説明

炭素ペレット製造方法、フラーレン又はカーボンナノチューブ製造方法及び炭素ペレット

【課題】
本発明の課題は、バインダを多量に使わなくても容易に炭素ペレットを製造する方法及びその炭素ペレットを提供することを目的とする。そして、製造された炭素ペレットを使用したカーボンナノチューブ又はフラーレンの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、気体中に浮遊する含炭素粒子を由来とする炭素混合物と、グラファイト状炭素とを混合することで、炭素混合物中の微量物質が炭素同士を接着する。そのため、炭素混合物中とグラファイト状炭素とを混合し、成型することで、多量のバインダを用いることなく、炭素単体の含有率が高い炭素ペレットを容易に製造することができる。そして、炭素ペレットが容易に製造できることから、従来手間と時間がかかっていた原料が容易に形成され、カーボンナノチューブ又はフラーレンを容易に製造することができる。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮遊粒子状物質や粒子状物質といった、気体中に浮遊し、炭素を含有する含炭素粒子を回収することで得られる炭素混合物を用いた炭素ペレットの製造方法、フラーレン又はカーボンナノチューブ製造方法及びその炭素ペレットに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素ペレットは、単体の炭素を主成分としたペレットである。例えば、カーボンナノチューブやフラーレンの製造などの原料として用いられ、この炭素ペレットを加熱し、蒸発させることで、カーボンナノチューブやフラーレンが製造される。炭素単体同士には、それぞれが接着する接着力がなく、粉末状の炭素単体をかなり高い圧力で長時間加圧する等、炭素単体のみでペレット状の塊にすることは困難である。従来、炭素のペレットは、炭素単体同士を接着するようなバインダを混合して形成されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平2−258613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、炭素単体同士には、接着力が無いため、炭素単体のみで炭素ペレットを製造するのは大変困難である。特に、カーボンナノチューブやフラーレンを製造しようとする場合、炭素単体の含有量を高くしなければならない。そのため、炭素ペレットを容易に製造するためのバインダを多量に使うことができず、ペレットの形成が困難である。
【0005】
そこで、本発明は上記実情に鑑み、バインダを多量に使わなくても容易に炭素ペレットを製造する方法及びその炭素ペレットを提供することを目的とする。そして、製造された炭素ペレットを使用したカーボンナノチューブ又はフラーレンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の炭素ペレットの製造方法は、気体中に浮遊する含炭素粒子の粒径を大きくする薬液の粒子と前記含炭素粒子とが接触する接触場で、前記接触場入口から流入する前記気体中の前記含炭素粒子に前記薬液の粒子を接触させる工程と、前記薬液の粒子との接触により粒径を大きくした前記含炭素粒子を回収する工程と、回収された前記含炭素粒子を精製して炭素混合物を得る工程と、精製された前記炭素混合物にグラファイト状炭素を混合する工程と、前記炭素混合物と前記グラファイト状炭素との混合物をペレット状に成型することで炭素ペレットを製造する工程とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の炭素ペレット製造方法によれば、気体中に浮遊する含炭素粒子を由来とする炭素混合物と、グラファイト状炭素とを混合することで、炭素混合物中の微量物質が炭素同士を接着する。そのため、炭素混合物中とグラファイト状炭素とを混合し、成型することで、多量のバインダを用いることなく炭素ペレットを製造することができる。また、この方法によって、従来よりも大きな炭素ペレットを製造することができる。
【0008】
