説明

無水含フッ素カルボン酸の製造方法

【課題】
含フッ素カルボン酸フルオライドを用いて対応する無水含フッ素カルボン酸を収率良く生産する方法を提供する。
【解決手段】
一般式(1)
fCOOLi (1)
(式中、Rfは含フッ素アルキル基を表す。)で表される含フッ素カルボン酸リチウムと一般式(2)
fCOF (2)
(式中、Rfは一般式(1)における基と同一の基を表す。)で表される含フッ素カルボン酸フルオライドを反応させることからなる一般式(3)
fCO)2O (3)
(式中、Rfは一般式(1)における基と同一の基を表す。)で表される無水含フッ素カルボン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬中間体、機能性材料の中間体として有用な無水含フッ素カルボン酸の製造方法に関し、より詳しくは、含フッ素カルボン酸フルオライドと含フッ素カルボン酸リチウムとの縮合反応による製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無水酢酸類は、芳香族化合物のアシル化剤として有機合成の重要な原料である。無水酢酸((CH3CO)2O)の製造方法には、触媒として無水塩化アルミニウなどを用いて酢酸にホスゲンを通じる、エチリデンジアセタートを塩化亜鉛などの酸触媒の存在下加熱する、酢酸蒸気またはアセトンを熱分解して生成するケテンを酢酸と反応させる、アセトアルデヒドを酢酸コバルトなどの触媒の存在下に酸素で酸化し、過酢酸エステルを経て無水酢酸を生成する方法などが大規模に行われている。
【0003】
それに対し、ハロカルボン酸の無水物は、トリフルオロ酢酸を無水リン酸(P25)または無水硫酸で脱水して無水トリフルオロ酢酸(非特許文献1)、ジフルオロ酢酸を無水リン酸(P25)で脱水して無水ジフルオロ酢酸(非特許文献2)、トリクロロ酢酸クロライドと1/2量の水を混合し加圧・加熱条件として無水トリクロロ酢酸(非特許文献3)、トリフルオロ酢酸カリウムとトリフルオロ酢酸クロライドを混合し加圧・加熱条件として無水トリフルオロ酢酸(特許文献1)、トリフルオロ酢酸クロライドとトリフルオロ酢酸のアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ土類金属炭酸塩を混合し加圧・加熱条件として無水トリフルオロ酢酸(特許文献2)、トリフルオロ酢酸フルオライドとアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ土類金属炭酸塩とを混合し加圧・加熱条件として無水トリフルオロ酢酸(特許文献3)、無水ジクロロ酢酸とトリフルオロ酢酸の混合物を還流して無水トリフルオロ酢酸(特許文献4)、トリフルオロ酢酸クロライドと酸化亜鉛、酸化銅、酸化カドミウムなど混合し加圧・加熱条件として無水トリフルオロ酢酸(特許文献5)を得るなどの多くの方法で合成できることが報告されている。
【0004】
無水ジフルオロ酢酸は、ジフルオロ酢酸と五酸化リンの混合物を還流し、さらに五酸化リンを添加後蒸留することにより得られる(非特許文献2)がそれ以外の方法が適用された報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−64228号
【特許文献2】特公昭45−38523号
【特許文献3】特開2001−64228号
【特許文献4】特公昭61−33139号
【特許文献5】特公昭46−6888号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. of Organic Chemistry 1949, 2976
【非特許文献2】J. of Organic Chemistry 1956, 376
【非特許文献3】Chem. Abstr.,76,85329(1972)(Metody Poluch.Khim.Reakt.Prep., No.21,111(1970))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大規模に生産されている無水酢酸の前駆体はそれぞれ特徴のある化学物質を使用しているが、ハロカルボン酸の無水物の場合、ハロカルボン酸またはその酸ハロゲン化物が前駆体として使用されている。
【0008】
ハロカルボン酸を五酸化リンを用いて脱水するとポリリン酸を生成し粘度が高く無水ハロカルボン酸を生成物中から回収するのは困難であり、硫酸を用いても回収に問題があり、収率は満足できるものではない。また、これらの脱水剤の回収、廃棄は、安全、ハンドリングおよび環境の点で容易ではない。ハロカルボン酸のハロゲン化物としては、一例を除き酸クロライドであるが、必ずしも酸クロライドが出発物質から最も効率的に準備できる前駆体とは限らない。例えば、カルボン酸などの電解フッ素化によりパーフルオロカルボン酸の酸フルオライドが直接得られるような場合もある。
【0009】
そこで、本発明では、含フッ素カルボン酸フルオライドを用いて対応する無水含フッ素カルボン酸を収率良く生産する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、含フッ素カルボン酸フルオライドを用いて無水含フッ素カルボン酸を合成する方法を検討したところ、含フッ素カルボン酸フルオライドと含フッ素カルボン酸リチウムを反応させるとフッ化リチウムの副生とともに無水含フッ素カルボン酸を生成することを見出し、本発明に至った。
【0011】
ここで、イオン半径の小さいフッ素アニオンは、イオン半径の大きなカリウムカチオンやナトリウムカチオンよりも、イオン半径の小さいリチウムカチオンと安定な塩を形成する。すなわち、含フッ素カルボン酸フルオライドに代えて酸クロライドを用いたり、リチウムに代えてナトリウムやカリウムを用いた場合、後記参考例2から明らかなように副生する金属塩は無水含フッ素カルボン酸は生成する程には安定ではない。それに対し、含フッ素カルボン酸フルオライドと含フッ素カルボン酸リチウムを組み合わせると後記各実施例が示すように特異的に収率良く無水含フッ素カルボン酸が生成した。
