説明

炭素繊維複合材料

【課題】カーボンナノチューブが均一に分散された高耐熱性を有する炭素繊維複合材料を提供する。
【解決手段】本発明の炭素繊維複合材料は、含フッ素エラストマー30を100重量部に対して、平均直径が0.7〜30nmのカーボンナノチューブ40を8〜40重量部含む。本発明の炭素繊維複合材料は、23℃における破断伸び(EB)が40%以上であり、30℃における動的弾性率(E’/30℃)が30MPa以上であり、250℃における動的弾性率(E’/250℃)が15MPa以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱性を有する炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブを用いた複合材料が注目されている。このような複合材料は、カーボンナノチューブを含むことで、機械的強度などの向上が期待されている。カーボンナノチューブは相互に強い凝集性を有するため、複合材料の基材にカーボンナノチューブを均一に分散させることが非常に困難であった。
【0003】
エラストマーにカーボンナノチューブを混練することで、エラストマー分子がカーボンナノチューブの末端のラジカルと結合することにより、カーボンナノチューブの凝集力を弱め、その分散性を高めた炭素繊維複合材料が提案された(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−97525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、カーボンナノチューブが均一に分散された高耐熱性を有する炭素繊維複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる炭素繊維複合材料は、
含フッ素エラストマー100重量部に対して、平均直径が0.7〜30nmのカーボンナノチューブを8〜40重量部含み、
23℃における破断伸び(EB)が40%以上であり、
30℃における動的弾性率(E’/30℃)が30MPa以上であり、
250℃における動的弾性率(E’/250℃)が15MPa以上である。
【0006】
本発明にかかる炭素繊維複合材料によれば、一般的な含フッ素エラストマーの使用限界温度である250℃においても高い動的弾性率を維持し、高耐熱性を有することができる。
【0007】
本発明にかかる炭素繊維複合材料において、
引張強さが10MPa以上であることができる。
【0008】
本発明にかかる炭素繊維複合材料は、
含フッ素エラストマー100重量部に対して、平均直径が0.7〜30nmのカーボンナノチューブを8〜40重量部含み、
250℃で250KPaの負荷をかけたクリープ試験におけるクリープ瞬間ひずみが3%以下であり、かつ、定常クリープ期の1時間当たりのクリープ率が±300ppm以内である。
【0009】
本発明にかかる炭素繊維複合材料によれば、一般的な含フッ素エラストマーの使用限界温度である250℃においてもクリープ瞬間ひずみが小さく、かつ、定常クリープにおける低クリープ率を維持し、高耐熱性を有することができる。
【0010】
本発明にかかる炭素繊維複合材料は、
含フッ素エラストマー100重量部に対して、平均直径が0.7〜30nmのカーボンナノチューブを8〜40重量部含み、
23℃における破断伸び(EB)が40%以上であり、
30℃における動的弾性率(E’/30℃)が30MPa以上であり、
250℃における動的弾性率(E’/250℃)が15MPa以上であり、
250℃で250KPaの負荷をかけたクリープ試験におけるクリープ瞬間ひずみが3%以下であり、かつ、定常クリープ期の1時間当たりのクリープ率が±300ppm以内である。
【0011】
本発明にかかる炭素繊維複合材料によれば、一般的な含フッ素エラストマーの使用限界温度である250℃においても高い動的弾性率を維持し、高耐熱性を有することができる。また、本発明にかかる炭素繊維複合材料によれば、一般的な含フッ素エラストマーの使用限界温度である250℃においてもクリープ瞬間ひずみが小さく、かつ、定常クリープにおける低クリープ率を維持し、高耐熱性を有することができる。
【0012】
本発明にかかる炭素繊維複合材料において、
前記クリープ試験で60時間破壊しないことができる。
【0013】
本発明にかかる炭素繊維複合材料において、
前記カーボンナノチューブは、2層カーボンナノチューブであることができる。
【0014】
本発明にかかる炭素繊維複合材料において、
前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブであることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態で用いたオープンロール法による含フッ素エラストマーとカーボンナノチューブとの混練法を模式的に示す図である。図2は、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料を模式的に示す拡大断面図である。
【0017】
