説明

炭素−炭素二重結合を含む炭化水素の脱ハロゲンに用いるアルミナの再生方法

【課題】ハロゲンを固定化することにより有機化合物の非共役炭素−炭素二重結合に対する異性化能が増大した組成式AlOで表わされる成分を含む無機固体処理剤の再生方法
【解決手段】組成式AlOで表わされる成分を含む無機固体処理剤を、アンモニアまたは有機アミン類に接触させ、該処理剤の前記異性化能を低下させることを特徴とする前記無機固体処理剤の再生方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物、無機物またはこれらの混合物の形態で、不純物としてオレフィン性化合物中に微量に残留するフッ素を、アルミナ含有無機処理剤を用いて除去する方法に関し、その際オレフィン性化合物の非共役炭素−炭素二重結合が異性化することを実質的に抑制する新規な方法を提供し、該処理剤を再生する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
米国特許第4,605,808号明細書(特許文献1)においては、アルコールを錯化剤とする三フッ化ホウ素錯体触媒を用いてイソブテンを重合することにより、末端ビニリデン構造を有する分子を高い割合で含有するブテンポリマーを得ることが提案されている。この末端ビニリデン構造を高い割合で含有するブテンポリマーは、無水マレイン酸等との間でマレイン化反応が高率で進行するため工業的に有用である。マレイン化されたブテンポリマーは、最終的には、燃料油または潤滑油の添加剤などとして使用されるので、使用時または廃棄時に燃焼し、燃焼ガスとして大気中に放出される。
【0003】
しかしながら、ナフサ分解から得られるC留分からブタジエンを抽出した残りのいわゆるブタジエンラフィネートをイソブテン原料として用い、アルコールを錯化剤とする三フッ化ホウ素錯体触媒により重合する場合等においては、得られるブテンポリマー中にフッ素として数十〜数百ppmの有機フッ素化合物が不純物として残留していることが認められる。このフッ素化合物等の残留フッ素は燃焼の際に大気中に放出され、場合により大気汚染の原因となるので、残留フッ素を軽減することが望まれている。
なお、アルコールを錯化剤とする三フッ化ホウ素錯体触媒を例に取り説明したが、塩化アルミニウムまたはその錯体触媒によりイソブテンやブタジエンラフィネートを重合する場合も塩素が残留することがあり、同様の問題がある。
【0004】
ところで、Cオレフィンや重合体等をアルミナと接触させる一般的な精製方法については、アルミナの吸着能が優れていることから従来いくつかの提案がなされている。
しかしながら、たとえば前記米国特許明細書の記載に従って得た、末端ビニリデン構造を高い割合で含有し、かつフッ素として数十〜数百ppmの有機フッ素を不純物として含有しているブテンポリマーをアルミナと接触させると、処理の進行とともに副反応である次の式〔1〕に示す末端ビニリデン構造の異性化反応が顕著になり、結局長期運転の場合にはアルミナ処理により末端ビニリデン構造の含有率が低下することが判明した。
CH3(CH3)2C[CH2(CH3)2C]nCH2C(CH3)=CH2

CH3(CH3)2C[CH2(CH3)2C]nCH=C(CH3)2
・・・・・・〔1〕
別途製造したフッ素化合物を含まないブテンポリマーを同様にアルミナで処理する場合には、上記式〔1〕の異性化反応はさほど著しくないところから、この末端ビニリデン構造の含有率が低下する現象は、アルミナ自体が異性化反応促進効果を有するとして説明することはできない。
【0005】
上記の例では、末端ビニリデン構造の含有率が高いブテンポリマー中に含まれるフッ素化合物の除去について説明したが、ブタジエンラフィネートを含フッ素系触媒により重合した残りの未反応C留分についても同様の問題がある。
すなわち、上記残りの未反応C留分は、一般にそのまま燃料として燃焼するか、または高密度ポリエチレンの密度調整のためのコモノマーとして有用な1−ブテンを分離除去した後に同じく燃料として使用するため、同様に未反応C留分中に混入する残留フッ素濃度が問題になる。この場合にもやはり、アルミナ含有無機物による脱フッ素が有効かつ経済的であるが、アルミナ処理により前記式〔1〕と同様に1−ブテンの異性化が生じ得る。特に未反応C留分を1−ブテンの供給源として供する場合には、1−ブテンから2−ブテンへの異性化を抑制することが重要な課題となる。
【0006】
本発明者らは、上記の異性化現象について鋭意検討を行ったところ、アルミナが元来有する酸点とは別に、アルミナに固定されたフッ素原子によりアルミナに新たな酸点が生成し、それによりアルミナ自身の異性化能が変質し、その結果上記異性化反応が促進されることが分った。
すなわち、アルミナに固定されたフッ素原子はアルミナ上で新たな強いルイス酸点を形成すると推測され、この新規に形成された強ルイス酸点が、脱フッ素のための接触処理に際して非共役炭素−炭素二重結合の異性化反応を促進すると考えられる。このような異性化能は、脱フッ素処理によって除去したフッ素、すなわちアルミナとの接触処理によりアルミナに固定されたフッ素の総量に応じて増大する。
【0007】
ここで、たとえば特公平6−28725号公報(特許文献2)においては、オレフィンを、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含浸させたアルミナ化合物により精製することを提案している。すなわち、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含浸させることによりオレフィンの異性化を抑制し得るとしている。
しかしながら、上記公報に提案されているアルカリ金属またはアルカリ土類金属を添加する方法では、フッ素に代表されるハロゲンを除去する能力の点ではむしろ低下することが認められるため好ましくないのみならず、さらに重大な欠点が存在する。
【0008】
すなわち、前記特公平6−28725号公報に提案されている、あらかじめ一定量のアルカリ金属等を含浸させることにより異性化能を低く抑えたアルミナを用いる場合には、たとえ脱フッ素処理が可能であっても、その処理により新たな強いルイス酸点が形成され、その強酸点を中和するためのアルカリ金属等が酸点の増加に対応できず不足する。その結果、一定量以上除去したフッ素の総量に応じて、次第に炭素−炭素二重結合の異性化が起こり始める。しかしながら、あらかじめ大過剰のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含浸させたアルミナを用いると、過剰のアルカリによる弊害が生じ、フッ素に代表されるハロゲンを除去する能力はむしろ低下するので好ましくない。
