説明

無機化合物膜及びその製造方法

【課題】耐水性に優れ且つ高いガスバリア性と透明性を有する無機化合物膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】疎水性層状無機化合物が有機溶媒に分散した疎水性層状無機化合物含有液をベースの表面に配し乾燥させて疎水性層状無機化合物層1を形成した後に、親水性層状無機化合物が水に分散した親水性層状無機化合物含有液を疎水性層状無機化合物層1の表面に配し乾燥させて親水性層状無機化合物層2を形成した。さらに、疎水性層状無機化合物含有液を親水性層状無機化合物層2の表面に配し乾燥させて疎水性層状無機化合物層1を形成してベースから剥離した。すると、親水性層状無機化合物層2の上下両面側に疎水性層状無機化合物層1,1が配された3層構造の無機化合物膜が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状無機化合物を含有する無機化合物膜及びその製造方法に関する。また、前記無機化合物膜で少なくとも一部分が構成された電子ペーパー,基板,及びガスバリア膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイをはじめとするフラットパネルディスプレイ(以降はFPDと記す)の製造技術が飛躍的に進歩し、従来のブラウン管では到底なし得ない薄型のディスプレイが現実のものとなった。現在のFPDはほぼ全てガラス基板上にデバイスが形成されており、ガラス基板以外の基板を用いた実用的なFPDは存在しない。その理由としては、ガラス基板が高耐熱性であり、高温形成が必要なディスプレイの駆動回路や部材を形成するのに適していること、線膨張係数が小さく、それら駆動回路や部材に与える応力を抑制でき、配線の破断や部品の特性変動が少ないこと、可視光域で透明なため光を取り出すことが容易であること、さらにガスバリア性が高く、外部からの酸素や水蒸気の進入を阻止するガスバリア材として用いることができ、必要により高真空を保持できること等があげられる。
【0003】
しかし、ガラス基板は柔軟性がなく、割れやすい。また重量が重く、基板の変形や取り扱いの困難さが問題となっている。また、ガラス基板は、曲げて持ち運ぶ等の用途を想定した、曲げられる電子ペーパーのようなフレキシブルディスプレイには使えず、衝撃に対して割れやすく、落下させた場合にデバイスが損傷しやすいという欠点も持つことから、モバイル用途にはあまり適していない。このような観点から、ガラスと同等の耐熱性、線膨張係数、透明性、ガスバリア性等を有するディスプレイ用の基板やガスバリア膜の実用化が望まれている。
【0004】
一方、粘土鉱物に代表される層状無機化合物は、自然界に多数の種類が存在し、その多くは安価で、人体に無害、燃えない等の特徴を有する無機化合物である。層状無機化合物は、その名の通り層状(板状)の結晶を形成する化合物であり、代表的なものとしては、スメクタイト族粘土や雲母に代表される粘土鉱物、マガディアイトやケニヤイト等の層状ケイ酸塩、ハイドロタルサイト等の層状複水酸化物がある。また、チタン・ニオブ酸塩,六ニオブ酸塩,モリブデン酸塩等の層状遷移金属酸素酸塩や、層状リン酸塩、層状マンガン酸化物、層状コバルト酸化物等も代表的な層状無機化合物である。このように、組成の異なる多種の層状無機化合物が存在する。
【0005】
層状無機化合物の中でも、特に粘土鉱物は自然界に大量に存在し、安価で且つ分散性に優れる等の点で様々な用途に好適に用いられている(例えば非特許文献1を参照)。このような粘土鉱物をはじめとする層状無機化合物の利用方法の1つとして、樹脂に層状無機化合物を少量(一般的には約5質量%以下)添加したナノコンポジット材料があり、これについて幅広い研究がなされ、一部実用化されている(例えば非特許文献2を参照)。このようなナノコンポジット材料においては、層状無機化合物の添加により、強度,難燃性,ガスバリア性の向上効果が認められている。
【0006】
しかしながら、このようなナノコンポジット材料においては層状無機化合物の割合が少量で、且つそれらの配向が揃っていない、若しくは延伸等によって多少配向を揃えた程度であったため、本質的に樹脂の特性を飛躍的に向上させるものではなかった。特に、層状無機化合物を加えることによって奏される大きな効果の1つであるガスバリア性をとってみると、層状無機化合物の添加によってガスの透過に際した移動距離が長くなるためガスの透過率が数分の一程度になる事例もあるが、一桁以上ガスバリア性が向上する事例はほとんどない。
【0007】
また、ガスが透過する際の気体の移動距離を長くしてガスバリア性を向上させる目的から、結晶サイズの大きな天然モンモリロナイトや合成雲母といった層状無機化合物を用いる場合が多いが、この場合は、天然モンモリロナイト由来の黄色い着色や、合成雲母の大きな結晶サイズ由来の光の散乱等の要因により、ディスプレイ等にも使えるようなヘイズ(曇度)が小さく無色で透明性の高い膜を得ることは困難であった。同様に、層状無機化合物の添加量が少ない場合には、ガスバリア性以外の他の物性、例えば耐熱性や温度変化時の寸法安定性を大幅に向上させることは難しく、高耐熱性で寸法安定性に優れる層状無機化合物の本質的な特性が十分生かされているとは言い難いものであった。
スメクタイト族の粘土鉱物は、層状無機化合物の構成単位であるナノシートの近くまで水中に分散し得るので、その分散液をガラス板の上に広げ、静置、乾燥することにより、ナノシートの配向が揃った膜が形成することが知られており、この膜形成により、X線回折法の定方位試料が調整されてきた(非特許文献3を参照)。
【0008】
また、従来、例えば機能性粘土薄膜等を調整する方法が、種々報告されている。例えば、ハイドロタルサイト系層間化合物の水分散液を膜状化して乾燥することによる粘土膜の製造方法(特許文献1を参照)、層状粘土鉱物と燐酸又は燐酸基との反応を利用し、その反応を促進させる熱処理を施すことにより層状粘土鉱物が持つ結合構造を配向固定した層状粘土鉱物薄膜の製造方法(特許文献2を参照)、スメクタイト系粘土鉱物と2価以上の金属の錯化合物を含有する皮膜処理用水性組成物(特許文献3を参照)などをはじめ、多くの事例が存在する。しかしながら、これらの特許文献における膜状の形態物は、全て何らかの支持体の上に形成されたものであり、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、ナノシートを高度に配向させた積層した層状無機化合物の配向膜ではなかった。
【0009】
さらに、層状無機化合物の配向を揃え、且つ、自立強度と耐水性を有する透明な膜の報告がある。例えば、水に分散する層状無機化合物が備える無機イオンを有機アンモニウム塩等の有機イオンに交換して有機溶媒への分散性を向上させた疎水性層状無機化合物と、透明なポリイミドとからなる、高強度で耐水性を有する透明膜の報告(特許文献4を参照)などの多くの報告がある。しかしながら、それらは層状無機化合物の割合が少ないため、高いガスバリア性が得られるものではなかった。
【0010】
そのような状況の中、本発明者らは、粘土配向膜の作製を種々試み、その過程で、ナノシートが配向した、自立膜として使用できる強度を有する膜が、下記のような方法により得られることを見出した(特許文献5を参照)。すなわち、均一な粘土分散液を水平に静置してナノシートを沈積させるとともに、分散媒である液体を種々の固液分離方法(例えば遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、又は加熱蒸発法)で分離し、膜状に形成した後に、これを支持体から剥離する方法である。
【0011】
また、粘土のみではなく、少量の添加剤を粘土分散液に加えることによって、膜の柔軟性や強度を高めることができること、粘土分散液の固形比を高めた粘土ペーストを用いることにより、膜を短時間で製造することができること(特許文献6を参照)、さらに不純物の少ない合成粘土を用いること等により、着色のない可視光領域で透明な膜を作製できること(特許文献7を参照)を見出した。
【0012】
そして、これらの膜が、(1)高耐熱性を有する、(2)酸素や水素等の無機ガスに対して高いガスバリア性を有する、(3)膜にピンホールがない、(4)柔軟性を有する、(5)耐薬品性を有する、(6)線膨張係数が低い、(7)難燃性を有する、(8)絶縁性を有する、といった特徴を共通して保有することを確認し、前述したディスプレイ用部材等の電子材料用途に好適であることを見出した。
【0013】
特に、これらの膜のガスバリア性の高さは際立っており、従来のガスが透過する際の気体の移動距離の延長では説明がつかないような、極めて高いガスバリア性が発現することを見出した。そして、詳細な研究の結果、その高いガスバリア性は、ナノシートが極めて緻密に積層し、且つ、少量加えた添加剤によって膜内部の欠陥の発生が抑制されていることによって発現していることが分かった。同様な現象は、近年他の研究者によっても報告されている(特許文献8を参照)。
【0014】
【特許文献1】特開平6−95290号公報
【特許文献2】特開平5−254824号公報
【特許文献3】特開2002−30255号公報
【特許文献4】特開2006−37079号公報
【特許文献5】特開2005−104133号公報
【特許文献6】特開2006−265088号公報
