説明

炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド及びその製造方法

【課題】軽量性を損なわずに、優れた導電性、機械的強度、表面平滑性に優れる、炭素繊維強化樹脂成形体が得られる炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】繊維径5〜20μm及び繊維長1〜10mmの炭素繊維と、繊維径0.5〜500nm及び繊維長1000μm以下を有し、中心軸が空洞構造からなる微細炭素繊維と、熱可塑性樹脂とを含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドであって、上記炭素繊維が5〜40重量%、微細炭素繊維が1〜50重量%、及び熱可塑性樹脂が5〜99重量%含有することをすることを特徴とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形などによる成形体の製造に使用される炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドに関し、特に、得られる成形体の導電性、機械的特性、及び表面平滑性に優れた炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂材料は、軽量でしかも高い導電性や機械的強度を有するために、近年のエレクトロニクスの発展に伴い、電磁波シールドや静電気防止のための材料、さらには、OA部品、車両部品、機械部品などの材料として幅広い分野に使用され、また使用が期待されている。特に、車両部品、例えば、静電塗装可能な自動車外装部品(バンパー、バックドアパネル)などの材料として大きな期待がかけられている。
【0003】
炭素繊維強化樹脂材料は、予め炭素繊維と適当な樹脂とを混練、押出ししたコンパウンドと呼ばれるペレット状物を作製し、これを射出成形機などの成形機により所望の形態に成形するのが一般的である。コンパウンドの作製では、炭素繊維と所望の樹脂を単軸あるいは2軸混練機により樹脂の軟化点以上で混練、押出したものを冷却しながら適当な長さに切断しペレットを得るものである。
【0004】
しかしながら、炭素繊維強化樹脂材料は、軽量性に優れるものの、金属系の導電性材料に比べて導電性が低く、十分な性能が得られないという難点があり、これを補うために炭素繊維の配合量を多くすると成形加工性や衝撃強度などの機械的特性が低下するという問題が生じる。また、炭素繊維を用いる強化樹脂材料の場合、得られる成形体の表面平滑性が一般的に小さく、特に炭素繊維の配合量を多くしたときにはますます低下してしまう問題がある。特に、OA部品、車両部品、機械部品などに使用する場合、表面平滑性の低下は、成形体表面を静電塗装などにより塗装する場合には、外観がわるくなり商品価値を著しく低下させるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、軽量性を損なわずに、優れた導電性、大きい機械的強度、表面平滑性に優れる、炭素繊維強化樹脂成形体が得られる炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意研究を進めたところ、炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド中に、強化材料として、特定の炭素繊維とともに、特定の物性を有する微細炭素繊維の特定量を含有させた場合には、予想外なことに、該コンパウンドから得られる成形体の表面平滑性が顕著に改善され、同時に、得られる成形体全体にわたって均一な導電性や機械的強度も得られることを見出した。
【0007】
本発明は、上記の新規な知見に基づくもので、以下の特徴を有するものである。
(1)繊維径5〜20μm及び繊維長1〜10mmの炭素繊維と、繊維径0.5〜500nm及び繊維長1000μm以下を有し、中心軸が空洞構造からなる微細炭素繊維と、熱可塑性樹脂とを含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドであって、上記炭素繊維が5〜40重量%、微細炭素繊維が1〜50重量%、及び熱可塑性樹脂が50〜99重量%含有することをすることを特徴とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド。
(2)微細炭素繊維が気相法炭素繊維である請求項1に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド。
(3)微細炭素繊維が、非酸化性雰囲気にて2300〜3500℃で黒鉛化処理されている請求項1又は2に記載の請求項1又は2に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド。
(4)微細炭素繊維が、その100重量部あたり、1〜40重量部のフェノール樹脂がその表面に被覆された微細炭素繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド。