本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、含フッ素エラストマー100重量部に対して、平均直径が0.7〜30nmのカーボンナノチューブを8〜40重量部含み、23℃における破断伸び(EB)が40%以上であり、30℃における動的弾性率(E’/30℃)が30MPa以上であり、250℃における動的弾性率(E’/250℃)が15MPa以上である。
【0018】
また、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、含フッ素エラストマー100重量部に対して、平均直径が0.7〜30nmのカーボンナノチューブを8〜40重量部含み、250℃で250KPaの負荷をかけたクリープ試験におけるクリープ瞬間ひずみが3%以下であり、かつ、定常クリープ期の1時間当たりのクリープ率が±300ppm以内であることができる。
【0019】
さらに、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、含フッ素エラストマー100重量部に対して、平均直径が0.7〜30nmのカーボンナノチューブを8〜40重量部含み、23℃における破断伸び(EB)が40%以上であり、30℃における動的弾性率(E’/30℃)が30MPa以上であり、250℃における動的弾性率(E’/250℃)が15MPa以上であり、250℃で250KPaの負荷をかけたクリープ試験におけるクリープ瞬間ひずみが3%以下であり、かつ、定常クリープ期の1時間当たりのクリープ率が±300ppm以内である。
【0020】
(I)含フッ素エラストマー
本実施の形態に用いられる含フッ素エラストマー(FKM)は、分子中にフッ素原子を含む合成ゴムであり、フッ素ゴムとも呼ばれ、例えば、含フッ素アクリレートの重合体、フッ化ビニリデン系共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体(TFE−P)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(TFE−PMVE)、含フッ素ホスファゼン系、含フッ素シリコーン系などがある。含フッ素エラストマーは、分子量が好ましくは50,000ないし300,000である。含フッ素エラストマーの分子量がこの範囲であると、含フッ素エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、含フッ素エラストマーはカーボンナノチューブを分散させるために良好な弾性を有している。含フッ素エラストマーは、粘性を有しているので凝集したカーボンナノチューブの相互に侵入しやすく、さらに弾性を有することによってカーボンナノチューブ同士を分離することができる。含フッ素エラストマーの分子量が50,000より小さいと、含フッ素エラストマー分子が相互に充分に絡み合うことができず、後の工程で剪断力をかけても弾性が小さいためカーボンナノチューブを分散させる効果が小さくなる。また、含フッ素エラストマーの分子量が300,000より大きいと、含フッ素エラストマーが固くなりすぎて加工が困難となる。
【0021】
含フッ素エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、非架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは30ないし100μ秒、より好ましくは40ないし60μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、含フッ素エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができ、すなわちカーボンナノチューブを分散させるために適度な弾性を有することになる。また、含フッ素エラストマーは粘性を有しているので、含フッ素エラストマーとカーボンナノチューブとを混合したときに、含フッ素エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノチューブの相互の隙間に容易に侵入することができる。スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が30μ秒より短いと、含フッ素エラストマーが充分な分子運動性を有することができない。また、スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が100μ秒より長いと、含フッ素エラストマーが液体のように流れやすく、弾性が小さい(粘性は有している)ため、カーボンナノチューブを分散させることが困難となる。
【0022】
また、含フッ素エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が20ないし100μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、上記の条件を有する未架橋体を本発明の製造方法によって架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ上記範囲に含まれる。
【0023】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法により含フッ素エラストマーのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、含フッ素エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、含フッ素エラストマーは柔らかいといえる。
