説明

炭素材料焼成炉および炭素材料の焼成方法

【課題】焼成時のエネルギ損失が小さい炭素材料焼成炉および炭素材料の焼成方法を提供する。
【解決手段】フィラーとバインダーを捏合して成型した炭素材料素材成型体Wを炭素材料焼成炉10の処理容器12内に装入し、断熱箱32の内部に配置する。処理容器12の内部を酸素濃度が例えば1容量%の窒素ガスの流通状態とし、マイクロ波発信器26からマイクロ波を発生させ、導波管28を介して処理容器12内にマイクロ波を照射する。マイクロ波は、断熱箱32に形成されたスリット36を通過して炭素材料素材成型体Wに照射される。炭素材料素材成型体Wは、850℃の温度まで加熱され、焼成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーとバインダーを捏合して成型した炭素材料素材成型体を焼成する炭素材料焼成炉および炭素材料の焼成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
か焼コークス等のフィラーとコールタールピッチ等のバインダーを捏合して成型した炭素材料素材成型体(以下、これを単に成型体ということがある。)を焼成することで、バインダーが炭素化、固化され、フィラーと結合した炭素材料焼成品が得られる。
なお、この炭素材料焼成品は、そのまま還元材等に使用され、あるいは、さらに焼成、黒鉛化して黒鉛質製品として使用される。
上記2度にわたって行われる焼成は、前者を一次焼成、後者を二次焼成と呼び分けられている。
【0003】
上記一次焼成(以下、本明細書では、これを単に焼成という。)は、従来、バーナ式加熱炉(焼成炉)で、酸素濃度を低減した雰囲気下において、700〜1000℃程度の温度で上記成型体を熱処理することにより実施されてきた。
この場合、成型体は、焼成過程におけるバインダーの溶融温度領域で塑性化する性質を持つため、塑性変形を防止する目的で、鉄製容器等の中に黒鉛粉や珪砂粉等のパッキング材中に埋め込んだ状態で取り扱われる。なお、パッキング材は、成型体を均一に加熱する役割も持つ。
【0004】
このバーナ式加熱炉の形式は、連続式のリードハンマー炉と単独式のシャトル炉に代表されるが、温度制御の自由度が大きい後者の単独式のシャトル炉の方が、特に大型成型体の焼成炉としては主流となっている(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】炭素材料学会編「新・炭素材料入門」株式会社リアライズ社発行、2000年11月10日、第107頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記単独式のシャトル炉の場合、成型体を炉内に配置する都度、炉内全体を加熱することになるため、容器やパッキング材を加熱するために使用されるエネルギの損失が大きく、また、成型体の加熱は実質的にパッキング材を介しての熱伝導によって行われるため、その点においてもエネルギの損失を生じる。
また、成型体を電極等の人造黒鉛材料の用途に使用する場合は、炉の形式や成型体の寸法によっても異なるが、加熱昇温に10〜20日間、冷却に5〜10日間を要するため、生産性が抑えられる。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、焼成時のエネルギ損失が小さい炭素材料焼成炉および炭素材料の焼成方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、焼成サイクルタイムが短縮され、生産性の高い炭素材料焼成炉および炭素材料の焼成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る炭素材料焼成炉は、処理容器と、該処理容器に接続して設けられ、不活性ガスを該処理容器に導入する導入路と排出路を備える不活性ガス導入排出部と、該処理容器内に配置されるフィラーとバインダーを捏合して成型した被処理用炭素材料素材成型体を覆うように設けられ、マイクロ波を通過させるスリットが形成された断熱部材と、該処理容器の該断熱部材を臨む位置に設けられ、マイクロ波を照射するマイクロ波導波管を備えるマイクロ波照射装置とを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る炭素材料焼成炉は、前記断熱部材が、炭素系フェルトまたはセラミックファイバーフェルトで形成されてなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る炭素材料焼成炉は、前記断熱部材が、炭素系フェルトからなる内張りとセラミックファイバーフェルトからなる外張りの2層構造の箱体であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る炭素材料焼成炉は、前記炭素材料素材成型