説明

無機酸化物微粒子の疎水化処理方法と分散液の製造方法、および無機酸化物微粒子とその分散液、樹脂組成物並びに用途

【課題】水中においてナノ分散しているZrO2等の無機酸化物微粒子を凝集させることなく疎水化し、トルエン等の有機溶媒中で、例えば30nm以下、更にはは20nm以下のナノスケールの粒子として存在可能とすることにより、ZrO2等の無機酸化物微粒子を樹脂中に均一分散させる簡便で、確実な、効率に優れた手段を提供し、また、これにより高い屈折率を有する光学部材、光学部品を提供する。
【解決手段】無機酸化物微粒子を水中に分散してなる無機酸化物微粒子の水分散液に対し、炭素数4以上のカルボン酸を混合して混合液にする工程と、当該混合液から水を除去する工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品等への利用において有用な無機酸化物微粒子の疎水化処理方法と分散液の製造方法、および無機酸化物微粒子とその分散液、樹脂組成物並びに用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料の研究が盛んに行われており、特にレンズ材料の分野においては高屈折性、低分散性(すなわち高いアッベ数)、耐熱性、透明性、易成形性、軽量性、耐湿性、耐薬品性・耐溶剤性等に優れた材料の開発が強く望まれている。プラスチックレンズは、ガラスなどの無機材料に比べ軽量で割れにくく、様々な形状に容易に加工できるため、眼鏡レンズやカメラ用レンズだけでなく近年ではディスプレイパネル用途等の特殊形状の光学材料にも急速に普及している。その一方、プラスチックはガラスに比べて一般に屈折率が低いため、光学部材を薄肉化するために素材自体を高屈折率化することが求められる。
このため、従来よりディスプレイパネル等の分野においては、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の無機酸化物粒子を樹脂中に分散含有させて、高屈折率で透明性に優れた無機粒子複合化プラスチックを実現することが試みられている。たとえばZrO2は無機酸化物特有の高い屈折率を有しているため、高分子と複合化することで高屈折率光学材料への応用が期待されている。
【0003】
高屈折率で透明性に優れた無機粒子複合化プラスチックを実現するためには、複合化した無機粒子による光の散乱を防止するため、複合化する無機粒子の大きさを可視光の波長に比べて十分に小さくする必要のあることが知られており、好適には20nm以下のサイズを有するZrO2等のナノ微粒子を高分子材料とナノレベルで複合化することで、透明性を維持しつつ高分子材料の屈折率を向上させることが可能であると期待されている。
【0004】
一方、当該20nm以下のサイズを有するZrO2等のナノ微粒子を、サイズの均一性を確保しつつ大量に製造する方法として従来知られる方法として、例えば引用文献1〜3に記載されるように、水相中にジルコニウムを含有する液体状の分子を溶解等させて、これをアルカリで中和させることで微細なジルコニウムの酸化物粒子(ジルコニア粒子)とする方法が一般的に知られている。このようにして得られるジルコニア粒子は、水相中に分散する分散相として存在し、高い親水性を有することが一般的である。このため、このような親水性のジルコニア粒子を凝集させることなく、均一に樹脂中に分散含有させるためには、その表面を疎水化することで有機溶媒や樹脂との親和性を高めるための処理が必要となる。
【0005】
従来より、水相中に分散する分散相として存在する無機粒子を、たとえばトルエン等の有機溶媒や、樹脂中への均一分散を図るための方策として、たとえばシランカップリング剤や界面活性剤により無機粒子の表面を修飾すること(特許文献1参照)や、分散剤としてリン酸または亜リン酸のエステルを用いて分散液を調製すること(特許文献2)、さらにはフタル酸等の芳香族カルボン酸やプロピオン酸等の低級カルボン酸という有機酸により無機粒子の表面を修飾することで透明な樹脂との複合体を製造することが(特許文献3)が提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの提案にもかかわらず、従来では、水中においてナノ分散しているZrO2等の無機酸化物微粒子を凝集させることなく、そのままのナノスケールの粒子としてトルエン等の有機溶媒に移動させ、これらを樹脂中に均一分散させるための、簡便で、確実な、効率に優れた手段は依然として見出されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−119617号公報
【特許文献2】特開2008−201634号公報
【特許文献3】特開2009−191167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のとおりの背景から、水中においてナノ分散しているZrO2等の無機酸化物微粒子を凝集させることなく疎水化し、トルエン等の有機溶媒中で、例えば30nm以下、更にはは20nm以下のナノスケールの粒子として存在可能とすることにより、ZrO2等の無機酸化物微粒子を樹脂中に均一分散させる簡便で、確実な、効率に優れた手段を提供し、また、これにより高い屈折率を有する光学部材、光学部品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下のことを特徴としている。
【0010】
