説明

無端帯状体の製造方法

【課題】大径の無端帯状体の製造を容易にする無端帯状体の製造方法の提供。
【解決手段】塗布工程において、円筒状芯体38を軸周りに回転させる際に、変形していない状態の円筒状芯体38の外周面の軸方向の各端部に接する位置に配置されたロール36を備え、円筒状芯体38をロール36により支持する回転装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端帯状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置において、像保持体表面に形成された可視像を媒体に転写する前に一時的に転写される中間転写体や、媒体を表面に保持して搬送する媒体搬送部材として、樹脂製の無端帯状体(無端ベルト)が広く採用されている。
【0003】
無端帯状体を製造する製造方法として、特許文献1には、シリンダーの内面に、有機高分子材料と導電性微粉末が混合された原材料が溶かされた溶媒を塗布して、加熱器内で加熱して、強度や寸法安定性、耐熱性等が優れたポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂に導電性粒子が分散されたシームレスの無端ベルトを製造する技術が記載されている。
特許文献2には、非対称性のビフェニルテトラカルボン酸成分を含むカーボンブラック分散ポリイミド前駆体を、円筒状芯体に塗布して、乾燥、加熱して半導電性ポリイミドベルトを製造する技術が記載されている。
【0004】
芯体には一般的に金属製の剛性円筒体が用いられるが、特許文献3、4、5等では、図11のように芯体として柔軟性の無端ベルト基体10を2本乃至3本のロール12に張架して用いる方法が開示されている。
【0005】
上記柔軟性の無端ベルト基体は、金属薄板または樹脂製の薄膜を丸めて、端部を溶接や接着等の方法で接合することにより作製される。特許文献3では、ベルト基体の継ぎ目と塗布の開始位置とを一致させて、無端帯状体に生じる筋を一本にする方法を開示している。金属薄板を溶接して作製したベルト基体の継ぎ目を平滑にするには、継ぎ目の部分をよく研磨して、板材と同等に仕上げる方法がある。
【0006】
特許文献5では、ベルト基体としてニッケルスリーブを使用する例が開示されており、これは継ぎ目がないのでシームレス体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−77252号公報
【特許文献2】特開2008−76518号公報
【特許文献3】特開2006−255616号公報
【特許文献4】特開2006−256098号公報
【特許文献5】特開2006−305946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、大径の無端帯状体の製造を容易にする無端帯状体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、請求項1に係る発明は、
軸が水平方向を向いた状態で自重により扁平円筒状に変形しうる円筒状芯体を、回転装置により前記円筒状芯体の軸が水平方向を向いた状態で軸周りに回転させながら前記円筒状芯体の外周面に皮膜形成樹脂溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
回転している前記円筒状芯体の外周面に形成された前記塗膜を乾燥する乾燥工程と、を含み、
前記回転装置が、変形していない状態の前記円筒状芯体の外周面の軸方向の各端部に接する位置に配置された複数のロールを備えるものであり、前記円筒状芯体は前記ロールにより支持される、無端帯状体の製造方法である。
【0010】
請求項2に係る発明は、
前記回転装置が、前記円筒状芯体の内周面のうち鉛直方向において前記円筒状芯体の軸位置よりも上方にある部分に接する支持ロールを備える請求項1に記載の無端帯状体の製造方法である。
【0011】
請求項3に係る発明は、
複数の前記ロールが、前記円筒状芯体を軸方向に見たときに、変形していない状態の前記円筒状芯体の軸を通る水平仮想線と前記円筒状芯体の外周とが交差する位置に配置される一対の挟持ロールを含む請求項1又は請求項2に記載の無端帯状体の製造方法である。
【0012】
請求項4に係る発明は、
前記円筒状芯体が、四角形の金属性板材を丸めて両端部を溶接接合して環状体とし、前記環状体を熱処理した後に前記環状体の外周面を研磨加工したものである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の無端帯状体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、大径の無端帯状体が容易に製造される。
止される。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、大径の無端帯状体が容易に製造される。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、大径の無端帯状体が容易に製造される。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、円筒状芯体の継ぎ目の転写で生じる欠陥部の発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】環状体の溶接接合部の拡大断面図である。
