説明

無段変速機

【課題】潤滑性能及び冷却性能の向上を原価の増大を抑えつつ実現させること。
【解決手段】シャフト50上に配置した第1回転部材10、第2回転部材20及びサンローラ30と、第1及び第2の回転部材10,20に挟持される複数の遊星ボール40と、ニードルベアリングNB1,NB2を介して遊星ボール40を支持する支持軸41と、シャフト50に固定したキャリア60と、遊星ボール40の傾転動作で変速比を変える変速装置と、を備えた無段変速機1において、支持軸41の外周面に対して潤滑油を供給する潤滑油供給部を有し、支持軸41は、内部に形成した内部油路42と、内部油路42に連通させ且つ遊星ボール40からの突出部分に車載状態で上方へと開口させた入口油路43,44と、内部油路42に連通させ且つ遊星ボール40との間に開口させた出口油路45と、を有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共通の回転軸を有する複数の回転要素と、その回転軸に対して放射状に複数配置した転動部材と、を備え、各回転要素の内の2つに挟持された各転動部材を傾転させることによって入出力間の変速比を無段階に変化させる無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の無段変速機としては、回転中心となる変速機軸と、この変速機軸の中心軸を第1回転中心軸とする相対回転可能な複数の回転要素と、その第1回転中心軸と平行な別の第2回転中心軸を有し、第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置した転動部材と、を備え、対向させて配置した第1回転要素と第2回転要素とで各転動部材を挟持すると共に、各転動部材を第3回転要素の外周面上に配置し、その転動部材を傾転させることで変速比を無段階に変化させる所謂トラクション遊星ギヤ機構を備えたものが知られている。この無段変速機には、転動部材を支持する支持軸と、その転動部材を支持軸に対して自転させる軸受と、が転動部材毎に用意されている。
【0003】
ここで、この種の無段変速機に限らず、変速機においては、摺動部分の潤滑や冷却に必要な潤滑油を供給する構造や装置が設けられている。例えば、変速機内部に配置されている様々な回転体の回転によって潤滑油を飛散させ、その飛散した潤滑油が摺動部分に送られるという構造が知られている。この種の構造においては、飛散させた潤滑油が変速機内部で上方の壁面等に付着するので、その上方から滴下してきた又は流れてきた潤滑油も摺動部分の潤滑や冷却に利用される。例えば、下記の特許文献1に開示された変速機には、メインシャフト内の軸心油路に潤滑油を案内する為のレシーバ部が当該メインシャフトの軸線方向の一端に設けられている。そのレシーバ部は、変速機の鉛直上方に向けた開口部分で上方から落ちてきた潤滑油を受け止め、その受け止めた潤滑油をメインシャフト内の油路に案内するものである。また、下記の特許文献2に開示された遊星歯車機構を有する変速機には、プラネタリキャリアの軸線方向の端部に、上方から落ちてきた潤滑油を受け止めるキャッチタンクが配置されている。
【0004】
尚、下記の特許文献3には、上記の転動部材等を用いた無段変速機において、支持軸における軸受との間に孔を設け、その孔を介して軸受に潤滑油を供給する構造が開示されている。また、下記の特許文献4には、摩擦伝動変速機において、出力用摩擦ローラが軸受を介して取り付けられたクランクシャフトに、その軸心油路に連通する径方向の出口孔を軸受の位置に合わせて設けることで、その軸受に潤滑油を供給する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−293674号公報
【特許文献2】特開2010−156415号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2010/0093479号明細書
【特許文献4】特開2010−071300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1のレシーバ部は、メインシャフトとは別体構造のものとして用意し、メインシャフトの回転に連動して回転しないようにすることが望ましい。レシーバ部をメインシャフトに一体化してしまうと、メインシャフトの回転により、レシーバ部の開口部分で上方からの潤滑油を受け止められない場合があるからである。これが為、この特許文献1に記載の潤滑構造は、レシーバ部の別体構造によって原価の増大を招く虞がある。更に、この潤滑構造は、メインシャフトの軸線方向の一端に別体のレシーバ部を設けるので、軸長、つまり変速機の大型化を招いてしまう。また、上記特許文献2のキャッチタンクは、その開口部分をプラネタリキャリアの回転停止時に鉛直上向きにする為、その回転停止時にダンパ又は電子制御装置で開口部分が鉛直上向きになるよう制御している。これが為、この特許文献2に記載の潤滑構造は、そのダンパ等の為に、原価の増大を招く虞がある。
【0007】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、潤滑油による潤滑性能及び冷却性能の向上を原価の増大を抑えつつ実現できる無段変速機を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する為、本発明は、回転中心となる固定軸としての変速機軸と、前記変速機軸上で対向させて配置した共通の第1回転中心軸を有する相対回転可能な第1及び第2の回転要素と、前記第1回転中心軸と平行な第2回転中心軸を有し、該第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置して前記第1及び第2の回転要素に挟持させた転動部材と、前記第2回転中心軸を有し、前記転動部材から両端を突出させた当該転動部材の支持軸と、前記支持軸に対する前記転動部材の自転を可能にする軸受と、前記各転動部材を外周面上に配置し、前記変速機軸並びに前記第1及び第2の回転要素に対する相対回転が可能な第3回転要素と、前記変速機軸に固定され、且つ、前記支持軸の夫々の突出部を径方向に案内するガイド溝の形成された固定要素と、変速比となる入力側の前記第1回転要素と出力側の前記第2回転要素との間の回転比を前記各転動部材の傾転動作によって変化させる変速装置と、を備えた無段変速機において、前記支持軸の外周面に対して潤滑油を供給する潤滑油供給部を有し、前記支持軸は、内部に形成した内部油路と、該内部油路に連通させ且つ前記転動部材からの突出部分に車載状態で上方へと開口させた入口油路と、前記内部油路に連通させ且つ前記転動部材との間に開口させた出口油路と、を有することを特徴としている。