第1:無機酸化物微粒子を水中に分散してなる無機酸化物微粒子の水分散液に対し、炭素数4以上のカルボン酸を混合して混合液にする工程と、当該混合液から水を除去する工程とを含むことを特徴とする無機酸化物微粒子の疎水化処理方法。
【0011】
第2:前記混合液から水を除去する工程は、当該混合液に非水溶性有機溶媒と両溶性有機溶媒とを混合することで前記無機酸化物微粒子を懸濁する水と非水溶性有機溶媒と両溶性有機溶媒とを含む混合溶液を形成する工程と、当該混合溶液から水と両溶性有機溶媒とを蒸発除去する工程とを含むことを特徴とする上記第1の無機酸化物微粒子の疎水化処理方法。
【0012】
第3:前記非水溶性有機溶媒が芳香族炭化水素の少なくとも1種であり、前記両溶性有機溶媒がアルコールの少なくとも1種であることを特徴とする上記第2の無機酸化物微粒子の疎水化処理方法。
【0013】
第4:前記混合液から水を除去する工程を行った後、更に非水溶性有機溶媒を蒸発除去する工程を含むことを特徴とする上記第2または第3の無機酸化物微粒子の疎水化処理方法。
【0014】
第5:前記混合液から水を除去する工程は、当該混合液を凍結乾燥して水を除去する工程であることを特徴とする上記第1の無機酸化物微粒子の疎水化処理方法。
【0015】
第6:上記第1から第5のいずれかの無機酸化物微粒子の疎水化処理方法により疎水化された無機酸化物微粒子を、芳香族炭化水素の少なくとも1種を含む有機溶媒に分散させることを特徴とする無機酸化物微粒子分散液の製造方法。
【0016】
第7:前記有機溶媒が重合性化合物を含むことを特徴とする上記第6の無機酸化物微粒子分散液の製造方法。
【0017】
第8:上記第7の方法により製造された無機酸化物微粒子分散液に含まれる重合性化合物を重合硬化させることを特徴とする無機酸化物微粒子分散樹脂組成物の製造方法。
【0018】
第9:粒子の表面に炭素数4以上のカルボン酸がカルボキシレートとして吸着していることを特徴とする無機酸化物微粒子。
【0019】
第10:上記第9の無機酸化物微粒子が有機溶媒中に分散して存在することを特徴とする無機酸化物微粒子分散液。
【0020】
第11:有機溶媒が芳香族炭化水素の少なくとも1種であることを特徴とする上記第10の無機酸化物微粒子分散液。
【0021】
第12:前記有機溶媒が重合性化合物の少なくとも1種を含むことを特徴とする上記第9又は10のいずれかの無機酸化物微粒子分散液。
【0022】
第13:上記第9の無機酸化物微粒子が樹脂中に分散含有されていることを特徴とする無機酸化物微粒子分散樹脂組成物。
【0023】
第14:上記第13の樹脂組成物がその構成の少なくとも一部とされていることを特徴とするプラスチック部材。
【0024】
第15:上記第14のプラスチック部材が少なくともその構成の一部とされていることを特徴とする光学部品。
【発明の効果】
【0025】
本発明においては平均粒径が例えば30nm以下の無機酸化物微粒子が疎水性表面処理剤としての炭素数4以上のカルボン酸という特定の化合物によって疎水化表面処理を行うことが可能となる。これによって、ZrO2等の酸化物のナノスケールの微粒子を凝集することなく一次粒子の状態でトルエン等の有機溶媒に均一分散させることが可能となる。
【0026】
また、このトルエン等の有機溶媒にZrO2等の酸化物のナノスケールの微粒子が均一分散した分散液を用いて、重合性化合物を混合し重合硬化させることによってナノ微粒子のナノ分散複合化された樹脂が形成される。
【0027】
すなわち、本発明によって、水中においてナノ分散しているZrO2等の無機酸化物微粒子を疎水化し、トルエン等の有機溶媒に微細に分散させることが可能となるため、無機酸化物微粒子を樹脂中に均一分散させることが可能となって、簡便で、確実な、効率に優れた新しい技術手段が提供され、また、これにより高い屈折率を有する光学部材、光学部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】スチレン重合の結果例を示した図である。
【図2】スチレン重合、スチレン−MMA共重合の結果例を示した図である。
【図3】屈折率の測定例を示した図である。
【図4】酢酸の場合の1H NMRスペクトル図である。
【図5】ヘキサン酸の場合の1H NMRスペクトル図である。
【図6】ヘキサン酸処理(下段)、酢酸処理(中断)、直接乾燥(上段)によるZrO2微粒子のIR測定の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明が対象としているナノ微粒子を構成する無機酸化物粒子は、その平均粒径が例えば30nm、更には20nm以下のナノスケールの範囲にあり、水相中に分散している無機酸化物粒子である。無機酸化物の種類としては、透明性の高屈折率の無機粒子・樹脂複合体に用いることのできるZrO2(酸化ジルコニウム)、TiO2(酸化チタン)、SnO2(酸化スズ)、SiO2(酸化ケイ素)等の各種のものを例示することができる。なかでも、本発明においては、光学部材、光学部品としての利用の観点からZrO2を好適なものの一つとして挙げることができる。
【0030】
これら本発明の対象となる無機酸化物微粒子は、水相中に分散しているものであれば、その製造法や成分、結晶構造等については特に限定されることはない。
【0031】