このように成型されたペレットは、カーボンナノチューブ又はフラーレンの製造に利用することができる。すなわち、カーボンナノチューブ又はフラーレンの製造方法は、気体中に浮遊する含炭素粒子の粒径を大きくする薬液の粒子と前記含炭素粒子とが接触する接触場で、前記接触場入口から流入する前記気体中の前記含炭素粒子に前記薬液の粒子を接触させる工程と、前記薬液の粒子との接触により粒径を大きくした前記含炭素粒子を回収する工程と、回収された前記含炭素粒子を精製して炭素混合物を得る工程と精製された前記炭素混合物にグラファイト状炭素を混合し、ペレット状に成型する工程と、成型された炭素ペレットに対し、アーク放電又はレーザ照射を行うことでフラーレン又はカーボンナノチューブを製造する工程とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明のカーボンナノチューブ又はフラーレンの製造方法は、容易に形成された炭素ペレットに対してアーク放電又はレーザ照射を行う。したがって、従来手間がかかっていたカーボンナノチューブ又はフラーレンの原料となる炭素ペレットの形成が容易となり、容易にカーボンナノチューブ又はフラーレンを製造することができる。また、このように容易に形成される炭素ペレットは、従来よりも大きい形状のものとして提供できる。したがって、この1つの炭素ペレットから多くのカーボンナノチューブやフラーレンを製造することができる。すなわち、アーク放電又はレーザ照射を行う装置への1回の設置で製造できるカーボンナノチューブやフラーレン量が多くなり、単位時間当たりのカーボンナノチューブやフラーレンの製造量が多くなり、効率的にカーボンナノチューブやフラーレンを製造できる。
【0010】
そして、この炭素ペレットは上述の方法で製造されることで、ペレット内に硫黄化合物及び/又は硫黄単体が、元素分析値で0.35wt%以上2.0wt%以下含有する。これにより、バインダを含むことがないため、炭素単体の含有率が高い炭素ペレットをとなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の炭素ペレット製造方法は、気体中に浮遊する含炭素粒子を由来とする炭素混合物と、グラファイト状炭素とを混合することで、炭素混合物中の微量物質が炭素同士を接着する。そのため、炭素混合物中とグラファイト状炭素とを混合し、成型することで、多量のバインダを用いることなく、炭素単体の含有率が高い炭素ペレットを容易に製造することができる。そして、この炭素ペレットが容易に製造できることから、従来手間と時間がかかっていた原料が容易に形成され、カーボンナノチューブ又はフラーレンを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、まず、接触場で含炭素粒子の粒径を拡大する薬液と、薬液の粒子と含炭素粒子とを接触させる。
【0013】
本発明において含炭素粒子とは、無定形炭素、グラファイト等といった種々の炭素の同素体を示す元素状炭素の混合物からなる炭素粒子を含有する粒子状物質のことを示す。この含炭素粒子は、例えば、車両、船舶等の移動体や発電機(発電所を含む)やボイラーといった内燃機関でガソリン、軽油、灯油、A重油、B重油、C重油等といった化石燃料を燃焼させることで発生する排ガス中に含まれている粒子状の物質である。この元素状炭素からなる炭素粒子の他に、燃料や内燃機関により構成成分が異なるものの、炭酸塩炭素、ベンゾピレン、アントラセン等の多環芳香族炭化水素、1−ニトロピレン、ジニトロピレン等の多環芳香族炭化水素類のニトロ化誘導体、ブタン、ブテン、ヘキサン、ヘキセン、オクタン、オクテン、デカン、ドデカン等の鎖状炭化水素、アジピン酸、グルタル酸等のカルボン酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸などが含まれ、元素状炭素からなる炭素粒子の周囲に付着している。
【0014】
また、本発明において、高配向とは、炭素原子が所定通りに規則正しく並んだ結晶がきちんと配向した状態のことを示している。そして、高配向の炭素混合物とは、高配向の炭素を含有する混合物のことを示し、その中には、結晶構造の定まらない無定形の炭素も含まれていてもよい。
【0015】
