説明

炭素材料およびその製造方法

【課題】混合溶液の泡立ちを防止し、カーボンナノファイバーがより均一に分散された炭素材料が得られる炭素材料の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る炭素材料の製造方法は、シルク溶液にカーボンナノファイバーを混合し、分散させる混合・分散工程と、得られた混合溶液から水分を飛散させて内容物を乾燥する乾燥工程と、得られた乾燥物を非酸化性雰囲気中で焼成して炭化物を得る焼成工程とを含む炭素材料の製造方法において、前記混合・分散工程において、シルク溶液もしくは混合溶液に消泡剤を添加して消泡することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルク(絹)とカーボンナノファイバーの複合素材を焼成してなる炭素材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来導電性ペースト、導電性インキ、導電性フイルム、熱伝導性フイルムは、カーボンブラックや銀等の導電性の高い金属の単体もしくは複合物を樹脂、有機溶媒等と混合することにより製造されている。
しかし、これら複合素材は導電性が低いため、これらの導電性物質の代わりに、カーボンナノファイバーを樹脂、有機溶媒等と混合して作られる、導電性ペースト、導電性インキ、導電性フイルムが検討されている。
【0003】
しかし、カーボンナノファイバーを樹脂、有機溶媒等に混合するにあたり、カーボンナノファイバーの樹脂、有機溶媒等に対する分散性がよくないので、カーボンナノファイバーの良好な導電性、熱伝導性を発揮させることができないという課題があった。
【0004】
そこで、カーボンナノファイバーを一旦シルク溶液に混合、分散させ、次いでこの混合溶液から水分を飛散させて内容物を乾燥させ、得られた乾燥物を非酸化性雰囲気中で焼成して複合炭化物を得、この複合炭化物を粉砕し、樹脂、有機溶剤等と混合することによって、カーボンナノファイバーが均一に分散された導電性インキ等が得られる技術が開発された(特許文献1)。
【特許文献1】WO2005/090481 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シルク溶液にカーボンナノファイバーを混合、分散させる際、混合溶液が泡立ち、泡によってカーボンナノファイバーが押し退けられ、カーボンナノファイバーが一部に凝集し、これにより混合溶液中にカーボンナノファイバーの濃度差が生じ、均一分散性が妨げられるという新たな課題が見出された。
そこで本発明は、混合溶液の泡立ちを防止し、カーボンナノファイバーがより均一に分散された炭素材料が得られる炭素材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る炭素材料の製造方法は、シルク溶液にカーボンナノファイバーを混合し、分散させる混合・分散工程と、得られた混合溶液から水分を飛散させて内容物を乾燥する乾燥工程と、得られた乾燥物を非酸化性雰囲気中で焼成して炭化物を得る焼成工程とを含む炭素材料の製造方法において、前記混合・分散工程において、シルク溶液もしくは混合溶液に消泡剤を添加して消泡することを特徴とする。
【0007】
消泡剤にポリエーテル系非イオン系界面活性剤を用いると好適である。
消泡剤の、前記混合溶液に対する添加量は、0.02wt%〜5wt%、好ましくは0.1wt%〜5wt%、特に好ましくは0.5wt%〜5wt%添加するとよい。
また、シルク溶液に対するカーボンナノファイバーの添加量は1〜30wt%程度が好適である。
【0008】
さらに、焼成工程が、一次焼成工程と、該一次焼成工程よりも高温で焼成する二次焼成工程を含むことを特徴とする。焼成温度は500℃〜3000℃が好ましい。
得られた焼成物を粉砕して粒状の炭素材料とすると扱いやすくなる。
