説明

炭素系繊維の製造方法

【課題】より繊維径の細い炭素系繊維を得ることのできる炭素系繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物から得られる前駆物質繊維を熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度で且つ熱可塑性炭素前駆物質の軟化点未満の温度で処理して安定化樹脂組成物を得、得られた安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去して得られる繊維状炭素前駆物質を炭素化もしくは黒鉛化して炭素系繊維を製造するに際して、混合溶融物を貯蔵する貯蔵容器2と、貯蔵容器2に貯蔵された混合溶融物を細糸状に吐出する溶融物吐出ノズル5と、溶融物吐出ノズル5から吐出された混合溶融物を前駆物質繊維として捕集するコレクタ6とを備えてなるエレクトロスピニング装置を用いて前駆物質繊維を得るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極細炭素繊維などの炭素系繊維を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基盤上の電線・発光体用電子銃や各種センサなどのエレクトロニクス分野、高性能フィルターなど環境対応分野、再生医療用スキャッフォールドや傷口保護材などのメディカル分野などへの応用を期待して、サブマイクロメータ以下の直径を持つ極細繊維に対する要求が高まりつつある。特に、極細炭素繊維は高強度、高弾性率、高導電性、軽量等の優れた特性を有していることから、高性能複合材料のフィラーとして使用されている。その用途は、従来からの機械的強度向上を目的とした補強用フィラーに留まらず、炭素材料に備わった高導電性を活かし、電磁波シールド材料、静電防止材料用の導電性樹脂フィラーとして、あるいは樹脂への静電塗料のためのフィラーとしての用途が期待されている。また、炭素材料としての化学的安定性、熱的安定性と微細構造との特徴を活かし、フラットディスプレイ装置等の電界電子放出材料としての用途も期待されている。
【0003】
このような極細炭素繊維を製造する方法としては、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物から前駆物質繊維をメルトブロー法(溶融した繊維原材料をノズルから高速でブローして繊維を紡糸する方法)により得た後、前駆物質繊維を熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度で且つ熱可塑性炭素前駆物質の軟化点未満の温度で加熱処理して安定化樹脂組成物を得、さらに安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去することで得られる繊維状炭素前駆物質を炭素化もしくは黒鉛化して極細炭素繊維を製造する方法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−63487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、繊維径が600〜300nmの炭素繊維を得ることはできるものの、現在までに明確な用途のある極細の炭素繊維(例えば繊維径が100〜200μm、特に120μm前後の炭素繊維)を得ることは困難であった。
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、その目的は、より繊維径の細い炭素系繊維を得ることのできる炭素系繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る炭素系繊維の製造方法は、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物から得られる前駆物質繊維を熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度で且つ熱可塑性炭素前駆物質の軟化点未満の温度で加熱処理して安定化樹脂組成物を得、得られた安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去して得られる繊維状炭素前駆物質を炭素化もしくは黒鉛化して炭素系繊維を製造するに際して、前記混合溶融物を細糸状に吐出する溶融物吐出ノズルと、前記溶融物吐出ノズルに対向して配置されたコレクタと、前記溶融物吐出ノズルと前記コレクタとの間に電圧を印加して前記混合溶融物を帯電せしめる溶融物帯電手段とを備えてなるエレクトロスピニング装置を用いて、前記前駆物質繊維を前記混合溶融物から得て炭素系繊維を製造することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る炭素系繊維の製造方法によれば、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物から前駆物質繊維をメルトブロー法により得る場合と比べて、得られる前駆物質繊維の径がより細いものとなるので、より繊維径の細い炭素系繊維を製造することができる。
