説明

無機充填材強化ポリエステル樹脂組成物

【課題】 低温金型で表面外観が良好で、(ソリ)が少なく下さい耐熱性にも優れた成形品が得られる、無機充填材強化ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 脂環式ポリエステル樹脂(成分A)100重量部、無機充填材(成分B)5〜120重量部、および、炭素数8〜25の有機カルボン酸のアルカリ金属塩化合物(成分C)0.05〜2重量部を含む無機充填材強化ポリエステル系樹脂組成物において、脂環式ポリエステル樹脂(成分A)が、ジカルボン酸成分(a)由来の単位として、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位を主繰り返し単位として有するものであり、グリコール成分(b)由来の単位として、1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を主繰り返し単位として有する脂環式ポリエステル樹脂であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温に設定した金型によって成形しても、表面外観が良好な成形品(製品)が得られ、成形品の反り(ソリ)が少なく、耐熱性にも優れた成形品が得られる、無機充填材強化ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリエチレンテレフタレート(PET)に代表される熱可塑性ポリエステル樹脂は、成形性、機械的強度、耐熱性、耐薬品性などの特性が優れているので、電気・電子部品、自動車部品などの製造用樹脂として使用されている。また、強度と耐熱性をさらに向上させるために、ガラス繊維(GF)などの無機充填材を配合した樹脂組成物が実用化されている。
【0003】
基体の熱可塑性ポリエステル樹脂にGFを配合した場合には、得られた成形品の強度は向上するが、反りが大きくなり、大型成形品や寸法精度が要求される精密成形品の用途には、大きな制約があった。特に、PBTにGFを添加した樹脂組成物から得られる成形品は、反りが大きいという欠点がある。
【0004】
この反りの改良のため、熱可塑性ポリエステル樹脂にポリカーボネート(PC)のような非晶性の樹脂を配合した樹脂組成物が提案され、実用化されている。しかし、得られた成形品の表面外観が必ずしも満足する水準にならず、さらに成形時に熱安定性が悪く、成形品製造時に発生するスプルー、ランナーなどを粉砕して再使用したときには、再使用品を含む樹脂組成物の流動性などが著しく変化するという欠点がある。
【0005】
一方、PETについては、反りについてはPBTほど大きくはないものの、同様の欠点がある。PETは、成形品製造時の結晶化が極めて遅く、金型温度が40〜100℃の低温では、成形品の結晶化がほとんど進行しないため、成形品の使用中に結晶化するという(後結晶化)が起こり、成形品の寸法が変化するという欠点がある。成形品の使用中に後結晶化を防止するためには、温度を130℃前後の高温に調節した金型で徐冷しながら成形を行う必要があり、従って成形サイクルが長くなり、生産性が低下するという欠点がある。
【0006】
PETから成形品を製造する際の結晶化促進のため、PETに固形無機物質(好ましくは、粒度2μm以下)とカルボン酸のナトリウム塩、リチウム塩、またはバリウム塩を配合する技術が特許文献1に報告されている。しかし、低温に設定した金型で成形すると、得られる成形品は外観不良となり、成形品の意匠性を重要視する用途には不向きであった。
【0007】
成形品の外観を改良する目的で、PET、ガラス繊維などの無機充填剤、およびカルボン酸のナトリウム塩またはカリウム塩が配合された樹脂組成物に、さらに可塑剤特性を有する低分子量の有機化合物を配合することが特許文献2に示されている。しかし、可塑剤特性を有する有機化合物を数パーセント配合する必要があり、この有機化合物が成形品製造時に熱分解することがあり、分解して発生するガスが、成形品の外観を悪化させる原因になっていた。
【特許文献1】特公昭47−32435号公報
【特許文献2】特開昭54−158452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上記の従来技術の緒欠点を排除すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明の目的は、次のとおりである。
1.成形性の優れ、低温に設定した金型によって成形しても表面外観が良好な成形品(製品)が得られる、無機充填材強化ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
2.熱安定性および成形性に優れた、無機充填材強化ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
3.成形品の反り(ソリ)が少なく、耐熱性にも優れた成形品が得られる、無機充填材強化ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、脂環式ポリエステル樹脂(成分A)100重量部、無機充填材(成分B)5〜120重量部、および、炭素数8〜25の有機カルボン酸のアルカリ金属塩化合物(成分C)0.05〜2重量部を含む無機充填材強化ポリエステル系樹脂組成物において、脂環式ポリエステル樹脂(成分A)が、ジカルボン酸成分(a)由来の単位として、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位を返し単位として有するものであり、グリコール成分(b)由来の単位として、1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を主繰り返し単位として有する脂環式ポリエステル樹脂であることを特徴とする、無機充填材強化ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以下に詳細に説明するとおりであり、次のような特別に有利な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大である。
