説明

無機質繊維ボード及びその製造方法

【課題】生産性に優れると同時に、施工した場合に、接着剤(結合剤)に起因するホルムアルデヒドの放出量がなく、表皮材と基材マットとの接着性が、従来の接着剤(結合剤)を介して貼り合わせたと同等である無機質繊維ボードの提供。
【解決手段】無機質繊維にアクリル樹脂系バインダーを付与しながらマット状に堆積せしめて未硬化バインダーを含んでなる基材を形成し、該基材の少なくとも片面に、ガラス繊維からなる表皮材を配して積層した後、該積層体を、その密度が30〜150kg/m3になるように加圧、加熱成形して基材と表皮材とを一体化することを特徴とする無機質繊維ボードの製造方法、及び、無機質繊維ボード。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井板、壁板のような内装材(化粧材)に好適な、無機質繊維基材に表皮材が一体化されてなる無機質繊維ボード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラスウールやロックウールなどで形成したボード(基材)に表皮材を接着してなる無機質繊維ボードは、天井板、壁板のような内装材として広く用いられている。例えば、特許文献1では、ロックウール等の無機質繊維を湿式抄造してなる比重が0.2〜0.4の無機質繊維板主体の表面に、繊維長が100〜2000μの無機質繊維にバインダーを2〜20%割合で配合した緻密なスキン層(表皮層)を一体に層着してなる無機質繊維ボードを提案している。特許文献1には、両者の結合点にバインダーを作用させることで結合点を強固に固定すること、バインダーとして、スターチ、PVA、フェノール、アクリル、アクリルスチレン、石油樹脂等を使用することが記載されている。また、スキン層を一体化する方法として、ウエット状態のマットとシートを重ね合わせて、またはマットの上にバインダーを配合した高濃度スラリーを供給し、その後に脱水・乾燥する方法が記載されているが、両者の密着力を高めるためには、両者の間にスターチ溶液、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の結合剤を塗布する必要があるとしている。
【0003】
また、特許文献2では、無機質繊維基板面に、複数条の繊維を集束状態に保持させたフィラメント状無機質繊維を70〜30wt%とウール状無機質繊維を30〜70wt%を混抄して成る繊維シート表皮材を備えて成る無機質繊維化粧板が提案されている。そして、基板面又は表皮材の裏面に施した接着剤層を介して両者を基板面に表皮材を貼着させることが記載され、その接着剤層として、例えばクロロプレン系合成ゴムを使用し、15g/m2程度スプレーして施すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平2−42958号公報
【特許文献2】特開平6−238819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の文献に記載された発明では、いずれも、基材と表皮層とが強固に一体化した製品とするためには、予め、無機質繊維基板又は表皮材に接着剤(結合剤)を配して貼り合わせる必要があった。このため従来方法では、いずれか一方に接着剤を塗布する工程、貼り合わせる工程、接着剤を硬化または乾燥させる工程を要すため、生産性、作業効率が劣るといった問題があった。更に、接着剤(結合剤)としてフェノール樹脂系、メラミン樹脂系のホルムアルデヒド系樹脂を用いる場合は、これらの製品の主用途が建材であるため、いわゆるシックハウス症候群や化学物質過敏症など観点から、ホルムアルデヒドの放出量を低減或いは無くす必要があるという別の課題もあった。
【0006】
従って、本発明の目的は、生産性に優れると同時に、施工した場合に、接着剤(結合剤)に起因するホルムアルデヒドの放出量がなく、表皮材と基材との接着性が、従来の接着剤(結合剤)を介して貼り合わせたものと同等に優れたものである無機質繊維ボードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明の無機質繊維ボードの製造方法は、無機質繊維にアクリル樹脂系バインダーを付与しながらマット状に堆積せしめて未硬化バインダーを含んでなる無機質繊維基材を形成し、該基材の少なくとも片面に、ガラス繊維からなる表皮材を配して積層した後、該積層体を、その密度が30〜150kg/m3になるように加圧、加熱成形して基材と表皮材とを一体化することを特徴とする。
【0008】