このように、前記特公平6−28725号公報に提案されている、あらかじめアルカリ金属等を含浸させたアルミナの場合には、フッ素除去が不十分であるとともに、たとえ除去が可能であっても寿命が格段に短いという致命的な問題を有している。
本発明が目的とするアルミナの異性化能の抑制は、脱フッ素処理により新たに形成される強いルイス酸点を選択的に中和し、それにより異性化能を弱体化あるいは無害化することによるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,605,808号公報
【特許文献2】特公平6−28725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、不純物として微量のハロゲン化合物、たとえばフッ素化合物を含有し、かつ骨格に1個以上の非共役炭素−炭素二重結合を有する有機化合物の残留フッ素濃度を低減するために、アルミナを含有する無機処理剤と接触させる場合において、脱フッ素の過程で形成される新たな強いルイス酸点により生ずる前記炭素−炭素二重結合の異性化を抑制しつつ接触処理を行う方法を提供することにある。
さらに他の課題は、脱フッ素処理により異性化能が増大してもなお脱フッ素能を有するアルミナについて、増大した異性化能を選択的に低下させ再度接触処理に用いる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すでに説明したように、残留フッ素を不純物として含有するオレフィンとアルミナとを単に適当な条件で接触させるのみでは、脱フッ素の処理量の増大に応じて新たに生成するルイス酸によってアルミナの異性化能が徐々に増大し、やがては、脱フッ素能力が残っているにもかかわらず、増大した異性化能のためにアルミナ処理を中止する必要が生じる。
本発明者らは、有機塩基性物質を用いて新たに生成するルイス酸点を逐次選択的に中和等により無害化し、異性化能を実質的に無害化して異性化能の増大を防ぐことにより上記の課題を解決した。
【0012】
すなわち、本発明は、微量のハロゲン化合物を含み、かつ1分子中に1個以上の非共役炭素−炭素二重結合を有する有機化合物を、アルミニウム原子を含有する処理剤に接触させてハロゲン除去を行うに際し、有機化合物の前記炭素−炭素二重結合の異性化を抑制するために十分な量の有機塩基性物質を反応系中に共存させることを特徴とする微量のハロゲンを除去する方法に関するものである。
さらに、本発明において、処理剤が組成式AlOで表わされる成分を含む無機固体処理剤である、微量のハロゲンを除去する方法に関する。
また、本発明において、無機固体処理剤がアルミナである、微量のハロゲンを除去する方法に関する。
また、本発明において、ハロゲン化合物がフッ素化合物である、微量のハロゲンを除去する方法に関する。
また本発明において、有機塩基性物質がアンモニアまたは有機アミン類である、微量のハロゲンを除去する方法に関する。
また本発明において、処理剤と有機化合物との接触温度が0℃以上350℃以下、好ましくは20℃以上300℃以下である、微量のハロゲンを除去する方法に関する。
また本発明において、微量のハロゲン化合物を含み、かつ1分子中に1個以上の非共役炭素−炭素二重結合を有する有機化合物を、アルミニウム原子を含有する処理剤に連続的に接触させてハロゲン除去を行うに際し、有機化合物中に、有機化合物の前記炭素−炭素二重結合の異性化を抑制するために十分な量の有機塩基性物質を連続的にまたは断続的に供給することを特徴とする前記微量のハロゲンを除去する方法に関するものである。
【0013】
さらに本発明は、含ハロゲン触媒によりイソブテンを重合してなる末端ビニリデン含有率の高いブテンポリマーを、アルミニウム原子を含有する処理剤に接触させてハロゲン除去を行うに際し、ブテンポリマー中に、末端ビニリデン基の異性化を抑制するために十分な量の有機塩基性物質を共存させることを特徴とする微量のハロゲンを除去する方法に関するものである。
また、含ハロゲン触媒によりイソブテンを重合してなる末端ビニリデン含有率の高いブテンポリマーを、アルミニウム原子を含有する処理剤に連続的に接触させてハロゲン除去を行うに際し、ブテンポリマー中に、末端ビニリデン基の異性化を抑制するために十分な量の有機塩基性物質を連続的または断続的に供給することを特徴とする、微量のハロゲンを除去する方法に関するものである。
さらに本発明において、イソブテンが、50重量%未満の1−ブテン、50重量%未満の2−ブテン、100重量%未満のイソブテン、50重量%未満のブタン類、および10重量%未満のブタジエンからなるC供給原料である、微量のハロゲンを除去する方法に関する。
【0014】
本発明においては、残留ハロゲン含有量が1ppm以上、および末端ビニリデン基含有量が60%以上のブテンポリマーを、アルミニウム原子を含有する処理剤と接触させてハロゲン除去を行うに際し、末端ビニリデン基の異性化を抑制するために十分な量の有機塩基性物質を反応系中に共存させながらハロゲン除去を行うことにより、残留ハロゲン含有量が40ppm以下、および末端ビニリデン基含有率が処理前の該含有率の60%以上に維持されたブテンポリマーを製造する方法に関するものである。
さらに、処理後のブテンポリマー中の残留フッ素含有量が40ppm未満であるブテンポリマーを製造する方法に関する。
また、処理後のブテンポリマーの末端ビニリデン基の含有率が、処理前の含有率の70%以上を維持している、ブテンポリマーを製造する方法に関する。
【0015】
本発明は、微量のハロゲン化合物を含むモノオレフィンを、アルミニウム原子を含有する処理剤と接触させてハロゲン除去を行うに際し、モノオレフィンの炭素−炭素二重結合の異性化を抑制するために十分な量の有機塩基化合物を反応系中に共存させることを特徴とする微量のハロゲンを除去する方法に関するものである。
本発明は、微量のハロゲン化合物を含むモノオレフィンを、アルミニウム原子を含む処理剤と連続的に接触させてハロゲン除去を行うに際し、モノオレフィン中に、モノオレフィンの炭素−炭素二重結合の異性化を抑制するために十分な量の有機塩基化合物を連続的または断続的に供給することを特徴とする微量のハロゲンを除去する方法に関するものである。