(5)熱可塑性樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリカーボネート及び/又はポリフェニレンサルファイドである請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド。
(6)熱可塑性樹脂を溶融し、該溶融した熱可塑性樹脂に対して、繊維径5〜20μm及び繊維長1〜10mmの炭素繊維と、繊維径0.5〜500nm及び繊維長1000μm以下を有し、中心軸が空洞構造からなる微細炭素繊維とを配合し混練することを特徴とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドの製造方法。
(7)微細炭素繊維が、その100重量部あたり、1〜40重量部のフェノール樹脂がその表面に被覆された微細炭素繊維である請求項6に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドの製造方法。
(8)熱可塑性樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリカーボネート及び/又はポリフェニレンサルファイドである請求項6又は7に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軽量性に優れ、導電性が大きく、機械的特性とともに表面平滑性に優れる成形体を製造することができる炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドが提供される。このため、本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドを使用して得られる成形体は、その表面を静電塗装などにより塗装し、OA部品、車両部品、機械部品などに使用される場合にも、優れた外観の商品価値を高いものを与えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドに含まれる炭素繊維としては、PAN系、ピッチ系その他の炭素繊維の何れでもよい。その繊維径は好ましくは5〜20μm、特に好ましくは7〜15μmのものが好適である。繊維の長さについては、特に制限はないが、成形加工性や機械的強度などからして、通常は、好ましくは1〜10mm、特に好ましくは、2.5〜6.5mmである。炭素繊維としては、なかでも、導電性の高い高性能のメソフェーズピッチ系炭素繊維が好ましい。もちろん、更に高温で焼成して得られた黒鉛繊維であってもよい。
【0010】
また、本発明で使用される微細炭素繊維としては、繊維径0.5〜500nm以下、繊維長1000μm以下で、好ましくはアスペクト比3〜1000を有する、好ましくは炭素六角網面からなる円筒が同心円状に配置された多層構造を有し、その中心軸が空洞構造の微細炭素繊維が使用される。かかる微細炭素繊維は、上記の炭素繊維と比べて繊維径や繊維長さが異なるだけでなく、構造的にも大きく異なっている。この結果、導電性、熱伝導性、摺動性などの物性の点でも異なる。
【0011】
微細炭素繊維は、その繊維径が0.5nmより小さい場合には、得られる複合材料の強度が不十分になり、500nmより大きいと、機械的強度、熱伝導性、摺動性などが低下する。また、繊維長が1000μmより大きい場合には、微細炭素繊維が炭素マトリックス中に均一に分散し難くなるため、材料の組成が不均一になり、得られる複合材料の機械的強度が低下する。本発明で使用される微細炭素繊維は、繊維径が10〜200nm、繊維長が3〜300μm、好ましくはアスペクト比が3〜500を有するものが特に好ましい。なお、本発明において微細炭素繊維の繊維径や繊維長は、電子顕微鏡により測定することができる。
【0012】
本発明で使用される好ましい微細炭素繊維は、カーボンナノチューブである。このカーボンナノチューブは、グラファイトウイスカー、フィラメンタスカーボン、炭素フィブリルなどとも呼ばれているもので、チューブを形成するグラファイト膜が一層である単層カーボンナノチューブと、多層である多層カーボンナノチューブとがあり、本発明ではそのいずれも使用できる。しかし、多層カーボンナノチューブの方が、大きい機械的強度が得られるとともに経済面でも有利であり好ましい。
【0013】
カーボンナノチューブは、例えば、「カーボンナノチュ−ブの基礎」(コロナ社発行、23〜57頁、1998年発行)に記載されるようにアーク放電法、レーザ蒸発法及び熱分解法などにより製造される。カーボンナノチューブは、繊維径が好ましくは0.5〜500nm、繊維長が好ましくは1〜500μm、好ましくはアスペクト比が3〜500のものである。
【0014】
本発明において特に好ましい微細炭素繊維は、上記カーボンナノチューブのうちで繊維径と繊維長が比較的大きい気相法炭素繊維である。このような気相法炭素繊維は、VGCF(Vapor Grown Carbon Fiber)とも呼ばれ、特開2003−176327号公報に記載されるように、炭化水素などのガスを有機遷移金属系触媒の存在下において水素ガスとともに気相熱分解することによって製造される。この気相法炭素繊維(VGCF)は、繊維径が好ましくは50〜300nm、繊維長が好ましくは3〜300μm、好ましくはアスペクト比が3〜500のものである。そして、このVGCFは、製造しやすさや取り扱い性の点で優れている。