また、本発明に係る炭素系繊維の製造方法によれば、溶融物吐出ノズルから吐出される溶融物として熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物を使用したことで、紡糸補助材(副資材)である熱可塑性樹脂の数割の量の炭素前駆物質が熱可塑性樹脂のなかに分散し、かつエレクトロスピニングで全体(紡糸補助材(副資材)と炭素前駆物質)がある程度細くなって紡糸されるため、溶融物吐出ノズルから吐出される溶融物として熱可塑性炭素前駆物質のみを使用した場合と比べて、生産速度の大幅な低下を招くことなく繊維径のより細い炭素系繊維を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図1を参照して本発明に係る炭素系繊維の製造方法について説明する。
図1は本発明に係る炭素系繊維の製造方法に用いられるエレクトロスピニング装置の一例を示す図であり、同図に示されるエレクトロスピニング装置は、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物1を貯蔵する貯蔵容器2を備えている。この貯蔵容器2は例えばステンレス鋼で形成されており、貯蔵容器2の外周面には、貯蔵容器2に貯蔵された混合溶融物1を溶融状態に保つために、加熱部としての電熱ヒータ3が巻装されている。
【0008】
また、貯蔵容器2は密閉構造となっており、この貯蔵容器2には、例えば0.1MPa程度に加圧された窒素ガスが窒素ガス供給ライン4から供給されるようになっている。なお、貯蔵容器2に貯蔵される混合溶融物1は、図示しない溶融混練装置で溶融混練された後、ギヤポンプ等により貯蔵容器2内に供給されるようになっている。
貯蔵容器2に貯蔵された混合溶融物1は、先端部が先細り状(凸状)の溶融物吐出ノズル5から細糸状に吐出されるようになっている。この溶融物吐出ノズル5は貯蔵容器2の図中下端部に設けられており、溶融物吐出ノズル5の図中下方には、溶融物吐出ノズル5から吐出された混合溶融物1を前駆物質繊維として捕集するコレクタ6が配置されている。
【0009】
コレクタ6は溶融物吐出ノズル5と対向して配置されており、このコレクタ6と溶融物吐出ノズル5との間には、溶融物吐出ノズル5から細糸状に吐出された混合溶融物1を帯電させるために、混合溶融物帯電手段としての電圧発生器7から電圧が印加されるようになっている。
次に、図1に示すようなエレクトロスピニング装置を用いて炭素繊維を製造した場合とメルトブロー法により炭素系繊維を製造した場合について説明する。
【実施例1】
【0010】
熱可塑性樹脂(ポリ−4−メチルペンテン−1)100質量部と熱可塑性炭素前駆物質(コールタールピッチから調製した軟化点288℃の液晶ピッチ)30質量部を窒素雰囲気で溶融混練温度:290℃、溶融混練時間:20分の条件で二軸押出機により溶融混練して得られた混合溶融物1を貯蔵容器2に貯蔵した後、貯蔵容器2に貯蔵された混合溶融物1を溶融物吐出ノズル温度:330℃、電圧印加条件:コレクタをアースして貯蔵容器及び溶融物吐出ノズルに35kVの正電圧を印加、溶融物吐出ノズル先端からコレクタ6までの距離:80mmの条件で溶融物吐出ノズル5から細糸状に吐出し、溶融物吐出ノズル5から吐出された混合溶融物1を前駆物質繊維としてコレクタ6で捕集した。そして、捕集された前駆物質繊維を250℃の熱風乾燥機の中で3時間保持して安定化樹脂組成物を得、得られた安定化樹脂組成物をガス雰囲気:空気、昇温速度;5℃/分、昇温温度:400℃の条件で処理して安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去した後、安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去することで得られた繊維状炭素前駆物質をガス雰囲気:アルゴンガス、昇温時間;3時間、昇温温度:2800℃の条件で炭素化および黒鉛化して炭素繊維を得、得られた炭素繊維の繊維径を走査型電子顕微鏡で測定した。その結果、得られた炭素繊維の繊維径は100〜200nmであった。
【比較例1】
【0011】
熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物として実施例1と同じものを用い、ノズル温度:330℃、ノズル先端空気吹出し速度:500m/分、ノズル先端空気吹出し温度:350℃の条件で混合溶融物から前駆物質繊維をメルトブロー法により得た。そして、得られた前駆物質繊維から炭素繊維を実施例1と同じ条件で得、得られた炭素繊維の繊維径を走査型電子顕微鏡で測定した。その結果、得られた炭素繊維の繊維径は300〜600nmであった。
【0012】
実施例1と比較例1とを比較すると、比較例1では、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物から前駆物質繊維をメルトブロー法により得ているため、炭素繊維の繊維径が300〜600nmとなるのに対し、実施例1では、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物から前駆物質繊維をエレクトロスピニング法により得ているため、炭素繊維の繊維径が100〜200nmとなることがわかる。