本発明は、微量のハロゲン化合物を含むモノオレフィンが、含ハロゲン系触媒による接触作用を受けたモノオレフィンである、微量のハロゲンを除去する方法に関する。
本発明は、含ハロゲン系触媒による接触作用を受けたモノオレフィンが、含ハロゲン系触媒を用いてC供給原料からブテンポリマーを製造した残りの未反応C留分である、微量のハロゲンを除去する方法に関する。
【0016】
本発明は、ハロゲンを固定化することにより有機化合物の非共役炭素−炭素二重結合に対する異性化能が増大したアルミニウム原子を含む処理剤を、有機塩基性物質に接触させ、上記処理剤の異性化能を低下させることを特徴とするアルミニウムを含む処理剤の再生方法に関するものである。
本発明は、処理剤が組成式AlOで表わされる成分を含む無機固体処理剤である、アルミニウムを含む処理剤の再生方法に関する。
本発明は、無機固体処理剤がアルミナである、アルミニウムを含む処理剤の再生方法に関する。
【0017】
本発明の方法によれば、残留ハロゲン、たとえば残留フッ素を不純物として含有するオレフィン性化合物から、着目する副反応である非共役炭素−炭素二重結合の異性化を実質的に起こすことなく、有効かつ経済的にハロゲン、たとえばフッ素を除去することができる。また脱ハロゲン能、たとえば脱フッ素能を低下させることなく、一旦増大した異性化能を低下させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、残留ハロゲンを不純物として含有するオレフィン性化合物から、副反応の非共役炭素−炭素二重結合の異性化を実質的に起こすことなく、有効かつ経済的にハロゲンを除去し、それに用いたアルミナを再生することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明において処理の対象とする有機化合物は、1分子あたり1個以上の異性化し得る非共役炭素−炭素二重結合を有し、かつアルミナに吸着し得る不純物として微量のハロゲン化合物、たとえばフッ素化合物、塩素化合物等を含有するものである。アルミナに対して不活性であれば、上記有機化合物は、分子中に酸素やリンなどのヘテロ原子や、芳香族環などの各種官能基を有することができる。
またその分子量も特に限定されず、低分子量側はCオレフィン、たとえばブテン以上であり、高分子量側はダイマーなどのオリゴマー領域からポリマーまでを含むことができる。具体的には分子量数十万程度までの有機化合物を用いることができる。
上記有機化合物は、非共役炭素−炭素二重結合を有するが、芳香族環二重結合や共役二重結合も処理に影響を及ぼさない限り含むことができる。また、非共役炭素−炭素二重結合は、異性化し得るものである限り、1分子中に2個以上含まれていてもよい。
【0020】
上記有機化合物の例としては、異性化し得る非共役炭素−炭素二重結合を少なくとも1個有する不飽和炭化水素が挙げられ、このようなオレフィン性化合物の例としては、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、ビニルシクロヘキサン、4−メチル−1−ペンテン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテン、1−デセンなどの低分子量モノオレフィンが例示される。さらに、イソブテン等のオレフィンをモノマーとして重合することにより得られる、末端にビニリデン構造を有するポリイソブテンなどのオレフィンオリゴマーが挙げられる。すなわち、分子量としては、Cオレフィンなどの低分子量の領域から分子量数千のオーダーのオリゴマー、さらに数十万のポリマーまで広い範囲を含むことができる。
原料のオレフィン性化合物が液体であり、しかもその粘度が高い場合は、アルミナ等のアルミニウム原子を含む処理剤との接触効率を高めるため、不活性な溶媒で希釈することが好ましい。このような不活性な溶媒としては、ノルマルヘキサン、イソヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤が例として挙げられる。また粘度が適当な限り、後に述べるライトポリマーを用いることもできる。
【0021】
また、上記有機化合物に含まれる不純物としての微量のハロゲン化合物は、主として有機化合物の製造時に使用される含ハロゲン系触媒に起因して生成したものであるが、その他に原料中の触媒以外の不純物に起因するものが含まれることもある。
フッ素化合物の場合には、無機フッ素化合物、有機フッ素化合物またはこれらの混合物があり、たとえば、フッ化水素、三フッ化ホウ素、四フッ化珪素などの無機フッ素化合物や、2−フルオロ−2,4,4−トリメチルペンタンなどの有機フッ素化合物が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
またハロゲンが塩素である場合には,無機塩素化合物、有機塩素化合物またはこれらの混合物があり、たとえば、塩化水素、塩化アルミニウム等の無機塩素化合物や、2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタンなどの有機塩素化合物が挙げられる。
さらに高分子量のフッ化炭化水素、たとえばフッ素系触媒を用いてオレフィンを重合した際に副生する、分子量としてはモノマーまたはダイマー以上に相当するフッ化炭化水素などであってもよい。これらのハロゲン化合物、たとえばフッ素化合物の含有量は通常微量であり、また沸点等も上記有機化合物の沸点と近接しているために、蒸留等の通常の分離手段では分離除去が困難である。
【0022】
微量に含まれるハロゲン化合物の量は特に限定されないが、一般的にはハロゲン原子に換算して最高で数百ppmであり、場合により数重量%程度まで含有してもよい。いずれも主体である有機化合物に対していわば不純物であるため、前述のように除去する必要がある。一般にppmレベルの含有量のハロゲン化合物を除去することは、量が僅少であるために困難であるが、本発明の方法はこのような低含量の場合にも好ましく適用することができる。
【0023】
本発明において用いる有機化合物のうち、オレフィンオリゴマーとしては、前記のように含フッ素系触媒によりC留分を重合することにより得られる末端ビニリデン構造を有するブテンポリマーが挙げられる。このブテンポリマーは、不純物としてフッ素をフッ素原子換算で数ppm以上、通常は10〜数百ppm程度含み、そのフッ素は有機フッ素化合物、具体的にはフッ化炭化水素を形成していると考えられる。