【0012】
本発明は次の通りである。
[1]一般式(1)
fCOOLi (1)
(式中、Rfは含フッ素アルキル基を表す。)で表される含フッ素カルボン酸リチウムと一般式(2)
fCOF (2)
(式中、Rfは一般式(1)における基と同一の基を表す。)で表される含フッ素カルボン酸フルオライドを反応させることからなる一般式(3)
(RfCO)2O (3)
(式中、Rfは一般式(1)における基と同一の基を表す。)で表される無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【0013】
[2]含フッ素カルボン酸リチウムが、一般式(4)
fCOX (4)
(式中、Rfは一般式(1)における基と同一の基を表し、Xは、F、Cl、BrまたはIを表す。)で表される含フッ素カルボン酸ハライドと水酸化リチウムを反応させて得られた含フッ素カルボン酸リチウムである発明1の無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【0014】
[3]含フッ素カルボン酸リチウムが、一般式(5)
fCOOH (5)
(式中、Rfは一般式(1)における基と同一の基を表す。)で表される含フッ素カルボン酸と水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを反応させて得られた含フッ素カルボン酸リチウムである発明1または2の無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【0015】
[4]含フッ素カルボン酸ハライドと水酸化リチウムを反応させる方法または含フッ素カルボン酸と水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを反応させる方法により含フッ素カルボン酸リチウムを合成する工程と、含フッ素カルボン酸リチウムと含フッ素カルボン酸フルオライドとを反応させる工程を、同一の容器を用いて行う発明1の無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【0016】
[5]含フッ素カルボン酸リチウムを合成する工程と、次いで共沸蒸留を用いて含フッ素カルボン酸に伴われる水を除く工程と、含フッ素カルボン酸リチウムと含フッ素カルボン酸フルオライドとを反応させる工程を、同一の容器を用いて行う発明4の無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【0017】
[6]一般式(1)において、Rfがジフルオロメチル基またはトリフルオロメチル基である発明1〜5の無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【0018】
[7]含フッ素カルボン酸リチウムと含フッ素カルボン酸フルオライドとの反応を反応温度−78〜120℃で行う発明1〜6の無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法は、含フッ素カルボン酸フルオライドと含フッ素カルボン酸リチウムとの反応の収率が高く、また、含フッ素カルボン酸フルオライドを直接反応原料とすることができるので含フッ素カルボン酸クロライドを経由するような多段工程を必要しないことから、工業用原料からの全体プロセスとしての生産効率は著しく高いものとなる。また、酸フルオライドを使用するにも拘わらずフッ化水素が原理上発生しないので、廃棄物処理においても有利である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、含フッ素カルボン酸リチウム(RfCOOLi)と含フッ素カルボン酸フルオライド(RfCOF)を反応させることからなる無水含フッ素カルボン酸(RfCO)2Oの製造方法である。反応は次の反応式にしたがって進むと考えられる。
【0021】
fCOF + RfCOOLi → (RfCO)2O + LiF
fは含フッ素アルキル基である。明細書において「アルキル基」は、別途限定がない限り、直鎖状、分岐状、および環状を併せ称し、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数3〜7の環状アルキル基を「低級アルキル基」と称することがある。Rfで表される含フッ素アルキル基は少なくとも1個のフッ素原子を有し、任意の数のハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素)原子を有してよく、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ジクロロフルオロメチル基、クロロジフルオロメチル基、ブロモジフルオロメチル基、ジブロモフルオロメチル基などのハロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、n−ヘプタフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル基などを例として挙げることができる。このうち、ハロメチル基が好ましく、ジフルオロメチル基またはトリフルオロメチル基がより好ましい。
【0022】
含フッ素カルボン酸フルオライドはどの様な方法で製造したものであってもよく、市販品を使用することもできる。含フッ素カルボン酸クロライドの電解フッ素化反応やパーフルオロプロペンオキシドまたはテトラフルオロエチレンオキシドのオリゴメリ化反応でパーフルオロカルボン酸フルオリドが得られる。
【0023】
