説明

炭素繊維強化プラスチック製の外装品

【課題】 本発明は、自動車に用いて好適の炭素繊維強化プラスチック製の外装品に関し、長期間厳しい環境下にも十分な耐久性を備え、クリア層の剥離や白濁を防止できるようにする。
【解決手段】 炭素繊維強化プラスチック1の表面に分子量が8000以上11000以下であるアクリル系サーフェーサー2を塗布し、サーフェーサー2の上層にクリア塗料3を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に自動車に用いて好適の、炭素繊維強化プラスチック製の外装品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化を目的として外装部品(外装品)や内装部品(内装品)に炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)が用いられる場合がある。また、このような炭素繊維強化プラスチックでは、意匠性の観点から着色塗装を行わずにクリア塗料のみで塗装を行い、カーボンの素地をあえて見せる手法が広く用いられている。
【0003】
この場合、図3(a)に示すように、カーボン素地の表面を平滑化するために、CFRP101の上面にサーフェーサー102が塗布され、この上からクリア塗料(以下、クリアという)103が塗布される。また、サーフェーサー102としてポリエステル系サーフェーサーが広く用いられている。これはポリエステル系サーフェーサーは素地の穴埋め効果が大きく、平滑化が容易であるという理由のほか、比較的安価でコストを低減できるからである。
【0004】
なお、下記の特許文献1にはFRP(繊維強化プラスチック)の塗装に関する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−322179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来より用いられるポリエステル系サーフェーサー102は十分な耐候性がなく、特に外装品では長期間厳しい環境下におかれることにより塗装に剥離等が生じる恐れがある。すなわち、ポリエステル系サーフェーサー102は、比較的酸や紫外線に弱く、このため従来のCFRP外装品では長時間酸性雨や太陽光に曝されると、その影響によりクリア103とのサーフェーサー102との間で界面劣化が生じ、図3(b)に示すように、クリア103が一部剥離する。
【0006】
また、図4は、CFRP101にポリエステル系サーフェーサー102を塗布し、その上にアクリル系クリア塗料103を塗布した外装品の断面を拡大した顕微鏡写真であるが、図示するように、ポリエステル系サーフェーサー102では、長期間厳しい環境下におかれることにより界面が劣化し、サーフェーサー102にクラック104が生じており、このクラック104からクリア103の剥離が発生する。そして、このようなクリア103の剥離が生じると美観を損なうこととなり、商品性が低下するという課題がある。また、このようなクラックが生じると、剥離まで至らなくても、クリア103に白濁が生じてしまい、やはり美観を損ねるという課題がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、長期間の厳しい環境下においても十分な耐久性を備え、クリア層の剥離や白濁を防止できるようにした、炭素繊維強化プラスチック製の外装品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本発明の炭素繊維強化プラスチック製の外装品は、炭素繊維強化プラスチック製の外装品であって、表面に分子量が8000以上11000以下であるアクリル系サーフェーサーを塗布し、該サーフェーサーの上層にクリア塗料を塗布したことを特徴としている(請求項1)。
また、該アクリル系サーフェーサーは、アクリルポリオールと硬化剤とからなる二液混合タイプのサーフェーサーであるのが好ましい(請求項2)。
【0009】
また、該硬化剤は脂肪族系イソシアネートであるのが好ましい(請求項3)。
また、該サーフェーサーは、耐候安定剤を含むのが好ましい(請求項4)。
また、該耐候安定剤は、紫外線吸収剤を1.0重量以上%、又は酸化防止剤を1.0重量%以上含むのが好ましい(請求項5)。
また、該外装品は、自動車用外装品であるのが好ましい(請求項6)。
【発明の効果】
【0010】
本発明の炭素繊維強化プラスチック製の外装品によれば、外装品の耐候性,耐久性が大幅に向上するという利点がある。すなわち、サーフェーサーに分子結合が強いアクリル系を用いるとともに、このアクリル系サーフェーサーの分子量を8000〜11000とすることで紫外線による劣化を大幅に抑制することができ、耐酸性も向上する。したがって、サーフェーサーの界面劣化を抑制でき、クリア塗料の剥離や白濁を防止することができる。
