説明

無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法

【課題】ポリマ材料内での無機充填剤の分散状態の解釈が容易な無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法を提供する。
【解決手段】少なくとも2種類以上の高分子材料と、1種類以上の無機充填剤を原料として混合しているポリマ材料の相分散構造解析に際し、高分子材料の内、少なくとも1種類以上と化学反応して重金属化合物を形成し、かつ無機充填剤とも化学反応する電子染色溶液に、ポリマ材料の試料片を浸漬させた後、水洗し、その試料片を走査型電子顕微鏡で観察して、化学反応した高分子材料と化学反応しない高分子材料と無機充填剤とが分散した反射電子像を収得し、その反射電子像中の無機充填剤が溶出した跡の孔の部位と溶出しない無機充填剤の部位との輝度を一致させた反射電子像を得るようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類以上の高分子材料と1種類以上の無機充填剤を含むポリマ材料を電子染色処理し、これらの分散状態を走査型電子顕微鏡で観察する無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法に係り、特に電子染色処理で無機充填剤が溶出しても、ポリマ材料中の無機充填剤の分散状態を把握できる無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の要求特性を同時に満足するポリマ材料を開発するために、2種類以上の高分子材料をブレンドする場合がある。このとき、ブレンドした高分子材料の相分離構造が材料特性に影響を与えることから、相分離構造を制御し、それを評価・解析することが材料・プロセスの最適化や品質管理の上で、必要である。
【0003】
しかしながら、高分子材料は一般に軽元素から構成され、微細な構造観察に有用な電子顕微鏡法において相分布構造を識別する場合に十分なコントラストを得にくいことから、重金属を特定の成分に多く導入することによりコントラストを高める電子染色の手法が適用される。こうした手法に関する技術文献として、非特許文献1,2を挙げる。
【0004】
これらの非特許文献1,2によれば、ポリマ材料に用いられる代表的な電子染色剤として、四酸化オスミウム、四酸化ルテニウム、リンタングステン酸、酢酸ウラニルなど、原子番号の大きな金属元素を含むものが挙げられている。これらの電子染色剤を溶媒に溶かした溶液に観察試料を浸漬することにより、化学特性の差により特定の相が重金属と優先的に反応し、それにより生じた重金属濃度分布を電子顕微鏡により観察することで、相分布構造の識別が可能になる。
【0005】
ここで、ポリマ材料の機械強度、難燃性などを向上させる目的から、無機充填剤が添加される場合がある。これらの無機充填剤のポリマ材料内での分散状態も特性に影響を与えるため、無機充填剤についても分散状態の解析が求められる。
【0006】
ところで、これらの無機充填剤には電子染色剤と反応し、溶出するものもあれば、反応しないものもある。たとえば、前述の電子染色剤は酸性物質であるが、難燃剤として用いられる水酸化マグネシウムなどは塩基性物質のため、電子染色処理時に塩が形成されるが、条件によっては電子染色剤の溶液中に溶出することがある。
【0007】
一方、前記の非特許文献1,2には有機溶媒、酸、アルカリにより特定成分を意図的にエッチングすることにより、相分布構造を立体構造として顕在化する手段についても開示されている。このようにして、電子染色剤との反応で溶出した無機充填剤の孔の分布から無機充填剤の分散状態が推測できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】西敏夫、伊澤槇一、秋山三郎編集、「ポリマーABCハンドブック」、株式会社エヌ・ティー・エス、2001年1月、p172−178
【非特許文献2】高分子学会編集、「新高分子実験学 第6巻 高分子の構造(2)」、初版、共立出版株式会社、1997年9月10日、p389−480
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、無機充填剤がポリマ材料からなる試料片の表面近傍に存在しても、ポリマの薄い層に被覆され、直接、電子染色溶液に接しない場合には、ポリマ層を通して電子染色剤と反応した無機充填剤が溶出できないこともある。無機充填剤が電子染色溶液に溶出した場合には、残された孔は低輝度で観察されるのに対し、溶出できず重金属化合物を形成して留まった場合には、高輝度で観察される。
【0010】
