説明

炭素繊維強化金属複合材フィルム及びその製造法

【課題】炭素繊維に金属溶湯を含浸させることなく、炭素繊維と金属が反応しない低温域で炭素繊維強化金属複合材フィルムを得られる製造方法を提供する。
【解決手段】多数の炭素繊維フィラメントが平行して隙間なく平面に並べられた炭素繊維集合体にあらかじめメッキ活性剤を付与した後、該炭素繊維集合体を無電解メッキ浴又は化学メッキ浴に浸漬することにより、該炭素繊維フィラメント1本ずつが金属で被覆されるとともに、該炭素繊維集合体が1枚の金属複合材フィルムに形成されることを利用したフィルム状の炭素繊維強化金属複合材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維と金属からなる複合材及びその製造法に関する。更に詳しく説明すれば、平面状に隙間なく直線的に並べられた炭素繊維フィラメントが金属マトリックスに埋まっている状態の組成構造を有するフィルム状の複合材に関する。即ち、一本一本の炭素繊維フィラメントが金属マトリックスに被覆されており互いに隣接した炭素繊維が金属で接着されている平面状の一枚の紙のような形状を有する炭素繊維強化金属複合材フィルムに関する。この炭素繊維強化金属複合材フィルムを二枚の金属箔でサンドイッチ状に挟み、ホットプレス法又はパルス通電圧接法などの手段により圧力と熱を加えて接着すると炭素繊維と金属マトリックスからなる紙のように薄くて強靭な炭素繊維強化金属フィルムが得られる。更に、この複合材フィルムを複数枚重ねて圧接すると、即ち、炭素繊維の方向をタテとヨコに交互に重なるように炭素繊維強化金属複合材フィルムを圧接すると軽くて薄い高強度の複合材パネルを作ることが出来ると想定される。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は樹脂、金属、セラミック、炭素等をマトリックスとする複合材の補強繊維として注目されている。複合材においては、補強繊維が負荷された応力を主に担い、マトリックスは外部から加えられた力を個々の繊維に均等に分担させる応力伝達の役割を担うと考えられている。従って、複合材としての性能を十分なものとするためには、繊維がマトリックス中に均一に分布しており、一本一本の補強繊維がマトリックスで一様に囲まれており、更に、繊維とマトリックスが充分に接着していて応力の伝達が円滑に行なわれるようになっていることが重要である。
【0003】
炭素繊維の組成は一般に約80%の結晶性炭素と約20%の非晶質炭素から成る混晶体である。それゆえ、炭素繊維は黒鉛に似た性質も有しておりマトリックスとの接着性が悪く、充分な性能を示す複合材を得難い。そのため、従来は、炭素繊維とエポキシ樹脂との複合材のみが主に工業的に実用化されている。耐熱性や剛性に優れた複合材を得るには炭素繊維/金属の複合材が望ましいのであるが、現在までのところ炭素繊維/金属の複合材は工業的に成功していない。従来からマトリックスとの接着性を向上させるため、例えば、酸化性ガスや酸溶液、或いは、電気分解等により炭素繊維の表面を活性化したり、化学蒸着法(CVD法)等により炭素繊維の表面に金属の蒸着層を設けたりする等の方法が提案されている。また、炭素繊維の表面にアルコキシアルミニウムアセチレートの溶液を塗布し、それを焼成して酸化アルミニウム等の皮膜を形成する方法が特開昭60−76335号公報に提案されている。しかしながら、これらの方法は未だマトリックスとの接着性が充分とは言えず、又、生産コストも高いためいずれも工業的製法として成功していない。
【特許文献1】特公昭50−1424号公報
【特許文献2】特開昭62−261195号公報