【特許文献7】特開2007−63118号公報
【特許文献8】特開2006−167679号公報
【非特許文献1】須藤談話会編,「粘土科学への招待−粘土の素顔と魅力−」,三共出版,p.6(2000)
【非特許文献2】中條澄編,「ポリマー系ナノコンポジットの製品開発」,フロンティア出版,p.25〜90(2004)
【非特許文献3】白水晴雄,「粘土鉱物学−粘土科学の基礎−」,朝倉書店,p.57(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、合成粘土を用いた従来の層状無機化合物と少量の添加剤とからなる透明な膜は、前述のような高いガスバリア性を示すものの、空気中に放置しておくとヘイズが増大し、膜が曇って透明性が低下していく場合があった。また、水に対する親和性が高く水に分散しやすい親水性のスメクタイト族粘土及び水可溶性樹脂を用いていたため、膜の耐水性が不十分で、水が少し付着しただけでも膜が膨潤してしまい、膜を構成する層状無機化合物が時間とともに水中に分散して、膜に欠陥が生じるおそれがあった。すなわち、高いガスバリア性、耐水性、及び寸法安定性を備え、さらに自立強度を有する透明な無機化合物膜の報告は未だない。
そこで、本発明は、前述のような従来の無機化合物膜が有する問題点を解決し、耐水性に優れ且つ高いガスバリア性と透明性を有する無機化合物膜及びその製造方法を提供することを課題とする。また、このような無機化合物膜を備えた電子ペーパー,基板,及びガスバリア膜を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の無機化合物膜は、多数の層状無機化合物の粒子が配向して積層した構造を有する層状無機化合物層が2層以上積層されてなる無機化合物膜において、有機溶媒に対する親和性が高く有機溶媒に分散しやすい疎水性層状無機化合物のみ又は前記疎水性層状無機化合物と添加剤とで構成される疎水性層状無機化合物層と、水に対する親和性が高く水に分散しやすい親水性層状無機化合物のみ又は前記親水性層状無機化合物と添加剤とで構成される親水性層状無機化合物層と、が積層されてなり、自立膜として利用可能な機械的強度を有し且つ80%以上の全光線透過率を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る請求項2の無機化合物膜は、請求項1に記載の無機化合物膜において、前記疎水性層状無機化合物及び前記親水性層状無機化合物は、合成により得られた粘土鉱物よりなることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項3の無機化合物膜は、請求項1又は請求項2に記載の無機化合物膜において、ガスバリア性を有することを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項4の無機化合物膜は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の無機化合物膜において、前記親水性層状無機化合物層の上下両面側に前記疎水性層状無機化合物層が配された3層構造であることを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明に係る請求項5の無機化合物膜は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の無機化合物膜において、前記親水性層状無機化合物層の全体が前記疎水性層状無機化合物層で包まれた構造を有することを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項6の無機化合物膜は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の無機化合物膜において、ヘイズが5%以下であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項7の無機化合物膜は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の無機化合物膜において、400nm以上800nm以下の波長範囲における光線透過率が80%以上95%以下であることを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明に係る請求項8の無機化合物膜の製造方法は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の無機化合物膜を、前記疎水性層状無機化合物層と前記親水性層状無機化合物層とを交互に形成して積層することにより製造する方法であって、前記疎水性層状無機化合物を含有する疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物を含有する親水性層状無機化合物含有液をベース上に配して乾燥し、前記疎水性層状無機化合物層又は前記親水性層状無機化合物層を前記ベース上に形成する第一工程を行った後に、前記疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物含有液を下層の層状無機化合物層上に配して乾燥することにより前記下層の層状無機化合物層とは異なる種類の層状無機化合物層を前記下層の層状無機化合物層上に形成する第二工程を少なくとも1回行うことを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明に係る請求項9の無機化合物膜の製造方法は、請求項8に記載の無機化合物膜の製造方法において、前記第二工程を行う前に、前記第一工程により前記ベース上に形成された層状無機化合物層を前記ベースから剥離し、その剥離した層状無機化合物層の上下両面又は片面に対して、前記第二工程を少なくとも1回行うことを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項10の無機化合物膜の製造方法は、請求項8又は請求項9に記載の無機化合物膜の製造方法において、前記第二工程において使用する前記疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物含有液は、前記下層の層状無機化合物層を構成する層状無機化合物が分散しないような組成であることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明に係る請求項11の無機化合物膜の製造方法は、請求項1,2,3,5のいずれか一項に記載の無機化合物膜を製造する方法であって、前記疎水性層状無機化合物を含有する疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物を含有する親水性層状無機化合物含有液をベース上に配して乾燥し、前記疎水性層状無機化合物層又は前記親水性層状無機化合物層を前記ベース上に形成し、形成された層状無機化合物層を前記ベースから剥離する第一工程を行った後に、前記疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物含有液の中に浸漬し、浸漬した層状無機化合物層の周囲全体に前記疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物含有液を配して乾燥することにより、前記浸漬した層状無機化合物層とは異なる種類の層状無機化合物層を前記浸漬した層状無機化合物層の周囲全体に形成する第二工程を少なくとも1回行うことを特徴とする。
【0022】
さらに、本発明に係る請求項12の無機化合物膜の製造方法は、請求項11に記載の無機化合物膜の製造方法において、前記第二工程において使用する前記疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物含有液は、前記浸漬した層状無機化合物層を構成する層状無機化合物が分散しないような組成であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項13の電子ペーパーは、請求項1〜7のいずれか一項に記載の無機化合物膜、又は、請求項8〜12のいずれか一項に記載の無機化合物膜の製造方法により得られた無機化合物膜で、少なくとも一部分が構成されたことを特徴とする。
【0023】
さらに、本発明に係る請求項14のフレキシブル基板は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の無機化合物膜、又は、請求項8〜12のいずれか一項に記載の無機化合物膜の製造方法により得られた無機化合物膜で、少なくとも一部分が構成されたことを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項15のフレキシブルプリント基板は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の無機化合物膜、又は、請求項8〜12のいずれか一項に記載の無機化合物膜の製造方法により得られた無機化合物膜で、少なくとも一部分が構成されたことを特徴とする。
【0024】
