説明

炭化珪素とシリコンとの分離方法およびそれに用いる装置

【課題】シリコンおよび炭化珪素砥粒を含む使用済スラリから、シリコンと炭化珪素を分離抽出して、双方を回収する方法およびそれに用いる装置を提供することを課題とする。
【解決手段】不活性ガス雰囲気下、容器中で炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物を第1温度に加熱してシリコン粒を溶融させ、次いで得られた溶融シリコンを含む融液を第2温度に保持し、次いで融液の上層部位に取り出し治具を浸漬して取り出し治具に炭化珪素を析出させ、析出した炭化珪素を回収し、かつ容器から精製された溶融シリコンを回収することにより炭化珪素とシリコンとを分離することを特徴とする炭化珪素とシリコンとの分離方法により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物からの炭化珪素とシリコンとの分離方法およびそれに用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路用のシリコン材料は高価であり、太陽電池用のシリコン材料の多くは、半導体集積回路用のシリコン材料の製造工程(単結晶引上げ工程)において生じる端材が使用されてきた。
また、シリコン材料を安価に製造するための技術も提案されている。
例えば、特開2000−34116号公報(特許文献1)には、鉄鋼スラグから炭化珪素およびシリコンの混合物を製造し、これを1410〜1600℃程度で溶融し、セラミックフィルターなどを用いて、溶融物から前記温度で溶融しない炭化珪素を濾過除去して、シリコンを得る方法が開示されている。
【0003】
また、特開平11−228280号公報(特許文献2)には、低純度金属級シリコンを精製する場合に、溶融したシリコンの湯面上に浮遊する炭化珪素などの不純物を、直接すくい取る方法、濾過させて取り除く方法、湯面浮遊物を一度凝固させてから湯面付近にある部分を取り除く方法などが考えられると記載されている。
しかしながら、上記の特許文献にはいずれも、具体的な方法は記載されておらず、これらの方法を用いた技術は実用化されていない。また、上記の特許文献には、炭化珪素などの不純物を除去することは記載されていても、それを利用することは記載されていない。
【0004】
太陽電池用のシリコンウエハの多くは、マルチワイヤーソーを用いてシリコンインゴットをスライスすることにより作製されている。太陽電池を低価格で得るための1つの手段として、基板となるシリコンウエハを極力薄くスライスする技術が開発されている。例えば、厚さ200μmのシリコンウエハでは、この厚さとスライス加工用のワイヤ径が同程度であるために、加工されたシリコンと同程度のシリコンインゴットが、砥粒である炭化珪素粒と混合物となって廃棄されていた。
【0005】
特開2005−313030号公報(特許文献3)には、シリコン、砥粒(炭化珪素)などを含んだ使用済スラリから、遠心分離などにより砥粒を回収する方法が記載されている。しかしながら、上記の特許文献には、シリコンの利用については記載されていない。
また、特開2001−278612号公報(特許文献4)には、シリコン、砥粒(炭化珪素)を含んだ使用済スラリの固液分離で得られた固形物を有機溶剤で洗浄して分散剤を除去し、気流分級装置などを用いて得られた固形分から酸化シリコンおよび砥粒を除去してシリコンを回収する方法が開示されている。しかしながら、充分な純度のシリコンは得られておらず、この方法を用いた技術は実用化されていない。
さらに、特開平7−172998号公報(特許文献5)には、構成元素として炭素を含む坩堝に溶融したシリコンから炭化珪素単結晶を成長させる方法が記載されている。
【0006】
特開2001−172729号公報(特許文献6)には、偏析凝固の利用して不純物を含む、金属シリコンやアルミニウムなどの金属から高純度の金属を得る精製装置および精製方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−34116号公報
【特許文献2】特開平11−228280号公報
【特許文献3】特開2005−313030号公報
【特許文献4】特開2001−278612号公報
【特許文献5】特開平7−172998号公報
