説明

無端ベルト及び画像形成装置

【課題】周辺環境が変化しても、抵抗率の変動が小さく、当接する部材の汚染を防止することのできる無端ベルトを提供すること、及び、高品質の画像を形成することのできる画像形成装置を提供すること。
【解決手段】無端ベルト基体2と、無端ベルト基体2上に形成された弾性層3とを備えてなり、前記弾性層3は有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種のイオン導電剤を含有することを特徴とする無端ベルト1、及び、この無端ベルトを備えた画像形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無端ベルト及び画像形成装置に関し、さらに詳しくは、環境が変化しても、抵抗率の変動が小さく、当接する部材の汚染を防止することのできる無端ベルト、及び、高品質の画像を形成することのできる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンター及びビデオプリンター等のプリンター、複写機、ファクシミリ、これらの複合機等には、電子写真方式を利用した各種の画像形成装置が採用されている。電子写真方式を利用した画像形成装置は、無端ベルトの機能等に応じて、例えば、像担持体に現像された現像剤像を記録体に直接転写する直接転写方式と、現像剤像を一旦無端ベルトに転写し、無端ベルトから記録体に転写する中間転写方式とがある。
【0003】
直接転写方式は、感光ドラム等の像担持体に形成された静電潜像を現像手段に装備された現像剤担持体から供給される現像剤で現像し、転写手段に電圧を印加することにより、無端ベルト(転写搬送ベルトともいう。)に静電的に吸着されて像担持体と転写手段との間に搬送される記録体に現像された現像剤像を転写し、現像剤像が転写された記録体を加圧ローラ及び定着ローラによって圧着又は加熱圧着し、転写された現像剤像を記録体上に画像や文字として定着する方式である。
【0004】
中間転写方式は、例えば、像担持体に形成された静電潜像を現像剤で現像し、現像された現像剤像を像担持体に当接又は圧接する無端ベルト(中間転写ベルトともいう。)に転写(一次転写)し、無端ベルトに転写された現像剤像を記録体に転写(二次転写)して、現像剤像が転写された記録体を加圧ローラ及び定着ローラによって圧着又は加熱圧着し、転写された現像剤像を記録体上に画像や文字として定着する方式である。このような中間転写方式の画像形成装置は、現像剤の転写性がよく、画像のカラー化及び高精細化、並びに、画像形成速度の高速化等を比較的実現しやすいことから、広く利用されている。
【0005】
中間転写方式の画像形成装置に装着される無端ベルトは、前記のように、現像剤を現像剤像として像担持体から受け取り、その後、現像剤を現像剤像として記録体に供給する。したがって、前記無端ベルトには、現像剤を所望のように受取りかつ所望のように供給するために、電気特性例えば導電性(体積抵抗率(単位:Ω・cm)の常用対数値等が6〜13程度)が要求される。このような電気特性を有する無端ベルトとして、例えばイオン導電剤を含有してなる無端ベルトが挙げられる。具体的には、「イオン導電剤として特定の四級アンモニウム塩を含有する導電性材料を用いてなることを特徴とする中間転写部材」が特許文献1(請求項1)に記載されている。
【0006】
また、無端ベルトは、現像剤の転写性及び離型性の向上、耐久性向上等を目的として、複層構造とされることがある。このような複層構造の無端ベルトとして、例えば、「電子導電性フィラーの配合によって体積抵抗率が調整された電子導電系半導電性合成樹脂材料を用いて形成した電子導電系半導電層と、イオン導電剤の配合によって体積抵抗率が調整されたイオン導電系半導電性材料を用いて形成したイオン導電系半導電層とを積層せしめて、構成したことを特徴とする導電性プラスチックベルト」が特許文献2(請求項1)に記載されている。この導電性プラスチックベルトに用いられるイオン導電剤として、「第4級アンモニウム塩、リン酸エステル、脂肪族アルコールサルフェート塩、過塩素酸アミン」が、また、その具体的な化合物が特許文献2の0026欄に記載されている。
【0007】
ところで、どのような画像形成装置であっても稼動するとその内部環境が変化するから、無端ベルトには、前記した電気特性に加えて、無端ベルトが装着された周辺の環境が変化しても電気特性が大きく変動しないことが要求される。ところが、従来の無端ベルトは、無端ベルトが装着されている周囲の環境が変化すると、電気的特性特に抵抗率が変動することがあった。周辺の環境変化によって、無端ベルトの電気特性が変動例えば抵抗率が小さくなると、現像剤を所望のように受取りかつ所望のように供給することができず、すなわち、現像剤の転写性が低下し、形成される画像の品質が大きく低下することになる。このように、無端ベルトの電気特性が変動すると、中間転写方式の画像形成装置における「画像の高精細化」及び/又は「画像形成速度の高速化」という性能を十分に発揮させることができなくなる。
【0008】
また一方で、無端ベルトに含有しているイオン導電剤は、例えば周辺の環境変化によって、特に高温高湿環境になると、無端ベルトの表面に移行することがあった。イオン導電剤が無端ベルトの表面に移行すると、画像形成装置に装着された無端ベルトが当接している部材例えば像担持体を汚染する。その結果、汚染された部材例えば像担持体は現像剤を所望のように担持することができず、形成される画像の品質を低下させる。したがって、無端ベルトが装着された周辺の環境が変化しても、特に画像形成装置の稼動によって前記周辺の環境が高温高湿環境に変化しても、無端ベルトが当接している部材の汚染を防止することが望まれている。
【0009】
【特許文献1】特許第3750568号明細書
【特許文献2】特開平8−110711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、環境が変化しても、抵抗率の変動が小さく、かつ、当接する部材の汚染を防止することのできる無端ベルトを提供すること、及び、高品質の画像を形成することのできる画像形成装置を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、無端ベルト基体と、無端ベルト基体上に形成された弾性層とを備えてなり、前記弾性層は、有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種のイオン導電剤を含有していることを特徴とする無端ベルトであり、
請求項2は、請求項1に記載の無端ベルトを備えた画像形成装置である。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る無端ベルトは、有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種のイオン導電剤を含有する弾性層を備えているから、無端ベルトが装着された周辺の環境がたとえ高温高湿環境に変化しても、ほぼ一定の電気特性特に抵抗率を有し、また、イオン導電剤の弾性層表面への移行を防止することができる。したがって、この発明によれば、環境が変化しても、抵抗率の変動が小さく、かつ、当接する部材の汚染を防止することのできる無端ベルトを提供すること、及び、この発明に係る無端ベルトを備え、高品質の画像を形成することのできる画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明に係る無端ベルトの一実施例である無端ベルトを、図を参照して、説明する。この無端ベルト1は、図1に示されるように、無端ベルト基体2と、無端ベルト基体2の外周面上に形成された弾性層3とを備えてなる。
【0014】
図1に示されるように、前記無端ベルト基体2は、後述する樹脂組成物を硬化してなり、単層構造とされている。無端ベルト基体2は、無端ベルト1の用途等、すなわち、画像形成装置に配設される位置(構成部分)、張架される複数のローラ間隔等に応じて、所望の幅及び内周径に設定される。無端ベルト基体2の厚さは、特に限定されないが、通常、例えば、50〜200μmであるのが好ましく、60〜170μmであるのがより好ましく、70〜160μmであるのが特に好ましい。無端ベルト基体2の厚さが前記範囲内にあると、無端ベルト1としたときの機械的強度及び可撓性を確保することができ、無端ベルト1の耐久性に優れる。無端ベルト基体2の厚さは、接触式膜厚計又は非接触式膜厚計等により測定することができ、例えば、過電流式膜厚計(商品名「CTR−1500E」、サンコー電子株式会社製)を使用することができる。