また、ジフルオロ酢酸フルオライドは、どの様な方法で製造されたものであってよい。例えば、(1)ジフルオロ酢酸を五酸化リンや塩化チオニルなどと反応させてからフッ化カリウムなどの金属フッ化物でフッ素化させる方法、(2)CHF2CF2OR’で表される1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを三酸化硫黄とフルオロ硫酸の存在下で分解させる方法(J. Am. Chem. Soc., 1950 72, 1860)、(3)1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンをハロゲン化アンチモン、ハロゲン化チタンなどの触媒存在下で反応させる方法(特開平8−92162号)、(4)1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを、触媒の存在下に熱分解させてジフルオロ酢酸フルオライドを製造する方法(特開平8−20560号)が知られている。
【0024】
(4)の方法の反応は、以下の式で表わされる。
【0025】
CHF2CF2OR’ → CHF2COF + R’F
この反応の出発原料である一般式CHF2CF2OR’(R’は、一価の有機基を表す。)で表される1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンのR’は脱離基であるので特に限定されないが、アルキル基または低級アルキル基がさらに好ましい。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基などが好ましい。
【0026】
1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンは、公知の製造方法で得ることができる。例えば、アルコール(R’OH)とテトラフルオロエチレンを塩基の存在下に反応させる方法で合成できる。
【0027】
具体的には、メタノールとテトラフルオロエチレンとを水酸化カリウムの存在下に反応させる方法により1−メトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンが合成できる(J.Am.Chem.Soc.,73,1329(1951))。
【0028】
本発明の第一工程において使用できる含フッ素エーテルの具体例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない。
1−メトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(CHF2CF2OMe)、1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(CHF2CF2OEt)、1−(n−プロポキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−イソプロポキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−(n−ブトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−(s−ブトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−(t−ブトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンなどを挙げることができる。
【0029】
熱分解に使用する触媒は固体触媒であり、特開平8−92162号公報に記載された金属酸化物、金属フッ素化酸化物を触媒として使用できる。触媒としてはさらにリン酸塩も使用できる。リン酸塩は、担体に担持されたものであってもよい。
【0030】
リン酸としては、オルトリン酸、ポリリン酸、メタリン酸のいずれであってもよい。ポリリン酸としては、ピロリン酸などが挙げられる。リン酸塩は、これらのリン酸の金属塩である。取り扱いが容易であるのでオルトリン酸であるのが好ましい。リン酸塩とは、これらのリン酸の金属塩をいうが、本明細書では金属が水素原子に置換した酸をも金属塩というものとする。
【0031】
リン酸塩としては、特に限定されないが、水素、アルミニウム、ホウ素、アルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、ランタン、セリウム、イットリウム、希土類金属、バナジウム、ニオブ、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルからなる群より選ばれた、少なくとも1種の金属のリン酸塩が挙げられる。好ましくは、主成分としてリン酸アルミニウム、リン酸セリウム、リン酸ホウ素、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム、リン酸クロムなどである。副成分の金属を含むことも好ましい。具体的な副成分としてはセリウム、ランタン、イットリウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル等が好ましいが、セリウム、鉄、イットリウムがより好ましい。これらのうちで、さらに好ましくは、リン酸アルミニウム、リン酸セリウムおよびこれら二種からなるリン酸塩である。
【0032】
触媒の調製方法に特に制限はなく、市販のリン酸塩をそのまま使っても良いし、一般的な沈殿方法でも良い。沈殿方法の具体的な調製方法としては、例えば、金属の硝酸塩(複数の原料塩の場合はそれぞれの原料塩の溶液を調製する)とリン酸の混合水溶液に、希釈アンモニア水を滴下してpHを調節して沈殿させ、必要に応じて熟成放置する。その後、水洗し、洗浄水の電導度などで十分に水洗したことを確認する。場合によっては、スラリーの一部を取り含有するアルカリ金属を測定する。次いで濾過し乾燥する。乾燥する温度に特に制限はない。好ましくは80℃〜150℃がよい。さらに好ましくは100℃〜130℃である。得られた乾燥体は粉砕し粒度を揃えるか、さらに粉砕し成型する。その後、200℃〜1500℃の条件で空気や窒素雰囲気で焼成する。好ましくは400〜1300℃、さらに好ましくは500℃〜900℃で焼成を行うことがよい。
