説明

炭化水素系共重合体およびその製造方法、並びに成形体

【課題】透明性、耐熱性および成形性の高い炭化水素系共重合体および成形体を提供する。
【解決手段】2−ノルボルネンやテトラシクロドデセンなどのノルボルネン誘導体と、N−シクロヘキシルマレイミドなどのN−シクロアルキルマレイミド、N−メチルマレイミドやN−エチルマレイミドなどのN−アルキルマレイミドまたはN−フェニルマレイミドなどのN−アリールマレイミドとを共重合してなる数平均分子量が5×104〜5×106の範囲である炭化水素系共重合体。該炭化水素系共重合体を成形してフィルムなどの成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系共重合体およびその製造方法、並びに成形体に関する。より詳細に、本発明は、無色透明で、ノルボルネン誘導体とN−置換型マレイミドとを共重合してなる数平均分子量が5×104〜5×106の範囲である炭化水素系共重合体およびその製造方法、並びにかかる炭化水素系共重合体からなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン誘導体を重合することによって得られる炭化水素系重合体は、透明性、耐熱性が高く、各種成形体(特に光学フィルム用途)への利用が期待されている。
【0003】
このうち、ノルボルネンを、電子求引性の置換基を持つ他のモノマー、例えば、無水マレイン酸やN−置換型マレイミドなどと共重合することによる炭化水素系共重合体の製造も検討されている(非特許文献1参照)。しかしながら、かかる炭化水素系共重合体は、数平均分子量が10000未満であり、成形性が低いものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Shenyang Huagong Xueyuan Xuebao, 15(3), 161-165(2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかして、本発明の目的は、透明性、耐熱性および成形性に優れる炭化水素系共重合体およびその製造方法、並びにかかる炭化水素系共重合体からなる成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定構造のノルボルネン誘導体と特定構造のN−置換型マレイミドとを、数平均分子量が特定の範囲となるように共重合してなる炭化水素系共重合体を見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のものを包含する。
〔1〕一般式(1)で示されるノルボルネン誘導体と一般式(2)で示されるN−置換型マレイミドとを共重合してなる数平均分子量が5×104〜5×106の範囲である炭化水素系共重合体。
【0008】
【化1】

(式(1)中、R1〜R12は、それぞれ独立して水素原子または炭化水素基を示す。R9またはR10とR11またはR12とは互いに環を形成していてもよい。nは0または1である。)
【0009】
【化2】

(式(2)中、R13は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜20の環状アルキル基、または炭素数6〜20のアリール基を示す。)
【0010】
〔2〕ガラス転移温度が250〜400℃の範囲である前記〔1〕の炭化水素系共重合体。
〔3〕上記[1]または[2]の炭化水素系共重合体からなる成形体。
〔4〕一般式(1)で示されるノルボルネン誘導体と一般式(2)で示されるN−置換型マレイミドとを、ルイス酸またはブレンステッド酸の存在下に共重合することを含む上記〔1〕または〔2〕に記載の炭化水素系共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の炭化水素系共重合体は、透明性、耐熱性および成形性に優れる。本発明に係る炭化水素系共重合体は、公知の成形方法によって、フィルム、シート、板、容器などの任意の形状の成形体を提供できる。かかる本発明の成形体は、例えば、透明導電性薄膜を積層させるための基材などとして有用である。具体的には、タッチパネル、太陽電池、フラットパネルディスプレイ(液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンス)などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られた炭化水素系共重合体の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られた炭化水素系共重合体のDSC曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の炭化水素系共重合体は、特定構造のノルボルネン誘導体と特定構造のN−置換型マレイミドとを共重合してなる。
本発明で用いられるノルボルネン誘導体は、式(1)で表される化合物である。式(1)中のR1〜R12は、それぞれ独立して水素原子または炭化水素基を示す。かかる炭化水素基としては、炭素数1〜8の飽和炭化水素基が好ましい。炭素数1〜8の飽和炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。R1〜R12はそれぞれ1種であっても複数種であってもよい。
【0014】
式(1)中のR9またはR10とR11またはR12とは互いに繋がって環を形成していてもよい。