さらに、本発明に係る請求項16の基板は、非発光有機半導体又はアモルファス無機半導体を備える電子デバイスが実装され、ガスバリア性を有する基板であって、請求項1〜7のいずれか一項に記載の無機化合物膜、又は、請求項8〜12のいずれか一項に記載の無機化合物膜の製造方法により得られた無機化合物膜で、少なくとも一部分が構成されたことを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項17のガスバリア膜は、非発光有機半導体又はアモルファス無機半導体を備える電子デバイスをガスから保護するガスバリア膜であって、請求項1〜7のいずれか一項に記載の無機化合物膜、又は、請求項8〜12のいずれか一項に記載の無機化合物膜の製造方法により得られた無機化合物膜で、少なくとも一部分が構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の無機化合物膜は、耐水性に優れるとともに、高いガスバリア性及び透明性を有する。また、本発明の無機化合物膜の製造方法は、耐水性に優れ高いガスバリア性及び透明性を有する無機化合物膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
従来の層状無機化合物を含有する透明な膜は、高いガスバリア性,柔軟性,及び自立強度を有するものの、大気中に放置しておくとヘイズが増大し、膜が曇って透明性が低下する場合があった。また、水が少し付着しただけで膜が膨潤し層状無機化合物が水に分散して膜としての形態が崩れていくため、水を使ったプロセスで膜を使用することができない等の問題があった。そのため、例えばディスプレイの基板に該膜を用いようとした場合に、基板の表面に付着した異物等を水によって洗い流すことができない。このことは、たとえガスバリア性が高くとも、耐水性のない膜では適用できる用途が非常に限られてしまうことを意味する。
【0027】
ヘイズの増大を抑制し透明性を保ち、且つ耐水性を向上させするために、透明樹脂のような粘土とは異なる組成の層を付与して膜を形成する等の検討も行われたが、それら付与層の耐熱温度が低いため膜の耐熱性が大きく低下したり、温度変化に対する線膨張係数が層状無機化合物層のそれと異なり大きいため、膜が反ったり、応力で膜に欠陥が発生する等の問題が発生する場合があった。
【0028】
そこで、本発明者らは、上記のような問題点を解決するために鋭意検討した結果、水に対する親和性が高く水に分散しやすい親水性層状無機化合物を主要成分とする親水性層状無機化合物層に、有機溶媒に対する親和性が高く有機溶媒に分散しやすい疎水性層状無機化合物を主要成分とし水に対する親和性が低い疎水性層状無機化合物層を積層することにより、高いガスバリア性を有しつつも耐水性に優れ且つ大気中における経時的なヘイズの増大が生じにくい、透明で十分な自立強度を有する無機化合物膜が得られることを見出した。
【0029】
すなわち、本発明の無機化合物膜は、多数の層状無機化合物の粒子が配向して積層した構造を有する層状無機化合物層が2層以上積層されてなる透明な膜であって、有機溶媒に対する親和性が高く有機溶媒に分散しやすい疎水性層状無機化合物のみ又は前記疎水性層状無機化合物と添加剤とで構成される疎水性層状無機化合物層と、水に対する親和性が高く水に分散しやすい親水性層状無機化合物のみ又は前記親水性層状無機化合物と添加剤とで構成される親水性層状無機化合物層と、が積層されてなり、自立膜として利用可能な機械的強度を有し且つ80%以上の全光線透過率を有する。そして、前記親水性層状無機化合物層の上下両面側に前記疎水性層状無機化合物層が配された3層構造であることが好ましい。また、前記親水性層状無機化合物層の全体が前記疎水性層状無機化合物層で包まれた構造を有することが好ましい。
【0030】
上記のような無機化合物膜は、疎水性層状無機化合物層を備えているため、親水性層状無機化合物(例えば、層間にナトリウムやカルシウムといった水和力の強い交換性の無機イオンを有するスメクタイト族の粘土や雲母族の粘土)のみからなる無機化合物膜又は前記親水性層状無機化合物と水溶性樹脂とからなる膜と比較して、耐水性が高い。よって、水が付着しても直ちに無機化合物膜が膨潤して形態が崩れることがなく、水を使ったプロセスでも使用可能である。
【0031】
また、上記のような無機化合物膜は、全光線透過率が80%以上であり、組成やプロセスの最適化により90%以上にすることもでき、透明性が高い。このように、本発明の無機化合物膜は高い光線透過率を有しており透明であるが、さらに、400nm以上800nm以下の波長範囲における光線透過率が80%以上であり、場合によっては85%以上であるため、可視光域全体に渡って肉眼で着色が認められない透明性を有している。
【0032】
また、膜の濁度を示すヘイズ(曇度)の値が5%以下であるため、光の散乱が少なく濁り感のない透明性を有している。なお、ヘイズの値は3%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましく、1%未満であることが最も好ましいが、本発明によればこのような無機化合物膜を得ることもできる。さらに、従来の膜の課題であった経時的なヘイズの増大が生じにくいという優れた性質も有している。
【0033】
そして、全光線透過率が80%以上、400nm以上800nm以下の波長範囲における光線透過率が80%以上、及びヘイズが5%以下という優れた性質を全て備えた、極めて高い透明性を有する無機化合物膜である。さらに、ナノシートが極めて緻密に積層した構造の層状無機化合物層を有していて、膜内部の欠陥の発生が抑制されているため、高いガスバリア性を保持している。
なお、本発明における層状無機化合物の粒子が配向して積層した構造とは、層状無機化合物の層面の向きをなるべく膜面と平行になるようにして積み重ねられた状態をいう。
【0034】
以下に、本発明の無機化合物膜についてさらに詳細に説明する。
本発明において用いる層状無機化合物の種類は特に限定されるものではなく、粘土鉱物,層状ポリケイ酸,層状ケイ酸塩,層状複水酸化物,層状リン酸塩,層状遷移金属酸素酸塩(例えば、チタン・ニオブ酸塩,六ニオブ酸塩,モリブデン酸塩),層状マンガン酸化物,層状コバルト酸化物があげられる。ただし、透明な膜とするためには、層状無機化合物に着色がないこと、若しくは着色の程度が軽微であることが必要である。さらに、溶媒中に分散させた場合に、できる限り単位層であるナノシートまでへき開して分散することが重要である。上記の層状無機化合物として特に好適なものは、粘土鉱物である。
【0035】
粘土鉱物は結晶質鉱物と非晶質鉱物とに大別され、結晶質部分は全て「葉状」を意味するフィロケイ酸塩であり、その葉状たる形状ゆえに、基本的に層状無機化合物を特徴づける層状構造を有している。多くの粘土鉱物の粒子は、主に酸素(O),ケイ素(Si),アルミニウム(Al),マグネシウム(Mg)等で構成される厚さが約0.2nmから約0.5nmの四面体シートや八面体シートが1〜3層積層された層状(板状)の形状を有しており、この粘土鉱物の粒子は、長軸方向の大きさが数十nm〜5μm程度でアスペクト比が大きい。
【0036】
前述の四面体シートや八面体シートについて、さらに詳細に説明する。四面体シートは、多くの場合、Siに4つのOが配位して形成されたSiO4 の四面体がその3つのOを共有しつつ六角の網状につながることで形成される。場合によっては、SiがAlに代わりAlO4 の四面体を形成することもある。それ以外にも、鉄(Fe)等も四面体を作ることがある。
【0037】
これに対して八面体シートは、多くの場合、Alに6つの水酸基(OH)又はOが配位して形成されており、Alの代わりにマグネシウム(Mg)やFeなどでも形成されることがある。また、四面体シートにおいてSiがAl等に置き換わったり、八面体シートにおいてAlがMg等に置き換わること等により、シートの電荷に過不足が発生し、シートが永久電荷を帯びる場合が多い。人工的には、四面体シートや八面体シートに上記以外の元素を制御しつつ導入することも可能であり、磁気特性や光学特性など、様々な物性を変化させる試みも行われている。
【0038】
このような四面体シート又は八面体シートによって、あるいは、これらシートが積層して結合することによって、様々な層状無機化合物が生成する。本発明では、これらのシートが結合した単位層をナノシートと定義する。例えば、四面体シートのみを単位層とするナノシートからなるものとしては、一般に層状ポリケイ酸と呼ばれる一連の鉱物(例えばマガディアイト)をあげることができる。これに対して、正の電荷を帯びた八面体シートと八面体シートとの間に炭酸イオン等の負イオンを有することにより、ハイドロタルサイト類と呼ばれる粘土鉱物の一種が形成されることが知られている。
【0039】
粘土鉱物の多くは、四面体シートと八面体シートとの結合によりナノシートが形成されている。四面体シートと八面体シートとが1:1の割合で結合し積層することによって鉱物としての単位層であるナノシートが形成されている粘土鉱物は、一般にカリオン鉱物と呼ばれており、カリオナイト,ハロイサイト等が有名である。これに対して、四面体シートと八面体シートとが2:1の割合で結合し積層して(すなわち四面体シート−八面体シート−四面体シートなる構成)単位層であるナノシートが形成されている粘土鉱物には、パイロフィライト,タルク,スメクタイト族粘土,バーミキュライト,雲母粘土鉱物等がある。
【0040】
