説明

無方向性電磁鋼板およびその製造方法

【課題】本発明は、主に高速回転域で使用される高効率モータ鉄心に使用することが好適な、高周波鉄損が低く、磁束密度が高い無方向性電磁鋼板を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、質量%で、Si:1.8%以上3.0%以下、sol.Al:0.1%以上3.0%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、P:0.03%以上0.10%以下、S:0.0010%以上0.0050%以下、C:0.0050%以下、As:0.0050%以下、Nb:0.0030%以下、Ti:0.0030%以下、V:0.0030%以下、Zr:0.0030%以下およびN:0.0050%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに、S+As+Nb+Ti+V+Zr+N≦0.018を満足する化学組成を有し、平均結晶粒径が60μm以上180μm以下である鋼組織を有し、鉄損W10/800が50W/kg以下である磁気特性を有し、板厚が0.10mm以上0.33mm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータおよび発電機など、高速回転域で使用される頻度の高い高効率モータの鉄心に使用することが好適な無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスを削減するため、自動車や家電製品等の分野では消費エネルギーの少ない製品の普及が急速に進んでいる。例えば、自動車分野においては、ガソリンエンジンとモータとを組み合わせた駆動系を持つハイブリッド自動車、モータ駆動の電気自動車等の低燃費自動車がある。また、家電製品分野においては、年間電気消費量の少ない高効率エアコン、冷蔵庫等がある。これらに共通する技術はモータであり、モータの高効率化が重要な技術となっており、モータの高効率化のために、鉄心材料である無方向性電磁鋼板の鉄損低減と磁束密度向上が要求されている。上記のような自動車の駆動モータや家電製品のコンプレッサーモータなどは高速回転域で使用される頻度が高いため、鉄心材料としては高周波条件下での鉄損が低い無方向性電磁鋼板が好適である。
【0003】
高周波鉄損低減の手段としては、板厚を低減する手段やSiやAlなどの比抵抗を増加させる効果を有する合金元素の含有量を増加させる手段が一般的である。しかしながら、板厚低減に伴って製造が困難となるため、板厚の低減による鉄損低減には限界がある。また、合金元素量の増加によって磁束密度が低下してモータトルクが低下するため、モータを大型化する必要が生じるという問題がある。
【0004】
また、磁束密度を向上させる手段としては、Pを積極的に添加する手段が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に開示された発明は、磁束密度を向上させることにより、さらなる合金元素量の増加による高周波鉄損低減を可能にするので、主に高速回転域で使用される頻度の高いモータの高効率化に寄与する非常に優れた発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−200756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年のさらなるモータの高効率化の要求により、より一層の高周波鉄損低減を可能にする磁束密度の向上手段が求められている。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題はエアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータおよび発電機など、主に高速回転域で使用される高効率モータ鉄心に使用することが好適な、高周波鉄損が低く、磁束密度が高い無方向性電磁鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、磁束密度に及ぼすPの影響のみならず、磁束密度に及ぼすPと他の元素との相互作用の影響について新たに着目し、これらの相互作用を利用することによりさらなる磁束密度の向上を図ることを新たに着想し、さらに、これを実現するための製造条件を確立すべく、鋭意検討を行った。その結果、Sを微量に含有させたうえで、S、As、Nb、Ti、V、ZrおよびNの合計含有量の上限を規制すること、さらには、適切な熱間圧延条件と冷間圧延条件とを組み合わせることにより、P添加による磁束密度の向上作用が効果的に高められることを新たに知見した。本発明はこれらの新たな知見に基づくものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0008】