このように、電子染色処理により、無機充填剤の一部が溶出し、他の部分が残留した場合には、電子顕微鏡で無機充填剤の位置情報がそれぞれ低輝度側と高輝度側の両端に分かれ、その分散状態を把握する際に、解釈が複雑になるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、ポリマ材料内での無機充填剤の分散状態の解釈が容易な無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明は、少なくとも2種類以上の高分子材料と、1種類以上の無機充填剤を原料として混合しているポリマ材料の相分散構造解析に際し、前記高分子材料の内、少なくとも1種類以上と化学反応して重金属化合物を形成し、かつ前記無機充填剤とも化学反応する電子染色溶液に、前記ポリマ材料の試料片を浸漬させた後、水洗し、その試料片を走査型電子顕微鏡で観察して、化学反応した高分子材料と化学反応しない高分子材料と無機充填剤とが分散した反射電子像を収得し、その反射電子像中の無機充填剤が溶出した跡の孔の部位と溶出しない無機充填剤の部位との輝度を一致させた反射電子像を得るようにした無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法である。
【0013】
電子染色処理の前あるいは後に、前記無機充填剤を溶出可能な酸もしくは塩基性の水溶液に浸漬後、洗浄することにより、前記無機充填剤の溶出を促進してもよい。
【0014】
前記無機充填剤が溶出した跡の孔の部位と前記溶出しない無機充填剤の部位との輝度を一致させる際に、前記走査型電子顕微鏡で観察して収得した反射電子像を用い、輝度0%から前記無機充填剤が溶出した跡の孔の部位が観察できる輝度までの画素のみを抽出した画像を作成し、当該無機充填剤が溶出した跡の孔の部位が観察できる輝度を下限の水準とし、また、輝度100%から前記溶出しない無機充填剤の部位が観察できる輝度までの画素のみを抽出した画像を作成し、当該溶出しない無機充填剤の部位が観察できる輝度を上限の水準とし、前記下限の水準より低い輝度の画素と前記上限の水準より高い輝度の画素を変更してこれらの輝度を一致させてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリマ材料内での無機充填剤の分散状態の解釈が容易な無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例のポリマ材料の試料片を走査型電子顕微鏡で観察した反射電子像である。
【図2】図1において、低輝度である水酸化マグネシウムの溶出孔を抽出した像である。
【図3】図1において、高輝度である残留した水酸化マグネシウムを抽出した像である。
【図4】図1において、低輝度と高輝度の水酸化マグネシウム起因の部位を黒表示した像である。
【図5】図4をコントラスト調整した像である。
【図6】比較例として、図1をコントラスト調整した像である。
【図7】図4の中間輝度の領域を二値化して白と灰色で表示した像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法では、少なくとも2種類以上の高分子材料と、1種類以上の無機充填剤を原料として混合しているポリマ材料の相分散構造解析を行う。本実施の形態では、高分子材料を2種類、無機充填剤を1種類用いる場合を説明する。
【0018】
高分子材料としては、ポリマ材料を構成する高分子材料のうち少なくとも1種類が、後述する電子染色溶液と化学反応して重金属化合物を形成するものを用いる。無機充填剤としては、例えば、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなど、電子染色溶液と化学反応して溶出するものを用いる。
【0019】
無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法では、まず、ポリマ材料の試料片を電子染色溶液に浸漬する。電子染色溶液としては、高分子材料の内、少なくとも1種類以上と化学反応して重金属化合物を形成するものを用いる。ここでは、無機充填剤とも化学反応する電子染色溶液を用いる場合を説明する。電子染色溶液は、電子染色剤を溶媒中に分散させたものであり、電子染色剤としては、電子顕微鏡での反射電子像の観察を容易に行えるように、原子番号の大きな金属元素を含むものを用いるとよい。
【0020】
電子染色溶液に、ポリマ材料の試料片を一定時間浸漬すると、試料片を構成する一方の高分子材料は、化学反応し染色される。また、試料片表面近傍に存在する無機充填剤は電子染色溶液中に溶出し、孔の部位が形成される。一方、ポリマの薄い層に被覆され、直接、電子染色溶液に接しない部位は、無機充填剤部位として試料片中に残留する(溶出しない)。
