点火プラグおよび点火システム
【課題】プラズマによって燃料を着火する点火プラグにおいて、放電電圧を低下させるとともに、着火性能を向上させる。
【解決手段】点火プラグ100は、中心電極20と、中心電極20を軸孔12内に保持する絶縁碍子10と、絶縁碍子10の先端部に接するように配置され、軸線を中心とした貫通孔31を有する接地電極30とを備える。このような点火プラグ100において、絶縁碍子10の表面の一部には、中心電極20と接地電極30とに接する半導体層62が形成されている。
【解決手段】点火プラグ100は、中心電極20と、中心電極20を軸孔12内に保持する絶縁碍子10と、絶縁碍子10の先端部に接するように配置され、軸線を中心とした貫通孔31を有する接地電極30とを備える。このような点火プラグ100において、絶縁碍子10の表面の一部には、中心電極20と接地電極30とに接する半導体層62が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグや点火プラグを用いて燃料を点火する点火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料(混合気)をプラズマによって着火する点火プラグとして、プラズマジェット点火プラグ(特許文献1,2参照)やイグナイタプラグ(特許文献3参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−287665号公報
【特許文献2】特開2008−45449号公報
【特許文献3】特開平3−214582号公報
【0004】
例えば、プラズマジェット点火プラグには、その先端部に、中心電極と絶縁碍子とで囲まれた円筒状のキャビティが設けられている。中心電極と接地電極との間で高エネルギの火花放電が生じると、このキャビティの内部は、瞬間的に高熱状態になる。すると、キャビティ内に存在する混合気がイオン化すると同時に急膨張し、プラズマとなってキャビティから火炎状に噴出する。このような火炎状のプラズマは、気筒内に延びるため、混合気との接触面積が大きくなる。そのため、プラズマジェット点火プラグは、火花によって点火を行う通常の点火プラグよりも、着火性に優れるという特徴がある。
【0005】
ところが、従来のプラズマジェット点火プラグは、プラズマ噴出前に中心電極と接地電極との間で火花放電を生じさせるために、比較的高い放電電圧が要求された。そのため、発生する電気ノイズが大きくなるという問題や、キャビティや接地電極の貫通孔(オリフィス)にチャネリングが生じて劣化してしまうという問題があった。
【0006】
これらの問題を解消するため、例えば、特許文献3に記載のイグナイタプラグでは、中心電極と接地電極との間にソリッドタイプの半導体チップを配置することにより放電電圧を低下させている。しかし、このような構造では、半導体チップと絶縁碍子の界面付近を電流が流れることにより、中心電極と主体金具との間で放電が生じ、失火してしまう場合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した種々の問題を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、プラズマによって燃料を着火する点火プラグの放電電圧を低下させるとともに、着火性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]中心電極と、前記中心電極の軸線方向に延びる軸孔を有し、該軸孔内に前記中心電極を保持する絶縁碍子と、前記絶縁碍子の先端部に接するように配置され、貫通孔を有する接地電極とを備えた点火プラグであって、前記中心電極の先端部は、前記絶縁碍子の先端部よりも後端側に位置しており、前記絶縁碍子の表面の一部に、前記中心電極と前記接地電極とに接する半導体層が形成されていることを特徴とする点火プラグ。
【0010】
このような点火プラグであれば、絶縁碍子の表面に中心電極と接地電極とを結ぶ半導体層が形成されているので、放電電圧を低下させることができる。そのため、電気ノイズの発生や、チャネリングによる劣化を抑制することができる。また、絶縁碍子の表面に半導体層が形成されているので、この部分での放電が促進され、中心電極と主体金具との間で放電されることが抑制される。この結果、燃料への着火性を高めることが可能になる。また、このような点火プラグであれば、中心電極と絶縁碍子の軸孔とで囲まれた部分に、プラズマが発生するキャビティ(凹部)を形成することができる。
【0011】
[適用例2]適用例1に記載の点火プラグであって、前記接地電極の前記絶縁碍子側の面の少なくとも一部が、前記半導体層を介して前記絶縁碍子の先端部に接する点火プラグ。このような点火プラグであれば、半導体層が、絶縁碍子と接地電極との接触面に入り込む構造となるので、接地電極の貫通孔が劣化によって拡径したとしても、中心電極と接地電極とを確実に半導体層によって接続することができる。
【0012】
[適用例3]適用例2に記載の点火プラグであって、前記接地電極の、前記半導体層を介して前記絶縁碍子の先端部に接する部分が、前記貫通孔の内周から外周側へ0.1mm以上存在する点火プラグ。このような点火プラグであれば、接地電極の貫通孔が劣化によって拡径したとしても、半導体層と接地電極との接続性を十分に確保することができる。
【0013】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の点火プラグであって、前記半導体層は、前記半導体層の表面から前記絶縁碍子の内部に向かうほど電気伝導率が低くなる性質を有する点火プラグ。このような点火プラグであれば、半導体層の表面において放電がなされる確率をより高めることができる。
【0014】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の点火プラグであって、前記中心電極と前記接地電極との間の電極間抵抗値が1×101〜1×106Ωである点火プラグ。このような点火プラグであれば、中心電極と接地電極との間において放電がなされる確率を高めることができる。
【0015】
[適用例6]適用例1ないし適用例5のいずれかに記載の点火プラグであって、前記半導体層は、半導体を前記絶縁碍子の表面の一部に拡散させることで形成されている点火プラグ。このような構成であれば、比較的容易に半導体層を形成することができる。
【0016】
[適用例7]適用例1ないし適用例6のいずれかに記載の点火プラグであって、前記半導体層は、半導体を前記絶縁碍子の表面の一部に複数回焼結することで形成されている点火プラグ。このような構成であれば、比較的容易に半導体層を形成することができる。
【0017】
[適用例8]適用例1ないし適用例7のいずれかに記載の点火プラグであって、前記半導体層は、酸化物半導体を含有する点火プラグ。酸化物半導体としては、例えば、酸化銅や酸化鉄がある。また、酸化物半導体に替えて、シリコンなどのIV族半導体を用いることも可能である。
【0018】
[適用例9]適用例1ないし適用例8のいずれかに記載の点火プラグにおいて、前記半導体層の後端部は、前記中心電極の先端部の外周面に接している構造とすることが可能である。
【0019】
[適用例10]適用例1ないし適用例9のいずれかに記載の点火プラグであって、前記接地電極の貫通孔の直径は、前記絶縁碍子の軸孔の直径以上の大きさである点火プラグ。このような構成であれば、プラズマの噴出を接地電極によって塞ぐことがないので、着火性能を向上させることができる。
【0020】
[適用例11]前記点火プラグは、プラズマジェット点火プラグである適用例1ないし適用例10のいずれかに記載の点火プラグ。なお、本発明の点火プラグは、ガソリンエンジン用のプラズマジェット点火プラグ以外にも、ガスエンジンやガスタービンエンジン用のイグナイタプラグに対して適用することも可能である。
【0021】
[適用例12]燃料を点火する点火システムであって、適用例1ないし適用例11のいずれかに記載の点火プラグと、前記点火プラグの前記中心電極または前記接地電極に対して、昇圧速度が、1×1010[V/秒]以上の電圧を印加する点火装置とを備える点火システム。このような点火システムによって点火プラグに電圧を印加すれば、半導体層の存在によって電極間抵抗値が低下していても、中心電極と接地電極との間で火花放電を確実に生じさせることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態としてのプラズマジェット点火プラグ100の構造を示す部分断面図である。