そして、内燃機関等から排出される排気ガス中に含まれるこの含炭素粒子は、内燃機関や燃料や燃料の燃焼条件等により異なり、限定されるものではないが、大気等の気体中に浮遊する大凡10μm以下の大きさを有している。この大きさの粒子に下記で説明する薬液を接触させることで、含炭素粒子の粒径を大きくして、含炭素粒子を回収することができる。
【0016】
薬液は、植物の抽出によって得られる親油性成分0.01wt%〜1wt%と、植物の抽出によって得られる親水性成分20wt%〜25wt%とを含有する。本発明において使用する親油性成分と親水性成分を得るための植物は、特に限定するものではないが、ヒノキ科の植物、スギ科の植物、ブナ科の植物、マツ科の植物、ツバキ科の植物、イチョウ科の植物、イネ科の植物、シソ科植物が挙げられ、これらは含炭素粒子の粒径の拡大に効果的である。
【0017】
また、具体的には、ヒノキ科の植物として、青森産ヒバ、ヒノキ、台湾ヒノキ、エンピツビャクシン、セイヨウヒノキ、ネズミサシ、ベニヒ、ヒバ、ヒノキアスナロ等が挙げられる。青森産ヒバは、青森県を産地とするヒバをいい、この幹や枝や葉等からは、ロジン酸α−ツヤプリシン、β−ツヤプリシン、ヒノキチオール、ツヨプセン、セドロール、カルバクロールなどのフェノール類、ジペンテン、サビネン、ボルネオール、サビノールを中心としたモノテルペノイド、酢酸サビニル、セスキテルペノイドならびにヒバエンなどのジテルペノイド等の成分が抽出できる。
【0018】
また、台湾ヒノキは、台湾を主産地し、この葉や根等からは、α−ピネン、β−ピネン、カンフェン、p−シメン、γ−テルピネン、d−サビネン、テルピネオール、リナロール、ツヨプセン、β−エレメン、α−セドレン、エレモール、ビドロール、セドロール、ヒノキチオール、α−ツヤプリシン、トロポロイド、ヒノキチン等の成分が抽出できる。そして、ヒノキは、日本特産種で、その根や幹や葉等からは、α−ピネン、ボルネオール、γ−カジネン、α−カジノール、ヒノキオール等の成分が抽出できる。
【0019】
スギ科の植物として、スギ、イカリスギ、セコイア、メタセコイア等が挙げられる。スギは、日本の多くを産地とし、この幹や枝や葉等から、クリプトメリオール、クリプトメリジオール、δ−カジネン、β−オイデスモール、スギオール、スギネン、セスキテルペン、β−システロール、セスキテルペン、スギオール、ジペンテン、カヤフラバノン、ソテツフラボン、d−カテロール等の成分が抽出できる。
【0020】
ブナ科の植物として、ブナ、コナラ、クヌギ、クリ、ブナ、スダジイ等が挙げられる。ブナは、日本に広く分布し、この幹や枝や葉等から、フラボノイド類を含むブナ油等が抽出できる。コナラは、ナラとも呼ばれ、日本及び朝鮮半島に広く分布し、この幹や枝や葉等から、タンニン類等を含むナラ油等の成分が抽出できる。
【0021】
マツ科の植物として、アカマツ、クロマツ、ゴヨウマツ、カラマツ、トドマツ等が挙げられる。アカマツは、日本に広く分布し、この幹や枝や葉から、種々の成分を有するマツ油が抽出できる。
【0022】
ツバキ科の植物として、茶、ツバキ、サザンカ等が挙げられる。茶は、約300種の成分が含まれ、その葉や枝等から、シス−3−ヘキセノールおよびヘキサン酸エステル、トランス−2−ヘキセン酸エステル、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、シス−ジャスモン、ジャスモン酸メチル、インドール等の成分が抽出できる。
【0023】
イチョウ科の植物として、イチョウ、Baiera、Stenophyllum、Sphaenobaiera等が挙げられる。特に、東アジアを産地とするイチョウ類イチョウ目に属するイチョウの葉は、種々の成分を有するイチョウ油が抽出できる。
【0024】
イネ科の植物として、ホウライチク、ヤダケ、スズタケ、モウソウチク、マダケ、クマザサ、チシマザサ、アズマザサ、オカメザサ等が挙げられる。主に日本を含む東アジアを主産地とするホウライチク、ヤダケ、スズタケ、モウソウチク、マダケは、葉等から種々の成分を有するタケ油が抽出できる。また、クマザサ、チシマザサは、葉等から種々の成分を有するササ油が抽出できる。
【0025】
