説明

無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜、及び、それを備えた無機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】良好な青色発光性能を有する無機EL素子の製造方法、無機EL結晶化発光膜、及び、それを備えた無機EL素子を提供する。
【解決手段】無機EL素子の製造方法は、一対の電極と、一対の電極の間に設けられた半導体膜と、半導体膜上に設けられ、化学式MSiS:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンと、を含有する無機EL結晶化発光膜と、を備えた無機EL素子の製造方法であって、ホスト材料を含有する膜を形成する発光膜形成工程と、ホスト材料を含有する膜中のXの濃度を調整する材料を供給する濃度調整材料供給工程と、ホスト材料及び濃度調整材料にそれぞれ熱処理を施して無機EL結晶化発光膜を得る熱処理工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜、及び、それを備えた無機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多色表示可能な平面表示素子等として、無機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「無機EL素子」とする。)が盛んに研究されている(例えば、特許文献1、2等)。多色表示可能な無機EL素子を実現するためには、発光色が相互に異なる複数種類の無機EL発光膜が必要である。
【0003】
現在のところ、無機EL発光膜としては、黄橙色のエレクトロルミネッセンス光(以下、「EL光」とする。)を生じるZnS:Mn(マンガン添加硫化亜鉛)を含むもの、緑色のEL光を生じるZnS:TbOF(酸フッ化テリビウム添加硫化亜鉛)を含むもの、青緑色のEL光を生じるSrS:Ce(セリウム添加硫化ストロンチウム)を含むもの等が提案されている。
【0004】
中でも、青色のEL光を生じるBaAl:Eu(ユーロピウム添加バリウムチオアルミネート)を含む無機EL結晶化発光膜の研究開発が鋭意進められている。
【0005】
しかしながら、上述した発光膜では、その製造過程において、結晶化温度に700℃以上の高温が必要となり、安価なガラス基板を用いた素子の作製が困難となる。従って、結晶化温度の低い青色発光材料が求められている。
【0006】
このため、発明者は、BaSiS:Ce(セリウム添加バリウムチオシリケート)による青色無機EL素子の検討を行ってきた。
【特許文献1】特開2001−294852号公報
【特許文献2】特開2001−303049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、BaSiS:Ce(単一材料)の電子ビーム等による蒸着法を用いた薄膜作製においては、蒸着材料であるBaSiS:Ceに各種エネルギーを与えて蒸気圧を得るが、その際に、特定の元素成分(Si)が蒸着材料中に残りやすい。Siが蒸着材料中に残ると、それに引きずられるように電荷バランスのためにCeも薄膜中に取り込まれず、薄膜中のCe濃度が低くなり、満足な発光性能を得ることが困難となる。
【0008】
本発明は係る点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、良好な青色発光性能を有する無機EL素子の製造方法、無機EL結晶化発光膜、及び、それを備えた無機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る無機EL素子の製造方法は、一対の電極と、一対の電極の間に設けられた半導体膜と、半導体膜上に設けられ、化学式MSiS:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンと、を含有する無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜と、を備えた無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、ホスト材料を含有する膜を形成する発光膜形成工程と、ホスト材料を含有する膜中のXの濃度を調整する材料を供給する濃度調整材料供給工程と、ホスト材料及び濃度調整材料にそれぞれ熱処理を施して無機EL結晶化発光膜を得る熱処理工程と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、濃度調整材料をホスト材料を含有する膜と共に形成することにより、ホスト材料を含有する膜中のXの濃度の低下を抑制することができる。このため、良好な青色発光性能を得ることができる。
【0011】
また、本発明に係る無機EL素子の製造方法は、ホスト材料を含有する膜の形成と濃度調整材料の供給とを、半導体膜に同時に行ってもよい。
【0012】
このような構成によれば、ホスト材料を含有する膜の形成と濃度調整材料の供給とを、半導体膜に同時に行うため、無機EL素子の製造工程が簡易となり、且つ、製造効率が良好となる。