【0009】
ここで、前記潤滑油供給部は、変速機内で回転に伴い潤滑油を掻き上げる部材であることが望ましい。
【0010】
また、前記軸受を2つ備える場合、前記出口油路は、その開口を夫々の前記軸受の間に設けることが望ましい。
【0011】
また、前記出口油路は、その開口を前記支持軸の軸線方向にて前記軸受と同じ位置に設けることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る無段変速機に依れば、転動部材の傾転角度が0度の場合(変速比が等速の場合)でも、支持軸の入口油路から流入した潤滑油を内部油路と出口油路を介して軸受に供給できる。また、転動部材が傾転している場合(変速比が増速又は減速の場合)には、支持軸の外周面を伝ってきた潤滑油だけでなく、支持軸の入口油路から流入して出口油路から排出された潤滑油も軸受に供給できる。更に、この無段変速機は、その潤滑油の供給の為に、軸受に潤滑油を吹き付ける装置や開口の位置決めを電子制御で行う装置等が不要であり、主として、内部油路、入口油路及び出口油路を支持軸に形成すればよい。特に、潤滑油供給部が変速機内で回転に伴い潤滑油を掻き上げる部材であれば、これらの油路を設けるだけで軸受に潤滑油を供給できる。従って、この無段変速機は、原価の増大を抑えつつ軸受の潤滑性能及び冷却性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係る無段変速機の実施例の構成を示す部分断面図である。
【図2】図2は、キャリアのガイド溝について説明する図である。
【図3】図3は、アイリスプレートについて説明する図である。
【図4】図4は、夫々の支持軸における入口油路の開口の向きを説明する図である。
【図5】図5は、図1の無段変速機における等速時の潤滑油の流れを説明する図である。
【図6】図6は、図1の無段変速機における増速時の潤滑油の流れを説明する図である。
【図7】図7は、図1の無段変速機における減速時の潤滑油の流れを説明する図である。
【図8】図8は、支持軸を図1の矢印Bの方向から観た図である。
【図9】図9は、支持軸を図8のX−X線で切った断面図である。
【図10】図10は、本発明に係る無段変速機の他の実施例の構成を示す部分断面図である。
【図11】図11は、図10の無段変速機における等速時の潤滑油の流れを説明する図である。
【図12】図12は、図10の無段変速機における増速時の潤滑油の流れを説明する図である。
【図13】図13は、図10の無段変速機における減速時の潤滑油の流れを説明する図である。
【図14】図14は、図10の無段変速機における傾転角が十分に大きくない増速時の潤滑油の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る無段変速機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
[実施例]
本発明に係る無段変速機の実施例を図1から図14に基づいて説明する。
【0016】
最初に、本実施例の無段変速機の一例について図1を用いて説明する。図1の符号1は、本実施例の無段変速機を示す。
【0017】
この無段変速機1の主要部を成す無段変速機構は、共通の第1回転中心軸R1を有する相互間での相対回転が可能な第1から第3の回転要素10,20,30と、その第1回転中心軸R1と後述する基準位置において平行な別の第2回転中心軸R2を各々有する複数の転動部材40と、第1から第3の回転要素10,20,30の回転中心に配置した変速機軸としてのシャフト50と、このシャフト50に固定し、夫々の転動部材40を傾転自在に保持する固定要素60と、を備えた所謂トラクション遊星ギヤ機構と云われるものである。この無段変速機1は、第2回転中心軸R2を第1回転中心軸R1に対して傾斜させ、転動部材40を傾転させることによって、入出力間の変速比γを変えるものである。以下においては、特に言及しない限り、その第1回転中心軸R1や第2回転中心軸R2に沿う方向を軸線方向と云い、その第1回転中心軸R1周りの方向を周方向と云う。また、その第1回転中心軸R1に直交する方向を径方向と云い、その中でも、内方に向けた側を径方向内側と、外方に向けた側を径方向外側と云う。
【0018】
この無段変速機1においては、第1回転要素10と第2回転要素20と第3回転要素30との間で各転動部材40を介したトルクの伝達が行われる。例えば、この無段変速機1においては、第1から第3の回転要素10,20,30の内の1つがトルク(動力)の入力部となり、残りの回転要素の内の少なくとも1つがトルクの出力部となる。これが為、この無段変速機1においては、入力部となる何れかの回転要素と出力部となる何れかの回転要素との間の回転速度(回転数)の比が変速比γとなる。例えば、この無段変速機1は、車両の動力伝達経路上に配設される。その際には、その入力部がエンジンやモータ等の動力源側に連結され、その出力部が駆動輪側に連結される。この無段変速機1においては、入力部としての回転要素にトルクが入力された場合の各回転要素の回転動作を正駆動と云い、出力部としての回転要素に正駆動時とは逆方向のトルクが入力された場合の各回転要素の回転動作を逆駆動と云う。例えば、この無段変速機1は、先の車両の例示に従えば、加速等のように動力源側からトルクが入力部たる回転要素に入力されて当該回転要素を回転させているときが正駆動となり、減速等の様に駆動輪側から出力部たる回転中の回転要素に正駆動時とは逆方向のトルクが入力されているときが逆駆動となる。