【0013】
したがって、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物から前駆物質繊維を得る際に、図1に示すようなエレクトロスピニング装置を用いると、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物から前駆物質繊維をメルトブロー法により得る場合と比べて、得られる前駆物質繊維の径がより細いものとなるので、より繊維径の細い炭素系繊維を製造することができる。
【0014】
また、炭素系繊維をエレクトロスピニングで紡糸する場合、溶融物吐出ノズル5から吐出される溶融物として熱可塑性炭素前駆物質のみを使用すると、ノズル1本に対して1本の繊維しか紡糸できないため、細い炭素系繊維を得ようとすると生産速度が極端に低下するが、本発明では、溶融物吐出ノズル5から吐出される溶融物として熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物を使用したことで、紡糸補助材(副資材)である熱可塑性樹脂の数割の量の炭素前駆物質が熱可塑性樹脂のなかに分散し、かつエレクトロスピニングで全体(紡糸補助材(副資材)と炭素前駆物質)がある程度細くなって紡糸されるため、生産速度の大幅な低下を招くことなく繊維径のより細い炭素系繊維を製造することができる。
【0015】
図1に示したエレクトロスピニング装置では、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物1を貯蔵する貯蔵容器2として、単一の貯蔵容器を示したが、複数の貯蔵容器を用いてもよい。また、可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質の混合溶融物1を貯蔵する貯蔵容器2として、ステンレス鋼で形成されたものを示したが、貯蔵容器2の材質は特に制限されるものではなく、熱可塑性樹脂と炭素前駆物質の種類に応じて任意に選択可能である。さらに、貯蔵容器2をステンレス鋼やガラス等で形成すると、貯蔵容器2を安価に製作できるが、貯蔵容器2に貯蔵される混合溶融物1が腐食性の高い溶融物である場合には白金、ニッケル等の貴金属またはセラミック等で貯蔵容器2を形成してもよい。
【0016】
図1に示したエレクトロスピニング装置では、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物1を貯蔵する貯蔵容器2として、ステンレス鋼で一体的に形成されたものを示したが、これに限られるものではなく、例えばメンテナンスを考慮して複数のパーツから貯蔵容器2を構成してもよい。この場合、内圧によって溶融物1が漏れないように工夫することが望ましく、各パーツの間にアルミニウム製、銅製あるいはPTFE製などのパッキンを介在させることが好ましい。
【0017】
図1に示したエレクトロスピニング装置では、貯蔵容器2に貯蔵された混合溶融物1を一つの溶融物吐出ノズル5から細糸状に吐出するようにしたが、溶融物吐出ノズル5の数は単数または複数の何れでも構わない。ただし、生産性が向上するという点では複数のほうが好ましい。
図1に示したエレクトロスピニング装置では、貯蔵容器2に貯蔵された混合溶融物1を細糸状に吐出する溶融物吐出ノズル5として、先端部が先細り状(凸形)のものを示したが、これに限定されるものではない。ただし、先端部が平面状または凹形の溶融物吐出ノズルを用いると、ノズル先端部の等電位面が溶融物1の吐出方向に対して垂直な平面状になり、帯電した溶融物1が方向性を失って溶融物1の吐出方向を制御することが著しく困難となるのに対し、先端部が先細り状の溶融物吐出ノズル5を用いると、混合溶融物1がコレクタ6に向かって直進するので、安定した紡糸を実現することができる。
【0018】
また、溶融物吐出ノズル5の形状は特に限定されないが、針状、棒状、円錐形状、三角錐形状、四角錐形状、多角錘形状、ドーム形状、かまぼこ形状、楕円形状などの3次元形状であればよく、これらの形状を組み合せてもよい。また、溶融物吐出ノズル5の先端部付近の断面は丸である必要はなく、例えば正三角形、二等辺三角形などの三角形状、正方形、長方形などの方形形状、多角形状、Y字形状、C字形状、中空形状、扁平形状などの各種形状を適用できる。この場合、溶融物はこれらの内部をキャピラリーで通ってもよいし、底面からの表面張力や重力、延伸張力などによってノズルの先端まで溶融物を誘導しても構わない。
【0019】
図1に示したエレクトロスピニング装置では、溶融物吐出ノズル5から吐出された混合溶融物1を前駆物質繊維として捕集するコレクタ6として、平板状に形成されたものを示したが、これに限られるものではなく、例えば回転ドラム状あるいは回転ベルト(ベルトコンベア)状に形成されたものを用いてもよい。ただし、生産効率の観点からは静的平板よりも回転式のコレクタが好ましい。また、コレクタ6を複数のユニットから構成してもよい。