【0015】
無端ベルト基体2は、温度23℃、相対湿度50%の条件において、通常、体積抵抗率(単位:Ω・cm)の常用対数値が6〜13の範囲内にあるのが好ましく、7〜12の範囲内にあるのが特に好ましい。無端ベルト基体2が前記範囲の体積抵抗率の常用対数値を有していると、無端ベルト1としたときの体積抵抗率を所望の範囲に調整することができ、その結果、静電吸着力が強く、現像剤を所望のように受取りかつ担持し、また所望のように供給することができるから、高品質の画像を形成することができる。無端ベルト基体2の体積抵抗率の常用対数値は、体積抵抗測定装置(三菱化学株式会社製、商品名:Hiresta−UP、使用プローブ:URS)により体積抵抗率を測定し、測定値を常用対数値に換算することにより、求めることができる。
【0016】
無端ベルト基体2は、温度23℃、相対湿度50%の条件において、通常、表面抵抗率(単位:Ω/□)の常用対数値が7〜14の範囲内にあるのが好ましく、8〜13の範囲内にあるのが特に好ましい。無端ベルト基体2が前記範囲の表面抵抗率の常用対数値を有していると、無端ベルト1としたときの表面抵抗率を所望の範囲に調整することができ、その結果、静電吸着力が強く、現像剤を所望のように受取りかつ担持し、また所望のように供給することができるから、高品質の画像を形成することができる。無端ベルト基体2の表面抵抗率の常用対数値は、円形電極(例えば、三菱化学株式会社製、商品名:Hiresta−UP、使用プローブ:URSプローブ)を使用し、JIS K6911に従って表面抵抗率を測定し、測定値を常用対数値に換算することにより、求めることができる。
【0017】
無端ベルト基体2の体積抵抗率の常用対数値及び表面抵抗率の常用対数値は、例えば、無端ベルト基体2を形成する後述する樹脂組成物に含まれる導電性付与剤の種類、含有量及び/又は成形条件等により、調整することができる。
【0018】
無端ベルト基体2は、樹脂を含有する組成物を硬化してなる。樹脂組成物は、ある程度の強度を有し、繰返し変形に耐える可撓性に富む樹脂単体又は複数種類の樹脂を含有してなる樹脂組成物であるのがよく、このような樹脂組成物に含有される樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を挙げることができる。熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリル・スチレン共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、アセチルセルロース、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアミド樹脂(PA)、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、架橋型ポリエステル樹脂等のポリエステル系樹脂、フッ素樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂(PESF)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン共重合体、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、四フッ化樹脂(PTFE)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリアリレート(PAR)、ポリアセタール(POM)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂及びポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましく、ポリアミドイミド樹脂がより好ましく、特に、芳香族ポリアミドイミド樹脂が、強度、可撓性、寸法安定性及び耐熱性等の機械的特性がバランスよく優れている点で、好ましい。
【0019】
前記芳香族ポリアミドイミド樹脂は、トリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物とを反応させるジイソシアネート法により製造することができ、ジイソシアネート法は原料の入手、反応性及び副生成物が少ない等の点で優れている。ジイソシアネート法で製造される芳香族ポリアミドイミド樹脂の他にも、重縮合反応を好適に進めることができるのであれば、ジイソシアネート化合物に代えてジアミン化合物を用いて製造される芳香族ポリアミドイミド樹脂も、好ましい。ジアミン化合物を用いて得られる芳香族ポリアミドイミド樹脂は、ヤング率が高く、無端ベルトを形成する樹脂組成物に含まれる樹脂として好適である。また、トリカルボン酸無水物の一部をテトラカルボン酸二無水物に代えてイミド結合を増加させた芳香族ポリアミドイミド樹脂は、耐湿性に優れている。芳香族ポリアミドイミド樹脂は、適宜の溶媒中で、常圧下、及び、常温下又は加熱下で反応させることにより、容易に合成することができる。
【0020】
前記トリカルボン酸無水物としては、芳香族トリカルボン酸無水物が好ましく、例えば、トリメリット酸無水物、3,4,4’−ジフェニルエーテルトリカルボン酸無水物、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、2,3,5−ピリジントリカルボン酸無水物、ナフタレントリカルボン酸無水物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらの酸無水物は一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0021】
トリカルボン酸無水物の一部に代えて用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0022】
前記ジイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネート化合物を好ましく挙げることができる。また、ジイソシアネート化合物として、芳香族ジイソシアネート化合物と共に、又は芳香族ジイソシアネート化合物に代えて、脂肪族ジイソシアネート化合物及び/又は脂環式ジイソシアネート化合物を、又はこれらの誘導体であるアミン類を使用することもできる。
【0023】
芳香族ジイソシアネート化合物として、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、4,4’−ジイソシアネートジフェニルスルホン、4,4’−ジイソシアネートビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートビフェニル、2,4−トルエンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。また、これらの芳香族ジイソシアネート化合物の誘導体であるジアミン類も原料として利用できる。脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。脂環式ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。これらのジイソシアネート化合物の中でも、無端ベルトの耐熱性、機械的特性及び溶解性等を考慮すると、使用する全ジイソシアネート化合物中の60質量%以上、好ましくは70質量%以上を、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートビフェニル、イソホロンジイソシアネート又はこれらの誘導体であるジアミン類とすることが好ましい。さらに、無端ベルト1の寸法安定性を考慮すると、使用する全ジイソシアネート化合物中の70質量%以上をジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート又はこの誘導体である4,4’−ジアミノジフェニルメタンとすることがより好ましい。
【0024】