【0019】
この無段変速機1においては、シャフト50の中心軸(第1回転中心軸R1)を中心にして放射状に複数個の転動部材40を配置する。その夫々の転動部材40は、対向させて配置した第1回転要素10と第2回転要素20とで挟持させると共に、第3回転要素30の外周面上に配設する。また、夫々の転動部材40は、自身の回転中心軸(第2回転中心軸R2)を中心にした自転を行う。この無段変速機1は、第1及び第2の回転要素10,20の内の少なくとも一方を転動部材40に押し付けることによって、第1から第3の回転要素10,20,30と転動部材40との間に適切な接線力(トラクション力)を発生させ、その間におけるトルクの伝達を可能にする。また、この無段変速機1は、夫々の転動部材40を自身の第2回転中心軸R2と第1回転中心軸R1とを含む傾転平面上で傾転させ、第1回転要素10と第2回転要素20との間の回転速度(回転数)の比を変化させることによって、入出力間の回転速度(回転数)の比を変える。
【0020】
ここで、この無段変速機1においては、第1及び第2の回転要素10,20が遊星歯車機構で云うところのリングギヤの機能を為すものとなる。また、第3回転要素30は、トラクション遊星ギヤ機構のサンローラとして機能する。また、転動部材40はトラクション遊星ギヤ機構におけるボール型ピニオンとして機能し、固定要素60はキャリアとして機能する。以下、第1及び第2の回転要素10,20については、各々「第1及び第2の回転部材10,20」と云う。また、第3回転要素30については「サンローラ30」と云い、転動部材40については「遊星ボール40」と云う。また、固定要素60については、「キャリア60」と云う。
【0021】
また、シャフト50は、図示しない筐体や車体等における無段変速機1の固定部に固定したものであり、その固定部に対して相対回転させぬよう構成した円柱状の固定軸とする。
【0022】
第1及び第2の回転部材10,20は、中心軸を第1回転中心軸R1に一致させた円盤部材(ディスク)や円環部材(リング)であり、軸線方向で対向させて各遊星ボール40を挟み込むように配設する。この例示においては、双方とも円環部材とする。
【0023】
この第1及び第2の回転部材10,20は、後で詳述する各遊星ボール40の径方向外側の外周曲面と接触する接触面を有している。その夫々の接触面は、例えば、遊星ボール40の外周曲面の曲率と同等の曲率の凹円弧面、その外周曲面の曲率とは異なる曲率の凹円弧面、凸円弧面又は平面等の形状を成している。ここでは、後述する基準位置の状態で第1回転中心軸R1から各遊星ボール40との接触部分までの距離が同じ長さになるように夫々の接触面を形成して、第1及び第2の回転部材10,20の各遊星ボール40に対する夫々の接触角θが同じ角度になるようにしている。その接触角θとは、基準から各遊星ボール40との接触部分までの角度のことである。ここでは、径方向を基準にしている。その夫々の接触面は、遊星ボール40の外周曲面に対して点接触又は面接触している。また、夫々の接触面は、第1及び第2の回転部材10,20から遊星ボール40に向けて軸線方向の力(押圧力)が加わった際に、その遊星ボール40に対して径方向内側で且つ斜め方向の力(法線力)が加わるように形成されている。
【0024】
その遊星ボール40への押圧力は、例えばトルクカム(図示略)等の押圧部で第1及び第2の回転部材10,20の内の少なくとも一方に加えられた軸線方向の力により発生させる。そのトルクカムは、例えば第1回転部材10と下記の入力軸との間、第2回転部材20と下記の出力軸との間に配設する。この無段変速機1においては、第1回転部材10と入力軸との間のトルクカムによって、その間で回転トルクを伝達させると共に軸力を発生させる。その軸力は、第1回転部材10から遊星ボール40への押圧力となる。また、第2回転部材20と出力軸との間のトルクカムは、その間で回転トルクを伝達させると共に軸力を発生させる。その軸力は、第2回転部材20から遊星ボール40への押圧力となる。
【0025】
この例示においては、第1回転部材10を無段変速機1の正駆動時におけるトルク入力部として作用させ、第2回転部材20を無段変速機1の正駆動時におけるトルク出力部として作用させる。従って、その第1回転部材10には入力軸(図示略)が連結され、第2回転部材20には出力軸(図示略)が連結される。その入力軸や出力軸は、例えばラジアル軸受(図示略)を介してシャフト50に対する周方向の相対回転を行うことができる。従って、第1回転部材10や第2回転部材20についても、シャフト50に対する周方向の相対回転が行える。
【0026】
サンローラ30は、中心軸を第1回転中心軸R1に一致させた円筒状のものであり、ラジアル軸受RB1,RB2によってシャフト50に対する周方向への相対回転を行える。このサンローラ30の外周面には、複数個の遊星ボール40が放射状に略等間隔で配置される。従って、このサンローラ30においては、その外周面が遊星ボール40の自転の際の転動面となる。このサンローラ30は、自らの回転動作によって夫々の遊星ボール40を転動(自転)させることもできれば、夫々の遊星ボール40の転動動作(自転動作)に伴って回転することもできる。ここで、ラジアル軸受RB1,RB2の側面には、後述するキャリア60の第1及び第2の円盤部61,62を当接させている。これが為、サンローラ30は、シャフト50に対して軸線方向へと移動できない。
【0027】
遊星ボール40は、サンローラ30の外周面上を転がる転動部材である。この遊星ボール40は、完全な球状体であることが好ましいが、少なくとも転動方向にて球形を成すもの、例えばラグビーボールの様な断面が楕円形状のものであってもよい。この遊星ボール40は、その中心を通って貫通させた支持軸41によって支持する。この遊星ボール40は、支持軸41の外周面との間に配設した軸受(ここではニードルベアリングNB1,NB2)によって、第2回転中心軸R2を回転軸とした支持軸41に対する相対回転(つまり自転)が行えるようにしている。従って、この遊星ボール40は、支持軸41を中心にしてサンローラ30の外周面上を転動することができる。その支持軸41の両端は、遊星ボール40から突出させておく。尚、遊星ボール40と支持軸41との間には、そのニードルベアリングNB1,NB2等による微小のガタ(隙間)が存在している。