特に、スメクタイト族に属する粘土(例えばモンモリロナイト,サポナイト,ヘクトライト,スチーブンサイト等)は、層間に無機陽イオンを有する一般的なものの場合は、水やアルコールのような高極性溶媒(特に水)に対して均一に分散させることが可能であり、高極性溶媒中で単位層1枚1枚にまでばらばらに分散させることが可能であると言われている。また、雲母族に属する粘土の多くはナノシートの面方向のサイズが大きく、単位層1枚1枚にまでばらばらに分散させることは困難であるものの、ナノコンポジット化によって高いガスバリア性が期待できる。
【0041】
本発明において好適に用いることのできる粘土鉱物の種類は特に限定されるものではなく、天然粘土でも合成粘土でもよい。ただし、一般に天然粘土は不純物の影響等で高い透明性を得にくいため、不純物が少なく透明性の高い無機化合物膜が得られる合成粘土を用いることが好ましい。そのような粘土としては、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、及びノントロナイトのうちの1種以上が好ましく、合成サポナイト、合成ヘクトライト、合成スチーブンサイト、合成雲母、合成ハイドロタルサイト、合成カリオナイト等が好ましいが、溶媒に対する分散性等の点で、スメクタイト族に属する粘土がさらに好ましい。ガスバリア性の観点からは、粘土結晶の層のアスペクト比が大きな天然モンモリロナイトや雲母族に属する粘土、若しくは高アスペクト比のスメクタイト族の粘土等が好ましい。
【0042】
前記層状無機化合物、特にナノシートが電荷を有する粘土鉱物の多くは、水若しくは水と高極性溶媒との混合溶媒に分散する性質を有している親水性層状無機化合物である。したがって、親水性層状無機化合物層を形成する際には、そのような層状無機化合物を用いることが好適であり、分散媒としては水若しくは水を含有する溶媒が一般的である。
なお、層状無機化合物の多くはナノシートが有する電荷の補償としてアルカリ金属イオン,アルカリ土類金属イオン,炭酸イオンといった無機イオンを有しているが、溶媒への分散性が著しく低下しない範囲であれば、それら無機イオンを別のイオンに交換して用いてもよい。
【0043】
例えば、塩化リチウム,硝酸リチウム等の水溶液によってそれら無機イオンをリチウムイオンに交換して用いてもよい。この場合、リチウムイオンに交換した後に高温(例えば300℃以上、好ましくは350℃以上)に加熱することにより、リチウムがナノシートの内部にもぐり込み、ナノシートの負電荷を減少させるので、耐水性を向上させることができる場合がある。
【0044】
あるいは、ナノシートの端部に存在する水酸基を、例えばシランカップリング剤等で化学修飾することにより、ナノシートと添加剤との相互作用又はナノシート同士の相互作用を強めることができるので、これにより耐水性を向上させてもよい。また、水と親和性の高い水酸基を変性させることにより、耐水性を向上させてもよい。
このように、親水性層状無機化合物層としては、水若しくは水を含有する溶媒に分散しうる層状無機化合物を分散した任意の分散液から形成される層のことを示すのであって、その層自体が親水性であるかどうかは問わない。従って、本発明における親水性層状無機化合物層は上記のような何らかの手法によって疎水化されていても良い。
【0045】
これに対して、親水性層状無機化合物は、通常は有機溶媒には分散不可能であり、極性の大きな有機溶媒(例えばN−メチルホルムアミド、ホルムアミド等)でも膨潤するのみに留まる物が多く、層状無機化合物の構成要素である単層のナノシートまでへき開して分散させることは困難である。
層状無機化合物を有機溶媒に分散させるためには、層状無機化合物が電荷を有しているものであれば、アンモニウム塩、フォスフォニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、カルボン酸、アミノ酸、スルフォン酸等の有機イオンを用いて、ナノシートが層間に有する交換性の無機イオンを交換し、ナノシート表面に有機官能基を付与する親有機化処理を施して、有機溶媒への分散性を向上させた疎水性層状無機化合物とすればよい。
【0046】
アンモニウム塩としては、アルキル基、アルコキシ基、ベンジル基、ポリオキシエチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基等を有するアンモニウム塩や、ジメチルジステアリルアンモニウム塩、トリメチルステアリルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩があげられる。また、フォスフォニウム塩やイミダゾリウム塩等は、第4級アンモニウム塩に比べ分解脱離温度が高いため、フォスフォニウム塩やイミダゾリウム塩で親有機化処理した疎水性層状無機化合物自体の耐熱性も高く、無機化合物膜の耐熱性を総合的に向上させるのに好適である。
【0047】
また、カリオナイトのようなナノシートの面に水酸基が露出している層状無機化合物においては、それらナノシートの面に露出した水酸基と有機物とを脱水結合等の化学的処理によって結合させ、表面を有機物で修飾した疎水性層状無機化合物とすることもできる。このようにして疎水性に変性すれば、層状無機化合物を有機溶媒に分散させることができるが、有機溶媒に分散又は溶解する疎水性の添加剤(例えばポリマー)を層状無機化合物が分散した分散液に均一に混合できるため、選択できる添加剤の種類が飛躍的に増大する。そのため、耐水性を有する無機化合物膜が得られるばかりでなく、強度及び寸法安定性等の膜物性を幅広く制御することが可能となり、好適な疎水性層状無機化合物層を得ることができる。なお、本発明においては、1つの層状無機化合物層を1種類の層状無機化合物を用いて形成してもよいし、2種類以上の異なる層状無機化合物を用いて形成してもよい。
【0048】
特に、層状無機化合物の含有量が多い親水性層状無機化合物層はその熱膨張率が低く、一般にその線膨張係数は20ppm/℃以下、好適には10ppm/℃以下であることが多い。そのため、加熱による膜の反りや親水性層状無機化合物層に負荷される応力によるクラックの発生等を抑制するためにも、疎水性層状無機化合物層の線膨張係数を低く抑えることが重要である。そのためには、疎水性層状無機化合物層における層状無機化合物の割合を20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上とすることが重要であり、且つ、疎水性層状無機化合物層は、層状無機化合物を構成するナノシートが配向して積層した構造になっていることが重要である。
【0049】
通常、疎水性層状無機化合物における有機イオンの存在は、ナノシートの層間距離を増大させる。このため、ナノシートを積層した際の緻密さは、親水性層状無機化合物の場合よりも低下する。このため、層間を気体分子が通過しやすくなり、その結果ガスバリア性の低下というデメリットを生じさせる。よって、高いガスバリア性を疎水性層状無機化合物層が担うのは困難であり、高いガスバリア性はナノシートがより緻密に積層した層、本発明であれば親水性層状無機化合物層が担うことで、無機化合物膜全体として高いガスバリア性を有することができる。
【0050】
本発明において用いる添加剤の種類は特に限定されるものではないが、親水性層状無機化合物層に高いガスバリア性を付与するためには、親水性層状無機化合物層中における添加剤の割合は30質量%未満であることが好ましい。すなわち、70質量%以上の層状無機化合物を含有していることが好ましい。なお、添加剤の割合は20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましく、5質量%以下であることが最も好ましい。
【0051】
親水性層状無機化合物層を形成する際の親水性層状無機化合物含有液の溶媒が水又は水を含有する溶媒である場合には、添加剤は親水性を有し水への分散性又は溶解性が高いものが好ましい。例えば、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、セルロース繊維、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸、ポリアミノ酸、多価フェノール、安息香酸類化合物が好適である。
【0052】
あるいは、ラテックスやエマルジョンといった、水分散系の材料を用いてもよい。ただし、これらは水への分散性又は溶解性が高いため、無機化合物膜の耐水性は低いものとなる場合が多い。そこで、塩,他の反応性モノマー,ポリマー,オリゴマー等を加え、例えば光や熱等によってそれらを重合させて、添加剤そのものの耐水性を向上させてもよい。このような方法によって親水性層状無機化合物層を水に対して不溶化させることで、親水性層状無機化合物層を両面側から疎水性層状無機化合物層で挟まなくとも、耐水性のある無機化合物膜とすることもできる。
【0053】
なお、親水性層状無機化合物層の1層の厚さは、十分なガスバリア性を有するために、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましく、3μm以上であることがさらにまた好ましく、6μm以上であることが特に好ましく、10μm以上であることが最も好ましい。ただし、あまり厚くしすぎると、透明性を低下させる原因や表面の凸凹を増大させる原因にもなり得るため、1000μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm未満であることがさらに好ましい。
