説明

炭粉末の高充填化した成形体の作製

【課題】炭粉末の持つ有効な吸着機能を損なわず、空隙を確保しながら高充填化して、高吸着で、かつ再生利用可能な成形体を作製する。
【解決手段】炭粉末の粒度分布を最適にして、高充填化を実現し、繋ぎ剤として天然の樹脂を炭粉末と混捏し、加熱圧縮、加圧冷却して空隙のある成形体を作製する。成形体の高機能な吸着性を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
炭粉末の粒度分布を最適化して、高充填化を実現し、繋ぎ剤として天然の樹脂を炭粉末と混捏し、加熱圧縮、加圧冷却して空隙のある成形体を作製する。成形体の高機能な吸着性を実現する。
【背景技術】
【0002】
炭粉末の成形体に関する従来の技術について、必ずしも明確ではないが、古くから炭材の調湿機能を生かして、書庫や墳墓などの周辺に埋めて内容物の保存を図るなどの使われ方をしていた。近年や有害物質の空中への放出を防止する材料として技術開発されている。
【0003】
「活性炭の合板製造方法」 特開平11-114922および「炭と熱可塑性樹脂繊維を原料とするボード等成形品およびその製造方法」特開2001-26906に竹材を使用した成形体が記載されている。
【特許文献1】特開平11-114922
【特許文献2】特開2001-2690
【0004】
従来の内装材(合板)は、それに使われている接着剤がホルマリンを含んでいるために、有害物質を放出しているが、「活性炭の合板製造方法」は、数種類の原料を水に混合して、極超音波を与えながら加熱して作った接着剤を使用して、活性炭合板を作製しているため、健康を阻害するホルムアルデヒドを放出しないことを特徴としている。
【0005】
「炭と熱可塑性樹脂繊維を原料とするボード等成形品及びその製造方法」は接着剤を使用せず、炭と熱可塑性樹脂を混合して堆積し熱圧縮し、溶着させた成形品であるが、成形過程で発生するホルマリンを組成分である炭材が吸着することを特徴とする内装材である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭材の有効な吸着機能を損なわないために、炭粉末を接着する際に、炭粉末が持つ微細気孔を潰さず接着する。
【0007】
高吸着機能を確保するために、炭粉末の樹脂への充填率を最大にして、高充 填化する。
【0008】
炭粉末に接合材を混捏して作製する成形体の中に空隙を確保する。これらにより成形体の吸着機能を最大にする。
【0009】
成形体の表面の細孔を確保し,通気性を図る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
繋ぎ剤として天然系親油性樹脂(樹脂酸、脂肪酸-カプロン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、脂肪酸エステル、低分子パラフィン系、マンナン、アラビアゴム、シエラックなど)、天然系親水性樹脂(澱粉、キサンタンガム、ジュランガム、カラギーナン、プルラン、寒天、カルボキメチルセルロース系、グルコース系、トレハロース系など)を使用する。
【0011】
溶媒に繋ぎ剤及び分散剤としての界面活性剤を添加して懸濁液を調整する。炭粉末に対して噴霧処理を施し、粉末表面に繋ぎ剤を固着させる。表面処理をした炭粉末を成形する。
【0012】
また、炭粉末の粒度分布をFuller曲線に近づくよう調整することにより高充填化を実現する。
【0013】
粒度分布を制御して、空隙を形成して通気性を高める。
【発明の効果】
【0014】
炭粉末の高充填は、以前の方法・材料を使うことによって、可能となった。結果、多孔質も十分に維持されVOCの吸着量も大量であると実証された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
木炭を粉砕し、粒度別に選別する。粒度により選別された炭粉末を一定の割合で配合し,さらに天然系親油性樹脂を一定の割合で加えて紺捏する。この炭粉末を乾燥させた後、所定の容器に移し加熱圧縮、加熱冷却して成形体を作製する。
【0016】
(製造手段1)本発明を実施例で説明する。なお百分比表示は全て容積比である。
【0017】
炭材をその原料、製造方法による炭の種類に応じて分類して、粗粉砕し、順に細粉砕する。原料として、全ての木材を利用できるが、杉、桧および竹の間伐材を使用することを前提にしている。また炭の製法は黒炭(精錬度3以上)、白炭(精錬度3以下)に分ける。
【0018】
分類し粉砕した炭粉末を選別機を通して、粒度により、それぞれを大1m/m以上 中1m/m未満〜100μ以上 小100μ未満の3種類に選別する。
【0019】
本発明は、臭気や空気中の揮発性有機化合物(VOC)を吸着除去するものであるので、それぞれの目的に応じて、粒度及び炭の種類の配合比率を設定し、配合する。
(1)臭気(アンモニア、イソ吉草酸、ノネナールなど)の吸着を目的とする成形体
木炭(黒炭)70% 竹炭30% 粒度 中以下100%
(2)揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド、トルエンなど)の吸着を目的とする成形体。