【0028】
その支持軸41の基準となる位置は、図1に示すように、第2回転中心軸R2が第1回転中心軸R1と平行になる位置である。この支持軸41は、その基準位置で形成される自身の回転中心軸(第2回転中心軸R2)と第1回転中心軸R1とを含む傾転平面内において、基準位置とそこから傾斜させた位置との間を遊星ボール40と共に揺動(傾転)することができる。その傾転は、その傾転平面内で遊星ボール40の中心を支点にして行われる。
【0029】
キャリア60は、夫々の遊星ボール40の傾転動作を妨げないように支持軸41の夫々の突出部を保持する。このキャリア60は、例えば、中心軸を第1回転中心軸R1に一致させた第1及び第2の円盤部61,62を対向させて配置し、その第1及び第2の円盤部61,62を複数本の連結軸(図示略)で連結して、全体として籠状となるようにしている。これにより、このキャリア60は、外周面に開放部分を有することになる。各遊星ボール40は、第1及び第2の円盤部61,62の間に配置し、その開放部分を介して第1回転部材10と第2回転部材20とに接している。ここで、このキャリア60は、第1及び第2の円盤部61,62の内周面をシャフト50の外周面に固定している。
【0030】
この無段変速機1には、夫々の遊星ボール40の傾転時に支持軸41を傾転方向へと案内する為のガイド部が設けられている。この例示では、そのガイド部をキャリア60に設ける。ガイド部は、遊星ボール40から突出させた支持軸41を傾転方向に向けて案内する径方向のガイド溝63,64であり、第1及び第2の円盤部61,62の夫々の対向する部分に遊星ボール40毎に形成する(図2)。つまり、全てのガイド溝63と全てのガイド溝64は、軸線方向(図1の矢印Aの方向)から観ると夫々に放射状を成している。ガイド溝63は、第1円盤部61の周方向を溝幅とし、その径方向内側を溝底としたものである。同様に、ガイド溝64は、第2円盤部62の周方向を溝幅とし、その径方向内側を溝底とする。支持軸41とガイド溝63,64との間には、傾転動作を実現させる為、そして円滑にする為に、溝幅方向に隙間が設けられている。その隙間は、例えば、傾転動作の為のサンローラ30と遊星ボール40との間におけるサイドスリップを引き起こせるだけの大きさにする。
【0031】
この無段変速機1においては、夫々の遊星ボール40の傾転角が基準位置、即ち0度のときに、第1回転部材10と第2回転部材20とが同一回転速度(同一回転数)で回転する。つまり、このときには、第1回転部材10と第2回転部材20の回転比(回転速度又は回転数の比)が1となり、変速比γが1になっている。一方、夫々の遊星ボール40を基準位置から傾転させた際には、支持軸41の中心軸から第1回転部材10との接触部分までの距離が変化すると共に、支持軸41の中心軸から第2回転部材20との接触部分までの距離が変化する。これが為、第1回転部材10又は第2回転部材20の内の何れか一方が基準位置のときよりも高速で回転し、他方が低速で回転するようになる。例えば第2回転部材20は、遊星ボール40を一方へと傾転させたときに第1回転部材10よりも低回転になり(減速)、他方へと傾転させたときに第1回転部材10よりも高回転になる(増速)。従って、この無段変速機1においては、その傾転角を変えることによって、第1回転部材10と第2回転部材20との間の回転比(変速比γ)を無段階に変化させることができる。尚、ここでの増速時(γ<1)には、図1における上側の遊星ボール40を紙面反時計回り方向に傾転させ且つ下側の遊星ボール40を紙面時計回り方向に傾転させる。また、減速時(γ>1)には、図1における上側の遊星ボール40を紙面時計回り方向に傾転させ且つ下側の遊星ボール40を紙面反時計回り方向に傾転させる。
【0032】
この無段変速機1には、その変速比γを変える変速装置が設けられている。変速比γは遊星ボール40の傾転角の変化に伴い変わるので、その変速装置としては、夫々の遊星ボール40を傾転させる傾転装置を用いる。ここでは、この変速装置が円盤状のアイリスプレート(傾転要素)70を備えている。
【0033】
そのアイリスプレート70は、その径方向内側のラジアル軸受RB3,RB4を介してシャフト50に取り付けられており、更に、スラスト軸受TB1,TB2を介してシャフト50と第2円盤部62に取り付けられている。これが為、このアイリスプレート70は、そのシャフト50やキャリア60に対して第1回転中心軸R1を中心とする相対回転を行える。その相対回転には、図示しないモータ等のアクチュエータ(駆動部)を用いる。この駆動部の駆動力は、ウォームギア71を介してアイリスプレート70の外周部分に伝えられる。
【0034】
ここで例示するアイリスプレート70は、夫々の遊星ボール40の出力側(第2回転部材20との接触部側)で且つキャリア60の外側に配置する。そして、このアイリスプレート70には、支持軸41の一方の突出部が挿入される絞り孔(アイリス孔)72を形成する。その絞り孔72は、径方向内側の端部が起点の径方向を基準線Lと仮定する場合、径方向内側から径方向外側に向かうにつれて基準線Lから周方向に離れていく弧状になっている(図3)。尚、その図3は、図1の矢印Aの方向から観た図である。支持軸41の一方の突出部は、アイリスプレート70が図3の紙面時計回り方向に回転することで、絞り孔72に沿ってアイリスプレート70の中心側に移動する。その際、支持軸41の夫々の突出部がキャリア60のガイド溝63,64に挿入されているので、絞り孔72に挿入されている一方の突出部は、径方向内側に移動する。また、その一方の突出部は、アイリスプレート70が図3の紙面反時計回り方向に回転することで、絞り孔72に沿ってアイリスプレート70の外周側に移動する。その際、この一方の突出部は、ガイド溝63,64の作用によって径方向外側に移動する。このように、支持軸41は、ガイド溝63,64と絞り孔72によって径方向に移動できる。従って、遊星ボール40は、上述した傾転動作が可能になる。