1.本発明に係る無機充填材強化ポリエステル樹脂組成は、低温に設定した金型によって成形しても、表面外観が良好な成形品(製品)が得られる。
2.本発明に係る無機充填材強化ポリエステル樹脂組成は、成形性が優れているので、成形品を能率よく製造することができる。
3.本発明に係る無機充填材強化ポリエステル樹脂組成は、熱安定性が優れているので、射出成形法によって成形品を製造する際に発生するスプルー、ランナーなどを粉砕して再使用するときも、流動性は著しく変化することがない。
4.本発明に係る無機充填材強化ポリエステル樹脂組成から得られる成形品(製品)は、成形品の反り(ソリ)が少なく、耐熱性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件(実施態様)の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの記載内容に限定されるものではない。本発明に係る無機充填材強化ポリエステル樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物と記載することがある)における基体樹脂は、脂環式ポリエステル樹脂(以下、単に成分Aと記載することがある)は、ジカルボン酸成分(a)由来の単位として、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位を繰り返し単位として有するものであり、グリコール成分(b)由来の単位として、1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を主繰り返し単位として有する脂環式ポリエステル樹脂である。ここで、「主繰り返し単位」とは、90モル%以上を占めることを意味する。
【0012】
成分Aは、ジカルボン酸成分(a)由来の単位として、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を繰り返し単位として有するものである。1,4−シクロヘキサンジカルボン酸には、トランス異性体とシス異性体があるが、本発明者らの実験によれば、トランス異性体含有率70%以上のものが好ましいことが分かった。トランス異性体含有率70%未満であると、成分Aの融点と耐熱性が低下し、好ましくない。中でも好ましいトランス異性体の含有率は、80モル%である。なお、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のトランス異性体とシス異性体は、液体クロマトグラフィ法によって測定することができる。
【0013】
成分Aは、グリコール成分(b)由来の単位として、トランス異性体含有率50%以上の1,4−シクロヘキサンジメタノール(b1)、および、炭素数2〜6のアルキレングリコールの縮合物であり、分子量500〜6000のポリアルキレングリコール(b2)由来の単位を有するものである。ポリアルキレングリコール(b2)が多すぎると、成分Aの融点と耐熱性が低下する。耐熱性の観点から、好ましくは0〜1モル%である。ここで、ポリアルキレングリコール(b2)のモル数は、数平均分子量を仮の分子量として計算される値をいう。1,4−シクロヘキサンジメタノール(b1)には、トランス異性体とシス異性体があるが、本発明者らの実験によれば、トランス異性体含有率50%以上のものが好ましいことが分かった。トランス異性体の比率が50%未満であると、成分Aの融点と耐熱性が低下し、好ましくない。好ましいトランス異性体の含有率は、60モル%以上である。1,4−シクロヘキサンジメタノール(b1)のトランス異性体とシス異性体もまた、液体クロマトグラフィ法によって測定することができる。
【0014】
ポリアルキレングリコール(b2)としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどの縮合物が挙げられ、中でもブタンジオールの縮合物であるポリテトラメチレングリコールが好ましい。また、その分子量は、低分子量のグリコールを共重合すると、成分Aの融点が急激に低下するので好ましくない。分子量は、700〜1500の範囲のものが特に好適である。上記の条件満足する脂環式ポリエステル樹脂は、耐熱性および結晶性を損なわず、優れた機械的性質を発揮する。成分Aは、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の主繰り返し単位と1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を主繰り返し単位として有する脂環式ポリエステル樹脂70〜100重量部に対し、ポリシアルキレングリコール0〜30重量部含むものが好適である。このような脂環式ポリエステル樹脂は、従来から知られている方法によって製造できる(例えば、米国特許第2,891,930号明細書、米国特許第2,901,466号明細書などを参照)。
【0015】