シソ科の植物として、ラベンダー等が挙げられる。ラベンダーは、フランス、イタリア、ハンガリー、ロシア南部、イギリス、北アメリカ、オーストラリア及び北海道等を主産地とし、このラベンダーの花等から、リナロール、酢酸リナリル、ラバンジュロール、酢酸ラバンジュリル、3−オクタノール、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、シネオール、シトロネラール等の成分が抽出される。
【0026】
上述の各成分は、植物の葉、花、種子、樹皮、果肉、果皮等から抽出され、水に不溶な親油性成分と、水に可溶な親水性成分とを有している。このうち、親油性成分は、一般に精油と呼ばれ、油状から半固体状で得られる揮発性物質である。この揮発性を利用して熱をかけることで植物から親油性成分を抽出することができる。この親油性成分には、テルペン系化合物、脂肪族鎖状化合物、芳香族化合物等も含有されている。また、この親油性成分中には、親水性成分を構成する親水性物質も含まれている。
【0027】
テルペン系化合物は、(Cなる分子式をもつ鎖状および環状の炭化水素で、母体のテルペン系炭化水素と同じ炭素骨格をもつアルコール、アルデヒド、ケトンその他の誘導体も含まれる。テルペン系化合物はイソプレン単位の数によって、ヘミテルペン(C)、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)、トリテルペン(C3048)、ポリテルペン(C等に分類される。
【0028】
一方、親水性成分は、上述した植物中に含まれる親水性物質を含有する水溶液である。この親水性成分は、植物中又は親油性成分中に含まれる親水性物質を水又は親水性の液体で抽出することで親水性物質を含有する水溶液として得られる。
【0029】
親油性成分及び親水性成分の抽出方法は、特に限定するものではないが、例えば水蒸気蒸留が挙げられる。この水蒸気蒸留は、親油性成分の沸点(通常、150〜350℃)より低い温度で行われるため、親油性成分の分解が生じるおそれはほとんどないという利点がある。また、親水性成分は、植物中の水分又は植物とともに入れられた水を蒸発させ、発生した蒸気とともに親水性物質が流出する。
【0030】
以下に、一例として台湾ヒノキの水蒸気蒸留によって、薬液の製造について説明する。ヒノキは、南限が台湾の阿里山、北限が福島県といわれる分布域を有するヒノキ科の常緑高木である。単にヒノキといえば日本特産種を指し、台湾産のものを台湾ヒノキという。台湾ヒノキからは、多くのテルペン類を含み、芳香成分であるヒノキチオールを含む精油が得られる。このような芳香成分はヒノキの心材の部分に存在するが、樹齢60年以上のヒノキになると心材の割合が80%に達するため、樹齢の古いものの方が親油性成分を多く含み好適である。
【0031】
水蒸気蒸留を行う台湾ヒノキの根の部分を、クラッシャーなどを用いて0.5〜1mm角程度の大きさのチップにする。このチップ約500kgをチップに含まれる水分を利用して、所定の温度で、水蒸気蒸留を行う。具体的には、約100〜120℃の温度で2〜6時間程度蒸留し、チップに含有されている親油性成分を蒸気とともに留出させる。温度及び時間は、チップにした木の含水量などにより適宜調節する。水蒸気蒸留によって植物から発生する蒸気を冷却すると、上述のような親油性成分と植物中の親水性物質及び水により構成される親水性成分とが2層に分離し、親油性成分と親水性成分が得られる。なお、使用するヒノキのチップの量によって、抽出時間、蒸留釜の大きさ、蒸留時間などは適宜調整することができる。
【0032】
この親水性成分と親油性成分とを所定の組成となるように混合することで、本発明で使用する薬液が得られる。例えば、混合後の水溶液の組成として、親油性成分を0.01wt%〜1wt%、親水性成分を20wt%〜25wt%となるように混合し、例えば室温から60℃で、30分から2時間以上攪拌することで得られる。この溶液を使用することにより、含炭素粒子を効率的に回収できるとともに、回収した含炭素粒子の精製が容易となる。
【0033】
