説明

炭化水素油の流動接触分解触媒

【課題】ガソリン及び中間留分が高収率で得られると共に、高ボトム分解、低コーク収率である炭化水素油の流動接触分解触媒を提供する。
【解決手段】ゼオライトと、活性マトリックス成分及び不活性マトリックス成分からなる無機酸化物マトリックスとを含有する触媒組成物を2種以上混合した炭化水素油の流動接触分解触媒であって、各触媒組成物は、ゼオライトの含有量がそれぞれ異なっていることを特徴とする炭化水素油の流動接触分解触媒。ゼオライトと、活性マトリックス成分及び不活性マトリックス成分からなる無機酸化物マトリックスとを含有する触媒組成物を2種以上混合した炭化水素油の流動接触分解触媒であって、各触媒組成物は、前記活性マトリックス成分の含有量がそれぞれ異なっていることを特徴とする炭化水素油の流動接触分解触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリン及び中間留分(Light Cycle Oil。以下、「LCO」ともいう)が
高収率で得られると共に、低コーク収率である炭化水素油の流動接触分解触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化水素の流動接触分解には、ゼオライトと、無機酸化物マトリックスとを混合した混合物を噴霧乾燥して得られた流動接触分解触媒が使用されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開2006−142273号公報
【特許文献2】特開2004−130169号公報
【特許文献3】特開2001−212462号公報
【特許文献4】特開平11−188264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の流動接触分解触媒では、高ガソリン収率、高中間留分収率、低コーク収率のいずれをも満たす触媒が開発されていないという問題があった。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、ガソリン及び中間留分が高収率で得られると共に、選択性が高く、低コーク収率である炭化水素油の流動接触分解触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような状況のもと、上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討した結果、その理由として、ゼオライトや活性マトリックス成分の量によって、上記特性が大きく変化することを見出した。
【0005】
そして、ゼオライトや活性マトリックス成分の量が異なる2種以上の触媒組成物を使用することによって、ガソリン及び中間留分の収率を高くすると共に、重質留分(Heavy Cycle Oil。以下、「HCO」ともいう)、コーク成分、及び、ドライガスの量を低減でき
ることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]ゼオライトと、活性マトリックス成分及び不活性マトリックス成分からなる無機酸化物マトリックスとを含有する触媒組成物を、2種以上混合した炭化水素油の流動接触分解触媒であって、
各触媒組成物は、ゼオライトの含有量がそれぞれ異なっている(ただし、一方の触媒組成物は、ゼオライトの含有量が0の場合を含む)ことを特徴とする炭化水素油の流動接触分解触媒。
[2]前記触媒組成物は、前記ゼオライトの含有量が0〜80質量%である[1]の炭化水素油の流動接触分解触媒。
[3]2種以上の触媒組成物において、ゼオライトの含有量が最少である触媒組成物と、ゼオライトの含有量が最多である触媒組成物との、ゼオライトの含有量の差が1〜80質量%である[1]又は[2]の炭化水素油の流動接触分解触媒。
[4]2種以上の触媒組成物において、配合量が最少である触媒組成物と、配合量が最多である触媒組成物との質量比が1/9〜9/1である[1]〜[3]の炭化水素油の流動接触分解触媒。
[5]各触媒組成物は、活性マトリックス成分の含有量が同一であり、かつ、ゼオライト
と不活性マトリックス成分との合計の含有量が一定である[1]〜[4]の炭化水素油の流動接触分解触媒。
[6]不活性マトリックス成分が粘土鉱物である[5]の炭化水素油の流動接触分解触媒。
[7]ゼオライトと、活性マトリックス成分及び不活性マトリックス成分からなる無機酸化物マトリックスとを含有する触媒組成物を2種以上混合した炭化水素油の流動接触分解触媒であって、