【0033】
焼成時間は温度にもよるが1時間〜50時間程度で、好ましくは2時間〜24時間程度である。焼成処理は、リン酸塩の安定化に必要な処理であるので、上記の温度範囲より低温で処理を行ったり、処理時間が短い場合は、反応初期において十分に触媒活性を示さないことがある。また、上記の温度範囲以上でまたは長時間焼成処理を行うことは、過剰な加熱エネルギーを要するだけでなく、触媒の結晶化を引き起こすことがあるので好ましくない。
【0034】
主成分以外の金属成分の添加の操作は、金属塩で行うことが好ましく、前記金属の硝酸塩、塩化物、酸化物、リン酸塩などが好ましい。中でも、硝酸塩が調製しやすく好ましい。添加量に特に制限はないが、一般にはリン1グラム原子に対し1グラム原子以下であり、好ましくは0.5グラム原子以下である。より好ましくは0.3グラム原子以下である。これらの金属成分の添加は、触媒調製時に行っても良く、また、触媒焼成後のリン酸塩に行っても良い。得られた触媒は、金属塩の種類及び調製方法や条件により物性が異なる。触媒は、そのまま使用してよいが、担体に担持した状態で使用することも可能である。担体としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、硫酸ジルコニア(ZrO(SO4))
などの金属酸化物などの金属酸化物、炭化珪素、窒化珪素、活性炭等が挙げられるが、比表面積の大きい活性炭は特に好ましい。
【0035】
リン酸またはリン酸塩を坦持した活性炭は、リン酸に浸漬して含浸させ、またはスプレーにより被覆もしくは吸着させたものを乾燥させて調製できる。化合物を担持させる場合、担持させる化合物の溶液を含浸させ、またはスプレーにより被覆もしくは吸着させたものを乾燥させて調製できる。また、その化合物の溶液を含浸させ、またはスプレーにより被覆もしくは吸着させた活性炭に対し第二の化合物を作用させて活性炭表面で沈殿反応等を生じさせることで最初の化合物と異なる化合物を担持することもできる。また、先に述べた、リン酸塩の調整方法を活性炭などの担体の存在下で行うことでもリン酸塩担持触媒を調製することができる。具体例として実施例にリン酸アルミニウム担持活性炭を示す。
【0036】
活性炭は、木材、木炭、椰子殻炭、パーム核炭、素灰等を原料とする植物系、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭等を原料とする石炭系、石油残滓、オイルカーボン等を原料とする石油系または炭化ポリ塩化ビニリデン等の合成樹脂系等のいずれのものでもよい。これら市販の活性炭から選択し使用することができ、例えば、瀝青炭から製造された活性炭(東洋カルゴン製BPL粒状活性炭)、椰子殻炭(日本エンバイロケミカルズ製粒状白鷺GX、SX、CX、XRC、東洋カルゴン製PCB)等が挙げられるが、これらに限定されない。形状、大きさも通常粒状で用いられるが、球状、繊維状、粉体状、ハニカム状等反応器に適合すれば通常の知識範囲の中で使用することができる。
【0037】
熱分解反応の担体として使用する活性炭は比表面積の大きな活性炭が好ましい。活性炭の比表面積は、市販品の規格の範囲で十分であるが、それぞれ400m2/g〜3000m2/gであり、800m2/g〜2000m2/gが好ましい。さらに活性炭を担体に用いる場合、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性水溶液に常温付近で10時間程度またはそれ以上の時間浸漬するか、活性炭を触媒担体に使用する際に通常行われる硝酸、塩酸、フッ酸等の酸による前処理を施し、予め担体表面の活性化ならびに灰分の除去を行うことが望ましい。
【0038】
また、本発明の酸化物などの担体は、金属成分と酸素以外の他の原子を含んでいてもよく、他の原子としては、フッ素原子、塩素原子等が好ましい。たとえば、部分フッ素化アルミナ、部分塩素化アルミナ、部分フッ素化塩素化アルミナ、部分フッ素化ジルコニア、部分フッ素化チタニア等であってもよい。酸化物触媒中の塩素原子やフッ素原子の割合は、特に限定されない。
【0039】
本明細書および特許請求の範囲においては、特に限定されない限り、前記のように部分的にフッ素化、塩素化などされたアルミナ、ジルコニアなどの酸化物を「アルミナ」、「ジルコニア」などの酸化物名称で表示する。
【0040】
これらの担体としては、アルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2)、およびチタニア(TiO2)および硫酸ジルコニアならびにこれらの部分フッ素化酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物触媒が好ましく、アルミナおよび部分フッ素化アルミナが反応性および触媒寿命の点でさらに好ましい。
【0041】
これらの部分フッ素化酸化物は含フッ素カルボン酸フルオライド合成触媒の担体として使用できると共に、触媒として使用することもできる。触媒としての調製、前処理、使用等は、本明細書において担体としての調製、前処理、使用等についての説明がそのまま、あるいは技術常識に従って適宜変更して適用することができる。すなわち、アルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)などの金属酸化物を触媒として使用等する際には、金属化合物等が担持された担持触媒と同様に取り扱えばよい。
【0042】
触媒は、通常は粒子または造粒体の形態で用いられる。粒子または造粒体の直径(いずれも、「粒径」ということがある。)は、特に限定されず、通常は、20μm〜10mm程度である。また、触媒が塩素原子やフッ素原子を含む場合、金属酸化物の表面のみに塩素原子やフッ素原子が存在していてもよい。
【0043】
触媒は、使用の前に予めフッ化水素、フッ素化炭化水素またはフッ素化塩素化炭化水素などの含フッ素化合物と接触させて部分フッ素化しておき、反応中の触媒の組成変化、短寿命化、異常反応などを防止することが有効である。