すなわち、本発明は、質量%で、Si:1.8%以上3.0%以下、sol.Al:0.1%以上3.0%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、P:0.03%以上0.10%以下、S:0.0010%以上0.0050%以下、C:0.0050%以下、As:0.0050%以下、Nb:0.0030%以下、Ti:0.0030%以下、V:0.0030%以下、Zr:0.0030%以下およびN:0.0050%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに、下記式(1)を満足する化学組成を有し、平均結晶粒径が60μm以上180μm以下である鋼組織を有し、周波数800Hz、磁束密度1.0Tで磁化した際の鉄損W10/800が50W/kg以下である磁気特性を有し、板厚が0.10mm以上0.33mm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板を提供する。
S+As+Nb+Ti+V+Zr+N≦0.018 (1)
(ここで、式中の各元素記号は鋼中の各元素の含有量(単位:質量%)を示す。)
【0009】
また本発明は、下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
(A)上述の化学組成を有するスラブに、仕上温度:700℃以上および巻取温度:300℃以上の熱間圧延を施して熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(B)上記熱延圧延工程により得られた熱延鋼板に酸洗および熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍板とする酸洗・熱延板焼鈍工程;
(C)上記酸洗・熱延板焼鈍工程により得られた熱延焼鈍板に圧下率85%以上の冷間圧延を施して板厚0.10mm以上0.33mm以下の冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
(D)上記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る無方向性電磁鋼板により、モータ効率の向上が期待できる。また、本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は特殊な設備を要しないため、製造コスト面でも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の無方向性電磁鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
【0012】
A.無方向性電磁鋼板
まず、本発明の無方向性電磁鋼板における各構成について説明する。
1.化学組成
はじめに、鋼板の化学組成の限定理由について説明する。なお、各元素の含有量を示す「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味するものである。
【0013】
Siは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、Si含有量は1.8%以上とする。好ましくは、2.0%以上である。一方、過剰に含有させると鋼板が硬化し、冷間圧延での破断率が増加する。このため、Si含有量は3.0%以下とする。
【0014】
sol.Alは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、sol.Alは0.1%以上とする。好ましくは、0.6%以上である。一方、過剰に含有させると磁束密度が著しく低下する。このため、sol.Alは3.0%以下とする。
【0015】
Mnは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、Mn含有量は0.05%以上とする。好ましくは、0.4%以上である。一方、MnはSiやAlに比べて合金コストが高いため、Mn含有量が高くなると経済的に不利となる。このため、Mn含有量は3.0%以下とする。
【0016】
Pは、集合組織を改善して磁気特性を向上させる作用を有する。したがって、P含有量は0.03%以上とする。好ましくは、0.04%以上である。一方、P含有量が過剰になると、Pの粒界偏析が顕著となり冷間圧延での破断率が増加する。したがって、P含有量は0.10%以下とする。好ましくは、0.08%以下である。
【0017】
Sは、一般に不純物として鋼中に含有される元素であり、鋼中のMnと結合して微細なMnSを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害して磁気特性を劣化させることから、従来はその含有量を低減することが求められてきた元素である。しかしながら、上述した本発明者らの検討によって、Sを微量に含有させたうえで、S、As、Nb、Ti、V、ZrおよびNの合計含有量の上限を規制することにより、P添加による磁束密度の向上作用が効果的に高められることが初めて明らかとなった。したがって、S含有量は0.0010%以上とする。一方、S含有量が過剰になると、焼鈍時の結晶粒成長の阻害により磁気特性の劣化が顕著となる。したがって、S含有量は0.0050%以下とする。好ましくは、0.0035%以下である。