これら本発明に係る疎水化処理方法の対象となる無機酸化物微粒子は、水相中に分散しているものであれば、その製造法や成分、結晶構造等については特に限定されることはない。なお、本発明において「微粒子」と記載される粒子としては、動的光散乱(DLS)により得られる平均粒径が30nm以下のものを典型とするが、本発明に係る疎水化処理により有機溶媒中で沈殿を生じることなく均一に分散できる程度の粒径の粒子であれば、本発明が適用可能であることはいうまでもない。
【0032】
本発明は、以上のとおり、親水性を有して水相中に分散している無機酸化物微粒子の表面を、水相中、又は、水相から有機溶媒に置換する過程において、所定の疎水化表面処理剤により修飾することで疎水化して、有機溶媒や樹脂等の有機物との親和性を向上するものである。この場合の疎水化表面処理剤は、本発明においては炭素数4以上の脂肪酸カルボン酸であることを必須とし、かつ、本質的な特徴としている。
【0033】
ここで、炭素数4以上のカルボン酸としては、炭素数4〜18の飽和または不飽和のカルボン酸が挙げられる。たとえばこれらのカルボン酸としては、ブタン酸、イソブタン酸、メタクリル酸、ヘキサン酸、オクタン酸、オレイン酸、リノール酸、ラウリン酸等の一価の脂肪酸カルボン酸が例示される。これらは単一で用いられてもよく、また、複数種のものを混合して用いてもよい。特に、疎水化処理後の無機酸化物微粒子を樹脂に分散して用いる場合には、当該樹脂の種類等に応じて、当該樹脂との親和性を向上しやすいカルボン酸を適宜選択して用いることが望ましい。また、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素原子を硫黄原子で置換した炭素数4以上のチオカルボン酸、炭素数4以上のジチオカルボン酸を用いることで、カルボン酸を用いる場合より屈折率の高い無機酸化物微粒子とすることができる。
【0034】
水相に分散する親水性の無機酸化物微粒子に対して炭素数4以上の脂肪酸カルボン酸を作用させることにより、疎水化して有機溶媒に対して親和性を生じる直接の原因については明らかではないが、以下に示す赤外吸収の結果などから、当該炭素数4以上のカルボン酸が無機酸化物微粒子の表面に吸着することにより、疎水化を生じるものと考えられる。
【0035】
また、上記カルボン酸による無機酸化物微粒子の表面修飾においては、一般に表面修飾に用いる疎水化表面処理剤としてのカルボン酸の量が増加するに従って有機溶媒や樹脂組成物への親和性が高まる傾向が見られた。その一方で、過剰な修飾を行った場合には、各分散粒子における無機酸化物の体積割合が減少し、光学部材として樹脂組成物に分散させた場合の屈折率の向上効果が低下する。このため、修飾に用いるカルボン酸の量は、樹脂の高屈折率化を主目的とする場合には、使用する樹脂組成物に応じて均一な分散を行うために必要最小限の量とすることが好ましい。典型的には、修飾処理される無機酸化物微粒子に対して30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらには10質量%以下の質量のカルボン酸を使用することが高屈折率の観点からは好ましい。一方、その用途に応じて高い透明性を確実に得るためには、修飾処理される無機酸化物微粒子に対して100質量%程度のカルボン酸を使用した疎水化処理を行うことで、確実な疎水化処理が可能となる。
【0036】
本発明におけるカルボン酸による無機酸化物微粒子の表面修飾は、以下のような工程により行われる。すなわち、平均粒径20nm程度以下の親水性の無機酸化物微粒子が分散した透明の水分散液中に、疎水化表面処理剤として適量の炭素数4以上の脂肪酸カルボン酸を混合し攪拌することにより分散液に白濁を生じさせることができる。この白濁は、親水性を有していた無機酸化物微粒子の表面が疎水化されて粒子と水相間に界面を生じることに伴うものであり、無機酸化物微粒子が疎水化されたことを示すものである。
【0037】
疎水化した無機酸化物微粒子を有機溶媒や樹脂組成物に分散させるためには、上記白濁した分散液から水を除去する必要がある。本発明においては、最終的に樹脂組成物に均一分散させるための中間的な手段として、(1)上記疎水化した無機酸化物微粒子が懸濁している分散液を凍結乾燥させて分散液中の無機酸化物微粒子を乾燥させて分離する方法、及び、(2)疎水化した無機酸化物微粒子が懸濁している分散液に、所定量の非水溶性有機溶媒と両溶性有機溶媒とを混合して、水と非水溶性有機溶媒と両溶性有機溶媒とからなる混合溶液を媒質として無機酸化物微粒子が懸濁している分散液とし、その後に主に水と両溶性有機溶媒とを共沸により除去することで、非水溶性有機溶媒に疎水化された無機酸化物微粒子が透明に均一分散した分散液を得る方法、及び、(3)上記で得られた非水溶性有機溶媒に無機酸化物微粒子が透明に均一分散した分散液から更に非水溶性有機溶媒を蒸発除去して無機酸化物微粒子を分離取得する方法のいずれかを用いることが好ましいことが明らかになった。
【0038】
つまり、上記(1)、(3)の方法により得られる無機酸化物微粒子は、適切な疎水化処理が行われていることを条件に、その後にトルエンや、スチレン等の有機溶媒に対して容易に均一分散して透明の分散液を生じることから、疎水化処理された無機酸化物微粒子を有機溶媒を含む適宜の樹脂組成物と混合して重合等を行うことにより、無機酸化物微粒子が均一分散した無機粒子複合化プラスチックを得ることができる。また、(2)の方法により得られる分散液に樹脂組成物を混合する等して適宜重合等を行うことによっても、無機酸化物微粒子が均一分散した無機粒子複合化プラスチックを得ることができる。
【0039】