【特許文献3】特開平7−268111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭素繊維の高強度および高剛性を生かした複合材とするためにはマトリックスとして金属が望ましい素材であると言える。金属は剛性が高いので複合材に加えられた外力を炭素繊維に充分に伝えることが出来る。そのため、炭素繊維/金属の複合材では軽くて強い構造材料や板材を作ることが出来ると期待される。しかしながら、一本一本の炭素繊維を金属で完全に被覆して炭素繊維とマトリックス金属を充分に接着させるためには溶融した金属の中に炭素繊維を浸漬する方法が一般に考えられるが、高温の金属溶湯に接触した炭素繊維は酸化され易いため不活性ガス雰囲気中で行なわなければならない。また、炭素繊維は溶融した軽金属と反応して金属カーバイドを生成する。例えば、溶融したアルミニウムは炭素繊維と反応してアルミニウムカーバイドを生成し、マグネシウムと反応してマグネシウムカーバイドを生成する。金属カーバイドは脆い物質であり強度が弱いので炭素繊維/金属の複合材を作ることは困難と考えられてきた。
【0005】
炭素繊維が金属溶湯や空気中の酸素と反応するのを防ぎながら一本一本の炭素繊維を金属で完全に被覆して炭素繊維とマトリックス金属を充分に接着させることができる代替の方法を探索する必要があった。即ち、金属溶湯のような高温条件下で炭素繊維を金属被覆するのではなく、炭素繊維が安定で不活性な状態にある温和な温度領域で金属被覆するためにはどのような手段を採ればよいかという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
温和な反応条件下で炭素繊維を金属で被覆する方法として無電解メッキ(化学メッキ)法がある。無電解メッキ法は水系で行なわれるため、100℃以下の温度で行なわれる。そのため、炭素繊維と金属が反応することなく炭素繊維の表面を金属で緻密に被覆することができる。このたび、本発明者は、無電解メッキ法で炭素繊維を金属被覆すると炭素繊維と金属被膜は非常に強固に接着されることを発見した。炭素繊維の表面には無数の微細な穴が開いており、穴の直径は1/10〜1/100ミクロン(μm)である。メッキ法により基材の炭素繊維の表面に形成された金属被膜が強固な接着力を発現する理由は炭素繊維表面に在る無数の微細孔に起因すると考えられる。水中で金属イオンが還元される際にこの穴の中に金属が析出して金属皮膜のアンカー効果が生じているためであると考えられる。アンカー効果はメッキ技術者の間でよく使われる技術用語であり、被メッキ材表面の凸凹を利用してメッキ皮膜の裏面に引っかかりによる物理的な係止力を発現させてメッキ皮膜が強く被メッキ基材の表面に密着又は接着される効果を指す。
【0007】
炭素繊維の表面が無数の微細な穴を有する理由は炭素繊維の製造方法に由来する。炭素繊維はポリアクリロニトリル繊維を不活性ガス雰囲気中で高温焼成して造られるが、そのとき発生した有機分解物のガスが繊維から揮散するときに生じた微細孔の跡である。
【0008】
また、本発明者は、無電解メッキ(化学メッキ)法により炭素繊維を金属被覆するときにはメッキ活性剤として貴金属の有機化合物を繊維表面に前処理しておくことが非常に有効であることを発見した。貴金属としては金、白金、銀、パラジウム等が有効であり、特にパラジウムが経済的に好ましい。本発明に利用できる貴金属の有機化合物としてはブタジエンパラジウムジクロライド、1,5−シクロオクタジエンパラジウムジクロライド、ジアセトニトリルパラジウムジクロライド、ベンゾニトリルパラジウムジクロライド、ジアセトニトリルプラチニウムジクロライド、ジシクロペンタジエン金クロライド等が挙げられる。これらの貴金属の有機化合物は水に不溶であり、有機溶剤に溶解する。本発明に利用できる有機溶剤としてはアセトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、二塩化メチレン、メチルエチルケトン等が挙げられる。貴金属有機化合物を有機溶剤に溶解して0.5〜1.0%(重量比率)の溶液を調製する。この溶液の中に炭素繊維を浸漬した後、溶液から引き上げて炭素繊維を乾燥させると微量の貴金属有機化合物が炭素繊維表面に均一に付着してメッキ活性能力を発現することが明らかになった。貴金属有機化合物を有機溶剤に溶解すると貴金属有機化合物が単分子状に溶解した溶液が得られる。従来のメッキ活性剤として常用されるコロイド状パラジウムジクロライドの懸濁液に較べて、貴金属有機化合物を有機溶剤に溶解したメッキ活性剤は下記に述べるような利点がある。
