説明

無細胞マトリックス接着剤の製造方法

無細胞マトリックス接着剤及びその製造方法を開示する。具体的には、組織エンジニアリング及びヘルニア修復を含む医療用途のための強化無細胞マトリックスの調製に有用な無細胞マトリックス接着剤である。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
本特許出願は、同日出願の「無細胞マトリックス接着剤」と題する同一出願人による特許出願第ETH5404USNP号と関係する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、概して天然医用材料の分野に関し、より具体的には、バイオグルーのような生体適合性接着剤に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞外マトリックス(ECM)は、長きにわたり、結合組織の重要な構造構成成分として認識されてきた。ECMは、細胞表面に付着している糖タンパク質及びプロテオグリカンの線維状構造であり、固定物、移動のためのトラクション、及び位置の認識を細胞に提供するものとして概して説明される。現在、細胞によって巧妙に作られたECMがそれら自身と他の細胞を差異化すること、又はそれらの差異化された状態を維持することによって、それら自身及び他の細胞が応答する微小環境を作り出すことを裏付ける、かなりの証拠がある。ECMは、それに接着している細胞の組織化のための基材を提供する。組織ベースのECM医用材料及び機器は、心弁、ブタ小腸粘膜下層(submucusa)(SIS)、ヒト真皮、及びウシ心膜といった様々な医療用途に広く使用されてきた。皮膚、腱、心膜、及びSISのような同種異系又は異種の結合組織は、無細胞マトリックスと呼ばれる(脱細胞化マトリックスとも呼ばれる場合がある)タイプの細胞外マトリックスを提供するために、既知の従来の方法を用いて脱細胞化(又は失活)される。脱細胞化の間に、組織拒絶反応に至る細胞は取り除かれ、一方、原組織の重要な生化学成分及び構造構成成分は保持される。
【0004】
医療機器における特定用途のための無細胞マトリックスの使用は当該技術分野で既知である。一例は、軟組織の付着、補強、又は構築のための人工生体装置である。これらの装置は、天然生成細胞外マトリックスシートと、この天然生成細胞外マトリックスの部分に結合する合成メッシュシートとを有する。移植組織片を減圧下で乾燥して、SISのラミネート間及びメッシュと隣接SISラミネート間の物理的な架橋をもたらすことができる。
【0005】
また、強化された生物学的組織と共に無細胞マトリックスを使用することも知られている。この生物学的要素と非生物学的要素を結び付ける又は組み合わせるための方法としては、非生物学的要素周囲の組織、組織周囲の非生物学的要素、又は、非生物学的要素の編物、織物、編組、又は他の繊維製品の内部に埋め込まれた組織又はそれらのコーティングが挙げられる。それら2つの要素を一緒にしてもよく、あるいは別個に要素を層にして互いの周囲に緊密に巻き付けてもよい。帯輪の設計に類似した固定ストラップを含めることによって、層状の構築物に圧縮力を付加することもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
合成構築物を無細胞マトリックスと組み合わせるための従来のアプローチの既知の短所及び欠点としては、層間剥離、取り扱いにくいこと、及び煩雑な処理手法が挙げられる。したがって、無細胞マトリックスを合成骨格と組み合わせるための新規な方法の必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、新規な無細胞マトリックス接着剤及び無細胞マトリックス接着剤を作製する新規な方法を開示する。また、新規な強化無細胞マトリックスも開示する。
【0008】
この無細胞マトリックス接着剤は、水溶液中の無細胞マトリックスを有する。
【0009】
本発明の別の観点は、本発明の無細胞マトリックス接着剤を作製する新規な方法である。この方法は、無細胞マトリックスを提供する工程を含む。無細胞マトリックスを水溶液に添加して、混合物を提供する。無細胞マトリックス接着剤を効果的に形成するために、その混合物を十分な温度範囲で十分な時間にかけて培養する。
【0010】
本発明の更に別の観点は、新規な強化無細胞マトリックスである。このマトリックスは無細胞マトリックス層と、無細胞マトリックス接着剤層と、強化層とを有する。その無細胞マトリックス接着剤層は、本発明の新規な無細胞マトリックス接着剤である。
【0011】
本発明の更なる観点は、本発明の新規な無細胞マトリックスを使用してヘルニア修復を行う方法である。
【0012】
本発明のこれらの及び他の態様及び利点は、以下の説明及び添付図面により更に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の無細胞マトリックス接着剤及び本発明の強化無細胞マトリックスを調製するために使用する工程を示す。
【図2】本発明の、メッシュで強化された無細胞真皮マトリックスのSEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の無細胞マトリックス接着剤は、無細胞マトリックスを提供する工程と、水溶液中で無細胞マトリックスを混合して無細胞マトリックス混合物を形成する工程と、次いで、無細胞マトリックス混合物を十分に有効な温度で十分に有効な時間にかけて培養して無細胞マトリックス接着剤を提供する工程と、によって調製される。
【0015】
本明細書では、無細胞マトリックスは、構造的細胞外マトリックスから核及び細胞構成成分が取り除かれるように脱細胞化された組織として定義される。無細胞マトリックスは、器官又は隔離された器官部分を含む組織から調整される。組織としては、心弁、小腸粘膜下層、真皮、羊膜、膀胱、大網、心膜、靭帯、血管などが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、組織は大網及び真皮を含むが、これらに限定されない。別の実施形態では、組織は真皮である。組織は、ヒト、ヤギ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマなど(ただし限定せず)様々な哺乳類源から得られる。組織は、組織保存、デキュラリゼーション(decullarization)、洗浄、脱汚染、及び保管のような工程を含む従来の手法によって脱細胞化される。