各触媒組成物は、前記活性マトリックス成分の含有量がそれぞれ異なっている(ただし、一方の触媒組成物は、活性マトリックス成分の含有量が0の場合を含む)ことを特徴とする炭化水素油の流動接触分解触媒。
[8]前記触媒組成物は、前記活性マトリックス成分の含有量が0〜50質量%である[7]の炭化水素油の流動接触分解触媒。
[9]2種以上の触媒組成物において、活性マトリックス成分の含有量が最少である触媒組成物と、活性マトリックス成分の含有量が最多である触媒組成物との、活性マトリックス成分の含有量の差が1〜50質量%である[7]又は[8]の炭化水素油の流動接触分解触媒。
[10]2種以上の触媒組成物において、配合量が最少である触媒組成物と、配合量が最多である触媒組成物との質量比が1/9〜9/1である[7]〜[9]の炭化水素油の流動接触分解触媒。
[11]各触媒組成物は、ゼオライトの含有量が同一で、活性マトリックス成分と不活性マトリックス成分の合計の含有量が一定である[7]〜[10]の炭化水素油の流動接触分解触媒。
[12]不活性マトリックス成分が粘土鉱物である[11]の炭化水素油の流動接触分解触媒。
【発明の効果】
【0007】
本発明の炭化水素油の流動接触分解触媒では、ゼオライトと、活性マトリックス成分及び不活性マトリックス成分からなる無機酸化物マトリックスからなり、ゼオライトまたは活性マトリックス成分の量がそれぞれ異なる2種以上の組成物が混合されているので、単に単独の触媒組成物から成るものと比べて、炭化水素油からの接触分解における選択性が高まり、ガソリン及び中間留分が高収率で得られ、また、コークが低収率となり、更には、ボトムの分解能を高く、すなわち、重質留分の収率を低くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の一実施の形態に係る炭化水素油の流動接触分解触媒は、ゼオライトと、活性マトリックス成分及び不活性マトリックス成分からなる無機酸化物マトリックスとを含有し、ゼオライト、または、活性マトリックス成分の含有量が異なる2種以上の触媒組成物を組み合わせたものである。
【0009】
[第1態様:ゼオライトの含有量が異なる2種以上の触媒組成物]
本発明に係る第1態様は、ゼオライトの含有量が異なる2種以上の触媒組成物を組み合わせた炭化水素油の流動接触分解触媒である。
【0010】
<触媒組成物の構成>
(a)各成分
ゼオライトとしては、通常、炭化水素油の接触分解触媒に使用されるゼオライトを用いることが可能で、例えば、フォージャサイト、ゼオライトA、ZSM、モルデナイトなどが挙げられ、特にY型ゼオライト、超安定化Y型ゼオライト(以下、「USY」ともいう)が好適である。また、ゼオライトは、後述する希土類金属をイオン交換させてもよい。
【0011】
無機酸化物マトリックスとしては、触媒活性を有するマトリックス成分と、活性のない不活性マトリックス成分とからなる。
活性マトリックス成分としては、活性アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、アルミナ−マグネシア、シリカ−マグネシア−アルミナ等の固体酸を有する物質が挙げられる。なお、固体酸とは、触媒が使用される温度領域において固体酸性を示すものであり、固体酸性の確認は、アンモニアを用いた昇温脱離法や、アンモニア又はピリジンを用いる in situ FTIR(フーリエ変換赤外線吸収スペクトル)法によりなされる。
【0012】
不活性マトリックス成分としては、固体酸を有さない物質が挙げられ、通常、粘土鉱物、メタルトラップ剤、バインダー等がある。なお、これらの物質で固体酸を有するものは、活性マトリックス成分として扱う。ここで、粘土鉱物としては、カオリン、ハロイサイトなどが使用され、カオリンがより好適である。メタルトラップ剤としては、アルミナ粒子、リン−アルミナ粒子、結晶性カルシウムアルミネート、セピオライト、チタン酸バリウム、スズ酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化マンガン、マグネシア、マグネシア−アルミナなどが例示される。バインダーとしては、シリカバインダー、アルミナバインダーなどが挙げられる。
【0013】