また本発明に係る炭素材料は、上記いずれかの製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シルク溶液にカーボンナノファイバーを混合、分散させる際、混合溶液の泡立ちを防止でき、カーボンナノファイバーが均一に混入した混合溶液を得ることができる。そしてこの混合溶液を乾燥し、乾燥物を焼成して、カーボンナノファイバーが均一に混入した炭素材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では上記のように、シルク溶液にカーボンナノファイバーを混合し、分散させる混合・分散工程と、得られた混合溶液から水分を飛散させて内容物を乾燥する乾燥工程と、得られた乾燥物を非酸化性雰囲気中で焼成して炭化物を得る焼成工程とを含む炭素材料の製造方法において、前記混合・分散工程において、シルク溶液もしくは混合溶液に消泡剤を添加して消泡することを特徴とする。
【0011】
シルク溶液にカーボンナノファイバーを混合、分散させる際には、混合溶液に超音波を印加するとよい。
シルク溶液は、塩化カルシウム水和物の水溶液中に絹原料を投入し、高温で加熱融解し、次いでタンパク質分解酵素を投入て加水分解し、脱塩する加水分解法によって得られる。
あるいは、アルカリ溶液に絹原料を投入して高温で加熱融解し、中和、脱塩するアルカリ分解法などによって調整できる。
【0012】
なお、絹原料としては、家蚕あるいは野蚕からなる織物、編物、粉体、綿、糸等を用いることができ、これらを単独もしくは併用して用いる。
これら絹原料はタンパク質の高次構造をとり、その表面(折り畳み構造をなす、折り畳まれて内側となる表面を含む)に、種々のアミノ酸残基を含む配位基が存在する。
【0013】
消泡剤としてはポリエーテル系非イオン系界面活性剤を用いると好適である。このポリエーテル系非イオン系界面活性剤としては、例えば東邦化学工業株式会社製のプロナール892(商品名)の消泡剤が好適であった。
同じ東邦化学工業株式会社製のルノックス100(商品名)のアニオン系界面活性剤、および東邦化学工業株式会社製のペグノールSTシリーズ(商品名)のアルコール系の非イオン系界面活性剤では十分な消泡効果が得られなかった。
【0014】
消泡剤の添加量は特に限定されるものではないが、前記混合溶液に対して0.02wt%〜5wt%の範囲の添加量が好適である。
消泡剤の添加量が、0.02wt%より少ないと消泡時間が2分以上もかかり、作業効率上あまり好ましくない。また、コスト的に、消泡剤の添加量は5wt%以下が好ましい。
消泡時間からすれば、消泡剤の添加量は0.1wt%以上、特に好適には0.5wt%以上が好ましい。
【0015】
カーボンナノファイバーの添加量も特に限定されないが、シルク溶液に対して1〜30wt%、特には5〜10wt%が好適である。なお、本発明では、カーボンナノファイバーの用語は、カーボンナノチューブ(CNT)を含む概念で用いている。
焼成温度は特許に限定されないが、500℃〜3000℃程度が好適であり、用途に応じて選択する。比較的低温で焼成すれば、絹原料由来の窒素が焼成物に多く残存し、抗菌性を有する炭素材料を提供できる。また、高温で焼成すれば、グラファイト化し、優れた導電性が得られる。
【0016】
高温で焼成する場合には、一次焼成、二次焼成を行って除々に高温で焼成するようにするとよい。なお、三次焼成以上の複数の焼成工程で焼成してもよい。
乾燥工程で、シート状あるいは塊状の乾燥物とし、この乾燥物を焼成して、シート状あるいは塊状の炭素材料として用いてもよいが、この炭素材料を粉砕して粒状の炭素材料にすることによって使い勝手がよくなる。
【実施例】
【0017】
実施例1
1.低分子量シルク粉末の作製
低分子量のシルク粉末を作製した。
1)水酸化ナトリウム225gと水4.5kgを混合した水酸化ナトリウム水溶液に、絹原料750gを投入し、溶液温度を95度に保持しつつ加熱溶解を1時間行った。濃塩酸600gを投入し、60度以下で1時間攪拌し中和した。
2)中和液をろ過して未溶解物をろ別した後、ろ液を分子分画300の透析膜を用いて脱塩し、得られたシルクタンパク溶液をさらに濃縮して40wt%のシルクタンパク水溶液にした。
3)2)で作製したシルクタンパク水溶液をスプレードライヤーにて乾燥し、シルク粉末を得た。
2.シルク粉末とCNTの混合材料作製
1)で作製したシルク粉末とVGCF−S(登録商標 昭和電工社製;カーボンナノチューブ、以下CNTと記載する)を以下の方法で混合・分散した。