竹炭70% 木炭(白炭)30% 粒度 中以上 90% 小10%
【0020】
目的別に配合した炭粉末に繋ぎ剤を加えて表面処理を施し、混捏機に充填し、目的別に設定した条件で混捏する。
(1)臭気(アンモニア、イソ吉草酸、ノネナールなど)の吸着を目的とする成形体。
混捏量(L) 攪拌時間
1.8 5〜11分
3.6 6〜14分
5.4 7〜16分
(2)揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド、トルエンなど)の吸着を目的とする成形体。
混捏量(L) 攪拌時間
1.8 10〜17分
3.6 11〜19分
5.4 12〜21分
【0021】
成形金型の内面に、目的別に、配合し混捏した炭粉末を充填し、厚みの均一処理を3回行う。仮加圧を行った後、再度均一化処理を行う。
(1)臭気(アンモニア、イソ吉草酸、ノネナールなど)の吸着を目的とする成形体。
加圧(Mpa)
18〜25
(2)揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド、トルエンなど)の吸着を目的とする成形体。
加圧(Mpa)
20〜27
【0022】
配合し混捏した炭粉末を、成形金型ごと乾燥機に入れ、温度60℃〜70℃、湿度10%以下で3時間、その後湿度12%以上で再乾燥する。
【0023】
配合し混捏した炭粉末を充填した成形金型を加熱プレス機に装着して、目的毎の条件で加熱圧縮する。
(1)臭気(アンモニア、イソ吉草酸、ノネナールなど)の吸着を目的とする成形体。
加熱温度(℃) 加圧力(Mpa) 加熱時間(分)
100〜180 15〜30 5〜10
(2)揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド、トルエンなど)の吸着を目的とする成形体。
加熱温度(℃) 加圧力(Mpa) 加熱時間(分)
100〜180 25〜35 6〜12
【0024】
加熱圧縮処理した、配合し混捏した炭粉末を冷却プレス機に装着して、目的毎の条件で加圧冷却する。以上の工程により、炭粉末は成形体として完成する。
(1)臭気(アンモニア、イソ吉草酸、ノネナールなど)の吸着を目的とする成形体。
冷却温度(℃) 加圧力(Mpa) 冷却時間(分)
20以下 18.〜25 8〜15
(2)揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド、トルエンなど)の吸着を目的とする成形体。
冷却温度(℃) 加圧力(Mpa) 冷却時間(分)
20以下 16〜20 10〜17
【0025】
成形金型から炭成形体を取り出し、裁断機で所定のサイズに切断する。
【0026】
炭成形体を30〜40℃の温湯に漬け、5分間静置する。その後20℃の流水で表面を研磨する。
【0027】
(製造手段2)つぎに繋ぎ剤の炭粉末表面への付着方法についての実施例を4例説明する。なお、ここでの百分率表示は全て重量比である。
【0028】
乾式混合 V型ブレンダー、ヘンシエルミキサー、リボンミキサー等の機器を使用し、天然系親油性樹脂(樹脂酸、脂肪酸((カプロン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸))脂肪酸エステル、低分子量パラフィン系、マンナン、アラビアゴム、シエラック)、あるいは天然系親水性樹脂(澱粉、キサンタンガム、ジュランガム、カラギーナン、プルラン、寒天、カルボキメチルセルロース系、グルコース系、トレハロース系)を、炭粉末に直接混合する。
【0029】
湿式混合 炭粉末、溶媒(水またはアルコール)に繋ぎ剤及び分散剤としての界面活性剤(炭粉末に対して0.5%、アニオン系、カチオン系、両性系、非イオン系界面活性剤中心とした乳化剤;水またはアルコール)に繋ぎ剤及び分散剤としての界面活性剤を添加して、懸濁液を調整する。この懸濁液を濾過して乾燥させ、繋ぎ剤が固着した炭粉末を作製する。
【0030】
噴霧乾燥混合 溶媒(水またはアルコール)に繋ぎ剤及び分散剤としての界面活性剤(アニオン系、カチオン系、両性系、非イオン系界面活性剤中心とした乳化剤;ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル)を添加して懸濁液を調整する。炭粉末に対して噴霧処理を施し、炭粉末表面に繋ぎ剤を固着させる。固着剤を乾燥後の繋ぎ剤と炭粉末への付着状態のモデル構造を図1に示す。炭粉末の表面は親油性であるため、繋ぎ剤は臨界表面張力が炭粉末に近い親油性の特性を有するものが最適である。それ故、噴霧処理における親水性繋ぎ剤は、炭粉末への固着性は弱くなっている。
【0031】
スプレードライ式手法 繋ぎ剤を微紛化して,溶媒(水またはアルコール)及び界面活性剤(アニオン系、カチオン系,両性系、非イオン系界面活性剤中心とした乳化剤;ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル)を添加して、懸濁液を調整する。圧縮空気により懸濁液を乾燥空気中に噴霧して、球状の顆粒状粉末を作製する。図2にスプレードライ法による顆粒状粉末のモデル図を示す。
(実験1)炭の混合法の違いによる影響(表1)