上記(1)の方法によれば、非常に簡便に水相中に存在する親水性の無機酸化物微粒子を疎水化することが可能であり、凍結乾燥により得られた疎水化処理された無機酸化物微粒子は、その後に適宜の有機溶媒や樹脂組成物に均一にナノスケールで分散させることが可能となる。(1)の方法により無機酸化物微粒子の疎水化を行うためには、使用する疎水化表面処理剤の水相中への分散性等を考慮して、疎水化表面処理剤の混合量を定めることが望ましい。典型的には、修飾処理される水相中に分散した無機酸化物微粒子に対して30〜100質量%程度のカルボン酸を混合して疎水化処理を行うことで、実効的な疎水化処理が可能となる。
一方、(2)、(3)の方法においては、特に少量の疎水化表面処理剤によっても良好な疎水化を効率的に行うことが可能である点で望ましい。疎水化処理に非水溶性有機溶媒と両溶性有機溶媒を共に用いる(2)、(3)の方法により効率的な疎水化処理の行える理由は明らかでないが、非水溶性有機溶媒と両溶性有機溶媒の存在により、分散液中において疎水化表面処理剤がより均一に存在すること、及び、無機酸化物微粒子の表面に存在する水相のバリアが消滅して、疎水化表面処理剤が無機酸化物微粒子表面に効率的に供給されることが考えられる。
【0040】
上記において、両溶性有機溶媒とは、水溶性であるとともに、非水溶性有機溶媒との相溶性をも有していることを意味している。このような両溶性有機溶媒としては、その代表例としては、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコールや、アセトン等が好適なものとして挙げられる。これらは単一もしくは複数種のものとして用いられてもよい。使用される両溶性有機溶媒は、主に水と非水溶性有機溶媒とを含む均一な液相を生成するため、及び、水と共沸することにより液相から水分を除去する目的で使用される。このため、少量で水と非水溶性有機溶媒とを含む均一な液相を生じること、及び、比較的低い沸点を有するものが好ましいため、使用する非水溶性有機溶媒の種類等に応じて実験的に決定することが望ましいが、一般には水との相溶性の高い炭素数が3以下の比較的分子の小さなアルコールや、アセトン等が好ましく用いられる。
【0041】
また、非水溶性有機溶媒としては、その代表例として、たとえばトルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が好適なものとして挙げられる。これらは単一もしくは複数種のものを混合して用いてもよい。非水溶性有機溶媒は、疎水化された無機酸化物微粒子を分散保持するためのものであり、水の除去の際に過剰な蒸発を生じない低蒸気圧のものが好ましい。また、その後に目的とする樹脂化合物との相溶性が高いものを選択して用いることが好ましい。また、適切な条件とすることで重合して樹脂となるスチレン等を非水溶性有機溶媒として用いることも可能である。
【0042】
また、無機酸化物微粒子の水分散液については、微細な無機酸化物微粒子が均一に分散可能である範囲内において、なるべく高濃度の無機酸化物微粒子を含むものが、処理効率の観点から望ましい。一般的には、無機酸化物微粒子の含有量が5〜50質量%の範囲となることを目安とすることができる。
【0043】
水分散液と非水溶性有機溶媒の混合割合について、上記の通り、非水溶性有機溶媒は疎水処理された無機酸化物微粒子を分散保持するためのものであり、その目的を達することが可能な最低量以上にする必要がある。一方、過剰量の非水溶性有機溶媒は、樹脂組成物中の無機酸化物微粒子の配合割合を低下させることになるため望ましくない。具体的には、例えば、無機酸化物微粒子としてジルコニア粒子を使用し、非水溶性有機溶媒としてトルエンを用いる場合には、使用する水分散液中に含まれるジルコニア粒子1gあたり0.3〜5ml程度が好適である。なお、水の共沸除去の際に非水溶性有機溶媒が蒸発する場合には、適宜非水溶性有機溶媒を追加することも可能である。
【0044】
上記両溶性有機溶媒は、当該水分散液と非水溶性有機溶媒を共に溶解することで、その混合溶液である液相を生成可能な量以上の割合で用いることが望ましい。一方、過剰の量を用いた場合には、水の共沸除去の際に水の蒸気圧を過剰に低下させる結果となるために望ましくない。なお、水の共沸除去を複数回に分けて行う場合には、必ずしも各回の共沸除去において全部の水分散液と非水溶性有機溶媒共に溶解する必要はなく、最終的に残留する全ての水を溶解する量の両溶性有機溶媒が混合されることで、良好な疎水化処理が可能である。両溶性有機溶媒の具体的な使用量は、使用する非水溶性有機溶媒の種類や使用量により決定されるが、例えば、水分散液が10ml、非水溶性有機溶媒としてのトルエンが1ml程度である場合において、両溶性有機溶媒としてメタノールを用いる場合、概ね20ml〜100ml程度のメタノールを使用することが好ましい。
【0045】
両溶性有機溶媒との共沸により水を除去する蒸発行程においては、水の除去を効率的に行えるように、使用する両溶性有機溶媒の種類や使用量に応じて、特に混合液の温度と、それに平衡する気相の圧力が適宜定められる。典型的な水の共沸除去の条件として、両溶性有機溶媒としてメタノールを用いる場合には、液相を室温程度に維持しつつ、液相内に突沸を生じない範囲で気相の圧力を減圧することで、水を液相から効率的に除去することが可能である。水の共沸除去は、液相に含まれる水がほぼ完全に除去されて、液相の白濁が見られなくなって十分に透明になる程度になるまで行う。このためには、両溶性有機溶媒の添加混合と蒸発行程を複数回繰り返し行う処理、又は、蒸発工程を実施しつつ両溶性有機溶媒を補充することで継続的に水の含有量を減少させる処理が望ましい。また、この際に非水溶性有機溶媒が同時に蒸発してその量が減少する場合には、適宜補充を行うことが好ましい。