さらに、上記C留分を重合した後の未反応C留分も、微量のフッ素化合物を含むものであるため本発明の処理の対象とすることができる。なお、この場合のフッ素も有機フッ素化合物と考えられる。
【0024】
次に、上記ブテンポリマーの製造について説明する。
ブテンポリマーは、反応器を備えた重合帯域(反応帯域)において、イソブテンまたはそれを含むC供給原料を連続的に重合することにより製造される。連続反応器としては、攪拌型反応器、ループ型反応器など、適切な除熱と攪拌を行うことができる任意の形式のものを採用することができる。重合帯域からは未反応成分、生成したブテンポリマーおよび触媒を含む反応液が流出する。
【0025】
供給原料の代表例としては、たとえばエチレンやプロピレン等の低級オレフィンを製造するために、ナフサ、灯油、軽油、ブタン等の炭化水素を熱分解するクラッカーまたは接触分解する流動接触分解(FCC)装置から流出するC留分から、ブタジエンを抽出等により除去したもの(ブタジエンラフィネート)が例示される。
留分の代表的な組成は、不飽和成分として、約1〜40重量%、好ましくは約10〜40重量%の1−ブテン、約1〜40重量%の2−ブテン、約10〜80重量%、好ましくは約40〜70重量%のイソブテン、および約10重量%未満、好ましくは約0.5重量%以下のブタジエン、ならびに飽和成分として約10〜30重量%のブタン類からなるものである(C4留分の合計を100重量%とする)。この組成範囲である限り特に限定されるものではなく、クラッカーのほか前記のようにFCCからの分解生成物などに含有されるイソブテンを含むC留分であってもよい。
そのほか、上記組成範囲にある限り、組成を適宜の手段により変更したものも使用することができる。具体的には、蒸留により組成を変更したり、イソブテンを追加してイソブテン濃度を増加させたり、軽度の重合によりイソブテンをオリゴマー化してイソブテン濃度を低減し、あるいは接触ヒドロ異性化等の反応により1−ブテン濃度を低減したもの、各種の物理的または化学的操作により組成を変化させたものなどを使用することができる。
留分は、イソブテンの含有率が大きいほど好ましい。しかしながら、たとえばブタジエンラフィネートにおいても、イソブテンの含有量は最大70重量%程度である。FCCなどからのC留分では通常さらに低い。
【0026】
イソブテンの重合反応における触媒としては含フッ素系触媒が用いられるが、この場合には生成物であるブテンポリマー中に微量のフッ素化合物が混入する。なお、塩化アルミニウムまたはその錯体触媒等を使用することもでき、この場合には塩素化合物が不純物として混入する。
用いる含フッ素系触媒としては、その使用により生成物中に微量のフッ素化合物が混入する限り特に限定されない。具体的には三フッ化ホウ素系触媒のほか、二価ニッケル化合物をハロゲン化ヒドロカルビルアルミニウムおよびトリフルオロ酢酸と接触させて得られる触媒、たとえば、ニッケル・ヘプタノエートとジクロロエチルアルミニウムおよびトリフルオロ酢酸との相互作用により形成されたもの等が例示される。なお、この二価ニッケル系の含フッ素系触媒は特開昭57−183726号公報に提案されている。
【0027】
好ましい含フッ素系触媒は三フッ化ホウ素系触媒であり、この場合には三フッ化ホウ素として、原料のイソブテン1モルに対して0.1〜500ミリモルの割合で重合帯域中に供給する。本発明により得られるブテンポリマーの分子量の調整は、反応温度と触媒投入量を調節することにより行うことができる。触媒としての三フッ化ホウ素がこの範囲より少ないと反応が進行し難く、一方これより多いときはブテンポリマーの分子量が低くなる上に触媒コストが増大して経済的でないため、いずれも好ましくない。
【0028】
さらに好ましい三フッ化ホウ素系触媒は、含酸素化合物を錯化剤とする錯体触媒である。三フッ化ホウ素と錯体を形成する含酸素化合物としては、水、アルコール類、エーテル類、たとえばジアルキルエーテル類が例示される。水、アルコール類、ジアルキルエーテル類またはそれらの混合物は、錯化剤として、原料中のイソブテン1モルに対し合計で0.03〜1,000ミリモルの割合で重合帯域に供給することができる。錯化剤がこの範囲より多いと反応が進行し難く、一方これより少ないと副反応等が大量に生起するため、いずれも好ましくない。
【0029】
上記の水、アルコール類、ジアルキルエーテル類等はいずれも反応系内において三フッ化ホウ素と錯体を形成する。したがって、水、アルコール類、ジアルキルエーテル類またはその混合物等の錯化剤と三フッ化ホウ素とからなる錯体を重合帯域外において別途に予備調製し、これを反応系に供給する方法を採用してもよいが、さらに、三フッ化ホウ素と上記錯化剤とを別個に供給し、重合帯域内において錯体を形成させる方法も本願の重合態様の一つとして採用することができる。このように別個に三フッ化ホウ素および錯化剤を重合系に供給する場合においても、C炭化水素供給原料に対する錯体成分としての三フッ化ホウ素、水、アルコール類およびジアルキルエーテル類の供給割合は、それぞれ前記と同様の範囲にすることができる。
原料中の水分やイソブテン濃度の変動にすばやく対応して安定した性状のブテンポリマーを製造するためには、三フッ化ホウ素の量および錯化剤とのモル比を迅速に上記の変化に対応して調整することが有利であり、そのためにはこのように、水、アルコール類、ジアルキルエーテル類またはその混合物を、三フッ化ホウ素とは別個に反応系に供給する方法がより好ましい。
【0030】
具体的な錯化剤としてのアルコール類およびジアルキルエーテル類は以下の通りである。
アルコール類としては、芳香族またはC〜C20の脂肪族アルコールが例示され、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノールあるいはベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1,4−ブタンジオール等が挙げられる。上記C〜C20の脂肪族アルコール類の炭素骨格は、分岐度に制限がなく、直鎖アルキル基、sec−、tert−等の分岐アルキル基または脂環式アルキル基、あるいは環を含むアルキル基でも差し支えない。これらのアルコールは、単独でまたは適宜の割合で混合して使用することができる。
【0031】