上記本発明によれば、無機質繊維ボードを製造する際に、無機質繊維にアクリル樹脂系バインダーを付与しつつマット状に堆積せしめて未硬化バインダーを含む基材を形成し、該基材の少なとも片面に表皮材を配して加圧、加熱して両者を一体化しているため、この一体化する工程で、無機質繊維の基材(マット材)の成形が行われると同時に、特別に接着剤(結合剤)を使用することなく、該基材に均一に含有されたバインダーによって基材と表皮材とを均一にかつ強固に貼着させることができる。しかも、本発明ではアクリル樹脂系バインダーを用いているため、ホルムアルデヒドを含有しない無機質繊維ボードを得ることができる。
【0009】
上記本発明の無機質繊維ボードの製造方法では、前記アクリル樹脂系バインダーとして、エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含む単量体を重合して得られたアクリル系樹脂と、アルカノールアミンを1種類以上含有する架橋剤と、硬化促進剤とを含むものを使用することが好ましい。このようにすれば、一体化する工程においてバインダーが硬化し易く、得られる無機質繊維ボードの無機質繊維の基材がより強度に優れたものとなるばかりでなく、基材と表皮材との接着性(一体性)をより向上させることができる。
【0010】
また、上記本発明の無機質繊維ボードの製造方法では、前記アクリル樹脂系バインダーの付与を、前記基材の、表皮材を配する側の表面におけるバインダーの含有量が、表面部分における基材の固形分量に対して該バインダーの固形分量で8〜13質量%の範囲となるようにして行うことが好ましい。このようにすれば、難燃性を維持させて、無機質繊維基材のボードとしての強度が十分であり、しかも、基材表面におけるバインダーの付着むらが少なくなり、基材と表皮材との接着性(一体性)をより向上させることができ、表皮材のはがれやふくれ等がより生じないようになる。
【0011】
また、上記本発明の無機質繊維ボードの製造方法では、前記表皮材が、その目付量が30〜50g/m2のガラス繊維不織布であることが好ましい。このようにすることで、無機質繊維ボードは、表皮材による基材の隠ぺい性が高まり、意匠性がより向上するとともに、優れた吸音性を備えたものとなり、また、表皮材の接着性(一体性)をより向上させることができる。
【0012】
また、上記本発明の無機質繊維ボードの製造方法では、表皮材を配して基材に積層させる工程の後であって、前記積層体を加圧、加熱成形をする工程の前に、さらに予備加圧をする工程を設けることが好ましい。さらに、予備加圧による圧縮密度が、30〜1,000kg/m3であることがより好ましい。このようにすれば、基材を構成する無機質繊維に付着した未硬化バインダーを含むバインダーがより表皮材に含浸し易くなるので、表皮材の接着性(一体性)をより向上させることができる。
【0013】
本発明の別の実施形態である無機質繊維ボードは、マット状の無機質繊維基材の少なくとも片面にガラス繊維からなる表皮材が貼着されて一体化されている、密度が30〜150kg/m3である無機質繊維ボードであって、無機質繊維基材と表皮材との貼着が、無機質繊維基材の形成に用いたバインダーと実質的に同一成分のアクリル樹脂系バインダーによってなされており、かつ、無機質繊維基材と表皮材とが貼着されている部分におけるアクリル系樹脂成分が、無機質繊維基材全量に対して8〜13質量%の範囲で含有されていることを特徴とする。このように、本発明の無機質繊維ボードは、無機質繊維基材と、ガラス繊維からなる表皮材とからなるため難燃性に優れた高密度ボードであり、さらに、無機質繊維基材が、アクリル系樹脂バインダーを用いて形成されていると同時に、該バインダー成分により該基材を表皮材と貼着して一体化させたものであるため、従来の建材で問題となっていたホルムアルデヒドに起因する不都合が生じない優れた効果を有する無機質繊維ボードとなる。
【0014】
また、本発明の無機質繊維ボードは、前記アクリル系樹脂成分が、エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含む単量体を重合して得られるアクリル系樹脂と、アルカノールアミンを1種類以上含有する架橋剤と、硬化促進剤との硬化物であることが好ましい。このように構成することで、本発明の無機質繊維ボードは、バインダーが硬化し易く、無機質繊維の基材の強度がより優れたものになるばかりでなく、基材と表皮材との接着性(一体性)がより向上したものとなる。
【0015】