芳香族ポリアミドイミド樹脂を合成する重縮合反応に使用される溶媒としては、溶解性の点で極性溶媒が好ましく、反応性を考慮すると非プロトン性極性溶媒が特に好ましい。非プロトン性極性溶媒として、例えば、N,N−ジアルキルアミド類が挙げられ、N,N−ジアルキルアミド類としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、及び、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド等が挙げられる。また、極性溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等も好ましい。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0025】
樹脂組成物は導電性付与剤を含有してもよい。導電性付与剤として、例えば、導電性粉末等を挙げることができる。導電性粉末としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボンの他に、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT等のゴム用カーボン類、また酸化チタン、酸化亜鉛、ニッケル、銅、銀、ゲルマニウム等の金属、さらには金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマー、ナノ粒子等を挙げることができる。また、導電性付与剤として前記イオン導電剤を用いることもできる。これらの中でも、導電性カーボン及びゴム用カーボン類等が好ましく、カーボンブラックが特に好ましい。導電性付与剤は、前記各種物質をその一種を単独で使用することができ、また二種以上を併用することもできる。導電性付与剤の好ましい形状は、球状又は不定形である。球状又は不定形をなす導電性付与剤の粒子のサイズは、一次粒子径として0.01〜10μm程度が好ましい。導電性付与剤がカーボンブラックの場合、そのBET比表面積は、一次粒子径との相関性が強く、50〜300m/gであることが好ましく、100〜200m/gがより好ましい。
【0026】
樹脂組成物における導電性付与剤の含有量は、導電性付与剤の導電性及び粒径、並びに、無端ベルトに要求される導電特性等により、適宜調整すればよいが、通常、樹脂組成物と導電性付与剤との全質量100%に対して、1〜25質量%であるのが好ましく、5〜20質量%であるのがより好ましく、10〜20質量%であるのが特に好ましい。導電性付与剤の添加量が1質量%より少ないと、導電性物質同士の距離が離れすぎて無端ベルトにおける導電性の発現が悪くなることがあり、一方、導電性付与剤の添加量が25質量%を超えると、無端ベルト基体の機械的強度が低下することがある。導電性付与剤を樹脂に分散させるには、公知の方法を適宜選択することができ、公知の方法として、例えば、ミキシングロール、加圧式ニーダー、押出機、三本ロール、ホモジナイザー、ボールミル、ポットミル及びビーズミル等を用いた混合方法が挙げられる。
【0027】
樹脂組成物は、この発明の目的を阻害しない限り、前記樹脂及び前記導電性付与剤に加えて、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、シリコーン系化合物、フッ素系有機化合物、カップリング剤、滑剤、酸化防止剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、老化防止剤、補強性充填材、反応助剤、反応抑制剤等の各種添加剤等が挙げられる。また、この樹脂組成物は、この発明の目的を阻害しない限り、他の樹脂が含有されていてもよい。これら他の成分の前記樹脂組成物における含有量は、これら他の成分の添加により前記樹脂組成物に発現させる特性に応じて適宜に決定されることが、できる。
【0028】
図1に示されるように、前記弾性層3は、前記無端ベルト基体2の外周面上で後述するゴム組成物を硬化してなり、単層構造とされている。したがって、弾性層3は、無端ベルト基体2の外周径と同じ内周径を有し、無端ベルト基体2の幅と同じ幅を有している。弾性層3の厚さは、後述するゴム組成物によって弾性を有する厚さに調整されればよく、通常、50〜400μmであるのが好ましく、70〜300μmであるのがより好ましく、100〜250μmであるのが特に好ましい。弾性層2の厚さが前記範囲内にあると、無端ベルト1が画像形成装置に装着されたときに、無端ベルト1と無端ベルト1が当接する部材との当接幅を確保して、現像剤の良好な転写性を実現することができる。弾性層3の厚さは、無端ベルト基体2の厚さと同様にして測定することができる。
【0029】
弾性層3は、温度23℃、相対湿度50%の条件において、通常、体積抵抗率(単位:Ω・cm)の常用対数値が7〜13の範囲内にあるのが好ましく、8〜12の範囲内にあるのが特に好ましい。弾性層3が前記範囲の体積抵抗率の常用対数値を有していると、無端ベルト1としたときの体積抵抗率を所望の範囲に調整することができ、その結果、静電吸着力が強く、現像剤を所望のように受取りかつ担持し、また所望のように供給することができるから、高品質の画像を形成することができる。
【0030】
弾性層3は、温度23℃、相対湿度50%の条件において、通常、表面抵抗率(単位:Ω/□)の常用対数値が7〜13の範囲内にあるのが好ましく、8〜12の範囲内にあるのが特に好ましい。弾性層3が前記範囲の表面抵抗率の常用対数値を有していると、無端ベルト1としたときの表面抵抗率を所望の範囲に調整することができ、その結果、静電吸着力が強く、現像剤を所望のように受取りかつ担持し、また所望のように供給することができるから、高品質の画像を形成することができる。
【0031】
弾性層3の体積抵抗率の常用対数値及び表面抵抗率の常用対数値は、無端ベルト基体2の体積抵抗率の常用対数値及び表面抵抗率の常用対数値と同様にして求めることができる。弾性層3の体積抵抗率の常用対数値及び表面抵抗率の常用対数値は、例えば、弾性層3を形成する後述するゴム組成物に含まれるイオン導電剤の種類及び/又は含有量等により、調整することができる。
【0032】
弾性層3は、弾性を有しているのが好ましく、例えば、通常、10〜80のJIS A硬度を有しているのがより好ましく、20〜60のJIS A硬度を有しているのが特に好ましい。弾性層3が前記範囲内のJIS A硬度を有していると、無端ベルト1と無端ベルト1が当接する部材との大きな当接幅を確保することができ、その結果、前記部材に担持された現像剤のほとんどすべてを受取り担持することができる一方で、無端ベルト1が担持した現像剤のほとんどすべてを他の部材に供給することができる。したがって、弾性層3が前記範囲内のJIS A硬度を有していると、無端ベルト1としたときに、現像剤の高い転写性を実現することができる。弾性層3のJIS A硬度はJIS K6301に準拠して測定することができる。
【0033】
弾性層3は、有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種のイオン導電剤を含有している。弾性層3が前記イオン導電剤を含有していると、無端ベルト1が装着された周辺の環境がたとえ高温高湿環境に変化しても、弾性層3がほぼ一定の電気特性特に抵抗率を有し、また、含有されるイオン導電剤が弾性層表面に移行しにくくなる。
【0034】
前記有機ホウ素錯体塩は、有機ホウ素錯体のイオンをアニオンとし、アルカリ金属元素のイオンをカチオンとする塩であればよい。有機ホウ素錯体は、特に限定されることなく用いることができ、例えば、ボロビス(1,1−ジフェニル−1−オキソ−アセチルイオン)等が挙げられる。アルカリ金属元素としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。有機ホウ素錯体塩は、前記有機ホウ素錯体のイオンと前記アルカリ金属元素のイオンとを任意に組み合わせた錯体塩を特に限定されることなく用いることができる。有機ホウ素錯体塩としては、例えば、ボロビス(1,1−ジフェニル−1−オキソ−アセチル)カリウム塩(例えば、商品名「LR−147」、日本カーリット株式会社製)等が挙げられる。
【0035】
有機ホウ素錯体塩は、ボロビス(1,1−ジフェニル−1−オキソ−アセチル)カリウム塩であるのが、弾性層3を形成する後述するゴム組成物に均一に分散させることによって、弾性層3表面に移行しにくく、弾性層3の体積抵抗率及び表面抵抗率それぞれを前記範囲内に調整することができる点で、好ましい。
【0036】