【0046】
以上の工程により得られた非水溶性有機溶媒中に疎水化された無機酸化物微粒子がナノスケールで透明に均一分散した分散液に対して、当該非水溶性有機溶媒と相溶性を有する樹脂組成物を混合して適宜重合等を行うことにより、無機酸化物微粒子が均一分散した無機粒子複合化プラスチックを得ることができる。
【0047】
また、当該分散液からさらに非水溶性有機溶媒を蒸発除去させることにより得られる疎水化表面修飾された無機酸化物微粒子は、再び非水溶性有機溶媒中にナノスケールで均一に再分散させ透明な分散液とすることが可能であり、必要に応じて非水溶性有機溶媒や樹脂組成物と混合することで、無機酸化物微粒子が均一分散した無機粒子複合化プラスチックを得ることができる。この場合の分散媒としての有機溶媒は、非極性の炭化水素、たとえばトルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素等であってよく、重合性のスチレン、メタクリル酸、メタクリレート等のモノマー化合物、オリゴマー化合物であってもよい。有機溶媒が重合性化合物を含んでいてもよい。これらは単一もしくは複数種のものとして用いられてもよい。
【0048】
有機溶媒が重合性化合物である場合、あるいは重合性化合物を含む場合には、無機酸化物微粒子分散重合性組成物とすることができ、これを用いて重合硬化することで、無機酸化物微粒子を分散含有させたプラスチックを形成することができる。重合性化合物としては各種のものが考慮される。これらは透明性樹脂を形成する化合物として用いられる。
【0049】
たとえばこの透明性樹脂としては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテル、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリウレタン、スチレン、MMA共重合体、ポリエステル、フェノール樹脂等の各種のものが考慮される。
【0050】
本発明の表面修飾した無機酸化物微粒子を分散含有させた樹脂組成物においては、無機酸化物微粒子の含有量は、期待される屈折率等に応じて決定されるが、透明性を確保するためには全体量の80質量%以下の範囲内とすることが好適に考慮される。
【0051】
このような樹脂組成物により、所定の形成を有する成形品とすることで、光学部材や光学部品を構成することができる。重合酸化については加熱による熱重合、あるいは重合開始剤を含有させての重合や、光照射による光重合等の様々な手段が採用されてよいことは言うまでもない。
【0052】
本発明によって疎水化されたナノスケールの無機酸化物微粒子を分散含有させた樹脂組成物においては、無機酸化物微粒子が可視光の波長に比べても十分に小さなサイズであり、また無機酸化物微粒子と樹脂との界面が実質的に存在しないことから、光散乱が小さく十分な透明性を有することができる。また、従来のシリコンカップリング剤等により無機酸化物微粒子の表面に比較的肉厚の疎水化被膜を設ける方法と比較して、比較的少量の疎水化表面処理剤により無機酸化物微粒子を疎水化して樹脂との界面を消失させるため、既存の方法により疎水化被膜を設けた無機酸化物微粒子と比較して、樹脂に分散させた場合に高い屈折率向上の効果が得られる。
【0053】
以下に実施例として無機酸化物微粒子としてZrO2ナノ微粒子を用いる場合を例としてより詳しく説明する。もちろん本発明は以下の例によって限定されるものではない。
[実施例]
【実施例1】
【0054】
水相中に分散したZrO2微粒子を、水相中で疎水化処理して非水溶性有機溶媒へ再分散可能なZrO2粒子とする手段について検討した。
<1>様々な表面処理剤によるZrO2微粒子の表面修飾
ZrO2微粒子が水相中に均一に分散して透明となっている水分散液(ZrO2含有量11.61wt%)3mLに対して、表1に示す条件で種々の表面処理剤を水分散液に含有されるZrO2に対して30質量%となるように添加して、スターラーチップをセットした10mLナスフラスコ中で約一時間混合を行った。ZrO2微粒子水分散液としては住友大阪セメント製のものを用いた。表面処理剤を混合した後の分散液は、使用した表面処理剤により、白濁を示すものと、透明を維持するものが見られた。
<2>凍結乾燥による水分の除去
上記で得られた種々の表面処理剤を添加して混合した混合液を、通常の凍結乾燥により乾燥して水分の除去を行い、水相中に分散していたZrO2粒子を粉末状のものとした。
<3>非水溶性有機溶媒への分散性の確認
上記で得られたZrO2粒子からなる粉末を非水溶性有機溶媒であるトルエンを分散媒として投入して混合し、各粉末のトルエンに対する分散性を確認すると共に、トルエン中に分散するZrO2粒子の粒子径を動的光散乱(DLS)により測定した。その結果を表1にまとめて示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示すように、表面処理剤として所定量の炭素数4以上のカルボン酸であるメタクリル酸、ヘキサン酸を用いた場合には、少なくともZrO2粒子の一部がトルエン中に均一に分散して、透明になることが観察された。また、トルエン中に存在するZrO2粒子の粒子径は10nm程度であり、ナノスケールで分散していることが認められた。