【0009】
本発明で採用される無電解メッキ法により炭素繊維を金属被覆すると炭素繊維と金属皮膜が強固に接着される理由は有機溶剤に溶解した貴金属有機化合物の優れた濡れ性(浸透性)に起因すると考えられる。有機溶剤に溶解した貴金属有機化合物は炭素繊維の微細孔の中にも浸透するため孔の中でも金属化が生じて金属皮膜のアンカー効果が発現すると考えられる。従来の無電解メッキ法で多用される水系のメッキ活性剤はパラジウムジクロライドの水溶液に塩化錫を加えて還元することで調製されるコロイド状パラジウムをメッキ活性剤として利用する方法である。この水系のコロイド状パラジウムメッキ活性剤では炭素繊維と金属皮膜の強固な接着は得られないことから上記の考察は正しいと思われる。
【0010】
更に、本発明者は、多数の炭素繊維フィラメントを一本ずつ平面的に密集して隙間無く並べて保持することにより、一枚のフィルムのような形態で無電解メッキ浴の中に浸漬すると炭素繊維強化金属フィルムが得られることを発見した。即ち、隣接した炭素繊維フィラメント同士が析出した金属で接着されて一本一本の炭素繊維が金属で完全被覆されると同時に一枚の金属化された炭素繊維集合体フィルムが得られることを発見したのである。 炭素繊維フィラメントを図1及び図2に示した方法で一本ずつ隙間無く密集して並べて平面状に保持した状態で無電解メッキ(化学メッキ)の実験に使用した。図1及び図2について説明すると、二枚のプラスチック板(アクリル樹脂製、厚さ1ミリ)をロ型に切り抜いて炭素繊維を保持するための型枠1および1´を作った。一方の型枠1´に合成ゴム系接着剤を塗っておき、炭素繊維フィラメント2を隙間なく密集して並べて平面状に保持した状態に保つ。他方の型枠1にも接着剤を塗って炭素繊維フィラメント2を挟んで固定し、図2に示したように多数の炭素繊維フィラメント2を隙間なく並べて平面状に保持した状態で無電解メッキ(化学メッキ)の実験に供した。無電解メッキ(化学メッキ)浴の組成は通常の市販されているメッキ液を利用しても良いし、又は一般の技術書に解説されているメッキ浴組成に準じて自分で調合したメッキ液を使用することも出来る。
【0011】
本発明の炭素繊維と金属からなる複合材の製造法は無電解メッキ(化学メッキ)法を利用する方法であるため、金属マトリックスは主としてニッケル及び銅の2種類に限定される。無電解メッキ(化学メッキ)法で炭素繊維を被覆できる金属として他に鉄、亜鉛、クロム、コバルト、銀、金、パラジウム等が挙げられるが、工業的利用価値が大きいのは主としてニッケル及び銅である。即ち、ニッケルで被覆された炭素繊維フィルムは二枚のステンレス箔にサンドイッチ状に挟んで圧接することができる。ニッケルはステンレス鋼の合金成分のひとつであるため、ニッケルとステンレス鋼は相溶性があり熱と圧力を加えて接着することが出来る。即ち、ホットプレス法又はパルス通電圧接法などの手段により圧力と熱を加えて二枚のステンレス箔でサンドイッチ状に挟んで接着すると炭素繊維とステンレス箔からなる紙のように薄い炭素繊維強化金属フィルム(CFRM)が得られる。この炭素繊維強化ステンレスフィルムは軽くて耐腐蝕性が優れているため航空機、ロケット、自動車、船舶、鉄道など輸送機の構造体や外装材に使用することが出来ると予想される。また、銅で被覆された炭素繊維フィルムは二枚の銅箔でサンドイッチ状に挟んで圧接することができる。