【0021】
電子染色溶液への浸漬後、試料片を水洗し、乾燥し、帯電防止のために、例えば、金を蒸着し、その試料片を走査型電子顕微鏡で観察して、化学反応した高分子材料と化学反応しない高分子材料と無機充填剤とが分散した反射電子像を収得する。
【0022】
こうして収得した反射電子像には、無機充填剤が溶出して形成された孔の部位と、無機充填剤が残留した部位とがそれぞれ低輝度側と高輝度側の両端に分かれて表示されるので、ポリマ材料中の無機充填剤の分散状態を把握するのが難しい。
【0023】
そこで、本発明者らは、電子染色処理により無機充填剤の一部が溶出、一部が残留した観察試料(ポリマ材料の試料片)の走査型電子顕微鏡の反射電子像において、以下の画像処理を用いる観察方法を発明した。なお、本発明において、輝度とは、ある画素での明るさ、すなわち濃淡レベルを表す。
【0024】
まず、収得した反射電子像における無機充填剤の溶出した孔の輝度の水準を見積もる。例えば、元の反射電子像を見ながら、輝度0%から所定の輝度までの画素を点灯した画像を表示し、孔の分布が抽出できる輝度の水準を把握する。つまり、輝度0%から無機充填剤が溶出した跡の孔の部位が観察できる輝度までの画素のみを抽出した画像を作成し、その無機充填剤が溶出した跡の孔の部位が観察できる輝度を把握する。このとき把握した輝度を下限の水準(下限の輝度)と呼称する。
【0025】
次に、反射電子像における無機充填剤の残留物(溶出しない無機充填剤)の輝度の水準を見積もる。例えば、元の反射電子像を見ながら、先ほどとは逆に輝度100%から所定の輝度までの画素を点灯した画像を表示し、無機充填剤残留物の分布が抽出できる輝度の水準を把握する。つまり、輝度100%から溶出しない無機充填剤の部位が観察できる輝度までの画素のみを抽出した画像を作成し、溶出しない無機充填剤の部位が観察できる輝度を把握する。このとき把握した輝度を上限の水準(上限の輝度)と呼称する。
【0026】
そして、反射電子像において、前記で把握した下限の水準より低い輝度の画素と上限の水準より高い輝度の画素を変更して、これらの輝度を一致させる(同一の輝度に変更する)。下限の水準より低い輝度の画素と上限の水準より高い輝度の画素を、例えば、輝度0%(黒)、または輝度100%(白)に変更すると、中間輝度で表示される高分子材料の部位との識別が容易になる。また、反射電子像は一般にはモノクロ画像であるが、前記の上限の水準より輝度の高い画素と下限の水準より輝度の低い画素を着色しても良い。
【0027】
これにより、低輝度側と高輝度側に分かれて分布した無機充填剤の分布情報が単一の表示となり、解釈が容易になる。
【0028】
また、無機充填剤の残留物(電子染色溶液中に溶出した無機充填剤)がポリマ材料の試料片表面に多く付着し、無機充填剤が本来の分布と乖離してしまう場合には、電子染色処理の前あるいは後に、無機充填剤が溶解する酸、アルカリで無機充填剤を溶解後、水洗して、無機充填剤の溶出を促進させると良い。
【0029】
さらに、本実施の形態に係る無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法においては、上述した上限の水準と下限の水準との間の輝度、つまり中間輝度(灰色)で表示される高分子材料を所定の輝度で二値化してもよい。
【0030】
例えば、無機充填剤を輝度0%(黒)で表示した場合には、電子染色溶液で染色された高分子材料を輝度100%(白)で表示し、電子染色溶液で染色されない高分子材料を輝度50%(灰色)で表示するとよい。これにより、無機充填剤は黒、電子染色溶液で染色された高分子材料は白、電子染色溶液で染色されなかった高分子材料は灰色、となり識別しやすい。二値化する際には、白色の領域と灰色の領域の面積比が、ポリマのブレンド比に略一致するように決定すればよい。
【0031】
このように高分子材料を二値化して表示することにより、無機充填剤の分散状態だけでなく、高分子材料の分布状態もより見やすくなる。
【0032】
本実施の形態では、高分子材料を2種類、無機充填剤を1種類用いたポリマ材料について説明したが、高分子材料を3種類以上、無機充填剤を2種類以上としてもよい。例えば、高分子材料を3種類用いたポリマ材料では、相分散構造を把握しやすくするために一部をカラーで表示してもよい。
【0033】
以上要するに本発明では、走査型電子顕微鏡で得た反射電子像中の無機充填剤が溶出した跡の孔の部位と溶出しない無機充填剤の部位との輝度を一致させて反射電子像を得るようにしている。これにより、ポリマ材料の相分散状態を電子染色処理により観察する際に、電子染色溶液に溶出した無機充填剤の孔も、ポリマ試料片に残留した無機充填剤も同一のレベルで表示して、ポリマ材料内での無機充填剤の分散状態の解釈を容易に行うことができる。また、無機充填剤の孔と残留した無機充填剤の輝度を0%或いは100%で表示することで、中間輝度で表示される高分子材料の相識別のためのコントラスト強調や二値化が容易になり、ポリマ材料の相分散構造解析に有効である。