【特許文献6】特開2001−172729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、シリコンおよび炭化珪素砥粒を含む使用済スラリから、シリコンと炭化珪素を分離抽出して、双方を回収する方法およびそれに用いる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かくして、本発明によれば、不活性ガス雰囲気下、容器中で炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物を第1温度に加熱してシリコン粒を溶融させ、次いで得られた溶融シリコンを含む融液を第2温度に保持し、次いで融液の上層部位に取り出し治具を浸漬して取り出し治具に炭化珪素を析出させ、析出した炭化珪素を回収し、かつ容器から精製された溶融シリコンを回収することにより炭化珪素とシリコンとを分離することを特徴とする炭化珪素とシリコンとの分離方法が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、上記の炭化珪素とシリコンとの分離方法に用いる装置であり、シリコンインゴットの切断加工において生じる端材シリコンを第1温度に加熱して溶融させる第1容器およびその第1加熱手段、第1容器に端材シリコンを供給する第1投入通路、シリコン粒を溶融し、かつ溶融シリコンを含む融液を第2温度に保持する第2容器およびその第2加熱手段、融液を第1容器から第2容器にオーバーフローさせる第1通路、第2容器に炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物を供給する第2投入通路、融液の上層部位に浸漬して炭化珪素を析出させる取り出し治具、精製された溶融シリコンを回収する第3容器、精製された溶融シリコンを第2容器から第3容器にオーバーフローさせる第2通路、装置全体を密閉するシールド、ならびにシールド内を不活性ガス雰囲気にするガス供給手段を備える炭化珪素とシリコンとの分離装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリコンインゴットの切断加工において生じる使用済スラリからシリコンと炭化珪素とを回収できる。回収された炭化珪素は大きな粒径を有し、砥粒として再利用でき、また回収されたシリコンは高純度であり、太陽電池用のシリコンウエハの原料などに利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の炭化珪素とシリコンとの分離方法(以下、「分離方法」という)は、
不活性ガス雰囲気下、
(A)容器中で炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物を第1温度に加熱してシリコン粒を溶融させ、
(B)次いで得られた溶融シリコンを含む融液を第2温度に保持し、
(C)次いで融液の上層部位に取り出し治具を浸漬して取り出し治具に炭化珪素を析出させ、析出した炭化珪素を回収し、かつ容器から精製された溶融シリコンを回収する
ことにより炭化珪素とシリコンとを分離することを特徴とする。
【0013】
本発明の分離方法は、上記の工程(A)、工程(B)および工程(C)の炭化珪素の回収までを1つの容器内で実施してもよいが、工程(A)、工程(B)および工程(C)の溶融シリコンの回収に用いる容器を別々にし、かつ溶融シリコンを含む融液および精製された溶融シリコンをそれぞれ次工程の別の容器にオーバーフローさせる通路を設け、原料となる端材シリコンや炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物を連続投入することにより、連続して実施するのが好ましい。
また、不活性ガス雰囲気下、予め前記容器中でシリコンインゴットの切断加工において生じる端材シリコンを前記第1温度に加熱して溶融させ、得られた溶融シリコンの融液に前記混合物を加え、前記第2温度に加熱してシリコン粒を溶融させるのが好ましい。
【0014】
すなわち、容器は、第1温度に加熱してシリコン粒、またはシリコン粒および端材シリコンを溶融させる第1容器、溶融シリコンを含む融液を第2温度に保持する第2容器、融液を第1容器から第2容器にオーバーフローさせる第1通路、精製された溶融シリコンを回収する第3容器、および精製された溶融シリコンを第2容器から第3容器にオーバーフローさせる第2通路からなり、第1容器に前記端材シリコンを連続して加え、かつ第2容器に前記混合物を連続して加えることにより、前記分離が連続して行われるのが好ましい。
