説明

無機質中空粉体およびその製造方法

【課題】 微小粉体からなるとともに内部に閉気孔を具備する無機質中空粉体と、それを簡単な方法で作製することのできる製造方法を提供する。
【解決手段】 平均粒径が0.1〜15μmの大きさの有機樹脂球の表面に無機化合物、あるいはその前駆体を被覆した複合体を形成した後、この複合体を加熱処理して、前記有機樹脂球を分解除去して無機化合物からなる皮膜を作製した後、さらに所定温度に加熱して前記無機化合物からなる皮膜を緻密化して、無機化合物粉体内に閉気孔を具備する平均粒径20μm以下、内部の平均気孔径が0.1〜15μm、閉気孔率が30体積%以上、BET比表面積が30m/g以下の無機質中空粉体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機質中空粉体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、無機質中空体は、軽量材、塗料の充填材、補強用充填材、低誘電率化のための特性改善材、爆薬の増感剤などの様々な用途に用いるために種々の開発が行なわれている。
【0003】
このような中空粉体として、例えば、ガラス質の中空粉体やアルミナ、ジルコニアなどの中空粉体が知られている。これらの中空粉体は、ガラスなどを高温に加熱溶融して発泡剤によって発泡させながら、粒子状に吹き飛ばして形成される(特許文献1参照)。また、シラスなどの火山ガラス質堆積物を原料として、中空ガラス球状体を作製すること(特許文献2参照)等が報告されている。
【0004】
また、金属炭化物やその前駆体を含む溶液または分散液を微小液滴化し、これを高温雰囲気に微小液滴を噴霧することによって、炭化物からなる微小中空体を形成することが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平2−27295号公報
【特許文献2】特開昭61−222969号公報
【特許文献3】特開平6−321520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの手法による無機中空体によれば、ガラス質材料を原料とする方法では、ガラス質中に低融点化するために少なからずアルカリ元素を含有しており、また、これらの無機中空粉体の平均粒径は、そのほとんどが30μmよりも大きいものであった。そのために、アルカリ元素が水や酸に対して容易に溶出し、耐候性に劣るという欠点があった。しかも、電子部品材料、例えば絶縁基板材料の1成分として混合、複合化することも行なわれているが、このような場合にも、絶縁信頼性が劣化するなどの問題があった。
【0007】
また、粒子径が30μm以上と大きいと、これを他の材料と複合化することによって軽量化を図る場合、大きな無機中空体が破壊源となるために高強度が要求される構造部材には適用できないものであった。
【0008】
また、無機質の炭化物を溶媒とともに高温雰囲気中に噴霧する方法は、装置が大がかりになるとともに、溶媒の揮発とともに球状および中空化するために、中空であっても多孔質化しやすく、閉気孔が形成されにくいという問題があった。
【0009】
また、従来の方法では、中空粉体を形成する無機材料が限定されており、あらゆる無機材料の中空粉体を形成することが難しいものであった。
【0010】
従って、本発明は、無機中空粉体における上記問題点を解決し、微小粉体からなるとともに内部に閉気孔を具備する無機質中空粉体と、それを簡単な方法で作製することのできる製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題に対して検討を重ねた結果、所定の大きさの有機樹脂球を用いて、球表面に無機化合物、あるいはその前駆体を形成してなる複合体を形成し、この複合体を加熱処理して有機樹脂球を分解除去して無機化合物からなる皮膜を作製した後、さらに所定温度に加熱して前記無機化合物からなる皮膜を緻密化することによって、無機化合物粉体内に閉気孔を具備する中空粉体が得られることを見いだし、本発明に至った。
【0012】
即ち、本発明の無機質中空粉体は、平均粒径20μm以下、粉体内部の平均気孔径が0.1〜15μm、閉気孔率が30%以上、BET比表面積が30m/g以下であることを特徴とするものであって、この中空粉体を形成する無機質材料は、実質的に単一金属酸化物からなっていても、実質的に2種以上の金属酸化物の混合物あるいは化合物からなっていてもよい。また、アルカリ元素の含有率が酸化物換算で500ppm以下であることも大きな特徴である。