ジアルキルエーテル類としては、芳香族またはC〜C20の脂肪族の同一または異なる炭化水素基を有するジアルキルエーテルが例示される。具体的には、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルブチルエーテル、エチルブチルエーテル、プロピルブチルエーテル、ジペンチルエーテル、あるいは、フェニルメチルエーテル、フェニルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、シクロヘキシルエチルエーテル等が挙げられる。上記C〜C20の炭化水素基の骨格は、分岐度に制限がなく、直鎖アルキル基、sec−、tert−等の分岐アルキル基または脂環式アルキル基、あるいは環を含むアルキル基でも差し支えない。これらジアルキルエーテルは、単独でまたは適宜の割合で混合して使用することができる。
なお、水、上記アルコール類およびジアルキルエーテル類等の錯化剤は、その一種以上を適宜の割合で混合して使用することもできる。
【0032】
三フッ化ホウ素系触媒による重合は、液相重合であり、重合温度は−100℃〜+50℃、好ましくは−50℃〜+20℃の範囲である。この範囲より低温ではイソブテンの重合速度が抑制される。一方、これより高温になると異性化や転位反応等の副反応が起こり、本発明の目的生成物を得ることが困難になる。
【0033】
重合の形式は、回分式および連続式のいずれによっても、末端ビニリデン構造の含有率の高いブテンポリマーを製造することができる。しかし、工業的生産の観点からは、連続式による方法がより経済的かつ効率的であるので、以下、連続式重合を例にとり説明する。
一般に連続式では供給原料の触媒との接触時間が重要であり、本発明による重合反応においては、接触時間として5分〜4時間の範囲であることが望ましい。接触時間が5分未満では十分なイソブテンの転化率が得られず、また、反応熱の除去に過大な設備が必要になる。一方、4時間を超えると経済的な損失も多く、また触媒と長時間接触するため、生成したブテンポリマーの異性化や転位反応等の副反応が促進される。したがって、いずれの場合も好ましくない。
【0034】
重合後、重合帯域からは、前記の通り未反応成分ならびに生成したブテンポリマーおよび触媒を含む反応液が流出する。
次の工程においては、上記反応液について、常法に従い、適宜の失活剤、たとえば水、アルカリ水、アルコール等により触媒を失活させる。
触媒の失活後、必要に応じ中和および水洗を行って触媒残渣を除去し、適宜に蒸留を行うことにより未反応のC成分を除去してブテンポリマーを得る。またこのようにして得たブテンポリマーは、さらに適宜に蒸留を行って軽質分(以下「ライトポリマー」ということがある)と重質分に分けることができる。
【0035】
上記のように、重合触媒として三フッ化ホウ素を、錯化剤として水、アルコール、ジアルキルエーテル等を用い、イソブテンを液相重合することによって、全末端基に対して末端ビニリデン基を60モル%以上の高い割合で含むブテンポリマーを得ることができる。しかしながら、このブテンポリマー中には触媒に由来する残留フッ素がフッ素原子換算で1ppm以上、通常は5ppm以上、場合によっては最高数百ppmの濃度で含まれている。この残留フッ素は、常法により失活およびそれに続く水洗を行っても除去することが困難な有機フッ素である。次に、本発明において行う脱フッ素のためのアルミナ処理について説明する。
【0036】
本発明においては、アルミニウム原子を含む処理剤に接触させることにより有機化合物中に含まれるハロゲン化合物を除去する。ハロゲン化合物中のハロゲン原子は、アルミニウムを含む処理剤中に固定化され、その結果としてハロゲン除去が行われる。アルミニウム原子を含む処理剤は、好ましくは組成式AlOで表わされる成分を含む無機固体処理剤である。AlOで表わされる成分を含む限り、天然または合成の無機物を用いることができる。具体的な無機固体処理剤としてはたとえば、アルミナ、シリカ・アルミナなどを例示することができる。好ましくはアルミナである。これらは適宜のバインダーを用いて成型したものでもよい。たとえば、市販のアルミナを適宜に粉砕し、分級して用いることができる。固体処理剤としての表面積は特に限定されないが、通常は1〜500m/gの範囲である。
また、本発明の効果を阻害しない限り、アルミナに適宜にアルカリ金属、アルカリ土類金属またはその他の金属を、酸化物、水酸化物あるいはその他の形態で含浸しあるいはその他の方法により適宜担持させて変性したものを用いることもできる。しかしながら、通常は、特にこのような担持・変性は必要がなく、ナトリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量が0.5重量%以下のアルミナが用いられる。このように担時・変性を全くまたはほとんど行わないアルミナは安価であり、この点においても本発明は有利な方法である。
【0037】
アルミナを含有する無機固体処理剤に接触させるブテンポリマーは、触媒の失活を行った後のものであることが必要であるが、失活および水洗後に蒸留を行うか否かについては制限がない。
粘度が高い場合は、アルミナとの接触効率を高めるため、不活性な溶媒で希釈することが好ましい。このような不活性な溶媒としては、ノルマルヘキサン、イソヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤が例として挙げられるが、回収した前記ライトポリマーを溶媒として使用することもできる。
【0038】
アルミナを含有する固体無機処理剤とブテンポリマーとを接触させる際の温度は、処理剤の種類および使用する有機塩基性物質の量によって異なるが、好ましくは0℃〜350℃、さらに好ましくは20℃〜300℃の範囲である。この範囲より処理温度が高い場合には残留ハロゲン濃度は低減されるが、処理対象物であるオレフィン性化合物の分解が起こり始め、一方、温度が低い場合には残留ハロゲン濃度が低減されなかったり、十分な低減効果が得られないため、いずれも好ましくない。
【0039】
アルミナを含有する固体無機処理剤とブテンポリマーなどの有機化合物との接触時間は、残留ハロゲンの低減が可能である限り特に制限されないが、通常約1分〜10時間の範囲が好ましい。この範囲より短い場合は接触が一般に不十分であり、長い場合は設備費が増大して好ましくない。
接触のための方法としては、回分式または連続式のいずれも可能である。連続式の場合は、固定床式、流動床式などの方法によることができる。流れの方向もアップフローおよびダウンフローのいずれも採用することができる。
【0040】
