説明

無機繊維成形体の製造方法

【課題】嵩密度が小さく、均質な無機繊維成形体の製造が容易な無機繊維成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】無機繊維と有機バインダーと無機バインダーを含む水スラリーを抄造後乾燥する方法において、有機バインダーとして(メタ)アクリル酸エステル共重合体とポリオキシエチレンアルキルエーテルを併用することを特徴とする無機繊維成形体の製造方法である。この場合において、水スラリーの無機繊維の含有率が0.2〜3.0質量%、有機バインダーが0.01〜0.3質量%、無機バインダーが0.01〜0.3質量%であること、無機繊維がアルミナ/シリカの質量比が97/3〜90/10のアルミナ質繊維であること、(メタ)アクリル酸エステル共重合体がアクリル酸ブチル共重合体であり、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがポリオキシエチレンラウリルエーテルであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば携帯電話等に使用される積層セラミックコンデンサーは、水素、一酸化炭素、ナトリウム等の還元物質やアルカリ物質を含む雰囲気下、1400℃程度で焼成する工程を経て製造されている。このような過酷な焼成から炉を保護するため、アルミナ質繊維成形体からなる炉材が用いられているが、還元物質やアルカリ物質による浸食と加熱、冷却によるスポーリングが激しく、頻繁に補修が必要であった。これらを解決するには、アルミナ含有率が高く、均質で、嵩密度のできるだけ小さい炉材を用いればよいが、通常のアルミナ含有率が70質量%以上のアルミナ質繊維成形体、すなわちアルミナ質繊維と有機バインダーと無機バインダーを含む水スラリーを抄造した後乾燥して製造されたアルミナ質繊維成形体では、その嵩密度が0.25程度である(特許文献1)ので、上記雰囲気下における耐久性が十分とはいえなかった。嵩密度をより小さくするには、水スラリーの調製時間を短くする等の方法が考えられるが、均質な繊維成形体が得られにくくなる問題があった。
【特許文献1】特開平10−194863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、嵩密度が小さく、均質な無機繊維成形体とすることが容易な無機繊維成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、無機繊維と有機バインダーと無機バインダーを含む水スラリーを抄造後乾燥する方法において、有機バインダーとして(メタ)アクリル酸エステル共重合体とポリオキシエチレンアルキルエーテルを併用することを特徴とする無機繊維成形体の製造方法である。この場合において、水スラリーの無機繊維の含有率が0.2〜3.0質量%、有機バインダーが0.01〜0.3質量%、無機バインダーが0.01〜0.3質量%であること、無機繊維がアルミナ/シリカの質量比が97/3〜90/10のアルミナ質繊維であること、(メタ)アクリル酸エステル共重合体がアクリル酸ブチル共重合体であり、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがポリオキシエチレンラウリルエーテルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、積層セラミックコンデンサー等の焼成炉のように、還元物質又はアルカリ物質を含む高温の雰囲気中に曝されても、また、加熱、冷却を繰り返しても損耗を少なくすることのできる、嵩密度が小さく、均質な無機繊維成形体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
無機繊維と有機バインダーと無機バインダーを含む水スラリーを抄造法によりフェルト、ボード等の無機繊維成形体とすることは知られている(特開2002−321986号公報)。詳述すれば、底面に網板を備えた箱型容器に水スラリーを流し込み、網の下方で吸引しながら脱水し、網面上のケーキを乾燥する方式、水スラリー中に吸引機構を備えた平網を沈め、吸引して漉き上げたケーキを乾燥する方式、丸網抄造機、長網抄造機等の連続抄造設備を用いる方式等である。ケーキの乾燥は熱風乾燥で行われる。
【0007】
無機繊維としては、例えばチタニア、アルミナ、シリカ等の酸化物繊維の少なくとも一種が用いられ、中でもアルミナ/シリカの質量比が97/3〜90/10であるアルミナ質繊維が還元物質又はアルカリ物質への耐久性が大きいので好ましい。アルミナ質繊維は、例えばアルミニウム塩水溶液と、シリカゾル分散体と、例えばポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、澱粉等の紡糸助剤とを含有し、粘度が300〜5000mPa・sである紡糸原液を、0.1〜1.0mmのノズルより液糸として押し出し、150〜700℃の乾燥気流によって乾燥固化させることによって製造することができる(特開2002−321986号公報)。
【0008】