また、得られた薬液には、必要に応じて適宜、ワックス類を添加してもよい。ワックス類には、天然ワックスと合成ワックスとに大別され、天然ワックスには、カルナウバワックス、木ろう、サトウロウなどの植物ワックスやミツロウ、昆虫ロウ、鯨ロウ、羊毛ロウなどの動物ワックスやパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックスやモンタンワックス、オゾケライトなどの鉱物ワックスが含まれる。また、合成ワックスには、カーボワックス、ポリエチレンワックス、塩素化ナフタレンワックスなどが含まれる。この薬液は、そのままで使用してもよく、さらに水を加えて適宜希釈して使用してもよい。
【0034】
接触場は、含炭素粒子と薬液の粒子とが接触する空間である。この接触場は、内燃機関の排出口から排出される含炭素粒子を含む排気ガスが流入する入口と、流入した気体が排出される出口とを有している。そして、この接触場には、上述した薬液を例えばスプレーノズル等で形成された細かな粒子が噴霧されるように流入する。これにより、効率的に薬液の粒子と含炭素粒子とを接触させることができる。含炭素粒子と薬液の粒子とを接触させることで、含炭素粒子の粒径を大きくする。含炭素粒子の粒径を大きくすることで、気体中に浮遊させにくくしたり、回収を容易とすることができる。接触場への薬液の流入方法としては、ヒータ等で加熱することで形成された粒子状の薬液を接触場に供給されても良い。含炭素粒子は、排気ガスに浮遊できないほど十分に粒径を大きくすると、接触場下方に落下する。
【0035】
接触場には、含炭素粒子を含む気体が流入するとともに、薬液の粒子が流入する。これにより、薬液の粒子と気体中の含炭素粒子とが接触する。このとき、薬液の粒子が含炭素粒子の周囲を取り囲むように付着する。このように薬液によって周囲が囲まれた含炭素粒子同士がこの薬液を介して接触し、含炭素粒子同士が凝集する。これを繰り返し、含炭素粒子が凝集拡大していくことで含炭素粒子の粒径が大きくなる。このように、薬液を使用することで、粒径を大きくした含炭素粒子の精製時間を短くすることができる。これは、含炭素粒子同士が凝集拡大して含炭素粒子の粒径を大きくする際に、薬液によって含炭素粒子中の未燃焼炭化水素化合物と、元素状炭素の結びつきが弱まり、含炭素粒子中の元素状炭素同士が集合したため、精製する際に余り大きなエネルギーを長時間使用する必要がなくなったためだと考えられる。また、薬液を使用することで、含炭素粒子から製造される炭素混合物は高配向となる。
【0036】
このとき、薬液の接触場への流入量は、特に限定するものではないが、含炭素粒子を排出する内燃機関で消費する燃料に対して流入量を多くすることで、より多く薬液を含炭素粒子に接触させることができる。これにより、より粒径の大きな含炭素粒子が形成される。すなわち、含炭素粒子に付着する薬液の量が多くなり、より元素状炭素の結びつきが弱まり、含炭素粒子中の元素状炭素同士が集合したためだと考えられる。これにより短時間での精製で高純度の炭素混合物を得ることができる。また、より高配向の炭素混合物を得ることができる。この好適な流入量としては、燃料の消費量に対して10wt%以上の薬液を供給することが好ましい。10wt%以上でこの効果がより顕著となる。例えば、薬液を噴霧する場合は、薬液のその噴霧量を10wt%以上とし、薬液を加熱させる場合は、薬液の消費量が10wt%以上とすることが好ましい。
【0037】
含炭素粒子を薬液の粒子と接触させた後、粒径を大きくした含炭素粒子は回収される。粒径が小さいために排気ガス中に浮遊していた含炭素粒子は、十分に粒径を大きくすることで接触場の下方に落下する。落下した含炭素粒子は、接触場から回収することができる。また、落下するまで粒径が大きくならなかった含炭素粒子は、接触場の出口近傍に備えられるフィルタ等で回収される。これにより、粒径を大きくした含炭素粒子を確実に捕捉し、含炭素粒子を回収することができる。例えば、気体中に浮遊できなくなるほど粒径を大きくした含炭素粒子が得られなくても、フィルタによって所定の大きさ以上の含炭素粒子を捕捉することができる。
【0038】
このフィルタは、接触場出口近傍に備えられ、接触場で薬液の粒子と接触した含炭素粒子を、接触場出口から排出される気体中から捕捉することができるものであれば、特に限定するものではない。例えば、ハニカム状のフィルタや網目状の多孔質フィルタなどが挙げられ、材質としては、スチール製、セラミック製、耐熱高分子製等が挙げられる。特に、網目状の多孔質セラミックフィルタを使用することで、含炭素粒子の粒径が気体中に浮遊しなくなるまで大きくならなくても、より効率的に気体中から含炭素粒子を捕捉し、このフィルタから含炭素粒子を容易に回収できる。また、フィルタの再生も容易である。また、このフィルタの孔の大きさも特に限定するものではなく、含炭素粒子の発生源や薬液の供給量などに応じて適宜変更可能である。