【0054】
一方、疎水性層状無機化合物層を形成する際の疎水性層状無機化合物含有液の溶媒は有機溶媒であるため、添加剤も疎水性を有し有機溶媒への分散性又は溶解性が高いものが好ましい。前述した通り、疎水性層状無機化合物層のガスバリア性は親水性層状無機化合物層のそれよりもどうしても低い傾向があるが、ある程度のガスバリア性を疎水性層状無機化合物層にも付与し、且つ、無機化合物膜に寸法安定性,耐熱強度,柔軟性,引張り強度,及び曲げ強度を付与するためには、疎水性層状無機化合物層中の添加剤の割合は45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることがさらにまた好ましく、15質量%以下であることが特に好ましく、10質量%以下であることが最も好ましい。
【0055】
このような添加剤としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、非晶性フッ素系樹脂等の熱可塑性樹脂や、エチレン−ビニルアルコール共重合体(例えば株式会社クラレ製のエバール)を用いることができる。
【0056】
また、エポキシ樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、ケイ素樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、アニリン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることもできる。
【0057】
その他では、光硬化性樹脂を用いることもでき、例えば、潜在性光カチオン重合開始剤を含むエポキシ樹脂等があげられる。なお、光硬化性樹脂を硬化させる場合には、光照射と同時に熱を加えてもよい。また、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂には硬化剤、硬化触媒等を併用してもよいが、それらの種類は熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂の硬化に一般的に用いられるものであれば特に限定されない。硬化剤の具体例としては、多官能アミン、ポリアミド、酸無水物、フェノール樹脂があげられる。また、硬化触媒の具体例としては、イミダゾール等があげられる。これらの硬化剤、硬化触媒は単独又は2種以上混合して使用することができる。さらに、上記の樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。無機化合物膜を透明とする必要性があることから、上記の添加剤も透明又は着色が少ないことが好ましい。
【0058】
なお、親水性層状無機化合物層及び疎水性層状無機化合物層に添加する添加剤としては、前述のようなポリマー系のものばかりでなく、必要に応じて、様々なものを選択して用いることができる。例えば、難燃性を付与したい場合には三酸化アンチモンのような無機系難燃剤を、可塑性を付与したい場合にはフタル酸ジメチルのような可塑剤を、加熱時の酸化劣化を抑制したい場合にはヒンダードフェノール、ヒンダードアミンやリン系若しくはイオウ系の酸化防止剤等を添加してもよい。これらの添加剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0059】
疎水性層状無機化合物層の1層の厚さは、十分な膜強度及び耐水性を付与するために、5μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることがさらにまた好ましく、100μm以上であることが特に好ましく、150μm以上であることが最も好ましい。ただし、あまり厚くしすぎると、透明性を低下させる原因や表面の凸凹を増大させる原因にもなり得るため、10000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましい。
【0060】
親水性層状無機化合物及び親水性を有する添加剤を分散又は溶解させる溶媒としては、水が好ましいが、それ以外では、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エタノール等の有機物や塩などを混合した水を用いることもできる。有機物,塩などを添加する目的は、層状無機化合物が分散した分散液における層状無機化合物の分散性を変化させる、前記分散液の粘性を変化させる、無機化合物膜の乾燥のしやすさを変化させる、無機化合物膜の均一性を向上させる等である。
【0061】
また、疎水性層状無機化合物及び疎水性を有する添加剤を分散又は溶解させる溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、エチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、n−オクタン等の脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素等を用いることができる。また、その他には、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、フタル酸ジオクチル、ジメチルスルホキシド、メチルセルソルブ等を用いることができる。疎水性層状無機化合物が分散可能な有機溶媒の種類は、疎水性を発現させるナノシート表面の有機官能基の種類に大きく依存するため、適切なものを選択する必要がある。
【0062】
このような本発明の無機化合物膜は、以下のようにして製造することができる。すなわち、本発明の無機化合物膜は、疎水性層状無機化合物層と親水性層状無機化合物層とを交互に形成して積層することにより製造することができる。詳述すると、疎水性層状無機化合物を含有する疎水性層状無機化合物含有液又は親水性層状無機化合物を含有する親水性層状無機化合物含有液をベース上に配して乾燥し、疎水性層状無機化合物層又は親水性層状無機化合物層をベース上に形成する第一工程を行った後に、疎水性層状無機化合物含有液又は親水性層状無機化合物含有液を下層の層状無機化合物層上に配して乾燥することにより前記下層の層状無機化合物層とは異なる種類の層状無機化合物層を前記下層の層状無機化合物層上に形成する第二工程を少なくとも1回行うことによって製造することができる。
【0063】
例えば、疎水性層状無機化合物が有機溶媒に分散した疎水性層状無機化合物含有液をベースの表面に配し乾燥させて疎水性層状無機化合物層を形成した後に、親水性層状無機化合物が水に分散した親水性層状無機化合物含有液を疎水性層状無機化合物層の表面に配し乾燥させて親水性層状無機化合物層を形成し、再度、疎水性層状無機化合物含有液を親水性層状無機化合物層の表面に配し乾燥させて疎水性層状無機化合物層を形成してベースから剥離すると、3層構造の無機化合物膜を得ることができる。親水性層状無機化合物層と疎水性層状無機化合物層とが交互に積層されていれば、無機化合物膜を構成する層状無機化合物層の数は特に限定されるものではない。すなわち、第二工程は1回以上であれば何回行ってもよい。
【0064】
よって、本発明の無機化合物膜において最小のものは、前述のように親水性層状無機化合物層と疎水性層状無機化合物層とが1層ずつ積層されたものである。この場合は、疎水性層状無機化合物層側の耐水性は問題なく、且つ、疎水性層状無機化合物層が一般に有する高い強度や寸法安定性によって無機化合物膜の性能が高められている。ただし、このような2層構造では、親水性層状無機化合物層に耐水性がないと膜全体としての耐水性は不十分となる。
【0065】
よって、図1に示すような、親水性層状無機化合物層2の上下両面側に疎水性層状無機化合物層1,1が配された3層構造の無機化合物膜が特に好ましい。このような無機化合物膜は、親水性層状無機化合物層2の上下両面が疎水性層状無機化合物層1,1で覆われた構造となっているので、耐水性に優れ、水分が侵入しにくい。その結果、経時的なヘイズの増大が生じにくく、親水性層状無機化合物層2の高いガスバリア性能が長期間にわたって保持される。また、最小限の数の層でこのような効果を発現させることができるため、膜厚の増大や多層化に伴う透明性の低下が最小限で抑えられるとともに、少ない工程数で無機化合物膜を製造することができるため、量産に適している。
【0066】
ただし、親水性層状無機化合物層と疎水性層状無機化合物層とが1層ずつ積層されたもの(2層構造)であっても、何らかの方法により親水性層状無機化合物層の耐水性を十分に向上できれば、耐水性に優れ、柔軟性及びガスバリア性を有し、寸法安定性も優れた透明な無機化合物膜を得ることが可能である。すなわち、親水性層状無機化合物層を形成した後に、熱や光といった外部刺激により親水性を発現している要素を除去する方法(例えば、前述のリチウムによる電荷の減少といった方法や、前記外部刺激等により重合して疎水化する添加剤を用いる方法)等の公知の技術を用いた方法により、親水性層状無機化合物層の耐水性を向上すればよい。
【0067】
よって、仮に親水性層状無機化合物層の耐水性を十分向上できるならば、図1に示したものとは反対に、疎水性層状無機化合物層の上下両面側に親水性層状無機化合物層が配された3層構造の無機化合物膜でもよい。この場合は、ガスバリア性の高い親水性層状無機化合物層を2層備えているため、非常に高いガスバリア性が発現する。