【0035】
ところで、この無段変速機1においては、例えば図示しないオイルパン内の潤滑油が第1回転部材10や第2回転部材20等の回転動作によって掻き上げられ、これにより変速機内で潤滑油が飛散する。また、この無段変速機1においては、潤滑や冷却を要する摺動部分に対して潤滑油を吹き付けるオイルポンプ等の装置が設けられている場合もある。例えば、潤滑や冷却を要する摺動部分としては、遊星ボール40と支持軸41との間、厳密にはニードルベアリングNB1,NB2がある。遊星ボール40は、エンジン回転数の数倍高回転になって回転するからである。但し、この無段変速機1においては、そのニードルベアリングNB1,NB2に直接潤滑油を吹き付けることは構造上難しく、仮に吹きつけが可能であってもオイルポンプ等の装置による原価の増大や大型化を招く虞がある。ここで、変速機内では、飛散した潤滑油や他の摺動部分に吹き付けられた潤滑油が重力によって下方に落ちていく。その上方からの潤滑油の一部は、支持軸41の外周面に付着する。これが為、本実施例の無段変速機1は、その上方から落ちてきた潤滑油を利用してニードルベアリングNB1,NB2の潤滑及び冷却を行う。即ち、この無段変速機1においては、第1回転部材10や第2回転部材20等の回転に伴いオイルパン内の潤滑油を掻き上げる部材が、支持軸41の外周面に対して潤滑油を供給する潤滑油供給部として機能する。また、この無段変速機1においては、オイルポンプ等の装置が存在しており、この装置から直接的又は間接的に支持軸41の外周面に対して潤滑油が供給される場合、この装置が潤滑油供給部として機能する。尚、ここで云う上方、更に上や上側とは、この無段変速機1を車両に搭載した状態での上方等のことを指している。
【0036】
増速時や減速時、つまり遊星ボール40の傾転時には、上方から落ちてきた潤滑油が支持軸41に到達すると、その潤滑油が支持軸41の外周面を伝って遊星ボール40と支持軸41との間に入り込み、上側に位置するニードルベアリングNB1(NB2)に伝わる。その潤滑油は、その後、支持軸41の外周面を伝って下側のニードルベアリングNB2(NB1)にも伝わる。従って、傾転時には、上方から落ちてきた潤滑油を利用してニードルベアリングNB1,NB2の潤滑及び冷却を行うことができる。しかしながら、等速時、つまり遊星ボール40の傾転角が0のときには、支持軸41の外周面に到達した潤滑油が遊星ボール40と支持軸41との間に入らずに、そのまま下に落ちていく。従って、このときには、上方から落ちてきた潤滑油を利用してニードルベアリングNB1,NB2の潤滑及び冷却を行うことが難しい。
【0037】
そこで、この無段変速機1においては、上方から落ちてきた潤滑油を変速比の大きさに拘わらずニードルベアリングNB1,NB2に取り込むことができるように、内部油路42と入口油路43,44と出口油路45とを支持軸41に設ける(図1)。
【0038】
内部油路42とは、支持軸41の内部に形成した油路のことである。この内部油路42は、少なくとも、支持軸41の一方の突出部における遊星ボール40と第1円盤部61との間隙部分と、支持軸41の他方の突出部における遊星ボール40と第2円盤部62との間隙部分と、を内部で繋いでいる。例えば、この内部油路42としては、支持軸41の中心軸に中心を一致させた軸心油路が考えられる。
【0039】
その支持軸41の一方の突出部には、内部油路42に連通させた入口油路43を形成する。また、支持軸41の他方の突出部には、内部油路42に連通させた入口油路44を形成する。つまり、その入口油路43,44は、支持軸41上でニードルベアリングNB1,NB2よりも端部側に配置されている。
【0040】
この入口油路43,44は、開口46,47が上方を向くように形成する。そして、全ての支持軸41は、その開口46,47が車載状態で上方を向くように取り付ける(図4)。これが為、この入口油路43,44は、遊星ボール40の傾転角、つまり変速比に拘わらず、上方から落ちてきた潤滑油を受け止めて、内部油路42へと導くことができる。この例示では、支持軸41の一方の突出部における遊星ボール40と第1円盤部61との間隙部分に開口46が位置するよう入口油路43を形成し、支持軸41の他方の突出部における遊星ボール40と第2円盤部62との間隙部分に開口47が位置するよう入口油路44を形成している。
【0041】
ここで、支持軸41が自らの中心軸を中心にして自転すると、入口油路43,44の開口46,47が上方を向かなくなる可能性がある。これが為、この無段変速機1には、支持軸41の自転を禁止又は抑制する係止部を設けることが好ましい。
【0042】
その内部油路42に導かれた潤滑油は、車載状態で開口が下方に向くよう形成された出口油路45に導かれる。その出口油路45は、支持軸41上でニードルベアリングNB1,NB2の間に配置されている。これが為、内部油路42に導かれた潤滑油は、出口油路45を介して、ニードルベアリングNB1,NB2の間で且つ遊星ボール40と支持軸41との間に流れ出る。
【0043】
遊星ボール40と支持軸41との間の潤滑油の流れを観る。
【0044】
等速時には、図5に示すように、上方から落ちてきた潤滑油が夫々の入口油路43,44に流れ込み、内部油路42を経て出口油路45から排出される。そして、ニードルベアリングNB1,NB2の間に流れ出た潤滑油は、遊星ボール40と支持軸41との間を伝ってニードルベアリングNB1,NB2に到達する。ここで、ニードルベアリングNB1,NB2は、遊星ボール40と支持軸41との間にて第2回転中心軸R2を中心に放射状に配置された円柱体(ローラ)と、支持軸41と同心円で且つ各円柱体を自転自在に保持する筒体と、を備えたものである。これが為、ニードルベアリングNB1,NB2に到達した潤滑油は、その円柱体と筒体との間に入り込み、ニードルベアリングNB1,NB2の潤滑や冷却に使われる。このように、この無段変速機1においては、変速比が等速のときにもニードルベアリングNB1,NB2に潤滑油を供給することができるので、等速時のニードルベアリングNB1,NB2の潤滑性能及び冷却性能が向上する。