【図2】プラズマジェット点火プラグ100の先端部分を拡大した断面図である。
【図3】半導体層62の電気的特性を示すグラフである。
【図4】点火システム1の概略構成を示す図である。
【図5】点火装置320がプラズマジェット点火プラグ100に対して点火を行わせる際に印加する電圧波形の一例を示す図である。
【図6】一般的な点火プラグを点火させるための電圧波形の一例を比較例として示す図である。
【図7】着火性能評価実験の実験結果を示す図である。
【図8】各種昇圧速度における放電実験の実験結果を示す図である。
【図9】放電電圧評価実験の実験結果を示す図である。
【図10】接触長評価実験の実験結果を示す図である。
【図11】本実施形態のプラズマジェット点火プラグ100によるプラズマの噴出例を示す図である。
【図12】従来の沿面放電タイプのイグナイタプラグによってプラズマが発生した様子を示す図である。
【図13】半導体層62が、中心電極20の側面に接するように配置された例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ次の順序で説明する。
A.プラズマジェット点火プラグの構造:
B.点火システムの概略構成:
C.実施例:
【0024】
A.プラズマジェット点火プラグの構造:
図1は、本発明の一実施形態としてのプラズマジェット点火プラグ100の構造を示す部分断面図である。また、図2は、プラズマジェット点火プラグ100の先端部分を拡大した断面図である。なお、図1,2において、プラズマジェット点火プラグ100の軸線O方向を図面における上下方向とし、下側をプラズマジェット点火プラグ100の先端側、上側を後端側として説明する。
【0025】
図1に示すように、プラズマジェット点火プラグ100は、絶縁碍子10と、この絶縁碍子10を保持する主体金具50と、絶縁碍子10内に軸線O方向に保持された中心電極20と、主体金具50の先端部59に溶接された接地電極30と、絶縁碍子10の後端部に設けられた端子金具40とから構成されている。
【0026】
絶縁碍子10は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成され、軸線O方向に軸孔12を有する筒状の絶縁部材である。軸線O方向の略中央には外径の最も大きな鍔部19が形成されており、これより後端側には後端側胴部18が形成されている。また、鍔部19より先端側には後端側胴部18より外径の小さな先端側胴部17と、その先端側胴部17よりも先端側で先端側胴部17よりも更に外径の小さな脚長部13とが形成されている。この脚長部13と先端側胴部17との間は段状に形成されている。
【0027】
図1に示すように、軸孔12のうち脚長部13の内周にあたる部分は、先端側胴部17、鍔部19および後端側胴部18の内周にあたる部分よりも縮径された電極収容部15として形成されている。この電極収容部15の内部には中心電極20が保持される。また、軸孔12は電極収容部15の先端側において内周が更に縮径されており、先端小径部61として形成されている。そして、先端小径部61の内周は絶縁碍子10の先端面16に連続し、軸孔12の開口部14を形成している。
【0028】
中心電極20は、インコネル(商標名)600または601等のNi系合金等で形成された円柱状の電極棒で、内部に熱伝導性に優れる銅等からなる金属芯23を有している。そして先端部21には、貴金属やタングステンを主成分とする合金からなる円盤状の電極チップ25が、中心電極20と一体となるように溶接されている。なお、本実施形態では、中心電極20と一体になった電極チップ25も含め「中心電極」と称する。
【0029】
中心電極20の後端側は鍔状に拡径され、この鍔状の部分が軸孔12内において電極収容部15の起点となる段状の部位に当接されており、電極収容部15内で中心電極20が位置決めされている。また、中心電極20の先端部21の先端面26(より具体的には中心電極20の先端部21にて中心電極20と一体に接合された電極チップ25の先端面26)の周縁が、径の異なる電極収容部15と先端小径部61との間の段部に当接された状態となっている。この構成により、軸孔12の先端小径部61の内周面と、中心電極20の先端面26とで包囲された容積の小さな放電空間が形成されている。この放電空間はキャビティ60と称される。接地電極30と中心電極20との間の火花放電間隙において行われる火花放電は、このキャビティ60内の空間や壁面を通過する。そして、この火花放電によって絶縁破壊された後に印加されるエネルギによって、キャビティ60内でプラズマが形成される。このプラズマは、開口部14の開口端11から噴出される。
【0030】
図1に示すように、中心電極20は、軸孔12の内部に設けられた金属とガラスの混合物からなる導電性のシール体4を経由して、後端側の端子金具40に電気的に接続されている。このシール体4により、中心電極20および端子金具40は、軸孔12内で固定されると共に導通される。端子金具40にはプラグキャップ(図示外)を介して高圧ケーブル(図示外)が接続される。この高圧ケーブルを介して、図4に示した点火装置320から電力が端子金具40に印加される。
【0031】
主体金具50は、内燃機関300のエンジンヘッドにプラズマジェット点火プラグ100を固定するための円筒状の金具であり、絶縁碍子10を取り囲むようにして保持している。主体金具50は鉄系の材料より形成され、図示外のプラグレンチが嵌合する工具係合部51と、内燃機関300の上部に設けられたエンジンヘッドに螺合するねじ部52とを備えている。
【0032】
主体金具50の工具係合部51より後端側には加締部53が設けられている。工具係合部51から加締部53にかけての主体金具50と、絶縁碍子10の後端側胴部18との間には円環状のリング部材6,7が介在されており、更に両リング部材6,7の間にタルク(滑石)9の粉末が充填されている。そして、加締部53を加締めることにより、リング部材6,7およびタルク9を介して絶縁碍子10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。これにより、図1に示すように、脚長部13と先端側胴部17との間の段状の部位が、主体金具50の内周面に段状に形成された係止部56に環状のパッキン80を介して支持されて、主体金具50と絶縁碍子10とが一体にされる。このパッキン80によって、主体金具50と絶縁碍子10との間の気密は保持され、燃焼ガスの流出が防止される。また、図1に示すように、工具係合部51とねじ部52との間には鍔部54が形成されており、ねじ部52の後端側近傍、すなわち鍔部54の座面55にはガスケット5が嵌挿されている。
【0033】
主体金具50の先端部59には接地電極30が設けられている。接地電極30は耐火花消耗性に優れた金属から構成されており、一例としてインコネル(商標名)600または601等のNi系合金が用いられる。図1に示すように、接地電極30は、軸線Oを中心とした貫通孔31(「オリフィス31」ともいう)を有する円盤状に形成されており、その厚み方向を軸線O方向に揃え、絶縁碍子10の先端面16に当接した状態で、主体金具50の先端部59の内周面に形成された係合部58に係合されている。そして先端面32を主体金具50の先端面57に揃えた状態で、外周縁が一周にわたって係合部58とレーザ溶接され、接地電極30は主体金具50と一体に接合されている。接地電極30の貫通孔31は、その最小内径が、少なくとも絶縁碍子10の開口部14(開口端11)の内径以上の大きさを有するように形成されており、この貫通孔31を介し、キャビティ60の内部と外気とが連通されるように構成されている。
【0034】
本実施形態では、図2に示すように、中心電極20の先端面26と接地電極30とを接続するように、キャビティ60を構成する絶縁碍子10の内表面(内壁)に、半導体層62が形成されている。半導体層62は、絶縁碍子10の表面の一部に酸化物半導体が拡散されることで形成されている。具体的には、泥漿状態の酸化物半導体(例えば、酸化鉄や酸化銅)を絶縁碍子10のキャビティ内壁および先端面16の一部に塗布して焼結させる処理を複数回(例えば、4〜5回)、繰り返すことにより半導体層62が形成されている。
【0035】