脱ハロゲンのためにアルミニウム原子を含有する処理剤にブテンポリマーなどの有機化合物を接触させる際には、処理剤に固定化されたハロゲン原子、たとえばフッ素原子により強い酸点が新たに生成し、この強い酸点に起因して有機化合物中の非共役炭素−炭素二重結合が異性化を起こす現象が見られる。たとえば、脱ハロゲン処理の対象の有機化合物が末端ビニリデン基を多量に含むブテンポリマーなどである場合には、脱ハロゲン処理によりハロゲンは除去されるが、ビニリデン基の二重結合の位置が移動する異性化が起こり、高いビニリデン基の含有割合が低下する結果になる。その他ブテン−1等が脱ハロゲン処理の対象であるときには、ブテン−1がブテン−2に異性化するという副反応が見られる。
【0041】
その対策として、本発明においては脱ハロゲン処理の反応系中に有機塩基性物質を共存させる。すなわち、微量のハロゲン化合物を含みかつ1分子中に1個以上の非共役炭素−炭素二重結合を有する有機化合物を、アルミニウム原子を含有する処理剤に接触させてハロゲン除去を行うに際し、有機化合物の前記炭素−炭素二重結合の異性化を抑制するために十分な量の有機塩基性物質を反応系中に共存させながらハロゲン除去を行う。なお、脱ハロゲンのための処理剤、たとえばアルミナをあらかじめ有機塩基性物質により処理しておく方法は、前記異性化反応が脱ハロゲンにより新たに生成する強い酸点に起因するため効果が少ない。
【0042】
有機塩基性物質を共存させる具体的な方法としては、たとえば、固定床あるいは流動床などにより連続的に有機化合物とアルミナを接触させて脱ハロゲンを行う場合には、有機化合物からなる流体中に有機塩基性物質を連続的に供給して共存させる方法を採用することができる。
また、連続的に接触させる場合に、有機塩基性物質を適宜に断続的に流体中に供給することもできる。断続的に有機塩基性物質を供給する場合には、有機化合物とアルミナとの接触処理が進行して、その結果アルミナの異性化能が増大し始める前または増大し始めた直後に有機塩基性物質の供給を開始することが好ましい。
【0043】
さらに、有機塩基性物質を共存させることなく脱ハロゲン処理を継続し、脱ハロゲン能は一定のレベルに維持されているがハロゲンの固定化によりアルミナの異性化能が増大した場合に、有機塩基性物質を接触させて、それにより脱ハロゲン能を維持しながら異性化能を低下させアルミナを再生することもできる。
この方法の1つとして、たとえば固定床形式で連続的に一定量の有機化合物の脱ハロゲン処理を行った後に、処理対象物の供給を停止して、別途に有機塩基性物質を系内へ供給してアルミナに接触させることにより、増大した異性化能を低下させてアルミナ処理剤を再生することができる。あるいはまた、回分式で一定量の有機化合物の脱ハロゲン処理を行った後、有機化合物を抜き出し、代わりに有機塩基性物質を投入してアルミナと接触させることにより、増大した異性化能を低下させてアルミナ処理剤を再生することもできる。
【0044】
ここで用いる有機塩基性物質の量は一般的には微量であるため、通常は不活性ガスまたは液体により希釈してアルミナに接触させることが好ましい。不活性ガスまたは液体としては窒素、空気等の気体のほか、ノルマルヘキサン、イソヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤が例として挙げられ、前記ライトポリマーを回収し希釈剤として使用することもできる。もちろん、脱ハロゲン処理の対象である有機化合物自体を希釈剤に用いることもできる。
【0045】
本発明において用いる有機塩基性物質としては、アンモニアその他の塩基性含窒素化合物が例示され、具体的な塩基性含窒素化合物としては第一、第二および第三級の有機アミン類である。これらはカルボキシル基などの弱酸部分を分子内に有するものであってもよい。
有機アミン類の例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ジイソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、アニリン、ベンジルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチルペンタミンなどのアミン類、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミンなどのアミン類、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンなどのオキシアミン類、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノールなどのヒドロキシルアミン類、あるいはピリジン、アミノピリジンなどのピリジン類などが例として挙げられ、また、β−アラニンなどのアミノ酸類でも有効であるが、特にこれらに制限されるものではない。好ましくは弱塩基として分類される塩基性物質である。
【0046】
本発明で用いる有機塩基性化合物は、脱ハロゲン処理を行った後に、通常は脱ハロゲン処理の対象物である有機化合物から分離される。したがって、たとえば処理対象としての有機化合物との沸点差が十分に大きい化合物を選択すれば、簡便な分離操作である蒸留を利用して容易に分離することができるので好ましい。
【0047】
用いる有機塩基性物質の量は、有機化合物中の非共役炭素−炭素二重結合の異性化を抑制するために十分な量であればよい。前記のように、アルミニウム原子を含む処理剤に固定化されたハロゲン原子により新たに生成する酸点を中和するために有機塩基性物質を用いるが、このように新たに生成する酸点の量およびその酸点としての強さ等を正確に求めることは困難である。また二重結合の異性化に影響を与える酸点は酸強度の強いものであるが、具体的にその酸強度は各有機化合物によって異なる。
また、一般的に有機塩基性物質は、反応系内に過剰に存在しても脱ハロゲン処理自体には大きく影響しない。過剰である場合の不利益としては、脱ハロゲン処理の後に多量の有機塩基性物質の分離操作が必要であるため不経済になることなどが挙げられる。
さらに有機化合物中における非共役二重結合の異性化の程度は、有機化合物を各種の機器を用いて分析することにより容易に判明することが多い。
【0048】
したがって、本発明における有機塩基性物質の量に関しては、有機化合物の非共役炭素−炭素二重結合の異性化を抑制するために十分な量を共存させるものとする。具体的には、有機化合物中に含まれるハロゲン化合物および処理剤中に固定化されたハロゲン原子の合計として、接触処理の反応系中に存在するハロゲン原子1モルに対し0.00001モル以上、好ましくは0.0005モル以上、さらに好ましくは0.001モル以上の量の有機塩基性化合物を処理の反応系に共存させることができる。上記の量を共存させれば、通常は、有機化合物の非共役炭素−炭素二重結合の異性化を抑制するために十分であると考えられる。