【図2】軸が水平方向を向いた状態で自重により扁平円筒状に変形した状態の円筒状芯体を示す側面図である。
【図3】本実施形態で用いられる円筒状芯体の回転装置の一例を示す斜視図である。
【図4】回転装置の側面図(円筒状芯体を軸方向に見た図)である。
【図5】段差部を設けたロールを用いた場合におけるロールと円筒状芯体との接触部の拡大図である。
【図6】規制部材と円筒状芯体との位置関係を説明するための図である。
【図7】本実施形態で用いられる円筒状芯体の回転装置の他の一例を示す側面図である。
【図8】らせん塗布方法の説明図である。
【図9】円筒状芯体の上部に遮蔽部材を配置した状態を示す図である。
【図10】実施例3で用いられた回転装置を示す側面図である。
【図11】無端ベルト基体を2本のロールに張架した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の無端帯状体の製造方法の実施形態について詳細に説明する。なお、図面では理解の容易のために、説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。また、同様の機能を有する部材には、全図面を通じて同じ符合を付与し、その説明を省略することがある。
本実施形態では、無端帯状体、すなわち無端ベルトの一例としての中間転写ベルトの製造方法を例に説明するが、本実施形態に係る製造方法を用紙搬送ベルト等のその他の無端帯状体の製造に適用してもよい。
【0019】
−塗布工程−
本実施形態の無端帯状体の製造方法は、軸が水平方向を向いた状態で自重により扁平円筒状に変形しうる円筒状芯体を、回転装置により前記円筒状芯体の軸が水平方向を向いた状態で軸周りに回転させながら前記円筒状芯体の外周面に皮膜形成樹脂溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程を含む。
【0020】
無端ベルトを構成する皮膜形成樹脂は、強度や寸法安定性、耐熱性等の面でポリイミド樹脂(PI)やポリアミドイミド樹脂(PAI)が使用されているが、これらに限定されるものではない。PIまたはPAIとしては、種々の公知のものを用いることができ、PIの場合はその前駆体を塗布することもある。
皮膜形成樹脂溶液であるPI前駆体溶液は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分を、溶剤中で反応させることによって得ることができる。各成分の種類は特に制限されないが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン成分とを反応させて得られるものが、皮膜強度の点から好ましい。
【0021】
上記芳香族テトラカルボン酸の代表例としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、あるいはこれらのテトラカルボン酸エステル、又は上記各テトラカルボン酸類の混合物等が挙げられる。
一方、上記芳香族ジアミン成分としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等が挙げられる。
一方、PAIは、酸無水物、例えばトリメリット酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物等と、上記ジアミンを組み合わせて、当モル量で重縮合反応することで得られる。PAIはアミド基を有するため、イミド化反応が進んでも溶剤に溶解し易いので、100%イミド化したものが好ましい。
【0022】
皮膜形成樹脂溶液に含まれる溶剤としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド等の非プロトン系極性溶剤が用いられる。溶液の濃度・粘度等に限定はないが、本実施形態において望ましい溶液の固形分濃度は10質量%以上40質量%以下、粘度は1Pa・s以上100Pa・s以下である。
【0023】
皮膜形成樹脂溶液には必要に応じて導電性粒子を添加してもよい。樹脂溶液に分散する導電性粒子としては、例えば、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素系物質、銅、銀、アルミニウム等の金属又は合金、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン等の導電性金属酸化物、チタン酸カリウム等のウィスカー、等が挙げられる。中でも、液中の分散安定性、半導電性の発現性、価格等の観点で、カーボンブラックは特に好ましい。
【0024】
導電性粒子の分散方法としては、ボールミル、サンドミル(ビーズミル)、ジェットミル(対抗衝突型分散機)等、公知の方法をとることができる。分散助剤として、界面活性剤やレベリング剤等を添加してもよい。導電性粒子の分散濃度は、樹脂成分100部(質量部、以下同様)に対して、10部以上40部以下、特には15部以上35部以下が好ましい。
【0025】
本実施形態で用いられる円筒状芯体の材質は、加工性や耐久性の面でステンレスが特に好ましい。円筒状芯体の幅(軸方向の長さ)は、目的とする無端帯状体以上の幅が必要であるが、端部に生じる無効領域に対する余裕領域を確保するため、目的とする無端帯状体の幅より、10%乃至40%程度長いことが望ましい。円筒状芯体の長さ(周長)は、目的とする無端帯状体の長さと同等か、わずかに大きくする。