本実施形態の半導体層62は、その後端部が、中心電極20の先端面に立接しており、その先端部は、絶縁碍子10の先端面16と接地電極30との接触面に入り込むように形成されている。そのため、接地電極30の絶縁碍子10側の面の一部は、半導体層62を介して、絶縁碍子10の先端部に接している。このように、絶縁碍子10の先端面16と接地電極30との間にも半導体層62が形成されていれば、キャビティ60からのプラズマの噴出に伴って、オリフィス31がチャネリングによって徐々に拡径されたとしても、中心電極20と接地電極30との間を確実に半導体層62で接続することが可能になる。なお、本実施形態では、半導体層62を介して絶縁碍子10の先端面16に接する接地電極30の部分は、貫通孔31の内周から外周側に向けて0.1mm以上存在することとした。以下では、かかる数量のことを、「接触長C」という。
【0036】
図3は、半導体層62の電気的特性を示すグラフである。このグラフの横軸は、半導体層62の表面から絶縁碍子10の内部へ向けた半導体層62の厚み方向への深さを示し、縦軸は、その深さにおける半導体層62の抵抗値を示している。このグラフに示すように、本実施形態の半導体層62は、その表面付近は、0.1MΩの抵抗値を有しているが、0.2mmの深さでは、100MΩの抵抗値を有している。つまり、半導体層62は、その表面から絶縁碍子10の内部へ行くほど電気伝導率が低くなることになる。このような特性を有する半導体層62をキャビティ60の内壁に形成すれば、より電気伝導率の高い半導体層62表面での放電が促進されるので、中心電極20から主体金具50へ直接放電されてしまうことが抑制され、キャビティ60内での火花放電を促進することができる。この結果、プラズマジェット点火プラグ100の着火率を向上させることが可能になり、また、絶縁碍子10の劣化を抑制することが可能になる。
【0037】
B.点火システムの概略構成:
次に、プラズマジェット点火プラグ100の点火を制御する点火システム1の概要について説明する。
図4は、点火システム1の概略構成を示す図である。図4に示すように、点火システム1は、プラズマジェット点火プラグ100を備える内燃機関300と、プラズマジェット点火プラグ100の点火を行う点火装置320と、内燃機関300の運転状況を検出する各種センサと、これらのセンサが接続されたECU(Engine Control Unit)310とによって構成されている。
【0038】
内燃機関300には、空燃比を検出するA/Fセンサ301や、ノッキングの発生を検出するノックセンサ302、冷却水の温度を検出する水温センサ303、クランク角を検出するクランク角センサ304、スロットルの開度を検出するスロットルセンサ305、EGRバルブの開度を検出するEGRバルブセンサ306、が取り付けられている。
【0039】
これらのセンサは、ECU310に接続されている。ECU310は、これらのセンサによって検出した内燃機関300の運転状況から、プラズマジェット点火プラグ100の点火タイミングを決定する。そして、決定された点火タイミングに基づいて、点火装置320に点火信号を出力する。
【0040】
点火装置320は、ECU310から受信した点火信号に基づいて、プラズマジェット点火プラグ100の点火制御を行う。具体的には、ECU310から点火信号を受信すると、プラズマジェット点火プラグ100に高電圧を印加して火花放電を発生させ、火花放電間隙間を絶縁破壊する。そして、更なるエネルギを絶縁破壊後の火花放電間隙に印加する。こうすることで、プラズマジェット点火プラグ100からプラズマが噴出されて混合気への着火が行われる。点火装置320の具体的構成は、例えば、特開2007−287665に開示されている。
【0041】
図5は、点火装置320がプラズマジェット点火プラグ100に対して点火を行わせる際に印加する電圧波形の一例を示す図である。一方、図6は、一般的な点火プラグを点火させるための電圧波形の一例を比較例として示す図である。図6に示すように、一般的な点火プラグでは、0.52×1010(ボルト/秒、以下、「V/S」と記載する)程度の昇圧速度で電圧を印加することにより、火花放電させることが可能である。これに対して、本実施形態の点火装置320は、図5に示すように、6.2×1010(V/S)の昇圧速度で電圧を印加する。つまり、従来に比べて、約10倍の昇圧速度で電圧を印加するのである。このような昇圧速度で電圧を印加すれば、半導体層62の存在によって中心電極と接地電極との間の電極間抵抗値が低くなることにより、実際の印加電圧が低下しても、火花放電のために要求される電圧を十分に供給することが可能になる。
【0042】
C.実施例:
上述した実施形態に基づき製造されたプラズマジェット点火プラグ100に対して、本発明の効果を確認するための種々の実験を行った。以下、これらの実験の結果を示す。
【0043】
(C1)着火性能評価実験:
まず、電極間抵抗値の異なる複数のプラズマジェット点火プラグ100を、実施例1〜6として用意し、これらのプラズマジェット点火プラグ100の着火性能を評価する実験を行った。
図7は、本評価実験における各実施例の実験結果を示す図である。各プラズマジェット点火プラグ100の、中心電極20と接地電極30との間の抵抗値を抵抗計で測定した電極間抵抗値(半導体層62表面における抵抗値)は、実施例1は10Ω、実施例2は100Ω、実施例3は1kΩ、実施例4は10kΩ、実施例5は100kΩ、実施例6は1MΩである。本実験では、それぞれの実施例について、大気圧の環境条件下と+1MPaの環境条件下とで、それぞれ20回放電させ、そのうち着火できた回数の割合を求めている。なお、本実験では、ソリッドタイプの半導体を中心電極と接地電極との間に有するイグナイタプラグを比較例として用意し、このイグナイタプラグについても同様の実験を行った。このイグナイタプラグの電極間抵抗値は1MΩであった。
【0044】
図7に示すように、本実験では、比較例のイグナイタプラグは、大気圧条件下では95%の着火割合となったものの、+1MPa条件下では40%という低い着火割合となった。ソリッドタイプの半導体を有するイグナイタプラグは、プラグ先端周囲の圧力が高いと、放電が起こりやすい部分で放電が起こることが知られている。そのため、+1MPaという高圧条件下では、中心電極から接地電極に放電せず、半導体チップの内部あるいは半導体チップと絶縁碍子との界面を通じて、中心電極から主体金具に放電することにより、その着火割合が低くなったと考えられる。
【0045】
これに対して、実施例1〜6のすべてが、大気圧の条件下および+1MPaの条件下で、100%の割合で着火させることが可能であった。これは、各実施例の半導体層62が、絶縁碍子10の内部へ行くほど電気伝導率が低くなるため、高圧条件下でも半導体層62の表面、すなわちキャビティ60内で放電されることが促進されると考えられるからである。つまり、中心電極20と接地電極30との間に半導体層62を配置するだけでもキャビティ60内での放電は促進されるが、更に、絶縁碍子10の内壁に半導体を拡散して半導体層62を形成すれば、絶縁碍子10の内部へ行くほど電気伝導率が低くなり、半導体層62表面での放電が促進されるので、気筒内のような高圧条件下においても、より確実に混合気を着火させることが可能になるのである。
【0046】
(C2)各種昇圧速度における放電実験:
続いて、上述した実施例1〜6のプラズマジェット点火プラグ100について、印加する電圧の昇圧速度を種々変更して放電の有無を確認する実験を行った。本実験では、各実施例に対して、0.01×1010(V/S)、0.1×1010(V/S)、1×1010(V/S)、10×1010(V/S)、の各昇圧速度で電圧を印加し、放電の有無を確認した。
【0047】
図8は、各昇圧速度における放電有無の結果を示す図である。図示するように、昇圧速度が、0.1×1010(V/S)以下では、どの実施例も放電しなかったが、昇圧速度が、1×1010(V/S)以上であれば、すべての実施例でも放電が確認された。つまり、中心電極20と接地電極30との間に半導体層62を配置した場合には、少なくとも、1×1010(V/S)の昇圧速度で電圧を印加すれば、中心電極20と接地電極30との間に放電を生じさせることが可能になると考察される。
【0048】
(C3)放電電圧評価実験:
次に、上述した各実施例の放電電圧を測定する実験を行った。この実験結果を図9に示す。この図9中、10MΩおよび100MΩの電極間抵抗値を有する点火プラグは、半導体層62を有しない従来の点火プラグである。100MΩの抵抗値を有する点火プラグは、ほぼ新品のプラグであり、10MΩの抵抗値を有するプラグは、ある程度の使用を重ねたプラグである。一般に、使用によって電極間にカーボンが堆積した状態のプラグであれば、10MΩ程度の抵抗値を有することになる。