乾式混合と比較して、湿式混合、噴霧乾燥混合、スプレードライ法により作製した炭粉末を用いた成形体は、高強度比重が大きい特徴を有する。また、炭粉末への繋ぎ剤の付着から考えると、炭粉末用繋ぎ剤としては、天然系親油性樹脂の方が、耐久性が良好で高強度の成形体が製作できる。
【表1】

【0032】
(製造手順3)次に、粒度分布による成形体の高充填化の実施例を説明する。
【0033】
実験により、炭粉末の粒度分布について、次の1次式を得た。
D=aInDp+b
D:累積重量% Dp:粒径サイズ a,bは炭粉末固有の定数
【0034】
粒度分布係数aの値が小さくなりにつれ、粒度分布は広がり、炭粉末のサイズの異なる粉末を調整できる。
【0035】
充填する炭粉末を高充填化するには、大粒子と大粒子の間隙、小粒子が配置される形態が最終モデルとして認知される。(最終的にはFuller曲線に近似)
【0036】
さらに、炭粉末の形状を球状に近づけることにより、高充填化を実現することが出来る。
【0037】
(実験2)
図3には、粒度分布の状態を示すパラメーター(粒度分布係数)aと炭粉末の樹脂への最大充填容積を示す。aが小さくなるにつれ、最大充填容積は増加している。また、aが大きくなるにつれ最大充填率は低下してランダム散漫充填率50%に近づく。
【0038】
(製造手順4)次に炭粉末に接合剤を混捏して作製する成形体の中に空隙を確保し、通気性を図る。
【0039】
粒度分布係数aを広げることにより、微粒子の装填を抑える事が出来るため、大粒子と大粒子との間隙が広がり通気性の向上が期待できる。
(実験3)通気性を付与した炭成形体の作製
炭成形体中に空気層を含む事により、揮発性有機化合物(VOC)等の移動が容易となりガス吸着性が優位に働く。これは、炭成形体の通気性改善により空気の移動が向上して炭粉末の細孔が有効に作用するためと推察できる。炭成形体の通気性改善策としては、以下の点が考えられる。ここでは、実用的な細孔制御技術として、粒度分布に着目して、空隙のある炭成形体を作製した。
実用例1〜9において、各種処理方法における曲げ強さ、比重及び空気透過性を測定した。その結果を表2に記載する。粒度分布が狭いもの、スプレードライ法による炭粉末を作製したものの空気透過性が良好である点が判る。ここでのISO通気度はJISP8117に準拠して測定した。
図4は、炭粉末の粒度分布係数aとISO通気度の関係を示す。aが大きくなるにつれISO通気度は大きくなり通気性のある炭成形体の作製が可能になる。ISO通気度3は、帆布の通気度と同程度である。図5は、炭粉末粒度分布係数aと比重との関係である。
通気度と同様粒度分布係数との相関性がある点が窺える。図6には、曲げ強さに及ぼす粒度分布依存性を示したが、粒度分布係数aが低下するにつれ曲げ強度が低下した。
【表2】

【0040】
炭材を粉末にして、有効な吸着機能を損なわず、空隙を確保しながら、高充填化した成形体であるために、炭材の持つ吸着機能を大幅に圧縮することができた。
【0041】
炭粉末を高充填化した成形体と自然の炭材を同一の体積で比較した場合に、成形体は10倍以上に高充填化される。吸着機能を実現する気孔も高充填化され、その機能は非常に強大になる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】繋ぎ剤の炭粉末への付着状態
【図2】繋ぎ剤の炭粉末への付着状態
【図3】粒度分布と最大充填容積との関係
【図4】粒度分布係数とISO通気度との関係
【図5】粒度分布係数と比重との関係
【図6】粒度分布係数と曲げ強さとの関係
【図7】炭粉末成形体のSEM画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭粉末の粒度分布を最適にし、高充填化すること。
炭粉末の高充填化を実現し繋ぎ剤として天然系親油性樹脂を炭粉末と混捏して,加熱圧縮、加圧冷却して空隙のある成形体を作製する場合に使用する炭粉末の粒度分布体。
【請求項2】
繋ぎ剤として使用する天然系親油性樹脂。
炭粉末の高充填化を実現しうる繋ぎ剤と混捏して、加熱圧縮、加圧冷却して空隙のある成形体を作製する場合に使用する天然系親油性樹脂。
【請求項3】
繋ぎ剤の炭粉末表面への付着方法。
炭粉末の高充填化を実現し繋ぎ剤と混捏して、加熱圧縮、加圧冷却して空隙のある成形体を作製する場合に空隙を確保するための繋ぎ剤の粉末表面への付着方法。
【請求項4】
炭粉末成形体の空隙。
請求項3の方法により表面処理された炭粉末を使用して空隙のある炭成形を作製する方法。
【請求項5】
表面処理した炭粉末を用いた加圧処理した得られた微細気孔を堅持し空疎のある炭成形体を作製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−94828(P2010−94828A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265024(P2008−265024)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(500010565)有限会社植田木工 (1)
【Fターム(参考)】