【0039】
フィルタにて回収された含炭素粒子は、フィルタから分離される。含炭素粒子は、親水性成分を有する含炭素粒子の粒径を大きくする薬液を含んでいるため、薬液と親和性の高い親水性の溶剤を使用することで、含炭素粒子をフィルタから分離させることができる。例えば、水やメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール等を使用することで、含炭素粒子を分離することができる。また、薬液の親油性成分は、アルコールに溶解する性質を有しているため、更に好適である。
【0040】
フィルタと含炭素粒子との分離には超音波を利用することもできる。含炭素粒子を捕捉したフィルタを例えば超音波洗浄器に投入し、超音波の振動を加えながら、フィルタから含炭素粒子を剥しとるように分離し、超音波洗浄器から含炭素粒子を回収する。これにより、容易にフィルタから含炭素粒子を分離することができる。また、超音波を使用することにより、高配向の炭素混合物が得られる。これは、その超音波の振動が回収される含炭素粒子中の元素状炭素の結晶構造に影響を与えるためと考えられる。
【0041】
このように、フィルタや接触場下方から回収された含炭素粒子は、精製によって炭素混合物が得られる。この精製方法は、特に限定するものではない。例えば、ソックスレー抽出器による精製が挙げられる。回収された含炭素粒子を所定の溶媒に溶解し、その溶液をソックスレー抽出器に入れて加熱する。このとき、薬液が使用されていることで、含炭素粒子中の未燃焼の炭化水素化合物と元素状炭素との結びつきが弱まり、元素状炭素同士が集合する。これにより、上記薬液や含炭素粒子中の未燃焼の炭化水素化合物等が除去されやすくなり、短時間の精製で高純度の炭素混合物が得られる。また、この得られた炭素混合物は高配向となる。ソックスレー抽出器の他に、カラムクロマトグラフィーによって含炭素粒子を精製してもよい。
【0042】
精製によって得られた炭素混合物は、硫黄物質をはじめとする微量の不純物(微量物質)を有しており、この微量物質によって接着性を有している。この接着性を有する炭素混合物をグラファイト状の炭素に混合し、ペレット状に成型することで本発明の炭素ペレットを製造することができる。これにより、大きなペレットを製造するために単体の炭素の含有率を低下させるような多量のバインダを使用する必要がない。したがって、排気ガス中の浮遊状物質を回収して得られた炭素混合物を使用することで、炭素の含有率の高いペレットを容易に製造することができる。この炭素ペレットは、アーク放電やレーザ照射によってフラーレンやカーボンナノチューブを製造することができる。
【0043】
この炭素ペレットには、炭素混合物に対してグラファイト状の炭素が50wt%以上含有していることが好ましい。図1は、C重油を由来とする炭素混合物と、グラファイト状の炭素を混合して製造されたペレットの抵抗値を測定したものである。図1のように、C重油を由来とする炭素混合物の割合が50%以上となることで、抵抗値が急激に上昇している。この結果より、グラファイト状炭素が50wt%以下である場合、例えばアーク放電を行っても、炭素ペレットの抵抗値が高くなりすぎるため、効率的にフラーレンやカーボンナノチューブを製造することができない。一方、グラファイト状炭素が90wt%以上含有される場合、炭素混合物の割合が低くなりすぎるため、炭素同士を接着する力が弱くなってしまう。そのため、ペレット状に成型することが難しくなる。
【0044】
この炭素ペレットには、フラーレンやカーボンナノチューブを製造するための触媒を含有させてもよい。この触媒としては、コバルトやニッケルなどが挙げられる。これにより、フラーレンやカーボンナノチューブを効率的に製造することができる。
【0045】