かかるR9またはR10とR11またはR12とが環を形成しているノルボルネン誘導体の具体例としては、ジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4,8−ジエン)やトリシクロ[4.3.12,5.0]デカ−3−エンが挙げられる。
【0015】
本発明で用いられるノルボルネン誘導体の具体例としては、2−ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5,6−ジメチルノルボルネン、1−メチルノルボルネン、7−メチルノルボルネン、5,5,6−トリメチルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、5−ベンジルノルボルネン、5−エチリデンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、トリシクロ[4.3.12,5.0]デカ−3−エン、トリシクロ[4.4.12,5.0]ウンダ−3−エン、テトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセンなどが挙げられる。これらのうち、2−ノルボルネンが好ましい。
【0016】
本発明で用いられるN−置換型マレイミドは、式(2)で表される化合物である。式(2)中のR13は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜20の環状アルキル基、または炭素数6〜20のアリール基を示す。
炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。
【0017】
炭素数3〜20の環状アルキル基としては、1つ以上の置換基を有していてもよい炭素数3〜8の環状アルキル基が好ましい。炭素数3〜8の環状アルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。かかる炭素数3〜8の環状アルキル基が有していてもよい置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などのアルキル基が挙げられる。
【0018】
炭素数6〜20のアリール基としては、1つ以上の置換基を有していてもよい炭素数6〜14のアリール基が好ましい。炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。かかる炭素数6〜14のアリール基が有していてもよい置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などのアルキル基;フェニル基などのアリール基;ベンジル基などのアラルキル基が挙げられる。
13は1種であっても複数種であってもよい。
【0019】
本発明で用いられるN−置換型マレイミドの具体例としては、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミドなどのN−アルキルマレイミド;N−シクロヘキシルマレイミド、N−シクロペンチルマレイミド、N−ノルボルニルマレイミド、N−シクロヘキシルメチルマレイミド、N−シクロペンチルメチルマレイミドなどのN−シクロアルキルマレイミド;N−フェニルマレイミド、N−クロロフェニルマレイミド、N−メチルフェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−メトキシフェニルマレイミド、N−カルボキシフェニルマレイミド、N−ニトロフェニルマレイミド、N−トリブロモフェニルマレイミドなどのN−アリールマレイミドなどが挙げられる。これらのうち、耐候性の観点から、N−シクロアルキルマレイミド、N−アルキルマレイミドが好ましく、耐熱性の観点から、N−シクロアルキルマレイミドがさらに好ましく、N−シクロヘキシルマレイミドが特に好ましい。
【0020】
本発明の炭化水素系共重合体は、数平均分子量が5×104〜5×106の範囲であり、成形性、製造の容易性などの観点から1×105〜1×106の範囲であることが好ましい。かかる数平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィーを用いて標準ポリスチレンで作成した検量線に基づいて測定した換算値である。
【0021】
本発明の炭化水素系共重合体の重量平均分子量は、上記数平均分子量の測定と同時に測定できる。分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.0〜3.0の範囲が好ましく、1.2〜2.5の範囲がより好ましい。
【0022】
本発明の炭化水素系共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体などであってもよいが、得られる炭化水素系共重合体の均質性、製造の容易性などの観点から、ランダム共重合体、交互共重合体が好ましい。
【0023】
本発明の炭化水素系共重合体のガラス転移温度は250〜400℃の範囲であることが好ましく、300〜370℃の範囲であることがより好ましい。また、TG−DTAによって測定される5%重量減少温度は300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。
【0024】
本発明の炭化水素系共重合体の製造において、共重合に供するN−置換型マレイミドはノルボルネン誘導体の0.1〜10モル倍の範囲で用いることが好ましく、0.25〜1.5モル倍の範囲で用いることがより好ましい。本発明の効果を損なわない範囲で他のモノマーを共重合してもよい。かかる他のモノマーの使用量はノルボルネン誘導体とN−置換型マレイミドの合計量の5質量%以下であることが好ましい。