【0044】
特にフッ化水素で処理することで反応の活性を著しく高めることができる。フッ化水素によるフッ素化処理は、少なくとも本発明にかかる反応の反応温度よりも高い温度において、フッ化水素と接触させることで行うのが好ましい。
【0045】
具体的には、リン酸塩単体の場合、200〜700℃程度であり、250〜600℃程度が好ましく、300〜550℃がより好ましい。一方、酸化物または活性炭等を担体とする担持触媒の場合、200〜600℃程度であり、250〜500℃程度が好ましく、300〜400℃がより好ましい。いずれも200℃未満では処理に時間を要し、最高温度範囲を超えて処理を行うことは、過剰な加熱エネルギーを要するので好ましくない。また、処理時間は、処理温度とも関係するので限定できないが、1時間〜10日程度、好ましくは、3時間〜3日間程度である。
【0046】
リン酸を担持しない活性炭の場合、フッ化水素処理を施しても、殆ど活性を示さないが、リン酸処理をした活性炭にフッ化水素処理を行うと、同じ反応条件で、転化率:96.1%、選択率:98.0%という触媒活性を示した。このことからも、フッ化水素処理の効果は容易に見て取ることができる。
【0047】
さらに、反応に先立って、活性化処理を施すのが好ましい。活性化処理としては、250℃〜300℃程度の窒素気流中で充分に脱水し、ジクロロジフルオロメタン、クロロジフルオロメタンなどの有機フッ素化合物、またはフッ化水素、三フッ化塩素などの気体もしくは触媒処理状態で十分な蒸気圧を示す無機フッ素化合物で活性化させるのが好ましい。これらのうちフッ化水素が特に好ましい。この活性化処理によって、触媒の表面または全体に、フッ素原子を含む活性な触媒が生成すると考えられる。
【0048】
また、熱分解の原料である1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(CHF2CF2OR’)のR’が炭素数2以上の基である場合、生成したR’Fが反応領域において分解してフッ化水素を発生することが推測されるが、これが触媒の活性を高める効果を示すことがある。
【0049】
熱分解反応は、気相流通連続方式が最も好ましい形式として推奨されるが、これに限定されない。反応器の形式は固定床タイプまたは流動床タイプが好ましく、反応器の寸法・形状は、反応物の量等に応じて適宜変更できる。
【0050】
熱分解においては、当該反応条件で不活性なガスを存在させてもよい。不活性ガスとしては、窒素または希ガス類が挙げられ、扱いやすさおよび入手しやすさ等の点から、窒素またはヘリウムが好ましい。不活性ガスを存在させる場合の量は、特に限定されないが、多すぎる場合には回収率が下がる恐れがあるため、通常の場合、原料の1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンの供給速度よりも少ない量が好ましい。
【0051】
熱分解の反応温度は、触媒の種類および原料によって異なる。通常100〜400℃であり、150〜350℃程度が好ましく、180〜280℃がさらに好ましい。反応温度が100℃未満では転化率が低くなる傾向があり好ましくない。反応温度が400℃を超えると反応装置に過酷な耐熱性が必要となり、過剰な加熱エネルギーを要するので経済的に好ましくない。
【0052】
反応時間(接触時間)は通常0.1〜300秒であり、0.5〜200秒が好ましく、1〜60秒がより好ましい。反応時間が短すぎる場合にも、転化率が低くなる恐れがあり、一方、長すぎると生産性が低下するのでそれぞれ好ましくない。反応圧力は、特に限定されず、常圧、減圧、または加圧のいずれであってもよい。0.05〜0.5MPa(0.5〜5気圧)程度が好ましく、通常は、操業が容易な大気圧近傍の圧力が好ましい。
【0053】
触媒は、経時的にコーキングが発生することがあり、触媒の活性が低下することがある。活性の低下した触媒は、200℃〜1200℃、好ましくは、400℃〜800℃において、酸素と接触させることで容易に活性を再生させることができる。酸素処理は反応管に装填したまま又は外部の装置に装填して行うのが簡便である。そこへ酸素を流通させて行う。酸素の流通方法としては他のガスが共存してもよく、窒素で希釈した空気または空気が経済的に好ましい。また、塩素、フッ素等の酸化力のある気体も使用できる。
【0054】
熱分解反応においては、目的とするジフルオロ酢酸フルオライドの他に、副生成物としてフッ化アルキル(R’F)やフッ化アルキルがさらに分解した化合物が生成する。例えば、フッ化アルキルとしてフッ化エチルが生成する場合、エチレンとフッ化水素となることがある。反応によって得られる副生成物を含む粗生成物は、精製処理をしないでフッ化アルキルを含んだまま含フッ素カルボン酸リチウム塩との反応および含フッ素カルボン酸リチウム塩の原料として使用することもでき、主としてフッ化アルキルを除去して得られる粗生成物を使用することもでき、さらに精製して高純度にしたジフルオロ酢酸フルオライドを使用することもでき、あるいはこれらの各種精製程度の異なるガスを冷却または圧縮して耐圧容器に保存することもできる。ジフルオロ酢酸フルオライドの精製は蒸留により行うことができる。
【0055】
本発明に使用する含フッ素カルボン酸リチウム塩はどの様な方法で得られたものであってもよい。市販品を入手してもよい。含フッ素カルボン酸リチウム塩は、含フッ素カルボン酸水溶液に炭酸リチウムもしくは水酸化リチウム(LiOH)またはこれらの含水塩を溶解して水を蒸発することで得られる。また、リチウム成分と水を仕込んだ容器へ含フッ素カルボン酸または含フッ素カルボン酸ハライドを添加してもよい。
【0056】