また、本発明の無機質繊維ボードは、前記表皮材が、その目付量が30〜50g/m2のガラス繊維不織布であることが好ましい。このような構成とすることで、本発明の無機質繊維ボードは、表皮材としての基材の隠ぺい性が高まり、その意匠性がより向上するとともに、吸音性を備え、しかも、基材と表皮材との接着性(一体性)がより向上したものとなる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明によれば、無機質繊維基材及びガラス繊維からなる表皮材を用いているため、難燃性に優れた高密度の無機質繊維ボードが提供され、さらに、特別に接着剤や固着剤を使用することなく、無機質繊維に均一に付着した基材を構成するアクリル樹脂系バインダーによって基材と表皮材とを、均一に、かつ、接着剤等を用いた場合と同様に強固に貼着(一体化)させることができる。さらに、本発明によれば、アクリル樹脂系バインダーを用いているため、建材等とした場合に問題があったホルムアルデヒドを含有しない無機質繊維ボードが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の無機質繊維ボードの製造方法及び無機質繊維ボードの好ましい形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。まず、本発明の無機質繊維ボードを構成する各材料について説明する。
【0018】
<無機質繊維>
本発明に用いる無機質繊維は特に限定されないが、無機溶融物を遠心法や火炎法によって作成した、例えば、グラスウールやロックウールといった無機質繊維が挙げられる。これらの中でも平均繊維径が3〜7μm程度のものが好ましい。
【0019】
<アクリル樹脂系バインダー>
(エチレン系不飽和カルボン酸単量体)
本発明では、上記のような無機質繊維のバインダーとして、アクリル樹脂系バインダーを用いる。このように、本発明では、アクリル樹脂系バインダーを用いることで、ホルムアルデヒドを含有しない無機質繊維ボードが容易に得られる。本発明で用いることのできるアクリル樹脂系バインダーは特に限定されないが、下記に挙げるもの等を好ましく使用できる。すなわち、エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含む単量体を重合して得られるアクリル系樹脂と、架橋剤と、硬化促進剤とを含むものが好ましく利用できる。本発明で使用するエチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、2−メチルマレイン酸、イタコン酸、2−メチルイタコン酸、α−β−メチレングルタル酸、マレイン酸モノアルキル、フマル酸モノアルキル、無水マレイン酸、無水アクリル酸、β−(メタ)アクリロイルオキシエチレンハイドロジエンフタレート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチレンハイドロジエンマレエート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチレンハイドロジエンサクシネート等が挙げられる。
【0020】
(架橋剤)
架橋剤としては、ポリオール類、エポキシ類、アミン類等が挙げられる。中でもアルカノールアミンを1種類以上含有するものを用いることが好ましい。アルカノールアミンとしては、特に限定されないが、無機質繊維ボードの強度、表皮材との接着性をより向上させるために、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンを用いることが好ましい。さらに、これらの中でも、反応性の観点ら、ジエタノールアミンを用いることが好ましい。
【0021】
(硬化促進剤)
硬化促進剤としては、例えば、前記したようなアクリル系樹脂の構造中のカルボキシル基と、前記した架橋剤として好適なアルカノールアミン類の構造中のアミノ基、イミノ基、或いは水酸基との反応を促進するものが挙げられ、水溶性のものが好ましい。このような要件を満たす硬化促進剤としては、下記のものが挙げられる。例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム等の次亜リン酸塩類;トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィン等の有機リン化合物類;テトラエチルホスホニウム塩、トリエチルベンジルホスホニウム塩、テトラn−ブチルホスホニウム塩、トリn−ブチルメチルホスホニウム塩等の4級ホスホニウム塩類;三フッ化ホウ素アミン錯体、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム等のルイス酸化合物類;チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ジルコニルアセテート等の水溶性有機金属化合物等である。これらは、1種又は2種以上を併用することができる。中でも、次亜リン酸カルシウム、及びトリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンは、少量でも硬化促進効果が高い上に、バインダー硬化物中に残存しても、バインダー硬化物の耐湿性を損なうことが少ないので好ましい。
