説明

無段変速機油組成物

【課題】 金属ベルトやチェーンとプーリー間の摩擦係数を著しく向上させ、長期に亘ってこの高い摩擦係数を維持でき、かつクラッチ板の目詰まりを引き起こすことのない無段変速機油組成物を提供する。
【解決手段】 潤滑油基油に、重量平均分子量が1200〜2500のホウ素を含まないモノタイプのコハク酸イミド化合物および/または重量平均分子量が1700〜2500のホウ素を含まないビスタイプのコハク酸イミド化合物を全組成物量基準で0.5〜5質量%、フェニルホスフェート、アルキルフェニルホスフェート、フェニルチオホスフェート、アルキルフェニルチオホスフェートから選ばれる1種以上のりん系化合物を全組成物量基準で0.1〜2質量%配合し、かつジアルキルジチオリン酸亜鉛を実質的に含有しないことからなる無段変速機油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機油組成物に関し、特には、金属ベルト式又は金属チェーン式等の無段変速機におけるベルトやチェーンとプーリー間の摩擦特性に優れた潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ベルト式又は金属チェーン式の無段変速機はエンジンの燃焼効率の良い領域を選択的に使用できることから、省燃費性に優れた変速機として脚光を浴びており、特に、近年は金属ベルト式無段変速機を搭載する車種が増加している。このタイプの変速機は、金属ベルト又は金属チェーンと金属製のプーリーの間の摩擦によりトルクを伝達し、またプーリーの半径比を変えることにより変速を行う機構からなっている。したがって、金属ベルト式又は金属チェーン式の無段変速機に使用される潤滑油には、伝達トルク容量を向上させるために金属間での摩擦係数の高いものが求められている。
【0003】
金属間の摩擦係数を向上させるために、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を配合する方法が提案されていたが(非特許文献1)、ジアルキルジチオリン酸亜鉛は使用にともない消耗され、金属間摩擦係数が低下してしまう問題があった。また最近のベルト式無段変速機においては湿式クラッチを組み合わせたものがあり、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の劣化成分はクラッチ板の目詰まりを引き起し、その機能を損なわせるという問題があった。
【0004】
このために、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない無段変速機油として、Caサリシレート、りん系摩耗防止剤、摩擦調整剤及び分散型粘度指数向上剤を配合するもの(特許文献1)、ポリイソブテニルサクシンイミド無灰分散剤、有機ホスフィット、カルシウム過塩基性フェナート洗浄剤、サクシンイミド、エトキシル化アミンを含む摩擦改良剤及び長鎖カルボン酸の一級アミドを配合するもの(特許文献2)、特定の鉱油系潤滑油基油にリン系化合物及び無灰分散剤としてホウ素変性コハク酸イミドを配合するもの(特許文献3)、特定のりん系化合物及び無灰分散剤としてホウ素変性コハク酸イミドを配合するもの(特許文献4)、ホウ素含有コハク酸イミド系無灰分散剤を配合するもの(特許文献5)等が提案されている。
【0005】
しかしながら、上記変速機油では、高出力のエンジン動力を伝達するためには、摩擦係数が不足であり、さらなる改善が要望されている。
【特許文献1】特開2000−355695号公報
【特許文献2】特開2000−336386号公報
【特許文献3】特開2000−109875号公報
【特許文献4】特開2000−109872号公報
【特許文献5】特開2000−109867号公報
【非特許文献1】馬渕 他 「ベルトCVTの伝達トルク向上に対するCVTF添加剤ZnDTPの効果(第1報)」(社)日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集(東京1998-5) p.511
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するもので、本発明の目的は金属ベルトやチェーンとプーリー間の摩擦係数を著しく向上させ、長期に亘ってこの高い摩擦係数を維持でき、かつクラッチ板の目詰まりを引き起こすことのない無段変速機油組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、潤滑油基油に、重量平均分子量が1200〜2500のホウ素を含まないモノタイプのコハク酸イミド化合物および/または重量平均分子量が1700〜2500のホウ素を含まないビスタイプのコハク酸イミド化合物を全組成物量基準で0.5〜5質量%、フェニルホスフェート、アルキルフェニルホスフェート、フェニルチオホスフェート、アルキルフェニルチオホスフェートから選ばれるりん系化合物1種以上を全組成物量基準で0.1〜2質量%配合し、かつジアルキルジチオリン酸亜鉛を実質的に含有しない無段変速機油組成物からなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、特定のコハク酸イミド化合物とりん系化合物を配合し、かつジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有しないようにしたため、金属ベルトやチェーンとプーリー間の摩擦係数を著しく向上させ、長期に亘ってこの高い摩擦係数を維持でき、かつクラッチ板の目詰まりを引き起こすことがない等の格別の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の潤滑油基油としては、通常の潤滑油の基油として用いられている鉱油系及び/又は合成油系を用いることができる。鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の潤滑油基油や溶剤脱ロウで得たワックスを異性化、脱ろうして得られる潤滑油基油が使用できる。
【0010】
合成油系基油としては、例えば、ポリ−α−オレフィン(1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等)及びその水素化物、イソブテンオリゴマー及びその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル、ポリオールエステル、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、並びにポリフェニルエーテル等が好適に使用できる。
【0011】
なお、これら潤滑油基油の動粘度は、無段変速機の種類に合わせて適宜選定すればよいが、通常、100℃における動粘度が、好ましくは2〜7mm2/s、より好ましくは3〜5mm2/sの範囲から選定するとよい。
【0012】
本発明に用いるコハク酸イミド化合物は、ホウ素を含有しないものである。ホウ素を含有しないコハク酸イミド化合物が、ホウ素を含有するものより金属間摩擦係数の向上の面で優れている。
コハク酸イミド化合物は、イミド化に際してポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した下記一般式(1)のようないわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した下記一般式(2)のようないわゆるビスタイプのコハク酸イミドがあるが、本発明においては、モノタイプ及びビスタイプのコハク酸イミドのいずれも使用可能であり、またモノタイプとビスタイプを混合して使用することもできる。
【0013】
【化1】

