説明

炭化珪素単結晶の製造方法

【課題】 結晶多形の変態を制御し、所望の4H−炭化珪素単結晶を得ることができる方法を提供する。
【解決手段】 SiとCを含む原料を融解した融液に炭化珪素単結晶基板を接触させ、前記基板上に炭化珪素単結晶を成長させることを含む炭化珪素単結晶の製造方法において、
a)前記種結晶基板を前記融液表面と接触させて単結晶を成長させた後に、この種結晶基板を前記融液表面から離して単結晶の成長を中断させる工程、及び
b)再び前記種結晶基板を前記融液表面と接触させて単結晶を成長させる工程
からなるサイクルを少なくとも1回以上行うことを含み、前記種結晶が6H−炭化珪素単結晶又は15R−炭化珪素単結晶であり、得られる単結晶が4H−炭化珪素単結晶であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、格子欠陥の発生を防ぎ、所望の4H−炭化珪素単結晶を製造することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は、熱的、化学的に非常に安定であり、耐熱性及び機械的強度に優れていることから、耐環境性半導体材料として用いられている。また、炭化珪素は結晶多形構造を有することが知られている。この結晶多形とは、化学組成が同じであっても多数の異なる結晶構造をとる現象であり、結晶構造においてSiとCとが結合した分子を一単位として考えた場合に、この単位構造分子が結晶のc軸方向([0001]方向)に積層する際の周期構造が異なることにより生ずる。
【0003】
代表的な結晶多形としては、2H、3C、4H、6H及び15Rがある。ここで最初の数字は積層の繰り返し周期を示し、アルファベットは結晶系を表し、Hは六方晶系を、Rは菱面体晶系を、そしてCは立方晶系を表す。各結晶構造はそれぞれ物理的、電気的特性が異なり、その違いを利用して各種用途への応用が考えられている。例えば、4Hは高周波高耐電圧電子デバイス等の基板ウエハとして、また6Hはバンドギャップが約3eVと大きいため青色LEDの発光素子材料として用いられており、3Cは結晶の対称性が高く、電子の移動度も大きいため、高速で動作する半導体素子材料として期待されている。
【0004】
ところで従来、炭化珪素単結晶の成長方法としては、気相成長法、アチソン法、及び溶液成長法が知られている。
【0005】
気相成長法としては、昇華法(改良レリー法)と化学反応堆積法(CVD法)がある。昇華法は、炭化珪素粉末を原料として、2000℃以上の高温下で昇華させ、Si及びSiC,SiCガスを低温にされた種結晶基板上で過飽和とさせ、単結晶を析出させる方法である。CVD法は、シランガスと炭化水素系のガスを用い、加熱したSiなどの基板上において化学反応により炭化珪素単結晶をエピタキシャル成長させる方法であり、炭化珪素単結晶薄膜の製造に用いられている。
【0006】
アチソン法は、無水ケイ酸と炭素を2000℃以上の高温に加熱して人造研磨剤を製造する方法であり、単結晶は副産物として生成する。
【0007】
溶液法は、炭素を含む材料(一般には黒鉛)からなるるつぼを用い、このるつぼ内で珪素を融解して融液とし、この融液にるつぼから炭素を溶解させ、低温部に配置された種結晶基板上に炭化珪素を結晶化させ、その結晶を成長させる方法である。
【0008】
しかしながら、上記の昇華法により製造した単結晶にはマイクロパイプ欠陥と呼ばれる中空貫通状の欠陥や積層欠陥などの多種の格子欠陥が存在することが知られている。さらに昇華法では結晶成長条件と多形転移が密接に関わっているため、格子欠陥制御と多形制御を両立させることが困難であり、結晶多形が生じやすいという欠点を有する。
【0009】
またCVD法ではガスで原料を供給するために原料供給量が少なく、生成する炭化珪素単結晶は薄膜に限られ、デバイス用の基板材料としてバルク単結晶を製造することは困難である。
【0010】
アチソン法では原料中に不純物が多く存在し、高純度化が困難であり、また大型の結晶を得ることができない。
【0011】
一方、溶液法では、格子欠陥が少なく、また結晶多形が生ずることも少ないため、結晶性の良好な単結晶が得られるとされている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0012】
【特許文献1】特開2000−264790号公報
【特許文献2】特開2002−356397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
単結晶の製造は、特定方向に結晶を成長(積層)させて行うが、昇華法等の気相法では、ある積層を境にこれまでとは異なる性質の単結晶が成長するという、結晶多形の変態が生ずる。一方、溶液法では結晶多形の変態を防ぐことができるが、得られる結晶構造は種結晶と同じものであり、結晶多形の変態を制御し、種結晶の結晶構造にかかわらず、所望の結晶構造の炭化珪素単結晶を得ることはできなかった。
【0014】