この炭素繊維強化銅フィルムは送電線などに用途があると考えられる。即ち、超電導セラミックを電線材に加工するときに担体又は鞘材として使えると考えられる。即ち、送電エネルギー損失の少ない高圧送電線を作ることが出来ると考えられるため地球温暖化対策として人類にとって非常に有用であると考えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素繊維と金属からなる複合材の製造法では軽金属、例えば、アルミニウムやマグネシウムとの金属複合材を作ることは出来ないが、これは軽くて強い複合材を得る目的には何ら制約にはならないことを次に説明する。本発明の炭素繊維と金属からなる複合材の特長は紙のように非常に薄い炭素繊維強化金属複合材フィルムを低コストで製造できる点に在る。現在のところ、炭素繊維複合材は主としてエポキシ樹脂をマトリックスとしたCFRPが航空機の構造材として使用され始めている。しかし、CFRPのマトリックス樹脂は紫外線や熱に弱いため耐候性が貧弱であり航空機等の外装材には使えない欠点がある。それ故、本発明の炭素繊維強化金属複合材フィルム(CFRM)と炭素繊維強化エポキシ樹脂(CFRP)を張り合わせると航空機等の外装材にも使える理想的な複合材パネルを作ることができるようになる。このCFRP/CFRMハイブリッド複合材は表面が金属製であり裏面が炭素繊維強化エポキシ樹脂(CFRP)から成る。このCFRP/CFRMハイブリッド複合材は軽くて強い大面積のパネルを比較的低コストで製造できるため航空機や新幹線のような高速鉄道車両用車体の外装材として優れた素材であると思われる。このCFRP/CFRMハイブリッド複合材パネルは軽くて強い特長の他に耐候性、耐火性、耐熱性、振動吸収性(制振性)、耐腐蝕性、断熱性、遮音性、電磁遮蔽性など航空機等の外装材に必要な全ての性能を兼ね備えている。例えば、航空機は荒天時の飛行中に被雷することがあるため、帯電を速やかに逃すために機体の外装材は金属であることが要求される。そのため、CFRPだけでは強くて軽い素材であっても外装材には使えない。他方、現在の航空機の外装材に使用されている軽金属パネルは耐腐食性や断熱性に難点があり、特に最近では酸性雨による腐食が心配されるため塗装や洗浄などのメンテナンスコストが大きい欠点がある。本発明のCFRP/CFRMハイブリッド複合パネル材は溶接できない難点を有するが、これは軽金属パネルでも同様と思われる。CFRP/CFRMハイブリッド複合材パネルは巨大な胴体殻構造物を一体成型できる利点があるため溶接箇所を減らせる優位性がある。
【0013】
本発明の炭素繊維強化金属複合材フィルムのもうひとつの利点は大面積のパネルが低コストで製造できるところにある。航空機、自動車のバス/トラック、船舶、鉄道車両など輸送機の外装材には大面積のパネルが必要である。炭素繊維フィラメントは数千メートルの長さの繊維がロール状に巻かれて供給される。繊維工業ではタテ糸とヨコ糸を織機にかけて織布する。織物はタテ糸とヨコ糸を交互に交差させて編んで作られる。織布産業では織物の幅に必要なだけの本数のタテ糸が精密にロールに巻かれた状態で織機に供給される。繊維工業界ではこのタテ糸が巻かれたロールはビーム(beam)と呼ばれる。炭素繊維フィラメントもビームに巻かれた状態で供給される。他方、メッキ技術では織物やフィルム等の長尺物を連続的にメッキする製法が従来から工業的に行なわれている。このような連続メッキ装置は、例えば、図3に示されたような連続無電解メッキ装置である。本発明の炭素繊維と金属からなる複合材フィルムの工業的製法は、ビームに巻かれた炭素繊維フィラメントをこのような連続メッキ装置で金属被覆することで広幅/長尺物の炭素繊維強化金属複合材フィルムを低コストで製造できるようになる。