【0034】
また、本実施の形態では、電子染色処理の前あるいは後に、無機充填剤を溶出可能な酸もしくは塩基性の水溶液に浸漬後、洗浄することにより、無機充填剤の溶出を促進している。これにより、残留した水酸化マグネシウムが脱落後に移動し、他の部位に付着し、本来と異なる分布情報を示してしまうことを防止することができる。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例を説明する。
【0036】
観察用の試料として結晶性樹脂である芳香族ポリエステル樹脂を50質量%、ポリエステルエラストマを50質量%の割合でブレンドしたポリマアロイ100質量部に、難燃剤(無機充填剤)として水酸化マグネシウムを20質量部添加し、2軸押出機により260℃で混練し、ひも状に押し出しした。この試料の断面をミクロトームで切り出して試料片とし、リンタングステン酸5%、水10%、エタノール85%の割合で調製したリンタングステン酸溶液(電子染色溶液)に室温で24時間浸漬し、水洗後乾燥した。
【0037】
ミクロトームで切断したのは、走査型電子顕微鏡では試料片表面の凹凸もコントラストに影響し、組成で相を識別する際の妨害となるため、平滑な観察面を得る目的からである。なお、表面形状が平滑であれば、プレス面などをそのまま観察面としてもよい。
【0038】
試料片の切断面に帯電防止のため、金を蒸着し、高真空中で走査型電子顕微鏡観察した。この反射電子像を図1に示す。
【0039】
図1に示すように、強酸であるリンタングステン酸により、塩基性物質の水酸化マグネシウムは中和反応し、電子染色溶液に溶出した後には、孔1が残り、反射電子像上で低輝度の黒点として多数観察される。一方、染色時に溶出できなかった水酸化マグネシウム2は、反射電子像上で高輝度の白点として観察される。また、芳香族ポリエステル樹脂とポリエステルエラストマについては中間の輝度である灰色で表示されている。
【0040】
図1は8ビット、すなわち256階調で表示されたものであるが、輝度0%から所定の輝度までの画素を白表示させ、元画像(図1の画像)と比較しながら所定の輝度を変化させたところ、図2に示すように所定の輝度を30%とすることにより、水酸化マグネシウムが溶出した孔1の分布を抽出することができた。
【0041】
次に、輝度100%から所定の輝度までの画素を白表示させ、元画像(図1の画像)と比較しながら所定の輝度を変化させたところ、図3に示すように所定の輝度を82%とすることにより、残留した水酸化マグネシウム2の部位を抽出することができた。
【0042】
このように水酸化マグネシウムの溶出後の孔1や残留した水酸化マグネシウム2の輝度の閾値は、元画像(図1の画像)と見比べながら輝度範囲を振ることで、判断することができる。
【0043】
無機充填剤の溶出した後の孔(低輝度)と残留した無機充填剤(高輝度)の画素を抽出するための閾値を求める際には、処理画面上に元画像(図1の画像)と所定の輝度で抽出した画像を並べ、所定の輝度を変化させながら、最適な閾値を探すと効果的であった。また、同一の表示位置に元画像(図1の画像)と抽出像を交互に表示する方法も有効であった。
【0044】
次に、図1において輝度30%以下の画素と輝度82%以上の画素を輝度0%にして表示した結果を図4に示す。図4では、水酸化マグネシウムの溶出後の孔1と残留した水酸化マグネシウム2が黒一色で表示されるため、図1より容易にその分散状態を把握することができるようになった。なお、表示する際には黒ではなく、輝度100%(白)で表示しても良いし、カラーで表示しても良い。
【0045】
ところで、残留した水酸化マグネシウム2が脱落後に移動し、他の部位に付着し、本来と異なる分布情報を示す場合がある。このような場合は、電子染色処理の前に10%塩酸水溶液に室温で浸漬後、水洗することにより、水酸化マグネシウムの溶出を促進し、残留する水酸化マグネシウム2を減らすことができる。
【0046】
以上、本発明の一例を示したが、他のポリマ材料への適用例を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、ポリマ材料を構成する高分子材料や無機充填剤の種類を変更しても、無機充填剤の分散状態や、高分子材料(ポリマ)の分布状態について観察が可能であった。
【0049】