本発明の炭化水素系共重合体の製造において使用し得る他のモノマーとしては、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3,5−ジメチルシクロペンテン、3−クロロシクロペンテン、シクロへキセン、3−メチルシクロへキセン、4−メチルシクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロヘキセン、3−クロロシクロヘキセン、シクロへプテン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロへキサジエン、1,4−シクロへキサジエン、5−エチル−1,3−シクロへキサジエン、1,3−シクロへプタジエン、1,3−シクロオクタジエンなどの脂環式不飽和炭化水素;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン;スチレンなどの芳香族ビニル化合物;無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなどのエチレン性カルボン酸化合物またはその誘導体などが挙げられる。
【0025】
本発明の炭化水素系共重合体の製造において、ノルボルネン誘導体とN−置換型マレイミドの重合反応は、工業的製造の容易性からラジカル重合であることが好ましい。ラジカル重合における重合温度は0〜150℃の範囲が好ましく、40〜80℃の範囲がより好ましい。また、重合時間は3〜300時間の範囲が好ましく、重合温度の制御の容易さと生産効率の観点から6〜96時間の範囲がより好ましい。
【0026】
上記ラジカル重合に用いられる開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチルニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジブチルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−パーオキシピバレートなどの過酸化物などが挙げられる。
【0027】
上記ラジカル重合は塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法のいずれの重合法で実施してもよいが、溶液重合法が好ましい。かかる溶液重合法に用いる溶媒としては、共重合に供するモノマーおよび得られる炭化水素系共重合体が溶解するものが好ましい。
また、溶媒はルイス酸またはブレンステッド酸として機能するものであってもよい。ルイス酸またはブレンステッド酸として機能する溶媒としては、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブタノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1−ペンタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロパノールなどの含フッ素アルコール;2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1,5−ペンタンジオール、2,2,3,3,4,4,5,5,−オクタフルオロ−1,6−ヘキサンジオールなどの含フッ素ジオールなどが挙げられる。また、ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素を溶媒としてもよい。これらの溶媒は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ルイス酸またはブレンステッド酸は添加剤として溶媒に添加してもよい。
【0028】
溶液重合法において共重合に供するモノマー全体の質量は、溶液全体の5〜75質量%の範囲であることが好ましく、10〜60質量%の範囲であることがより好ましく、20〜50質量%の範囲がさらに好ましい。
【0029】
溶液重合を実施したのちは、重合反応液から公知の方法で炭化水素系共重合体を回収することができる。例えば、重合反応液をメタノールやヘキサンなどの貧溶媒中に滴下して共重合体を沈澱させてもよいし、または重合反応液をろ過または洗浄し、次いで溶媒を留去してもよい。
【0030】
本発明の成形体は、前述の炭化水素系共重合体からなる。成形体を得る方法は特に制限されず、例えば、押出成形法、射出成形法、インフレーション成形法、プレス成形法、キャスト成形法などが挙げられる。成形体の形状は用途に応じて任意に選択できる。例えば、フィルム、シート、板、容器などが挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明する。但し、本発明はこれら実施例によって限定されない。
【0032】
(反応率の測定)
反応開始前の反応液0.05mLをそれぞれ重クロロホルム溶液0.45mLに溶解させ、1H−NMR測定を行い、ノルボルネンのビニルプロトンに由来するピーク(6.0〜6.1ppm)およびマレイミドのビニルプロトンに由来するピーク(6.7〜6.9ppm)の積分値と、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロパノールのフェニルプロトンに由来するピーク(7.1〜7.5ppm)の積分値との比率(rn0、rm0)をそれぞれ算出した。次に反応後の反応液について同様に1H−NMR測定を行い、ノルボルネンのビニルプロトンに由来するピークおよびマレイミドのビニルプロトンに由来するピークの積分値と1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロパノールのフェニルプロトンに由来するピークの積分値との比率(rn1、rm1)をそれぞれ算出し、反応開始前の前記比率(rn0、rm0)に対する減少率((rn0−rn1)/rn0、(rm0−rm1)/rm0)を百分率で表し、反応率とした。