【0013】
さらに、本発明に係る無機EL素子の製造方法は、Xの濃度を調整する材料がXを含有してもよい。
【0014】
このような構成によれば、Xの濃度を調整する材料がXを含有するため、ホスト材料を含有する膜に直接Xを供給し、無機EL結晶化発光膜のXの濃度の低下を抑制することができる。
【0015】
また、本発明に係る無機EL素子の製造方法は、Xの濃度を調整する材料がSiを含有してもよい。
【0016】
このような構成によれば、Xの濃度を調整する材料がSiを含有するため、ホスト材料を含有する膜のSi含有量を上げることができる。このため、無機EL結晶化発光膜のXの濃度の低下を抑制することができる。
【0017】
さらに、本発明に係る無機EL素子の製造方法は、Siを発光膜形成工程の途中で供給してもよい。
【0018】
このような構成によれば、Siを発光膜形成工程の途中で供給するため、ホスト材料を含有する膜のSi含有量を上げることができる。このため、無機EL結晶化発光膜のXの濃度の低下を抑制することができる。
【0019】
さらに、本発明に係る無機EL素子の製造方法は、熱処理を、酸素を実質的に含まない雰囲気中で行ってもよい。
【0020】
このような構成によれば、熱処理を、酸素を実質的に含まない雰囲気中で行うため、酸素イオン含有率が低く、発光効率の高い無機EL結晶化発光膜を得ることができる。
【0021】
また、本発明に係る無機EL素子の製造方法は、熱処理を、硫化水素ガス雰囲気中で行ってもよい。
このような構成によれば、熱処理を、硫化水素ガス雰囲気中で行うため、酸素イオン含有率が低く、発光効率の高い無機EL結晶化発光膜を得ることができる。
【0022】
本発明に係る無機EL結晶化発光膜は、電圧の印加により発光する無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜であって、化学式MSiS:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンと、を含有し、ホスト材料中のXの濃度が略0.1〜10mol%であることを特徴とする。
【0023】
このような構成によれば、ホスト材料中のXの濃度が略0.1〜10mol%であるため、無機EL結晶化発光膜が良好な青色発光性能を有する。
【0024】
本発明に係る無機EL素子は、一対の電極と、一対の電極の間に設けられた半導体膜と、半導体膜上に設けられ、化学式MSiS:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンと、を含有し、ホスト材料中のXの濃度が略0.1〜10mol%である無機EL結晶化発光膜と、を備えたことを特徴とする。
【0025】
このような構成によれば、無機EL結晶化発光膜のホスト材料中のXの濃度が略0.1〜10mol%であるため、無機EL素子が良好な青色発光性能を有する。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、良好な青色発光性能を有する無機EL素子の製造方法、無機EL結晶化発光膜、及び、それを備えた無機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
(無機EL素子1の構成)
図1は本実施形態に係る無機EL素子1の断面図である。
【0029】
本実施形態に係る無機EL素子1は、基板2と、第1の電極3と、第1の誘電体層4と、半導体膜5と、無機EL結晶化発光膜6と、第2の誘電体層7と、第2の電極8とを備えている。
【0030】
基板2は、例えばガラス(具体的にはホウ珪酸ガラス等)により形成することができる。特に、下記に説明するように本実施形態における無機EL結晶化発光膜6は低い結晶化温度を有するものであるため、基板2は比較的ガラス転移温度が低い安価なガラスにより形成されたものであってもよい。比較的ガラス転移温度が高く、高価な石英ガラス等により形成されたものである必要は必ずしもない。尚、無機EL素子1が無機EL結晶化発光膜6の発光を基板2側から出射させるものである場合、基板2は光透過性材料により形成されていることが好ましい。
【0031】
第1の電極3は、基板2上にストライプ状に形成されている。第1の電極3は、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)等の透明導電性酸化物や、アルミニウム(Al)、銀(Ag)等により形成することができる。また、第1の電極3の層厚は、それぞれ、例えば200nm程度とすることができる。
【0032】
第1の電極3の上には第1の誘電体層4が形成されている。この第1の誘電体層4は無機EL結晶化発光膜6への電荷供給量を増大させる機能を有するものであり、無機EL結晶化発光膜6の誘電率よりも高い誘電率を有するものであることが好ましい。具体的には、第1の誘電体層4の誘電率が10以上であることが好ましい。
【0033】