体と前記断熱部材との間にパッキング材を充填してなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る炭素材料焼成炉は、前記不活性ガス導入排出部とは別にパージ用の不活性ガス導入排出部をさらに有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る炭素材料焼成炉は、前記マイクロ波導波管が、異なる方向からマイクロ波を照射するように複数備えられてなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る炭素材料焼成炉は、前記処理容器の少なくとも内表面が金属材料で形成されてなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る炭素材料の焼成方法は、
フィラーとバインダーを捏合して成型した被処理用炭素材料素材成型体を、処理容器内に配置した、スリットが形成された断熱部材で覆う工程と、
不活性ガスを該処理容器に流通しながら、該スリットを介して、マイクロ波を該被処理用炭素材料素材成型体に照射する工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る炭素材料焼成炉および炭素材料の焼成方法によれば、炭素材料素材成型体にマイクロ波を照射して焼成するため、焼成のための消費エネルギが少ない。
また、焼成サイクルタイムが短縮され、生産性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0017】
まず、本発明に係る炭素材料焼成炉について、装置の概略構成を示す図1を参照して説明する。
炭素材料焼成炉10は、図1に示すように、処理容器12と、不活性ガス導入排出部14と、断熱箱(断熱部材)32と、マイクロ波照射装置18とを備える。また、炭素材料焼成炉10には、圧力調整用排気ライン20ならびにパージ用不活性ガス導入路38aおよびパージ用不活性ガス排出路38bからなるパージ用不活性ガス導入排出部が設けられる。
【0018】
処理容器12は、例えば、使用温度に応じて、耐火煉瓦、キャスタブルあるいは黒鉛材料を内張りした金属製容器であってもよいが、好ましくは、外壁を冷却する機構を備えた金属壁で処理容器12を構成する。後者の場合、必要に応じて、処理容器12の最外壁に断熱材を配設する。
不活性ガス導入排出部14は、窒素等の不活性ガスを処理容器12に導入する導入路22と、炉内の雰囲気ガスを排出する排出路24を備える。
【0019】
断熱箱32は、炭素材料素材成型体(被処理用炭素材料素材成型体)、すなわち、予めフィラーとバインダーを捏合して成型した炭素材料(図中、矢印Wで示す。)を覆って収容し、配置するためのものである。断熱箱32は、十分な断熱性と形状を維持しうる適度の剛性とを確保できる適宜の厚みに形成される。断熱箱32は、炭素系フェルトからなる内張り(内層)34aとセラミックファイバーフェルトからなる外張り(外層)34bの2層構造となっている。炭素系フェルトは、例えば、カーボンファイバーやC/Cコンポジット品を用いることができ、セラミックファイバーフェルトは例えば1500℃程度の温度で使用できるSi−Al系耐熱性品を用いることができる。
この場合、使用温度や炭素材料素材成型体W中の不純物含有量の許容値等の条件に応じて、断熱箱32を炭素系フェルトの単層で構成してもよく、あるいはまた、セラミックファイバーフェルトの単層で構成してもよい。前者では、炭素材料素材成型体W中に断熱箱32に起因する不純物が混入するおそれがなく、一方、後者では、断熱箱32を安価に得ることができる。
また、通常の焼成炉で行われているように、炭素材料素材成型体Wと断熱箱32との間に黒鉛粉やコークス粉等の炭素質材料からなるパッキング材を充填すると、言い換えると、断熱箱32に入れたパッキング材中に炭素材料素材成型体Wを詰めると、焼成時に炭素材料素材成型体Wから発生する揮発分等による断熱箱32の汚染が軽減され、また、炭素材料素材成型体Wをより均一に加熱することができる。
断熱箱32の各面には、それぞれ適度の数のスリット36が形成される。マイクロ波は、このスリット36を通過して炭素材料素材成型体Wに照射される。スリット36の数は、炭素材料素材成型体Wの各部にマイクロ波を均一に照射するのに必要な程度および焼成時に炭素材料素材成型体Wから発生する揮発分が容易に抜け出る程度であってかつこのスリット36を介して断熱箱32の外部に過剰に放熱しない程度に適宜設定される。スリット36の長さは、照射するマイクロ波の1波長分程度が適当であるが、これに限定するものではない。スリット36の幅は、上記した放熱等の不具合のない範囲で適宜設定される。
なお、断熱箱32は、例えば内部にパッキング材を入れて用いるときには、上部等を開放状態としてもよい。また、断熱箱32を設ける代わりに、炭素材料素材成型体Wをスリットを形成した断熱部材で巻いてもよい。