有機バインダーとしては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とポリオキシエチレンアルキルエーテルを併用する。有機系バインダーの使用量は、無機繊維100質量部に対して5〜20質量部が好ましく、10〜15質量部がより好ましい。
【0009】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル同士の共重合体、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマーとの共重合体等を用いることができる。また、(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル及び(メタ)アクリル酸ラウリル等を用いることができる。一方、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えば化学式R1−(OCH2CH2)n−OH(R1は、炭素数が好ましくは10〜16のアルキル基、nは好ましくは1〜5の整数)で示される化合物等を用いることができる。具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル等である。
【0010】
これらのなかでも、(メタ)アクリル酸エステル共重合体としてアクリル酸ブチル共重合体を、またポリオキシエチレンアルキルエーテルとしてポリオキシエチレンラウリルエーテルを選択し、(メタ)アクリル酸エステル共重合体/ポリオキシエチレンアルキルエーテルの質量比が97/3〜85/15とし、アルミナ/シリカの質量比が97/3〜90/10であるアルミナ質繊維と組合せて使用したときに、均質な無機繊維成形体が得られ易く、また容易に嵩密度を小さくすることができる。
【0011】
無機バインダーとしては、例えばシリカゾル、アルミナゾル等が用いられるが、中でもシリカゾルが好ましい。無機バインダーの使用量は、無機繊維成形体の加熱収縮率を低く保持する点から、無機繊維100質量部に対して2〜15質量部が好ましく、5〜10質量部がより好ましい。
【0012】
水スラリーの組成の一例を示せば、無機繊維の含有率が0.2〜3.0質量%、有機バインダーが0.01〜0.3質量%、無機バインダーが0.01〜0.3質量%、水95〜99.7質量%である。なかでも、無機繊維の含有率が0.5〜1.5質量%、有機バインダーが0.03〜0.10質量%、無機バインダーが0.03〜0.10%、水98.0〜99.5質量%であることが好ましい。
【0013】
無機繊維成形体の嵩密度は0.18g/cm3以下が好ましく、0.09〜0.13g/cm3がより好ましい。0.18g/cm3をこえると空隙率が低くなり、焼成炉の最内層に使用した場合に、繰り返しの急速な加熱、冷却により耐スポーリング性が若干劣ってしまう。嵩密度の調節は、水スラリーの調製時間(混合時間)の調整によって行うことができる。嵩密度は、無機繊維成形体の質量をその体積で除することにより求められる。
【0014】
無機繊維成形体の厚みは20〜50mmが好ましい。厚みは、脱型したケーキのプレス圧力の調整によって調節することができる。
【0015】
無機繊維成形体は、例えばフェルト、ペーパー、ブロック等に加工し、例えば積層セラミックコンデンサー等の焼成炉の最内層に使用することもできるし、最内層にフェルト、その外側にボードという組み合わせで使用することもできる。
【実施例】
【0016】
実施例1
オキシ塩化アルミニウム水溶液とシリカゾルとを、アルミナ97質量%、シリカ3質量%になるように混合し、更にポリビニルアルコールを添加して粘度900mPa・sの紡糸原液を調製した。これを、円周面に直径0.5mmの孔を300個設けられてなる直径250mmの中空円盤内に入れ、それを回転させて繊維状の紡糸原液を孔から押し出させ、600℃の熱風により乾燥固化させながらアルミナ質繊維の前躯体を製造した。ついで、トンネル炉にて温度1350℃で焼成し、平均繊維径4.0μm、アルミナ成分97質量%、シリカ成分3質量%の無機繊維(アルミナ質繊維)を製造した。
【0017】
このアルミナ質繊維256g、無機バインダー(固形分濃度20質量%のシリカゾル)18g、有機バインダー30g、水25kg及び硫酸バンド水溶液を適量加え、20分間湿式混合し、スラリー濃度(アルミナ質繊維、有機バインダー及び無機バインダーの合計含有率)1.0質量%の水スラリーを調製した。この水スラリーを底面網部の寸法が320mm×320mmの抄造ボックス(編み目間隔0.5mm)に流し込み、底面網の下方より吸引により水を抜き、ケーキを製造した。このケーキを脱型後プレスにより厚みを調整した後、100℃の熱風乾燥機で16時間乾燥して無機繊維成形体(厚み25mmのフェルト)を製造し、以下に従う物性を測定した。それらの結果を表1に示す。なお、有機バインダーは、アクリル酸ブチル共重合体45質量%、ポリオキシエチレンラウリルエーテル3質量%及び水52質量%からなるエマルジョンであり、ポリオキシエチレンラウリルエーテルは、構造式C1225(OCHCHOHである。
【0018】
(1)嵩密度:フェルトの質量をフェルトの体積で除することにより求めた。