【0033】
(分子量の測定)
各実施例および比較例で得られた炭化水素系共重合体1mgを、1mLのテトラヒドロフランに溶解させて試料を得た。この試料を、昭和電工社製ポリスチレンゲルカラムShodex K-805L (内径:8.0mm長さ:30cm)を2本直列に接続したものがセットされた高速液体クロマトグラフ(日本分光社製「HPLC LC−2000Plus」)に、溶離液としてのテトラヒドロフランを流速1.0mL/分で流し、測定温度40℃にて、示差屈折計(日本分光社製RI−2031)を検出器として用いて標準ポリスチレン換算した重量平均分子量および数平均分子量を算出した。
【0034】
(ガラス転移温度の測定)
各実施例および比較例で得られた炭化水素系共重合体を、示差走査熱量測定(DSC)装置(ティー・エイ・インスツルメント社製Q200)にセットし、320℃まで10℃/分で昇温させ、10分間保持し、−50℃まで10℃/分で降温させ、−50℃で5分間保持し、320℃まで10℃/分で昇温させ、5分間保持し、次いで40℃まで10℃/分で降温させた。その間の熱量変化を測定した。2度目昇温時の転移挙動における中間温度をガラス転移温度とした。
【0035】
(熱分解開始温度の測定)
各実施例および比較例で得られた炭化水素系共重合体を、熱示差測定(TG−DTA)装置(ティー・エイ・インスツルメント社製Q500)にセットし、40℃から500℃まで5℃/分で昇温させた。セットした重合体の重量が5%減少した時点の温度を熱分解開始温度とした。
【0036】
実施例1
十分乾燥させたガラス製コック付フラスコに、2−ノルボルネン(東京化成工業製)1.41g(15mmol)、N−シクロヘキシルマレイミド(東京化成工業製)1.34g(7.5mmol)、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN:和光純薬工業製)16mgおよび脱水した1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロパノール(東京化成製)を窒素気流下で加え全量を5mLとした。この混合物を撹拌して均一に溶解させた。
【0037】
混合液を、攪拌しながら40℃まで昇温し、100時間撹拌して付加重合反応させた。2−ノルボルネンおよびN−シクロヘキシルマレイミドの反応率は、それぞれ46%および90%であった。反応液をメタノール50ml中に滴下して固形分を沈澱させた。10Pa以下の減圧条件下25℃にて24時間乾燥を行って、本発明の飽和炭化水素系共重合体を得た。得られた炭化水素系共重合体のサイズ排除クロマトグラムには単峰性のピークが観測された。当該炭化水素系共重合体は、数平均分子量(以下Mnと略記する)が172,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量:以下、Mw/Mnと略記する)が1.6であった。
【0038】
上記で得られた炭化水素系共重合体中の2−ノルボルネン単位とN−シクロヘキシルマレイミド単位の比率を、重クロロホルム中、55℃の条件で、1H−NMRにて測定した。1H−NMRチャートを図1に示す。図1に示すように、N−シクロヘキシルマレイミド単位に由来するシクロヘキシル基上の窒素に隣接するメチンプロトン(f)、2−ノルボルネン単位に由来するメチンプロトン(aおよびc)、メチレンプロトン(bおよびd)、N−シクロヘキシルマレイミド単位に由来するカルボニル基に隣接するメチンプロトン(e)、およびN−シクロヘキシルマレイミド単位に由来するメチレンプロトン(g、hおよびi)の各シグナルが観測された。f(3.7〜3.9ppm)の面積と、a〜eおよびg〜iの面積の合計(1.0〜3.0ppm)との比から、2−ノルボルネン単位とN−シクロヘキシルマレイミド単位の比率が1:1であることがわかった。また当該炭化水素系共重合体は、熱分解開始温度が402℃、ガラス転移温度が307℃であった。
【0039】
前記の炭化水素系共重合体をテトラヒドロフランに溶解させて濃度5質量%の溶液を得た。これをアルミ箔上に塗布し、25℃で3時間乾燥させた。これをさらに70℃にて5時間減圧乾燥したのち、常圧にしてアルミ箔から剥がし、フィルムを得た。得られたフィルムは厚さ30μmで無色透明であった。
【0040】
実施例2
脱水した1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロパノールの量を変えて全量が15mLになるようにしたこと、及び反応液を滴下するメタノールの量を150mLとしたこと以外は実施例1と同じ方法で炭化水素系共重合体を得た。
2−ノルボルネンおよびN−シクロヘキシルマレイミドの反応率は、それぞれ32%および65%であった。得られた炭化水素系共重合体のサイズ排除クロマトグラムには単峰性のピークが観測され、Mnが82,600、Mw/Mnが2.3であった。また、1H−NMRによる測定から、2−ノルボルネン単位とN−シクロヘキシルマレイミド単位の比率が1:1であることがわかった。また当該炭化水素系共重合体は、熱分解開始温度が402℃、ガラス転移温度が306℃であった。