【0020】
マイクロ波照射装置18は、マイクロ波発信器26と、マイクロ波発信器26から発せられるマイクロ波を処理容器12に導く導波管28を備える。処理容器12内の断熱箱32の真上に位置するように設けられる導波管28の開口部の手前には、導波管28を保護するための耐熱ガラス板30が配置される。
なお、マイクロ波照射装置18は、マイクロ波発信器26を含めて2系統設け、2つの導波管28を処理容器12の上部に断熱箱32を挟んで並置したものであってもよい。
【0021】
圧力調整用排気ライン20は、炭素材料素材成型体Wを加熱する前に処理容器12の内部に残存する空気を除去するためのものであり、図示しない真空源に接続される。
パージ用不活性ガス導入排出部は、焼成時に炭素材料素材成型体Wから発生する揮発分を強制的に炉外に排出させるためのものであるが、必要に応じてこれを省略し、不活性ガス導入排出部14にパージ機能を兼ねさせてもよい。また、パージ用不活性ガスを加熱した状態で処理容器12内に導入すると、炭素材料素材成型体Wからの放熱を軽減することができて好ましい。
【0022】
つぎに、本発明に係る炭素材料の焼成方法について説明する。
本発明に係る炭素材料の焼成方法は、例えば上記のように構成される炭素材料焼成炉10を用い、フィラーとバインダーを捏合して成型した被処理用炭素材料素材成型体を、処理容器内に配置した、スリットが形成された断熱部材で覆い、不活性ガスを処理容器に流通しながら、スリットを介して、マイクロ波を被処理用炭素材料素材成型体に照射するする。
以下、炭素材料の焼成方法について、その具体例を説明する。
【0023】
まず、処理容器12の図示しない装入口から炭素材料素材成型体Wを処理容器12内に装入し、断熱箱32の内部に配置する。
そして、予め炉内の残存空気を排気した後、不活性ガスとして例えば窒素ガスを導入路22から処理容器12の内部に導入するとともに、排出路24から排出して、処理容器12の内部を酸素濃度が例えば1容量%程度の窒素ガスの流通状態とする。また、パージ用ガスも断続的にあるいは連続的に流通状態とする。処理容器12は、内部圧力を所望の圧力に調整し、保持する。
【0024】
ついで、マイクロ波発信器26からマイクロ波を発生させ、導波管28を介して処理容器12内にマイクロ波を照射する。
マイクロ波は、断熱箱32に形成されたスリット36を通過して炭素材料素材成型体Wに照射され、これにより、炭素材料素材成型体Wが加熱される。
所定時間マイクロ波を照射して、炭素材料素材成型体Wを焼成した後、冷却し、炭素材料素材成型体Wを炭素材料焼成炉10から取り出す。
【0025】
以上説明した本発明の炭素材料焼成炉によれば、焼成のためのエネルギが少なくて済む。また、焼成サイクルタイムが短縮され、生産性が高い。
【0026】
つぎに、本発明の炭素材料焼成炉10の変形例について説明する。
【0027】
変形例の炭素材料焼成炉10aは、図2に示すように、断熱箱32を挟んで処理容器12の対向する側壁にそれぞれ導波管28a、28bが設けられる。なお、図2中、マイクロ波発信器や導波管の保護部材等は図示を省いている。また、2つの導波管は、必ずしも図2のように対向する位置に配置する必要はない。
【0028】
変形例の炭素材料焼成炉10aによれば、炭素材料素材成型体Wに異なる方向からマイクロ波を照射することで、炭素材料素材成型体Wをより均一にかつ効率的に加熱することができる。また、このとき、2つのマイクロ波発信器は出力が小さいものとすることができ、あるいは、2つのマイクロ波発信器の出力を下げることなく全体の出力を大きくして炭素材料素材成型体Wをより効率的に加熱することができる。
このとき、処理容器12が金属壁であると、処理容器12内でマイクロ波が多方向に反射して、炭素材料素材成型体Wの各部に均一にマイクロ波を照射することができる。なお、上記炭素材料焼成炉10においても、処理容器12を金属壁としたものを用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および参考例を挙げて、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
酸素濃度を1容積%以下に調整した窒素ガス雰囲気において、Φ100×200mmの等方性炭素材の成型体を、長さが12mmのスリット36が形成された厚みが100mmの断熱箱32に入れた。そして、出力1500Wのマグネトロンタイプのマイクロ波発信器26から周波数2.45GHzのマイクロ波を発生させ、スリット36を通過させて成型体に照射した。成型体の中心部にセットした熱電対によって計測した温度が850℃に達した時点でマイクロ波の照射を止め、400℃以下の温度になるまで成形体を冷却した。なお、成型体の温度が850℃のときの炉内の雰囲気温度は150℃であった。