成分Aとともに本発明に係る樹脂組成物を構成する無機充填材(以下、単に成分Bと記載することがある)は、成形品の耐熱性、剛性、寸法安定性などを向上させる。成分Bとしては、繊維状、板状、粒状物およびこれらの混合物が挙げられる。より具体的には、繊維状を呈するものとしては、ガラス繊維、炭素繊維、鉱物繊維、金属繊維、セラミックスウイスカー、ワラストナイトなどが挙げられ、板状を呈するものとしてはガラスフレーク、マイカ、タルクなどが挙げられ、粒状を呈するものとしてはシリカ、アルミナ、ガラスビーズ、カーボンブラック、炭酸カルシウムなどが挙げられる。これら成分Bの選定の基準は、成形品に要求される特性によるが、機械的強度や剛性を重視する成形品には繊維状物、特にガラス繊維が選ばれ、異方性および反りを重視する成形品には板状物、特にマイカが選ばれる。また、粒状物は成形時の流動性も勘案し、全体的にバランスする最適なものが選ばれる。
【0016】
ガラス繊維は、一般に樹脂の強化用に使用されるものであれば特に制限されることがない。例えば、長繊維タイプ(ロービング)や短繊維タイプ(チョップドストランド)などから選択して使用でき、繊維の径は6〜15μmのものが一般的である。ガラス繊維は、集束剤(例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリエステルなど)、カップリング剤(例えば、シラン化合物、ボロン化合物など)、その他の表面処理剤などで処理されたものであってもよい。中でも、強度の観点から、アミノシラン化合物またはノボラックエポキシ化合物で表面処理されたガラス繊維が好ましい。
【0017】
上記成分Aに対する成分Bの配合量は、成分A100重量部に対して5〜120重量部の範囲で選ぶものとする。成分Bの配合量が5重量部より少ないと、樹脂組成物の機械的性質の向上が不充分であり、120重量部より多いと、樹脂組成物の機械的性質が低下し、いずれも好ましくない。成分Bの好ましい配合量は、10〜100重量部である。
【0018】
本発明に係る樹脂組成物を構成する炭素数8〜25の有機カルボン酸のアルカリ金属塩化合物(以下、単に成分Cと記載することがある)は、成分Aの結晶化を促進する。成分Cにおける有機カルボン酸としては、ラウリン酸、マレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アジピン酸、セバチン酸などの脂肪族カルボン酸や、安息香酸、ナフトエ酸、フタール酸などの芳香族カルボン酸などが挙げられる。成分Cは、これらのカルボン酸がアルカリ金属で中和された化合物で、具体的にはステアリン酸ナトリウムや安息香酸ナトリウムなどであり、融点が180〜310℃の範囲のものが、樹脂組成物への分散性の観点から好ましい。
【0019】
上記成分Aに対する成分Cの配合量は、成分A100重量部に対して0.05〜2重量部であり、成分Cの配合量が0.05重量部より少ないと、十分な結晶化促進効果が発揮されず、一方2重量部より多いと、成分C中に含まれるアルカリ金属により成分Aの分子量低下の原因となることがあり、強度低下につながり好ましくない。
【0020】
本発明に係る樹脂組成物は、上記成分A、成分Bおよび成分Cを必須とするが、これら三成分の外に、本発明の目的および効果を損わない範囲で、必要応じて、付加的成分を配合することができる。付加的成分としては、他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、他の樹脂添加剤が挙げられる。他の熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、ポリアミドMXD6などのポリアミド類、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、MBS樹脂などのスチレン系樹脂類、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などのオレフィン系樹脂類、液晶ポリマー、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、各種アクリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、イソブチレン−イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム−スチレン、エチレン−プロピレンゴム、アクリル系エラストマー、ポリアミドエラストマーなどが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0021】
他の樹脂添加剤としては、例えば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸およびそのエステル、シリコンオイルなどの離型剤、ヒンダードフェノール系化合物、亜燐酸エステル系化合物、硫黄含有エステル化合物系化合物などの熱安定剤、紫外線吸収剤、耐候性付与剤、ペンタブロモベンジルポリアクリレートなどの難燃剤、アンチモン系難燃助剤、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレートなどの可塑剤、染料、顔料、発泡剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0022】
本発明に係る樹脂組成物を調製するには、前記の各成分A、成分Bおよび成分Cの酸成分、および、必要に応じて付加的成分を所定量秤量・混合し、溶融・混練りする方法によって得ることができる。