前記の炭化水素系共重合体をテトラヒドロフランに溶解させて濃度5質量%の溶液を得た。これをアルミ箔上に塗布し、25℃で3時間乾燥させた。これをさらに70℃にて5時間減圧乾燥したのち、常圧にしてアルミ箔から剥がし、フィルムを得た。得られたフィルムは厚さ30μmで無色透明であった。
【0041】
比較例1
脱水した1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロパノールの代わりにトルエン(和光純薬工業製)を用いた以外は実施例1と同じ方法で炭化水素系共重合体を得た。
2−ノルボルネンおよびN−シクロヘキシルマレイミドの反応率は、それぞれ20%および81%であった。得られた炭化水素系共重合体のサイズ排除クロマトグラムには単峰性のピークが観測され、Mnが4,600、Mw/Mnが2.2であった。また、当該飽和炭化水素系共重合体をテトラヒドロフランに溶解させて濃度5質量%の溶液を得た。これをアルミ箔上に薄く塗布し、室温で3時間乾燥させた。これを70℃にて5時間減圧乾燥したが、アルミ箔から剥がそうとすると粉々に割れてしまい、フィルムを単離することができなかった。
【0042】
実施例3
N−シクロヘキシルマレイミドの代わりにN−フェニルマレイミド(東京化成工業製)1.29g(7.5mmol)を用いた以外は実施例1と同じ手法で無色透明の炭化水素系共重合体を得た。
2−ノルボルネンおよびN−フェニルマレイミドの反応率は、それぞれ43%および90%であった。得られた炭化水素系共重合体のサイズ排除クロマトグラムには単峰性のピークが観測され、Mnが172,000、Mw/Mnが1.6であった。また、1H−NMRによる測定から、2−ノルボルネン単位とN−メチルマレイミド単位の比率が1:1であることがわかった。また当該炭化水素系共重合体は、熱分解開始温度が404℃、ガラス転移温度が284℃であった。
【0043】
実施例4
N−シクロヘキシルマレイミドの代わりにN−メチルマレイミド(東京化成工業製)0.83g(7.5mmol)を用いた以外は実施例1と同じ方法で無色透明の炭化水素系共重合体を得た。
2−ノルボルネンおよびN−メチルマレイミドの反応率は、それぞれ45%および88%であった。得られた炭化水素系共重合体のサイズ排除クロマトグラムには単峰性のピークが観測され、Mnが159,000、Mw/Mnが2.3であった。また、1H−NMRによる測定から、2−ノルボルネン単位とN−メチルマレイミド単位の比率が1:1であることがわかった。また当該炭化水素系共重合体は、熱分解開始温度が392℃、ガラス転移温度が253℃であった。
【0044】
実施例5
N−シクロへキシルマレイミドの代わりにN−エチルマレイミド(東京化成工業製)0.94g(7.5mmol)を用いた以外は実施例1と同じ方法で無色透明の炭化水素系共重合体を得た。
2−ノルボルネンおよびN−エチルマレイミドの反応率は、それぞれ44%および87%であった。得られた炭化水素系共重合体のサイズ排除クロマトグラムには単峰性のピークが観測され、Mnが161,000、Mw/Mnが2.4であった。また、1H−NMRによる測定から、2−ノルボルネン単位とN−エチルマレイミド単位の比率が1:1であることがわかった。また当該炭化水素系共重合体は、熱分解開始温度が395℃、ガラス転移温度が284℃であった。
【0045】
これらの結果から、本発明に係る炭化水素系共重合体は、透明性、耐熱性、および成形性に優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるノルボルネン誘導体と一般式(2)で示されるN−置換型マレイミドとを共重合してなる数平均分子量が5×104〜5×106の範囲である炭化水素系共重合体。
【化1】


(式(1)中、R1〜R12は、それぞれ独立して水素原子または炭化水素基を示す。R9またはR10とR11またはR12とは互いに繋がって環を形成していてもよい。nは0または1である。)
【化2】

(式(2)中、R13は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜20の環状アルキル基、または炭素数6〜20のアリール基を示す。)
【請求項2】
ガラス転移温度が250〜400℃の範囲である、請求項1に記載の炭化水素系共重合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の炭化水素系共重合体からなる成形体。
【請求項4】
一般式(1)で示されるノルボルネン誘導体と一般式(2)で示されるN−置換型マレイミドとを、ルイス酸またはブレンステッド酸の存在下に共重合することを含む請求項1または2に記載の炭化水素系共重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−49739(P2013−49739A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186779(P2011−186779)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 高分子学会予稿集60巻1号[2011]145頁及び364頁 平成23年5月10日社団法人高分子学会発行
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】