【0013】
また、かかる無機質中空粉体を製造する方法としては、平均粒径が0.1〜15μmの有機樹脂球の表面に無機化合物、あるいはその前駆体を形成した複合体を形成した後、この複合体を加熱処理して、前記有機樹脂球を分解除去して無機化合物からなる皮膜を作製した後、さらに所定温度に加熱して前記無機化合物からなる皮膜を緻密化して、無機化合物粉体内に閉気孔を具備する中空粉体を形成することを特徴とするものである。
【0014】
前記無機化合物が、実質的に単一金属酸化物からなっても、実質的に2種以上の金属酸化物の混合物または複合化合物からなってもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上詳述したように、本発明によれば有機樹脂球の表面に無機成分を析出あるいは付着させ、加熱によって有機樹脂球を分解除去した後、さらに加熱することで種々の組成の閉気孔を有する無機質中空粉体を容易に作製することが可能となる。また、アルカリ元素を実質的に含まないため様々な用途への適応が可能となる。しかも、空孔径および隔壁の厚さについても自由に設計することが可能であるために構造材料への適用においても強度劣化などの問題発生を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の無機中空粉体の製造方法について説明する。本発明によれば、まず、有機樹脂球を準備する。この有機樹脂球は最終的に得られる中空粉体における独立平均気孔径を決定する要素であることから、有機樹脂球の大きさとしては、平均粒径が0.1〜15μm、特に2〜5μmであることが必要である。つまり、0.1μmよりも小さいと、中空粉体中の閉気孔が小さく、所定の空隙率を達成することが難しく、15μmよりも大きいと、微小な中空粉体を形成することが困難となるためである。
【0017】
次に、この有機樹脂球の表面に無機化合物あるいはその前駆体を被覆する。被覆方法としては、所定の無機化合物のアルコキシド法や沈殿法等の液相を利用して有機樹脂球の表面に無機化合物あるいはその前駆体を析出形成させる手法や、有機樹脂球の表面に、サブミクロンの無機化合物粉末を付着させる手法が挙げられるが、有機樹脂球表面に無機化合物を均一に形成する上で、前者の方が好適である。
【0018】
その後、得られた複合体を有機樹脂球が分解消失しうる温度、雰囲気下で1次熱処理して、有機樹脂を分解除去することによって、無機化合物のみからなる皮膜内部に空洞を有する見かけ上、中空粉体が形成される。ところが、この段階では、無機化合物からなる皮膜は緻密化されておらず、多孔質からなるために、粉体中の空洞は、閉気孔とはなってお
らず、比表面積も大きい状態である。
【0019】
そこで、本発明によれば、さらに昇温にて2次熱処理を施し、上記処理後の粉体の無機化合物からなる皮膜を緻密化する。この場合の2次熱処理の温度は、無機化合物の組成等に応じて緻密化が進行し得る温度に加熱される。この2次熱処理によって、一次処理後の一次粉体における皮膜の緻密化の進行とともに、粉体の比表面積も次第に小さくなり、緻密な無機化合物からなる皮膜内に閉気孔を有する中空粉体を作製することができる。
【0020】
なお、本発明の上記の製造方法によれば、有機樹脂球の大きさによって、中空粉体の大きさを任意に定めることができ、有機樹脂球の大きさを平均で0.1〜15μmとすることによって、内部の平均気孔径が0.1〜15μmであり、平均粒径が20μm以下の微細な中空粉体を作製することができる。また、かかる中空粉体は、閉気孔率が30%以上、特に40%以上であることも大きな特徴であって、この閉気孔率が30%よりも低いと、軽量化等を目的とした部材等に適用した場合に、充分な効果が得られないという問題がある。また、本発明の中空粉体は、無機化合物からなる皮膜が緻密質からなるために、BET比表面積が30m/g以下、特に15m/g以下であることも大きな特徴である。
【0021】
しかも、本発明の上記の製造方法においては、有機樹脂球の表面に形成する無機化合物の種類は何ら問うものではなく、有機樹脂球の表面に被覆可能なものであれば、あらゆる無機化合物によって、中空粉体を形成することができることも大きな特徴である。