円筒状芯体の厚さは、0.1mm乃至2mm程度が好適である。これよりも薄い場合は溶接が困難であり、厚い場合は円筒形に丸めるのが難しくなる。円筒状芯体を作製するには、四角形の金属製板材を予め定められた幅と長さに切断した後、丸めて両端部同士を溶接接合する。これにより、金属製の環状体が得られる。
溶接方法には、ガス溶接、アーク溶接、プラズマ溶接、電気抵抗溶接、TIG溶接:Tungsten Inert Gas溶接、MIG溶接:Metal Inert Gas溶接、MAG溶接:Metal Active Gas溶接等、種々あるが、金属の種類により、最適な方法が選択される。
なお、溶接接合部は元の金属製板材よりも盛り上がる。図1は、環状体の溶接接合部の拡大断面図を示す。図1に示すように、環状体20の内外面に凸部22が生じる。この凸部22は研磨して平坦にすればよいが、溶接された箇所は、元の金属製板材と熱履歴が異なるために硬度が違い、研磨しても段差が残りやすい。
【0026】
ここで、JIS規格のSUS304に代表されるオーステナイト系ステンレスや、SUS430に代表されるフェライト系ステンレスの場合、溶接接合部は熱により柔らかくなる。そこで、溶接後の環状体全体を、固溶化温度である1050℃以上1100℃以下に加熱し、全体を軟質化して硬度を均質にしてから環状体の外周面を研磨することにより、全体を平滑な表面に仕上げることで円筒状芯体としてもよい。但し、円筒状芯体全体が軟質化して強度が弱くなるため、板厚が薄い場合には研磨時に変形しやすいので適用しにくく、厚さは1mm乃至2mm程度が好適である。
次に、SUS410に代表されるマルテンサイト系ステンレスの場合、溶接接合部はやはり柔らかくなるが、熱処理後に焼入れができる。そこで、溶接後の環状体全体を、固溶化温度である1000℃以上1100℃以下に加熱した後、焼入れを行って全体を硬質化してから研磨をすればよい。
また、SUS631に代表される析出硬化系ステンレスの場合、溶接接合部は硬くなる。そこで、溶接後の環状体全体を、硬化温度である480℃以上550℃以下に加熱し、全体を硬質化してから研磨することにより、全体を平滑な表面に仕上げてもよい。
上記研磨の方法として、凸部は砥石研磨で除去するのが好ましい。この方法では研磨箇所は粗い面となるので、その後にバフ研磨やバーチカル研磨で仕上げるのが好ましい。
【0027】
円筒状芯体の外周面には、離型層を形成してもよい。この離型層は、円筒状芯体の外周面全面にわたって均一に離型剤を塗布することで形成される。これによって、円筒状芯体の外周面の全領域が離型性を有する状態となる。この離型剤としては、シリコーン系やフッ素系のオイルを変性して耐熱性を持たせたものが有効である。また、シリコーン樹脂の粒子を水に分散させた水系離型剤も用いられる。この離型層の形成は、円筒状芯体の外周面に離型剤を塗布し、溶剤を乾燥させてそのまま、或いは焼き付けて行われる。
【0028】
オーステナイト系ステンレスとフェライト系ステンレスは肉厚が厚いため、また、マルテンサイト系ステンレスと析出硬化系ステンレスは薄くても硬いため、円筒状芯体は柔軟性が乏しくなる。そのため、図11に示すようにして円筒状芯体をロール12に張架して張力をかけると、円筒状芯体にはロールの外寸に沿って変形が残り、円滑に回転させることができないことがある。
【0029】
また、円筒状芯体を、該円筒状芯体の軸方向の各端部のそれぞれに一対(2個)ずつ配置された円筒状のロールに軸が水平方向を向いた状態で配置して、円筒状芯体を該ロールで支持した場合、円筒状芯体を構成する材質や肉厚によっては、自重を支えきれずに円筒状芯体が変形することがある。図2は、軸が水平方向を向いた状態で自重により扁平円筒状に変形した状態の円筒状芯体を示す側面図である。図2において、24は変形していない状態の円筒状芯体を示し、26は自重により扁平円筒状に変形した状態の円筒状芯体を示す。
図2に示すように、円筒状芯体を片側2個のロール28に載せると、円筒状芯体は自重により扁平円筒状に変形する場合がある。ロール28に駆動力を与えることで変形した状態の円筒状芯体を軸周りに回転させると、皮膜形成樹脂溶液を安定して塗布できないばかりか、円筒状芯体が振動してロール28から落下するおそれがある。
【0030】
円筒状芯体の変形を防ぐためには、円筒状芯体を構成する材料を目的に応じて選択したり、円筒状芯体の肉厚を厚くする必要がある。しかし、適切な材料を選択することにより円筒状芯体の変形を防ごうとすると、円筒状芯体を構成する材料の選択の自由度が狭められる。また、肉厚を厚くすることで円筒状芯体の変形を防ごうとすると、円筒状芯体の重量が増加し、取り扱いに困難を来す場合がある。
一方、軸が水平方向を向いた状態で自重により扁平円筒状に変形しうる円筒状芯体は、構成材料の制限が少なく、さらには、重量が軽くなる利点を有する。
【0031】
そこで、本実施形態においては、軸が水平方向を向いた状態で自重により扁平円筒状に変形しうる円筒状芯体を軸周りに円滑に回転させるために、変形していない状態の円筒状芯体の外周面の軸方向の各端部に接する位置に配置された複数のロールを備え、前記円筒状芯体は前記ロールにより支持される回転装置を用いることとした。