【0045】
変速比が増速のときには、図6に示すように、上方から落ちてきた潤滑油が支持軸41の外周面を伝って上方のニードルベアリングNB1に供給され、そのまま支持軸41の外周面を伝って下方のニードルベアリングNB2にも供給される。更に、この増速時には、上方から落ちてきた潤滑油が上方の入口油路43に流れ込むので、内部油路42を経て出口油路45から潤滑油を流出させ、遊星ボール40と支持軸41との間を伝って下方のニードルベアリングNB2に供給することができる。従って、この無段変速機1においては、増速時に下方のニードルベアリングNB2への潤滑油の供給量が増加する。また、この無段変速機1においては、その内部油路42を経た潤滑油が上方のニードルベアリングNB1を介さずに下方のニードルベアリングNB2に供給される。故に、この無段変速機1では、増速時のニードルベアリングNB2の潤滑性能及び冷却性能が向上する。
【0046】
変速比が減速のときには、図7に示すように、上方から落ちてきた潤滑油が支持軸41の外周面を伝って上方のニードルベアリングNB2に供給され、そのまま支持軸41の外周面を伝って下方のニードルベアリングNB1にも供給される。更に、この減速時には、上方から落ちてきた潤滑油が上方の入口油路44に流れ込むので、内部油路42を経て出口油路45から潤滑油を流出させ、遊星ボール40と支持軸41との間を伝って下方のニードルベアリングNB1に供給することができる。従って、この無段変速機1においては、減速時に下方のニードルベアリングNB1への潤滑油の供給量が増加する。また、この無段変速機1においては、その内部油路42を経た潤滑油が上方のニードルベアリングNB2を介さずに下方のニードルベアリングNB1に供給される。故に、この無段変速機1では、減速時のニードルベアリングNB1の潤滑性能及び冷却性能が向上する。
【0047】
このように、この無段変速機1では、内部油路42と入口油路43,44と出口油路45とからなる潤滑油供給部によって、変速比(遊星ボール40の傾転角)に拘わらず、ニードルベアリングNB1,NB2に潤滑油を供給することができ、そのニードルベアリングNB1,NB2の潤滑性能及び冷却性能を向上させることができる。従って、この無段変速機1は、摩擦損失の低下に伴う燃費性能の向上、耐久性の向上が可能になる。また、この無段変速機1は、これらの効果について、オイルポンプ等の装置を用いずに、既存の支持軸41に新たに設けた油路(潤滑油供給部)により実現しているので、原価の増大を抑えることもできる。
【0048】
ここで、入口油路43,44の開口46,47は、より多くの潤滑油を受け止めることができるように周方向へと拡げることが望ましい(図8)。これにより、この入口油路43,44は、開口46,47を軸線方向に拡張させることなく、多くの潤滑油を内部油路42に導くことができる。つまり、この入口油路43,44は、無段変速機1の軸線方向への拡大を抑えつつ、多量の潤滑油を内部油路42に導くことができる。この開口46,47は、図9に示すように、扇形とする。これにより、この開口46,47は、2つの傾斜面で潤滑油を内部油路42側へと導くことができる。無段変速機1は、この開口46,47で受け止める潤滑油の油量の増加によって、出口油路45から排出された潤滑油が供給されるニードルベアリングNB1,NB2の潤滑性能及び冷却性能を更に向上させることができ、燃費性能や耐久性の更なる向上を図ることができる。
【0049】
ところで、上方から支持軸41の外周面に落ちてきた潤滑油は、増速時又は減速時の傾転角が小さいと、少量だけが上方のニードルベアリングNB1(NB2)に対して支持軸41の外周面を伝って供給される。これが為、その傾転角の大きさ如何では、供給された潤滑油の量が足りず、その潤滑油で上方のニードルベアリングNB1(NB2)の潤滑と冷却は可能であるが、その潤滑油で下方のニードルベアリングNB2(NB1)を潤滑等できない可能性がある。但し、この無段変速機1においては、内部油路42を経た潤滑油が下方のニードルベアリングNB2(NB1)に供給される。従って、この無段変速機1においては、傾転角が小さく、支持軸41の外周面を伝う潤滑油の供給量が少なくても、上下双方のニードルベアリングNB1,NB2へと潤滑油を供給することができるので、そのニードルベアリングNB1,NB2の潤滑性能及び冷却性能が向上する。
【0050】
しかしながら、この無段変速機1では、傾転角が小さくなるにつれて、内部油路42を経た潤滑油による下方のニードルベアリングNB2(NB1)への供給量に対して、支持軸41の外周面を伝った上方のニードルベアリングNB1(NB2)への潤滑油の供給量が少なくなっていく。そして、その上方のニードルベアリングNB1(NB2)には、傾転角の大きさが等速相当に近づくにつれて、潤滑や冷却に必要な量の潤滑油が供給されなくなる。つまり、この無段変速機1は、傾転角が小さくなるにつれて、上方のニードルベアリングNB1(NB2)の潤滑性能や冷却性能が低下していく。そして、また、この無段変速機1は、傾転角が等速相当の変速比にまで小さくなると、潤滑油が足りなくなり、上方のニードルベアリングNB1(NB2)を潤滑や冷却できなくなる可能性がある。尚、等速相当の変速比とは、潤滑や冷却に必要な量の潤滑油を支持軸41の外周面に沿って軸線方向へと移動させることができない程度にまで遊星ボール40の傾転角が小さいときのことである。また、潤滑に必要な潤滑油の油量は、摩擦損失をどの程度まで抑えたいのかという設計目標値により決まる。同様に、冷却に必要な潤滑油の油量は、発熱をどの程度まで抑えたいのかという設計目標値により決まる。
【0051】
そこで、出口油路を変更することで、上方のニードルベアリングNB1(NB2)の潤滑性能や冷却性能の低下を抑える。図10の符号2は、かかる無段変速機を示す。この無段変速機2は、前述した無段変速機1において、支持軸41を支持軸141に置き換えたものである。
【0052】