本発明では、シリカゾルなどのシリカ系結合剤(シリカバインダー)や、塩基性塩化アルミニウム等のアルミナバインダーを含んでいてもよい。シリカバインダーとしては、シリカゾルの他に、ナトリウム型、リチウム型、酸型等のコロイダルシリカも使用することができる。このうちシリカゾルが好適である。アルミナバインダーとしては、塩基性塩化アルミニウムの他に、ジブサイト、バイアライト、ベーマイト、ベントナイト、結晶性アルミナなどを酸溶液中に溶解させた粒子や、ベーマイトゲル、無定形のアルミナゲルを水溶液中に分散させた粒子、あるいはアルミナゾルも使用することができる。
【0014】
触媒組成物には、希土類金属がイオン交換されてもよい。希土類金属としては、例えば、セリウム(Ce)、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、及びネオジム(Nd)等が挙げられる。これらは単独ないし2種以上の金属酸化物としてもよい。これらは、ゼオライトにイオン交換されてもよい。希土類金属を含むことで、ゼオライトの耐水熱性が向上するという作用効果が奏せられる。
【0015】
(b)組成
本発明では、ゼオライトの含有量の異なるものを2種以上使用するが、触媒組成物中にゼオライトが、触媒組成物100質量%中に0〜80質量%、好ましくは5〜60質量%の範囲で含有されているものが望ましい。なお、一方の触媒組成物にゼオライトが含まれていれば、他方にはゼオライトは必ずしも含まれていなくとも良い。
【0016】
組み合わせる2種以上の触媒組成物におけるゼオライトの含有量が最少である触媒組成物と、ゼオライトの含有量が最多である触媒組成物との、ゼオライトの含有量の差が1〜80質量%、好ましくは差が5〜60質量%であることが望ましい。ゼオライトの含有量の差が前記範囲にあるものを2種以上組み合わせることで、選択性が高くなり、従来のものでは達成が困難であった、重質留分や、コーク成分が少なく、ガソリンおよび軽質油成分(中間留分)の量が多い流動接触分解触媒が得られる。
【0017】
2種以上の触媒組成物において、配合量が最少である触媒組成物と、配合量が最多である触媒組成物との質量比が1/9〜9/1、好ましくは1/4〜4/1の範囲にあることが望ましい。
【0018】
ここで、各触媒組成物の質量割合が所定範囲を外れると、2種以上混合する効果が乏しくなり、各触媒組成物を単独で、流動接触分解に用いた場合との差異が小さくなり、明確
な効果が得られ難くなる。なお、各触媒組成物の混合割合は、原料炭化水素油の組成や、分解して得られる分解生成物の組成の組成に応じて適宜選択することが望ましい。
【0019】
本発明では各触媒組成物は、活性マトリックス成分の含有量が同一であり、かつ、ゼオライトと不活性マトリックス成分との合計の含有量が一定であることが望ましい。
各触媒組成物には、希土類金属を含む場合、RE23として、10.0質量%以下、好ましくは0.5〜5.0質量%となるように含まれていることが望ましい。ここで、各触媒組成物は、RE23/ゼオライト質量比が一定となるように、RE23の添加をそれぞれ調整してもよい。
【0020】
また、各触媒組成物がメタルトラップ剤を含む場合、その含有量は、各組成物中に0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲にあることが望ましい。
バインダーの含有量は、各組成物中に30質量%以下、好ましくは5〜25質量%であることが望ましい。
【0021】
<流動接触分解触媒の調製方法>
本発明に係る流動接触分解触媒は、まず、ゼオライト量の異なる2種以上の触媒組成物を調製したのち、公知の方法で混合することで製造される。
【0022】
触媒組成物の製造方法の一例を以下に示す。まず、SiO2濃度が12〜23質量%の
水ガラスと、濃度20〜30質量%の硫酸とを同時に連続的に加えて、SiO2濃度が1
0〜15質量%のシリカゾルバインダーを調製する。
【0023】
このシリカゾルバインダーに粘土鉱物(カオリン等)、メタルトラップ剤、及び活性マトリックス成分(活性アルミナ)を加え、更に20〜30質量%の硫酸でpH3〜5に調製した超安定化Y型ゼオライト(USY)などのゼオライトスラリーを加えて、混合スラリーを調製する。この混合スラリーを噴霧乾燥して球状粒子を得る。得られた球状粒子を洗浄し、更に希土類金属(Rare Earth。RE)塩化物の水溶液と接触させて、RE23の量が所定量となるようにイオン交換した後、乾燥して、触媒組成物を得る。このとき、ゼオライト量が所定量となるように2種以上の触媒組成物を調製する。
【0024】