【0020】
実施例1では、熱可塑性樹脂としてポリ−4−メチルペンテン−1を用いた場合を示したが、熱可塑性炭素前駆物質と混練かつ紡糸可能な熱可塑性樹脂、好ましくは繊維断面での炭素繊維前駆物質の分散径が1〜10μmを達成し得る熱可塑性樹脂であれば、熱可塑性樹脂の種類は特に限定されるものではない。なお、TGA測定(熱量計測定)による質量減少率が500℃で90%以上の熱可塑性樹脂を用いると安定化樹脂組成物から容易に除去でき、ガラス転移点が250℃以下の熱可塑性樹脂を用いると熱可塑性炭素前駆物質との溶融混練が容易になるので好ましい。
【0021】
実施例1では、熱可塑性炭素前駆物質としてコールタールピッチから調製した液晶ピッチ(軟化点288℃)を用いた場合を示したが、これに限定されるものではなく、2000℃以上の高温で黒鉛化可能な熱可塑性炭素前駆物質であればよい。
実施例1では、貯蔵容器2に貯蔵される混合溶融物1として、熱可塑性樹脂100質量部と熱可塑性炭素前駆物質30質量部の混合溶融物を用いた場合を示したが、これに限定されるものではない。ただし、熱可塑性炭素前駆物質が100質量部を超えると分散径が所望の炭素繊維前駆物質を得られず、10質量部未満であると目的とする極細炭素繊維を効率的に製造することができない等の問題が生じることから、貯蔵容器2に貯蔵される混合溶融物1としては、熱可塑性樹脂100質量部と熱可塑性炭素前駆物質10〜100質量部(望ましくは30〜70質量部)の混合溶融物を用いることが好ましい。
【0022】
実施例1では、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質を溶融混練する装置として、二軸押出機を用いた場合を示したが、これに限られるものではなく、例えば一軸押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等を用いてもよい。
実施例1では、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質の溶融混練温度を290℃に設定すると共に溶融混練時間を20分に設定したが、これに限定されるものではない。例えば、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質の溶融混練温度を150〜330℃(好ましくは180〜300℃)に設定すると共に熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質の溶融混練時間を1〜20分(好ましくは5〜15分)に設定すると、熱可塑性樹脂や炭素前駆物質が分解したり変性したりすることを防止することができる。
【0023】
実施例1では、溶融物吐出ノズル5から吐出される混合溶融物1の温度を330℃に設定したが、これに限定されるものではない。例えば、溶融物吐出ノズル5から吐出される混合溶融物1の温度を200〜350℃(好ましくは250〜330℃)に設定してもよい。
実施例1では、溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に印加される電圧を35kVに設定したが、これに限定されるものではない。ただし、溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に印加される電圧が0.5kV未満であると混合溶融物1が溶融物吐出ノズル5から離脱し難くなり、100kVを超えると溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に放電現象が発生しやすくなるため、溶融物吐出ノズル5とコレクタ6との間に印加される電圧としては、0.5〜100kV、望ましくは10〜50kV、より望ましくは20〜35kVとすることが好ましい。
【0024】
実施例1では、安全性の観点からコレクタ6をグランドして溶融物吐出ノズル5に正電圧を印加したが、これに限定されるものではなく、コレクタ6が正極であってもよいし負極であってもよい。ただし、溶融物吐出ノズル5に電圧を加える場合、溶融物吐出ノズル5の先端部に電圧を加える方法と溶融物吐出ノズル5内の流路に電圧を加える方法があるが、装置の簡易性の観点から溶融物吐出ノズル5内の流路に電圧を加える方が好ましい。
【0025】
実施例1では、コレクタ6で捕集された前駆物質繊維を熱風乾燥機の中で安定化処理(不融化または耐炎化)するようにしたが、酸性水溶液などの溶液中で安定化処理を行なってもよい。ただし、生産性や経済性の観点からは酸素などのガス気流で前駆物質繊維の安定化を行うことが好ましい。この場合、使用するガスとしては、熱可塑性樹脂への浸透性および炭素前駆物質への吸着性の面で、また炭素前駆物質を低温で速やかに不融化させうるという面で、酸素および/または沃素ガスを含む混合ガスを用いることが好ましい。
【0026】
