材料を減圧濾過し、固体生成物に分離した。分離した固体生成物を約500℃の温度で5時間空気中で焼成し、La−H3PO4−HZSM−5触媒を調製した。
B)水熱安定性の評価のための水蒸気処理
水蒸気処理を実施例1と同様な方法で行った。
C)軽質オレフィンの製造
これを実施例1と同様な方法で行った。
その結果得られた転換率、反応生成物における軽質オレフィン(エチレン及びプロピレン)への選択性、及びエチレン/プロピレンの質量比を、以下の表3に示す。
【0037】
比較例6
A)触媒の調製
蒸留水100mLに、HZSM−5(Si/Al=25;ゼオリスト社製)10g及び濃縮リン酸(85%H3PO4)0.55gを添加した後、約20分間攪拌した。攪拌した溶液に1.58gのMg(NO32・6H2Ogを添加し、そしてこの混合物をアンモニア
水を用いてpH7ないし8に調節し、次に約45℃の温度で約20分間攪拌した。水分を完全に蒸発するまで該混合物を約50℃で攪拌した後、減圧濾過を用いて、固体生成物に分離した。分離した固体生成物を約500℃の温度で5時間空気中で焼成し、Mg−H3
PO4−HZSM−5触媒を調製した。
B)水熱安定性の評価のための水蒸気処理
水蒸気処理を実施例1と同様な方法で行った。
C)軽質オレフィンの製造
これを実施例1と同様な方法で行った。
その結果得られた転換率、反応生成物における軽質オレフィン(エチレン及びプロピレン)への選択性、及びエチレン/プロピレン質量比を、以下の表3に示す。
【0038】
比較例7
A)触媒の調製
触媒を米国特許第6,211,104号明細書に記載された方法に従い調製した。該触媒を以下の特定の方法で調製した。蒸留水中85%リン酸及びMgCl2・6H2Oの溶液40gに、20gのNH4−ZSM5を添加し、金属イオンを入れ、続いて攪拌した。次
に、入れた分子ふるいを120℃のオーブンで乾燥し、そして最後に550℃で2時間焼成した。
B)水熱安定性の評価のための水蒸気処理
前記触媒を実施例1と同様な方法で水蒸気処理した。
C)軽質オレフィンの製造
これを実施例1と同様な方法で行った。
その結果得られた転換率、反応生成物における軽質オレフィン(エチレン及びプロピレン)への選択性、及びエチレン/プロピレンの質量比を、以下の表3に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
表3から分かるように、触媒の活性は実施例及び比較例による軽質オレフィン製造工程の間で異なる。すなわち、本発明に従う実施例1ないし10の場合、高温及び多湿の雰囲気中で水蒸気処理した(100%の水蒸気中750℃で24時間維持)触媒を使用しても、約76ないし80質量%の高い転換率、及び同時に、約33ないし37質量%のエチレン+プロピレンの合計に相当する高い選択性(エチレン/プロピレン質量比=約0.8ないし1.0)を示した。
他方、比較例1において使用した水蒸気処理がされていないHZSM−5は77.7質量%の転換率及び40.5質量%のエチレン+プロピレンの合計を示したが、比較例2おけるような苛酷な水熱雰囲気中で水蒸気処理されたHZSM−5の使用は転換率及びエチレン+プロピレンの合計がそれぞれ67.7質量%及び24.5質量%に急激な減少を示した。比較例2、3、4及び6において、転換率は約58ないし75質量%であり、及びエチレン+プロピレンの合計は20ないし30質量%であり、比較例5を除くそれらの比較例は本発明の製造工程と比較して非常に低い転換率及びオレフィン生成を示したことを指し示す。
一方、比較例5は約75.4質量%の転換率及び30.5質量%のエチレン+プロピレ
ンの合計を示した。それらの結果は、実施例1ないし9のものよりも低いことが分かり、また
水不溶性塩ではなく、水溶性金属塩である硝酸塩の使用が水熱安定性の低下をもたらすためであると推測される。
また、米国特許第6,211,104号明細書に記載された方法に従い調製した触媒の評価された反応性は本発明の方法のものより劣っていた。
上述のように、本発明の方法において、24時間、750℃で100%水蒸気雰囲気中で水熱処理された触媒の使用でさえ、C2=+C3==33ないし37%を示すのに対して、HZSM−5、P−HZSM−5、La−HZSM−5触媒の使用はC2=+C3==23ないし24%を示し、そしてLa−P−HZSM−5の使用はC2=+C3==約30%を示した。また、本発明によるオレフィン製造方法に使用される触媒を、改質する化学種の成分及び組成比を調節することは、触媒の水熱安定性を確保すると同時に、オレフィン製造方法における転換率及びC2=/C3=比を調整し得るという特徴を示す。加えて、本発明の触媒は炭素原子数2ないし12の炭化水素を含有するナフサから軽質オレフィンを製造することにおいて要求される反応活性が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0042】