アルミナバインダーを使用する場合は、シリカゾルバインダーの代りに、またはシリカゾルバインダーとともに前記したような塩基性塩化アルミニウム、ジブサイトなどを酸溶液中に溶解させた粒子や、ベーマイトゲル、アルミナゲル、アルミナゾルを使用すればよい。
【0025】
なお、得られた触媒組成物の平均粒子径は、特に制限されないが、通常50〜100μmである。
こうして調製されたゼオライト量の異なる2種以上の触媒組成物を、ドクターブレードやミキサー、ブレンダーなど公知の方法で混合すれば、本発明の流動接触分解触媒が調製される。
【0026】
<流動接触分解触媒の物性>
本発明にかかる流動接触分解触媒の平均粒子径は、流動接触分解に一般的に使用されるものと同じでよく、50〜100μmの範囲であることが好ましい。また、比表面積(SA)は、70〜300m2/gの範囲にあり、全細孔容積(PV)は、0.10ml/g
以上、さらに好ましくは0.15〜0.35ml/gの範囲にあり、細孔直径(PD)500〜2000Å範囲の細孔が占める細孔容積(pvd)が、全細孔容積の40%以上、
好ましくは50%以上であることが望ましい。なお、上記比表面積は、BET法により測定された値であり、細孔容積(PV、pvd)は、水銀圧入法により測定された値である

【0027】
流動接触分解触媒の比表面積が小さすぎ、全細孔容積が小さすぎる場合には、所望の分解反応活性が得られないことがある。また、炭化水素油の接触分解においては、触媒の細孔は反応面からは、細孔直径が100オングストローム(Å)より大きい方が反応物の拡散性がよくなるので望ましいが、細孔直径が2000オングストローム(Å)より大きい細孔は、触媒の耐摩耗性を悪くすることがあるので少ない方が望ましい。
【0028】
さらに、触媒の耐摩耗性(Attrition Resistance)は、触媒化成技報 Vol.13、No.1、P65、1996に記載された方法により測定される耐摩耗性指数(CCIC Attrition Index。CAI)が6以下であることが望ましい。
【0029】
ここで、耐摩耗性指数は、平均摩耗率に時間(30hr)を乗じたものであり、平均摩耗率および耐摩耗性指数は、下記式で表される。
平均摩耗率(wt%/hr)=[12〜24時間の微粒子(Dry g)]/[試料量(45g)×30]×100
耐摩耗性指数=[12〜48時間の微粒子(Dry g)]/試料(45g)×100
耐摩耗性指数の「6」は実機での経験則であり、該指数が「6」以下となるのは、12〜48時間の微粒子が、2.7g以下の場合となる。
【0030】
ここで、耐摩耗性指数が6を超えると、触媒が使用時に粉化して、触媒の損失、流動接触分解装置のトラブル、触媒粉の製品(特に、HCO)への混入等が起こることがある。
なお、本発明では、2種以上の触媒組成物から流動接触分解触媒が構成されるが、触媒組成物の物性は、結果として得られる流動接触分解触媒の物性が前記範囲となれば特に制限されないが、通常、触媒組成物の物性が、流動接触分解の同程度となるように、触媒組成物を調製しておくことが望ましい。
【0031】
[第2態様:活性マトリックス成分の含有量が異なる2種以上の触媒組成物]
本発明に係る第2の態様は、活性マトリックス成分の含有量が異なる2種以上の触媒組成物を組み合わせた炭化水素油の流動接触分解触媒である。
【0032】
<触媒組成物の構成>
(a)各成分
触媒組成物を構成するゼオライト、無機酸化物マトリックス、およびその他の成分は、前記したとおりである。
(b)組成
本発明では、活性マトリックス成分の含有量の異なるものを2種以上使用するが、触媒組成物中に活性マトリックス成分が、触媒組成物100質量%中に0〜50質量%、好ましくは0.1〜20質量%の範囲で含有されているものが望ましい。なお、一方の触媒組成物に活性マトリックス成分が含まれていれば、他方には活性マトリックス成分は必ずしも含まれていなくとも良い。
【0033】
組み合わせる2種以上の触媒組成物における活性マトリックス成分の含有量が最少である触媒組成物と、活性マトリックス成分の含有量が最多である触媒組成物との活性マトリックス成分の含有量の差が1〜50質量%、好ましくは2〜30質量%、より好ましくは2〜20質量%であることが望ましい。活性マトリックス成分の含有量の差が前記範囲にあるものを2種以上組み合わせることで、選択性が高くなり、従来のものでは達成が困難であった、重質留分や、コーク成分が少なく、ガソリンおよび軽質油成分量が多い流動接触分解触媒が得られる。