円筒状芯体を支持するロールを、変形していない状態の円筒状芯体の外周面に沿って配置することで、円筒状芯体の自重による変形がロールにより規制される。その結果として自重により扁平円筒状に変形しうる円筒状芯体が、変形することなく軸周りに回転する。
【0032】
図3は、本実施形態で用いられる円筒状芯体の回転装置の一例を示す斜視図である。
回転装置100は、矩形の底板部30と、底板部30の対向する両端部に立設された一対の側板32及び側板34と、側板32及び側板34の対向する面側に回転可能に取り付けられたロール36と、を備える。円筒状芯体38は、円筒状芯体38の軸方向の各端部において、ロール36により軸が水平方向を向いた状態で下方から支持される。
図4は、回転装置100の側面図(円筒状芯体38を軸方向に見た図)である。図4から明らかなように、ロール36は、変形していない状態の円筒状芯体38の外周面に接する位置に配置される。
【0033】
ロール36は、不図示の外部動力によって回転駆動されるもので、樹脂やゴムからなるコロ状の回転体が用いられる。図3においては、ロール36は円筒状芯体38の各端部に2個ずつ配置されるが、円筒状芯体38の各端部に配置されるロール36の個数Nは、円筒状芯体38の一方の端部あたり、円筒状芯体38の直径L(mm)に対して、N=L/100(小数点以下切捨て)の式で示される値以上あるのがよい。これより少ないと、円筒状芯体38を円筒状に保てない虞がある。ロール36の個数は多いほどよいが、配置するのがむずかしくなるので、L/100(小数点以下切捨て)の2倍程度が限度である。ロール36は円筒状芯体38の端部のみに接し、塗膜を形成する部分に当たってはならない。ロール36と円筒状芯体38とが接する部分の幅は、円筒状芯体38の端部から軸方向に5mm以上30mm以下程度とされる。
【0034】
回転装置100は、円筒状芯体38の内周面のうち鉛直方向において円筒状芯体38の軸位置よりも上方にある部分(図3では、円筒状芯体38の軸の直上)に接する支持ロール40をさらに備える。回転装置100に支持ロール40を設けることで、円筒状芯体38が内側から支えられるため、円筒状芯体38の自重による変形がさらに効果的に抑制される。
回転装置100が支持ロール40を備えると、円筒状芯体38の各端部に配置されるロール36の個数NはL/100(小数点以下切捨て)より少ない場合でも円筒状芯体38の自重による変形が効果的に抑制される。
【0035】
回転装置100は、円筒状芯体38の内周面に接し、円筒状芯体38を挟んでロール36と対向する位置に、対向ロール42をさらに備える。本実施形態では、対向ロール42は側板32に取り付けられており、側板34には固定されていない態様とされる。対向ロール42を設けることで、円筒状芯体38はロール36側に付勢される。円筒状芯体38がロール36方向に付勢されることで、ロール36と円筒状芯体38との間の摩擦力が大きくなる。そのため、ロール36を不図示の外部動力によって回転駆動させて円筒状芯体38に駆動力を与えて軸周りに回転させる場合に、ロール36と円筒状芯体38との間の摩擦力不足によるスリップが防止される。
【0036】
対向ロール42は皮膜形成樹脂溶液の塗布される円筒状芯体38の外周面に接することはないため、図3に示すように円筒状芯体38の軸方向長さにわたって一本のロールにより構成されてもよいし、ロール36と同程度の軸方向の長さのロールで構成されていてもよい。
【0037】
回転装置100においては、全てのロール36と対向する位置に対向ロール42が設けられているが、対向ロール42を設けることで円筒状芯体38をロール36側に付勢できればよいので、全てのロール36と対向する位置に対向ロール42を設ける必要はない。例えば、円筒状芯体38の軸の直下であって内周面に接するように対向ロールを設ける構成であってもよい。
【0038】
円筒状芯体38を回転装置100に設置する場合、対向ロール42が設置の障害となるため、側板34を取り外した状態で円筒状芯体38を設置した後に側板34を底板部30に取り付ける。
【0039】
円筒状芯体38を回転装置100に設置した状態でロール36を回転駆動させると、円筒状芯体38の自重による円筒状芯体38とロール36との間の摩擦力により円筒状芯体38が軸周りに回転する。円筒状芯体38を回転駆動させる場合、スリップの発生を防止するために全てのロール36を回転駆動することが望ましい。
【0040】
円筒状芯体38を軸周りに回転させるに際し円筒状芯体38の蛇行を防止するために、ロールの軸方向の円筒状芯体と接する側に形成され、円筒状芯体と接しない側よりも小径の段差部を設けたロールを用いてもよい。
図5に、段差部を設けたロールを用いた場合におけるロールと円筒状芯体との接触部の拡大図を示す。図5では、ロール36に設けられた段差部44により円筒状芯体38が支持されている。段差部44により円筒状芯体38が支持されることで、円筒状芯体38が軸周りに回転する際の軸方向の移動が抑制され、その結果として円筒状芯体38の蛇行が抑制される。
【0041】
また、円筒状芯体38の蛇行を防止するために、円筒状芯体38の軸方向の端部に接触して軸方向の移動を規制する規制部材を回転装置に設けてもよい。
図6は、規制部材と円筒状芯体との位置関係を説明するための図である。規制部材と円筒状芯体との位置関係の把握を容易にするため、図6には、円筒状芯体38とロール36と規制部材である規制板46のみを示す。