有機塩基性化合物の量がこの範囲より少ない場合には、十分異性化能を低減することができないので好ましくない。過剰に加える場合には、脱ハロゲン機能を阻害することは少ないが、前記のように過剰分の有機塩基性物質を回収するためのコストが増大する点で経済的に不利である。したがって、通常は、処理対象としてのオレフィン性化合物等の有機化合物中の残留ハロゲン原子1モルに対して200モル以下に制限することが適当である。
【0049】
有機塩基性物質を断続的に供給する場合には、フッ素等のハロゲン原子がアルミナに固定化されて生成した強い酸点による異性化能を抑制し得る量を用いる。具体的にはアルミナ上に固定されたハロゲン原子1モルに対して0.00002モル以上、好ましくは0.001モル以上、さらに好ましくは0.002モル以上の割合とする。
有機塩基化合物の量がこの範囲より少ない場合には、前記連続的に共存させる場合と同様の理由で好ましくない。また、過剰に加える場合には、脱ハロゲン機能を阻害することは少ないが、過剰分の有機塩基性物質を回収するためのコストが増大する点で経済的に不利である。したがって、通常は、アルミナ上に固定されたハロゲン原子1モルに対して200モル以下に制限することが適当である。
【0050】
共存させるべき有機塩基性物質の量に関する簡便な目安としては、有機化合物中に含まれる残留ハロゲン濃度(ハロゲン原子換算)が数%以下のレベルの場合には、処理する有機化合物に対して、1〜50,000ppm、好ましくは1〜10,000ppmの範囲から選択することができる。
その外、本発明における有機塩基性化合物の量を決定する場合において、処理剤に固定化されるハロゲン量としては、供給原料のハロゲン含量に基づいて計算により除去すべきまたは除去した量を求めた結果を用いることができる。たとえば、100ppmのハロゲンを含む原料を連続的に供給して脱ハロゲン処理を行い、目標値として5ppmまで低減する場合には、その差の95ppmを固定化させるべきハロゲン原子の量として上記アミン等の供給量を計算することができる。また、アミン等を共存させることなく、すでに一定量のハロゲンを処理した場合も同様に、脱ハロゲン処理前後のハロゲン原子の含有量の差を固定化したハロゲン量として、上記供給すべきアミン等の量を計算することができる。なお、この計算の結果たとえ有機塩基性化合物の供給量が過剰になることがあっても、このような計算による限り、過剰であることによる弊害は実際上無視し得る程度である。
【0051】
さらに、異性化能が増大したアルミナについて、脱ハロゲン能を維持しながら異性化能を低下させて再生するために有機塩基性物質と接触させる場合には、アルミナ上に固定されたハロゲン原子1モルに対して0.00001モル以上、好ましくは0.0005モル以上の範囲の量を接触させる。この場合は単なる再生であり脱ハロゲン反応を行うものではないので、有機塩基性物質の量に上限値はない。しかしながら、著しく過剰に用いるときは、過剰分の回収処理等の点で不経済である。通常はアルミナ含有無機物上に固定されたハロゲン原子1モルに対して最高200モルの有機塩基性物質を均一に接触させれば十分である。
なお、この再生における温度等の条件は、適宜に選ぶことができる。温度はたとえば−100〜+400℃の範囲から選択することができる。脱ハロゲン処理を同時に行わず、有機塩基性物質の処理により増大した異性化能を低下させるための再生のみを行う場合には、脱ハロゲン処理の場合よりも温和な条件を選択することができる。
【0052】
脱ハロゲンのための接触処理を行った後、過剰の有機塩基性物質や、溶媒を使用した場合には溶媒などを適宜に蒸留等により除去すれば、残留ハロゲン濃度の低減されたオレフィン性化合物等の有機化合物を得ることができる。
本発明の脱ハロゲン処理により、オレフィン性化合物等の有機化合物中の残留ハロゲン濃度がハロゲン原子換算で40ppm以下まで低減され、かつ非共役炭素−炭素二重結合の異性化率が40%未満、好ましくは30%未満、さらに好ましくは20%未満の低い値に保持されたオレフィン性化合物等の有機化合物が得られる。すなわち、末端ビニリデン構造の非共役二重結合を、脱ハロゲン処理前と比較し60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上の割合で維持することができる。
このように実質的に残留ハロゲンとして、たとえばフッ素などが存在しないので、得られたオレフィン性化合物等の有機化合物またはその変性物を燃焼する場合においても、大気中へのハロゲン、たとえばフッ素の放出が少なく、したがって環境保全の面においても有用である。
【実施例】
【0053】
<実施例1>
(重合工程)
4リットルの循環式反応槽に、エチレンクラッカーからのC留分のブタジエンラフィネートを毎時4リットルで供給し、イソブテンに対して0.15重量%の三フッ化ホウ素および0.14重量%のエタノールをそれぞれ別個に反応槽に供給した。反応温度−10℃で、連続的に重合を行った。ブタジエンラフィネートの組成を第1表に示す。分析はガスクロマトグラフィーにより行った(以下同様)。
【0054】
【表1】

【0055】
(失活、水洗工程)
上で得られた反応液を2%NaOH水溶液で処理して、触媒の失活および中和を行い、さらに脱イオン水で3回洗浄を行った後、乾燥して未反応C成分を蒸留で回収した。回収した未反応C成分を分析した結果、残留フッ素濃度は4.5ppmであった。その組成を第2表に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
(脱フッ素工程)
次いで、底面に流体入口および上面に流体出口を設けた容量10リットルの円筒形容器に200℃で2時間減圧乾燥した活性アルミナ(PROCATALYSE社、商品名:PSG−D25)を粉砕して粒径2mmから3.5mmに分級したものを充填し、この円筒形容器の流体入口に、先に回収した未反応C成分を供給するラインを取り付けた。アンモニアを未反応C成分に対して4ppmとなるように予め混合しておき、脱フッ素原料とした。
脱フッ素処理温度を210℃、アンモニアを混合した未反応C成分の流速を毎時100mlとし、脱フッ素処理開始後には、出口のガスを任意の時間ごとに1,000時間までサンプリングしてC成分の1−ブテンおよび2−ブテンの濃度と残留フッ素濃度を測定した。