なお、前述の製造方法においては、第一工程における乾燥は、層状無機化合物層が完全な乾燥状態に至るまで行わなくてもよく、第二工程において層状無機化合物含有液を配した際に、その含有液と下層の層状無機化合物層との混合が起きず、実質的に多層構造が形成できる程度に乾燥してあればよい。例えば、チクソトロピー性が高く下層の層状無機化合物層上に配した後に短時間でゲル状に凝固するような層状無機化合物含有液を用いるのであれば、下層の層状無機化合物層が完全に乾燥する前であっても第二工程に供することが可能である。
【0068】
また、前述の製造方法において、第二工程を行う前に、第一工程によりベース上に形成された層状無機化合物層をベースから剥離し、その剥離した層状無機化合物層の上下両面又は片面に対して、前記第二工程を少なくとも1回行ってもよい。層状無機化合物含有液を下層の層状無機化合物層上に配する際には、バーコーティング等で層状無機化合物含有液を塗布する方法を用いるとよい。
【0069】
さらに、前記第二工程において使用する疎水性層状無機化合物含有液又は親水性層状無機化合物含有液は、前記下層の層状無機化合物層を構成する層状無機化合物が分散しないような組成であることが好ましい。ここで、下層の層状無機化合物層を構成する層状無機化合物が分散しないような層状無機化合物含有液の組成について説明する。下層が疎水性層状無機化合物層である場合には、前記第二工程において親水性層状無機化合物含有液を使用するが、親水性層状無機化合物及び親水性を有する添加剤を分散又は溶解させる溶媒が、親水性層状無機化合物含有液中の液体の主成分であるような組成を意味する。一方、下層が親水性層状無機化合物層である場合には、前記第二工程において疎水性層状無機化合物含有液を使用するが、疎水性層状無機化合物及び疎水性を有する添加剤を分散又は溶解させる溶媒が、疎水性層状無機化合物含有液中の液体の主成分であるような組成を意味する。
【0070】
さらに、本発明の無機化合物膜は、以下のような浸漬法によっても製造することができる。すなわち、本発明の無機化合物膜は、疎水性層状無機化合物を含有する疎水性層状無機化合物含有液又は親水性層状無機化合物を含有する親水性層状無機化合物含有液をベース上に配して乾燥し、疎水性層状無機化合物層又は親水性層状無機化合物層をベース上に形成し、形成された層状無機化合物層をベースから剥離する第一工程を行った後に、疎水性層状無機化合物含有液又は親水性層状無機化合物含有液の中に浸漬し、浸漬した層状無機化合物層の周囲全体に疎水性層状無機化合物含有液又は親水性層状無機化合物含有液を配して乾燥することにより、前記浸漬した層状無機化合物層とは異なる種類の層状無機化合物層を前記浸漬した層状無機化合物層の周囲全体に形成する第二工程を少なくとも1回行うことによって製造することができる。
【0071】
なお、この第二工程において使用する疎水性層状無機化合物含有液又は親水性層状無機化合物含有液は、前記浸漬した層状無機化合物層を構成する層状無機化合物が分散しないような組成であることが好ましい。ここで、浸漬した層状無機化合物層を構成する層状無機化合物が分散しないような層状無機化合物含有液の組成について説明する。浸漬した層状無機化合物層が疎水性層状無機化合物層である場合には、前記第二工程において親水性層状無機化合物含有液を使用するが、親水性層状無機化合物及び親水性を有する添加剤を分散又は溶解させる溶媒が、親水性層状無機化合物含有液中の液体の主成分であるような組成を意味する。一方、浸漬した層状無機化合物層が親水性層状無機化合物層である場合には、前記第二工程において疎水性層状無機化合物含有液を使用するが、疎水性層状無機化合物及び疎水性を有する添加剤を分散又は溶解させる溶媒が、疎水性層状無機化合物含有液中の液体の主成分であるような組成を意味する。
【0072】
層状無機化合物含有液は、例えば層状無機化合物を溶媒に加えて激しく振とうし、層状無機化合物が溶媒に均一に分散した分散液を得た後に、必要に応じて適当な添加剤又は添加剤を分散若しくは溶解させた溶液を加え、さらに激しく振とうすることにより調製することができる。このとき、常温よりも高い温度で振とうすることによって、層状無機化合物の分散を促進することができ、また添加剤をより均一に混合することができる。さらに、必要に応じて、ホモジナイザーや超音波等の層状無機化合物の分散に好適な公知の手法を用いて、層状無機化合物及び添加剤をより分散させてもよい。
【0073】
層状無機化合物含有液の粘性は低くても差し支えないが、粘性が高く流動性の低いペースト状の層状無機化合物含有液を用いることが好ましい。ペースト状の層状無機化合物含有液は、溶媒を揮発させて濃縮するなどして固形比をより高くする方法や、増粘剤などを加える方法により調製することができる。固形分濃度を高くしてペースト状とした層状無機化合物含有液を用いることにより、短時間で乾燥を完了することができる。また、同様の層状無機化合物含有液を用いることにより、ベースに塗布した層状無機化合物含有液が低い流動性ゆえに流れ出さないなどの利点が得られる。層状無機化合物含有液が流れ出す心配がないため、仕切られた容器等のような流れ出し防止構造を有するベースを用いる必要はない。
【0074】
塗布等によりベース上に配した層状無機化合物含有液に気泡が混入していると、加熱乾燥時に気泡が膨張するために無機化合物膜の表面に円形の膨れ上がりが発生したり、透明性の低い無機化合物膜が得られる等の問題が生じるおそれがある。よって、ベース上に配する前の層状無機化合物含有液に、真空脱泡等の脱気処理を施すことが好ましい。真空脱泡は層状無機化合物含有液の粘度を低下させた状態で行うことが望ましく、そのために常温よりも高い温度で、且つ、層状無機化合物含有液を攪拌しながら行うことがより好ましい。
【0075】
このようにして得られた層状無機化合物含有液をベースの表面に一定の厚さで塗布した後に、溶媒をゆっくりと除去して無機化合物膜を形成する。溶媒を除去する方法は特に限定されるものではないが、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、不活性ガス雰囲気下放置、及び加熱蒸発法が好ましい。あるいは、これらの方法のうちの複数を組み合わせてもよい。
【0076】
これらの方法のうち例えば加熱蒸発法を用いる場合は、平坦なトレイをベースとして用い、これに層状無機化合物含有液を塗布するとよい。トレイの材質としては真鍮等の平滑な材料であれば特に限定されるものではないが、乾燥後にベースに無機化合物膜が貼り付かず容易に無機化合物膜が剥離するようにするためには、撥水性の強いポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等の材料を用いることが好ましい。あるいは、ベースのうち層状無機化合物含有液を塗布する部分に、フッ素樹脂コーティングやチタニアコーティング等の撥水処理を行うことも好ましい。
【0077】
なお、ベースの表面はできる限り平滑であることが好ましい。平滑でない場合には、無機化合物膜の表面にベースの表面の荒れが転写されるため無機化合物膜表面の平坦性を低下させ、光が乱反射し、ヘイズを増大させる原因となる。
層状無機化合物含有液をベースの表面に塗布したら、強制送風式オーブン中若しくはホットプレート上において、30℃以上90℃以下(好ましくは50℃以上70℃以下)の温度条件下で、10分以上7時間以下(好ましくは20分以上3時間以下)乾燥すれば無機化合物膜が得られる。
【0078】
このような製造方法によれば、耐水性に優れ、空気中における経時的なヘイズの増大が生じにくい透明な無機化合物膜を製造することができる。よって、例えばディスプレイに使用される透明フィルム材料のような、高い透明性が必要とされるとともに製造プロセスにおいて水を用いる工程があるために耐水性が求められる透明フィルム材料を提供することができる。
【0079】
得られた無機化合物膜は、例えば電気泳動駆動式、電子粉流体方式等のフレキシブル電子ペーパーの基板又はガスバリア膜として用いることができる。その他には、透明でフレキシブルである特長を生かすとともに、無機物である層状無機化合物の紫外線に対する高い耐久性を生かして、太陽電池の基板にも好適に使用可能である。さらに、絶縁性である特徴を生かして、電気回路のフレキシブル基板、及び、基板上の導体部分を導電性インクの塗布又は印刷で形成したフレキシブルプリント基板にも好適に使用可能である。フレキシブル基板又はフレキシブルプリント基板の用途に用いた場合には、透明であるため電子部品を実装する際にカメラによる位置合わせが容易であるという利点も有する。このようなフレキシブル基板及びフレキシブルプリント基板の好適な用途としては、RFIDタグの基板、銅張積層板等があげられる。
【0080】
また、ペンタセンやチオフェン類に代表される有機半導体は、一般に酸素や水分によって劣化しやすく、またアモルファス無機半導体も、有機半導体ほどではないが酸素や水分の影響を受けやすい。そのため、それらを用いたディスプレイ等のデバイスでは、酸素や水蒸気の侵入を十分に阻止する必要がある。本発明の無機化合物膜は高いガスバリア性を有しているため、酸素や水分等により劣化しやすい有機半導体やアモルファス無機半導体を有する電子デバイス用のフレキシブル基板や、有機半導体やアモルファス無機半導体を酸素や水蒸気等のガスから保護するガスバリア膜としても好適に使用可能である。