含フッ素カルボン酸リチウムの製造方法の一例を示す。水を媒体として水酸化リチウムまたは炭酸リチウムなどに含フッ素カルボン酸または含フッ素カルボン酸ハロゲン化物を添加する。水酸化リチウムまたは炭酸リチウムなどを水に溶解しそこへ含フッ素カルボン酸または含フッ素カルボン酸ハロゲン化物を添加する方法、または含フッ素カルボン酸の水溶液に水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを添加する方法、含フッ素カルボン酸の水溶液に水酸化リチウムまたは炭酸リチウムの水溶液を添加する方法、その他に、水酸化リチウムまたは炭酸リチウム、含フッ素カルボン酸または含フッ素カルボン酸ハライド、水を任意の順序で反応容器に装入することができる。これらの反応を次に示す。
【0057】
fCOOH + LiOH → RfCOOLi + H2
fCOOH + LiCO3 → RfCOOLi + H2O + CO2
fCOX + 2LiOH → RfCOOLi + LiX + H2
いずれの場合も発熱的な中和反応であるので、接触は急激な温度変化を避けるように緩い速度で行うのが好ましい。上記反応式から明らかなように、原料の比率は、一価の含フッ素カルボン酸と水酸化リチウムまたは炭酸リチウムの場合モル比を1:1、含フッ素カルボン酸が含フッ素カルボン酸ハライドと水酸化リチウムの場合モル比を2:1とすればよいが、いずれかの成分を50%程度多く使用することもできる。
【0058】
水酸化リチウムまたは炭酸リチウムの水溶液に酸性分を添加する場合、反応の進行とともに反応系のpHはアルカリ性から中性に近づき、pH7となった時点を本反応の終点とする。逆に酸性分にリチウム成分を添加する場合も、pHが7となる時点を本反応の終点とする。この反応の反応温度は限定されないが、0〜50℃程度で行うのが便利である。この反応は発熱反応であるので、冷却しながら行うのも好ましく、50℃高程度を超える高温とならないように添加量を調節するのも好ましい。容器中で生成した含フッ素カルボン酸リチウムの水溶液は、水および炭酸を除くことで固体の含フッ素カルボン酸リチウムとすることができる。加熱して水および炭酸を除くと含フッ素カルボン酸リチウムの含水塩が形成することがある。
【0059】
fCOXを原料にした場合、LiX塩が副生する。Xがハロゲン原子の中で最も分子量の小さいフッ素原子の時、副生物の重量が最小化されるので、X=Fが推奨される。LiXは所望により除去することも可能であるが、特に安定なLiFは、特段悪影響を与えないので、そのまま分離しないで使用することができる。
【0060】
含水塩は加熱して脱水すると無水含フッ素カルボン酸リチウムが得られる。含フッ素カルボン酸リチウムとしては無水物が好ましく、含フッ素カルボン酸リチウムを含フッ素カルボン酸フルオライドとの反応の前に十分脱水しておくことが好ましい。反応系に水が存在すると含フッ素カルボン酸フルオライドは加水分解を受けてロスするとともに含フッ素カルボン酸およびフッ化水素が不純物として反応生成物に混入して含フッ素カルボン酸無水物の精製効果を妨げるおそれがある。含フッ素カルボン酸リチウムの脱水方法としては、常圧もしくは減圧下での加熱により行うこともできるが、減圧下での乾燥が推奨される。低温での脱水処理が望ましい。
【0061】
また、脱水方法としては、含フッ素カルボン酸リチウムが溶解している水溶液または含フッ素カルボン酸リチウムと水が共存している溶液の系に水と共沸する溶媒を添加して共沸蒸留により水分を除去する方法、もしくは、水と共沸しない揮発性溶媒を添加して、水の蒸発を容易にする方法が可能である。
このことにより、含フッ素カルボン酸成分を出発原料として目的生成物の無水含フッ素カルボン酸を得るまでの操作を同じ容器で実施することが可能であり、反応操作の簡便および生成物の処理ロスが少ないという効果を奏する。この際添加する溶媒としては、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1,1,2-トリクロロエタンなどのハロゲン系炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、m−キシレンなどの芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、アセトン、エチルメチルケトン、3−メチル−ブタノン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類などが挙げられ、多成分系の共沸を利用することもできる。特に、トルエンを共沸溶媒としたディーン・スターク装置(Dean-Stark apparatus)による脱水が簡便である。
【0062】
脱水された後に反応容器に残存する溶媒は、容器中に溶媒を残したまま含フッ素カルボン酸フルオライドを導入して反応させることもできるが留去すること好ましい。溶媒を除去するか否かに拘わらず、容器中で脱水された含フッ素カルボン酸リチウムは、引き続きその容器中で含フッ素カルボン酸フルオライドと反応させることができ、そのような所謂ワンポット反応は本発明の好ましい実施態様である。
【0063】
本発明の方法において、含フッ素カルボン酸リチウムと含フッ素カルボン酸フルオライドは1:1の反応であるので等モルとするのが経済的に好ましいが、含フッ素カルボン酸リチウムの1モルに対して含フッ素カルボン酸フルオライドを0.5〜2程度の範囲とすることができる。この様な範囲は、一方の原料を実質的に完全消費さあせることで精製を容易にするために採ることができる。例えば、敢えて含フッ素カルボン酸フルオライドを1モル未満とすることで反応性の高い含フッ素カルボン酸フルオライドの反応生成物への残存を減らしその分離操作を省略することができる。また、含フッ素カルボン酸フルオライドを1モル超とすることで多段の工程を経て得られる含フッ素カルボン酸リチウムの有効利用を図ることができる。
【0064】