(2)厚み:デプスゲージ(中村製作所社製商品名「DIGI−KANON」)により測定した。
(3)外観:フェルトの表面が均一なものを「良」とし、フェルトの表面に粗い部分が少し見られるものを「可」とし、フェルトの表面が不均一で、所定の形状に成形できないものを「不可」とした。なお、本明細書でこの外観が「良」又は「可」であることを「均質」といっている。
(4)耐アルカリ性外観及び加熱収縮率:フェルトを50mm×50mmに2枚切り出し、その一方をそのままにして静置し(レイヤー置き)、もう一方を長さ方向に3分割し、それぞれ厚み方向を上面に向けた(スタック置き)。表面より5質量%水酸化ナトリウム水溶液6.25g(3分割の合計量)を含浸させ、100℃の熱風乾燥機で3時間乾燥した。その後、電気炉で、1400℃まで加熱し、24時間保持後室温(23℃)まで自然冷却するサイクルを8回繰り返した。各サイクルごとに、耐アルカリ性外観を評価し、加熱収縮率の測定を行った。耐アルカリ性外観は目視で評価した。加熱収縮率は、直尺を用いて長さ方向及び厚み方向の寸法を測定し、加熱前の寸法との差を加熱前の寸法で除することにより求めた。
【0019】
なお、紡糸原液粘度は、20℃粘度をB型粘度計(東京計器社製商品名「BH型」)により測定した。無機繊維の化学組成は、蛍光X線分析(リガク社製商品名「ZSX100e」)により測定した。
【0020】
実施例2〜3
オキシ塩化アルミニウム水溶液とシリカゾルの割合を変え、アルミナ95質量%、シリカ5質量%のアルミナ質繊維を製造したこと(実施例2)、及びアルミナ90質量%、シリカ10質量%のアルミナ質繊維を製造したこと(実施例3)以外は、実施例1と同様に行った。
【0021】
実施例4
オキシ塩化アルミニウム水溶液とシリカゾルの割合を変え、アルミナ80質量%、シリカ20質量%のアルミナ質繊維を製造したこと、及び水スラリー調整時にアルミナ質繊維を205gとしたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0022】
実施例5
オキシ塩化アルミニウム水溶液とシリカゾルの割合を変え、アルミナ100質量%のアルミナ質繊維を製造したこと、及び水スラリー調整時にアルミナ質繊維を461gとしたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0023】
比較例1、2
有機系バインダーとして、アクリル酸エステル共重合体のみ(アクリル酸ブチル共重合体48質量%及び水52質量%からなるエマルジョン)を用いたこと及び水スラリー調整時にアルミナ質繊維を512gとしたこと(比較例1)、又はポリオキシエチレンアルキルエーテル(ポリオキシエチレンラウリルエーテル48質量%及び水52質量%からなるエマルジョン)のみを用いたこと(比較例2)以外は、実施例1と同様に行った。
【0024】
【表1】

【0025】
表1から以下のことが分かる。有機バインダーとして、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とポリオキシエチレンアルキルエーテルを併用することにより、嵩密度の小さい無機繊維成形体が得られる(実施例1〜5と比較例1,2との対比)。なかでも、無機繊維のアルミナ/シリカの質量比を97/3〜90/10とすることにより、より均質で、嵩密度が小さい無機繊維成形体が得られ、しかも耐アルカリ性を一段と向上させることができた(実施例1〜3)。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によって製造された無機繊維成形体は、各種の炉材等として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維と有機バインダーと無機バインダーを含む水スラリーを抄造後乾燥する方法において、有機バインダーとして(メタ)アクリル酸エステル共重合体とポリオキシエチレンアルキルエーテルを併用することを特徴とする無機繊維成形体の製造方法。
【請求項2】
水スラリーの無機繊維の含有率が0.01〜3.0質量%、有機バインダーが0.01〜0.3質量%、無機バインダーが0.02〜0.3質量%であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
無機繊維が、アルミナ/シリカの質量比が97/3〜90/10のアルミナ質繊維であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体がアクリル酸ブチル共重合体であり、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがポリオキシエチレンラウリルエーテルであることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−70769(P2007−70769A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260829(P2005−260829)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】