【0015】
本発明で使用される微細炭素繊維は、2300℃以上、好ましくは2500〜3500℃の温度で非酸化性雰囲気にて熱処理することが好ましく、これにより、その表面が黒鉛化され、機械的強度、化学的安定性が大きく向上し、得られる複合材料の軽量化に貢献する。非酸化性雰囲気は、アルゴン、ヘリウム、窒素ガスが好ましく使用される。
【0016】
本発明で使用される微細炭素繊維は、そのままでもよいが、表面にフェノール樹脂を被覆した微細炭素繊維の使用が好ましい。かかる樹脂を被覆した微細炭素繊維を使用した場合には、分散状態が均一になり、樹脂コンパウンドの作製時の加工性が向上し、樹脂コンパウンドの生産効率が大幅に向上する。フェノール樹脂の微細炭素繊維の表面への被覆量が、上記微細炭素繊維100重量部あたり、好ましくは1〜40重量部、特に好ましくは5〜25重量部が好適である。このフェノール樹脂を被覆した微細炭素繊維は、フェノール類とアルデヒド類とを、触媒の存在下で、微細炭素繊維と混合させつつ反応させることにより製造するのが好ましい。
【0017】
本発明で使用される熱可塑性樹脂は、目的とする成形体によって適宜に選ばれるが、成形分野で使用される樹脂であれば特に制限はない。例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;ポリスチレン、ABS、AS樹脂などのスチレン系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などのポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ボリフェニレンサルファイト、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー(LCP);などのエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。本発明においては、これらの熱可塑性樹脂を1種又は2種以上組合せて使用することができる。
【0018】
なかでも、本発明では、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリカーボネート及び/又はポリフェニレンサルファイドの樹脂の場合には優れた特性の成形体を与える樹脂コンパウンドが得られる。なお、熱可塑性樹脂に、通常使用される種々の添加剤、たとえば酸化防止剤、潤滑剤、可塑剤、安定剤などを予め配合してもよい。
【0019】
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドにおいて、炭素繊維、微細炭素繊維及び熱可塑性樹脂の含有される割合は重要である。本発明で、炭素繊維が5〜40重量%、微細炭素繊維が1〜50重量%及び熱可塑性樹脂が50〜99重量%が含有される。炭素繊維が5重量%より小さい場合には、機械的強度が充分に発揮されず、逆に40重量%を超える場合には、加工性や表面平滑性が好ましくない。また、微細炭素繊維が1重量%より小さい場合には、導電性の安定化や機械的強度の向上が充分に得られない。逆に50重量%を超える場合には、添加量に見合うだけの改善効果が発言しない。また、熱可塑性樹脂が50重量%より小さい場合には、流動性の低下による成形加工性の問題が発生し、逆に99重量%を超える場合には本発明によりもたらされる効果が充分に得られない。なかでも、本発明では、炭素繊維が10〜30重量%、微細炭素繊維が3〜15重量%及び熱可塑性樹脂が60〜90重量%の比率で含有されるのが好ましい。
【0020】
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドは、上記の炭素繊維、微細炭素繊維及び熱可塑性樹脂を配合することによって製造される。配合は、通常の熱可塑性樹脂の配合方法を用いることができるが、好ましくは、バンバリミキサー、ニーダーヘンシェルミキサーなどの混練機、又は1軸又は2軸押出機を使用することもできる。本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドは、かかる混練機又は押出機を使用し、溶融させた熱可塑性樹脂に対して、炭素繊維及び微細炭素繊維を配合し、均一に分散した後、冷却、固化させ、次いでペレタイザーにて、平均サイズ(長さ)が好ましくは2〜6mm、特に好ましくは2.5〜3.5mmに切断せしめられる。
【0021】
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドには、本発明の目的を阻害しない範囲で必要に応じて、公知の種々の添加剤を添加することができる。添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、安定剤、充填剤、補強剤、難燃剤、滑剤、溶剤、加工助剤などを挙げることができる。さらには、炭素粉末、金属系や他の炭素系導電材料などを添加、併用することもできる。
【0022】