前記イオン性液体は、室温(25℃)で液体状態(例えば、粘度が20〜500mPa・sの範囲にある。)にあるイオン性化合物であれば特に限定されることなく用いることができる。このようなイオン性液体としては、例えば、N−アルキル−3−アルキルピリジニウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−アルキル−3−アルキルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホニルイミド、1−アルキル−3−アルキルピリジン−1−イウムトリフルオロメタンスルホナート等が挙げられる。これらのアルキル基はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基であるのが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0037】
前記N−アルキル−3−アルキルピリジニウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミドとして、例えば、N−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミド(化学式C1216、製品名「CIL−312」、日本カーリット株式会社製)等が挙げられる。前記1−アルキル−3−アルキルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホニルイミドして、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホニルイミド(日本合成化学工業株式会社製)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホニルイミド(日本合成化学工業株式会社製)等が挙げられる。前記1−アルキル−3−アルキルピリジン−1−イウムトリフルオロメタンスルホナートとして、例えば、1−ブチル−3−メチルピリジン−1−イウムトリフルオロメタンスルホナート(化学式C1116NOS、製品名「CIL−313」、日本カーリット株式会社製)等が挙げられる。
【0038】
イオン性液体は、これらの中でも、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホニルイミド、N−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ブチル−3−メチルピリジン−1−イウムトリフルオロメタンスルホナートであるのが、弾性層3を形成する後述するゴム組成物に均一に分散させることによって、弾性層3表面に高度に移行しにくく、弾性層3の体積抵抗率及び表面抵抗率をそれぞれ前記範囲内に調整することができる点で、好ましい。
【0039】
アルカリ金属の過塩素酸塩は、アルカリ金属元素のイオンと過塩素酸イオンとの塩であればよい。アルカリ金属元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が好適に挙げられ、リチウムが特に好適挙げられる。アルカリ金属の過塩素酸塩は、前記アルカリ金属元素のイオンと過塩素酸イオンとを任意に組み合わせてなる塩を特に限定されることなく用いることができる。アルカリ金属の過塩素酸塩としては、例えば、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等が挙げられる。
【0040】
アルカリ金属の過塩素酸塩は、これらの中でも、過塩素酸リチウムであるのが、弾性層3を形成する後述するゴム組成物に均一に分散させることによって、弾性層3表面に高度に移行しにくく、弾性層3の体積抵抗率及び表面抵抗率をそれぞれ前記範囲内に調整することができる点で、好ましい。
【0041】
これらの有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩は、それらの中から少なくとも一種が選択され、イオン導電剤として弾性層3に含有される。弾性層3におけるイオン導電剤の含有量は、通常、弾性層3を形成するゴム100質量部に対して、0.05〜30質量部であるのが好ましく、0.1〜10質量部であるのがより好ましく、0.15〜7質量部であるのが特に好ましい。イオン導電剤の含有量が前記範囲内にあると、弾性層3の体積抵抗率及び表面抵抗率等の電気的特性を環境変化に影響されることのない所望の範囲に調整することができると共に、イオン導電剤が弾性層3表面により一層移行しにくくなるうえ、イオン導電剤が多量に含有されることによる弾性層3ひいては無端ベルト1の物性を大きく低下させることもない。
【0042】
これまでイオン導電剤として無端ベルトの弾性層によく用いられていた、第4級アンモニウム塩、リン酸エステル、脂肪族アルコールサルフェート塩及び過塩素酸アミン等の従来のイオン導電剤は、無端ベルトの弾性層に含有させると、無端ベルトの周辺環境の変化によって、これらのイオン導電剤が弾性層の表面に移行して、無端ベルトの当接体を汚染することがあり、さらに、抵抗率等の電気的特性が一様ではなく大きく変動して、現像剤を受取って担持すること、及び/又は、担持した現像剤を他の部材に供給することが所望のように実現されないことがあった。ところが、発明者らは、イオン導電剤の中でも、これまで無端ベルトの弾性層に用いられたことのない新規な有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩を用いると、これらの有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種のイオン導電剤を含有する弾性層3が形成されてなる無端ベルト1を画像形成装置に装着した場合に、無端ベルト1の周辺環境が変化しても、弾性層3の表面に有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩がほとんど移行せず、弾性層3が安定した抵抗率等の電気的特性を発揮することを、今回新たに発見して、本願発明を完成した。
【0043】
したがって、本願発明は、電気的特性を調整するためのイオン導電剤としてこれらの有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種を弾性層3に含有させることを特徴の1つとする。これらの有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種のイオン導電剤を弾性層3に含有させると、弾性層3の体積抵抗率及び表面抵抗率を所望の範囲内で安定した値に調整することができると共に、有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩が弾性層3の表面に移行することがほとんどない。
【0044】
弾性層3は、ゴム、前記イオン導電剤を含有するゴム組成物を硬化してなる。ゴム組成物に含有されるゴムは、シリコーンゴム若しくはシリコーン変性ゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム(エチレンプロピレンジエンゴムを含む。)、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。ゴム組成物に含有されるイオン導電剤は前記イオン導電剤と同様である。ゴム組成物中のイオン導電剤の含有量は、ゴム組成物に含有されるゴム100質量部に対して、前記弾性層3におけるイオン導電剤の含有量となるように調整され、通常、前記弾性層3におけるイオン導電剤の含有量と同じ範囲に調整される。
【0045】
ゴム組成物は、この発明の目的を阻害しない限り、通常、ゴム組成物に含有される各種添加剤を含有していてもよく、各種添加剤としては、例えば、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、分散剤、発泡剤、老化防止剤、酸化防止剤、充填材、顔料、着色剤、加工助剤、軟化剤、可塑剤、乳化剤、硬化剤、耐熱性向上剤、難燃性向上剤、受酸剤、熱伝導性向上剤、離型剤、溶剤等が挙げられる。これらの各種添加剤は、通常用いられる添加剤であってもよく、用途に応じて特別に用いられる添加剤であってもよい。
【0046】