【0011】
また、このサーフェーサーの主剤(アクリルポリオール)に耐候安定剤として、紫外線吸収剤を1.0重量%以上、又は酸化防止剤を1.0重量%以上添加することにより、紫外線による劣化や酸性雨等による酸化をさらに抑制することができ、耐候性及び耐久性の更なる向上を図ることができる。
また、サーフェーサーの硬化剤として脂肪族系イソシアネートを適用することにより、やはり耐久性や耐候性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面により、本発明の一実施形態にかかる炭素繊維強化プラスチック製の外装品について説明すると、図1はその要部構成を示す模式的な断面図、図2はその耐候性,耐久性について説明する図である。
図1において、符号1は自動車用の外装品(例えばスポイラー)を形成する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であって、このCFRP1の表面には素地を平滑化する目的でサーフェーサー2が塗布されている。また、このサーフェーサー2の上層にアクリル系クリア塗料(以下、クリアという)3が塗布されている。
【0013】
このサーフェーサー2は、二液混合タイプ(二液反応タイプ)のアクリル系サーフェーサーであって、主剤としてアクリルポリオールが用いられており、硬化剤として脂肪族系イソシアネートが用いられている。
ここで、アクリル系サーフェーサー2は、従来用いられているポリエステル系サーフェーサー(ポリエステルポリオール)よりも分子結合が強く基本的に耐候性が優れているという特性を有しており、ポリエステル系サーフェーサーに代えてアクリル系サーフェーサーを用いることにより、クリア3との間でのクラックや剥離を抑制することができる。
【0014】
また、従来広く用いられるポリエステルポリオールが分子量(平均分子量)1000〜3000であるのに対して、本発明で用いられるアクリルポリオールは上記ポリエステルポリオールより高めの分子量8000〜11000に設定されている。これは、分子量を高めることによっても結合をより強化し耐候性を高めることができるからであって、分子量を高めることにより特に紫外線による劣化を抑制することができる。なお、上記の分子量8000〜11000は、自動車外装用塗料の実績に基づくものであって、分子量が上記範囲内であると耐候性を最も高めることができる。
【0015】
また、この主剤(アクリルポリオール)には、耐候性を高めるための耐候安定剤として紫外線吸収剤及び酸化防止剤が添加されている。具体的には、紫外線吸収剤としては例えばベンゾトリアゾール系が用いられ、主剤に対して1.0重量%含まれている。また、酸化防止剤としては例えばフェノール系が用いられ、主剤に対して1.0重量%含まれている。
【0016】
また、硬化剤として用いられる脂肪族系イソシアネートは、従来より広く用いられる芳香族系イソシアネートよりも耐候性が高いので、この点でも全体の耐候性を高めることができる。
ここで、図2は本実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック製の外装品の耐候性,耐久性について説明するための写真であって、(a)は従来の技術を用いた外装品の表面を拡大した写真、(b)は本実施形態の外装品の表面を拡大した写真である。
【0017】
図2(a),(b)に示す外装品は、ともに長時間に亘る厳しい環境下での屋外での使用を試験設備で再現した後に、顕微鏡で拡大したものであって、図2(a)に示す従来品では、細かなひびが多数生じている。これは、サーフェーサーの界面が劣化してクリアとの間にクラックが生じたものであり、このようなクラックによりクリアの剥離が生じるとともに外装品の見栄えが大きく損なわれる。
【0018】
一方、本実施形態に係る外装品は、図2(b)に示すように、ひび(クラック)の発生は一切認められず、耐候性,耐久性が大幅に向上しているのが分かる。なお、図中に見える模様は外装品の表面に付着した汚れであって、これは耐候性等には何ら関係のないものである。
本発明の一実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック製の外装品は、上述のように構成されているので、クリア3の剥離を抑制して耐候性を向上させることができる。つまり、サーフェーサー2に分子結合が強く耐候性のよいアクリル系を用いるとともに、このアクリル系のサーフェーサー2の分子量を外装用塗料並に高めることで、これらの相乗効果により紫外線による劣化を大幅に抑制することができ、耐酸性も向上する。したがって、サーフェーサー2の界面劣化を抑制でき、クリア3の剥離や白濁を防止することができる。