第1の誘電体層4の上には半導体膜5が形成されており、さらにその半導体膜5の上には無機EL結晶化発光膜6が形成されている。半導体膜5は、実質的に、ZnS等のn型半導体からなるものである。この半導体膜5は、無機EL結晶化発光膜6とヘテロ接合している。この無機EL結晶化発光膜6とヘテロ接合した半導体膜5を設けることにより無機EL結晶化発光膜6への電荷の供給効率を向上することができる。従って、高い発光効率を有する無機EL素子1を実現することができる。
【0034】
尚、半導体膜5の膜厚は、例えば、100nm以上2μm以下とすることができる。また、無機EL結晶化発光膜6の膜厚は、例えば、200nm以上1μm以下とすることができる。好ましくは、400nm以上800nm以下である。
【0035】
無機EL結晶化発光膜6の上には第2の誘電体層7が形成されている。この第2の誘電体層7は無機EL結晶化発光膜6への電荷供給量を増大させる機能を有するものであり、無機EL結晶化発光膜6の誘電率よりも高い誘電率を有するものであることが好ましい。具体的には、第2の誘電体層7の誘電率が10以上であることが好ましい。尚、第1の誘電体層4と第2の誘電体層7とは、例えばSiOやSi等により形成することができる。また、第1の誘電体層4と第2の誘電体層7とを、SiO膜とSi膜との積層により構成してもよい。第1の誘電体層4と第2の誘電体層7のそれぞれの層厚は、例えば200nm以上300nm以下程度とすることができる。
【0036】
第2の誘電体層7の上には第2の電極8が形成されている。第2の電極8は、第1の電極3の延びる方向と交差するように(典型的には、第1の電極3と直交するように)ストライプ状に形成されている。尚、第2の電極8は、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)等の透明導電性酸化物や、モリブデン(Mo)、銀(Ag)等により形成することができる。また、第2の電極8の層厚は、それぞれ、例えば200nm程度とすることができる。
【0037】
本実施形態に係る無機EL素子1では、無機EL結晶化発光膜6は、化学式MSiS:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンとを含有しており、青色のEL光を出射させるものである。
【0038】
尚、アルカリ土類金属(M)としては、具体的には、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)等が挙げられる。希土類金属(X)としては、例えば、セリウム(Ce)やEu(ユーロピウム)等が挙げられる。発光センターとしての希土類金属イオンとしては、例えば、セリウム(Ce)等が挙げられる。
【0039】
化学式MSiS:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料中の上記Xの濃度は、無機EL結晶化発光膜が良好な青色発光性能を有するために、略0.1〜10mol%(より望ましくは1〜5mol%)であるのが好ましい。
【0040】
(無機EL素子1の製造方法)
次に、本実施形態に係る無機EL素子1の第1及び第2の製造方法についてそれぞれ説明する。尚、以下に示す製造方法は単なる例示であり、本発明に係る無機EL素子は以下に示す製造方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0041】
(無機EL素子1の第1の製造方法)
まず、ガラス等からなる基板2の上に、例えば、実質的にインジウムスズ酸化物(ITO)からなるITO膜を形成する。ITO膜の形成は、例えばスパッタ法等により行うことができる。得られたITO膜をフォトリソグラフィー法等を用いて所定の形状にパターニングすることにより第1の電極3を得る。
【0042】
続いて、第1の電極3の上に、例えば、SiOやSi等からなる第1の誘電体層4をスパッタ法や蒸着法等により形成する。形成した第1の誘電体層4の上に、例えば、ZnS等からなる半導体膜5を設けて、半導体基板16を形成する。
【0043】
次に、図2に示すような蒸着装置10を準備する。蒸着装置10は、側方に排気口を有する蒸着槽11、蒸着槽11内に設けられた、基板加熱ヒータ12、基板加熱ヒータ12の下方にそれぞれ並設されたルツボ13,14、及び、電子銃15で構成されている。
【0044】
上述のようにして形成した半導体基板16を、蒸着槽11内の基板加熱ヒータ12の加熱面に、基板2の裏面が対向するように配置する。
【0045】
次に、ルツボ13上に蒸着材料18(化学式MSiS:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料)を配置し、ルツボ14上にXを含む補助材料19を配置する。ここで、補助材料19は、具体的にはホスト材料がBaSiS:Ceであれば、CeCl3又はCe等を用いるのが好ましい。
【0046】
次いで、蒸着槽11内の酸素分圧を、例えば3.99×10−2Pa(3×10−5Torr)以下、さらに好ましくは、1.33×10−2Pa(1×10−5Torr)以下にする。無機EL結晶化発光膜6の成膜時には、その成膜雰囲気の酸素濃度が低いことが好ましく、そうすることによって、酸素イオン含有率が低く、発光効率の高い無機EL結晶化発光膜6を得ることができる。