【0022】
従って、従来のようなガラスのみならず、あらゆる無機化合物、例えば、SiO、Al、ZrO、ZnO、BaO、CaO、MgO、SrOの群から選ばれる1種による単一金属化合物、特に酸化物からなる中空粉体を形成することができる。
【0023】
また、2種以上の金属化合物との混合物あるいは化合物によって中空粉体を形成することもでき、2種以上の混合系では、上記の有機樹脂球を除去した後の熱処理による緻密化処理を低温で行なうことができる。
【0024】
しかも、本発明の製造方法によれば、ガラスなどの発泡によって形成する場合、必然的にアルカリ金属が含有されるが、本発明によれば、上記のように、あらゆる任意の無機化合物によって中空粉体を形成できるために、アルカリ金属量が500ppm以下、特に300ppm以下とすることができる。
【実施例】
【0025】
実施例1
テトラメトキシシラン:1000gに対し、平均粒径が0.15μm、2.0μm、5.0μm、10.0μm、15.0μmの単分散アクリル樹脂球をそれぞれ150g添加し撹拌しながらさらに水500gを添加して加水分解反応を開始させた。
【0026】
ゲル化したものを#100のナイロンメッシュを用いて粉砕し、200℃で真空乾燥を行い、さらに振動ミルを用いて粉砕した。この状態の粉体のBET比表面積はいずれもほぼ300m/gであった。作製した粉体を電子顕微鏡にて観察した結果、アクリル樹脂球の表面にシリカゲルが被覆されたものが凝集した状態であった。
【0027】
得られたこの粉末をアルミナ製るつぼに入れ大気中450℃、5時間の条件で保持し、有機樹脂分を完全に分解消失させた。その後、さらに温度を上げ、1000℃〜1600℃の温度で10時間保持して粉体を作製した。
【0028】
作製した粉体のBET比表面積を測定し、また、ピクノメーターによって粉体密度を測定し理論密度で割ることで閉気孔率を計算した。
【0029】
また、粉体の断面の走査電子顕微鏡写真を観察して、任意に抽出した10個の粉体中の空隙のうち最大のものを気孔径の平均値とみなした。評価結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
この実施例によれば、熱処理温度が1400℃よりも低い場合、粉体は多孔質のままで、閉気孔率は0であり、中空粉体にはならなかった。さらに熱処理温度を1400℃以上に高めた場合、BET比表面積は30m/g以下に減少し、同時に閉気孔率が30体積%以上の中空粉体を作製することができた。
【0032】
なお、作製した中空粉体について、X線回折測定を行なった結果、いずれもSiO(クオーツ)またはクリストバライトからなる結晶相からなることがわかった。また、ICP発光分光分析の結果、この粉体中におけるアルカリ金属の総量は酸化物換算で40ppm以下と非常に少ないものであった。
【0033】
実施例2
食塩水溶液と、珪酸アルカリ水溶液と、平均粒径5、10μmのアクリル樹脂球の混合液にさらに塩酸を加え、pH6、80℃に維持し、熟成を行い、アクリル樹脂球の表面にシリカゲルの皮膜を析出させた平均粒径が6μmおよび11μmの複合体を得た。
【0034】
得られた複合体をアルカリ成分が500ppm以下となるまで酸洗浄した。そして、洗
浄後の複合体を、さらにB、ZnO、BaO、CaO、ZrOのうちの少なくと1種を含む水溶液に浸漬した後、これを乾燥して有機樹脂球の表面に、シリカゲルと上記金属化合物を被覆した複合体を作製した。
【0035】
この粉末を大気中、450℃で5時間熱処理して有機樹脂分を完全に分解消失させた。そして、800℃〜1500℃の温度範囲で熱処理し、実施例1の場合と同様の評価を行った。評価結果を表2、表3に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
熱処理を全く行なわなかった場合(試料No.31、37、43、49、55)、粉体は多孔質のままであり閉気孔率は0%のままで中空粉体は形成されなかった。また、複合化した酸化物の種類によって中空粉体が形成されるための熱処理温度は様々変化し、ZnOの場合800℃以上、BaO、CaO、ZrOの場合1500℃以上、Bでは850℃以上での熱処理によって中空粉体が形成され、比表面積30m/g以下となり、同時に20体積%以上の閉気孔が形成されたが、Bの場合1000℃よりも温度が高いと、粉体が凝集して閉気孔が形成されなかった。