【0042】
図7は、本実施形態で用いられる円筒状芯体の回転装置の他の一例を示す側面図である。
回転装置102は、円筒状芯体38を軸方向(図7の紙面と直交する方向)に見たときに、変形していない状態の円筒状芯体38の軸を通る水平仮想線Aと円筒状芯体38の外周とが交差する位置に配置される一対の挟持ロール48を備える。また、円筒状芯体38の下部に、円筒状芯体38の周方向に等間隔にロール36が設けられる。
円筒状芯体38は、一対の挟持ロール48により挟持されることで水平方向の変形を規制される。そのため、円筒状芯体38は自重により変形することなく軸周りに回転する。
なお、回転装置102は、円筒状芯体38の内周面のうち鉛直方向において円筒状芯体38の軸位置よりも上方にある部分に接する支持ロールをさらに備えてもよい。
【0043】
回転装置100及び回転装置102において、ロール36及び挟持ロール48は、全てが外部動力によって回転駆動される態様であってもよいし、一部が回転駆動される態様であってもよい。一部が回転駆動される態様である場合、回転駆動されないロールは、円筒状芯体38の回転に従って連れ回る。また、回転駆動される全てのロール36及び挟持ロール48の周速度は一致していることが望ましい。
【0044】
皮膜形成樹脂がPI樹脂の場合、PI前駆体の加熱反応時に気体発生が多くあり、発生する気体のために、PI樹脂皮膜には部分的に提灯状の膨れを生じやすく、特に皮膜の膜厚が50μmを越えるような厚い場合に顕著である。加熱反応時に発生する気体には、残留溶剤の揮発気体と、反応時に発生する水の蒸気がある。
膨れを防止するために、例えば、特開2002−160239号公報記載の技術のように、円筒状芯体の表面を算術平均粗さRaが0.2μm乃至2μm程度に粗面化することが好ましい。算術平均粗さRaが0.2μmより小さいと、揮発気体や水蒸気等の気体が抜けにくいことがあり、Raが2μmより大きくなると、作製された無端ベルトの表面に凹凸が形成されることがある。粗面化の方法には、ブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法があるが、粗面化を行う場合でも、円筒状芯体は板材部分と溶接部分で同じ硬さであるので、粗さも同じにできる利点がある。粗面化により、PI樹脂から生じる気体は、円筒状芯体表面とPI樹脂皮膜の間に形成されるわずかな隙間を通って外部に出ることができ、膨れを生じない。
【0045】
円筒状芯体表面に皮膜形成樹脂溶液を塗布する前に、円筒状芯体の両端部に、剥離補助部材の一例としてマスキング部材を巻いて貼り付けてもよい。マスキング部材としては、ポリエステルやポリプロピレン等の樹脂フィルム、もしくはクレープ紙や平坦紙等の紙材を基材とした粘着テープが使用可能である。粘着テープの幅は、10mm乃至25mm程度が好ましい。粘着テープの粘着材はアクリル系粘着材が好ましく、特に、剥がした時に粘着材が円筒状芯体表面に残らないものが好適である。
【0046】
本実施形態において、皮膜形成樹脂溶液の塗布方法は特に限定されるものではないが、例えば、らせん塗布方法を用いてもよい。
図8は、らせん塗布方法の説明図である。らせん塗布方法では、図8に示すように、円筒状芯体38の軸方向を水平にして軸周りに回転させながら、皮膜形成樹脂溶液50を流下装置52から吐出して芯体表面に付着させる。皮膜形成樹脂溶液50は、皮膜形成樹脂溶液50を貯留するタンク54からポンプ56により供給管58を通じて流下装置52に供給される。円筒状芯体38の表面に付着した皮膜形成樹脂溶液50は、へら60によって平滑化される。円筒状芯体38は、上述した本実施形態の回転装置により軸方向を水平にした状態で軸周りに矢印B方向に回転する。
本実施形態においては、流下装置52の一例としてモーノポンプが挙げられる。
流下装置52とへら60とは、円筒状芯体38の軸方向に移動可能に支持されており、円筒状芯体38を予め設定された回転速度で回転させた状態で、流下装置52とへら60とが円筒状芯体38の軸方向(矢印C方向)に移動しつつ皮膜形成樹脂溶液50を吐出することで、円筒状芯体38の表面に螺旋状に皮膜形成樹脂溶液50が塗布され、へら60で平滑化させて螺旋状の筋を消滅させ、継ぎ目のない塗膜62が形成される。膜厚は、できあがり後の状態で、50μm乃至150μmの範囲で、必要に応じて設定される。
【0047】
−乾燥工程−
本実施形態の無端帯状体の製造方法は、回転している円筒状芯体の外周面に形成された塗膜を乾燥する乾燥工程を含む。
具体的には、円筒状芯体を上述の回転装置により回転させたまま、加熱して乾燥させることが好ましい。加熱条件は、80℃以上200℃以下の温度で、10分以上60分以下が好ましく、温度が高いほど加熱時間、乾燥時間は短くてよい。加熱の際、熱風を当てることも有効である。加熱は段階的に温度を上昇させたり、一定速度で上昇させてもよい。加熱中は円筒状芯体を5rpm乃至60rpm程度でゆっくり回転させ、塗膜の垂れを防止する。
【0048】
乾燥後、マスキング部材を設けた場合は、マスキング部材を剥がす。マスキング部材を剥がすことにより、乾燥した塗膜の端部の少なくとも一部と円筒状芯体との間に間隙(隙間)が設けられる。そして、この間隙に気体を吹き込み、円筒状芯体から後述の加熱工程を経て得られた樹脂皮膜を抜き取ることで、容易かつ効率的に無端ベルトが作製される。また、抜き取る際に過剰な力がかからないため、不良品の発生が防がれる。