【0047】
蒸着槽11内の酸素分圧を低下させた状態で、ルツボ14によって補助材料19を加熱し、補助材料19を蒸発させる(濃度調整材料供給工程)。
【0048】
補助材料19が蒸発した状態で、ルツボ13によって蒸着材料18を加熱しつつ、電子銃15から電子ビームを蒸着材料18表面に照射する。
【0049】
電子ビームが照射された蒸着材料18は、蒸発している補助材料を伴って半導体基板16表面に蒸着し、蒸着膜17を形成する(発光膜形成工程)。
【0050】
次に、蒸着槽11内を、例えば、6.65×10−2Pa(5×10−5Torr)以下、さらには3.99×10−2Pa(3×10−5Torr)以下に減圧する。
【0051】
次いで、基板加熱ヒータ12で半導体基板16の蒸着膜17に熱処理(焼成)を施すことにより蒸着膜17の結晶化を促進させ(熱処理工程)、無機EL結晶化発光膜6を形成する。
【0052】
このようにして形成された無機EL結晶化発光膜6は、その熱処理の際に膜内に添加剤としてのX(例えばCe)が十分に含まれているため、膜内のXの濃度低下を抑制することができ、良好な青色発光性能を得ることができる。
【0053】
また、このとき、熱処理は実質的に酸素を含まない雰囲気中において行うことが好ましい。具体的には、酸素分圧が6.65×10−2Pa(5×10−5Torr)以下、さらには3.99×10−2Pa(3×10−5Torr)以下の雰囲気中で行うことが好ましい。そうすることによって、酸素イオン含有率が低く、発光効率の高い無機EL結晶化発光膜6を得ることができる。
【0054】
同様に、酸素イオン含有率の低い無機EL結晶化発光膜6を得る観点から熱処理を硫化水素(HS)雰囲気中で(例えば、硫化水素を導入した減圧雰囲気中で)行うことがさらに好ましい。そうすることによって、良好な結晶状態の無機EL結晶化発光膜6を得ることができ、発光効率の高い無機EL素子1を実現することができる。
【0055】
熱処理後、無機EL結晶化発光膜6の上に第2の誘電体層7をスパッタ法や蒸着法等により形成する。最後に、第2の誘電体層7の上に、蒸着法やスパッタ法等により導電性の膜を形成し、フォトリソグラフィー法等を用いて所望の形状にパターニングすることにより第2の電極8を形成することにより無機EL素子1を完成させる。
【0056】
(無機EL素子1の第2の製造方法)
次に、本実施形態に係る無機EL素子1の第2の製造方法について説明する。
【0057】
まず、上述した無機EL素子1の第1の製造方法と同様にして、基板2上に第1の電極3及び半導体膜5を形成して、半導体基板27を作製する。
【0058】
次に、図3に示すような蒸着装置20を準備する。蒸着装置20は、側方に排気口を有する蒸着槽21、蒸着槽21内に設けられた、基板加熱ヒータ22、基板加熱ヒータ22の下方にそれぞれ並設されたルツボ23,24、及び、電子銃25,26で構成されている。
【0059】
上述のようにして形成した半導体基板27を、蒸着槽21内の基板加熱ヒータ22の加熱面に、基板2の裏面が対向するように配置する。
【0060】
次に、ルツボ23上に、化学式MS:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表される蒸着材料30を配置する。ここで、蒸着材料30は、例えば、化学式BaSiS:Ceを有する無機EL結晶化発光膜を形成するときは、BaS:Ce等を用いる。
【0061】
続いて、ルツボ24上にSiを含む蒸着材料31を配置する。ここで、蒸着材料31は、具体的にはSiを用いるのが好ましい。
【0062】
次いで、蒸着槽21内の酸素分圧を、例えば3.99×10−2Pa(3×10−5Torr)以下、さらに好ましくは、1.33×10−2Pa(1×10−5Torr)以下にする。
【0063】
次に、ルツボ23によって蒸着材料30を加熱しつつ、電子銃25から電子ビームを蒸着材料30表面に照射する。
【0064】
電子ビームが照射された蒸着材料30は、半導体基板27表面に形成されたSi膜上に、蒸着膜28を形成する(発光膜形成工程)。
【0065】
ここで、上述した発光膜形成工程の途中で、ルツボ24によって蒸着材料31を加熱しつつ、電子銃26から電子ビームを蒸着材料31表面に照射する。
【0066】
電子ビームが照射された蒸着材料31は、蒸着膜28表面に蒸着し、Si膜(不図示)を形成する(濃度調整材料供給工程)。
【0067】
Si膜を形成後、再度蒸着膜28を形成する。
【0068】
尚、この後、続いて半導体薄膜を形成させてもよい。
【0069】
次に、蒸着槽21内を、例えば、6.65×10−2Pa(5×10−5Torr)以下、さらには3.99×10−2Pa(3×10−5Torr)以下に減圧する。
【0070】
次いで、基板加熱ヒータ22で、半導体基板27の蒸着膜28及びSi膜に熱処理(焼成)を施すことにより蒸着膜28の結晶化を促進させ(熱処理工程)、無機EL結晶化発光膜6を形成する。
【0071】