この炭素混合物の原料となる含炭素粒子は、特に内燃機関の排気口付近等から環境問題となるほど多く出されており、非常に豊富に存在する。したがって、高配向の炭素混合物を高純度で効率的に、そして、安定的に供給することができる。また、通常不要な含炭素粒子から得られるため、炭素ペレットも安価に製造できる。
【0046】
このように、本発明の炭素ペレットの製造方法は、まず、接触場で含炭素粒子と薬液の粒子とを接触させる。含炭素粒子と薬液の粒子との接触により、含炭素粒子の粒径が大きくなる。次に、粒径を大きくした含炭素粒子は回収される。そして、回収された含炭素粒子を精製する。薬液を使用することで、含炭素粒子中の未燃焼の炭化水素化合物と元素状炭素との結びつきが弱まり、元素状炭素同士が集合することにより、短時間で高純度の炭素混合物が得られる。また、この炭素混合物は、高配向の炭素混合物となる。さらに、含炭素粒子の回収に超音波を使用すると超音波の振動によって、高配向の炭素混合物となる。この炭素混合物を、グラファイト状の炭素に混合し、ペレット状に成型することで炭素ペレットを製造することができる。
【0047】
上述のように製造される炭素ペレットは、気体中に浮遊する含炭素粒子を由来とする炭素混合物と、グラファイト状炭素とを混合することで、炭素混合物中の微量物質が炭素同士を接着する。そのため、炭素混合物中とグラファイト状炭素とを混合し、成型することで、多量のバインダを用いることなく、炭素単体の含有率が高い炭素ペレットを容易に製造することができる。
【0048】
従来、炭素の含有率の高い大きなペレットの場合、そのペレットの破損が起っていた。この炭素ペレットは、バインダを用いなくても炭素同士を十分に接着する接着力があるため、大きくても破損しにくい炭素ペレットを製造することができる。すなわち、従来より大きな形状の炭素ペレットが製造できる。
【0049】
本発明の炭素ペレットは、炭素混合物を有している。そのため、炭素ペレットは、排気ガス中の含炭素粒子由来の二酸化硫黄等の硫黄酸化物をはじめとする硫黄化合物及び/又は硫黄単体とを含むような硫黄物質を含有している。この硫黄物質は、炭素ペレット全量基準における硫黄含有量が元素分析値で0.35wt%以上2.0wt%以下であることが好ましい。この値を下回ると、炭素ペレットの接着性が悪くなり、大きなペレットにはならない。また、この値を上回ると、硫黄物質がフラーレンやカーボンナノチューブの製造を阻害してしまう。この炭素ペレット中の硫黄物質の含有量は、炭素混合物の原料となる燃料に由来する。例えば、軽油を使用して形成され、グラファイト状の炭素を50wt%混合して製造した炭素ペレットは、炭素ペレット全量基準における硫黄含有量が元素分析値で約0.35wt%程度であり、重油を使用して形成され、グラファイト状の炭素を50wt%混合して製造した炭素ペレットは、炭素ペレット全量基準における硫黄含有量が元素分析値で約2.0wt%となる。これにより、本発明の炭素ペレットは、バインダを含むことなく、炭素単体の含有率が高い炭素ペレットをとなり、その形状も大きいものとして提供することができる。この大きな炭素ペレットは、硫黄化合物によって十分な接着性を有しており、破損しにくい炭素ペレットである。
【0050】
上述のように製造される炭素ペレットに対して、アーク放電又はレーザ照射を行うことで、フラーレン又はカーボンナノチューブを製造することができる。上述のように製造された炭素ペレットをアーク放電又はレーザ照射を行うことができる装置に設置する。このとき、触媒としてニッケル、コバルト等をペレット中に均一に含有させたペレットを用いる。設置後、炭素ペレットにアーク放電又はレーザ照射を行うことで、フラーレンやカーボンナノチューブを製造することができる。
【0051】
上述のように製造される炭素ペレットは、気体中に浮遊する含炭素粒子を由来とする炭素混合物と、グラファイト状炭素とを混合することで、炭素混合物中の微量物質が炭素同士を接着する。そのため、炭素混合物中とグラファイト状炭素とを混合し、成型することで、多量のバインダを用いることなく、炭素単体の含有率が高い炭素ペレットを容易に製造することができる。従来手間と時間がかかっていた原料となる炭素単体の含有率の高い炭素ペレットの形成がこの方法によって容易となり、容易にカーボンナノチューブ又はフラーレンを製造することができる。
【0052】