ゴム組成物は、イオン導電剤及びゴム、所望により各種添加剤を、公知の方法で混合して調整される。公知の方法として、例えば、ミキシングロール、加圧式ニーダー、押出機、三本ロール、ホモジナイザー、ボールミル、ポットミル及びビーズミル等を用いた混合方法が挙げられる。例えば、ゴム組成物は、前記ゴム及び/又は前記ゴムを形成するモノマー若しくはプレポリマー等のゴム形成成分を酢酸エチル等の溶剤に溶解し、この溶液にイオン導電剤及び所望の各種添加剤を加えて室温下又は加熱下で均一に混合することによって、調製されることができる。
【0047】
前記無端ベルト基体2と前記弾性層3とを備えてなる二層構造の無端ベルト1は、無端ベルト1の用途等に応じて、所望の幅及び内周径に設定される。その一例を挙げると、例えば、無端ベルト1の幅は200〜350mmであり、内周径は200〜2,500mmである。また、無端ベルト1の全体厚さは、特に限定されないが、通常、例えば、0.03〜1mmであるのが好ましく、0.05〜0.2mmであるのがより好ましく、0.07〜0.14mm程度であるのが特に好ましい。無端ベルト1の厚さが前記範囲内であると、機械的強度及び可撓性を確保することができ、耐久性に優れる。無端ベルト1の厚さは無端ベルト基体2と同様にして測定する。
【0048】
無端ベルト1は、通常、体積抵抗率(単位:Ω・cm)の常用対数値が6〜14の範囲内にあるのが好ましく、8〜12の範囲内にあるのが特に好ましい。無端ベルト1が前記範囲の体積抵抗率の常用対数値を有していると、静電吸着力が強く、現像剤を所望のように担持し、供給することができるから、高品質の画像を形成することができる。
【0049】
無端ベルト1は、通常、表面抵抗率(単位:Ω/□)の常用対数値が8〜15の範囲内にあるのが好ましく、9〜14の範囲内にあるのがより好ましく、9〜13の範囲内にあるのが特に好ましい。無端ベルト1が前記範囲の表面抵抗率の常用対数値を有していると、静電吸着力が強く、現像剤を所望のように担持し、供給することができるから、高品質の画像を形成することができる。
【0050】
無端ベルト1の体積抵抗率の常用対数値及び表面抵抗率の常用対数値は、無端ベルト基体2の体積抵抗率の常用対数値及び表面抵抗率の常用対数値と同様にして求めることができる。無端ベルト1の体積抵抗率の常用対数値及び表面抵抗率の常用対数値は、無端ベルト基体2の体積抵抗率の常用対数値及び表面抵抗率の常用対数値、並びに、弾性層3の体積抵抗率の常用対数値及び表面抵抗率の常用対数値を適宜調整することによって、また、無端ベルト基体2と弾性層3との組み合せ等によって、適宜調整することができる。
【0051】
前記構成を有する無端ベルト1は、温度10℃、相対湿度20%の低温低湿環境における体積抵抗率(ρvLL)の常用対数値(logρvLL)と、温度28℃、相対湿度80%の高温高湿環境における体積抵抗率(ρvHH)の常用対数値(logρvHH)との差(logρvLL−logρvHH、以下、体積抵抗率差と称することがある。)が0.9以下になっている。この体積抵抗率差が0.9以下であると、周辺の環境変化による体積抵抗率の変動がきわめて小さく、無端ベルト1を画像形成装置に装着したときに、高品質の画像を形成することに貢献する。特に、稼動によって高温高湿環境になる、高精細化された画像を形成することのできる画像形成装置、及び、高精細化された画像を高速で形成することのできる画像形成装置に、無端ベルト1が用いられても、所望の品質を有する画像を形成することができる。このような画像形成装置に特に好適に用いることができる点で、前記体積抵抗率差は、0.5以下になっているのが好ましい。なお、前記体積抵抗率差の下限値は、理想的には0であるが、通常、0.05程度である。
【0052】
前記構成を有する無端ベルト1は、温度10℃、相対湿度20%の低温低湿環境における表面抵抗率(ρsLL)の常用対数値(logρsLL)と、温度28℃、相対湿度80%の高温高湿環境における表面抵抗率(ρsHH)の常用対数値(logρsHH)との差(logρsLL−logρsHH、以下、表面抵抗率差と称することがある。)が0.8以下になっている。この表面抵抗率差が0.8以下であると、周辺の環境変化による表面抵抗率の変動がきわめて小さく、無端ベルト1を画像形成装置に装着したときに、高品質の画像を形成することに貢献する。特に、稼動によって高温高湿環境になる、高精細化された画像を形成することのできる画像形成装置、及び、高精細化された画像を高速で形成することのできる画像形成装置に、無端ベルト1が用いられても、所望の品質を有する画像を形成することができる。このような画像形成装置に特に好適に用いることができる点で、前記表面抵抗率差は、0.5以下になっているのが好ましい。なお、前記表面抵抗率差の下限値は、理想的には0であるが、通常、0.05程度である。
【0053】
次に、この発明に係る無端ベルトの製造方法を説明する。この発明に係る無端ベルトを製造するには、無端ベルト基体2を形成する樹脂組成物及び弾性層3を形成するゴム組成物をそれぞれ、前記のようにして、準備する。
【0054】
次いで、準備した樹脂組成物を、公知の成形方法によって、環状に成形して、無端ベルト基体2とする。例えば、無端ベルト1を形成する樹脂組成物に含有される樹脂として熱可塑性樹脂を選択した場合には、遠心成形、押出成形、射出成形等により、一方、樹脂として熱硬化性樹脂を選択した場合には、遠心成形、RIM成形等により、無端ベルト基体2を成形することができる。これらの成形方法の中でも、材料を問わずに適用可能であり、かつ厚さ精度に優れる等の点で、遠心成形が好ましい。
【0055】
無端ベルト基体2を遠心成形によって成形する場合には、樹脂組成物は、その成形時の粘度を50,000mPa・s以下に調整するのが好ましい。粘度が50,000mPa・sを超えると、厚さの均一な無端ベルト基体2を製造するのが困難になることがある。樹脂組成物の粘度の下限については、特に限定されるものではないが、10mPa・s以上であるのが好ましい。樹脂組成物の粘度が上記範囲を外れる場合は、前記溶媒の添加量等を調節することにより、樹脂組成物の粘度を前記範囲内に調整することができる。溶媒としては、前記芳香族ポリアミドイミド樹脂を合成する重縮合反応に使用される溶媒が挙げられる。
【0056】
遠心成形によると、溶媒を含有することにより流動性を発現した樹脂組成物を円筒形の金型に注入し、金型を回転させて遠心力で金型内周面に樹脂組成物の層を均一に展開し、樹脂組成物の層から溶媒を乾燥除去して、無端成形基体が製造される。金型は各種金属管を用いることができる。好適な金型としては、金型の内周面は鏡面研磨されており、鏡面となった内周面はフッ素樹脂やシリコーン樹脂等の離型剤により離型処理され、形成した無端成形基体が内周面から容易に脱型できるようにされた金属管を挙げることができる。
【0057】
なお、樹脂組成物に含まれる樹脂としてポリアミドイミド樹脂を選択する場合には、上述した遠心成形による他に、ポリアミドイミド樹脂の原料であるトリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物とが一部重合したポリアミド酸の溶液を、金型の内周面や外周面に浸漬方式、遠心方式、塗布方式等によってコートし、又は前記ポリアミド酸の溶液を注形型に充填する等の適宜な方式で筒状に展開し、その展開層を乾燥製膜してベルト形に成形し、その成形物を加熱処理してポリアミド酸をイミドに転化して型より回収する公知の方法(特開昭61−95361号公報、特開昭64−22514号公報、特開平3−180309号公報等)等により、無端ベルト基体2を製造することもできる。
【0058】
金型内周面に展開された樹脂組成物の層から溶媒を除去して、無端成形基体が製造される。ここで、除去される溶媒は、金型内周面に展開された樹脂組成物の層に含有された溶媒であり、例えば、樹脂組成物の粘度を調整する際に使用される溶媒の他に、前記芳香族ポリアミドイミド樹脂を合成する際に使用される溶媒等が挙げられる。金型内周面に展開された樹脂組成物の層から溶媒を除去する処理として、加熱処理を挙げることができるが、溶媒を除去するには、以下の一次溶媒除去工程及び二次溶媒除去工程からなる溶媒除去処理を行うのが好ましい。
【0059】
前記一次溶媒除去工程は、金型を回転して金型内周面に展開された樹脂組成物の層から溶媒を除去しつつ成形し、樹脂組成物の層をフィルム状成形体とする。一次溶媒除去工程は、金型を回転したまま5〜60分間、40〜150℃の熱風を金型内に通過させることにより、溶媒が除去される。熱風温度が150℃を超えると、及び/又は、加熱時間が60分を超えると、成形されるフィルム状成形体が酸化されることがある。