その支持軸141には、支持軸41の内部油路42及び入口油路43,44と同じ形状の及び配置の内部油路142及び入口油路143,144が形成されている。従って、この無段変速機2においても、上方から落ちてきた潤滑油を入口油路143,144で受け止めた後、内部油路142へと導くことができる。その入口油路143,144の開口は、受け止める潤滑油の油量を多くする為に、入口油路43,44の開口46,47と同等の形状にすることが好ましい。
【0053】
この支持軸141においては、その内部油路142の潤滑油が導かれる2つの出口油路145,146が形成されている。夫々の出口油路145,146は、車載状態で開口が下方に向くよう形成する。また、出口油路145,146は、その開口が軸線方向にてニードルベアリングNB1,NB2と同じ位置になるよう形成する。これが為、出口油路145から排出された潤滑油は、ニードルベアリングNB1に対して直接供給される。同様に、出口油路146から排出された潤滑油は、ニードルベアリングNB2に対して直接供給される。
【0054】
遊星ボール40と支持軸141との間の潤滑油の流れを観る。
【0055】
等速時には、図11に示すように、上方から落ちてきた潤滑油が夫々の入口油路143,144に流れ込み、内部油路142を経て夫々の出口油路145,146から排出される。その排出された潤滑油は、ニードルベアリングNB1,NB2に直接供給される。これが為、この無段変速機2は、先に例示した無段変速機1と同様に、変速比が等速のときにもニードルベアリングNB1,NB2に潤滑油を供給することができるので、等速時のニードルベアリングNB1,NB2の潤滑性能及び冷却性能が向上する。
【0056】
傾転角が十分に大きい増速時には、図12に示すように、上方から落ちてきた潤滑油が支持軸141の外周面を伝って上方のニードルベアリングNB1に供給され、そのまま支持軸141の外周面を伝って下方のニードルベアリングNB2にも供給される。更に、この増速時には、上方から落ちてきた潤滑油が上方の入口油路143に流れ込む。この潤滑油は、内部油路142を経て2つの出口油路145,146から排出される。上方の出口油路145から排出された潤滑油は、上方のニードルベアリングNB1に直接供給された後、遊星ボール40と支持軸141との間を伝って下方のニードルベアリングNB2にも供給される。また、下方の出口油路146から排出された潤滑油は、下方のニードルベアリングNB2に直接供給される。故に、この無段変速機2は、先に例示した無段変速機1と比較して、内部油路142を経た潤滑油が上方のニードルベアリングNB1にも供給されるので、この増速時において夫々のニードルベアリングNB1,NB2の潤滑性能及び冷却性能が向上する。尚、傾転角が十分に大きいときとは、支持軸141の外周面を伝って上方のニードルベアリングNB1に供給される潤滑油の油量が少なくとも潤滑や冷却に要する量を下回らない程度の傾転角のときのことを云う(下記の減速時においても同様の意味を表す)。
【0057】
傾転角が十分に大きい減速時には、図13に示すように、上方から落ちてきた潤滑油が支持軸141の外周面を伝って上方のニードルベアリングNB2に供給され、そのまま支持軸141の外周面を伝って下方のニードルベアリングNB1にも供給される。更に、この減速時には、上方から落ちてきた潤滑油が上方の入口油路144に流れ込む。この潤滑油は、内部油路142を経て2つの出口油路145,146から排出される。上方の出口油路146から排出された潤滑油は、上方のニードルベアリングNB2に直接供給された後、遊星ボール40と支持軸141との間を伝って下方のニードルベアリングNB1にも供給される。また、下方の出口油路145から排出された潤滑油は、下方のニードルベアリングNB1に直接供給される。故に、この無段変速機2は、先に例示した無段変速機1と比較して、内部油路142を経た潤滑油が上方のニードルベアリングNB2にも供給されるので、この減速時において夫々のニードルベアリングNB1,NB2の潤滑性能及び冷却性能が向上する。
【0058】
ここで、この無段変速機2は、傾転角が十分に大きくない増速時や減速時にも、夫々のニードルベアリングNB1,NB2に対して、潤滑等に必要な量の潤滑油を供給することができる。増速時を例に挙げて説明する。
【0059】
傾転角が十分に大きくない増速時には、図14に示すように、上方から落ちてきた潤滑油が支持軸141の外周面を伝って上方のニードルベアリングNB1に供給され難い。従って、このときには、上述したように、そのニードルベアリングNB1の潤滑性能や冷却性能が低下する。しかしながら、この無段変速機2においては、このような傾転角が十分に大きくない増速時であっても、上方から落ちてきた潤滑油が上方の入口油路143に流れ込み、内部油路142を経て2つの出口油路145,146から排出されるので、夫々のニードルベアリングNB1,NB2に対して潤滑油を供給できる。これが為、この無段変速機2は、傾転角が十分に大きくないときの夫々のニードルベアリングNB1,NB2の潤滑性能及び冷却性能を向上させることができる。
【0060】
このように、この無段変速機2では、内部油路142と入口油路143,144と出口油路145,146とからなる潤滑油供給部によって、変速比(遊星ボール40の傾転角)に拘わらず、より確実にニードルベアリングNB1,NB2に対して潤滑油を供給することができ、そのニードルベアリングNB1,NB2の潤滑性能及び冷却性能を向上させることができる。従って、この無段変速機2は、摩擦損失の低下に伴う燃費性能の更なる向上、耐久性の更なる向上が可能になる。また、この無段変速機2は、これらの効果について、オイルポンプ等の装置を用いずに、既存の支持軸141に新たに設けた油路(潤滑油供給部)により実現しているので、原価の増大を抑えることもできる。
【0061】
ここで、夫々の無段変速機1,2を比べると、無段変速機1は、1つの出口油路45だけなので、2つの出口油路145,146が必要になる無段変速機2よりも、出口形成に要する原価を抑えることができる。一方、無段変速機2は、無段変速機1と比較して、傾転角が十分に大きくない増速時や減速時のニードルベアリングNB1,NB2の潤滑性能や冷却性能が高く、燃費性能や耐久性に優れる。従って、例えば、等速相当の変速比が多用される仕様の場合には、原価よりも燃費性能や耐久性の向上に重きを置いて、無段変速機2を車両に搭載すればよい。これに対して、原価を重視したい場合や等速相当の変速比が多用されない仕様の場合には、原価低減に重きを置いて、無段変速機1を車両に搭載すればよい。