【0057】
一方、疎水化表面処理剤として酢酸、プロピオン酸を用いた場合には、ほぼ全てのZrO2粒子がトルエンに分散することなく、沈殿を生じた。
【0058】
表1に示す結果から、疎水化表面処理剤として炭素数4以上のカルボン酸を用いることで、水相中に分散するZrO2微粒子を疎水化可能であり、水を除去した後に非水溶性有機溶媒中にナノスケールを維持した状態での再分散が可能となることが明らかになった。
【実施例2】
【0059】
水相中に分散したZrO2微粒子を非水溶性有機溶媒へ移行する際に、その過程で表面処理剤により疎水化処理を行い、非水溶性有機溶媒中にZrO2微粒子が均一に分散した分散液を得る手段について検討した。
<1>様々な疎水化表面処理剤によるZrO2微粒子の表面修飾
スターラーチップをセットした100mLナスフラスコに、処理されるZrO2に対して10〜100wt%に相当する量の各種の疎水化表面処理剤をとり、非水溶性有機溶媒としてのトルエン1mL、両溶性有機溶媒であるメタノール30mLを加えたものに、ZrO2微粒子水分散液(ZrO2含有量11.61wt%)10mLを加えて混合した。ZrO2微粒子水分散液としては住友大阪セメント製のものを用いた。得られた混合溶液においては、両溶性有機溶媒であるメタノールに非水溶性有機溶媒のトルエンと水が溶解して均一な液相が形成されると共に、ZrO2微粒子に起因すると思われる白濁を生じていた。
【0060】
上記で得られる混合液を1時間室温で攪拌した後、ロータリーエバポレーターにより3〜5mL程度になるまで分散媒を蒸発除去した。分散媒の蒸発除去は、混合液を室温に保ちつつ液相内での突沸が生じない程度の圧力に雰囲気を減圧することにより行った。
【0061】
初回の分散媒の蒸発除去後にナスフラスコに残留した混合液は白濁を有し、液相が2相に分離していた。その混合液に、更にメタノール30mL、トルエン1mLを加えて再び界面がない白濁した分散液とし、再度3〜5mL程度になるまでエバポレーションを行う操作を行った。当該操作を概ね数回重ねることにより、使用した表面処理剤の種類や量によっては分散液を白濁した状態から無色透明へと変化させ、残留する液相を単相とすることができることが明らかになった。本実施例では5〜6回の操作により、水/エタノール/トルエン混合溶媒からトルエンのみの溶媒に置換してZrO2微粒子のトルエン分散液を得た。得られたトルエン分散液中のZrO2微粒子の粒子径は動的光散乱(DLS)により測定した。
【0062】
本実施例で得られたZrO2粒子のトルエン分散液について、表2にまとめて示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2の結果から明らかなように、表面処理剤としてアルコール、アミンを用いた場合には、白濁が残留することから、ZrO2粒子表面がトルエンに対して十分な親和性を有しておらず、両者間に界面が存在するものと推察された。一方、脂肪酸カルボン酸の中でも特に炭素数が4以上のものを用いた場合には、ZrO2粒子の量に対して10〜100質量%を混合することで、トルエン分散液が透明になることが観察され、ZrO2粒子表面がトルエンに対して親和性を有しており、両者間に実質的な界面が存在しないものと推察された。
<2>表面修飾の状態
上記のように、炭素数が4以上のカルボン酸を疎水化表面処理剤として水相中に分散するZrO2微粒子の表面修飾を行うことで、トルエン中に凝集することなく分散させることが可能である。図5には、ZrO2微粒子に対して20質量%に相当するヘキサン酸を疎水化表面処理剤として加えてトルエン置換を行って得たZrO2微粒子のトルエン分散液の1H NMRスペクトル測定結果(下段)を、ヘキサン酸の測定結果(上段)と比較して示す。図5から明らかなように、ヘキサン酸で疎水化したZrO2微粒子が分散したトルエンにおいては、ヘキサン酸のピークがブロードになったものに相当する信号が得られ、ヘキサン酸がZrO2微粒子に吸着していることが推察された。
【0065】
図4には、比較例として、表面処理剤として酢酸を用いてトルエン置換を行うことで白濁を生じたZrO2粒子のトルエン分散液の1H NMRスペクトル測定結果(下段)を、酢酸の測定結果(上段)と比較して示す。酢酸で疎水化を行ったZrO2粒子を含むトルエンにおいては、酢酸に起因する信号が観察されなかった。
【0066】
また、図6には、上記と同様にZrO2微粒子に対して20質量%に相当するヘキサン酸を疎水化表面処理剤として加えてトルエン置換を行った後にトルエンを室温で真空乾燥して得られたZrO2微粒子のIR測定の結果(下段)を、ZrO2微粒子水分散液に疎水化表面処理剤として酢酸を加えた後に乾燥して得られたZrO2粒子のIR測定の結果(中段)と、ZrO2微粒子水分散液を直接乾燥して得られたZrO2粒子を更に400℃でベーキングして得られたZrO2粒子のIR測定の結果(上段)と比較して示す。
【0067】
図6から、ヘキサン酸、酢酸を加えたZrO2粒子は共にカルボキシレートに起因する吸収を示す一方で、ヘキサン酸を加えたものでは3000cm−1付近にCH等に起因する吸収を示した。これらのことから、酢酸やヘキサン酸は共にZrO2微粒子に吸着していることが推察される一方で、炭素数の相違により疎水性に与える影響が異なるものと推察される。つまり、本願発明に係る疎水化処理方法により疎水化されたZrO2粒子が芳香族炭化水素等に凝集せずに分散して透明な分散液を生成する理由は、上記のように、疎水化表面処理剤として加えた炭素数が4以上のカルボン酸が、カルボキシレートの状態でZrO2粒子表面に吸着していることに基づくものと推察される。