【0024】
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかる炭素繊維複合材料は中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0025】
含フッ素エラストマーは、カーボンナノチューブ、特にその末端のラジカルに対して親和性を有するハロゲン基を有する。カーボンナノチューブは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっている。本実施の形態では、含フッ素エラストマーの主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノチューブのラジカルと親和性(反応性または極性)が高いハロゲン基を有することにより、含フッ素エラストマーとカーボンナノチューブとを結合することができる。このことにより、カーボンナノチューブの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。
【0026】
本実施の形態の含フッ素エラストマーは、未架橋体のままカーボンナノチューブと混練することが好ましい。
【0027】
(II)カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブは、平均直径が0.7〜30nmのいわゆるカーボンナノチューブ(CNT)であり、炭素六角網面のグラファイトの1枚面(グラフェンシート)を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いた単層カーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブ:SWNT)と、2層に巻いた2層カーボンナノチューブ(ダブルウォールカーボンナノチューブ:DWNT)と、3層以上に巻いた多層カーボンナノチューブ(マルチウォールカーボンナノチューブ:MWNT)と、を用いることができる。カーボンナノチューブとしては、気相成長炭素繊維(VGCF:昭和電工社の登録商標)が有名であるが、剛直であまり屈曲していないため、高温特性が異なるため本実施の形態に用いるカーボンナノチューブはこれを含まない。
【0028】
炭素繊維複合材料は、含フッ素エラストマー100重量部に対して、平均直径が0.7〜30nmのカーボンナノチューブを8〜40重量部含む。含フッ素エラストマー100重量部に対して、カーボンナノチューブが8重量部未満あるいは40重量部を超えると、250℃における望ましい耐熱性能を得ることが難しい。
【0029】
カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0030】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。
【0031】
レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。
【0032】
気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0033】
カーボンナノチューブは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0034】
(III)炭素繊維複合材料を得る工程
本実施の形態では、炭素繊維複合材料を得る工程として、図1を用いてロール間隔が0.5mm以下の薄通しを行なうオープンロール法を用いた例について述べる。なお、以下の説明において、単に「カーボンナノチューブ」と記載した場合は、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブあるいは多層カーボンナノチューブであってもよく、複数種類のカーボンナノチューブの混合物であってもよい。
【0035】
図1は、2本のロールを用いたオープンロール法を模式的に示す図である。図1において、符号10は第1のロールを示し、符号20は第2のロールを示す。第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、例えば1.5mmの間隔で配置されている。第1および第2のロールは、正転あるいは逆転で回転する。図示の例では、第1のロール10および第2のロール20は、矢印で示す方向に回転している。
【0036】
まず、第1,第2のロール10,20が回転した状態で、第2のロール20に、含フッ素エラストマー30を巻き付けると、ロール10,20間に含フッ素エラストマーがたまった、いわゆるバンク32が形成される。このバンク32内にカーボンナノチューブ40を加えて、第1、第2のロール10,20を回転させると、含フッ素エラストマー30とカーボンナノチューブ40の混合物が得られる。この混合物をオープンロールから取り出す。さらに、第1のロール10と第2のロール20の間隔dを、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.1ないし0.5mmの間隔に設定し、得られた含フッ素エラストマーとカーボンナノチューブの混合物をオープンロールに投入して薄通しを行なう。薄通しの回数は、例えば10回程度行なうことが好ましい。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。