例えば、織物精錬染色加工産業界や製紙産業界では図3に示したような広幅/長尺物の連続処理加工装置が広く採用されており、これらは本発明の炭素繊維フィラメントのビームを無電解メッキ法で金属被覆して炭素繊維と金属からなる長尺複合材フィルムを製造する装置と全く同じである。但し、メッキ槽の内壁はゴム又は樹脂コーティングされていなければならない。図3は本発明の炭素繊維強化金属フィルムを連続的に生産するための連続無電解メッキ装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の炭素繊維強化金属複合材フィルム(CFRM)の製法を工業的に実施する最良の形態を説明するため図3に示した連続無電解メッキ装置により炭素繊維フィラメントを均一に薄く金属コーティングする方法について説明する。図3において、ビームに巻かれた数千本の炭素繊維フィラメント3が連続的に連続無電解メッキ装置に供給される。これは織布工場において織機にタテ糸を供給する方法と同じである。炭素繊維フィラメント3はメッキ活性剤の有機溶剤溶液を含浸させるためのパディング槽4でメッキ活性剤を付与され、次いで乾燥されてから、連続無電解メッキ槽7の中へ送り込まれる。無電解メッキは生産スピードが遅く、金属の層を厚付けすることにより炭素繊維フィラメントを接着する効果が発現するまでには長い時間がかかる。そのため、メッキ工程を2段階に分けて、最初は無電解メッキ法で炭素繊維フィラメントを均一に薄く金属コーティングしておき、次に電気メッキ法又は電鋳法で金属を厚付けする方法が有効である。金属メッキを厚付けすることにより炭素繊維フィラメントを接着する効果が発現し、炭素繊維強化金属複合材フィルム(CFRM)が得られる。しかし、電気メッキ法又は電鋳法で炭素繊維フィラメントを最初から金属コーティングする方法では炭素繊維を均一に金属コーティングすることが難しい。それ故、最初に無電解メッキ法で均一に金属コーティングしておくことが必要である。次に実施例について説明する。 実施例中の%又は部で示される比率については特に記述がない限りすべて重量基準である。
【実施例1】
【0015】
炭素繊維フィラメントを図1及び図2に示した型枠を使って平面状に保持し、次の処方で無電解メッキを行なった。炭素繊維フィラメントはブタジエンパラジウムジクロライドをアセトンに溶解して作ったメッキ活性剤の前処理液(1%濃度のアセトン溶液)をスプレー噴霧により均一に塗布してから室温で風乾した。型枠にはメッキ活性剤が付着しないように目張りテープを張ってからスプレー噴霧した。この前処理した炭素繊維フィラメントを次の処方の無電解メッキ浴に浸漬した。
30g/リットルの硫酸ニッケル
10g/リットルの次亜リン酸ナトリウム
10g/リットルの酢酸ナトリウム
浴のpH:4〜6
浴の温度:85〜90℃
上記の無電解メッキ浴に2時間浸漬した後、浴から引き上げて試料を水洗した。得られた炭素繊維強化ニッケル金属フィルムは表面が粗く凸凹がありフィルム厚は場所によって異なるが約50〜90μmであった。次いで、この炭素繊維強化ニッケル金属フィルムを電気メッキの常法によりニッケルを厚付けした。表面が滑らかな金属フィルムが得られ、厚さが約300μmの強靭な炭素繊維強化ニッケルフィルムを得た。
【実施例2】
【0016】
炭素繊維フィラメントを図1及び図2に示した型枠を使って平面状に保持し、次の処方で無電解メッキを行なった。炭素繊維フィラメントはブタジエンパラジウムジクロライドをアセトンに溶解して作った前処理液(1%濃度のアセトン溶液)をスプレー噴霧により均一に塗布してから室温で風乾した。型枠にはメッキ活性剤が付着しないように目張りテープを張ってからスプレー噴霧した。この前処理した炭素繊維フィラメントを次の処方の無電解メッキ浴に浸漬した。
15g/リットルの硫酸銅
10g/リットルの炭酸水素ナトリウム
30g/リットルの酒石酸カリウムナトリウム
20g/リットルの水酸化ナトリウム
100ミリリットルの37%ホルムアルデヒド
浴のpH:11.5