【0062】
以上示した無段変速機1,2においては入口油路43,44,143,144を遊星ボール40とキャリア60の間に配置したが、その入口油路43,44,143,144は、これらに替えて又はこれらと共に、キャリア60の外側に形成してもよい。特に、無段変速機1,2の軸長を拡大させないのであれば、キャリア60の内側と外側の双方に入口油路を設けることで、上方から落ちてきた潤滑油をより多く受け止めることができるので、ニードルベアリングNB1,NB2の潤滑性能や冷却性能を向上させる上で好ましい。
【0063】
また、無段変速機1,2においては、上方から支持軸41,141の外周面上に落ちてきた潤滑油を利用して、ニードルベアリングNB1,NB2の潤滑性能や冷却性能を向上させている。その利用対象となる潤滑油は、その上方から落ちてきたものに替えて又はこれと共に、その上方以外から支持軸41,141の外周面の上側の部分に対して付着したものを利用してもよい。
【0064】
また、無段変速機1,2においてはアイリスプレート70を第2円盤部62の外側(図1,10の第2円盤部62よりも紙面左側)に配設したが、アイリスプレート70は、各遊星ボール40と第2円盤部62との間に配設してもよい。この場合、出力側の入口油路44,144は、支持軸41,141における各遊星ボール40とアイリスプレート70との間の間隙部分、第2円盤部62とアイリスプレート70との間の間隙部分及び第2円盤部62の外側部分の内の少なくとも1箇所に形成すればよい。この場合でも上記の例示と同様の効果を得ることができる。
【0065】
また、アイリスプレート70は、各遊星ボール40と第1円盤部61との間又は第1円盤部61の外側(図1,10の第1円盤部61よりも紙面右側)に配設してもよい。前者の場合、入力側の入口油路43,143は、支持軸41,141における各遊星ボール40とアイリスプレート70との間の間隙部分、第1円盤部61とアイリスプレート70との間の間隙部分及び第1円盤部61の外側部分の内の少なくとも1箇所に形成すればよい。一方、後者の場合、入力側の入口油路43,143は、支持軸41,141における各遊星ボール40と第1円盤部61との間の間隙部分又は第1円盤部61とアイリスプレート70との間の間隙部分の内の少なくとも1箇所に形成すればよい。これらの場合でも上記の例示と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明に係る無段変速機は、遊星ボールと支持軸との間の潤滑性能及び冷却性能の向上を原価の増大を抑えつつ実現させる技術に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1,2 無段変速機
10 第1回転部材(第1回転要素)
20 第2回転部材(第2回転要素)
30 サンローラ(第3回転要素)
40 遊星ボール(転動部材)
41,141 支持軸
42,142 内部油路
43,44,143,144 入口油路
45,145,146 出口油路
46,47 開口
50 シャフト(変速機軸)
60 キャリア(固定要素)
61 第1円盤部
62 第2円盤部
63,64 ガイド溝
70 アイリスプレート(傾転要素)
72 絞り孔
NB1,NB2 ニードルベアリング
R1 第1回転中心軸
R2 第2回転中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心となる固定軸としての変速機軸と、
前記変速機軸上で対向させて配置した共通の第1回転中心軸を有する相対回転可能な第1及び第2の回転要素と、
前記第1回転中心軸と平行な第2回転中心軸を有し、該第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置して前記第1及び第2の回転要素に挟持させた転動部材と、
前記第2回転中心軸を有し、前記転動部材から両端を突出させた当該転動部材の支持軸と、
前記支持軸に対する前記転動部材の自転を可能にする軸受と、
前記各転動部材を外周面上に配置し、前記変速機軸並びに前記第1及び第2の回転要素に対する相対回転が可能な第3回転要素と、
前記変速機軸に固定され、且つ、前記支持軸の夫々の突出部を径方向に案内するガイド溝の形成された固定要素と、
変速比となる入力側の前記第1回転要素と出力側の前記第2回転要素との間の回転比を前記各転動部材の傾転動作によって変化させる変速装置と、
を備えた無段変速機において、
前記支持軸の外周面に対して潤滑油を供給する潤滑油供給部を有し、
前記支持軸は、内部に形成した内部油路と、該内部油路に連通させ且つ前記転動部材からの突出部分に車載状態で上方へと開口させた入口油路と、前記内部油路に連通させ且つ前記転動部材との間に開口させた出口油路と、を有することを特徴とした無段変速機。
【請求項2】
前記潤滑油供給部は、変速機内で回転に伴い潤滑油を掻き上げる部材であることを特徴とした請求項1記載の無段変速機。
【請求項3】
前記軸受を2つ備える場合、前記出口油路は、その開口を夫々の前記軸受の間に設けることを特徴とした請求項1又は2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記出口油路は、その開口を前記支持軸の軸線方向にて前記軸受と同じ位置に設けることを特徴とした請求項1又は2に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−154398(P2012−154398A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13278(P2011−13278)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】