ここで、ポリエステルエラストマは、芳香族ポリエステル樹脂よりはリンタングステン酸との反応性が高いため、灰色の領域の中でも相対的に明るい部位に多く分布していると考えられる。これをコントラスト調整で強調しようとした場合、図1の画像で実施すると、ポリエステルエラストマは高輝度の残留した水酸化マグネシウム2と同じ白色となり区別できなくなる。しかし、図4では残留した水酸化マグネシウム2を黒表示にしているため、ポリエステルエラストマと残留した水酸化マグネシウムを区別できる。図4のコントラストと輝度を上げた結果を図5に示す。図5では、灰色のブレンドポリマの領域が、明るいポリエステルエラストマ3の部位と、暗い灰色の芳香族ポリエステル樹脂4の部位に分かれ、それらの分布状態が把握しやすくなったが、水酸化マグネシウム2の識別は引き続き良好である。図5から、水酸化マグネシウムはポリエステルエラストマ3中に多く分散していることがわかる。
【0050】
次に、比較例として、本発明を用いず、図1のコントラストを強調した結果を図6に示す。図6において、微細な水酸化マグネシウム2とポリエステルエラストマ3が同じ白色表示となり、識別できなくなっている。
【0051】
また、コントラスト調整でなく、灰色の部分を所定の輝度で二値化した例を図7に示す。
【0052】
図7は、図4において輝度43%から82%を白色、輝度30%から輝度43%を輝度50%の灰色で表示したものである。白色はポリエステルエラストマ3、灰色は芳香族ポリエステル樹脂4が主体の相と見なせる。二値化の閾値(ここでは43%)については白色の領域と灰色の領域の面積比が、ポリマのブレンド比に略一致する条件を採用した。このようにデータ処理することにより、各成分の分散状態がより見やすくなる。
【0053】
以上のように、従来は、電子染色処理により無機充填剤の一部が溶出し、一部が残留することにより、無機充填剤の分布情報が電子顕微鏡像上で、低輝度側と高輝度側に分かれて表示され、解釈が複雑であったのが、本発明により無機充填剤の分散状態の解釈が容易な相分散像が得られた。
【0054】
さらに、本発明により、中間輝度で表示される高分子材料の相識別のためのコントラスト強調や二値化が容易になり、ポリマ材料の相分散構造解析に有効である。
【符号の説明】
【0055】
1 孔
2 水酸化マグネシウム
3 ポリエステルエラストマ
4 芳香族ポリエステル樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類以上の高分子材料と、1種類以上の無機充填剤を原料として混合しているポリマ材料の相分散構造解析に際し、前記高分子材料の内、少なくとも1種類以上と化学反応して重金属化合物を形成し、かつ前記無機充填剤とも化学反応する電子染色溶液に、前記ポリマ材料の試料片を浸漬させた後、水洗し、その試料片を走査型電子顕微鏡で観察して、化学反応した高分子材料と化学反応しない高分子材料と無機充填剤とが分散した反射電子像を収得し、その反射電子像中の無機充填剤が溶出した跡の孔の部位と溶出しない無機充填剤の部位との輝度を一致させた反射電子像を得るようにしたことを特徴とする無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法。
【請求項2】
電子染色処理の前あるいは後に、前記無機充填剤を溶出可能な酸もしくは塩基性の水溶液に浸漬後、洗浄することにより、前記無機充填剤の溶出を促進する請求項1記載の無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法。
【請求項3】
前記無機充填剤が溶出した跡の孔の部位と前記溶出しない無機充填剤の部位との輝度を一致させる際に、前記走査型電子顕微鏡で観察して収得した反射電子像を用い、輝度0%から前記無機充填剤が溶出した跡の孔の部位が観察できる輝度までの画素のみを抽出した画像を作成し、当該無機充填剤が溶出した跡の孔の部位が観察できる輝度を下限の水準とし、また、輝度100%から前記溶出しない無機充填剤の部位が観察できる輝度までの画素のみを抽出した画像を作成し、当該溶出しない無機充填剤の部位が観察できる輝度を上限の水準とし、前記下限の水準より低い輝度の画素と前記上限の水準より高い輝度の画素を変更してこれらの輝度を一致させる請求項1又は2記載の無機充填剤を含むポリマ材料の観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−37324(P2012−37324A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176355(P2010−176355)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】