【0034】
2種以上の触媒組成物において、配合量が最少である触媒組成物と、配合量が最多であ
る触媒組成物との質量比が1/9〜9/1、好ましくは1/4〜4/1の範囲にあることが望ましい。
【0035】
ここで、各触媒組成物の質量割合が所定範囲を外れると、2種以上混合する効果が乏しくなり、各触媒組成物を単独で、流動接触分解に用いた場合との差異が小さくなり、明確な効果が得られ難くなる。
【0036】
本発明では各触媒組成物は、ゼオライトの含有量が同一であり、かつ、活性マトリックス成分と不活性マトリックス成分との合計の含有量が一定であることが望ましい。
触媒組成物には、希土類金属を含む場合、RE23として、10.0質量%以下、好ましくは0.5〜5.0質量%となるように含まれていることが望ましい。
【0037】
また、メタルトラップ剤を含む場合、その含有量は、組成物中に0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲にあることが望ましい。
バインダーの含有量は、組成物中に30質量%以下、好ましくは5〜25質量%であることが望ましい。
なお、各触媒組成物の混合割合は、原料炭化水素油の組成や、分解して得られる分解生成物の組成の組成に応じて適宜選択することが望ましい。
【0038】
<流動接触分解触媒の調製方法>
本発明に係る流動接触分解触媒は、まず、活性マトリックス成分量の異なる2種以上の触媒組成物を調製したのち、公知の方法で混合することで製造される。
【0039】
具体的には第2態様における触媒組成物の製造方法は、前記第1の態様と、組成比を変更する以外は同様である。得られた触媒組成物の平均粒子径は、特に制限されない。
こうして調製された活性マトリックス成分量の異なる2種以上の触媒組成物を、第1態
様と同様に公知の方法で混合すれば、本発明の流動接触分解触媒が調製される。
【0040】
<流動接触分解触媒の物性>
本発明にかかる第2態様の流動接触分解触媒の物性は、前記第1態様の物性と同様である。
【0041】
[流動接触分解触媒の使用]
本発明の流動接触分解触媒を使用した流動接触分解においては、通常の炭化水素油の流動接触分解条件を採用することができ、例えば以下に述べる条件が好適に採用できる。接触分解に使用される原料油としては、通常の炭化水素原料油を用いることができ、また減圧蒸留軽油を用いることも可能であるが、特に常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油等の重質残渣油、あるいはそれらを水素化処理した重質残渣油等が好適に使用される。
【0042】
また、前述の炭化水素原料油を接触分解する際の反応温度は470〜550℃の範囲が好適に採用され、反応圧力は一般的にはおよそ1〜3kg/cm2の範囲が好適であり、
触媒/油の重量比は2.5〜9.0の範囲が好ましく、さらに接触時間は10〜60hr-1の範囲が好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
[製造例1]
<触媒組成物a>
SiO2濃度が17質量%の水ガラス2941gと、濃度25質量%の硫酸1059g
とを同時に連続的に加えて、SiO2濃度が12.5質量%のシリカゾル(バインダー。
不活性マトリックス成分の一例)4000gを調製した。このシリカゾルに乾燥基準でカオリン(粘土鉱物。不活性マトリックス成分の一例)1163g、活性アルミナ(活性マトリックス成分の一例)200g、及び、酸化マンガン(メタルトラップ剤。不活性マトリックス成分の一例)25gを加え、更に硫酸でpH3.9に調製した超安定化Y型ゼオライト(USY。ゼオライトの一例)の25質量%スラリー2200gを加えて混合スラリーを調製した。この混合スラリーを噴霧乾燥して平均粒子径65μmの球状粒子を得た。
【0044】
得られた球状粒子を洗浄し、更に希土類金属(Rare Earth。RE。不活性マトリックス成分の一例)塩化物の水溶液と接触させて、RE23/ゼオライト質量比が一定(本実施例では0.091)となるように、すなわち、RE23として2.0質量%となるようにイオン交換した後、135℃の乾燥機で乾燥して、シリカ型触媒組成物aを調製した。ここで、希土類金属塩化物水溶液には、希土類金属として、セリウム(Ce)、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、及びネオジム(Nd)等の1種又は2種以上の希土類元素の塩化物が含まれている(以下、同様である)