【0018】
Cは、不純物として含有され、磁気特性を劣化させる元素である。このため、C含有量は0.0050%以下とする。好ましくは、0.0035%以下である。
【0019】
As、Nb、Ti、VおよびZrは、不純物として含有され、磁気特性を劣化させる元素である。したがって、As含有量は0.0050%以下、Nb含有量は0.0030%以下、Ti含有量は0.0030%以下、V含有量は0.0030%以下、Zr含有量は0.0030%以下とする。好ましくは、As含有量は0.0035%以下、Nb含有量は0.0020%以下、Ti含有量は0.0020%以下、V含有量は0.0020%以下、Zr含有量は0.0020%以下である。
【0020】
Nは、不純物として含有され、Alなどと結合して微細な介在物を形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害して磁気特性を劣化させる。このため、N含有量を0.0050%以下とする。好ましくは、0.0035%以下である。
【0021】
不純物元素であるS、As、Nb、Ti、V、ZrおよびNの含有量を低減することで、鉄損が低減されることは従来から知られていた。しかしながら、上述した本発明者らの検討によって、Sを微量に含有させたうえで、S、As、Nb、Ti、V、ZrおよびNの合計含有量の上限を規制することにより、P添加による磁束密度の向上作用が効果的に高められることが初めて明らかとなった。したがって、S、As、Nb、Ti、V、ZrおよびNの合計含有量は下記式(1)を満足するものとする。中でも、下記式(2)を満足することが好ましく、下記式(3)を満足することがさらに好ましい。
S+As+Nb+Ti+V+Zr+N≦0.018 (1)
S+As+Nb+Ti+V+Zr+N≦0.016 (2)
S+As+Nb+Ti+V+Zr+N≦0.014 (3)
ここで、式中の各元素記号は鋼中の各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
【0022】
2.平均結晶粒径
結晶粒径は、大き過ぎても小さ過ぎても鉄損が劣化する。したがって、平均結晶粒径は60μm以上180μm以下とする。
なお、平均結晶粒径は、縦断面組織写真において、板厚方向および圧延方向について切断法により測定した結晶粒径の平均値を用いればよい。この縦断面組織写真としては光学顕微鏡写真を用いることができ、例えば50倍の倍率で撮影した写真を用いればよい。
【0023】
3.鉄損
高速回転域で使用される頻度が高いモータの鉄心材料としては、高周波鉄損が低い無方向性電磁鋼板が好適である。したがって、周波数800Hz、磁束密度1.0Tで磁化した際の鉄損W10/800を50W/kg以下とする。好ましくは、46W/kg以下である。
【0024】
4.板厚
エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータおよび発電機はインバータ制御により、幅広い回転速度領域で使用されるが、鉄損がきわめて大きくなる高速回転域の使用頻度が高いため、鉄心材料である無方向性電磁鋼板は高周波域での鉄損が低いものが望ましい。鉄損は、板厚が薄いほど低減されるため、板厚は0.33mm以下とする。好ましくは0.30mm以下である。一方、過度の薄肉化は鋼板やモータの生産性を著しく低下させる。したがって、板厚は0.10mm以上とする。好ましくは0.15mm以上である。
【0025】
B.無方向性電磁鋼板の製造方法
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする。
(A)上述の化学組成を有するスラブに、仕上温度:700℃以上および巻取温度:300℃以上の熱間圧延を施して熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(B)上記熱延圧延工程により得られた熱延鋼板に酸洗および熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍板とする酸洗・熱延板焼鈍工程;
(C)上記酸洗・熱延板焼鈍工程により得られた熱延焼鈍板に圧下率85%以上の冷間圧延を施して板厚0.10mm以上0.33mm以下の冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
(D)上記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程
以下、本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法における各工程について説明する。
【0026】
1.熱間圧延工程