【0081】
なお、前述した電子ペーパー,フレキシブル基板,フレキシブルプリント基板,有機半導体,又はアモルファス無機半導体を有する電子デバイス等に対して、本発明の無機化合物膜を適用する際には、無機化合物膜をそのまま適用してもよいし、必要に応じて無機化合物膜に別の機能を有する膜(例えば、主として無機材料からなる水蒸気バリア膜、樹脂材料等からなる補強材、傷等を防ぐ保護層、表面を平滑化する平滑化層)等を付与して用いてもよい。
【0082】
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
〔実施例1〕
親水性層状無機化合物として合成サポナイト(クニミネ工業株式会社製のスメクトンSA)を、疎水性層状無機化合物として親有機化処理した合成ヘクトライト(コープケミカル株式会社製のルーセントタイトSEN)を、水を溶媒として用いた親水性層状無機化合物含有液への添加剤としてポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を、それぞれ使用した。
親水性層状無機化合物10.2gと純水594mlとを回転子とともにプラスチック製密封容器に入れ、25℃で2時間激しく振とうして親水性層状無機化合物分散液を得た。また、ポリアクリル酸ナトリウム1.8gと純水594mlとを回転子とともにプラスチック製密封容器に入れ、25℃で2時間激しく振とうした後に、さらにホモジナイザーで7分間撹拌して、添加剤分散液を得た。
【0083】
次に、この親水性層状無機化合物分散液と添加剤分散液とを回転子とともにプラスチック製密封容器に入れ、25℃で2時間激しく振とうした後に、さらにホモジナイザーで20分間撹拌して、水を溶媒とする親水性層状無機化合物含有液を得た。そして、この親水性層状無機化合物含有液を真空脱泡装置に入れ、脱気を行った。
B4サイズの真鍮製トレイ内に、剥離性付与剤としてシリコーン樹脂を表面に塗布した厚さ50μmのPETフィルム(大成ラミネーター株式会社製)を入れ、PETフィルムのシリコーン樹脂が塗布された面に親水性層状無機化合物含有液を塗布した。親水性層状無機化合物含有液の塗布にはステンレス製地べらを用い、スペーサーをガイドとして利用することにより、均一な厚さの親水性層状無機化合物含有液膜を形成した。
【0084】
このトレイを強制送風式オーブン内に入れ、60℃の温度条件下で約6時間加熱して乾燥させた。乾燥後、形成された親水性層状無機化合物層をPETフィルムから剥離し、厚さ約26μmの均一な親水性層状無機化合物膜を得た。
この親水性層状無機化合物膜のガスバリア性を確認するために、日本分光株式会社製のガス透過量測定装置「Gasperm−100」で酸素の透過係数を測定した。その結果、室温における酸素の透過係数が、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、高いガスバリア性を有することが分かった。
【0085】
次に、疎水性層状無機化合物1gとN−メチルピロリドン99gとを回転子とともにプラスチック製密封容器に入れ、2日放置した後に、25℃で1時間激しく振とうして疎水性層状無機化合物含有液を得た。
このN−メチルピロリドンを溶媒とする疎水性層状無機化合物含有液を金属製のトレイに入れ、そこに前述のように製造した親水性層状無機化合物層(透明膜)を浸漬した。そして、トレイをホットプレートの上に載置し、80℃にて約4時間加熱してN−メチルピロリドンを揮発させ、疎水性層状無機化合物含有液の固形分濃度を上げた。その後、周囲全体に疎水性層状無機化合物含有液が配された状態の親水性層状無機化合物層を金属製トレイから引き上げ、シリコーン樹脂を表面に塗布したPETフィルムの上に広げ、ホットプレートの上で80℃にて約4時間加熱して乾燥させた。その結果、厚さ約28μmで、親水性層状無機化合物層の全体が疎水性層状無機化合物層で包まれた構造の透明な無機化合物膜を得た。
【0086】
得られた無機化合物膜の引張強度は34MPaであり、自立膜として使用可能な機械的強度を有していた。また、透明度が高く、フレキシビリティーに優れていた。
無機化合物膜の柔軟性を確認するため、半径6mmの円筒状に湾曲させたが、クラックなどは発生せず、何の欠陥も生じなかった。また、無機化合物膜の透明性を可視紫外分光光度計で測定したところ、344nmから800nmまでの範囲で80%以上の透過率を有し、着色は認められなかった。さらに、日本電色工業株式会社製の濁度計「NDH2000」で測定した無機化合物膜の全光線透過率は91.3%であり、ヘイズ(曇度)は3.4%であった。
この無機化合物膜を、温度24℃、湿度45%に保持された空気中で1週間放置した後に、前述と同様にして全光線透過率とヘイズ(曇度)とを測定したところ、全光線透過率は91.9%で、ヘイズ(曇度)は4.6%であった。
また、この無機化合物膜に水を滴下すると、水は無機化合物膜の表面で撥水状態となって流れ落ち、無機化合物膜に変化は認められなかった。
【0087】
〔実施例2〕
親水性層状無機化合物として合成サポナイト(クニミネ工業株式会社製のスメクトンSA)を、疎水性層状無機化合物として親有機化処理した合成ヘクトライト(コープケミカル株式会社製のルーセントタイトSAN)を、水を溶媒として用いた親水性層状無機化合物含有液への添加剤としてポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を、疎水性層状無機化合物含有液への添加剤としてポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製のエスレックBX−1)を、それぞれ使用した。
疎水性層状無機化合物8gとメタノール19.2g及びトルエン172.8gとを回転子とともに容量300mlの三角フラスコに入れ、25℃で2時間攪拌して均一な疎水性層状無機化合物分散液を得た。また、ポリビニルブチラール2gとトルエン2g及びテトラヒドロフラン46gとを回転子とともに容量100mlの三角フラスコに入れ、25℃で2時間攪拌して均一な添加剤含有液を得た。
【0088】
次に、この疎水性層状無機化合物分散液170gと添加剤含有液30gとを回転子とともに容量300mlの三角フラスコに入れ、25℃で2時間撹拌して、均一な疎水性層状無機化合物含有液を得た。そして、約25℃の疎水性層状無機化合物含有液を減圧脱気装置に入れ、約5分間、回転子で攪拌しながら十分に脱気を行った。
深さ3mmの金属製トレイのうち平坦部分に、離型剤を塗布したPET製フィルムを敷き、その上にこの疎水性層状無機化合物含有液を流し入れた。そして、金属製トレイの上部にガラス棒を載置して移動させることにより、余分な疎水性層状無機化合物含有液を除去した。これにより、均一な厚さの疎水性層状無機化合物含有液膜を形成した。この金属製トレイをホットプレート上に置き、60℃の温度条件下で約4時間加熱して乾燥し、PET製フィルム上に疎水性層状無機化合物層を形成した。
【0089】
次に、実施例1と全く同様にして得た脱気済みの親水性層状無機化合物含有液を、上記のようにして作製した疎水性層状無機化合物層上に流し込み、厚さ約2mmの疎水性層状無機化合物含有液膜を形成した。そして、この金属製トレイを強制送風式オーブン内に入れ、60℃の温度条件下で約7時間加熱して乾燥させ、PET製フィルムを剥離すると、疎水性層状無機化合物層(厚さは約17μm)と親水性層状無機化合物層(厚さは約50μm)との2層が積層した無機化合物膜(膜厚は約67μm)が得られた。
この無機化合物膜について、実施例1と同様の測定を行ったところ、316nmから800nmまでの範囲では80%以上の透過率を有し、376nmから800nmまでの範囲では85%以上の透過率を有し、着色は認められなかった。また、全光線透過率は91.9%であり、ヘイズ(曇度)は2.0%であった。
【0090】
〔実施例3〕
実施例2と全く同様にして、疎水性層状無機化合物層(厚さは約17μm)と親水性層状無機化合物層(厚さは約50μm)との2層が積層した無機化合物膜(膜厚は約67μm)を作製した。ただし、PET製フィルムから剥離はせずに、PET製フィルムが金属製トレイの底面に接するようにして金属製トレイ上に置き、実施例2と全く同様にして作製した疎水性層状無機化合物含有液を、2層が積層した無機化合物膜上に流し込み、厚さ約3mmの疎水性層状無機化合物含有液膜を形成した。
【0091】
そして、この金属製トレイを強制送風式オーブン内に入れ、60℃の温度条件下で約7時間加熱して乾燥させ、PET製フィルムを剥離すると、親水性層状無機化合物層が疎水性層状無機化合物層によって挟まれた構造を有する、3層が積層した無機化合物膜(膜厚は約140μm)が得られた。実施例1と同様の試験により、この無機化合物膜のフレキシビリティーが優れていることが分かった。
【0092】
また、この無機化合物膜について、実施例1と同様の測定を行ったところ、367nmから800nmまでの範囲では80%以上の透過率を有し、391nmから800nmまでの範囲では85%以上の透過率を有し、着色は認められなかった。また、全光線透過率は91.4%であり、ヘイズ(曇度)は3.6%であった。