【0037】
このようにして得られた剪断力により、含フッ素エラストマー30に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノチューブが含フッ素エラストマー分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、含フッ素エラストマー30に分散される。
【0038】
また、カーボンナノチューブの投入に先立って、金属もしくは非金属の粒子をバンク32に投入しておくと、ロールによる剪断力は金属粒子のまわりに乱流状の流動を発生させ、カーボンナノチューブを含フッ素エラストマー30にさらに分散させることができる。
【0039】
この工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、含フッ素エラストマーとカーボンナノチューブとの混合は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度で行われる。
【0040】
このとき、本実施の形態の含フッ素エラストマーは、上述した特徴、すなわち、含フッ素エラストマーの分子形態(分子長)や分子運動によって表される弾性と、粘性と、カーボンナノチューブとの化学的相互作用と、を有することによってカーボンナノチューブの分散を容易にするので、分散性および分散安定性(カーボンナノチューブが再凝集しにくいこと)に優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。より具体的には、含フッ素エラストマーとカーボンナノチューブとを混合すると、粘性を有する含フッ素エラストマーがカーボンナノチューブの相互に侵入し、かつ、含フッ素エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノチューブの活性の高い部分と結合する。この状態で、分子長が適度に長く、分子運動性の高い(弾性を有する)含フッ素エラストマーとカーボンナノチューブとの混合物に強い剪断力が作用すると、含フッ素エラストマーの移動に伴ってカーボンナノチューブも移動し、さらに剪断後の弾性による含フッ素エラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノチューブが分離されて、含フッ素エラストマー中に分散されることになる。本実施の形態によれば、混合物が狭いロール間から押し出された際に、含フッ素エラストマーの弾性による復元力で混合物はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用した混合物をさらに複雑に流動させ、カーボンナノチューブを含フッ素エラストマー中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノチューブは、含フッ素エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0041】
含フッ素エラストマーにカーボンナノチューブを剪断力によって分散させる工程は、上記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノチューブを分離できる剪断力を含フッ素エラストマーに与えることができればよい。
【0042】
本工程(混合・分散工程)によって得られた炭素繊維複合材料は、架橋剤によって架橋させて成形するか、もしくは架橋させずに成形することができる。
【0043】
含フッ素エラストマーとカーボンナノチューブとの混合・分散工程において、あるいは続いて、通常、ゴムなどの含フッ素エラストマーの加工で用いられる例えばカーボンブラックなどの配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。
【0044】
(IV)炭素繊維複合材料
図2は、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料を模式的に示す拡大断面図である。本工程によって得られた本実施の形態の炭素繊維複合材料1は、基材(マトリックス)である含フッ素エラストマー30にカーボンナノチューブ40が均一に分散されている。カーボンナノチューブ40の周囲には、カーボンナノチューブ40の表面に吸着した含フッ素エラストマー30の分子の凝集体と考えられる界面相36が形成される。界面相36は、例えば含フッ素エラストマーとカーボンブラックとを混練した際にカーボンブラックの周囲に形成されるバウンドラバーに類似するものと考えられる。このような界面相36は、カーボンナノチューブ40を被覆して保護し、炭素繊維複合材料中におけるカーボンナノチューブの量が増えるにつれて界面相36同士が連鎖して微小なセル34を形成する。しかも、炭素繊維複合材料1中におけるカーボンナノチューブ40が最適割合にあると、連鎖した界面相36によって炭素繊維複合材料1のセル34内への酸素の浸入が減少し、250℃という高温においても熱劣化し難くなり、高い弾性率を維持することができる。また、炭素繊維複合材料1は、一般的な含フッ素エラストマーの使用限界温度である250℃においてもクリープ瞬間ひずみが小さく、かつ、定常クリープにおける低クリープ率を維持し、高耐熱性を有することができる。