そして、本発明のカーボンナノチューブ又はフラーレンの製造方法は、上述の方法で大きな炭素ペレットも形成できる。従来、炭素の含有率の高い大きなペレットをアーク放電又はレーザ照射を行う装置に設置する際に、ペレットが破損してしまっていた。しかしながら、この炭素ペレットは、バインダを用いなくても炭素同士を十分に接着する接着力があるため、この炭素ペレットの破損を防止できる。そのため、特別な注意を払うことなく、カーボンナノチューブやフラーレンを製造することができる。また、大きな炭素ペレットにより、アーク放電又はレーザ照射を行う装置への炭素ペレットの1回の設置で製造できるカーボンナノチューブやフラーレン量が多くなり、単位時間当たりのカーボンナノチューブやフラーレンの製造量が多くなる。したがって、効率的にカーボンナノチューブやフラーレンを製造できる。また、炭素混合物中の炭素は高配向であり、この炭素混合物中の炭素からもグラファイト状の炭素とともにフラーレンやカーボンナノチューブを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】グラファイト状炭素中の炭素混合物の割合に対する抵抗値を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体中に浮遊する含炭素粒子の粒径を大きくする薬液の粒子と前記含炭素粒子とが接触する接触場で、前記接触場入口から流入する前記気体中の前記含炭素粒子に前記薬液の粒子を接触させる工程と、
前記薬液の粒子との接触により粒径を大きくした前記含炭素粒子を回収する工程と、
回収された前記含炭素粒子を精製して炭素混合物を得る工程と、
精製された前記炭素混合物にグラファイト状炭素を混合する工程と、
前記炭素混合物と前記グラファイト状炭素との混合物をペレット状に成型することで炭素ペレットを製造する工程とを有することを特徴とする炭素ペレット製造方法。
【請求項2】
前記炭素混合物には、50wt%以上の前記グラファイト状炭素が含まれることを特徴とする請求項1記載の炭素ペレット製造方法。
【請求項3】
前記炭素混合物と前記グラファイト状炭素との混合物に、コバルト及びニッケルをさらに混合することを特徴とする請求項1記載の炭素ペレット製造方法。
【請求項4】
前記気体は、燃料の燃焼によって内燃機関から排出される排気ガスであり、
前記燃料の消費量に対して、10wt%以上となる量の薬液を前記接触場に供給し、前記薬液と前記排気ガスとを接触させることを特徴とする請求項1記載の炭素ペレット製造方法。
【請求項5】
気体中に浮遊する含炭素粒子の粒径を大きくする薬液の粒子と前記含炭素粒子とが接触する接触場で、前記接触場入口から流入する前記気体中の前記含炭素粒子に前記薬液の粒子を接触させる工程と、
前記薬液の粒子との接触により粒径を大きくした前記含炭素粒子を回収する工程と、
回収された前記含炭素粒子を精製して炭素混合物を得る工程と、
精製された前記炭素混合物にグラファイト状炭素を混合し、ペレット状に成型する工程と、
成型された炭素ペレットに対し、アーク放電又はレーザ照射を行うことでフラーレン又はカーボンナノチューブを製造する工程とをすることを特徴とするフラーレン又はカーボンナノチューブ製造方法
【請求項6】
50wt%以上のグラファイト状炭素を有する炭素単体と、
硫黄化合物及び/又は硫黄単体からなる硫黄物質とを含有し、
前記硫黄物質は、ペレット全量基準における硫黄含有量が元素分析値で0.35wt%以上2.0wt%以下であることを特徴とする炭素ペレット。
【請求項7】
前記硫黄物質は、化石燃料の燃焼により発生する排気ガス中に浮遊する含炭素粒子中に含まれる硫黄物質を由来とすることを特徴とする請求項6記載の炭素ペレット。

【図1】
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【公開番号】特開2007−246332(P2007−246332A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71736(P2006−71736)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(598112453)株式会社ジュオン (11)
【Fターム(参考)】