実施例1では、コレクタ6で捕集された前駆物質繊維を250℃のガス雰囲気で3時間保持して安定化樹脂組成物を得るようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、前駆物質繊維の処理温度は50〜300℃、好ましくは80〜250℃であることが望ましく、前駆物質繊維の処理時間は10時間以下、好ましくは5時間以下であることが望ましい。また、前駆物質繊維の不融化により炭素繊維前駆物質に含まれる炭素前駆物質の軟化点は著しく上昇するが、軟化点が400℃以上となることが好ましく、500℃以上であることがさらに好ましい。
【0027】
実施例1では、安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を熱分解により除去するようにしたが、例えば溶媒による溶解により安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去してもよい。いずれの方法を採用するかは熱可塑性樹脂の種類により任意に決定できる。なお、溶媒による溶解により安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去する場合は、より溶解性の高い溶媒(例えばポリカーボネートにおいては塩化メチレンやテトラヒドロフランであり、ポリエチレンにおいてはデカリンやトルエンなど)を用いることが好ましい。
【0028】
実施例1では、安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去する場合に400℃の温度条件で熱分解により安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去するようにしたが、安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を熱分解により除去する場合は、熱可塑性樹脂の種類によって異なるが、酸素を含むガス雰囲気で400℃以上、望ましくは500℃以上の温度で安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を熱分解により除去することが好ましい。
【0029】
実施例1では、繊維状炭素前駆物質をアルゴンガス雰囲気で炭素化および黒鉛化したが、これに限られるものではなく、アルゴンガスの代わりに窒素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを用いてもよい。また、実施例1では、繊維状炭素前駆物質を2800℃の温度で炭素化および黒鉛化したが、これに限られるものではなく、繊維状炭素前駆物質を炭素化もしくは黒鉛化する際の温度としては、500〜3000℃、望ましくは800〜2600℃であることが好ましい。
【0030】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート系ポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネートなどが挙げられるが、これらの中でも非結晶性で、ガス透過性が高く、容易に熱分解するポリオレフィン系が好ましい。
本発明で用いられる熱可塑性炭素前駆物質としては、コールタールピッチ系、石油ピッチ系、合成ピッチ系、樹脂系などが挙げられ、樹脂系としては、例えばポリアクリロニトリル、セルロール、ポリカルボジイミドなどが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る炭素径繊維の製造方法に用いられるエレクトロスピニング装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 混合溶融物
2 貯蔵容器
3 電熱ヒータ
4 窒素ガス供給ライン
5 溶融物吐出ノズル
6 コレクタ
7 電圧発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆物質との混合溶融物から得られる前駆物質繊維を熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度で且つ熱可塑性炭素前駆物質の軟化点未満の温度で加熱処理して安定化樹脂組成物を得、得られた安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去して得られる繊維状炭素前駆物質を炭素化もしくは黒鉛化して炭素系繊維を製造するに際して、
前記混合溶融物を細糸状に吐出する溶融物吐出ノズルと、前記溶融物吐出ノズルに対向して配置されたコレクタと、前記溶融物吐出ノズルと前記コレクタとの間に電圧を印加して前記混合溶融物を帯電せしめる溶融物帯電手段とを備えてなるエレクトロスピニング装置を用いて、前記前駆物質繊維を前記混合溶融物から得て炭素系繊維を製造することを特徴とする炭素系繊維の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−256835(P2009−256835A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108723(P2008−108723)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】