次に、この無機化合物膜を、温度24℃、湿度45%に保持された空気中で1週間放置した後に、前述と同様にして全光線透過率とヘイズ(曇度)とを測定したところ、全光線透過率は91.3%であり、ヘイズ(曇度)は3.4%であった。
さらに、この無機化合物膜を水平に置き、膜面に水を滴下し6時間放置したが、目視及び触診で分かる変化は全く認められなかった。
【0093】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして、親水性層状無機化合物とポリアクリル酸ナトリウムとを含有する親水性層状無機化合物層をPETフィルム上に形成し、PETフィルムから剥離した。得られた透明な無機化合物膜は1層構造であり、厚さは約22μmであった。
この無機化合物膜について、実施例1と同様の測定を行ったところ、264nmから800nmまでの範囲では80%以上の透過率を有し、着色は認められなかった。また、全光線透過率は91.7%であり、ヘイズ(曇度)は2.3%であった。
次に、この無機化合物膜を、温度24℃、湿度45%に保持された空気中で1週間放置した後に、前述と同様にして全光線透過率とヘイズ(曇度)とを測定したところ、全光線透過率は91.3%であり、ヘイズ(曇度)は21.4%であった。
さらに、この無機化合物膜に水を滴下すると、滴下部分は直ちに膨潤しゲル状になって、元の膜の形態を留めなかった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の無機化合物膜は、親水性層状無機化合物層によって高いガスバリア性を有し、且つ、耐水性に優れるとともに経時的なヘイズの増大が生じにくいので、ディスプレイ用のフィルム基板やガスバリア膜に好適であり、さらには薬品や食品の包装用フィルム等にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】3層構造を有する無機化合物膜の構造を示す断面図である。
【図2】無機化合物膜の紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0096】
1 疎水性層状無機化合物層
2 親水性層状無機化合物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の層状無機化合物の粒子が配向して積層した構造を有する層状無機化合物層が2層以上積層されてなる無機化合物膜において、
有機溶媒に対する親和性が高く有機溶媒に分散しやすい疎水性層状無機化合物のみ又は前記疎水性層状無機化合物と添加剤とで構成される疎水性層状無機化合物層と、水に対する親和性が高く水に分散しやすい親水性層状無機化合物のみ又は前記親水性層状無機化合物と添加剤とで構成される親水性層状無機化合物層と、が積層されてなり、自立膜として利用可能な機械的強度を有し且つ80%以上の全光線透過率を有することを特徴とする無機化合物膜。
【請求項2】
前記疎水性層状無機化合物及び前記親水性層状無機化合物は、合成により得られた粘土鉱物よりなることを特徴とする請求項1に記載の無機化合物膜。
【請求項3】
ガスバリア性を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無機化合物膜。
【請求項4】
前記親水性層状無機化合物層の上下両面側に前記疎水性層状無機化合物層が配された3層構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の無機化合物膜。
【請求項5】
前記親水性層状無機化合物層の全体が前記疎水性層状無機化合物層で包まれた構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の無機化合物膜。
【請求項6】
ヘイズが5%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の無機化合物膜。
【請求項7】
400nm以上800nm以下の波長範囲における光線透過率が80%以上95%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の無機化合物膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の無機化合物膜を、前記疎水性層状無機化合物層と前記親水性層状無機化合物層とを交互に形成して積層することにより製造する方法であって、前記疎水性層状無機化合物を含有する疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物を含有する親水性層状無機化合物含有液をベース上に配して乾燥し、前記疎水性層状無機化合物層又は前記親水性層状無機化合物層を前記ベース上に形成する第一工程を行った後に、前記疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物含有液を下層の層状無機化合物層上に配して乾燥することにより前記下層の層状無機化合物層とは異なる種類の層状無機化合物層を前記下層の層状無機化合物層上に形成する第二工程を少なくとも1回行うことを特徴とする無機化合物膜の製造方法。
【請求項9】
前記第二工程を行う前に、前記第一工程により前記ベース上に形成された層状無機化合物層を前記ベースから剥離し、その剥離した層状無機化合物層の上下両面又は片面に対して、前記第二工程を少なくとも1回行うことを特徴とする請求項8に記載の無機化合物膜の製造方法。
【請求項10】
前記第二工程において使用する前記疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物含有液は、前記下層の層状無機化合物層を構成する層状無機化合物が分散しないような組成であることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の無機化合物膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1,2,3,5のいずれか一項に記載の無機化合物膜を製造する方法であって、前記疎水性層状無機化合物を含有する疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物を含有する親水性層状無機化合物含有液をベース上に配して乾燥し、前記疎水性層状無機化合物層又は前記親水性層状無機化合物層を前記ベース上に形成し、形成された層状無機化合物層を前記ベースから剥離する第一工程を行った後に、前記疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物含有液の中に浸漬し、浸漬した層状無機化合物層の周囲全体に前記疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物含有液を配して乾燥することにより、前記浸漬した層状無機化合物層とは異なる種類の層状無機化合物層を前記浸漬した層状無機化合物層の周囲全体に形成する第二工程を少なくとも1回行うことを特徴とする無機化合物膜の製造方法。
【請求項12】
前記第二工程において使用する前記疎水性層状無機化合物含有液又は前記親水性層状無機化合物含有液は、前記浸漬した層状無機化合物層を構成する層状無機化合物が分散しないような組成であることを特徴とする請求項11に記載の無機化合物膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の無機化合物膜、又は、請求項8〜12のいずれか一項に記載の無機化合物膜の製造方法により得られた無機化合物膜で、少なくとも一部分が構成されたことを特徴とする電子ペーパー。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の無機化合物膜、又は、請求項8〜12のいずれか一項に記載の無機化合物膜の製造方法により得られた無機化合物膜で、少なくとも一部分が構成されたことを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の無機化合物膜、又は、請求項8〜12のいずれか一項に記載の無機化合物膜の製造方法により得られた無機化合物膜で、少なくとも一部分が構成されたことを特徴とするフレキシブルプリント基板。
【請求項16】
非発光有機半導体又はアモルファス無機半導体を備える電子デバイスが実装され、ガスバリア性を有する基板であって、請求項1〜7のいずれか一項に記載の無機化合物膜、又は、請求項8〜12のいずれか一項に記載の無機化合物膜の製造方法により得られた無機化合物膜で、少なくとも一部分が構成されたことを特徴とする基板。
【請求項17】
非発光有機半導体又はアモルファス無機半導体を備える電子デバイスをガスから保護するガスバリア膜であって、請求項1〜7のいずれか一項に記載の無機化合物膜、又は、請求項8〜12のいずれか一項に記載の無機化合物膜の製造方法により得られた無機化合物膜で、少なくとも一部分が構成されたことを特徴とするガスバリア膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−313891(P2007−313891A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116608(P2007−116608)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】