【0015】
本発明の分離方法を、上記の好ましい実施形態に基づき図面を参照して詳細に説明するが、これにより本発明は限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の分離方法を説明するための分離装置の概略模式図である。
この分離装置は、第1ステージ(1)上に設置された第1容器(2)と第1加熱手段(3)、第2ステージ(4)上に設置された第2容器(5)と第2加熱手段(6)、第3容器(7)、端材シリコン(8)を第1容器(2)に投入するための第1投入通路(9)、溶融シリコンを含む融液(10)を第1容器(2)から第2容器(5)にオーバーフローさせる第1通路(11)、炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物(12)を第2容器(5)に投入する第2投入通路(13)、第2容器(5)の溶融シリコンを含む融液(14)の上層部位に浸漬する取り出し治具(15)、精製された溶融シリコン(16)を第2容器(5)から第3容器(7)にオーバーフローさせる第2通路(17)からなる。取り出し治具(15)は、析出部(18)を有し、図示しない回転機構により矢印方向に回転し、かつ図示しない移動機構により矢印方向に移動する。
本発明の分離方法は、不活性ガス雰囲気で行われ、図示しない装置全体を密閉するシールドおよびシールド内を不活性ガス雰囲気にするガス供給手段を備えている。
【0017】
第1容器(2)、第2容器(5)および第3容器(7)は、それぞれ溶融シリコンを含む融液(10)、(14)および精製された溶融シリコン(16)を保持し得る材料からなり、当該分野で用いられる材料からなる上面が開放された坩堝が挙げられる。具体的には、石英、ボロンナイトライド、グラファイトカーボンからなる坩堝が挙げられ、これらの中でもグラファイトカーボン、特に高純度のグラファイトカーボンからなる坩堝が好ましい。これにより、各容器、特に第1容器(2)および第2容器(5)から炭化珪素の炭素が供給され、炭化珪素の回収量が多くなるものと考えられる。
【0018】
第1容器(2)、第2容器(5)および第3容器(7)の形状は特に限定されないが、第1容器(2)は均一に加熱できる点、容器の加工が用意である点等で円筒形状が好ましく、第2容器(5)は取り出し治具(15)を設けるスペースを必要とするため横長の長円筒形状が好ましい。第3容器(7)は均一に加熱できる点、容器の加工が用意である点等で円筒形状が好ましい。
【0019】
第1ステージ(1)および第2ステージ(4)は、それぞれ第1容器(2)および第2容器(5)を保持し得る材料からなり、その材質としては、石英、ボロンナイトライド、グラファイトカーボンが挙げられる。
第1加熱手段(3)および第2加熱手段(6)は、それぞれ第1容器(2)および第2容器(5)内のシリコン粒、またはシリコン粒および端材シリコンを溶融し得るものであれば特に限定されず、抵抗加熱体やヒータが挙げられる。
【0020】
第1投入通路(9)および第2投入通路(13)は、それぞれ端材シリコン(8)を第1容器(2)に投入するための投入通路、および炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物(12)を第2容器(5)に投入する投入通路であり、その材質としては、石英、ボロンナイトライド、グラファイトカーボンが挙げられ、これらの中でもグラファイトカーボン、特に高純度のグラファイトカーボンが好ましい。
【0021】
第1通路(11)および第2通路(17)は、それぞれ溶融シリコンを含む融液(10)を第1容器(2)から第2容器(5)にオーバーフローさせる通路、および精製された溶融シリコン(16)を第2容器(5)から第3容器(7)にオーバーフローさせる通路であり、その材質としては、石英、ボロンナイトライド、グラファイトカーボンが挙げられ、これらの中でもグラファイトカーボン、特に高純度のグラファイトカーボンが好ましい。
【0022】
取り出し治具(15)は、融液の上層部位に浸漬して炭化珪素を効率よく析出させ得るものであれば材質や形状は特に限定されない。その材質としては、石英、ボロンナイトライド、グラファイトカーボンが挙げられ、これらの中でもグラファイトカーボン、特に高純度のグラファイトカーボンが好ましい。