触媒組成物aの組成は、シリカゾル由来のSiO2が20質量%、カオリンが47質量
%、活性アルミナが8質量%、USYが22.0質量%、酸化マンガン(Mn23)が1質量%、RE23が2.0質量%であった。表1に触媒組成物aの性状を示す。
【0045】
<触媒組成物b〜e>
カオリンと超安定化Y型ゼオライト(USY)の量比を、表1に示すようにした以外は上記と同様にして、触媒組成物b〜eを調製した。なお、触媒組成物a〜eは、活性マトリックス成分(活性アルミナ)の含有量が同一であり、かつ、ゼオライト(USY)と不活性マトリックス成分(カオリン、シリカゾルバインダー、酸化マンガン、RE23)との合計の含有量が一定である。ここで、表1に触媒組成物b〜eの性状を示す。なお、比表面積は、比表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製、マルチソーブ16)で測定し、細孔容積は、細孔分布測定装置(QuantaCrome社製、PM−33GT1LP)で測定した(以下の実施例についても同様である)。
【0046】
【表1】

[実施例1〜4]
触媒組成物a〜eを表2の配合となるように混合した。得られた流動接触分解触媒について、FCC触媒評価装置(ケイザー社製、ACE−MAT モデルR+)を用い、同一
まず、反応試験前に、流動接触分解触媒に、質量基準でオクチル酸バナジウムがVとして4000質量ppm、また、オクチル酸ニッケルがNiとして2000質量ppm含有されるようにサイクリックメタルデポジション(cyclic metal deposition。CMD)法
により前処理を行った。ここで、CMD法とは、少量のバナジウム及びニッケルを流動接触分解触媒に含浸することと、高温で流動接触分解触媒を再生することを繰り返して、流動接触分解触媒にバナジウム及びニッケルを目的濃度となるまで堆積させた後、400〜800℃の高温で酸化還元を繰り返す方法であり、商業規模で使用される流動接触分解装置を模したものである。
【0047】
[比較例1〜5]
実施例1〜4において、触媒組成物を組み合わせることなく、前記触媒組成物a〜eをそのまま流動接触分解触媒として用いて、実施例1〜4と同様にして、流動接触分解を行った。表2に反応結果を示す。
【0048】
以下の反応条件により流動接触分解を行った。表2に反応結果を示す。
反応温度:520℃
再生温度:700℃
原料油:脱硫常圧残渣油(DSAR)
触媒/油比:7質量%/質量%
但し、
・転化率(質量%)=(A−B)/A×100
A:原料油の重量
B:生成油中の216℃以上の留分の重量
・水素(質量%)=C/A×100
C:生成ガス中の水素の重量
・C1+C2(質量%)=D/A×100
D:生成ガス中のC1(メタン)、C2(エタン、エチレン)の重量
・LPG(液化石油ガス、質量%)=E/A×100
E:生成ガス中のプロパン、プロピレン、ブタン、ブチレンの重量
・ガソリン(質量%)=F/A×100
F:生成油中のガソリン(沸点範囲:C5〜216℃)の重量
・LCO(質量%)=G/A×100
G:生成油中のライトサイクルオイル(沸点範囲:216〜343℃)の重量
・HCO(質量%)=H/A×100
H:生成油中のヘビーサイクルオイル(沸点範囲:343℃以上)の重量
・コーク(質量%)=I/A×100
I:触媒混合物上に析出したコーク重量
【0049】
【表2】

[製造例2]
<触媒組成物f〜j>
表3の組成となるように、カオリン、活性アルミナ、超安定化Y型ゼオライト(USY)の量比を変えた以外は製造例1と同様にして、触媒組成物f〜j調製した。表3に触媒組成物f〜jの性状を示す。なお、触媒組成物hは、製造例1の触媒組成物cと実質的に同じである。
【0050】
[実施例5〜8]
触媒組成物f〜jを表3の配合となるように混合した。得られた流動接触分解触媒について、実施例1〜4と同様にして、流動接触分解を行った。表4に反応結果を示す。
【0051】
[比較例6〜10]
実施例5〜8において、触媒組成物を組み合わせることなく、前記触媒組成物f〜jをそのまま流動接触分解触媒として用いて、実施例1〜4と同様にして、流動接触分解を行った。表4に反応結果を示す。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