混合は、従来から採用されている方法、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、ドラムブレンダーなどを使用する方法によることができる。樹脂組成物の溶融・混練は、各種の溶融・混練機、例えば、押出機、ブラベンダープラストグラフ、ラボプラストミル、ニーダー、バンバリーミキサーなどを使用する方法によることができる。溶融・混練する際の加熱温度は、成分Aの分子量、配合量、成分Bの種類、配合量、成分Cの種類、配合量などによって異なるが、通常230〜290℃の範囲が選ばれる。混練り時の成分Aの分解を抑制する目的で、前記の熱安定剤を配合するのが好ましい。
【0023】
各成分を溶融・混練する方法には、(1)付加的成分を含む各成分を、一括して溶融・混練機に供給する方法、(2)付加的成分を含む各成分を、順次、溶融・混練機に供給する方法、(3)付加的成分を含む各成分から選ばれた二種以上を、予め混合した混合物、またはマスターバッチを調製し、最終的に目的の樹脂組成物とする方法、などが挙げられる。なお、成分Bがガラス繊維などの繊維状強化材である場合は、溶融・混練機として押出機を使用し、シリンダー内で溶融した樹脂に途中から後添加する方法を採用するのが好ましい。この後添加法を採用することにより、繊維状強化材の破砕が避けられ、最終的に得られる樹脂組成物に高い特性を発揮させることができる。
【0024】
本発明に係る樹脂組成物は、成形材料として使用でき、熱可塑性樹脂に適用される種々の成形法、例えば、射出成形法、中空成形法、押出成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、回転成形法などが適用できる。特に好ましい成形方法は、生産性の観点から、射出成形法である。射出成形法においては、樹脂温度を240〜280℃に調節するのが好ましい。本発明に係る樹脂組成物から製造できる成形品(製品、部品)は、電機・電子機器分野、自動車分野、機械分野、医療分野などの成形品である。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明を実施例によって、詳しく説明するが、本発明は以下に記載の例に限定されるものではない。実施例および比較例で使用した各成分の略称と特性は、次に示したとおりであり、また、樹脂組成物、成形品などの物性は、以下に記載した項目について、以下に記載の方法で評価した。
【0026】
<樹脂組成物の構成成分>
(1)PCC:95%のトランス異性体を含む1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と、68%のトランス異性体を含む1,4−シクロヘキサンジメタノールとを重縮合させて得られ、融点が225℃、固有粘度が0.95の脂環式ポリエステルである。
(2)PCCP:上記PCCのモノマー二成分と、ポリテトラメチレングリコール(分子量1000)とを原料成分とし、上記脂環式ポリエステル100重量部に対して15重量部(脂環式ポリエステルに対して13重量%)のポリテトラメチレングリコールを重縮合させて得られ、融点が215℃、固有粘度が1.15の脂環式ポリエステルである。
(3)PBT:テレフタル酸とブタンジオールからなるポリブチレンテレフタレートであって、融点が225℃、固有粘度が0.85のものである。
【0027】
(4)PET:テレフタル酸とエチレングリコールルからなる芳香族ポリエステルであって、融点が255℃、固有粘度が0.65のものである。
(5)PC:分子量が21000のポリカーボネートである。
(6)GF:繊維径13μm、長さ3mmのチョップドストランドで、表面がアミノシランおよびノボラックエポキシで処理されたものである(日本電気硝子社製)。 (7)St−Na:融点が220℃のステアリン酸ナトリウム(東京化成社製、試薬)である。 (8)Bz−Na:融点が300℃の安息香酸ナトリウム(東京化成社製、試薬)である。 (9)BBP:ブチルベンジルフタレート(東京化成社製、試薬)である。
【0028】
<評価項目および評価方法>
(1)熱安定性:ISO試験片成形前のバージンペレット、および、ISO試験片成形時に生じたスプルーおよびランナーを粉砕した再生品の双方につき、JIS K7210に準拠し、温度280℃、荷重5kgの条件でMFR(単位:g/10分)を測定した。両者の流動性比率(再生品/バージンペレット)を算出し、熱安定性の尺度とした。流動性比率が大きいほど、熱安定性が劣ることを意味する。
(2)シャルピー耐衝撃強度(単位:KJ/m):ISO179に準拠し、ノッチ付き試験片について測定した。
(3)耐熱性(単位:mm):ISO75−1に準拠した荷重たわみ温度の測定方法において、荷重1.80MPAの条件下で、温度が150℃に達したときの試験片のたわみ量を観察した。たわみ量が大きいほど、耐熱性が低いことを意味する。
【0029】
(4)反り量(単位:mm):射出成形機(住友重機械社製:型式SG−75MIII)を使用し、シリンダー設定温度250℃で、金型設定温度80℃、射出速度を成形機に設定された速度の50%に変更し、射出時間1.5秒、冷却時間35秒の条件下に、100mmφ×1.6mmtの円板を成形した。ゲートは、円板の円周上に一個設けた一ゲートである。円板の片端を平板に固定し、反対側が平板から浮き上がった間隔を測定し、反り量とした。この値が大きいほど、反り量が大きいことを意味する。
(5)成形品表面外観:射出成形機(東芝機械社製、型式:IS150)を使用し、シリンダー設定温度280℃、金型設定温度80℃、射出速度を成形機に設定された速度の50%に変更し、射出時間2秒、冷却時間40秒の条件下に、100mmφ×3mmtの円盤状成形品を製造した。この成形品の表面外観を目視観察し、蛍光灯の像が極めて明瞭に写るものを◎、明瞭に写るものを○、若干不明瞭に写るものを△、不明瞭に写るものを×として判定し、表示した。