【0023】
取り出し治具(15)の形状は、図1に示すような複数(3〜10個程度)の析出部(突起部)(18)を有するもの、例えば歯車状のものが好ましい。このような形状であれば、複数の析出部(18)を連続して融液の上層部位に浸漬し各析出部に炭化珪素を析出させ、析出した炭化珪素を効率よく回収することができる。
【0024】
複数の析出部を連続して融液の上層部位に浸漬するために、取り出し治具(15)には、矢印方向に回転させる回転機構(図示せず)が備えられている。すなわち、取り出し治具(15)の回転により、各析出部(18)が順次融液の上層部位に浸漬され、炭化珪素の析出物の引上げが繰り返される。
また、取り出し治具(15)には、矢印方向に移動させる移動機構(図示せず)が備えられている。すなわち、取り出し治具(15)の上下移動により、析出した炭化珪素を回収することができる。
【0025】
取り出し治具(15)は複数(2〜3個程度)からなるのが好ましい。これにより複数の取り出し治具(15)を連続して融液の上層部位に浸漬し各取り出し治具に炭化珪素を析出させ、析出した炭化珪素を効率よく回収することができる。
第1容器(2)および第2容器(5)として、グラファイトカーボン製の坩堝を用いる場合には、融液に坩堝を構成する炭素が溶融し、析出部(18)を浸漬させたとき、特開平7−172998号公報に記載されているように、析出部(18)を起点として、溶融シリコンを含む融液(14)から炭化珪素の析出が起こり、浮遊物となっている炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物(12)の炭化珪素粒の周りに析出し、これらが一塊となって大きな粒子なるものと考えられる。その粒径は条件により変化するものと考えられる。
【0026】
本発明の分離方法は、不活性ガス雰囲気下、まず、工程(A)で、容器中で炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物を第1温度に加熱してシリコン粒を溶融させる。
第1温度は、シリコン(融点:1414℃)を溶融させ得る温度であり、通常1500〜1700℃程度であり、好ましくは約1650℃である。
図1の分離装置の場合には、不活性ガス雰囲気下、予め第1容器(2)中でシリコンインゴットの切断加工において生じる端材シリコン(8)を第1温度に加熱して溶融させ、第1投入通路(9)を介して端材シリコン(8)の第1容器(2)への追加投入と端材シリコン(8)の溶融を繰り返して、第1通路(11)を介して融液を第1容器から第2容器にオーバーフローさせる。そして、第2容器(5)の融液に炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物(12)を投入し、第2温度に加熱してシリコン粒を溶融させる。
【0027】
端材シリコンは、シリコンインゴットの切断加工において生じる端材である。
また、炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物は、シリコンインゴットの切断加工において生じる、砥粒としての炭化珪素粒とその分散媒とからなるスラリに切削されたシリコン粒が混入した使用済みスラリを、少なくとも遠心分離処理により精製した混合物、すなわち、シリコンインゴットをマルチワイヤーソーで切断してウエハに加工する際に生じる切削廃液を固液分離し、精製、乾燥した粉状物質であるのが好ましい。このような粉状物質として、特開2001−278612号公報には、シリコンと砥粒よりなる粉体が記載されている。
【0028】
次いで、工程(B)で得られた溶融シリコンを含む融液を第2温度に保持する。
第2温度は、融液に浮遊物が形成され得る温度であり、通常1430〜1500℃程度であり、好ましくは約1450℃である。
図1の分離装置の場合には、第2温度に保持した融液に炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物(12)を追加投入する。これにより、炭化珪素(1600℃程度まで安定)が析出する。
【0029】
次いで、工程(C)で融液の上層部位に取り出し治具を浸漬して取り出し治具に炭化珪素を析出させ、析出した炭化珪素を回収し、かつ容器から精製された溶融シリコンを回収する。