【0049】
−加熱工程−
本実施形態の無端帯状体の製造方法は、乾燥した塗膜を加熱固化することで樹脂皮膜を形成する加熱工程を含んでもよい。
加熱工程は、皮膜形成樹脂にPI前駆体等の加熱により硬化反応を生ずる材料を用いた際に必要となる。
加熱工程では、加熱炉に円筒状芯体を入れて加熱する。加熱温度は、好ましくは250℃以上450℃以下、より好ましくは300℃以上350℃以下程度であり、20分乃至60分間、PI前駆体の皮膜を加熱させることでイミド化反応が起こり、PI樹脂皮膜が形成される。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することが好ましい。
皮膜形成樹脂がPAIの場合には、溶剤を乾燥させるだけで皮膜が形成される。
【0050】
なお、このような高い温度では、回転装置に備えられるロールは耐熱性がないため、上記加熱工程では、円筒状芯体を回転装置からおろして加熱炉に入れるのがよい。通常は、円筒状芯体の軸方向を重力方向に沿った状態、すなわち、垂直に立てて加熱炉に入れる。加熱炉としては、内部の温度ムラをなるべくなくすために、垂直に立てられた円筒状芯体の上方から熱風を吹き出す構成を有するものが好ましい。また、円筒状芯体上部に熱風が直に吹き当たるのを防止するため、円筒状芯体上部に風を遮断する遮蔽部材を設置してもよい。遮蔽部材としては、円筒状芯体の一端を覆うことのできるものであればその形状に特に限定はない。
【0051】
加熱終了後、円筒状芯体を加熱炉から取り出し、形成された皮膜を円筒状芯体から抜き取ると、無端帯状体が得られる。その際、マスキング部材を剥がすことにより設けられた皮膜の端部の隙間に加圧空気を吹き込んで、皮膜と円筒状芯体との密着を解除すると抜き取りやすくなる。得られた皮膜の端部には、しわや、膜厚の不均一等の欠陥があるため、不要部分が切断され、無端帯状体となる。無端帯状体には、必要に応じて、穴あけ加工やリブ付け加工、等が施されることがある。
【0052】
本実施形態により得られる無端ベルトは、電子写真複写機やレーザープリンタ等の機能性ベルトとして、画像形成装置に使用される。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本実施形態をさらに詳細に説明するが、本実施形態は以下の実施例により限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
円筒状芯体の作製のため、幅500mm、長さ1149mm、肉厚0.3mmのSUS632(析出硬化系ステンレス)の板材を用意した。これを長手方向に丸めて、端部同士をTIG溶接により接合し、幅500mm、外径366mmの環状体を得た。溶接部には図1に示すように、平均した高さが約30μmの凸部22が生じていた。そこで環状体全体を480℃で1時間加熱処理して硬化させた後、環状体の表面全体を砥石研磨後、バフ研磨してRa0.05μmに仕上げて、円筒状芯体とした。研磨処理により、凸部22はなくなった。内側の凸部は無端帯状体の製造に支障を来さないのでそのままにした。円筒状芯体の重量は1370gであった。
円筒状芯体表面を、球形アルミナ粒子によるブラスト処理により、Ra0.4μmに粗面化した。その際、板部も溶接部も同じRaであった。
さらに円筒状芯体表面には、シリコーン系離型剤(商品名:セパコート(登録商標)、信越化学工業株式会社製)をスプレーで塗布して、300℃の加熱炉に1時間入れて、焼き付け処理を施した。このようにして、円筒状芯体38を準備した。
【0055】
回転装置として、図3、図4に示す構造のものを準備した。すなわち、円筒状芯体38の外周面に接するロール36として、シリコーンゴム製で、外径60mm、幅30mmのコロを用いた。これを円筒状芯体の片側に2個ずつ、120mm間隔で側板32及び側板34に配置した。側板32に配置した2個のロール36には回転力を与えることとした。円筒状芯体38はロール36の幅15mmに接して載せられる。
【0056】
支持ロール40としては、直径20mm、長さ600mmのSUS304からなる丸棒の表面に外径50mm、幅530mmのシリコーンゴムロール層を設けたものを用いた。支持ロール40は、円筒状芯体38の軸の直上に円筒状芯体38の内周面に接するように配置した。この支持ロール40は側板32に片持ち状態で支持され、自由に回転できる。ロール36と支持ロール40が取り付けられた状態で円筒状芯体38を回転装置に設置したところ、円筒状芯体38の上部のたわみは生じなかった。
【0057】
対向ロール42としては、支持ロール40と同じものを用いた。
対向ロール42を図3、図4に示すように、ロール36が円筒状芯体38の外周面に接する位置の内側にロール36と対向するように2本配置した。対向ロール42は側板32に片持ち状態で支持され、自由に回転できるほか、上下に20mm移動できる。円筒状芯体38を回転装置に設置する場合、対向ロール42を上に移動させて円筒状芯体38を嵌めた後、対向ロール42を下に移動させて、ロール36の1個あたり10Nの力で円筒状芯体38を押さえるようにした。この状態で側板32に配置した2個のロール36を回転させた場合、円筒状芯体38は円筒形状を保ったまま確実に回転することができた。
【0058】