【0049】
図9に示すように、実施例1〜6の放電電圧は、0.5〜1.2kV程度であり、従来の点火プラグの放電電圧(2〜3kV)よりも1/2ないし1/6程度の低い電圧で放電させることが可能であった。つまり、上記実施形態のように、中心電極20と接地電極30との間に半導体層62を形成すれば、半導体層62を有しない点火プラグよりも低い電圧で混合気を着火させることが可能になるのである。この結果、高電圧の印加による電気ノイズの発生が抑制され、更に、キャビティ60やオリフィス31にチャネリングが生じることが抑制されることになる。
【0050】
なお、本実験では、電極間抵抗値が1Ωのプラグも用意したが、これは放電させることができなかった。抵抗値が低すぎるために、上述した昇圧速度によっても火花放電に必要な電力が供給できなかったためである。
【0051】
(C4)接触長評価実験:
最後に、半導体層62を介して絶縁碍子10の先端面16に接する接地電極30の接触長Cについて評価実験を行った。この実験結果を図10に示す。この実験では、接地電極30の厚みを0.5mm、接地電極30の貫通孔31の孔径を1.6mm、キャビティ60の孔径を1.6mm、絶縁碍子10の先端面16からのキャビティ60の深さを2.0mm、絶縁碍子10の先端面16の外径を5.5mm、電極間抵抗値を100Ωとし、接触長Cをそれぞれ、0mm、0.1mm、0.5mm、とした3種類のプラズマジェット点火プラグ100を用意した。そして、これらのプラズマジェット点火プラグ100について、環境圧力を+0.2MPa、環境温度を常温として、立ち上がり速度が6.2×1010(V/S)、放電エネルギが1Jの電源を用いて、1000回および5000回の放電を行った際の放電電圧をそれぞれ測定した。なお、本実験において、接触長Cが0mmとは、キャビティ60の内壁には半導体層62が形成されているが、半導体層62と接地電極30とは接触していない状態のことをいう。
【0052】
この実験によれば、接触長Cが0mmの場合には、放電回数が少ないうちは5kV程度の電圧で放電可能であった。しかし、放電を繰り返し、放電回数が1000回、5000回となると、図10に示すように、放電させることができず失火することが確認された。これに対して、接触長Cが0.1mmの場合には、1000回放電後において約1.8kVの電圧で放電が可能であり、5000回放電後において約3.5kVの電圧で放電が可能であった。また、接触長Cが0.5mmの場合には、1000回放電後において約0.8kVの電圧で放電が可能であり、5000回放電後において約1.6kVの電圧で放電可能であった。つまり、接触長Cが0.1mm以上あれば、1000回、5000回と放電を繰り返した後でも、従来の新品の点火プラグの放電電圧(2〜3kV)と同等以下の電圧によって放電させることが可能になることが確認できた。また、接触長Cが0.5mm以上であれば、5000回の放電を行った後でも、従来の新品の点火プラグの放電電圧よりも低い電圧で放電させることが可能になることが確認できた。以上より、本実験の結果、接触長Cを0.1mm以上、好ましくは、0.5mm以上確保することで、放電の繰り返しに伴うキャビティ60およびオリフィス31の劣化(特に、チャネリングによるオリフィス31の拡径)に対する耐久性を向上させつつ、低い電圧で点火プラグ100の放電が可能になることが確認できた。
【0053】
(C5)プラズマの噴出状態:
ここで、本実施形態のプラズマジェット点火プラグ100によるプラズマの噴出例を図11に示す。図12には、従来の沿面放電タイプのイグナイタプラグによってプラズマが発生した様子を示している。図11に示すように、本実施形態のプラズマジェット点火プラグ100では、15mm程度の火炎が発生した。これに対して、従来のイグナイタプラグでは、7mm程度の火炎の噴出に止まった。つまり、上述した実施形態のプラズマジェット点火プラグ100は、従来のイグナイタプラグよりも、大きな火炎を生じさせることが可能になるので、混合気への着火性を高めることが可能になるのである。
【0054】
以上、本発明の実施形態および種々の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施形態や実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができることはいうまでもない。
【0055】
例えば、図13に示すように、半導体層62は、中心電極20の先端部の外周面に接するように、配置されていてもよい。このような態様であれば、中心電極20が消耗して短くなったとしても、中心電極20と半導体層62との接触を保つことが可能になる。また、上述した実施形態では、内燃機関用のプラズマジェット点火プラグ100に半導体層62を形成することとしたが、ガスエンジンやガスタービンエンジン用のイグナイタプラグについても同様に半導体層62を形成することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…点火システム
10…絶縁碍子
12…軸孔
20…中心電極
30…接地電極
31…貫通孔(オリフィス)
40…端子金具
50…主体金具
60…キャビティ
62…半導体層
100…プラズマジェット点火プラグ
300…内燃機関
301…A/Fセンサ
302…ノックセンサ
303…水温センサ
304…クランク角センサ
305…スロットルセンサ
310…ECU
320…点火装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグや点火プラグを用いて燃料を点火する点火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料(混合気)をプラズマによって着火する点火プラグとして、プラズマジェット点火プラグ(特許文献1,2参照)やイグナイタプラグ(特許文献3参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−287665号公報
【特許文献2】特開2008−45449号公報
【特許文献3】特開平3−214582号公報
【0004】
例えば、プラズマジェット点火プラグには、その先端部に、中心電極と絶縁碍子とで囲まれた円筒状のキャビティが設けられている。中心電極と接地電極との間で高エネルギの火花放電が生じると、このキャビティの内部は、瞬間的に高熱状態になる。すると、キャビティ内に存在する混合気がイオン化すると同時に急膨張し、プラズマとなってキャビティから火炎状に噴出する。このような火炎状のプラズマは、気筒内に延びるため、混合気との接触面積が大きくなる。そのため、プラズマジェット点火プラグは、火花によって点火を行う通常の点火プラグよりも、着火性に優れるという特徴がある。
【0005】
ところが、従来のプラズマジェット点火プラグは、プラズマ噴出前に中心電極と接地電極との間で火花放電を生じさせるために、比較的高い放電電圧が要求された。そのため、発生する電気ノイズが大きくなるという問題や、キャビティや接地電極の貫通孔(オリフィス)にチャネリングが生じて劣化してしまうという問題があった。
【0006】
これらの問題を解消するため、例えば、特許文献3に記載のイグナイタプラグでは、中心電極と接地電極との間にソリッドタイプの半導体チップを配置することにより放電電圧を低下させている。しかし、このような構造では、半導体チップと絶縁碍子の界面付近を電流が流れることにより、中心電極と主体金具との間で放電が生じ、失火してしまう場合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した種々の問題を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、プラズマによって燃料を着火する点火プラグの放電電圧を低下させるとともに、着火性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]中心電極と、前記中心電極の軸線方向に延びる軸孔を有し、該軸孔内に前記中心電極を保持する絶縁碍子と、前記絶縁碍子の先端部に接するように配置され、貫通孔を有する接地電極とを備えた点火プラグであって、前記中心電極の先端部は、前記絶縁碍子の先端部よりも後端側に位置しており、前記絶縁碍子の表面の一部に、前記中心電極と前記接地電極とに接する半導体層が形成されていることを特徴とする点火プラグ。