上記一般式(1)中、R1はアルキル基又はアルケニル基を示す。
【0014】
【化2】

なお、上記一般式(1)及び(2)中、R1、R2、R3は、それぞれ個別にアルキル基又はアルケニル基を示し、aは1〜10、好ましくは2〜5の整数、bは1〜10、好ましくは2〜5の整数を示す。
【0015】
このコハク酸イミドは、ホウ素を含まないもので、モノタイプでは重量平均分子量が1200〜2500、ビスタイプでは重量平均分子量が1700〜2500のものが、金属間摩擦係数の向上の面で優れており、このために、上記一般式(1)及び(2)中のR1、R2、R3のアルキル基又はアルケニル基は、その炭素数が上記重量平均分子量の範囲になるように選定される。この種のコハク酸イミドは、ギヤ油、金属加工油、作動油、自動変速機油などの各種潤滑油に使用されている無灰分散剤として市販されているので、このうちから、上記重量平均分子量を有する化合物を選定するとよい。
このコハク酸イミド化合物は、全組成物量基準で0.5〜5質量%、好ましくは1〜3質量%配合することにより、摩擦係数の著しい向上を図ることができる。
【0016】
本発明のフェニルホスフェート、アルキルフェニルホスフェート、フェニルチオホスフェート、アルキルフェニルチオホスフェートのりん系化合物は、分子内に炭化水素基を1〜3個有する化合物であり、このうちの少なくとも1個の炭化水素基がベンゼン環を有する基、例えば、フェニル基や炭素数7〜18のアリール基からなるものである。他の炭化水素基としては、炭素数3〜11の1級アルキル基、炭素数3〜18の2級アルキル基、炭素数3〜18のβ位分岐アルキル基などが挙げられる。分子内のこれらの炭化水素基は同一であってもよいし、1個が他の2個と異なってもよいし、各々が異なってもよい。特には、分子内にベンゼン環を有する炭化水素基を2個以上有するものが好ましい。また、分子内の炭化水素基の構成が異なる2種以上の化合物を適宜の割合で混合して用いることも何ら問題ないし、上記フェニルホスフェート、アルキルフェニルホスフェート、フェニルチオホスフェート、アルキルフェニルチオホスフェートの4種の化合物から1つを選んで用いることも、2種以上を混合して用いることもできる。
本発明のりん系化合物としては、特に、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリフェニルチオホスフェート、トリノニルフェニルチオホスフェート及びこれらの混合物等が好適である。
【0017】
このりん系化合物は、組成物全量基準で、0.1〜2質量%、好ましくは、0.2〜1質量%配合する。0.1質量%より少ないと金属間摩擦係数の向上作用が小さく、摩耗防止性も不十分である。一方、配合量が2質量%を超えると材料適合性が悪化する。
【0018】
なお、本発明においては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を実質的に配合しないものである。なお、ここで、実質的に含有しないとは、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を全く含有しないか、又は含有しても、潤滑油劣化時にクラッチ板の目詰まりを引起し、その機能を損なわせることがない量以下、具体的には組成物全量基準で亜鉛元素量として0.001質量%以下であることを意味しているが、全く含有しないことがより好ましい。
【0019】
本発明の無段変速機油組成物には、上記添加剤以外に、さらに、金属系清浄剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、摩擦調整剤等を配合することができる。
金属系清浄剤を併用することにより、潤滑油劣化時の無段変速機におけるベルト又はチェーンとプーリー間の摩擦係数のすべり速度依存性を低減でき、金属間摩擦特性を向上させることが可能となる。この金属系清浄剤としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等からなるアルカリ土類金属系清浄剤が好ましく、例えば、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレートの中から選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属系清浄剤等、一般の潤滑油で金属系清浄剤として使用されているものを用いることができる。
これらの金属系清浄剤は、組成物全量基準で、0.1〜2質量%、好ましくは、0.2〜1質量%配合することが好ましい。0.2〜1質量%の配合範囲であれば、潤滑油劣化時でも金属間摩擦係数の向上作用を維持でき、潤滑油の酸化安定性を損なうことはない。
【0020】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物やアミン系化合物等、潤滑油に一般的に使用されているものであれば特に使用することに支障はない。具体的には、2-6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール等のアルキルフェノール類、メチレン-4,4-ビスフェノール(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)等のビスフェノール類、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン類、ジアルキルジフェニルアミン類、(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)脂肪酸(プロピオン酸等)と1価又は多価アルコール、例えばメタノール、オクタデカノール、1,6-ヘキサジオール、ネオペンチルグリコール、チオジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタエリスリトール等とのエステル等が好適である。