ところで、上記のように、4H−炭化珪素単結晶は電子移動度、禁制帯幅や絶縁破壊電解が大きく、また電気伝導の異方性が小さく、さらにはドナーやアクセプタ準位が比較的浅いことから、現在最もデバイス応用に適していると考えられている。しかしながら、種結晶として用いるレリー結晶(レリー法で作製されたSiC結晶)にはほとんど4H−炭化珪素が存在しない。また、溶液法でもレリー結晶を種結晶として用いているため、4H−炭化珪素種結晶を製造することは困難であった。
【0015】
本発明は、このような問題を解消し、6H−炭化珪素単結晶もしくは15R−炭化珪素単結晶を種結晶として用い、結晶多形を変態させ、6Hもしくは15Rから所望の4H−炭化珪素単結晶を得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記問題点を解決するために1番目の発明によれば、SiとCを含む原料を融解した融液に炭化珪素単結晶基板を接触させ、前記基板上に炭化珪素単結晶を成長させることを含む炭化珪素単結晶の製造方法において、下記工程a)及びb)
a)前記種結晶基板を前記融液表面と接触させて単結晶を成長させた後に、この種結晶基板を前記融液表面から離して単結晶の成長を中断させる工程、及び
b)再び前記種結晶基板を前記融液表面と接触させて単結晶を成長させる工程
からなるサイクルを少なくとも1回以上行うことを含み、前記種結晶が6H−炭化珪素単結晶又は15R−炭化珪素単結晶であり、得られる単結晶が4H−炭化珪素単結晶であることを特徴とする。
【0017】
2番目の発明では1番目の発明において、前記原料がAlを3〜45at%含む。
【0018】
3番目の発明では1番目の発明において、前記原料がSnを1〜20at%含む。
【0019】
4番目の発明では1番目の発明において、前記原料がGeを1〜30at%含む。
【0020】
5番目の発明では1番目の発明において、前記融液の温度が前記原料の融点〜2300℃である。
【0021】
6番目の発明では1番目の発明において、前記融液が、その内部から種結晶と接触する表面に向かって10〜45℃/cmの温度勾配を形成する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、溶液成長法に準じて結晶を成長させることにより、マイクロパイプ欠陥等の格子欠陥のない炭化珪素単結晶が得られる。さらに、結晶の成長過程において、成長を中断させることにより、6Hや15Rの異形の種結晶から結晶形を変態させて4H−炭化珪素単結晶を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の炭化珪素単結晶の製造方法を具体的に説明する。まず、本発明の炭化珪素単結晶の製造方法に用いる製造装置の構成について図1を参照して説明する。この製造装置はチャンバー1を備え、このチャンバー1内にはるつぼ2が配置されている。るつぼ2の内部には、SiとCを含む原料4が充填される。るつぼ2として黒鉛製のるつぼを用いる場合、Cはこのるつぼ2から溶融してくるため、原料に添加しなくてもよい。るつぼ2の周囲には加熱装置3が配置され、るつぼ2の上方には種結晶基板5が引き上げ棒6の先端に配置されている。図示していないが、引き上げ棒6には冷却装置が接続され、種結晶基板5を所定の温度に冷却できるようになっている。
【0024】
この製造装置を用いて炭化珪素単結晶を製造する方法について説明する。まず、るつぼ2の内部に原料4を充填し、その後チャンバー1内を真空にした後、例えばAr等の不活性ガス雰囲気としてチャンバー1内を大気圧もしくはそれ以上に加圧する。加熱装置3によりるつぼ2を加熱し、原料4を溶融させ、SiとCを含む融液を形成する。次いで、引き上げ棒6を下降させ、種結晶基板5を融液の表面と接触させる。接触を続けることにより、種結晶基板5上に単結晶が成長し、炭化珪素単結晶を得ることができる。
【0025】
従来の溶液法では、種結晶基板上における結晶の成長にあわせて引き上げ棒を徐々に引き上げ、融液と種結晶基板を接触させながら結晶を成長させていた。本発明では、種結晶として6H−炭化珪素単結晶又は15R−炭化珪素単結晶を用い、工程a)及びb)
a)前記種結晶基板を前記融液表面と接触させて単結晶を成長させた後に、この種結晶基板を前記融液表面から離して単結晶の成長を中断させる工程、及び
b)再び前記種結晶基板を前記融液表面と接触させて単結晶を成長させる工程
からなるサイクルを少なくとも1回以上行い、結晶成長の中断を1回もしくは複数回行うことを特徴としている。
【0026】