含フッ素カルボン酸リチウムと含フッ素カルボン酸フルオライドの反応は、反応温度−78〜120℃で行い、−20〜100℃が好ましく、20〜80℃がより好ましい。−78℃未満では、冷却のために特別な装置が必要であり、120℃を超えると生成した無水含フッ素カルボン酸が分解として不純物が生じるので好ましくない。反応圧力は、反応温度と含フッ素カルボン酸フルオライドの種類により異なるが、0.1〜20MPaである。また、溶媒を用いる場合は溶媒の沸点にも影響を受け、反応器に凝縮還流塔を設けることで圧力を減じ、もしくは常圧反応とすることもできる。反応時間は、反応温度、装置規模、溶媒の有無に依存するが、通常、10分〜30時間程度とし、30分〜10時間程度がスループット、操作の容易さの点から好ましい。
【0065】
本反応は、溶媒を使用してもよいが、使用しないでも進行する。溶媒としては、本反応に不活性であればよく、前記した水を共沸脱水するのに適するものとして例示したものの他、N,N−ジメチルホルムアミド、モルホリン、ポリグライムなどが使用できる。
【0066】
本反応の方法は、流通式、バッチ式であってよいが、通常、バッチ式で槽式反応器を用いるのが好ましい。反応器は、ステンレス鋼、モネル(登録商標)、インコネル(登録商標)、ハステロイ(登録商標)、フッ素樹脂またはこれらでライニングされた容器が好ましい。ジフルオロ酢酸フルオライドは沸点が2℃であるので、密閉できる耐圧容器であるのが好ましく、または、還流塔などの留出を防止する手段を備えるのが好ましい。
【0067】
本反応の完結時には、反応系中には無水含フッ素カルボン酸およびフッ化リチウムが含まれ、ほかに未反応の含フッ素カルボン酸リチウムまたは含フッ素カルボン酸フルオライド、並びに副反応による含フッ素カルボン酸が含まれることがある。この混合物を蒸留することで無水含フッ素カルボン酸を得ることができる。この時、低温で蒸留可能な減圧蒸留が適する。また、未反応の含フッ素カルボン酸リチウムの含有量を減らすために含フッ素カルボン酸フルオライドを過剰量使用することも好ましい。過剰量使用した含フッ素カルボン酸のうち未反応のまま残留したものは蒸留で容易に回収できるので、精製してまたは精製しないで再度本反応に使用することができる。含フッ素カルボン酸は、反応系中に水が存在することに起因するので、反応の前、中、後のいずれにおいても水の系中への浸入を防止することが好ましい。蒸留で回収した含フッ素カルボン酸は含フッ素カルボン酸リチウムの原料として使用できる。フッ化リチウムは、精製して電池材料、光学結晶の原料などとして使用できる。
【0068】
次に、本発明の方法について含フッ素カルボン酸フルオライドと水酸化リチウムを原料として含フッ素カルボン酸リチウムを合成する工程から無水含フッ素カルボン酸を得る工程までを説明するが、含フッ素カルボン酸リチウムを別途入手して使用することもできる。
【0069】
樹脂などの耐食材料またはそれらでライニングされた容器に水酸化リチウムと水を仕込む。少なくともリチウム成分の一部は水に溶解させる。水と共に有機溶媒を添加してもよく、その溶媒としては特に限られないが前述のトルエン等の共沸蒸留に使用する溶媒が好ましい。溶解、分散させるために攪拌翼等で攪拌することもできる。そこへ攪拌しながら温度の著しい上昇がないように含フッ素カルボン酸フルオライドを徐々に導入する。反応が短時間で完了した後、それまでの添加されていない場合はトルエンなどの共沸溶媒を添加し共沸蒸留を行って反応器内の水を除去する。脱水しないで次の反応に供すると次工程で導入する含フッ素カルボン酸フルオライドの加水分解が起こって含フッ素カルボン酸が生成する副反応が起こるので避ける。
【0070】
脱水後、反応器に残った含フッ素カルボン酸リチウムと共沸溶媒はそのまま次の工程で使用してもよく、共沸溶媒を留去して含フッ素カルボン酸リチウムのみを残してもよいが、最終精製を容易にするために、共沸溶媒を除去することが好ましい。いずれの場合も、そこへ含フッ素カルボン酸フルオライドを導入し、所定温度とすることで無水含フッ素カルボン酸が生成する。含フッ素カルボン酸フルオライドを反応器に仕込むときに反応器を冷却すると操作は容易であるが、常温(約25℃)または反応温度で加圧しながら送入することも可能である。所定の反応時間が経過した後、反応器を冷却し内容物を取り出せば反応生成物として無水含フッ素カルボン酸が得られる。比較的沸点の低い生成物の場合蒸留により無水含フッ素カルボン酸の純度を向上させることができる。未反応含フッ素カルボン酸リチウムが残留する場合は減圧蒸留を用いるのが好ましい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施態様には限られない。
【0072】
[実施例1]
無水ジフルオロ酢酸リチウム(CHF2COOLi、4.56g、0.053mol)を50ccのステンレス製反応器に仕込み、反応器を閉止後ドライアイス/アセトンバスで−78℃に冷却して減圧した。攪拌しながらジフルオロ酢酸フルオライド(CHF2COF、2.62g、0.027mol)を加え、バスを外して室温(約25℃)に戻した。その後、オイルバスに取り替えて、80℃で3時間、攪拌を継続した。減圧フラッシュによって、収率93.9%(CHF2COF基準)で粗無水ジフルオロ酢酸(4.54g)を得た。その組成は、(CHF2CO)2O:96.2面積%、CHF2COF:1.9面積%、CHF2COOH(ジフルオロ酢酸):1.1面積%、その他:0.8面積%であった。
【0073】
[実施例2]