【0010】
このような点火プラグであれば、絶縁碍子の表面に中心電極と接地電極とを結ぶ半導体層が形成されているので、放電電圧を低下させることができる。そのため、電気ノイズの発生や、チャネリングによる劣化を抑制することができる。また、絶縁碍子の表面に半導体層が形成されているので、この部分での放電が促進され、中心電極と主体金具との間で放電されることが抑制される。この結果、燃料への着火性を高めることが可能になる。また、このような点火プラグであれば、中心電極と絶縁碍子の軸孔とで囲まれた部分に、プラズマが発生するキャビティ(凹部)を形成することができる。
【0011】
[適用例2]適用例1に記載の点火プラグであって、前記接地電極の前記絶縁碍子側の面の少なくとも一部が、前記半導体層を介して前記絶縁碍子の先端部に接する点火プラグ。このような点火プラグであれば、半導体層が、絶縁碍子と接地電極との接触面に入り込む構造となるので、接地電極の貫通孔が劣化によって拡径したとしても、中心電極と接地電極とを確実に半導体層によって接続することができる。
【0012】
[適用例3]適用例2に記載の点火プラグであって、前記接地電極の、前記半導体層を介して前記絶縁碍子の先端部に接する部分が、前記貫通孔の内周から外周側へ0.1mm以上存在する点火プラグ。このような点火プラグであれば、接地電極の貫通孔が劣化によって拡径したとしても、半導体層と接地電極との接続性を十分に確保することができる。
【0013】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の点火プラグであって、前記半導体層は、前記半導体層の表面から前記絶縁碍子の内部に向かうほど電気伝導率が低くなる性質を有する点火プラグ。このような点火プラグであれば、半導体層の表面において放電がなされる確率をより高めることができる。
【0014】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の点火プラグであって、前記中心電極と前記接地電極との間の電極間抵抗値が1×101〜1×106Ωである点火プラグ。このような点火プラグであれば、中心電極と接地電極との間において放電がなされる確率を高めることができる。
【0015】
[適用例6]適用例1ないし適用例5のいずれかに記載の点火プラグであって、前記半導体層は、半導体を前記絶縁碍子の表面の一部に拡散させることで形成されている点火プラグ。このような構成であれば、比較的容易に半導体層を形成することができる。
【0016】
[適用例7]適用例1ないし適用例6のいずれかに記載の点火プラグであって、前記半導体層は、半導体を前記絶縁碍子の表面の一部に複数回焼結することで形成されている点火プラグ。このような構成であれば、比較的容易に半導体層を形成することができる。
【0017】
[適用例8]適用例1ないし適用例7のいずれかに記載の点火プラグであって、前記半導体層は、酸化物半導体を含有する点火プラグ。酸化物半導体としては、例えば、酸化銅や酸化鉄がある。また、酸化物半導体に替えて、シリコンなどのIV族半導体を用いることも可能である。
【0018】
[適用例9]適用例1ないし適用例8のいずれかに記載の点火プラグにおいて、前記半導体層の後端部は、前記中心電極の先端部の外周面に接している構造とすることが可能である。
【0019】
[適用例10]適用例1ないし適用例9のいずれかに記載の点火プラグであって、前記接地電極の貫通孔の直径は、前記絶縁碍子の軸孔の直径以上の大きさである点火プラグ。このような構成であれば、プラズマの噴出を接地電極によって塞ぐことがないので、着火性能を向上させることができる。
【0020】
[適用例11]前記点火プラグは、プラズマジェット点火プラグである適用例1ないし適用例10のいずれかに記載の点火プラグ。なお、本発明の点火プラグは、ガソリンエンジン用のプラズマジェット点火プラグ以外にも、ガスエンジンやガスタービンエンジン用のイグナイタプラグに対して適用することも可能である。
【0021】
[適用例12]燃料を点火する点火システムであって、適用例1ないし適用例11のいずれかに記載の点火プラグと、前記点火プラグの前記中心電極または前記接地電極に対して、昇圧速度が、1×1010[V/秒]以上の電圧を印加する点火装置とを備える点火システム。このような点火システムによって点火プラグに電圧を印加すれば、半導体層の存在によって電極間抵抗値が低下していても、中心電極と接地電極との間で火花放電を確実に生じさせることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態としてのプラズマジェット点火プラグ100の構造を示す部分断面図である。
【図2】プラズマジェット点火プラグ100の先端部分を拡大した断面図である。
【図3】半導体層62の電気的特性を示すグラフである。
【図4】点火システム1の概略構成を示す図である。
【図5】点火装置320がプラズマジェット点火プラグ100に対して点火を行わせる際に印加する電圧波形の一例を示す図である。
【図6】一般的な点火プラグを点火させるための電圧波形の一例を比較例として示す図である。
【図7】着火性能評価実験の実験結果を示す図である。
【図8】各種昇圧速度における放電実験の実験結果を示す図である。
【図9】放電電圧評価実験の実験結果を示す図である。
【図10】接触長評価実験の実験結果を示す図である。
【図11】本実施形態のプラズマジェット点火プラグ100によるプラズマの噴出例を示す図である。
【図12】従来の沿面放電タイプのイグナイタプラグによってプラズマが発生した様子を示す図である。
【図13】半導体層62が、中心電極20の側面に接するように配置された例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ次の順序で説明する。
A.プラズマジェット点火プラグの構造:
B.点火システムの概略構成:
C.実施例:
【0024】
A.プラズマジェット点火プラグの構造:
図1は、本発明の一実施形態としてのプラズマジェット点火プラグ100の構造を示す部分断面図である。また、図2は、プラズマジェット点火プラグ100の先端部分を拡大した断面図である。なお、図1,2において、プラズマジェット点火プラグ100の軸線O方向を図面における上下方向とし、下側をプラズマジェット点火プラグ100の先端側、上側を後端側として説明する。
【0025】
図1に示すように、プラズマジェット点火プラグ100は、絶縁碍子10と、この絶縁碍子10を保持する主体金具50と、絶縁碍子10内に軸線O方向に保持された中心電極20と、主体金具50の先端部59に溶接された接地電極30と、絶縁碍子10の後端部に設けられた端子金具40とから構成されている。
【0026】
絶縁碍子10は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成され、軸線O方向に軸孔12を有する筒状の絶縁部材である。軸線O方向の略中央には外径の最も大きな鍔部19が形成されており、これより後端側には後端側胴部18が形成されている。また、鍔部19より先端側には後端側胴部18より外径の小さな先端側胴部17と、その先端側胴部17よりも先端側で先端側胴部17よりも更に外径の小さな脚長部13とが形成されている。この脚長部13と先端側胴部17との間は段状に形成されている。
【0027】
図1に示すように、軸孔12のうち脚長部13の内周にあたる部分は、先端側胴部17、鍔部19および後端側胴部18の内周にあたる部分よりも縮径された電極収容部15として形成されている。この電極収容部15の内部には中心電極20が保持される。また、軸孔12は電極収容部15の先端側において内周が更に縮径されており、先端小径部61として形成されている。そして、先端小径部61の内周は絶縁碍子10の先端面16に連続し、軸孔12の開口部14を形成している。
【0028】
中心電極20は、インコネル(商標名)600または601等のNi系合金等で形成された円柱状の電極棒で、内部に熱伝導性に優れる銅等からなる金属芯23を有している。そして先端部21には、貴金属やタングステンを主成分とする合金からなる円盤状の電極チップ25が、中心電極20と一体となるように溶接されている。なお、本実施形態では、中心電極20と一体になった電極チップ25も含め「中心電極」と称する。
【0029】