別途、PI前駆体溶液(商品名:Uワニス、宇部興産株式会社製、固形分濃度18%、溶剤はN−メチルピロリドン)100部に、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4、デグザヒュルス社製)を固形分質量比で27%混合し、次いで対向衝突型分散機(株式会社ジーナス製、GeanusPY)により分散し、25℃での粘度が約42Pa・sの塗液を得た。
上記塗液を用い、図8に示すらせん塗布方法により、PI前駆体塗膜を形成した。
【0059】
塗布作業は、モーノポンプにより皮膜形成樹脂溶液50であるPI前駆体溶液を毎分60mlで吐出して行った。円筒状芯体38を20rpmで回転させ、PI前駆体溶液が円筒状芯体38に付着後、その表面にへら60を押し当てた。流下装置52とへら60とは一体的に円筒状芯体38の軸方向に50mm/分の速度で移動させ、らせん状に塗膜を形成した。
へら60として、厚さ0.2mmのステンレス板を幅20mm、長さ50mmに加工したものを用いた。塗布幅は、円筒状芯体38の一端から20mmの位置から、他端から20mmの位置までとした。
【0060】
塗布後、そのまま、5分間回転を続けることで、塗膜表面のらせん筋は消失した。これにより、膜厚が約500μmの塗膜が形成された。
【0061】
その後、円筒状芯体38を10rpmで回転させながら回転装置ごと150℃の乾燥炉に入れ、16分間、乾燥させた。次に、円筒状芯体38を回転装置から下ろして軸方向を垂直にした状態で、図9に示すように、上部に遮蔽部材64を設置した。遮蔽部材は、底面の外径366mm、高さ80mmで、中央に、直径50mmの通風口が形成されており、1mm厚のSUS304の板を加工して作製した。遮蔽部材64は加熱炉の熱気が円筒状芯体38の上部に直に当たって上部から温度が上昇するのを防止する。
【0062】
次いで遮蔽部材64を配置した円筒状芯体38を加熱炉に入れて、200℃で30分、300℃で30分加熱して、残留溶剤の乾燥と、PI前駆体のイミド化反応を行った。なお、加熱炉の内寸は幅1.8m、高さ2.4m、奥行き1.5mであり、上方から加熱空気が吹き降り、下方で吸い込まれる構成である。
【0063】
円筒状芯体38が室温に冷えた後、円筒状芯体38と樹脂皮膜との隙間に加圧空気を吹き込んで樹脂皮膜を抜き取り、無端皮膜を得た。さらに、無端皮膜の両側の不要部分を切断して、幅360mmの無端中間転写ベルトを得た。軸方向5箇所、周方向10箇所の計50箇所について、無端中間転写ベルトの膜厚をダイヤルゲージで測定すると、平均の膜厚は80μmであった。また、円筒状芯体38の溶接箇所に相当するベルトの位置をよく観察しても、凸部に起因するような筋や膜厚異常はなかった。
【0064】
(比較例1)
円筒状芯体を図11に示すように、2本のロール12に張架するに際し、円筒状芯体を変形させて形状が残らないようにするには、ロール12の直径が肉厚の1000倍以上であるのが好ましい。
そのため、実施例1で用いた円筒状芯体38の肉厚は0.3mmであるから、実施例1で用いた円筒状芯体38を図11に示すように2本のロール12に張架する場合、ロールの直径は少なくとも300mmである必要がある。しかし、実施例1の円筒状芯体38の場合、直径が366mmであるので、直径300mmのロールを2本配置することができない。
一方、直径200mmのロールを用いた場合、中心間距離を260mmにすれば、2本配置することができる。しかしながら、円筒状芯体38を無理につぶして2本のロール12に張架しようとすると、円筒状芯体38が元の形状に戻らなくなり、回転させることはできなかった。
【0065】
(実施例2)
実施例1において、溶接後の円筒状芯体を加熱処理しないで使用した。すなわち、溶接部には図1に示すように、平均した高さが約30μmの凸部22が生じたまま、研磨を行った。研磨後、凸部の高さは約10μmに低下した。他は実施例1と同様にして無端帯状体を製造した。
得られた無端帯状体の平均の膜厚は80μmであったが、円筒状芯体の溶接箇所に相当する位置を観察すると筋が見られ、その部分の膜厚は75μm乃至85μmに乱れていた。この無端帯状体は中間転写ベルトとして使用すると、筋に対応して、画像にも濃度むらの筋が生じるが、用紙搬送ベルトとしては使用可能である。
【0066】
(実施例3)
円筒状芯体の作製のため、幅1m、長さ2920mm、肉厚1.2mmのSUS301(オーステナイト系ステンレス)の板材を用意した。これを長手方向に丸めて、端部同士をTIG溶接により接合し、幅1m、外径930mmの円筒体を得た。溶接部には図1に示すように、平均した高さが約50μmの凸部22が生じていた。そこで円筒全体を1050℃で1時間加熱して固溶化処理した。その後、円筒体の表面全体を砥石研磨後、バフ研磨してRa0.05μmに仕上げて、円筒状芯体とした。これにより、凸部22はなくなった。なお、内側の凸部は無端帯状体の製造に支障を来さないのでそのままにした。芯体重量は27.9kgであった。円筒状芯体を図2のように2個のロールで支えた場合、円筒状芯体の上部は円筒形状に比較して約40mm下にたわんだ。
次いで、円筒状芯体表面は球形アルミナ粒子によるブラスト処理により、Ra0.4μmに粗面化した。その際、板部も溶接部も同じRaであった。
さらに芯体表面には、シリコーン系離型剤(商品名:セパコート(登録商標)、信越化学工業株式会社製)をスプレーで塗布して、300℃の加熱炉に1時間入れて、焼き付け処理を施した。