このように結晶成長を途中で中断させ、次いで再び成長させることにより結晶多形の変態がみられ、種結晶である6H−炭化珪素単結晶又は15R−炭化珪素単結晶基板上に4H−炭化珪素単結晶が得られる。結晶の成長を途中で中断させることにより多形変態がおこる理由は明らかではないが、結晶成長を中断させることにより、種結晶と融液との接触により種結晶上に不安定な結晶が形成し、多形変態しやすい状態になっており、再度融液に接触させた際に成長過程の結晶表面に熱応力によって圧縮応力が生じ、表面エネルギーに変化を与える。その結果、結晶の再配列、安定化を促し、より安定な結晶形である4Hを形成することにより上記の応力が緩和され、結果として4H−単結晶が形成されると考えられる。従って、この結晶成長の中断は複数回繰り返すことが好ましいと考えられる。また、中断時間は、上記の応力を緩和させるに十分な時間を確保することが好ましく、種結晶の結晶形によっても異なり、積層状態が比較的4H−SiCに近い15R結晶を種結晶として用いる場合には短時間でもよいが、積層状態が4H−SiCとは大きく異なる6H結晶を種結晶として用いる場合には比較的長く中断時間を確保する必要がある。一般には、1回の中断時間は1時間以上とし、中断回数(サイクル回数)は1〜30回とすることが好ましい。
【0027】
この融液の温度は、融液の状態を確保するため、前記原料の融点以上であればよく、1800℃以上の温度域でもっとも安定した4H−炭化珪素単結晶を得ることができる。また融液の温度は2300℃以下とすることが好ましい。2300℃を超えると、融液からSiが激しく蒸発する問題が生ずるからである。また安定な結晶成長層を確保するため、前記融液が、その内部から種結晶と接触する表面に向かって10〜45℃/cmの温度勾配を形成することが好ましい。
【0028】
さらに、前記融液中に、Al、Sn、又はGeが存在することが好ましい。これらの元素を添加することにより、より安定的に4H−炭化珪素単結晶を得ることができ、また得られる単結晶の表面平滑性が向上する。これらの元素の添加量は、融解させる原料の、Alの場合3〜45at%、Snの場合1〜20at%、Geの場合1〜30at%であることが好ましい。
【実施例】
【0029】
実施例1〜7
図1に示す装置を用い、黒鉛製るつぼに珪素粒子と各種添加元素を所定量添加し、表1に示す条件において炭化珪素単結晶を成長させた。結果を以下の表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
得られた結晶成長層の結晶形はラマンスペクトルにより確認した。表1に示す結果より、結晶成長の過程においてこの成長を中断させることにより、6H−炭化珪素種結晶及び15R−炭化珪素種結晶のいずれの表面にも4H−炭化珪素単結晶を形成することができた。
【0032】
比較例1〜5
実施例の方法に準じ、ただし結晶成長の過程においてこの成長を中断させることなく連続的に結晶成長を行った。条件及び結果を以下の表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示す結果より、結晶成長の中断を行わないと、すべての条件において4H−炭化珪素に変位することはなく、ほとんどの場合において、用いた種結晶の結晶形と同じ結晶形の結晶が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の炭化珪素単結晶の製造方法に用いる製造装置の構成を示す略図である。
【符号の説明】
【0036】
1 チャンバー
2 るつぼ
3 加熱装置
4 原料
5 種結晶
6 引き上げ棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiとCを含む原料を融解した融液に炭化珪素単結晶基板を接触させ、前記基板上に炭化珪素単結晶を成長させることを含む炭化珪素単結晶の製造方法であって、下記工程a)及びb)
a)前記種結晶基板を前記融液表面と接触させて単結晶を成長させた後に、この種結晶基板を前記融液表面から離して単結晶の成長を中断させる工程、及び
b)再び前記種結晶基板を前記融液表面と接触させて単結晶を成長させる工程
からなるサイクルを少なくとも1回以上行うことを含み、前記種結晶が6H−炭化珪素単結晶又は15R−炭化珪素単結晶であり、得られる単結晶が4H−炭化珪素単結晶であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記原料がAlを3〜45at%含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記原料がSnを1〜20at%含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記原料がGeを1〜30at%含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記融液の温度が、前記原料の融点以上、2300℃以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記融液が、その内部から種結晶と接触する表面に向かって10〜45℃/cmの温度勾配を形成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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