中心電極20の後端側は鍔状に拡径され、この鍔状の部分が軸孔12内において電極収容部15の起点となる段状の部位に当接されており、電極収容部15内で中心電極20が位置決めされている。また、中心電極20の先端部21の先端面26(より具体的には中心電極20の先端部21にて中心電極20と一体に接合された電極チップ25の先端面26)の周縁が、径の異なる電極収容部15と先端小径部61との間の段部に当接された状態となっている。この構成により、軸孔12の先端小径部61の内周面と、中心電極20の先端面26とで包囲された容積の小さな放電空間が形成されている。この放電空間はキャビティ60と称される。接地電極30と中心電極20との間の火花放電間隙において行われる火花放電は、このキャビティ60内の空間や壁面を通過する。そして、この火花放電によって絶縁破壊された後に印加されるエネルギによって、キャビティ60内でプラズマが形成される。このプラズマは、開口部14の開口端11から噴出される。
【0030】
図1に示すように、中心電極20は、軸孔12の内部に設けられた金属とガラスの混合物からなる導電性のシール体4を経由して、後端側の端子金具40に電気的に接続されている。このシール体4により、中心電極20および端子金具40は、軸孔12内で固定されると共に導通される。端子金具40にはプラグキャップ(図示外)を介して高圧ケーブル(図示外)が接続される。この高圧ケーブルを介して、図4に示した点火装置320から電力が端子金具40に印加される。
【0031】
主体金具50は、内燃機関300のエンジンヘッドにプラズマジェット点火プラグ100を固定するための円筒状の金具であり、絶縁碍子10を取り囲むようにして保持している。主体金具50は鉄系の材料より形成され、図示外のプラグレンチが嵌合する工具係合部51と、内燃機関300の上部に設けられたエンジンヘッドに螺合するねじ部52とを備えている。
【0032】
主体金具50の工具係合部51より後端側には加締部53が設けられている。工具係合部51から加締部53にかけての主体金具50と、絶縁碍子10の後端側胴部18との間には円環状のリング部材6,7が介在されており、更に両リング部材6,7の間にタルク(滑石)9の粉末が充填されている。そして、加締部53を加締めることにより、リング部材6,7およびタルク9を介して絶縁碍子10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。これにより、図1に示すように、脚長部13と先端側胴部17との間の段状の部位が、主体金具50の内周面に段状に形成された係止部56に環状のパッキン80を介して支持されて、主体金具50と絶縁碍子10とが一体にされる。このパッキン80によって、主体金具50と絶縁碍子10との間の気密は保持され、燃焼ガスの流出が防止される。また、図1に示すように、工具係合部51とねじ部52との間には鍔部54が形成されており、ねじ部52の後端側近傍、すなわち鍔部54の座面55にはガスケット5が嵌挿されている。
【0033】
主体金具50の先端部59には接地電極30が設けられている。接地電極30は耐火花消耗性に優れた金属から構成されており、一例としてインコネル(商標名)600または601等のNi系合金が用いられる。図1に示すように、接地電極30は、軸線Oを中心とした貫通孔31(「オリフィス31」ともいう)を有する円盤状に形成されており、その厚み方向を軸線O方向に揃え、絶縁碍子10の先端面16に当接した状態で、主体金具50の先端部59の内周面に形成された係合部58に係合されている。そして先端面32を主体金具50の先端面57に揃えた状態で、外周縁が一周にわたって係合部58とレーザ溶接され、接地電極30は主体金具50と一体に接合されている。接地電極30の貫通孔31は、その最小内径が、少なくとも絶縁碍子10の開口部14(開口端11)の内径以上の大きさを有するように形成されており、この貫通孔31を介し、キャビティ60の内部と外気とが連通されるように構成されている。
【0034】
本実施形態では、図2に示すように、中心電極20の先端面26と接地電極30とを接続するように、キャビティ60を構成する絶縁碍子10の内表面(内壁)に、半導体層62が形成されている。半導体層62は、絶縁碍子10の表面の一部に酸化物半導体が拡散されることで形成されている。具体的には、泥漿状態の酸化物半導体(例えば、酸化鉄や酸化銅)を絶縁碍子10のキャビティ内壁および先端面16の一部に塗布して焼結させる処理を複数回(例えば、4〜5回)、繰り返すことにより半導体層62が形成されている。
【0035】
本実施形態の半導体層62は、その後端部が、中心電極20の先端面に立接しており、その先端部は、絶縁碍子10の先端面16と接地電極30との接触面に入り込むように形成されている。そのため、接地電極30の絶縁碍子10側の面の一部は、半導体層62を介して、絶縁碍子10の先端部に接している。このように、絶縁碍子10の先端面16と接地電極30との間にも半導体層62が形成されていれば、キャビティ60からのプラズマの噴出に伴って、オリフィス31がチャネリングによって徐々に拡径されたとしても、中心電極20と接地電極30との間を確実に半導体層62で接続することが可能になる。なお、本実施形態では、半導体層62を介して絶縁碍子10の先端面16に接する接地電極30の部分は、貫通孔31の内周から外周側に向けて0.1mm以上存在することとした。以下では、かかる数量のことを、「接触長C」という。
【0036】
図3は、半導体層62の電気的特性を示すグラフである。このグラフの横軸は、半導体層62の表面から絶縁碍子10の内部へ向けた半導体層62の厚み方向への深さを示し、縦軸は、その深さにおける半導体層62の抵抗値を示している。このグラフに示すように、本実施形態の半導体層62は、その表面付近は、0.1MΩの抵抗値を有しているが、0.2mmの深さでは、100MΩの抵抗値を有している。つまり、半導体層62は、その表面から絶縁碍子10の内部へ行くほど電気伝導率が低くなることになる。このような特性を有する半導体層62をキャビティ60の内壁に形成すれば、より電気伝導率の高い半導体層62表面での放電が促進されるので、中心電極20から主体金具50へ直接放電されてしまうことが抑制され、キャビティ60内での火花放電を促進することができる。この結果、プラズマジェット点火プラグ100の着火率を向上させることが可能になり、また、絶縁碍子10の劣化を抑制することが可能になる。
【0037】
B.点火システムの概略構成:
次に、プラズマジェット点火プラグ100の点火を制御する点火システム1の概要について説明する。
図4は、点火システム1の概略構成を示す図である。図4に示すように、点火システム1は、プラズマジェット点火プラグ100を備える内燃機関300と、プラズマジェット点火プラグ100の点火を行う点火装置320と、内燃機関300の運転状況を検出する各種センサと、これらのセンサが接続されたECU(Engine Control Unit)310とによって構成されている。
【0038】
内燃機関300には、空燃比を検出するA/Fセンサ301や、ノッキングの発生を検出するノックセンサ302、冷却水の温度を検出する水温センサ303、クランク角を検出するクランク角センサ304、スロットルの開度を検出するスロットルセンサ305、EGRバルブの開度を検出するEGRバルブセンサ306、が取り付けられている。
【0039】
これらのセンサは、ECU310に接続されている。ECU310は、これらのセンサによって検出した内燃機関300の運転状況から、プラズマジェット点火プラグ100の点火タイミングを決定する。そして、決定された点火タイミングに基づいて、点火装置320に点火信号を出力する。
【0040】
点火装置320は、ECU310から受信した点火信号に基づいて、プラズマジェット点火プラグ100の点火制御を行う。具体的には、ECU310から点火信号を受信すると、プラズマジェット点火プラグ100に高電圧を印加して火花放電を発生させ、火花放電間隙間を絶縁破壊する。そして、更なるエネルギを絶縁破壊後の火花放電間隙に印加する。こうすることで、プラズマジェット点火プラグ100からプラズマが噴出されて混合気への着火が行われる。点火装置320の具体的構成は、例えば、特開2007−287665に開示されている。
【0041】