熱間圧延工程における仕上温度は700℃以上、巻取温度は300℃以上とする。仕上温度が700℃未満であったり、巻取温度が300℃未満であったりすると、所望のP添加によるB50の向上効果を得ることができない場合がある。仕上温度および巻取温度の上限は、磁気特性の観点からは特に規定する必要はないが、スケールロスによる歩留り低下を抑制する観点から、仕上温度は1000℃以下とすることが好ましく、巻取温度は800℃以下とすることが好ましい。
熱間圧延工程における他の条件は特に規定されるものではない。
【0027】
2.酸洗・熱延板焼鈍工程
酸洗・熱延板焼鈍工程における諸条件は特に規定されるものではないが、再結晶を促進して優れた磁気特性を確保する観点から、焼鈍温度は730℃以上とすることが好ましく、焼鈍時間は1時間以上とすることが好ましい。焼鈍時間は3時間以上とすることがさらに好ましい。一方、設備への負荷や製造コストの観点から、焼鈍温度は850℃以下とすることが好ましく、焼鈍時間は50時間以下とすることが好ましい。焼鈍温度は810℃以下とすることがさらに好ましく、790℃以下とすることが特に好ましい。焼鈍時間は40時間以下とすることがさらに好ましい。
酸洗および熱延板焼鈍は順不同であり、酸洗後に熱延板焼鈍を施してもよく、熱延板焼鈍後に酸洗を施してもよい。
【0028】
3.冷間圧延工程
冷間圧延工程における圧下率は85%以上とする。圧下率が85%未満であると、所望のP添加によるB50の向上効果を得ることができない場合がある。
冷間圧延工程における他の条件は特に規定されるものではない。
【0029】
4.仕上焼鈍工程
仕上焼鈍工程における諸条件は特に規定されるものではないが、十分な粒成長を促して優れた磁気特性を確保する観点から、焼鈍温度は900℃以上とすることが好ましく、焼鈍時間は1秒間以上とすることが好ましい。一方、設備への負荷や製造コストの観点から、焼鈍温度は1180℃以下とすることが好ましく、焼鈍時間は300秒間以下とすることが好ましい。
【0030】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。
【0032】
[実施例1]
下記表1に示す化学組成を有するスラブに、仕上温度800℃、巻取温度500℃の熱間圧延を施して板厚2.0mmの熱延鋼板とし、酸洗を施した。これらの酸洗鋼板に790℃で10〜20時間保持する熱延板焼鈍を施して、平均結晶粒径を100μmに揃えた。これらの熱延焼鈍板に、圧下率87.5%の冷間圧延を施して仕上板厚0.25mmの冷延鋼板とした。このとき、一部は冷間圧延にて破断した。破断が生じなかった冷延鋼板に1100℃で10秒間保持する仕上焼鈍を施して、平均結晶粒径97〜134μmの無方向性電磁鋼板を得た。
【0033】
これらの無方向性電磁鋼板について、周波数800Hz、磁束密度1.0Tで磁化した際の鉄損W10/800および磁化力5000A/mで磁化した際の磁束密度B50を測定した。ここで、鋼板No.1はPがほとんど添加されていない基準材であり、この基準材のB50と鋼板No.2〜12のB50との差ΔB50を算出して、P添加によるB50の向上効果の大きさを評価した。このΔB50が大きくなるほどP添加によるB50の向上効果が大きいことを意味している。また、P含有量が多いほどΔB50は大きくなるため、その点を考慮して、下記式(4)よりXを算出し、Xが0以上であることを目標特性とした。
X=ΔB50−0.4×(P−0.01) (4)
(ここで、式中のPは鋼中のP含有量(単位:質量%)を示す。)
平均結晶粒径と磁気測定の結果を併せて表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
鋼板No.3、4、10および11は、Sを微量に含有させることと、S、As、Nb、Ti、V、ZrおよびNの合計含有量を所定の範囲内とすることにより、冷間圧延前の結晶粒径が同等でも、P添加によるB50の向上効果を高めることができた。
鋼板No.2はS含有量が低かったため、鋼板No.5はS、As、Nb、Ti、V、ZrおよびNの合計含有量が高いため、鋼板No.6はTiおよびNの含有量が高かったため、鋼板No.7はNbおよびV含有量が高かったため、鋼板No.8はZrおよびN含有量が高かったため、鋼板No.9はAsおよびTi含有量が高かったために、X<0となり、所望のP添加によるB50の向上効果を得られなかった。また、鋼板No.12はP含有量が多かったために、冷間圧延にて破断した。
【0036】
[実施例2]
下記表2に示す化学組成を有するスラブに、仕上温度750〜900℃、巻取温度500〜600℃とした熱間圧延を施して板厚1.6〜2.5mmの熱延鋼板とし、酸洗を施した。これらの酸洗鋼板に750〜790℃で5〜15時間保持する熱延板焼鈍を施した。これらの焼鈍板に冷間圧延を施して仕上板厚0.20〜0.30mmの冷延鋼板とした。これらの冷延鋼板に950〜1130℃で20〜90秒間保持する仕上焼鈍を施して、平均結晶粒径75〜156μmの無方向性電磁鋼板を得た。
【0037】