ステンレスビーカーに蒸留水648gとシルク粉末を354g入れて混ぜてシルク溶液を作製する。その後CNT 10.5gを少しずつシルク溶液中に加えてガラス棒で分散させていく(最終生成物においてCNTが15wt%含有されるように調整)。その後、超音波洗浄器で25度、5分間、ガラス棒で撹拌しながら分散させシルク粉末とCNTの混合材料を得た。
3.シルク粉末とCNT、消泡剤の混合材料作製
1)2.で作製したシルク粉末とCNTの混合溶液に消泡剤:プロナール892(東邦化学工業株式会社)を添加した。
シルク粉末とCNTの混合溶液をスクリュー管(容積:110cc)に100g入れた。そこに消泡剤:プロナール892(東邦化学工業株式会社)を0.001wt%それぞれ添加し、シルク粉末とCNT、消泡剤の混合材料を得た。
4.混合材料の乾燥
1)ポリプロピレンシートに約20gの混合液を規定の範囲(450cm:25cm× 18cm)に塗布する。乾燥機のステンレス棚1枚にポリプロピレンシートを4枚載せ、ステンレス棚を計10枚、ポリプロピレンシートを計40枚乾燥機に入れ105度で約1時間乾燥させる。
2)乾燥機からポリプロピレンシートを出し、約10秒後に折り曲げてポリプロピレンシートから乾燥物を剥し、静電気でPPシートに付着している乾燥物もステンレスへらで回収する。計40枚のポリプロピレンシートから乾燥物を回収する。
5.一次焼成
4.で作製した混合材料を以下の方法で焼成する。
1)ステンレストレイ1個当たり、乾燥物を600g入れ約4kgの乾燥物を必要な数のトレイに入れる。台車でそれらを運び、一次焼成炉のカゴにグラファイト板1枚にトレイを2個の割合で並べる。
2)雰囲気化750度を6時間保持して焼成し、室温になるまで冷却した。
6.粉砕
5.で焼成した混合材料を以下の方法で粉砕する。
目開き2mmのざるを通るまで乳鉢で粉砕し、ボールミルで1日粉砕する。
7.分級
6.で粉砕した混合材料を以下の方法で分級する。
目開き38μmのふるいで約200gずつ分級し、樹脂容器に回収する。
8.二次焼成
7.で分級後、混合材料を以下の方法でさらに高温にて焼成する。
アルゴン雰囲気化2400度を3時間保持して焼成し、室温になるまで冷却した。
9.分級
8.で二次焼成した混合材料を以下の方法で分級する。
目開き32μmのふるいで約200gずつ分級し、樹脂容器に回収する。
このようにして粒状の炭素材料を得た。CNTの分散性は良好であった。
【0018】
実施例2
混合する消泡剤を0.005wt%にした以外は実施例1と同様である。
【0019】
実施例3
混合する消泡剤を0.01wt%にした以外は実施例1と同様である。
【0020】
実施例4
混合する消泡剤を0.05wt%にした以外は実施例1と同様である。
【0021】
実施例5
混合する消泡剤を0.1wt%にした以外は実施例1と同様である。
【0022】
実施例6
混合する消泡剤を0.5wt%にした以外は実施例1と同様である。
【0023】
実施例7
混合する消泡剤を1wt%にした以外は実施例1と同様である。
【0024】
実施例8
混合する消泡剤を5wt%にした以外は実施例1と同様である。
【0025】
測定
1.粘度測定
実施例1〜実施例8で作製したシルク粉末とCNT、消泡剤の混合溶液の粘度を測定した。
東機産業製粘度計:TVB−10M、東機産業製恒温漕(25℃設定)を使用し測定した。結果を表1に示す。
【0026】
表1.シルク粉末とCNT、消泡剤の混合溶液の粘度、消泡時間測定結果

【0027】
2.消泡時間計測
実施例1〜実施例8で作製したシルク粉末とCNT、消泡剤の混合溶液の消泡時間を計測した。
シルク粉末とCNT、消泡剤の混合溶液をスクリュー管(容積:50cc)にそれぞれ30gずつ移し、手で幅15cmの振幅で振った後、泡が消泡されるまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
また、消泡剤の添加量と混合溶液の粘度と消泡時間の関係を図1に示す。
【0028】
表1、図1より消泡材が0.05wt%以上で粘度が急激に上昇していることがわかる。