このようにして形成された無機EL結晶化発光膜6は、蒸着膜28の内部にSi膜が形成されているため、その熱処理の際に、ホスト材料を含有する膜のSi含有量を上げることができる。このため、無機EL結晶化発光膜のXの濃度の低下を抑制することができる。
【0072】
また、上述の熱処理は、第1の製造方法と同様、実質的に酸素を含まない雰囲気中、或いは、硫化水素(HS)雰囲気中で行うことが好ましい。
【0073】
熱処理後、無機EL結晶化発光膜6の上に第2の誘電体層7をスパッタ法や蒸着法等により形成する。最後に、第2の誘電体層7の上に、蒸着法やスパッタ法等により導電性の膜を形成し、フォトリソグラフィー法等を用いて所望の形状にパターニングすることにより第2の電極8を形成することにより無機EL素子1を完成させる。
【0074】
尚、本実施形態では、パッシブマトリクス型の無機EL素子1を例に挙げて本発明の一例を説明したが、本発明はパッシブマトリクス型の無機EL素子に限定されるものではない。アクティブマトリクス型の無機EL素子、セグメント型の無機EL素子等にも好適に適用されるものである。
【0075】
(作用効果)
本実施形態に係る無機EL素子の製造方法によれば、濃度調整材料をホスト材料を含有する膜と共に形成することにより、ホスト材料を含有する膜中のXの濃度の低下を抑制することができる。このため、良好な青色発光性能を得ることができる。
【実施例】
【0076】
上記実施形態において説明した無機EL素子1と同様の無機EL素子を実際に作製し、実施例とした。具体的には、以下の工程で実施例に係る無機EL素子を作製した。
【0077】
まず、ガラス製の基板2の上に、実質的にインジウムスズ酸化物(ITO)からなるITO膜を形成した。ITO膜の形成は、スパッタ法等により行った。得られたITO膜をフォトリソグラフィー法を用いて所定の形状にパターニングすることにより第1の電極を得た。
【0078】
第1の電極の上に、スパッタ法を用いて、SiO膜とSi膜との積層からなる第1の誘電体層を形成した。SiO膜の膜厚は、40nm、Si膜の膜厚は200nmとした。
【0079】
形成した第1の誘電体層の上に、実質的にZnSからなる半導体膜を形成した。半導体膜の形成は電子ビーム蒸着法により行った。半導体膜の膜厚は100nmとした。
【0080】
半導体膜の上に、電子ビーム蒸着法により、化学式化学式BaSiS:Ceで表される無機EL結晶化発光膜を形成した。無機EL結晶化発光膜6の形成は、電子ビーム蒸着法により行った。無機EL結晶化発光膜6の成膜は、酸素分圧が 1.33×10−2Pa(1×10−5Torr)の減圧雰囲気中で行った。無機EL結晶化発光膜6の膜厚は、300nmとした。
【0081】
ここで、発光膜蒸着の途中に、Siターゲットのスパッタ法による非晶質薄膜を30nm形成し、その上層に上述した発光膜のBaSiS:Ceを再度300nm形成した。
【0082】
次に、半導体薄膜と同様のZnS膜を100nm形成した。
【0083】
次に、減圧雰囲気中(3.99×10−2Pa(3×10−5Torr)、酸素分圧:1.33×10−2Pa(1×10−5Torr))にて焼成することにより無機EL結晶化発光膜の結晶化を促進させた。焼成結晶化の温度は、600℃とした。
【0084】
焼成結晶化工程後、無機EL結晶化発光膜の上に、SiO膜とSi膜との積層からなる第2の誘電体層をスパッタ法により形成した。SiO膜の膜厚は、40nm、Si膜の膜厚は200nmとした。最後に、第2の誘電体層の上に、スパッタ法によりアルミニウムの膜を形成し、フォトリソグラフィー法等を用いて所望の形状にパターニングすることにより第2の電極を形成することにより、本実施例に係る無機EL素子を完成させた。
【0085】
得られた発光膜(BaSiS)の電子線励起(Cathode Luminessence:CL)スペクトルを、日本電子社製JXA-8800Rにより測定した。尚、CLスペクトルの測定は、電子線源加速電圧:20kV、フィラメント電流:350nAとした。
【0086】
図4は本実施例に係る無機EL素子の電子線励起スペクトルを表すグラフである。
【0087】
図4に示すように、本実施例に係る無機EL素子は、600℃という非常に低い温度で結晶焼成化したものであるにかかわらず、比較的強い発光強度の青色のルミネッセンス光を出射するものであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上説明したように、本発明に係る無機EL結晶化発光膜は、製造容易であるため、携帯電話、PDA、テレビ、電子ブック、モニター、電子ポスター、時計、電子棚札、非常案内等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】無機EL素子1の断面図である。
【図2】第1の製造方法に係る蒸着装置10の模式図である。
【図3】第2の製造方法に係る蒸着装置20の模式図である。
【図4】実施例に係るBaSiS:Ce蛍光体薄膜のCL評価結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0090】