表2および表4に示すように、実施例の触媒は、「ガソリン」及び「LCO」が高収率で得られると共に、「HCO」及び「コーク」が低収率となった。
【0054】
本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の炭化水素油の流動接触分解触媒を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【0055】
例えば、前記実施の形態の炭化水素油の流動接触分解触媒において、シリカゾルバインダーの代りに、またはシリカゾルバインダーとともにアルミナバインダー等の結合剤を使用してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトと、活性マトリックス成分及び不活性マトリックス成分からなる無機酸化物マトリックスとを含有する触媒組成物を、2種以上混合した炭化水素油の流動接触分解触媒であって、
各触媒組成物は、ゼオライトの含有量がそれぞれ異なっている(ただし、一方の触媒組成物は、ゼオライトの含有量が0の場合を含む)ことを特徴とする炭化水素油の流動接触分解触媒。
【請求項2】
前記触媒組成物は、前記ゼオライトの含有量が0〜80質量%であることを特徴とする請求項1記載の炭化水素油の流動接触分解触媒。
【請求項3】
2種以上の触媒組成物において、ゼオライトの含有量が最少である触媒組成物と、ゼオライトの含有量が最多である触媒組成物との、ゼオライトの含有量の差が1〜80質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化水素油の流動接触分解触媒。
【請求項4】
2種以上の触媒組成物において、配合量が最少である触媒組成物と、配合量が最多である触媒組成物との質量比が1/9〜9/1であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭化水素油の流動接触分解触媒。
【請求項5】
各触媒組成物は、活性マトリックス成分の含有量が同一であり、かつ、ゼオライトと不活性マトリックス成分との合計の含有量が一定であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭化水素油の流動接触分解触媒。
【請求項6】
不活性マトリックス成分が粘土鉱物であることを特徴とする請求項5記載の炭化水素油の流動接触分解触媒。
【請求項7】
ゼオライトと、活性マトリックス成分及び不活性マトリックス成分からなる無機酸化物マトリックスとを含有する触媒組成物を2種以上混合した炭化水素油の流動接触分解触媒であって、
各触媒組成物は、前記活性マトリックス成分の含有量がそれぞれ異なっている(ただし、一方の触媒組成物は、活性マトリックス成分の含有量が0の場合を含む)ことを特徴とする炭化水素油の流動接触分解触媒。
【請求項8】
前記触媒組成物は、前記活性マトリックス成分の含有量が0〜50質量%であることを特徴とする請求項7記載の炭化水素油の流動接触分解触媒。
【請求項9】
2種以上の触媒組成物において、活性マトリックス成分の含有量が最少である触媒組成物と、活性マトリックス成分の含有量が最多である触媒組成物との、活性マトリックス成分の含有量の差が1〜50質量%であることを特徴とする請求項7又は8に記載の炭化水素油の流動接触分解触媒。
【請求項10】
2種以上の触媒組成物において、配合量が最少である触媒組成物と、配合量が最多である触媒組成物との質量比が1/9〜9/1であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の炭化水素油の流動接触分解触媒。
【請求項11】
各触媒組成物は、ゼオライトの含有量が同一で、活性マトリックス成分と不活性マトリックス成分の合計の含有量が一定であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の炭化水素油の流動接触分解触媒。
【請求項12】
不活性マトリックス成分が粘土鉱物であることを特徴とする請求項11記載の炭化水素油の流動接触分解触媒。

【公開番号】特開2010−110698(P2010−110698A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285465(P2008−285465)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】