処理に要した時間は、昇温時間が4時間、降温時間が2時間であり、1サイクル6時間であった。この間、マイクロ波照射に使用した電力量は、12kWHであった。
得られた焼成体(成型体)の嵩密度は1.62であった。
【0031】
(実施例2)
等方性炭素材の成型体として330×600×800mmの直方体ブロックを用い、長さが30mmのスリット36が形成された厚みが100mmの断熱箱32に入れ、定格出力30kWのマグネトロンタイプのマイクロ波発信器26から周波数915GHzのマイクロ波を出力25kWで発生させたほかは実施例1と同様の条件で成型体を焼成した。
処理に要した時間は、昇温時間が38時間、降温時間が20時間であり、1サイクル58時間であった。この間、マイクロ波照射に使用した電力量は、1800kWHであった。
得られた焼成体(成型体)の嵩密度は1.62であった。
【0032】
(参考例)
実施例1と同様の条件で作製した等方性炭素材の成型体を、内容積0.216mの電気加熱式単独炉に入れて、850℃まで昇温した後、400℃以下の温度になるまで成形体を冷却した。
処理に要した時間は、昇温時間が24時間、降温時間が24時間であり、1サイクル48時間であった。昇温に要した電力量は、28kWHであった。
得られた焼成体(成型体)の嵩密度は1.60であった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の炭素材料焼成炉の概略構成を示す図である。
【図2】変形例の炭素材料焼成炉の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
10、10a 炭素材料焼成炉
12 処理容器
14 不活性ガス導入排出部
18 マイクロ波照射装置
20 圧力調整用排気ライン
22 導入路
24 排出路
26 マイクロ波発信器
28、28a、28b 導波管
30 耐熱ガラス板
32 断熱箱
34a 内張り
34b 外張り
38a パージ用不活性ガス導入路
38b パージ用不活性ガス排出路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器と、該処理容器に接続して設けられ、不活性ガスを該処理容器に導入する導入路と排出路を備える不活性ガス導入排出部と、該処理容器内に配置される、フィラーとバインダーを捏合して成型した被処理用炭素材料素材成型体を覆うように設けられ、マイクロ波を通過させるスリットが形成された断熱部材と、該処理容器の該断熱部材を臨む位置に設けられ、マイクロ波を照射するマイクロ波導波管を備えるマイクロ波照射装置とを有することを特徴とする炭素材料焼成炉。
【請求項2】
前記断熱部材が、炭素系フェルトまたはセラミックファイバーフェルトで形成されてなることを特徴とする請求項1記載の炭素材料焼成炉。
【請求項3】
前記断熱部材が、炭素系フェルトからなる内張りとセラミックファイバーフェルトからなる外張りの2層構造の箱体であることを特徴とする請求項1記載の炭素材料焼成炉。
【請求項4】
前記炭素材料素材成型体と前記断熱部材との間にパッキング材を充填してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭素材料焼成炉。
【請求項5】
前記不活性ガス導入排出部とは別にパージ用の不活性ガス導入排出部をさらに有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素材料焼成炉。
【請求項6】
前記マイクロ波導波管が、異なる方向からマイクロ波を照射するように複数備えられてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素材料焼成炉。
【請求項7】
前記処理容器の少なくとも内表面が金属材料で形成されてなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭素材料焼成炉。
【請求項8】
フィラーとバインダーを捏合して成型した被処理用炭素材料素材成型体を、処理容器内に配置した、スリットが形成された断熱部材で覆う工程と、
不活性ガスを該処理容器に流通しながら、該スリットを介して、マイクロ波を該被処理用炭素材料素材成型体に照射する工程と、
を有することを特徴とする炭素材料の焼成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−147553(P2006−147553A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306713(P2005−306713)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(504206735)新日本テクノカーボン株式会社 (5)
【Fターム(参考)】