これらの無方向性電磁鋼板について、鉄損W10/800と磁束密度B50を測定した。ここで、鋼板No.13′は、鋼板No.13と同じ製造条件で製造されたものであり、Pがほとんど添加されておらず、鋼板No.13とはP含有量のみが異なり、P添加によるB50の向上効果の大きさを測定するための基準材に相当する。同様に、鋼板No.14′、15′、16′、17′はそれぞれ鋼板No.14、15、16、17の基準材に相当する。各基準材のB50と鋼板No.13〜17のB50との差ΔB50を算出した。また、上記式(4)よりXを算出し、Xが0以上であることを目標特性とした。
表3に、製造条件、平均結晶粒径、および磁気測定の結果を示す。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
Si、sol.AlおよびMnの含有量、S等の不純物元素の含有量、板厚、製造条件が所定の範囲内であれば、所望のW10/800およびP添加によるB50向上効果を得ることができた。
【0041】
[実施例3]
下記表4に示す化学組成のスラブを、仕上温度650〜900℃、巻取温度250〜600℃とした熱間圧延にて1.8〜2.4mmの熱延鋼板とした。これらの熱延鋼板を酸洗後、圧下率84.2〜86.4%の冷間圧延を施して仕上板厚0.25〜0.35mmの冷延鋼板とした。これらの冷延鋼板に1100℃で5秒間保持する仕上焼鈍を施して平均結晶粒径99〜121μmの無方向性電磁鋼板を得た。
【0042】
これらの無方向性電磁鋼板について、鉄損W10/800と磁束密度B50を測定した。ここで、組成Aは、Pがほとんど添加されておらず、組成BとはP含有量のみが異なり、P添加によるB50の向上効果の大きさを測定するための基準材に相当する。組成Aを用いて、組成Bを用いた鋼板No.18〜23とそれぞれ同じ製造条件で製造し、基準材とした。各基準材のB50と鋼板No.18〜23のB50との差ΔB50を算出した。また、上記式(4)よりXを算出し、Xが0以上であることを目標特性とした。
表5に、製造条件、平均結晶粒径、および磁気測定の結果を示す。
【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
鋼板No.18は熱間圧延での仕上温度が低かったため、鋼板No.19は熱間圧延での巻取温度が低かったため、鋼板No.20は冷間圧延での圧下率が低かったため、所望のP添加によるB50の向上効果を得ることができなかった。鋼板No.21は板厚が厚かったために所望の鉄損を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Si:1.8%以上3.0%以下、sol.Al:0.1%以上3.0%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、P:0.03%以上0.10%以下、S:0.0010%以上0.0050%以下、C:0.0050%以下、As:0.0050%以下、Nb:0.0030%以下、Ti:0.0030%以下、V:0.0030%以下、Zr:0.0030%以下およびN:0.0050%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに、下記式(1)を満足する化学組成を有し、平均結晶粒径が60μm以上180μm以下である鋼組織を有し、周波数800Hz、磁束密度1.0Tで磁化した際の鉄損W10/800が50W/kg以下である磁気特性を有し、板厚が0.10mm以上0.33mm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
S+As+Nb+Ti+V+Zr+N≦0.018 (1)
(ここで、式中の各元素記号は鋼中の各元素の含有量(単位:質量%)を示す。)
【請求項2】
下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法:
(A)請求項1に記載の化学組成を有するスラブに、仕上温度:700℃以上および巻取温度:300℃以上の熱間圧延を施して熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(B)前記熱延圧延工程により得られた熱延鋼板に酸洗および熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍板とする酸洗・熱延板焼鈍工程;
(C)前記酸洗・熱延板焼鈍工程により得られた熱延焼鈍板に圧下率85%以上の冷間圧延を施して板厚0.10mm以上0.33mm以下の冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
(D)前記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程。

【公開番号】特開2013−44012(P2013−44012A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181848(P2011−181848)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】