同様に製造工程を考慮すると120秒以内に泡が消えることが好ましく、近似曲線より約0.02 wt%がこの条件を満たす最小量であることがわかる。また1wt%が消泡の最短時間であり、それ以上では逆に時間がかかることがわかる。これは1wt%以上から消泡剤の粘度(1500mPa・s)が影響してくる事が原因と考えられる。
【0029】
CNTの沈殿防止などを考慮すると粘度がある程度高いことが望ましく、製造工程の短縮を考慮すると消泡剤は0.02wt%以上が望ましい。更に、消泡剤自体のコストを考慮すると5wt%以下が望ましい。したがって消泡剤は0.02wt%以上5wt%以下が望ましいことになる。また、製造工程の短縮を考慮すると消泡までの時間が60秒間である0.1wt%以上5wt%以下が望ましい。そして、製造工程の短縮を考慮すると消泡までの時間が20秒間である0.5wt%以上5wt%以下が望ましい。
【0030】
なお、上記では、シルク溶液をアルカリ法で調整したが、加水分解法で調整してもよい。
加水分解法によるシルク溶液の調整の一例を示す。
1)塩化カルシウム水和物の65wt%水溶液中に、絹原料240gを投入し、溶液温度を95度に保持しつつ加熱溶解を6時間行った。タンパク質分解酵素を投入し、60度24時間で処理して加水分解した。
2)分解が終了した溶解液をろ過して未溶解物をろ別した後、ろ液を分子分画300の透析膜を用いて脱塩して得られたシルクタンパク溶液をさらに濃縮して35wt%のシルクタンパク水溶液にした。
この加水分解法によるシルク溶液を用いた場合にも、実施例1〜8とほぼ同様の結果を得た。
また、上記実施例では、CNT(VGCF-S)を用いたが、その他のカーボンナノファイバーも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】消泡剤の添加量と混合溶液の粘度および消泡時間の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シルク溶液にカーボンナノファイバーを混合し、分散させる混合・分散工程と、得られた混合溶液から水分を飛散させて内容物を乾燥する乾燥工程と、得られた乾燥物を非酸化性雰囲気中で焼成して炭化物を得る焼成工程とを含む炭素材料の製造方法において、
前記混合・分散工程において、シルク溶液もしくは混合溶液に消泡剤を添加して消泡することを特徴とする炭素材料の製造方法。
【請求項2】
消泡剤にポリエーテル系非イオン系界面活性剤を用いることを特徴とする請求項1記載の炭素材料の製造方法。
【請求項3】
消泡剤を、前記混合溶液に対して0.02wt%〜5wt%添加することを特徴とする請求項1または2記載の炭素材料の製造方法。
【請求項4】
消泡剤を、前記混合溶液に対して0.1wt%〜5wt%添加することを特徴とする請求項1または2記載の炭素材料の製造方法。
【請求項5】
消泡剤を、前記混合溶液に対して0.5wt%〜5wt%添加することを特徴とする請求項1または2記載の炭素材料の製造方法。
【請求項6】
シルク溶液に対してカーボンナノファイバーを1〜30wt%添加することを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の炭素材料の製造方法。
【請求項7】
焼成工程が、一次焼成工程と、該一次焼成工程よりも高温で焼成する二次焼成工程を含むことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の炭素材料の製造方法。
【請求項8】
得られた焼成物を粉砕して粒状の炭素材料とする粉砕工程を含むことを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の炭素材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項記載の炭素材料の製造方法によって製造された炭素材料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−91190(P2009−91190A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262848(P2007−262848)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】