【0022】
本発明で使用するアクリル樹脂系バインダーは、上記のような成分を含有してなるものが好ましいが、使用する際に、上記に挙げたような成分を、水を主成分とした溶媒で希釈して用いることが好ましい。例えば、アクリル樹脂エマルジョンとしても用いることができる。
【0023】
<ガラス繊維からなる表皮材>
本発明で使用するガラス繊維からなる表皮材としては、ガラス繊維織物、ガラス繊維不織布等が挙げられる。表皮材の目付量は、特に限定されないが、20〜100g/m2であることが好ましく、30〜50g/m2であることがより好ましい。20g/m2未満であると下地の基材が透けて意匠性に劣るものとなり、化粧材としての役割にかけ、一方、100g/m2を超えると吸音性が劣り、好ましくない。特に、意匠性、吸音性の観点に加えて、基材を構成する無機質繊維との繊維の接点や絡み合いが多くなるようにしたり、基材に含有されているアクリル樹脂系バインダーが表皮材に含浸し易くしたりすることで、より表皮材の接着性を向上させるためには、表皮材としてガラス繊維不織布を用いることが好ましい。
【0024】
本発明の無機質繊維ボードの製造方法について、好ましい例を挙げて具体的に説明する。本発明では、遠心法や火炎法の繊維化装置から紡出されたグラスウールやロックウール等の無機質繊維に、バインダー付与装置等によってアクリル樹脂系バインダーを付与する。このように、本発明では、無機質繊維をマット状に堆積させる前に、より具体的には、バインダーを付与させつつ無機質繊維をマット状に堆積させて基材を得る。このようにすることによって、基材を構成する無機質繊維に、未硬化な部分を含むアクリル樹脂系バインダーを均一に付与させることができる。
【0025】
未硬化な部分を含むアクリル樹脂系バインダーが付与された無機質繊維をマット状に堆積させて無機繊維質基材を得る具体的な方法は、従来と同様でよい。本発明の無機質繊維ボードを連続生産して生産効率を高めるために、堆積物(マット材)は、コンベア上に搬送されることが好ましい。
【0026】
本発明では、特に、上記のようにして形成した基材の表皮材を配する側の表面に、未硬化な部分を有しているアクリル樹脂系バインダー(未硬化バインダーと呼ぶ)を下記のような含有率で存在させるように構成することが好ましい。すなわち、バインダー付与装置における付与条件を調整する等の方法により、基材全体の固形分量に対して前記バインダーの付着量を適宜に設定することができるが、特に、基材の表皮材を配する側の表面に、好ましくは固形分で6〜15質量%、さらには、固形分で8〜13質量%となるように前記バインダーが付着されるようにするとよい。特に好ましくは、前記バインダーの付着量を9〜12質量%の範囲とすることが最も好ましい。前記バインダーの付着量をこのように調整することによって、本発明の無機質繊維ボードは、難燃性が良好な状態に維持され、無機質繊維基材の硬さが適宜なものとなり、さらに、該基材と表皮材との接着性(一体性)をより向上させたものになる。
【0027】
基材の表面側の未硬化バインダーの付着量を、上記したような範囲に調整するために、必要に応じて、無機質繊維を堆積させた後に、この堆積物の上方からアクリル樹脂系バインダーを付与することもできる。
【0028】
ここで、本発明でいうバインダーの付着量とは、強熱減量法又はLOI(Loss of Ignition)と呼ばれる方法により測定される量である。具体的には、バインダーを付着させた後の無機質繊維基材の乾燥試料を約550℃で強熱し、減量をすることにより失われる物質の重量を意味する。また、その表面部分における付着量とは、基材半分の厚みに対して表面から1/3の厚みから採取した無機質繊維基材を測定試料とし、上記のような方法によって測定した値を意味する。
【0029】
次いで、マット状に堆積せしめた未硬化バインダーが付与されている無機繊維質基材の少なくとも片面に、前記したようなガラス繊維からなる表皮材を配して積層させて積層体を形成する。なお、下面側に前記表皮材を配する場合は、予め表皮材を、無機質繊維を堆積させる面に配置させておくこともできる。