【0067】
実施例3では、回転装置として、図10に示す構造のものを使用した。すなわち、ロール36として、シリコーンゴム製で、外径60mm、幅30mmのコロを用いた。L=930として、N=L/100の式にあてはめると、ロール36は少なくとも片側9個必要である。そこで図10に示すようにロール36を9個、側板32及び側板34に配置した。ロール36の配置位置は、円筒状芯体の軸に対して等距離で等間隔とした。また、円筒状芯体38の軸を通る水平仮想線と円筒状芯体の外周とが交差する位置にロール36(挟持ロール48)を配置した。また、全ての回転体に回転力を与えるようにした。
この回転装置に円筒状芯体を載せて回転させたところ、5rpm乃至50rpmの間で、円筒状芯体は変形や回転むらを生じることなく、円滑に回転した。
【0068】
円筒状芯体を回転させて、実施例1と同じPI前駆体溶液を同様にして塗布し、実施例1と同様の工程を経て無端帯状体を得た。得られた無端帯状体は、膜厚80μmであり、円筒状芯体の溶接箇所に相当するベルトの位置をよく観察しても、凸部に起因するような筋や膜厚異常はなかった。
【0069】
(比較例2)
実施例3で用いた円筒状芯体は、肉厚が厚いので、一端を押し縮めて短径を600mm以下の楕円状にしようとしたところ、変形が残ってしまい、円筒状でなくなった。従って、図11に示すように、2本のロール12に張架することは不可能であった。
【0070】
(比較例3)
円筒状芯体の作製のため、幅500m、長さ2920mm、肉厚0.3mmのSUS632(実施例1と同じ)板材を用意した。これを長手方向に丸めて、端部同士をTIG溶接により接合し、幅500mm、外径930mmの円筒体を得た。溶接部には図1に示すように、平均した高さが約30μmの凸部22が生じていた。そこで円筒体全体を480℃で1時間加熱処理して硬化させた後、円筒体の表面全体を砥石研磨後バフ研磨してRa0.05μmに仕上げて、円筒状芯体とした。これにより、凸部22はなくなった。同様に裏面の凸部も研磨して平滑にした。
この円筒状芯体を図11に示すように、2本のロール12に張架した。この円筒状芯体は外径が大きいので、比較例1とは違って、直径300mmのロール12を中心間距離を989mmで2本配置することができる。表面を硬質クロムめっきした直径300mm、長さ600mmの鋼製ロールを2本配置して円筒状芯体を張架した。回転速度50rpmで円筒状芯体を回転させたところ、回転させるごとに円筒状芯体は軸方向の一方に少しずつ寄っていく現象が発生し、ロールの調整で直すことは困難であった。そのため、らせん塗布方法のように円筒状芯体の回転数が非常に多い塗布方法の場合、円筒状芯体はどうしても一方に寄ってしまい、回転継続ができない。これは、円筒状芯体の両端で周長がわずかに異なるためと考えられ、現実の加工精度では完全になくすのは不可能と考えられる。
【符号の説明】
【0071】
30 底板部
32、34 側板
36 ロール
38 円筒状芯体
40 支持ロール
42 対向ロール
46 規制板
48 挟持ロール
100、102 回転装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸が水平方向を向いた状態で自重により扁平円筒状に変形しうる円筒状芯体を、回転装置により前記円筒状芯体の軸が水平方向を向いた状態で軸周りに回転させながら前記円筒状芯体の外周面に皮膜形成樹脂溶液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
回転している前記円筒状芯体の外周面に形成された前記塗膜を乾燥する乾燥工程と、を含み、
前記回転装置が、変形していない状態の前記円筒状芯体の外周面の軸方向の各端部に接する位置に配置された複数のロールを備えるものであり、前記円筒状芯体は前記ロールにより支持される、無端帯状体の製造方法。
【請求項2】
前記回転装置が、前記円筒状芯体の内周面のうち鉛直方向において前記円筒状芯体の軸位置よりも上方にある部分に接する支持ロールを備える請求項1に記載の無端帯状体の製造方法。
【請求項3】
複数の前記ロールが、前記円筒状芯体を軸方向に見たときに、変形していない状態の前記円筒状芯体の軸を通る水平仮想線と前記円筒状芯体の外周とが交差する位置に配置される一対の挟持ロールを含む請求項1又は請求項2に記載の無端帯状体の製造方法。
【請求項4】
前記円筒状芯体が、四角形の金属性板材を丸めて両端部を溶接接合して環状体とし、前記環状体を熱処理した後に前記環状体の外周面を研磨加工したものである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の無端帯状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−73324(P2012−73324A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216682(P2010−216682)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【特許番号】特許第4720954号(P4720954)
【特許公報発行日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】