吹き込み管、温度計、圧力計、攪拌装置、ディーンスターク装置を備えた1500ccのフッ素樹脂ライニングオートクレーブに、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O、41.96g,1mol)と360gのイオン交換水を仕込み、攪拌しながら氷冷した。内温を15℃以下に保ちながら徐々にCHF2COFを、吹き込み管を通して供給し、逐次pHを測定した。pH=7に至った時点でCHF2COFの供給を停止した(CHF2COF供給量:48.7g、0.50mol)。次いで、ここにトルエン500ccを加えて、水/トルエンを留分とする共沸脱水を行った。ディーンスターク装置での水分回収が実質的に終わった後、減圧フラッシュ蒸留によってトルエン全量を留去した。留去終了後、オートクレーブ内を減圧状態にして、ドライアイス/アセトンバスで冷却した。ここに、吹き込み管からCHF2COF(48.7g、0.50mol)を導入後、バスを外した。内温が0℃となった時点で、ほぼ常圧(約0.0MPaG。「G」はゲージ圧をいう。以下同じ。)を示した後、80℃のオイルバスで加熱して3時間攪拌を継続した(最大圧力:0.16MPaG)。内容物を減圧フラッシュによって、揮発分(70.8g)を別のステンレス容器に回収した。ガスクロマトグラフ(FID検出器)で分析したところ、(CHF2CO)2O:81.4面積%、CHF2COF:13.4面積%、CHF2COOH(ジフルオロ酢酸):7.1面積%、その他:1.9面積%であった。
【0074】
[参考例1]
イオン交換水(0.9g、0.05mol)を50ccのステンレス製反応器に仕込み、反応器を閉止後ドライアイス/アセトンバスで−78℃に冷却後減圧した。CHF2COF(9.8g、0.10mol)を導入後、攪拌しながら室温(約25℃)に戻した。バスをオイルバスに替えてバス温80℃で8時間攪拌後(最大圧力:1.05MPaG)、氷水で冷却し内容物をGCで分析したが、(CHF2CO)2Oの生成は認められなかった。
【0075】
[参考例2]
市販のジフルオロ酢酸を水酸化カリウム水溶液で中和し、ロータリーエバポレーターで乾燥後、さらに1kPa(絶対圧)で減圧乾燥して調製したジフルオロ酢酸カリウム(CHF2COOK、1.52g,0.0113mol)を50ccのステンレス製反応器に仕込み、反応器を閉止後ドライアイス/アセトンバスで−78℃に冷却して減圧した。攪拌しながらCHF2COF(1.9g,0.0194mol)を加え、バスを外して室温(約25℃)に戻した。その後、オイルバスに取り替えて、80℃で8時間、攪拌を継続した(最大圧力:0.95MPaG)。フラッシュ蒸留によって固体を残し揮発物を別のステンレス製容器に移動し、ガスクロマトグラフ(FID検出器)で分析したところ、CHF2COFのみが検出され、(CHF2CO)2Oは認められなかった。反応器の残滓を赤外吸収分光法(IR)で分析したところ、原料のCHF2COOKとほぼ同一のスペクトルを示した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
医農薬中間体、機能性材料の中間体として有用な無水含フッ素カルボン酸の製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
fCOOLi (1)
(式中、Rfは含フッ素アルキル基を表す。)で表される含フッ素カルボン酸リチウムと一般式(2)
fCOF (2)
(式中、Rfは一般式(1)における基と同一の基を表す。)で表される含フッ素カルボン酸フルオライドを反応させることからなる一般式(3)
(RfCO)2O (3)
(式中、Rfは一般式(1)における基と同一の基を表す。)で表される無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【請求項2】
含フッ素カルボン酸リチウムが、一般式(4)
fCOX (4)
(式中、Rfは一般式(1)における基と同一の基を表し、Xは、F、Cl、BrまたはIを表す。)で表される含フッ素カルボン酸ハライドと水酸化リチウムを反応させて得られた含フッ素カルボン酸リチウムである請求項1に記載の無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【請求項3】
含フッ素カルボン酸リチウムが、一般式(5)
fCOOH (5)
(式中、Rfは一般式(1)における基と同一の基を表す。)で表される含フッ素カルボン酸と水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを反応させて得られた含フッ素カルボン酸リチウムである請求項1または2に記載の無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【請求項4】
含フッ素カルボン酸ハライドと水酸化リチウムを反応させる方法または含フッ素カルボン酸と水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを反応させる方法により含フッ素カルボン酸リチウムを合成する工程と、含フッ素カルボン酸リチウムと含フッ素カルボン酸フルオライドとを反応させる工程を、同一の容器を用いて行う請求項1に記載の無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【請求項5】
含フッ素カルボン酸リチウムを合成する工程と、次いで共沸蒸留を用いて含フッ素カルボン酸に伴われる水を除く工程と、含フッ素カルボン酸リチウムと含フッ素カルボン酸フルオライドとを反応させる工程を、同一の容器を用いて行う請求項4に記載の無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【請求項6】
一般式(1)において、Rfがジフルオロメチル基またはトリフルオロメチル基である請求項1〜5のいずれか1項に記載の無水含フッ素カルボン酸の製造方法。
【請求項7】
含フッ素カルボン酸リチウムと含フッ素カルボン酸フルオライドとの反応を反応温度−78〜120℃で行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の無水含フッ素カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−93808(P2011−93808A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246019(P2009−246019)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】