【0030】
本発明の無機質繊維ボードの製造方法では、基材に表皮材を配して積層して積層体を得た後、加圧、加熱成形をするが、加圧、加熱成形をする前に、予備加圧することが好ましい。予備加圧することによって、無機質繊維に付与されたバインダーが表皮材の表面に移行し易くなり、バインダーの水分により一時的に表皮材と無機質繊維基材とが固定され易くなると共に、その後に加熱成形した際に、無機質繊維基材と表皮材の接着性を向上させることができる。該予備加圧は、圧縮密度が、10〜1,000kg/m3に、より好ましくは30〜1,000kg/m3に押圧することがより好ましい。予備加圧方法は、上下一対のローラー、コンベア、またはローラーとコンベアの組み合わせにより押圧することが好ましい。
【0031】
次いで、上記のようにして得た、前記ガラス繊維からなる表皮材が配されて積層された未硬化バインダーが付与されてなる積層体を、その密度が30〜150kg/m3となるように、加圧しながら加熱してバインダーを硬化させて成形する。なお、加熱温度はバインダーの種類により適宜選択すればよい。
【0032】
上記のようにして得られた無機質繊維ボードは、マット状の無機質繊維基材の少なくとも片面にガラス繊維からなる表皮材が貼着されて一体化されている、密度が30〜150kg/m3である無機質繊維ボードであって、無機質繊維基材と表皮材との貼着が、無機質繊維基材の形成に用いたバインダーと実質的に同一成分のアクリル樹脂系バインダーによってなされており、かつ、無機質繊維基材と表皮材とが貼着されている部分におけるアクリル系樹脂成分が、無機質繊維基材全量に対して8〜13質量%の範囲で含有されてなる。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
アクリル樹脂系バインダーを下記のようにして調製した。まず、アクリル系樹脂として、アクリル酸とメチルアクリレートとからなるアクリル系樹脂(酸価690mgKOH/g、重量平均分子量2,000)を、水で溶解させて樹脂溶液(固形分5%)を得た。このようなアクリル系樹脂溶液を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを52.7部と、硬化促進剤として次亜リン酸ナトリウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.05)し、25%アンモニア水でpH6.5に調整した水溶性組成物を得た。さらに、これにシランカップリング剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.3部および、硫酸アンモニウム2.0部を添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈して調整し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を5.0部添加してアクリル樹脂系バインダーを調製した。このようにして調製したアクリル樹脂系バインダーを、バインダー付与装置を用いて、遠心法により排出された直後のガラス繊維に添加した。そして、予めコンベアに配置させた目付量40g/m2のガラス繊維不織布に、先のようにして得た未硬化バインダーが添加されてなるガラス繊維をマット状に堆積させて、ガラス繊維基材の片面に、ガラス繊維からなる表皮材が積層されてなる積層体を得た。コンベアを移動させつつ、この積層体を、オーブンにて220℃に加熱、及び、48kg/m3にて加圧して、少なくとも表皮層側のバインダーの付着量が固形分量で、マット全体の固形分量の10質量%である無機質繊維ボードを得た。
【0034】
(実施例2)
バインダーの付着量を5質量%に減量した以外は実施例1と同様の製造方法にて、本実施例の無機質繊維ボードを得た。
【0035】
(比較例1)
遠心法により排出されたガラス繊維に、バインダー付与装置を用いて、実施例1で使用したと同様のアクリル系樹脂(酸価690mgKOH/g、重量平均分子量2,000)を、水で溶解させて得た樹脂溶液(固形分5%)をバインダーとして添加しつつ、ガラス繊維をマット状に堆積させた。次に、これをオーブンにて220℃に加熱、及び、48kg/m3にて加圧して、バインダー付着量が10質量%の無機質繊維基材を得た。さらに、得られた基材に、オフラインにて基材面の一方に溶剤系クロロプレン系ゴム接着剤をスプレー塗布した。そして、これに、実施例1で使用したと同様の目付量40g/m2のガラス繊維不織布を貼着して押圧しながら15秒間乾燥することにより、片面に表皮材を有する無機質繊維ボードを得た。