【0060】
二次溶媒除去工程は、一次溶媒除去工程で成形されたフィルム状成形体を金型ごと遠心成形機から取り出し、金型ごと加熱して、フィルム状成形体から溶媒を除去し、無端成形基体とする。例えば、熱風乾燥器、オーブン等の加熱器を用いる場合には、フィルム状成形体を金型ごと、200〜300℃で1〜3時間加熱すればよく、また、過熱水蒸気炉を用いる場合には、フィルム状成形体を金型ごと、200〜260℃の過熱水蒸気で、0.5〜3時間加熱すればよい。なお、フィルム成形体の変形等を防止することができれば、金型からフィルム成形体を脱型し、フィルム成形体を前記条件で加熱することもできる。
【0061】
このようにして溶媒が除去された無端成形基体を作製した後、無端成形基体を金型から取り出し、放冷する。なお、金型ごと無端成形基体を放冷すると、金型と無端成形基体との熱膨張率の差により、無端成形基体を脱型することができる。
【0062】
このようにして無端成形基体を脱型して、環状の無端成形基体における両側端部を除去し、所定幅に裁断して、無端ベルト基体2が作製される。無端成形基体を切断する切断機は、無端成形基体の切断開始点と切断終了点とが略一致するように、切断することができる装置であればよい。
【0063】
このようにして作製される無端ベルト基体2の外周面に弾性層3を形成する。すなわち、弾性層3は、有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種のイオン導電剤を含有するゴム組成物を硬化してなる。弾性層3を形成するには、例えば、以下の方法が採用される。まず、無端ベルト基体2の外周面に前記ゴム組成物を塗布する。ゴム組成物の塗布は、通常の塗布方法、例えば、ディップ法、スプレー法、ロールコータ法、ドクターブレードコート法等で、硬化後の弾性層3の厚さが前記範囲内になる塗布量で、塗布される。次いで、無端ベルト基体2の外周面に塗布されたゴム組成物を硬化する。加熱条件は、例えば、110〜200℃で0.5〜3時間の加熱条件を選択することができる。このようにして形成された弾性層3は、所望により、その表面を研磨又は研削されてもよい。
【0064】
このようにして製造される無端ベルト1は、有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種のイオン導電剤を含有する弾性層3を備えているから、半導電領域の電気特性を有すると共に、例えば、0.9以下の体積抵抗率差及び/又は0.8以下の表面抵抗率差を有している。すなわち、無端ベルト1は、無端ベルト1が装着された周辺の環境がたとえ高温高湿環境に変化しても、ほぼ一定の電気特性特に抵抗率を有する。また、無端ベルト1は、特定のイオン導電剤を含有しているから、イオン導電剤が弾性層3表面に移行することがほとんどない。したがって、無端ベルト1は、環境が変化しても、体積抵抗率及び表面抵抗率の変動が小さく、かつ、当接する部材の汚染を防止することができる。
【0065】
無端ベルト1はこのような特性を有しているから、画像形成装置に装着されると、高品質の画像を形成することに貢献することができる。特に、稼動によって高温高湿環境になる、高精細化された画像を形成することのできる画像形成装置、画像を高速で形成することのできる画像形成装置、及び、高精細化された画像を高速で形成することのできる画像形成装置に装着されると、所望の高品質を有する画像を形成することに十分に貢献することができる。
【0066】
また、この発明に係る無端ベルトは、中間転写方式の画像形成装置に装着される中間転写ベルトとして好適に用いられる。この発明に係る無端ベルトは、前記構成を有するから、その用途は前記中間転写ベルトに限定されるわけではなく、直接転写方式の画像形成装置、及び、中間転写方式の画像形成装置に装着される各種無端ベルト、例えば、記録体を搬送する搬送ベルト、記録体への現像剤の転写に貢献する転写ベルト、記録体を搬送すると共に記録体への現像剤の転写に貢献する転写搬送ベルト、現像剤を像担持体に供給する現像ベルト、記録体に転写された現像剤を定着させる転写ベルト、現像剤像を担持する感光ベルト等にも用いることができる。
【0067】
この発明に係る無端ベルトは、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、無端ベルト1の無端ベルト基体2及び弾性層3はいずれも単層構造とされているが、この発明において、無端ベルトの無端ベルト基体及び/又は弾性層は二以上の層を積層した多層構造とされてもよい。
【0068】
また、無端ベルト1は、無端ベルト基体2の外周面に弾性層3が形成されているが、この発明においては、無端ベルト基体2の外周面に接着剤層又はプライマー層等が形成された後、この接着剤層又はプライマー層等の外周面に弾性層3が形成されてもよい。さらに、無端ベルト1は、無端ベルト基体2と弾性層3とを備えてなるが、この発明において、無端ベルトは、所望により、弾性層の外周面にフッ素樹脂等で形成された表面層等を有していてもよく、また、弾性層の外周面にフッ素樹脂等の微粒子が付着していてもよい。
【0069】
さらに、無端ベルト1は、無端ベルト基体2と弾性層3とを備えてなるが、この発明において、無端ベルトは、所望により、無端ベルト基体の内周面であって無端ベルト基体における軸線方向の少なくとも一端部に、弾性材料で形成された紐状又は帯状の細長いガイド部材が設けられてもよい。このガイド部材は無端ベルトの走行中の横ぶれ防止用のガイドとして機能する。ガイド部材の材料としては、適度なゴム弾性と耐摩耗性とを有する弾性材料、例えば、ウレタン系エラストマー、シリコーン系エラストマー、フッ素系樹脂エラストマー、スチレン系エラストマー等が挙げられる。これらの中でも、耐摩耗性に優れる、JIS K 6253−1997によるA硬度が30以上95以下のウレタン系エラストマーが好適である。ガイド部材は、好ましくは、無端ベルト基体における軸線方向の両端部に無端ベルト基体の内周面を一巡するように設けられる。
【0070】
次に、この発明に係る無端ベルト1を備えた画像形成装置(以下、この発明に係る画像形成装置と称することがある。)の一例を、図2を参照して、説明する。この画像形成装置10は、中間転写方式のタンデム型カラー画像形成装置である。中間転写方式のタンデム型カラー画像形成装置10は従来公知の画像形成装置と基本的に同様に構成されているが、この発明に係る無端ベルト1が中間転写ベルト1として装着されている。
【0071】
図2に示されるように、無端ベルト1は、中間転写ベルト1として、二本の支持ローラ42、テンションローラ43及び対向ローラ44に張架されている。そして、対向ローラ44の設置位置近傍に、対向ローラ44と二次転写ローラ45と電極ローラ46とを備えて成る二次転写部40が配置されている。
【0072】
また、図2に示されるように、画像形成装置10は、中間転写ベルト1上に四種の現像ユニットB、C、M及びYが直列に配置されている。現像ユニットBは、感光体等の像担持体11Bと帯電ローラ12Bと露光手段13Bと現像ローラ23B及び筐体21Bを備えた現像手段20Bと転写ローラ14Bとクリーニングブレード15Bとを備えている。現像ユニットBには黒色現像剤が収納されている。なお、現像ユニットC、M及びYは、現像ユニットBと同様に構成され、シアン現像剤22C、マゼンタ現像剤22M及び黄色現像剤22Yが収納されている。
【0073】
図2に示されるように、画像形成装置10における記録体16の搬送方向下流には、定着ベルトとしての無端ベルト35を備えた定着手段30が配置されている。この定着装置30は、開口を有する筐体34内に、定着ローラ31と支持ローラ33と定着ベルト35と加圧ローラ32とを備えて成る圧力熱定着装置である。なお、定着手段30は、熱ローラ定着装置、加熱定着装置、圧力定着装置等が採用されてもよい。
【0074】
画像形成装置10は、次にようにして画像を形成する。まず、現像ユニットBによって、像担持体11Bの表面に静電潜像が黒色現像剤22Bで現像剤像として可視化され、この現像剤像が中間転写ベルト1上に転写される(一次転写)。続いて、現像ユニットC、M及びYによって中間転写ベルト1に現像剤像が転写され、カラー像が形成される。カラー像は中間転写ベルト1の回転によって二次転写部40に至り、二次転写部40に搬送された記録体16上に転写される(二次転写)。次いで、カラー像が顕像化された記録体16は定着手段30に搬送され、カラー像が永久画像として定着される。このようにして記録体16にカラー画像が形成される。なお、画像形成装置10を用いてカラー画像を形成する場合について説明したが、モノクロ画像を形成する場合には中間転写ベルト1に一次転写された現像剤像を直ちに記録体16に二次転写して定着手段30に搬送すればよい。
