説明

炭化珪素半導体へのイオン注入方法

【課題】 SiC半導体素子を製作する際に、アクセプター原子に加えてC原子を付加的にイオン注入することで良質なp型SiC半導体素子を形成する。
【構成】 炭化珪素半導体(SiC)に、アルミニウム(Al)及びホウ素(B)等のアクセプター原子をイオン注入により導入する時、これらの原子に加えて炭素(C)原子を付加的にイオン注入することで、SiCに注入したアクセプター原子の電気的活性化率を向上するとともに熱処理による拡散を抑制することからなる、良質なp型SiC半導体を製作する方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、SiC半導体素子を製作する際行われるアクセプター原子の導入に関するものであり、アクセプター原子に加えてC原子を付加的にイオン注入することで良質なp型SiCを局所的に形成し、SiC集積回路の作製に役立てようというものである。
【0002】
【従来の技術】SiCにAlやBなどのアクセプター不純物をイオン注入することでp型の電気伝導特性が得られることは知られているが、この従来法では導入したアクセプター原子の電気的活性化率が低く、注入後の熱処理によりアクセプター原子の外方拡散が起こる問題が有り、素子製造に適する良好なp型SiCの製作技術は確立されていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、SiCに導入したアクセプター原子の電気的活性化率を高めるとともにアクセプター原子の熱拡散を抑制し、素子製作に適する良質なp型SiCを製作するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、炭化珪素半導体(SiC)に、アルミニウム(Al)及びホウ素(B)等のアクセプター原子をイオン注入により導入する時、これらの原子に加えて炭素(C)原子を付加的にイオン注入することで、SiCに注入したアクセプター原子の電気的活性化率を向上するとともに熱処理による拡散を抑制することからなる、良質なp型SiC半導体を製作する方法である。
【0005】SiCに導入したAlやBなどのアクセプター原子はSiCのSi原子位置に配置して電気的に活性化する。このため、本発明のC原子の付加的導入によりSi原子の空孔を増加させ、アクセプター原子がSi位置に配置するのを促進させることで、キャリアを発生できる有効なアクセプターの濃度を増加させることができる。
【0006】さらに、Si原子位置に配置したアクセプター原子の拡散速度は格子間位置にある場合と比べて遅いので、付加的C注入により熱処理時に起こるアクセプター原子の拡散が抑制できる。従って、付加的C注入により局所的に良好なp型SiCが作製できる。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明により、C原子の付加的導入によりSiCに注入したアクセプター原子の電気的活性化率が向上し、電気伝導を支配する正孔濃度が増大し、且つアクセプター原子の再分布が抑えられ、良質なp型SiCが形成される。以下、本発明を具体的な実施例にしたがって説明する。
【0008】
【実施例1】(付加的C原子の注入によるアクセプター原子の電気的活性化率の向上)n型六方晶SiC単結晶にAlあるいはB原子をイオン注入した後1630℃で30分間熱処理した半導体素子(Al、B注入量5×1018/cm3)とこれらのアクセプター原子に加えC原子を付加的に注入した後同様な熱処理を行った半導体素子(C注入量5×1018/cm3)を製作し、これらの素子の室温での正孔濃度を比較した。
【0009】図1(即ち、Al、B、C原子の注入量は5×1018/cm3であり、C原子は室温あるいは800℃で注入し、Al、B原子は室温で注入し、注入後の熱処理は1630℃で30分間実施した。)に示されるとおり、C原子を付加的に注入することにより正孔濃度が増加し、アクセプター原子の電気的活性化率を向上させることができた。さらに、この付加的Cイオン注入は高温で行うとその効果が増大する。実際、800℃の高温でC原子の付加的注入を行うと、室温注入と比べてさらに正孔濃度が増加し、Alの場合では約2倍、Bの場合では約10倍正孔濃度を増加させることできた。
【0010】
【実施例2】(付加的C注入によるアクセプター原子の拡散の抑制)n型六方晶SiC単結晶にB原子をイオン注入した後1700℃で30分間熱処理した半導体素子(B注入量5×1018/cm3)とC原子を付加的に注入した後同様な熱処理を行った半導体素子(C注入量5×1018/cm3)を製作し、素子中のB原子の深さ方向濃度分布を調べた。
【0011】図2(B及びC原子は室温で注入し、注入量は5×1018/cm3であり、注入後の熱処理は1700℃で30分間実施した。)に示されるとおり、付加的Cイオン注入を行わない場合は、熱処理後、注入したB原子の約30%しか素子内に留まらないが、付加的C注入を行うとBの拡散が抑制され、注入したB原子総量の約90%を素子内に残留させることができた。
【0012】
【発明の効果】本発明により、アクセプター原子に加えC原子を付加的に注入することにより良質なp型SiCが作製でき、SiC半導体素子の品質が向上するとともに、アクセプター原子の拡散が抑制されるため、イオン注入後の熱処理によるアクセプター原子の消失濃度を考慮する必要がなくなり、素子設計が容易になるという効果が生じる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 n型六方晶SiC単結晶にB、Al原子をイオン注入した半導体素子の室温での正孔濃度に対する付加的C注入の効果を示す図である。
【図2】 n型六方晶SiC単結晶にイオン注入したB原子の深さ方向濃度分布の熱処理による変化に対する付加的C注入効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 炭化珪素半導体(SiC)にイオン注入によりアクセプター原子を導入する時、これらの原子に加えて炭素(C)原子を付加的にイオン注入することで良質なp型SiCを製作する方法。
【請求項2】 SiCに注入したアクセプター原子の熱処理による拡散を、C原子の付加的イオン注入により抑制する方法。
【請求項3】 アクセプター原子がアルミニウム(Al)及びホウ素(B)である特許請求範囲第1項及び第2項記載の方法。
【請求項4】 特許請求範囲第1項及び第2項におけるCイオン注入を800℃以上で行う方法。
【請求項5】 特許請求範囲第1項及び第2項において、付加的Cイオン注入後に1630℃以上で熱処理して、アクセプター原子の活性化率を向上する方法。

【図1】
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【図2】
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