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドは、射出成形のほかに、押出成形、トランスファー成形、プレス成形など各種の成形方法なども使用でき、使用する樹脂および目的の成形体の形状に応じた成形方法が選択できる。かくして本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドからは、具体的には、ファクシミリなどの低抵抗パンド、非帯電コンベアベルト、導電タイヤ、IC収納ケース、コピー機用ロール、加熱用エレメント、過電流・過熱防止用素子、電磁波シールド筺体、キーボードスイッチ、コネクター素子など各種の電気・電子部品、OA部品、さらには、静電塗装可能な自動車外装部品(バンパー、バックドアパネル)、車輌部品、機械部品など広範囲の成形体が製造される。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらにより限定されるものではない。なお、以下に示す部はすべて重量基準である。また、下記の実施例において、成形体の各特性はそれぞれ下記のようにして求めた。
体積固有抵抗(導電性):JIS K7194に準拠する方法による。
引張強度:ISO527に準拠する方法による。
曲げ強度:ISO178に準拠する方法による。
表面平滑性(Ra):JISB0601に準拠する方法による。
【0024】
実施例1
炭素繊維として、繊維径が7〜15μm、繊維長が6mmのメソフェーズピッチ系の高弾性炭素繊維20部、微細炭素繊維として、繊維径が150nm、繊維長が15μm、アスペクト比が100の気相法炭素繊維をアルゴンガス雰囲気中、温度2800℃で30分間、加熱処理して黒鉛化した繊維3部、及び熱可塑性樹脂として、ポリアミド66(66PA)80部を使用した。
【0025】
2軸押出し混練機を使用し、溶融した上記ポリアミド66と、炭素繊維及び微細炭素繊維を配合、混練し、得られる混練物をペレタイザーによる直径2.5mm、長さ3mmのペレット状の樹脂コンパウンドを製造した。この樹脂コンパウンドを射出成形機にして成形し、縦88mm、横48mm、厚み3mmの試験成形板を得た。
【0026】
この試験成形板の体積固有抵抗(導電性)、引張強度、曲げ強度、及び表面平滑性(Ra)を試験し、その結果を表1に示した。なお、表1において、比較例1は、実施例1において、炭素繊維及び微細炭素繊維のいずれも使用しないで,樹脂のみを使用して同様に製造した試験成形板についての結果である。また、比較例2は、実施例1において、微細炭素繊維を使用しないで,樹脂と炭素繊維を使用して同様に製造した試験成形板についての結果である。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果からわかるように、本発明の実施例1の試験成形板は、比較例1の試験成形板に比べて、体積固有抵抗が飛躍的に小さく、従って導電性能が大きく向上し、また、引張強度、曲げ強度も2倍に向上している。また、比較例2の試験成形板に比べても導電性能を維持しつつ、引張強度、曲げ強度などの機械的強度を向上させ、表面平滑性も著しく向上していることがわかる。
【0029】
実施例2
上記実施例1において、熱可塑性樹脂として、ポリアミドの代わりに、ポリカーボネート(PC)を使用し、また、ポリカーボネート60部、炭素繊維30部、微細炭素繊維10部に変え、実施例1と同様に実施し、同寸法の試験成形板を製造した。
【0030】
この試験成形板の体積固有抵抗(導電性)、引張強度、曲げ強度、及び表面平滑性(Ra)を試験し、その結果を表2に示した。なお、表2において、比較例3は、実施例2において、炭素繊維及び微細炭素繊維のいずれも使用しないで,樹脂のみを使用して同様に製造した試験成形板についての結果である。また、比較例4は、実施例2において、微細炭素繊維を使用しないで,樹脂と炭素繊維を使用して同様に製造した試験成形板についての結果である。
【0031】
【表2】

【0032】
表2の結果からわかるように、本発明の実施例2の試験成形板も実施例1の場合と同じく、体積固有抵抗引張強度、曲げ強度などの機械的強度を損なうことなく表面平滑性を向上させている。
【0033】
実施例3
上記実施例2において、微細炭素繊維として、次のようにして調製したフェノール樹脂被覆微細炭素繊維を使用した。反応容器にビスフェノールA(水に対する常温での溶解度0.036)を20重量部、フェノールを365重量部、37重量%ホルマリンを547重量部、トリエチルアミンを7.7重量部仕込んだ。さらに、1835重量部及び水を1500重量部仕込んだ(疎水性のビスフェノールAはフェノール類中の5重量%)。攪拌混合しながら60分を要して90℃まで昇温し、そのまま4時間反応を行なった。次に、20℃まで冷却した後、反応容器の内容物をヌッチェによりろ別して、含有水分22重量%の微細炭素繊維を得た。これを、熱風循環式乾燥器で器内温度45℃で約48時間乾燥することにより、フェノール樹脂の含有量は15重量%のフェノール樹脂被覆微細炭素繊維を得た。フェノール樹脂の被覆により、微細炭素繊維の見かけ密度は大幅に改善され、樹脂コンパウンド作製時の加工性が飛躍的に向上し、樹脂コンパウンドの生産能力が約3倍になった。
【0034】
このフェノール樹脂被覆微細炭素繊維を20部、ポリカーボネート60部、炭素繊維20部使用した他は、実施例2と同様に実施し、同寸法の試験成形板を製造した。