【0075】
この発明に係る無端ベルト1を備えた画像形成装置(以下、この発明に係る画像形成装置と称することがある。)の別の一例を、図3を参照して、説明する。この画像形成装置50は、中間転写方式のマルチパス型カラー画像形成装置である。この中間転写方式のマルチパス型カラー画像形成装置50は従来公知の画像形成装置と基本的に同様に構成されているが、この発明に係る無端ベルト1が中間転写ベルト1として装着されている。
【0076】
図3に示されるように、無端ベルト1は、中間転写ベルト1として、二本の支持ローラ42、テンションローラ43及び対向ローラ44に張架されている。そして、対向ローラ44の設置位置近傍に、対向ローラ44と二次転写ローラ45と電極ローラ46とを備えて成る二次転写部40が配置されている。
【0077】
また、図3に示されるように、画像形成装置50は、四種の現像ユニットB、C、M及びYを内蔵した現像手段20を備えている。現像手段20に内蔵された現像ユニットB、C、M及びYは帯電手段、露光手段等を内蔵し、それぞれ、黒色現像剤、シアン現像剤、マゼンタ現像剤及び黄色現像剤を収納している。なお、現像手段20は、現像手段20の外部であって像担持体11の近傍に帯電手段、露光手段等が配置されていてもよい。
【0078】
図3に示されるように、画像形成装置50における記録体16の搬送方向下流には定着手段30が配置されている。定着装置30は画像形成装置10の定着装置30と同様に構成されている。
【0079】
画像形成装置50は、次にようにして画像を形成する。まず、現像手段20の現像ユニットBによって、像担持体11の表面に静電潜像が黒色現像剤22Bで現像剤像として可視化され、中間転写ベルト1上に転写される(一次転写)。続いて、像担持体11及び中間転写ベルト1が1回転して、現像ユニットC、M及びYによって中間転写ベルト1に各現像剤像が重畳転写され、カラー像が形成される。カラー像は中間転写ベルト1の回転によって二次転写部40に至り、二次転写部40に搬送された記録体16上に転写される(二次転写)。次いで、カラー像が顕像化された記録体16は定着手段30に搬送され、カラー像が永久画像として定着される。このようにして、記録体16にカラー画像が形成される。なお、画像形成装置50を用いてカラー画像を形成する場合について説明したが、モノクロ画像を形成する場合には中間転写ベルト1に一次転写された現像剤像を直ちに記録体16に二次転写して定着手段30に搬送すればよい。
【0080】
これらの画像形成装置10及び50によれば、中間転写ベルト1として無端ベルト1を使用しているから、無端ベルト1の周辺の環境が変化しても、無端ベルト1は抵抗率の変動が小さく、当接する部材を汚染することがほとんどない。したがって、これらの画像形成装置10及び50は、画像の高精細化及び/又は画像形成速度の高速化が図られていても、高品質の画像を形成することができる。
【0081】
この発明に係る画像形成装置は、前記した一例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、画像形成装置10及び50は、電子写真方式の画像形成装置とされているが、この発明において、画像形成装置は、電子写真方式には限定されず、例えば、静電方式の画像形成装置であってもよい。また、画像形成装置10及び50は、中間転写方式の画像形成装置とされているが、この発明において、画像形成装置は、直接転写方式の画像形成装置とされてもよく、例えば、各色の現像ユニットを備えた複数の像担持体を転写搬送ベルト上に直列に配置したタンデム型画像形成装置とされてもよく、単一の現像ユニットを備えたモノクロ型画像形成装置とされてもよい。この発明に係る画像形成装置は、例えば、複写機、ファクシミリ、プリンター等の画像形成装置として好適に用いられる。
【実施例】
【0082】
(実施例1)
まず、無端ベルト基体2を作製した。すなわち、反応容器中に、N−メチル−2−ピロリドンと、トリメリット酸無水物と、これと当量のジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートと、反応原料(トリメリット酸無水及びジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート)の合計モル数に対して2mol%のフッ化カリウム(触媒)とを加え、撹拌しながら30分間かけて室温から150℃に昇温後、同温度を5時間保持して、反応物濃度(実質的全閉環のポリアミドイミド樹脂)20質量%の芳香族ポリアミドイミド溶液を得た。この溶液に、N−メチル−2−ピロリドンをさらに加え、反応物濃度15質量%のポリアミドイミド溶液を調製した。得られたポリアミドイミド溶液に、酸化処理カーボンブラック(商品名「プリンテックス150T」、Degussa社製、pH4.0、揮発分10.0%)をポリアミドイミド樹脂と酸化処理カーボンブラックとの合計100質量%に対して18質量%の割合で加え、ポットミルで24時間混合分散して、樹脂組成物を調製した。成形に使用する金型は、内径226mm、外径246mm、長さ400mmの大きさを有し、金型内面はポリッシングにより鏡面研磨されている。次いで、金型両端の開口部に、リング状の蓋(内径170mm、外径250mm)をそれぞれ嵌合して、金型を閉塞し、樹脂組成物を1,000rpmの速度で回転する金型内周に190g注入した。次いで、金型を同速度で30分間回転させて金型内周面に樹脂組成物の層を均一に展開した。次いで、金型を同速度で回転させつつ、熱風乾燥機により金型周囲の温度を80℃に保ち、この状態を30分間保持し、フィルム状成形体を成形した。その後、金型の回転を停止し、フィルム状成形体を金型ごと遠心成形機から取り出し、250℃に調節された過熱水蒸気炉で2時間過熱水蒸気処理した後、室温で放冷して、無端成形基体とした。金型ごと無端成形基体を冷却して、金型と無端成形基体との熱膨張率の差により無端成形基体を剥離して、無端成形基体を金型から脱型した。脱型した無端成形基体の両端部をそれぞれ切断し、周長約226mm、幅240mm、厚さ100μmの大きさに切り出し、無端ベルト基体2を作製した。
【0083】
固形分30質量%のウレタン溶液(商品名「ニッポラン5120」、日本ポリウレタン工業株式会社製)を用意した。このウレタン溶液に、イオン導電剤として有機ホウ素錯体塩「ボロビス(1,1−ジフェニル−1−オキソ−アセチル)カリウム塩」(商品名「LR−147」、日本カーリット株式会社製)を前記ウレタン溶液100質量部に対して1質量部(ウレタン100質量部に対して3.3質量部)、及び、硬化剤(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン株式会社製)を前記ウレタン溶液100質量部に対して10質量部添加し、室温で10分間攪拌して、ゴム組成物を調整した。
【0084】
次いで、ドクターブレードコート法で、このゴム組成物を無端ベルト基体2の外周面に均一に塗布した。ゴム組成物の塗布量は弾性層3の厚さが(非乾燥状態で)600μmとなる量とした。塗布されたゴム組成物を150℃で1時間加熱して、無端ベルト基体2の外周面に厚さ200μmの弾性層3を形成した。このようにして実施例1の無端ベルトを製造した。
【0085】
(実施例2)
前記有機ホウ素錯体塩を、イオン性液体「1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホニルイミド」(日本合成化学工業株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の無端ベルトを製造した。
(実施例3)
前記有機ホウ素錯体塩を、イオン性液体「1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホニルイミド(日本合成化学工業株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の無端ベルトを製造した。
【0086】
(実施例4)