炭化珪素を効率よく析出させるには、先に述べたように複数の析出部を有する取り出し治具を複数用いるのが好ましい。
【0030】
本発明の分離方法は、不活性ガス雰囲気で行われる。不活性ガスとしては、シリコンと反応しないガスであれば特に限定されず、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどが挙げられ、好ましくはアルゴンである。これにより、酸化珪素の生成を抑え、高純度のシリコンを回収することができる。
【0031】
また、工程(A)の第1温度に加熱してシリコン粒、またはシリコン粒および端材シリコンを溶融させる工程またはその工程の一部が、不活性ガス雰囲気に炭化水素ガスを供給して行われるのが好ましい。炭化水素ガスとしては、例えばメタン、エタン、プロパン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられ、好ましくはメタンである。
炭化水素ガスの割合は、0.1〜1%程度である。
これにより、炭化珪素の回収量が増加し、かつ回収される炭化珪素が強固な粒子になる。これは、メタンから分解した炭素が炭化珪素の生成に加わるためと考えられる。
図1の分離装置において上記のようにガス雰囲気を制御するためには、第1容器の溶融シリコンを不活性ガスと炭化水素ガスとの混合ガス雰囲気にするシールドおよびガス供給手段をさらに備えていればよい。
【0032】
回収された炭化珪素は大きな粒径を有し、シリコンインゴットの切断加工(スライス加工)の砥粒として再利用でき、また回収されたシリコンは高純度であり、太陽電池用のシリコンウエハの原料などに利用できる。
【0033】
以上のことから、不活性ガス雰囲気下、予め前記容器中でシリコンインゴットの切断加工において生じる端材シリコンを前記第1温度に加熱して溶融させ、得られた溶融シリコンの融液に前記混合物を加え、前記第2温度に加熱してシリコン粒を溶融させる本発明の分離方法に用いる装置として、シリコンインゴットの切断加工において生じる端材シリコンを第1温度に加熱して溶融させる第1容器およびその第1加熱手段、第1容器に端材シリコンを供給する第1投入通路、シリコン粒を溶融し、かつ溶融シリコンを含む融液を第2温度に保持する第2容器およびその第2加熱手段、融液を第1容器から第2容器にオーバーフローさせる第1通路、第2容器に炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物を供給する第2投入通路、融液の上層部位に浸漬して炭化珪素を析出させる取り出し治具、精製された溶融シリコンを回収する第3容器、精製された溶融シリコンを第2容器から第3容器にオーバーフローさせる第2通路、装置全体を密閉するシールド、ならびにシールド内を不活性ガス雰囲気にするガス供給手段を備える炭化珪素とシリコンとの分離装置が提供される。
【0034】
(実施例)
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
図1に示す分離装置を用いて、炭化珪素とシリコンとを分離した。
まず、装置全体をシールド(図示せず)で密閉し、シールド内をアルゴンガス雰囲気にした。
グラファイトカーボン製の第1ステージ(1)上に設置した、内径185mm、高さ250mmのグラファイトカーボン製の坩堝からなる第1容器(2)に、グラファイトカーボン製の第1投入通路(9)を介して7kgの端材シリコン(8)を投入し、抵抗加熱体からなる第1加熱手段(3)で端材シリコン(8)を1650℃まで加熱して完全に溶融させ、溶融シリコンを含む融液(10)を得た。溶融後も同温度で溶融状態を保持した。このとき溶融シリコンを含む融液(10)に第1容器(2)から炭素が溶解しているものと考えられる。
【0036】