【実施例3】
【0068】
ZrO2微子の分散した非水溶性有機溶媒の分散液から、非水溶性有機溶媒を蒸発し除去して得られるZrO2粒子中について、非水溶性有機溶媒への再分散性を検討した。
<1>非水溶性有機溶媒の除去
実施例2で得られた各トルエン分散液を室温で24時間真空乾燥させてトルエンを除去し、ZrO2粒子からなる粉末を得た。
<2>非水溶性有機溶媒への分散性の確認
上記で得たZrO2粒子からなる粉末を各種の分散媒中に投入し、各種分散媒中へのZrO2粒子の再分散性を検討した。その結果を表3にまとめて示す。
【0069】
【表3】

【0070】
表3の結果から明らかなように、特に炭素数が4以上のカルボン酸で疎水化処理を行ったZrO2粒子は、広く各種の非水溶性有機溶媒中において透明な状態で均一に再分散可能であり、非水溶性有機溶媒と親和性を有していることが明らかである。
【実施例4】
【0071】
水相中に分散したZrO2微粒子を非水溶性有機溶媒へ移行する過程で疎水化表面処理剤を用いた疎水化処理を行う際のさまざまな処理条件が及ぼす影響について検討した。特に、本実施例では疎水化表面処理剤として炭素数4以上のカルボン酸のうちから特にヘキサン酸(HA)とメタクリル酸(MA)を選択して混合して用いた際に、疎水化表面処理剤の種類の影響を検討した。
<1>様々な表面処理剤によるZrO2微粒子の表面修飾
スターラーチップをセットしたナスフラスコに、表4に記載されるNo.1〜4の条件で、住友大阪セメント製のZrO2微粒子水分散液(ZrO2含有量11.61wt%)、メタノール、トルエンを混合したものに、疎水化表面処理剤としてヘキサン酸とメタクリル酸の混合物を添加して単一相の液相からなる白濁した混合液を得た。この混合液を実施例2と同様の方法で5〜6回の分散媒の蒸発除去を行って、ZrO2粒子のトルエン分散液を得た。得られたZrO2微粒子のトルエン分散液の性状と、動的光散乱(DLS)により測定した分散液中のZrO2粒子のサイズを表4に示す。
【0072】
【表4】

【0073】
表4の結果から明らかなように、ZrO2微粒子水分散液、メタノール、トルエンの混合比率や、疎水化表面処理剤としてのヘキサン酸とメタクリル酸の混合比率等によらず、広い範囲で透明なZrO2粒子のトルエン分散液が得られること、及び、いずれの分散液においても概ねZrO2粒子のサイズが10nm以下に保たれることが明らかとなった。
【実施例5】
【0074】
実施例4で得られたZrO2粒子のトルエン分散液からトルエンを真空乾燥して得たZrO2粒子を、樹脂組成物としてのスチレンに再分散した後、スチレンを重合して得られるポリスチレン樹脂の性状について検討した。
<1>表面修飾ZrO2微粒子のスチレン分散液の製造とスチレンの重合
表3にも示すように、本発明に係る表面修飾方法によって得られるZrO2微粒子は、スチレンに再分散可能である。本実施例では、実施例4で表面修飾による疎水化処理を行ったZrO2微粒子を樹脂組成物としてのスチレンに20〜65質量%の割合で分散させて、透明なZrO2粒子のスチレン分散液を得た。このZrO2微粒子のスチレン分散液を試験管へ移し、氷浴中で10分間窒素バブリングを行い、120℃のオイルバスで三日間重合してポリスチレンとした。
<2>ZrO2微粒子が分散したポリスチレン樹脂
本実施例において使用したZrO2粒子とスチレン(St)の混合比率、及び得られたポリスチレンの性状を表5に示す。また、図1には、得られたポリスチレンの光学写真を示す。
【0075】
【表5】

【0076】
表5、及び、図1から明らかなように、ヘキサン酸(HA)とメタクリル酸(MA)を6:4〜3:7の割合で混合した疎水化表面処理剤を用いた場合、いずれもZrO2粒子が凝集等をすることなく透明のポリスチレンとの複合体が得られることが明らかとなった。特に、ヘキサン酸とメタクリル酸を4:6〜3:7の割合で混合した疎水化表面処理剤を用いた場合には、高い透明度のポリスチレン複合体が得られる傾向が見られた。
【0077】
また、次の表6、及び、図2に示すように、表4中のNo.2の条件で疎水化処理を行ったZrO2粒子を46.9質量%、64.7質量%の割合で含有させた場合でもポリスチレン複合体の透明性が損なわれることがなく、本発明による疎水化処理を行ったZrO2微粒子を用いることで、透明性を損なうことなく樹脂中にZrO2粒子を分散させることが可能となることが明らかになった。
【0078】
【表6】

【0079】
また、樹脂組成物としてのスチレンとメチルメタクリレートを質量比で7:3に混合した分散媒にヘキサン酸とメタクリル酸で疎水化処理を行ったZrO2粒子を分散させて重合して複合化した場合(表6中のNo.7)にも、透明性に優れたスチレン−メチルメタクリレート共重合樹脂とZrO2粒子複合体が得られた。
<4>スチレン−ZrO2粒子分散液、及び、ZrO2粒子を分散したポリスチレン樹脂の屈折率
スチレン−ZrO2粒子分散液について、アッベ屈折計により屈折率を測定した屈折率測定の結果を図3に示した。スチレンに分散させたZrO2粒子は、ヘキサン酸とメタクリル酸を5:5の割合で混合した疎水化表面処理剤を用いて疎水化処理を行ったものである。また、図3には、Lorentz−Lorenzの式から算出したスチレン−ZrO2粒子分散液の屈折率の理論値を示した。ZrO2微粒子を分散させることで分散液の屈折率は増加し、65wt%ZrO2微粒子を含有させた分散液では、スチレンの屈折率と比較して0.087の屈折率の増加がみられた。