【0036】
上記で得た実施例1、2及び比較例1の無機質繊維ボードについて、主たる製造条件と特性、さらに、表皮材の接着性(一体性)を評価した結果を表1にまとめて示した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示したように、本発明の実施例の無機質繊維ボードは、接着剤を用いたものではないにもかかわらず、無機質繊維基材と表皮材との接着性が、従来の溶剤系クロロプレン系ゴム接着剤を用いて表皮材を接着させてなる比較例1の無機質繊維ボードと比べて遜色のない良好な接着性が実現されたものとなることを確認した。これに対し、比較例1の製造方法及び得られた無機質繊維ボードは、表皮材の接着性に優れるものの、別途接着剤を用いるため経済的に劣り、また、接着剤が溶剤系のため局所排気設備を備えていない設備ではオンラインで表皮材を貼着させることができず、この点で作業性にも劣り、経済性に問題がある。なお、本発明の実施例1及び2から、本発明の無機質繊維ボードは、特に、無機質繊維へのバインダー付着量を好適な範囲に制御すれば、表皮材と基材との接着性を従来の製品と同等の高いものにできることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機質繊維にアクリル樹脂系バインダーを付与しながらマット状に堆積せしめて未硬化バインダーを含んでなる無機質繊維基材を形成し、該基材の少なくとも片面に、ガラス繊維からなる表皮材を配して積層した後、該積層体を、その密度が30〜150kg/m3になるように加圧、加熱成形して基材と表皮材とを一体化することを特徴とする無機質繊維ボードの製造方法。
【請求項2】
前記アクリル樹脂系バインダーとして、エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含む単量体を重合して得られたアクリル系樹脂と、アルカノールアミンを1種類以上含有する架橋剤と、硬化促進剤とを含むものを使用する請求項1に記載の無機質繊維ボードの製造方法。
【請求項3】
前記アクリル樹脂系バインダーの付与を、前記基材の、表皮材を配する側の表面におけるバインダーの含有量が、表面部分における基材の固形分量に対して該バインダーの固形分量で8〜13質量%の範囲となるようにして行う請求項1または2に記載の無機質繊維ボードの製造方法。
【請求項4】
前記表皮材が、その目付量が30〜50g/m2のガラス繊維不織布である請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機質繊維ボードの製造方法。
【請求項5】
表皮材を配して基材に積層させる工程の後であって、前記積層体を加圧、加熱成形をする工程の前に、さらに予備加圧をする工程を設ける請求項1〜4のいずれか1項に記載の無機質繊維ボードの製造方法。
【請求項6】
前記予備加圧による圧縮密度が、30〜1,000kg/m3である請求項1〜5のいずれか1項に記載の無機質繊維ボードの製造方法。
【請求項7】
マット状の無機質繊維基材の少なくとも片面にガラス繊維からなる表皮材が貼着されて一体化されている、密度が30〜150kg/m3である無機質繊維ボードであって、無機質繊維基材と表皮材との貼着が、無機質繊維基材の形成に用いたバインダーと実質的に同一成分のアクリル樹脂系バインダーによってなされており、かつ、無機質繊維基材と表皮材とが貼着されている部分におけるアクリル系樹脂成分が、無機質繊維基材全量に対して8〜13質量%の範囲で含有されていることを特徴とする無機質繊維ボード。
【請求項8】
前記アクリル系樹脂成分が、エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含む単量体を重合して得られるアクリル系樹脂と、アルカノールアミンを1種類以上含有する架橋剤と、硬化促進剤との硬化物である請求項7に記載の無機質繊維ボード。
【請求項9】
前記表皮材が、その目付量が30〜50g/m2のガラス繊維不織布である請求項7または8に記載の無機質繊維ボード。

【公開番号】特開2011−20285(P2011−20285A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165064(P2009−165064)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000116792)旭ファイバーグラス株式会社 (101)
【Fターム(参考)】