【0045】
このような炭素繊維複合材料1中におけるカーボンナノチューブ40の最適割合は、含フッ素エラストマー30を100重量部に対して、カーボンナノチューブ40を8〜40重量部含むことで得られる。
【0046】
炭素繊維複合材料1は、23℃における破断伸び(EB)が40%以上であり、30℃における動的弾性率(E’/30℃)が30MPa以上であり、250℃における動的弾性率(E’/250℃)が15MPa以上である。このような炭素繊維複合材料1は、引張強さが10MPa以上であることが好ましい。また、炭素繊維複合材料1は、250℃で250KPaの負荷をかけたクリープ試験において、クリープ瞬間ひずみが3%以下であり、定常クリープ期の1時間当たりのクリープ率が±300ppm以内である。クリープ試験を実施すると、負荷をかけた瞬間の変形量であるクリープ瞬間ひずみ、クリープ率の安定した定常クリープ期、急速にひずみが大きくなる加速クリープ期を経て破断する。定常クリープ期における1時間当たりのクリープ率が小さいことによって、加速クリープ期に移行するまでの時間が長いことや破断(破壊)までの時間が長いことがわかる。このような炭素繊維複合材料1は、250℃で250KPaの負荷をかけたクリープ試験で60時間破壊しないことが好ましい。
【0047】
このような炭素繊維複合材料1は、高温下で用いられるシール部品例えば車両用ブレーキのキャリパーボディのピストンシール部材や耐熱パッキンなどに好適に用いることができる。特に、車両用ブレーキのキャリパーボディのピストンシール部材として炭素繊維複合材料1を用いた場合、連鎖した界面相36によって高温のブレーキ液の浸透を防ぐことができるため、耐熱性に優れると共に、ブレーキ液による炭素繊維複合材料1の劣化を防ぐことができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1〜3、比較例1〜4)
(1)サンプルの作製
(a)炭素繊維複合材料の作製
第1の工程:ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、表1に示す100重量部(phr)の含フッ素エラストマーを投入して、ロールに巻き付かせた。
第2の工程:次に、表1に示す重量部(phr)のカーボンナノチューブ(表1では「MWNT」、「DWNT」と記載する)及び架橋剤としての受酸剤2種類(MgO、Ca(OH))をエラストマーに投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
第3の工程:カーボンナノチューブを投入し終わったら、エラストマーとカーボンナノチューブとの混合物をロールから取り出した。
第4の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
第5の工程:ロールを所定の間隙(1.1mm)にセットして、薄通しした炭素繊維複合材料を投入し、分出しした。
なお、表1における「MWNT」は平均直径13nmのILJIN社製多層カーボンナノチューブであり、「DWNT」は平均直径3nmのShenzhen Nanotech Port社製2層カーボンナノチューブであった。表1における「含フッ素エラストマー」がデュポン・ダウ・エラストマー・ジャパン社製の含フッ素エラストマーのバイトン(分子量50,000、T2n(30℃)49μ秒)であった。
このようにして得られた炭素繊維複合材料をロールで圧延後、185℃10分間プレス成形(キュア)した後、さらに200℃8時間ポストキュアして、実施例1〜3及び比較例1〜4の架橋体の炭素繊維複合材料(厚さ1mmのシート形状)を得た。また、比較例4は、現行のEPDMをマトリックスとするピストンシール部材を用いた。
【0050】
(2)引張特性の測定
実施例1〜3及び比較例1〜4の炭素繊維複合材料の試料について、引張強さ(TB:単位MPa)および切断伸び(EB:単位%)を測定した。TB及びEBについては、JIS K 6521−1993によって測定した。これらの結果を表1に示す。
【0051】
(3)動的弾性率の測定
実施例1〜3及び比較例1〜4の炭素繊維複合材料の試料について、30℃及び250℃におけるE’(動的弾性率:単位はMPa)をSII社製の動的粘弾性測定装置によって測定した。E’については、JIS K 6521−1993によって測定した。これらの結果を表1に示す。
【0052】
(4)クリープ特性の測定
実施例1〜3及び比較例1〜4の炭素繊維複合材料の試料について、250℃で250KPaの負荷をかけ、60時間の耐熱クリープ試験を行ない、クリープ瞬間ひずみと、定常クリープ期の1時間当たりのクリープ率と、を測定した。クリープ瞬間ひずみは、250KPaの負荷をかけた瞬間の伸びである。クリープ率は、クリープ瞬間ひずみの後かつ加速クリープ期の前の定常クリープ期における1時間当たりのひずみ変化量(1ppm=0.0001%)である。これらの結果を表1に示す。
【0053】
(5)耐ブレーキ液性の測定