【0019】
また、このサーフェーサー2の主剤(アクリルポリオール)は耐候安定剤として、紫外線吸収剤及び酸化防止剤を含んでいるので、紫外線による劣化や酸性雨等による酸化をさらに抑制することができ、耐候性及び耐久性の更なる向上を図ることができる。
また、サーフェーサー2としてアクリルポリオールと硬化剤とからなる二液混合タイプのサーフェーサーを用い、硬化剤として脂肪族系イソシアネートを適用することにより、やはり耐久性や耐候性をさらに向上させることができる。
【0020】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した実施形態では、耐候剤として紫外線吸収剤及び酸化防止剤を適用するとともに、紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系を用い、酸化防止剤としてフェノール系を用いた場合について説明したが、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール系以外のもの(例えばベンゾフェノン系)を適用してもよいし、酸化防止剤としてフェノール系以外のもの(例えばヒンダードアミン系)を適用しても良い。
【0021】
また、本実施形態では主剤に対して紫外線吸収剤及び酸化防止剤の両方が添加された場合について説明したが、これらの添加剤は含んでいなくても良いし、いずれか一方のみを含んでいても良い。
また、上述では紫外線吸収剤及び酸化防止剤が、主剤に対してそれぞれ1.0重量%添加されている場合について説明したが、これらの紫外線吸収剤及び酸化防止剤は少なくとも1.0重量%以上含まれていればよい。なお、コストと効果とを考慮すると紫外線吸収剤及び酸化防止剤の添加量は1.0重量%が最適である。
【0022】
また、本実施形態では、本発明を自動車用の外装品に適用した例について説明したが、本発明は、主に屋外で使用されるCFRPであって、カーボンの素材が見えるようにカーボンパネル上にクリア塗装を行うものに広く適用できる。例えば、本発明を自転車,オートバイ,船舶及びアウトドア用品等に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態にかかる炭素繊維強化プラスチック製の外装品の要部構成を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる炭素繊維強化プラスチック製の外装品の耐候性,耐久性について説明するための写真である。
【図3】従来の技術及びその課題について説明するための図である。
【図4】従来の技術及びその課題について説明するための写真である。
【符号の説明】
【0024】
1 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)
2 サーフェーサー
3 クリア塗料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチック製の外装品であって、
表面に分子量が8000以上11000以下であるアクリル系サーフェーサーを塗布し、
該サーフェーサーの上層にクリア塗料を塗布した
ことを特徴とする、炭素繊維強化プラスチック製の外装品。
【請求項2】
該アクリル系サーフェーサーは、アクリルポリオールと硬化剤とからなる二液混合タイプのサーフェーサーである
ことを特徴とする、請求項1記載の炭素繊維強化プラスチック製の外装品。
【請求項3】
該硬化剤は脂肪族系イソシアネートである
ことを特徴とする、請求項2記載の炭素繊維強化プラスチック製の外装品。
【請求項4】
該サーフェーサーは、耐候安定剤を含む
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の炭素繊維強化プラスチック製の外装品。
【請求項5】
該耐候安定剤は、
紫外線吸収剤を1.0重量%以上、又は酸化防止剤を1.0重量%以上含む
ことを特徴とする、請求項4記載の炭素繊維強化プラスチック製の外装品。
【請求項6】
該外装品は、自動車用外装品である
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項記載の炭素繊維強化プラスチック製の外装品。


【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−23152(P2007−23152A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207030(P2005−207030)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】