【0039】
また、作製した各中空粉体について、X線回折測定を行なって主結晶相を同定した結果、試料No.32〜36、62〜66ではクオーツ、試料No.42、48、54、72、78、84ではアモルファス、試料No.57〜60、87〜90ではクリストバライトの結晶相からなることがわかった。また、ICP発光分光分析の結果、この粉体中におけるアルカリ金属の総量は酸化物換算でいずれも300ppm以下と非常に少ないものであった。
【0040】
実施例3
平均粒径:0.4μmのAlと平均粒径:0.4μmのZnOと、AlとZnOの比率が重量比で100:0、75:25、50:50、25:75、0:100の5種の比率で混合した。そして、この無機化合物と平均粒径が2μmの有機アクリル樹脂球を無機成分:有機成分=2:5の体積比率になるように計量し、奈良機械製ハイブリダイザーを用いて混合処理した。処理後の粉末について電子顕微鏡写真で観察した結果、有機樹脂球の表面にAlとZnOの混合粉末が付着した状態であることがわかった。
【0041】
この粉末を大気中、450℃で5時間熱処理して有機樹脂分を完全に分解消失させた。
そして、この複合体を900℃〜1600℃の温度範囲で熱処理し、実施例1、2と同様に評価した。評価結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
Al:ZnOの比率によって、中空粉体が形成される温度が変化しており、Al100%では1600℃で中空粉体が形成された。Al:ZnO=75:25では1100℃以上、Al:ZnO=50:50では1000℃以上、Al:ZnO=25:75では1000℃以上、ZnO100%では1600℃の加熱温度で、閉気孔率が20%以上の中空粉体を作製することができた。
【0044】
また、作製した各中空粉体について、X線回折測定によって主結晶相の同定を行なった結果、試料No.95ではAl、試料No.99、100、103〜105、108〜110ではZnO・Al、試料No.115ではZnOが観察された。また、ICP発光分光分析の結果、この粉体中におけるアルカリ金属の総量は酸化物換算でいずれも70ppm以下と非常に少ないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径20μm以下、内部の気孔の平均気孔径が0.1〜15μm、閉気孔率が30体積%以上、BET比表面積が30m/g以下であることを特徴とする無機質中空粉体。
【請求項2】
実質的に単一金属酸化物からなることを特徴とする請求項1記載の無機質中空粉体。
【請求項3】
実質的に2種以上の金属酸化物の混合物または化合物からなることを特徴とする請求項1記載の無機質中空粉体。
【請求項4】
アルカリ元素の含有率が酸化物換算で500ppm以下であることを特徴とする請求項1記載の無機質中空粉体。
【請求項5】
平均粒径が0.1〜15μmの有機樹脂球の表面に無機化合物、あるいはその前駆体を被覆した複合体を形成した後、この複合体を加熱処理して、前記有機樹脂球を分解除去して無機化合物からなる皮膜を作製した後、さらに所定温度に加熱して前記無機化合物からなる皮膜を緻密化して、無機化合物粉体内に閉気孔を具備する中空粉体を形成することを特徴とする無機質中空粉体の製造方法。
【請求項6】
前記無機化合物が、実質的に単一金属酸化物からなる請求項5記載の無機質中空粉体の製造方法。
【請求項7】
前記無機化合物が、実質的に2種以上の金属酸化物の混合物または複合化合物からなる請求項5記載の無機質中空粉体の製造方法。

【公開番号】特開2011−16718(P2011−16718A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199068(P2010−199068)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【分割の表示】特願2000−160748(P2000−160748)の分割
【原出願日】平成12年5月30日(2000.5.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】