1 無機EL素子
2 基板
3 第1の電極
4 第1の誘電体層
5 半導体膜
6 無機EL結晶化発光膜
7 第2の誘電体層
8 第2の電極
10,20 蒸着装置
11,21 蒸着槽
12,22 基板加熱ヒータ
13,14 ルツボ
15,25 電子銃
16,27 半導体基板
17,27,28 蒸着膜
18,30,31 蒸着材料
19 補助材料
23,24 ルツボ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、該一対の電極の間に設けられた半導体膜と、該半導体膜上に設けられ、化学式MSiS:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、該ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンと、を含有する無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜と、を備えた無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
上記ホスト材料を含有する膜を形成する発光膜形成工程と、
上記ホスト材料を含有する膜中の上記Xの濃度を調整する材料を供給する濃度調整材料供給工程と、
上記ホスト材料及び濃度調整材料にそれぞれ熱処理を施して上記無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜を得る熱処理工程と、
を備えたことを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
上記ホスト材料を含有する膜の形成と上記濃度調整材料の供給とを、上記半導体膜に同時に行うことを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載された無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
上記Xの濃度を調整する材料は、Xを含有することを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載された無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
上記Xの濃度を調整する材料は、Siを含有することを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載された無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
上記Siを上記発光膜形成工程の途中で供給することを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載された無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
上記熱処理は、酸素を実質的に含まない雰囲気中で行うことを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載された無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
上記熱処理は、硫化水素ガス雰囲気中で行うことを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
電圧の印加により発光する無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜であって、
化学式MSiS:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、
上記ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンと、
を含有し、上記ホスト材料中の上記Xの濃度が略0.1〜10mol%であることを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜。
【請求項9】
一対の電極と、
上記一対の電極の間に設けられた半導体膜と、
上記半導体膜上に設けられ、化学式MSiS:X(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)で表されるホスト材料と、該ホスト材料に添加された発光センターとしての希土類金属イオンと、を含有し、該ホスト材料中の該Xの濃度が略0.1〜10mol%である無機エレクトロルミネッセンス結晶化発光膜と、
を備えたことを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−52968(P2008−52968A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226424(P2006−226424)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】