これらの酸化防止剤の中から適宜選定した1種類又は2種類以上の化合物を、含有させることができるが、通常、その量は、組成物全量基準で0.1〜2質量%の範囲で選定とすることが好ましい。
【0021】
粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させた、いわゆる分散型粘度指数向上剤、さらには非分散型又は分散型エチレン-α-オレフィン共重合体及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン-ジエン水素化共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等、一般の潤滑油で年度指数向上剤として使用されているものを用いることができる。
これらの粘度指数向上剤の中から適宜選定した1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意量、含有させることができるが、通常、その量は、組成物全量基準で1〜20質量%の範囲で選定することが好ましい。
【0022】
摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩等が挙げられる。
これらの摩擦調整剤の中から適宜選定した1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意量、含有させることができるが、通常、その量は、組成物全量基準で0.1〜2質量%の範囲で選定することが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に制限されるものではない。
無段変速機油組成物の調製
下記の潤滑油基油及び添加剤を用いて、実施例1〜6及び比較例1〜8の無段変速機油組成物を、表1の上部に示す配合割合(添加量は組成物全量全量基準での質量%)でそれぞれ混合して調製した。
【0024】
基油:
ワックスを水素化異性化した基油および溶剤脱ろう基油の混合基油(100℃における動粘度が4.1mm/s、粘度指数が136)を基油として用いた。
添加剤:
コハク酸イミド
A-1;モノタイプ、重量平均分子量 1400
A-2;ビスタイプ、重量平均分子量 1870
A-3;ビスタイプ、重量平均分子量 2310
A-4;ビスタイプ、重量平均分子量 1540
A-5;ビスタイプ、重量平均分子量 2680
A-6;ホウ素変性ビスタイプ、重量平均分子量 1480
A-7;ホウ素変性ビスタイプ、重量平均分子量 1870
りん系化合物
B-1;トリクレジルホスフェート
B-2;トリフェニルホスフェート
B-3;2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート
B-4;トリフェニルチオホスフェート
B-5;トリブチルホスフェート
B-6;トリジ-tert-ブチルフェニルホスファイト
金属系清浄剤;Caスルフォネート
粘度指数向上剤;分散型ポリメタクリレート(DPMA)
【0025】
評価:
ASTM D2714に記載のLFW-1試験機を用いて、無段変速機油の摩擦係数を測定した。測定条件は、荷重:20lbf、回転数:140rpm、油温:100℃とし、試験開始から1時間後の摩擦係数を求めた。摩擦係数が大きいものほど、金属間摩擦係数が大きいと評価される。また本試験において摩耗量が0.4mm以下であれば、耐摩耗性が良好と評価される。この結果を表1の下欄に示した。
【0026】
これらの結果から明らかなように、本発明の重量平均分子量が1200〜2500のホウ素を含まないモノタイプのコハク酸イミド化合物および/または重量平均分子量が1700〜2500のホウ素を含まないビスタイプのコハク酸イミド化合物とフェニルホスフェート、アルキルフェニルホスフェート、フェニルチオホスフェート、アルキルフェニルチオホスフェートから選ばれるりん系化合物とを組み合わせて配合した実施例1〜6は摩擦係数が高く、しかも摩耗量が小さいことが分かる。
【0027】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、重量平均分子量が1200〜2500のホウ素を含まないモノタイプのコハク酸イミド化合物および/または重量平均分子量が1700〜2500のホウ素を含まないビスタイプのコハク酸イミド化合物を全組成物量基準で0.5〜5質量%、フェニルホスフェート、アルキルフェニルホスフェート、フェニルチオホスフェート、アルキルフェニルチオホスフェートから選ばれる1種以上のりん系化合物を全組成物量基準で0.1〜2質量%配合し、かつジアルキルジチオリン酸亜鉛を実質的に含有しないことを特徴とする無段変速機油組成物。

【公開番号】特開2006−56934(P2006−56934A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237924(P2004−237924)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】