第1投入通路(9)を介して、第1容器(2)に端材シリコン(8)を追加投入し溶融を継続すると、溶融シリコンを含む融液(10)が、グラファイトカーボン製の第1通路(11)を介して溢れ、グラファイトカーボン製の第2ステージ(4)上に設置した、長径400mm、高さ200mmのグラファイトカーボン製の坩堝からなる第2容器(5)にオーバーフローした。抵抗加熱体からなる第2加熱手段(6)で、オーバーフローした溶融シリコンを含む融液(14)を加熱して1450℃に保持した。第2容器(5)に溶融シリコンを含む融液(14)が充分溜まった段階で、第2容器(5)の第1通路(11)付近にグラファイトカーボン製の第2投入通路(13)を介して炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物(12)を投入し、シリコン粒を溶融させた。この炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物(12)は、シリコンインゴットをマルチワイヤーソーで切断してウエハに加工する際に生じる切削廃液を固液分離し、精製、乾燥した粉状物質であり、Siが80%、SiCが20%の割合で含まれ、その粒径は5μm程度であった。
【0037】
溶融シリコンを含む融液(14)に浮遊物があることを確認し、溶融シリコンを含む融液(14)の上層部位に、複数の突起部からなる析出部(18)を有し、回転機構および移動機構(図示せず)を備えた、グラファイトカーボン製の取り出し治具(15)を浸漬し、浮遊物を付着させた。取り出し治具(15)は、歯車状で外径60mm、析出部となる突起部分の最大突出長20mm、析出部10個であった。そして、取り出し治具(15)の回転、移動および付着物、すなわち炭化珪素粒の回収を繰り返した。この付着物の成分を分析したところ、炭化珪素であることがわかった。またその粒径は15μm程度であった。
【0038】
付着物(浮遊物)の回収を繰り返すことにより浮遊物が減少し、第2容器(5)の第2通路(17)付近に浮遊物が観察されなくなった。
以上の工程を繰り返すことにより、精製された溶融シリコン(16)が第2通路(17)を介して溢れ、グラファイトカーボン製の内径185mm、高さ150mmのグラファイトカーボン製の坩堝からなる第3容器(7)にオーバーフローした。このオーバーフローしたシリコンを分析したところ、純度99%以上のシリコンで、不純物の多くは鉄粉であった。
不純物の鉄粉は炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物(スラリ精製物)に含まれていたものと考えられ、この鉄粉は公知の精製方法により容易に除去することができる。
【0039】
回収された炭化珪素は粒径が15μmと大きいため、砥粒として再利用できることがわかった。
また回収されたシリコンは、公知の方法、例えば、特開2001−172729号公報に記載の方法により精製することにより、太陽電池用の多結晶シリコンシリコンウエハの原料などに利用できることがわかった。
【0040】
(実施例2)
第1容器(2)と第1容器(2)以外の第2容器(5)を含む装置全体との、雰囲気ガスの混合を防止する隔壁(図示せず)で隔て、第1容器(2)側をアルゴンガスとメタンガス(0.5%)との混合ガス雰囲気にし、第2容器(5)側をアルゴンガス雰囲気とした以外は、実施例1と同様にして、図1に示す分離装置を用いて、炭化珪素とシリコンとを分離した。
回収されたシリコンに差異はなかったが、炭化珪素の回収量が増加し、かつ回収された炭化珪素が強固な粒子となっていた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の分離方法を説明するための分離装置の概略模式図である。
【符号の説明】
【0042】
1 第1ステージ
2 第1容器(坩堝)
3 第1加熱手段
4 第2ステージ
5 第2容器(坩堝)
6 第2加熱手段
7 第3容器(坩堝)
8 端材シリコン
9 第1投入通路
10、14 溶融シリコンを含む融液(溶湯)
11 第1通路
12 炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物
13 第2投入通路
15 取り出し治具
16 精製された溶融シリコン(溶湯)
17 第2通路
18 析出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気下、容器中で炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物を第1温度に加熱してシリコン粒を溶融させ、次いで得られた溶融シリコンを含む融液を第2温度に保持し、次いで融液の上層部位に取り出し治具を浸漬して取り出し治具に炭化珪素を析出させ、析出した炭化珪素を回収し、かつ容器から精製された溶融シリコンを回収することにより炭化珪素とシリコンとを分離することを特徴とする炭化珪素とシリコンとの分離方法。