図5は、点火装置320がプラズマジェット点火プラグ100に対して点火を行わせる際に印加する電圧波形の一例を示す図である。一方、図6は、一般的な点火プラグを点火させるための電圧波形の一例を比較例として示す図である。図6に示すように、一般的な点火プラグでは、0.52×1010(ボルト/秒、以下、「V/S」と記載する)程度の昇圧速度で電圧を印加することにより、火花放電させることが可能である。これに対して、本実施形態の点火装置320は、図5に示すように、6.2×1010(V/S)の昇圧速度で電圧を印加する。つまり、従来に比べて、約10倍の昇圧速度で電圧を印加するのである。このような昇圧速度で電圧を印加すれば、半導体層62の存在によって中心電極と接地電極との間の電極間抵抗値が低くなることにより、実際の印加電圧が低下しても、火花放電のために要求される電圧を十分に供給することが可能になる。
【0042】
C.実施例:
上述した実施形態に基づき製造されたプラズマジェット点火プラグ100に対して、本発明の効果を確認するための種々の実験を行った。以下、これらの実験の結果を示す。
【0043】
(C1)着火性能評価実験:
まず、電極間抵抗値の異なる複数のプラズマジェット点火プラグ100を、実施例1〜6として用意し、これらのプラズマジェット点火プラグ100の着火性能を評価する実験を行った。
図7は、本評価実験における各実施例の実験結果を示す図である。各プラズマジェット点火プラグ100の、中心電極20と接地電極30との間の抵抗値を抵抗計で測定した電極間抵抗値(半導体層62表面における抵抗値)は、実施例1は10Ω、実施例2は100Ω、実施例3は1kΩ、実施例4は10kΩ、実施例5は100kΩ、実施例6は1MΩである。本実験では、それぞれの実施例について、大気圧の環境条件下と+1MPaの環境条件下とで、それぞれ20回放電させ、そのうち着火できた回数の割合を求めている。なお、本実験では、ソリッドタイプの半導体を中心電極と接地電極との間に有するイグナイタプラグを比較例として用意し、このイグナイタプラグについても同様の実験を行った。このイグナイタプラグの電極間抵抗値は1MΩであった。
【0044】
図7に示すように、本実験では、比較例のイグナイタプラグは、大気圧条件下では95%の着火割合となったものの、+1MPa条件下では40%という低い着火割合となった。ソリッドタイプの半導体を有するイグナイタプラグは、プラグ先端周囲の圧力が高いと、放電が起こりやすい部分で放電が起こることが知られている。そのため、+1MPaという高圧条件下では、中心電極から接地電極に放電せず、半導体チップの内部あるいは半導体チップと絶縁碍子との界面を通じて、中心電極から主体金具に放電することにより、その着火割合が低くなったと考えられる。
【0045】
これに対して、実施例1〜6のすべてが、大気圧の条件下および+1MPaの条件下で、100%の割合で着火させることが可能であった。これは、各実施例の半導体層62が、絶縁碍子10の内部へ行くほど電気伝導率が低くなるため、高圧条件下でも半導体層62の表面、すなわちキャビティ60内で放電されることが促進されると考えられるからである。つまり、中心電極20と接地電極30との間に半導体層62を配置するだけでもキャビティ60内での放電は促進されるが、更に、絶縁碍子10の内壁に半導体を拡散して半導体層62を形成すれば、絶縁碍子10の内部へ行くほど電気伝導率が低くなり、半導体層62表面での放電が促進されるので、気筒内のような高圧条件下においても、より確実に混合気を着火させることが可能になるのである。
【0046】
(C2)各種昇圧速度における放電実験:
続いて、上述した実施例1〜6のプラズマジェット点火プラグ100について、印加する電圧の昇圧速度を種々変更して放電の有無を確認する実験を行った。本実験では、各実施例に対して、0.01×1010(V/S)、0.1×1010(V/S)、1×1010(V/S)、10×1010(V/S)、の各昇圧速度で電圧を印加し、放電の有無を確認した。
【0047】
図8は、各昇圧速度における放電有無の結果を示す図である。図示するように、昇圧速度が、0.1×1010(V/S)以下では、どの実施例も放電しなかったが、昇圧速度が、1×1010(V/S)以上であれば、すべての実施例でも放電が確認された。つまり、中心電極20と接地電極30との間に半導体層62を配置した場合には、少なくとも、1×1010(V/S)の昇圧速度で電圧を印加すれば、中心電極20と接地電極30との間に放電を生じさせることが可能になると考察される。
【0048】
(C3)放電電圧評価実験:
次に、上述した各実施例の放電電圧を測定する実験を行った。この実験結果を図9に示す。この図9中、10MΩおよび100MΩの電極間抵抗値を有する点火プラグは、半導体層62を有しない従来の点火プラグである。100MΩの抵抗値を有する点火プラグは、ほぼ新品のプラグであり、10MΩの抵抗値を有するプラグは、ある程度の使用を重ねたプラグである。一般に、使用によって電極間にカーボンが堆積した状態のプラグであれば、10MΩ程度の抵抗値を有することになる。
【0049】
図9に示すように、実施例1〜6の放電電圧は、0.5〜1.2kV程度であり、従来の点火プラグの放電電圧(2〜3kV)よりも1/2ないし1/6程度の低い電圧で放電させることが可能であった。つまり、上記実施形態のように、中心電極20と接地電極30との間に半導体層62を形成すれば、半導体層62を有しない点火プラグよりも低い電圧で混合気を着火させることが可能になるのである。この結果、高電圧の印加による電気ノイズの発生が抑制され、更に、キャビティ60やオリフィス31にチャネリングが生じることが抑制されることになる。
【0050】
なお、本実験では、電極間抵抗値が1Ωのプラグも用意したが、これは放電させることができなかった。抵抗値が低すぎるために、上述した昇圧速度によっても火花放電に必要な電力が供給できなかったためである。
【0051】
(C4)接触長評価実験:
最後に、半導体層62を介して絶縁碍子10の先端面16に接する接地電極30の接触長Cについて評価実験を行った。この実験結果を図10に示す。この実験では、接地電極30の厚みを0.5mm、接地電極30の貫通孔31の孔径を1.6mm、キャビティ60の孔径を1.6mm、絶縁碍子10の先端面16からのキャビティ60の深さを2.0mm、絶縁碍子10の先端面16の外径を5.5mm、電極間抵抗値を100Ωとし、接触長Cをそれぞれ、0mm、0.1mm、0.5mm、とした3種類のプラズマジェット点火プラグ100を用意した。そして、これらのプラズマジェット点火プラグ100について、環境圧力を+0.2MPa、環境温度を常温として、立ち上がり速度が6.2×1010(V/S)、放電エネルギが1Jの電源を用いて、1000回および5000回の放電を行った際の放電電圧をそれぞれ測定した。なお、本実験において、接触長Cが0mmとは、キャビティ60の内壁には半導体層62が形成されているが、半導体層62と接地電極30とは接触していない状態のことをいう。
【0052】
この実験によれば、接触長Cが0mmの場合には、放電回数が少ないうちは5kV程度の電圧で放電可能であった。しかし、放電を繰り返し、放電回数が1000回、5000回となると、図10に示すように、放電させることができず失火することが確認された。これに対して、接触長Cが0.1mmの場合には、1000回放電後において約1.8kVの電圧で放電が可能であり、5000回放電後において約3.5kVの電圧で放電が可能であった。また、接触長Cが0.5mmの場合には、1000回放電後において約0.8kVの電圧で放電が可能であり、5000回放電後において約1.6kVの電圧で放電可能であった。つまり、接触長Cが0.1mm以上あれば、1000回、5000回と放電を繰り返した後でも、従来の新品の点火プラグの放電電圧(2〜3kV)と同等以下の電圧によって放電させることが可能になることが確認できた。また、接触長Cが0.5mm以上であれば、5000回の放電を行った後でも、従来の新品の点火プラグの放電電圧よりも低い電圧で放電させることが可能になることが確認できた。以上より、本実験の結果、接触長Cを0.1mm以上、好ましくは、0.5mm以上確保することで、放電の繰り返しに伴うキャビティ60およびオリフィス31の劣化(特に、チャネリングによるオリフィス31の拡径)に対する耐久性を向上させつつ、低い電圧で点火プラグ100の放電が可能になることが確認できた。
【0053】
(C5)プラズマの噴出状態:
ここで、本実施形態のプラズマジェット点火プラグ100によるプラズマの噴出例を図11に示す。図12には、従来の沿面放電タイプのイグナイタプラグによってプラズマが発生した様子を示している。図11に示すように、本実施形態のプラズマジェット点火プラグ100では、15mm程度の火炎が発生した。これに対して、従来のイグナイタプラグでは、7mm程度の火炎の噴出に止まった。つまり、上述した実施形態のプラズマジェット点火プラグ100は、従来のイグナイタプラグよりも、大きな火炎を生じさせることが可能になるので、混合気への着火性を高めることが可能になるのである。
【0054】
以上、本発明の実施形態および種々の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施形態や実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができることはいうまでもない。
【0055】
例えば、図13に示すように、半導体層62は、中心電極20の先端部の外周面に接するように、配置されていてもよい。このような態様であれば、中心電極20が消耗して短くなったとしても、中心電極20と半導体層62との接触を保つことが可能になる。また、上述した実施形態では、内燃機関用のプラズマジェット点火プラグ100に半導体層62を形成することとしたが、ガスエンジンやガスタービンエンジン用のイグナイタプラグについても同様に半導体層62を形成することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…点火システム
10…絶縁碍子
12…軸孔
20…中心電極
30…接地電極
31…貫通孔(オリフィス)
40…端子金具
50…主体金具
60…キャビティ
62…半導体層
100…プラズマジェット点火プラグ
300…内燃機関
301…A/Fセンサ
302…ノックセンサ
303…水温センサ
304…クランク角センサ
305…スロットルセンサ
310…ECU
320…点火装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極と、
前記中心電極の軸線方向に延びる軸孔を有し、該軸孔内に前記中心電極を保持する略筒状の絶縁碍子と、
前記絶縁碍子の先端部に接するように配置され、貫通孔を有する接地電極とを備えた点火プラグであって、
前記中心電極の先端部は、前記絶縁碍子の先端部よりも後端側に位置しており、
前記絶縁碍子の表面の一部に、前記中心電極と前記接地電極とに接する半導体層が形成されていることを特徴とする点火プラグ。
【請求項2】
請求項1に記載の点火プラグであって、
前記接地電極の前記絶縁碍子側の面の少なくとも一部が、前記半導体層を介して前記絶縁碍子の先端部に接する点火プラグ。
【請求項3】
請求項2に記載の点火プラグであって、
前記接地電極の、前記半導体層を介して前記絶縁碍子の先端部に接する部分が、前記貫通孔の内周から外周側へ0.1mm以上存在する点火プラグ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記半導体層は、前記半導体層の表面から前記絶縁碍子の内部に向かうほど電気伝導率が低くなる性質を有する点火プラグ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記中心電極と前記接地電極との間の電極間抵抗値が1×101〜1×106Ωである点火プラグ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記半導体層は、半導体を前記絶縁碍子の表面の一部に拡散させることで形成されている点火プラグ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記半導体層は、半導体を前記絶縁碍子の表面の一部に複数回焼結することで形成されている点火プラグ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記半導体層は、酸化物半導体を含有する点火プラグ。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記半導体層の後端部は、前記中心電極の先端部の外周面に接している点火プラグ。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記接地電極の貫通孔の直径は、前記絶縁碍子の軸孔の直径以上の大きさである点火プラグ。
【請求項11】
前記点火プラグは、プラズマジェット点火プラグである請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の点火プラグ。
【請求項12】
燃料を点火する点火システムであって、
請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の点火プラグと、
前記点火プラグの前記中心電極または前記接地電極に対して、昇圧速度が、1×1010[V/秒]以上の電圧を印加する点火装置と
を備える点火システム。
【請求項1】
中心電極と、
前記中心電極の軸線方向に延びる軸孔を有し、該軸孔内に前記中心電極を保持する略筒状の絶縁碍子と、
前記絶縁碍子の先端部に接するように配置され、貫通孔を有する接地電極とを備えた点火プラグであって、
前記中心電極の先端部は、前記絶縁碍子の先端部よりも後端側に位置しており、
前記絶縁碍子の表面の一部に、前記中心電極と前記接地電極とに接する半導体層が形成されていることを特徴とする点火プラグ。
【請求項2】
請求項1に記載の点火プラグであって、
前記接地電極の前記絶縁碍子側の面の少なくとも一部が、前記半導体層を介して前記絶縁碍子の先端部に接する点火プラグ。
【請求項3】
請求項2に記載の点火プラグであって、
前記接地電極の、前記半導体層を介して前記絶縁碍子の先端部に接する部分が、前記貫通孔の内周から外周側へ0.1mm以上存在する点火プラグ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記半導体層は、前記半導体層の表面から前記絶縁碍子の内部に向かうほど電気伝導率が低くなる性質を有する点火プラグ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記中心電極と前記接地電極との間の電極間抵抗値が1×101〜1×106Ωである点火プラグ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記半導体層は、半導体を前記絶縁碍子の表面の一部に拡散させることで形成されている点火プラグ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記半導体層は、半導体を前記絶縁碍子の表面の一部に複数回焼結することで形成されている点火プラグ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記半導体層は、酸化物半導体を含有する点火プラグ。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記半導体層の後端部は、前記中心電極の先端部の外周面に接している点火プラグ。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記接地電極の貫通孔の直径は、前記絶縁碍子の軸孔の直径以上の大きさである点火プラグ。
【請求項11】
前記点火プラグは、プラズマジェット点火プラグである請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の点火プラグ。
【請求項12】
燃料を点火する点火システムであって、
請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の点火プラグと、
前記点火プラグの前記中心電極または前記接地電極に対して、昇圧速度が、1×1010[V/秒]以上の電圧を印加する点火装置と
を備える点火システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−170996(P2010−170996A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285974(P2009−285974)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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