前記有機ホウ素錯体塩を、イオン性液体「N−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミド」(製品名「CIL−312」、日本カーリット株式会社製)に変更し、含有量を前記ウレタン溶液100質量部に対して0.16質量部(ウレタン100質量部に対して0.53質量部)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例4の無端ベルトを製造した。
(実施例5)
前記有機ホウ素錯体塩を、イオン性液体「1−ブチル−3−メチルピリジン−1−イウムトリフルオロメタンスルホナート」(製品名「CIL−313」、日本カーリット株式会社製)に変更し、含有量を前記ウレタン溶液100質量部に対して0.16質量部(ウレタン100質量部に対して0.53質量部)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例5の無端ベルトを製造した。
【0087】
(実施例6)
前記有機ホウ素錯体塩の含有量を、前記ウレタン溶液100質量部に対して0.7質量部(ウレタン100質量部に対して2.33質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例6の無端ベルトを製造した。
(実施例7)
前記有機ホウ素錯体塩の含有量を、前記ウレタン溶液100質量部に対して5.6質量部(ウレタン100質量部に対して18.6質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例7の無端ベルトを製造した。
【0088】
(実施例8)
前記無端ベルト基体の酸化処理カーボンブラック(商品名「プリンテックス150T」)を、(商品名「スペシャルブラック4」、デグサ株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例8の無端ベルトを製造した。
【0089】
(実施例9)
前記有機ホウ素錯体塩を、アルカリ金属の過塩素酸塩「過塩素酸リチウム」(商品名「PEL100」、日本カーリット株式会社製)に変更し、含有量をウレタン溶液100質量部に対して9質量部(ウレタン100質量部に対して30質量部)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例9の無端ベルトを製造した。
【0090】
(比較例1)
前記有機ホウ素錯体塩を、特許文献1に記載の四級アンモニウム塩であるテトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート(TBAHS)(和光純薬工業株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の無端ベルトを製造した。
(比較例2)
前記有機ホウ素錯体塩を、第4級アンモニウム塩「ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド」に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の無端ベルトを製造した。
【0091】
(比較例3)
前記有機ホウ素錯体塩を、第4級アンモニウム塩「テトラメチルアンモニウムクロライド」(富士純薬株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の無端ベルトを製造した。
(比較例4)
前記有機ホウ素錯体塩を、第4級アンモニウム塩「テトラエチルアンモニウムブロマイド」(富士純薬株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の無端ベルトを製造した。
【0092】
このようにして製造した各無端ベルトの表面抵抗率の常用対数値及び体積抵抗率の常用対数値を、温度10℃、相対湿度20%の低温低湿条件(第1表及び第2表において「LL」と表記する。)、温度23℃、相対湿度50%の通常条件(第1表及び第2表において「NN」と表記する。)、及び、温度28℃、相対湿度80%の高温高湿条件(第1表及び第2表において「HH」と表記する。)で、前記方法に準拠して求めた。また、各無端ベルトにおいて、前記低温低湿環境における体積抵抗率の常用対数値と前記高温高湿環境における体積抵抗率の常用対数値との体積抵抗率差、並びに、前記低温低湿環境における表面抵抗率の常用対数値と、前記高温高湿環境における表面抵抗率の常用対数値との表面抵抗率差を算出した。さらに、各無端ベルトの無端ベルト基体及び弾性層の表面抵抗率の常用対数値及び体積抵抗率の常用対数値を前記低温低湿条件、前記通常条件及び前記高温高湿条件でそれぞれ前記方法に準拠して求めた。これらの測定結果を第1表及び第2表に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
次いで、各無端ベルトの弾性層3を縦50mm×横50mmに切り出して試験片を準備した。この試験片を40℃に加熱した蒸留水中に8時間浸漬した後、蒸留水中から取り出した。蒸留水を冷却後、液体クロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、展開溶媒:蒸留水、流速:1.0ml/minの測定条件)によって、弾性層3から蒸留水に滲出したイオン導電剤量又はカーボンブラック量を測定した。この操作を10検体の試験片で行い、測定されたイオン導電剤量又はカーボンブラック量の算術平均値を、各無端ベルトの溶出量とした。この結果を第3表に示す。
【0096】
【表3】

【0097】
<実機テスト>
各無端ベルトを中間転写方式のタンデム型カラー画像形成装置(商品名「DocuPrint C830」、富士ゼロックス株式会社製)の中間転写ベルトとして装着して、各環境下で画像を印刷した。その結果、実施例1〜10の無端ベルトを装着して印刷した記録体表面にはイオン導電剤による汚染が確認されなかったが、比較例1〜4の無端ベルトを装着して印刷した記録体表面にはイオン導電剤による汚染が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、この発明に係る無端ベルトの一実施例である無端ベルトを示す概略側面図である。
【図2】図2は、この発明に係る画像形成装置の一例であるタンデム型カラー画像形成装置の概略図である。
【図3】図3は、この発明に係る画像形成装置の一例であるマルチパス型カラー画像形成装置の概略図である。
【符号の説明】
【0099】
1 無端ベルト(中間転写ベルト)
2 無端ベルト基体
3 弾性層
10、50 画像形成装置
11、11B、11C、11M、11Y 像担持体
12B、12C、12M、12Y 帯電手段
13B、13C、13M、13Y 露光手段
14、14B、14C、14M、14Y 転写手段
15B、15C、15M、15Y クリーニング手段
16 記録体
20、20B、20C、20M、20Y 現像手段
21B、21C、21M、21Y、34 筐体
22B、22C、22M、22Y 現像剤
23B、23C、23M、23Y 現像剤担持体
30 定着装置
31 定着ローラ
32 加圧ローラ
33 定着ベルト支持ローラ
35 無端ベルト(定着ベルト)
40 二次転写部
42 支持ローラ
43 テンションローラ
44 対向ローラ
45 二次転写ローラ
46 電極ローラ
B、C、M、Y 現像ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端ベルト基体と、無端ベルト基体上に形成された弾性層とを備えてなり、
前記弾性層は、有機ホウ素錯体塩、イオン性液体及びアルカリ金属の過塩素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種のイオン導電剤を含有していることを特徴とする無端ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載の無端ベルトを備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−223134(P2009−223134A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69190(P2008−69190)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】