【請求項2】
不活性ガス雰囲気下、予め前記容器中でシリコンインゴットの切断加工において生じる端材シリコンを前記第1温度に加熱して溶融させ、得られた溶融シリコンの融液に前記混合物を加え、前記第2温度に加熱してシリコン粒を溶融させる請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
前記混合物が、シリコンインゴットの切断加工において生じる、砥粒としての炭化珪素粒とその分散媒とからなるスラリに切削されたシリコン粒が混入した使用済みスラリを、少なくとも遠心分離処理により精製した混合物である請求項1または2に記載の分離方法。
【請求項4】
前記容器および前記取り出し治具が、グラファイトカーボンからなる請求項1〜3のいずれか1つに記載の分離方法。
【請求項5】
前記取り出し治具が複数の析出部を有し、複数の析出部を連続して融液の上層部位に浸漬し各析出部に炭化珪素を析出させ、析出した炭化珪素を回収する請求項1〜4のいずれか1つに記載の分離方法。
【請求項6】
前記取り出し治具が複数あり、複数の取り出し治具を連続して融液の上層部位に浸漬し各取り出し治具に炭化珪素を析出させ、析出した炭化珪素を回収する請求項1〜5のいずれか1つに記載の分離方法。
【請求項7】
前記第1温度に加熱してシリコン粒、またはシリコン粒および端材シリコンを溶融させる工程またはその工程の一部が、不活性ガス雰囲気に炭化水素ガスを供給して行われる請求項1〜6のいずれか1つに記載の分離方法。
【請求項8】
前記容器が、第1温度に加熱してシリコン粒、またはシリコン粒および端材シリコンを溶融させる第1容器、溶融シリコンを含む融液を第2温度に保持する第2容器、融液を第1容器から第2容器にオーバーフローさせる第1通路、精製された溶融シリコンを回収する第3容器、および精製された溶融シリコンを第2容器から第3容器にオーバーフローさせる第2通路からなり、第1容器に前記端材シリコンを連続して加え、かつ第2容器に前記混合物を連続して加えることにより、前記分離が連続して行われる請求項2〜7のいずれか1つに記載の分離方法。
【請求項9】
前記回収した炭化珪素が、シリコンインゴットの切断加工の砥粒として用いられる請求項1〜8のいずれか1つに記載の分離方法。
【請求項10】
請求項2〜9のいずれか1つに記載の炭化珪素とシリコンとの分離方法に用いる装置であり、シリコンインゴットの切断加工において生じる端材シリコンを第1温度に加熱して溶融させる第1容器およびその第1加熱手段、第1容器に端材シリコンを供給する第1投入通路、シリコン粒を溶融し、かつ溶融シリコンを含む融液を第2温度に保持する第2容器およびその第2加熱手段、融液を第1容器から第2容器にオーバーフローさせる第1通路、第2容器に炭化珪素粒とシリコン粒とを含む混合物を供給する第2投入通路、融液の上層部位に浸漬して炭化珪素を析出させる取り出し治具、精製された溶融シリコンを回収する第3容器、精製された溶融シリコンを第2容器から第3容器にオーバーフローさせる第2通路、装置全体を密閉するシールド、ならびにシールド内を不活性ガス雰囲気にするガス供給手段を備える炭化珪素とシリコンとの分離装置。
【請求項11】
前記第1容器、前記第2容器および前記取り出し治具が、グラファイトカーボンからなる請求項10に記載の分離装置。
【請求項12】
前記取り出し治具が、連続して融液の上層部位に浸漬するための複数の析出部を有する請求項10または11に記載の分離装置。
【請求項13】
前記取り出し治具が、連続して融液の上層部位に浸漬するために複数からなる請求項10〜12のいずれか1つに記載の分離装置。
【請求項14】
前記第1容器の溶融シリコンを不活性ガスと炭化水素ガスとの混合ガス雰囲気にするシールドおよびガス供給手段をさらに備える請求項10〜13のいずれか1つに記載の分離装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−302513(P2007−302513A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132711(P2006−132711)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】