実施例1〜3及び比較例1〜4の炭素繊維複合材料の試料を250℃の車両用ブレーキ液中で4時間浸漬し、各試料の体積変化率(%)を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から、本発明の実施例1〜3によれば、以下のことが確認された。すなわち、本発明の実施例1〜3の炭素繊維複合材料は、含フッ素エラストマー100重量部に対して2層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブを8〜40重量部の範囲において、23℃における破断伸び(EB)が40%以上であり、30℃における動的弾性率(E’/30℃)が30MPa以上であり、250℃における動的弾性率(E’/250℃)が15MPa以上であった。本発明の実施例1〜3の炭素繊維複合材料は、引張強さが10MPa以上であった。比較例2のように多層カーボンナノチューブが8重量部より少ないと弾性率が低下し、比較例3のように多層カーボンナノチューブが40重量部より多いと破断伸びが低下した。
【0056】
また、本発明の実施例1〜3の炭素繊維複合材料は、含フッ素エラストマー100重量部に対して2層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブを8〜40重量部の範囲において、クリープ瞬間ひずみが3%以下であり、定常クリープ期の1時間当たりのクリープ率が±300ppm以内であった。しかも、本発明の実施例1〜3の炭素繊維複合材料は、クリープ試験で60時間破壊しなかった。比較例1のように多層カーボンナノチューブが含まれないと初期破壊(破断)し、比較例2のように多層カーボンナノチューブが8重量部より少ないと10時間で破壊(破断)し、比較例3のように多層カーボンナノチューブが40重量部より多いとクリープ率が±300ppm/時間を超えた。また、比較例4の現行のEPDMピストンシール部材においては、68分で破壊(破断)した。
【0057】
さらに、本発明の実施例1〜3の炭素繊維複合材料は、含フッ素エラストマー100重量部に対して2層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブを8重量部以上含むことで、炭素繊維複合材料への高温のブレーキ液の浸透を防ぎ、耐熱性が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施の形態で用いたオープンロール法によるエラストマーとカーボンナノチューブとの混練法を模式的に示す図である。
【図2】本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の一部を拡大して示す模式図である。
【符号の説明】
【0059】
1 炭素繊維複合材料
10 第1のロール
20 第2のロール
30 含フッ素エラストマー
34 セル
36 界面相
40 カーボンナノチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素エラストマー100重量部に対して、平均直径が0.7〜30nmのカーボンナノチューブを8〜40重量部含み、
23℃における破断伸び(EB)が40%以上であり、
30℃における動的弾性率(E’/30℃)が30MPa以上であり、
250℃における動的弾性率(E’/250℃)が15MPa以上である、炭素繊維複合材料。
【請求項2】
請求項1において、
引張強さが10MPa以上である、炭素繊維複合材料。
【請求項3】
含フッ素エラストマー100重量部に対して、平均直径が0.7〜30nmのカーボンナノチューブを8〜40重量部含み、
250℃で250KPaの負荷をかけたクリープ試験におけるクリープ瞬間ひずみが3%以下であり、かつ、定常クリープ期の1時間当たりのクリープ率が±300ppm以内である、炭素繊維複合材料。
【請求項4】
含フッ素エラストマー100重量部に対して、平均直径が0.7〜30nmのカーボンナノチューブを8〜40重量部含み、
23℃における破断伸び(EB)が40%以上であり、
30℃における動的弾性率(E’/30℃)が30MPa以上であり、
250℃における動的弾性率(E’/250℃)が15MPa以上であり、
250℃で250KPaの負荷をかけたクリープ試験におけるクリープ瞬間ひずみが3%以下であり、かつ、定常クリープ期の1時間当たりのクリープ率が±300ppm以内である、炭素繊維複合材料。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記クリープ試験で60時間破壊しない、炭素繊維複合材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記カーボンナノチューブは、2層カーボンナノチューブである、炭素繊維複合材料。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブである、炭素繊維複合材料。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−24800(P2008−24800A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197933(P2006−197933)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】