【0080】
従来、ZrO2粒子を樹脂中に分散させることを目的として、ZrO2粒子の表面を屈折率の低いシリコンカップリング剤等で被覆した場合には、当該ZrO2粒子の体積と比較してシリコンカップリング剤等の体積割合が大きくなるため、結果として、当該被覆のされたZrO2粒子を樹脂中に分散させても、期待される程度の屈折率の向上効果が得られないことが問題とされていた。これに対して、図3に示されるように本実施例で得られる屈折率の増加の割合はほぼ理論値に沿っていることから、本発明に係る疎水化処理によりZrO2微粒子の表面に吸着するカルボン酸は、ごく僅かの量でZrO2微粒子を疎水化して樹脂組成物中に分散可能とできることが推察される。
【0081】
上記ZrO2粒子を分散させたスチレンを重合し、ZrO2粒子を分散したポリスチレン樹脂とした場合、30質量%のZrO2粒子を含むポリスチレン樹脂の屈折率が1.620(D線:589nm)となり、スチレンの重合により屈折率が向上した。また、同様に50質量%のZrO2粒子を含むものが1.630、65質量%のZrO2粒子を含むものが1.655の屈折率(いずれもD線:589nm)を示し、本発明に係る疎水化処理による処理を行ったZrO2微粒子を分散させることで、重合を行ったポリスチレンにおいても屈折率が向上することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物微粒子を水中に分散してなる無機酸化物微粒子の水分散液に対し、炭素数4以上のカルボン酸を混合して混合液にする工程と、当該混合液から水を除去する工程とを含むことを特徴とする無機酸化物微粒子の疎水化処理方法。
【請求項2】
前記混合液から水を除去する工程は、当該混合液に非水溶性有機溶媒と両溶性有機溶媒とを混合することで前記無機酸化物微粒子を懸濁する水と非水溶性有機溶媒と両溶性有機溶媒とを含む混合溶液を形成する工程と、当該混合溶液から水と両溶性有機溶媒とを蒸発除去する工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の無機酸化物微粒子の疎水化処理方法。
【請求項3】
前記非水溶性有機溶媒が芳香族炭化水素の少なくとも1種であり、前記両溶性有機溶媒がアルコールの少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の無機酸化物微粒子の疎水化処理方法。
【請求項4】
前記混合液から水を除去する工程を行った後、更に非水溶性有機溶媒を蒸発除去する工程を含むことを特徴とする請求項2または3に記載の無機酸化物微粒子の疎水化処理方法。
【請求項5】
前記混合液から水を除去する工程は、当該混合液を凍結乾燥して水を除去する工程であることを特徴とする請求項1に記載の無機酸化物微粒子の疎水化処理方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の無機酸化物微粒子の疎水化処理方法により疎水化された無機酸化物微粒子を、芳香族炭化水素の少なくとも1種を含む有機溶媒に分散させることを特徴とする無機酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が重合性化合物を含むことを特徴とする請求項6に記載の無機酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法により製造された無機酸化物微粒子分散液に含まれる重合性化合物を重合硬化させることを特徴とする無機酸化物微粒子分散樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
粒子の表面に炭素数4以上のカルボン酸がカルボキシレートとして吸着していることを特徴とする無機酸化物微粒子。
【請求項10】
請求項9に記載の無機酸化物微粒子が有機溶媒中に分散して存在することを特徴とする無機酸化物微粒子分散液。
【請求項11】
有機溶媒が芳香族炭化水素の少なくとも1種であることを特徴とする請求項10に記載の無機酸化物微粒子分散液。
【請求項12】
前記有機溶媒が重合性化合物の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項9又は10のいずれか一項に記載の無機酸化物微粒子分散液。
【請求項13】
請求項9に記載の無機酸化物微粒子が樹脂中に分散含有されていることを特徴とする無機酸化物微粒子分散樹脂組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の樹脂組成物がその構成の少なくとも一部とされていることを特徴とするプラスチック部材。
【請求項15】
請求項14に記載のプラスチック部材が少なくともその構成の一部とされていることを特徴とする光学部品。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−105553(P2011−105553A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263423(P2009−263423)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(304036754)国立大学法人山形大学 (59)
【Fターム(参考)】