処理後の残留フッ素濃度、および末端ビニリデン含有率の経時変化を第3表に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
<比較例1>
アンモニアを添加しない点以外は、全て実施例1と同様にして実験を行った。結果を第4表に示すが、明らかに1−ブテンが異性化して2−ブテンに変化している。
【0060】
【表4】

【0061】
<比較例2>
アルミナの代わりに乾燥窒素気流下において150℃であらかじめ加熱乾燥したシリカゲル(商品名:シルビード(Silbead)N、水澤化学工業(株)製)を円筒容器に充填し、処理温度を室温とした以外は、全て実施例1と同様の条件で実験を行った。
処理後のC成分中の1−ブテンおよび2−ブテンの濃度は処理前と比べて変化しておらず、異性化は見られなかったが、残留フッ素濃度は処理の初期においても4.0ppmであり除去効果は得られなかった。
【0062】
<実施例2>
(重合工程)
4リットルの循環式反応槽に、エチレンクラッカーからのブタジエンラフィネート(第1表と同じ)を毎時4リットルで供給し、イソブテンに対して0.15重量%の三フッ化ホウ素および0.14重量%のエタノールをそれぞれ別個に反応槽に供給した。反応温度−10℃で、連続的に重合を行った。
(失活、水洗工程)
得られた反応液を2% NaOH水溶液で処理して、触媒の失活および中和を行い、さらに脱イオン水で3回洗浄を行った。洗浄後、乾燥して未反応C成分およびライトポリマーを蒸留で留去することにより、数平均分子量1,300、末端ビニリデン基含有率91%、残留フッ素濃度76ppmのブテンポリマーを得た。
【0063】
(脱フッ素工程)
容量100ccの固定床容器に、200℃で2時間減圧乾燥した活性アルミナ(PROCATALYSE社、商品名:PSG−D25)を粉砕して粒径0.5mmから1.4mmに分級したものを充填した。
この充填容器に、先のブテンポリマー100重量部とトリエチルアミン400ppmを添加し、またイソパラフィン溶剤(商品名:日石アイソゾール300、日本石油化学(株)製)10重量部を添加して粘度調整したものを脱フッ素原料とした。
脱フッ素処理条件は、温度170℃、WHSV 1hr−1とした。脱フッ素処理の開始後、充填容器出口の処理液を任意の時間ごとに2,030時間までサンプリングを行い、ブテンポリマーの末端ビニリデン基含有率と残留フッ素濃度を測定した。なお、数平均分子量をGPC((株)島津製作所製)により、末端ビニリデン含有率をNMR(日本電子(株)製)により、また残留フッ素濃度をWickbold−比色法によりそれぞれ測定した。処理後の残留フッ素濃度、および末端ビニリデン基含有率の経時変化を第5表に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
<実施例3>
中和、水洗後の蒸留において、未反応C成分のみを留去した、ライトポリマーを含むブテンポリマーを脱フッ素原料(残留フッ素濃度188ppm)とし、トリエチルアミンの添加量を200ppmとした以外は、全て実施例2と同様の条件で実験を行った。結果を第6表に示す。
【0066】
【表6】

【0067】
<比較例3>
トリエチルアミンを添加せず、処理温度を110℃に下げ、その他は前記実施例2と同様に実験を行った。550時間までの結果を第7表に示すが、実施例1よりも温度を下げたにもかかわらず、ビニリデン構造の異性化が進行している。
【0068】
【表7】

【0069】
<実施例4>
(重合工程)
触媒および錯化剤としてイソブテンに対し0.82重量%の三フッ化ホウ素、0.89重量%のジエチルエーテルおよび0.02重量%のエタノールを使用した以外は、実施例1と同様に重合を行った。
(失活、水洗工程)
さらに実施例1と同様の失活、水洗工程を行って、数平均分子量1,462、末端ビニリデン基含有率88%、残留フッ素濃度7ppmのブテンポリマーを得た。
【0070】
(脱フッ素工程)
上記で得られたブテンポリマーを脱フッ素原料とし、ブテンポリマーに対して50ppmの濃度に相当する流量のアンモニアをアルミナ充填容器の入口手前で混合して、2MPaの加圧下で充填容器に供給した以外は、実施例1と同様に脱フッ素処理を行った。処理後の残留フッ素濃度、および末端ビニリデン含有率の経時変化を第8表に示す。
【0071】
【表8】

【0072】
<比較例4>
前記実施例2で得られた脱フッ素原料ブテンポリマー100mlに、乾燥窒素気流下において、150℃であらかじめ加熱乾燥したシリカゲル(商品名:シルビード(Silbead)N、水澤化学工業(株)製)27gを投入し、室温で1時間攪拌した。
処理後のブテンポリマーの末端ビニリデン基含有率は91%で異性化は見られなかったが、処理後の残留フッ素濃度は104ppmであり、ブテンポリマーのように分子量が大きい場合には、シリカゲルによる処理を行ってもフッ素を十分に除去することはできない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の方法は、残留ハロゲンを不純物として含有するオレフィン性化合物から、最大の副反応である非共役炭素−炭素二重結合の異性化を実質的に起こすことなく、有効かつ経済的にハロゲンを除去した無機固体処理剤を再生する方法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲンを固定化することにより有機化合物の非共役炭素−炭素二重結合に対する異性化能が増大した組成式AlOで表わされる成分を含む無機固体処理剤を、アンモニアまたは有機アミン類に接触させ、該処理剤の前記異性化能を低下させることを特徴とする前記無機固体処理剤の再生方法。
【請求項2】
前記組成式AlOで表わされる成分を含む無機固体処理剤がアルミナである請求項1に記載のアルミニウムを含む処理剤の再生方法。

【公開番号】特開2010−201425(P2010−201425A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122398(P2010−122398)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【分割の表示】特願平11−308723の分割
【原出願日】平成11年10月29日(1999.10.29)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】