浴の温度:23〜25℃
上記の無電解メッキ浴に5時間浸漬した後、浴から引き上げて試料を水洗した。得られた炭素繊維強化銅金属フィルムは表面が粗く凸凹がありフィルム厚は場所によって異なるが約40〜80μmであった。次いで、この炭素繊維強化銅フィルムを電気メッキの常法により銅を厚付けした。表面が滑らかな金属銅のフィルムが得られ、厚さが約400μmの強靭な炭素繊維強化銅フィルムを得た。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】炭素繊維フィラメントを平面に保持するための型枠の説明図である。
【図2】平面に保持された炭素繊維フィラメント集合体の概観図である。
【図3】炭素繊維フィラメントを連続的に無電解メッキして炭素繊維強化金属フィルムを生産できる連続無電解メッキ装置の説明図である。
【符号の説明】
【0018】
1及び1´:炭素繊維フィラメントを平面に保持するための型枠である。
2 :平面状に保持された炭素繊維フィラメント集合体。
3 :ビームに巻き取られた炭素繊維フィラメント集合体。
4 :炭素繊維フィラメントにメッキ活性剤の有機溶剤溶液を含浸させるためのパディング槽。
5及び5´:乾燥工程(赤外ランプ)
6 :メッキ活性剤の有機溶剤溶液(パディング液)
7 :連続無電解メッキ槽
8 :無電解メッキ浴
9 :水洗槽
10 :巻き取られた炭素繊維強化金属フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状の炭素繊維強化金属複合材を造る方法において、多数の炭素繊維フィラメントが直線的に並行して隙間なく平面に並べられた状態の炭素繊維集合体にあらかじめメッキ活性剤が付与されたのち該炭素繊維集合体が無電解メッキ浴又は化学メッキ浴に浸漬されることにより該炭素繊維フィラメントが一本ずつ金属被覆され、引き続き金属被覆が厚付けされることにより該炭素繊維集合体が一枚の金属複合材フィルムに形成される製造法で作られることを特徴とする炭素繊維強化金属複合材フィルム。
【請求項2】
上記の金属がニッケル又は銅であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化金属複合材フィルム。
【請求項3】
上記の多数の炭素繊維フィラメントが直線的に並行して隙間なく平面に並べられた状態で無電解メッキ浴又は化学メッキ浴の中を連続して走行させることにより上記の炭素繊維強化金属複合材フィルムが連続的に形成されることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化金属複合材フィルムの製造法。
【請求項4】
上記のメッキ活性剤が金、銀、白金又はパラジウムの有機化合物であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化金属複合材フィルム。
【請求項5】
上記のメッキ活性剤がブタジエンパラジウムジクロライド、1,5−シクロオクタジエンパラジウムジクロライド、ジアセトニトリルパラジウムジクロライド、ベンゾニトリルパラジウムジクロライド、ジアセトニトリルプラチニウムジクロライド又はジシクロペンタジエン金クロライドであることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化金属複合材フィルムの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−255415(P2008−255415A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98951(P2007−98951)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(596045410)
【Fターム(参考)】