この試験成形板の体積固有抵抗(導電性)、引張強度、曲げ強度、及び表面平滑性(Ra)を試験し、その結果を表3に示した。
【0035】
【表3】

【0036】
表3の結果からわかるように、本発明の実施例3の試験成形板は、比較例3の試験成形板に比べて、体積固有抵抗、引張強度、及び曲げ強度を著しく向上させた。
【0037】
実施例4
上記実施例1において、熱可塑性樹脂として、ポリアミドの代わりに、ポリフェニンサルファイド(PPS)を使用し、また、ポリフェニンサルファイド70部、炭素繊維15部、微細炭素繊維15部に変えた他は、実施例1と同様に実施し、同寸法の試験成形板を製造した。この試験成形板の表面平滑性(Ra)は、0.105であった。
上記において、微細炭素繊維を使用せずに、炭素繊維のみを30部使用し他は同様にして製造した試験成形板の表面平滑性は0.225であった。
【0038】
実施例5〜7
上記実施例1において、熱可塑性樹脂として、ポリアミドの代わりに、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を使用し、かつポリエーテルエーテルケトン75部、炭素繊維20部、微細炭素繊維5部に変えた他は、実施例1と同様に実施し、同寸法の試験成形板(実施例5)を製造した。
【0039】
上記において、ポリエーテルエーテルケトン75部、炭素繊維15部、微細炭素繊維10部に変えた他は同様に実施し、同寸法の試験成形板(実施例6)を製造した。また、同様にして、ポリエーテルエーテルケトン80部、炭素繊維15部、微細炭素繊維5部に変えた他は同様に実施し、同寸法の試験成形(実施例7)を製造した。
【0040】
製造された実施例5、6及び7の試験成形板の体積固有抵抗(導電性)、引張強度、曲げ強度、及び表面平滑性(Ra)を試験し、その結果を表4に示した。
【0041】
【表4】

【0042】
表4の結果からわかるように、本発明の実施例5、6及び7の試験成形板は、比較例7試験成形板に比べて、優れた引張強度及び曲げ強度を維持しつつ、安定した体積固有抵抗を有し、かつ炭素繊維のみの強化樹脂に比較して高い表面平滑性(Ra)を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径5〜20μm及び繊維長1〜10mmの炭素繊維と、繊維径0.5〜500nm及び繊維長1000μm以下を有し、中心軸が空洞構造からなる微細炭素繊維と、熱可塑性樹脂とを含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドであって、上記炭素繊維が5〜40重量%、微細炭素繊維が1〜50重量%、及び熱可塑性樹脂が50〜99重量%含有することをすることを特徴とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド。
【請求項2】
微細炭素繊維が気相法炭素繊維である請求項1に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド。
【請求項3】
微細炭素繊維が、非酸化性雰囲気にて2300〜3500℃で黒鉛化処理されている請求項1又は2に記載の請求項1又は2に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド。
【請求項4】
微細炭素繊維が、その100重量部あたり、1〜40重量部のフェノール樹脂がその表面に被覆された微細炭素繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリカーボネート及び/又はポリフェニレンサルファイドである請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンド。
【請求項6】
熱可塑性樹脂を溶融し、該溶融した熱可塑性樹脂に対して、繊維径5〜20μm及び繊維長1〜10mmの炭素繊維と、繊維径0.5〜500nm及び繊維長1000μm以下を有し、中心軸が空洞構造からなる微細炭素繊維とを供給して混練することを特徴とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドの製造方法。
【請求項7】
微細炭素繊維が、その100重量部あたり、1〜40重量部のフェノール樹脂がその表面に被覆された微細炭素繊維である請求項6に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドの製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリカーボネート及び/又はポリフェニレンサルファイドである請求項6又は7に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂コンパウンドの製造方法。

【公開番号】特開2006−28313(P2006−28313A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207792(P2004−207792)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000005979)三菱商事株式会社 (56)
【Fターム(参考)】