上述したように、本発明によれば、水熱安定性を有する特定の触媒の使用が高温及び多湿の苛酷な工程環境においてさえ、炭化水素原料油、特にフルレンジナフサから高選択性とともに高収率で軽質オレフィンを選択的に製造するのに優れた反応性能を示す。特に、本発明の方法は従来の軽質オレフィンの製造のための熱分解温度において要求される反応温度より低い温度でさえ高い分解活性を維持することができ、従って、炭化水素原料油から高選択性及び高転換率で軽質オレフィンを製造することができるという点において、非常に有用である。
【0043】
本発明の好ましい態様が説明目的で記載されたけれども、当業者は添付の特許請求の範囲において記載された本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、簡単な変更、追加及び置き換えが可能であると理解するであろう。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素原料油から軽質オレフィンを製造するための方法であって、
(a)原料油として炭化水素留分を提供する工程;
(b)触媒の存在下で前記原料油を反応させる少なくとも1つの固定床又は流動床反応器に前記原料油を供給する工程;及び
(c)反応領域の流出物から軽質オレフィンを分離及び回収する工程
を含み、ここで前記触媒が、−Si−OH−Al−基の骨格を有する分子ふるい100質量部、水不溶性金属塩0.01ないし5.0質量部、及びリン酸化合物0.05ないし17.0質量部を含む原料混合物の水分蒸発によって得られる生成物からなるところの方法。
【請求項2】
前記原料油がフルレンジナフサ又はケロシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原料油が炭素原子数2ないし15の炭化水素を含有するナフサである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記原料油中のパラフィン成分(n−パラフィン及びイソ−パラフィン)の総含有量が60ないし90質量%であり、及び該原料油中のオレフィン含有量が20質量%未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記段階(c)における軽質オレフィンの分離及び回収後に残った炭素原子数4ないし5の炭化水素をナフサと混合し、原料油として炭素原子数4ないし5の炭化水素/ナフサの混合物を提供する段階をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記反応器が流動床反応器である場合、前記反応が500ないし750℃の温度、0.01ないし10の炭化水素/水蒸気の質量比、1ないし50の触媒/炭化水素の質量比、及び0.1ないし600秒の炭化水素滞留時間で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記反応器が固定床反応器である場合、前記反応が500ないし750℃の温度、0.01ないし10の炭化水素/水蒸気の質量比、及び0.1ないし20h-1の空間速度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒が750℃、100%水蒸気の雰囲気における24時間の水蒸気処理後に使用される場合、反応領域の流出物中のエチレン及びプロピレンの総含有量が30質量%より多く、及びエチレン/プロピレンの質量比が0.25ないし1.5である、請求項1記載の方法。


【図1】
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【公表番号】特表2009−511658(P2009−511658A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534433(P2008−534433)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【国際出願番号】PCT/KR2006/002276
【国際公開番号】WO2007/043741
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(507268341)エスケー エナジー 株式会社 (57)
【氏名又は名称原語表記】SK ENERGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】99, Seorin−dong, Jongro−gu, Seoul, 110−110 Republic of Korea
【出願人】(508032767)コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジー (1)
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF CHEMICAL TECHNOLOGY
【Fターム(参考)】