【0030】
[実施例1〜実施例3、比較例1〜比較例5]まず、樹脂組成物を構成する各成分を、表−1に示した割合で秤量した。原料成分の配合量は、重量部を意味する。ついで、成分C(ガラス繊維)を除く成分をタンブラーミキサーにて均一に混合して混合物とした。得られた混合物を、二軸押出機(日本製鋼所製、型式:TEX30XCT、L/D=42、バレル数12)のホッパーに供給し、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数400rpmの条件下で、溶融・混練した。押出機のシリンダー途中のバレル5より、成分Cを混合して溶融・混練し、ストランド状に押出し、ストランドを冷却し、切断してペレット状の樹脂組成物を得た。得られたペレットにつき、上記評価方法によって評価試験を行い、評価結果を表−1に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
表−1より、次のことが明らかとなる。
1.実施例1〜実施例3の樹脂組成物は、成分A、成分Bおよび成分Cの三成分を、請求項1に規定する範囲で含むので、この樹脂組成物は熱安定性に優れている。
2.実施例1〜実施例3の樹脂組成物は、成分A、成分Bおよび成分Cの三成分を、請求項1に規定する範囲で含むので、この樹脂組成物から得られる成形品は反りが小さく、外観が優れている。
3.これに対して、芳香族ポリエステルのPBTに代えた比較例1の組成物では、得られる成形品の反りが大きく、成形品の表面外観も実施例のものより劣る。4.さらに、比較例1におけるPBTの一部をPCに代えた比較例2の組成物では、熱安定性が極端に劣り、成形品の外観も比較例1のものより劣る。5.また、芳香族ポリエステルのPETに代えた比較例3の組成物では、耐熱性に劣り、得られる成形品の反りが大きく、成形品の表面外観も実施例のものより劣る。6.比較例3の組成物にさらに結晶化促進剤の成分Cを配合した比較例4の組成物では、得られる成形品の反りは比較例3のものより小さくなるが、実施例のものよりは大きく、成形品の表面外観も実施例のものより劣る。7.比較例4のものにさらに可塑剤を配合した比較例5の組成物は、比較例4と同様に反りが大きく、成形品の外観も悪い。また比較例5の組成物は、成形品の製造時に大量のガスが発生した。
8.比較例6は、成分Aと成分Bとを組み合わせ、成分Cを配合しなかったものであるが、実施例の成形品に比べて、熱安定性が劣り、成形品の反りおよび外観も劣る。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る樹脂組成物は、成形材料として使用でき、熱可塑性樹脂に適用される種々の成形法、例えば、射出成形法、中空成形法、押出成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、回転成形法などが適用できる。特に好ましい成形方法は、生産性の観点から、射出成形法である。射出成形法では、樹脂温度を240〜280℃の範囲に調節するのが好ましい。本発明に係る樹脂組成物から製造できる成形品(製品、部品)は、電機・電子機器分野、自動車分野、機械分野、医療分野などの成形品である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式ポリエステル樹脂(成分A)100重量部、無機充填材(成分B)5〜120重量部、および、炭素数8〜25の有機カルボン酸のアルカリ金属塩化合物(成分C)0.05〜2重量部を含む無機充填材強化ポリエステル系樹脂組成物において、脂環式ポリエステル樹脂(成分A)が、ジカルボン酸成分(a)由来の単位として、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位を返し単位として有するものであり、グリコール成分(b)由来の単位として、1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を主繰り返し単位として有する脂環式ポリエステル樹脂であることを特徴とする、無機充填材強化ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
ジカルボン酸成分(a)由来の繰り返し単位が、トランス異性体含有率70%以上の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位であり、グリコール成分(b)由来の繰り返し単位が、トランス異性体含有率50%以上の1,4−シクロヘキサンジメタノール、および、炭素数2〜6のアルキレングリコールの縮合物であり、かつ、分子量500〜6000のポリオキシアルキレングリコール由来の単位が、脂環式ポリエステル樹脂(成分A)に対して30重量%以下の量含むものである、請求項1に記載の無機充填材強化ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
炭素数8〜25の有機カルボン酸のアルカリ金属塩化合物(成分C)が、ステアリン酸ナトリウムまたは安息香酸ナトリウムである、請求項1または請求項2に記載の無機充填材強化ポリエステル樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−241394(P2006−241394A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62082(P2005−62082)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】