【0016】
脱細胞化工程は、一般に、洗剤を含有する食塩水を使用する抽出による細胞構成成分の除去及びエンドヌクレアーゼによる消化を含む。
【0017】
次いで、無細胞マトリックスを水溶液に移す。一実施形態では、無細胞マトリックスを水溶液に移す前に加工し、より小さい片にする。鋏、刃若しくはナイフでの切断、又はボールミリング、低温ミリング、及びジェットミリングのようなミリングによる粉砕といった従来の方法によって、無細胞マトリックスをより小さい片に加工することができる。無細胞マトリックスを粉末のようなより小さい片に加工することは、より多くの表面積をもたらし、したがって、水溶液へのより速い溶解を可能にする。一実施形態では、無細胞マトリックスは水溶液への添加の前に低温ミリングによって粉末化される。
【0018】
本発明の実践において有用な水溶液としては、水、生理学的緩衝液、及び生理食塩水が挙げられるが、これらに限定されない。生理学的緩衝液としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ハンクス平衡塩類溶液、トリス緩衝生理食塩水、及びヘペス緩衝生理食塩水のような緩衝生理食塩水が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、水溶液は水である。
【0019】
一実施形態では、水溶液は、所望により十分に有効な量の可塑剤を含む。可塑剤としては、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、可塑剤はグリセロールである。
【0020】
無細胞マトリックス接着剤は、例えば、無細胞真皮マトリックスのような無細胞マトリックスを提供することによって調製される。次いで、無細胞真皮マトリックスを所望により低温ミリングで加工して粉末にすることができる。無細胞マトリックス粉末は、約2mm未満の粒径を有する。約1.0gの無細胞マトリックス粉末を、水又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)のような水溶液10mLと混合し、無細胞マトリックス混合液を生成する。無細胞マトリックスは、典型的には水溶液の約2重量%〜約30重量%、好ましくは約5重量%〜約20重量%の量で存在する。別の実施形態では、無細胞マトリックスは水溶液の約10重量%の量で存在する。次いで、無細胞マトリックス混合液を十分に有効な温度及び時間で、典型的には約70℃〜約100℃で約10分間〜約48時間にかけて、好ましくは約80℃〜約90℃で、典型的には約1時間〜約5時間にかけて培養する。また、より高圧下では、例えば202.7kPa(2大気圧)の圧力で120℃のようなより高い温度を使用することができる。無細胞マトリックス接着剤を約37℃に冷却させて直ちに使用するか、又は使用する準備ができるまで室温以下に冷却させる。
【0021】
別の実施形態では、グリセロールのような十分に有効な量の可塑剤を所望により加えて、接着剤の可撓性及び濡れ特性を増加することができる。その可塑剤の性質に基づく量の可塑剤を加えることができる。グリセロールの場合、無細胞マトリックス接着剤に加えられるグリセロールの量は、典型的にはこの水性接着剤の約0.5重量%〜約10重量%である。可塑剤は、接着剤を冷却させる前又は後のいずれかに水性接着剤に添加し、均一に混合することができる。好ましくは、接着剤の容易な混合及び一様分布のために、接着剤を冷却させる前にグリセロールを加える。
【0022】
本明細書に記述されている無細胞マトリックス接着剤は、組織の修復及びエンジニアリングのための強化無細胞マトリックスの調製に有用である。本発明の無細胞マトリックス接着剤を利用する本発明の強化無細胞マトリックスは、無細胞マトリックス層と、強化層と、無細胞マトリックス接着剤層とから成る。好ましくはないが、それに伴ってあり得る可能な短所を受け入れる意志が当業者にあるならば、本発明の無細胞マトリックス接着剤を組織接着剤又は封止剤として使用してもよい。
【0023】
無細胞マトリックス層は、無細胞マトリックスから調製される。無細胞マトリックスは、器官、又は器官から隔離された部分を含む組織から調整される。組織としては、心弁、小腸粘膜下層、真皮、羊膜、膀胱、大網、心膜、靭帯、血管などが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、組織は大網及び真皮を含むが、これらに限定されない。別の実施形態では、組織は真皮である。組織は、ヒト、ヤギ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマなど(ただし限定せず)様々な哺乳類源から得られる。上述のように、従来のプロセス及び手法を使用して組織を脱細胞化し、無細胞マトリックスを提供する。無細胞マトリックス層は、無細胞マトリックスを分割して、典型的に約50マイクロメートル〜約200マイクロメートルの厚さを有する薄いシートにすることによって得られる。無細胞マトリックスは、牛革分割器の使用のような従来の手法によって分割される。
【0024】
強化層は、好ましくは、織物構造、編物構造、歪んだ編物構造(すなわち、レース状)、不織構造、及び網組構造を含む繊維製品、又は同様若しくは同等の材料である。好ましくはないが、強化層は、繊維製品でない例えばポリマーシートのような材料のシートであってもよい。一実施形態では、強化層はメッシュのような織物繊維製品である。上述の繊維製品及び材料では、繊維製品又は材料の密度又はテクスチャを変更することによって機械特性を調整することができる。繊維製品の作製に使用される繊維は、例えば、単繊維、糸、より糸、網組、又は繊維束であってよい。ポリマーシートのような材料は、そこに形成された又は開けられた穴を有してもよく、所望により多孔質であってもよい。シートのような繊維及び材料は、ポリ乳酸(PLA)(ポリラクチドを含む)、ポリグリコール酸(PGA)(ポリグリコリドを含む)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリジオキサノン(PDO)、及びポリトリメチレン炭酸塩(PTMC)を含む(ただし限定せず)生体適合性の生体吸収性材料で作製され得る。これらの繊維はまた、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、スチレン(アクリロニトリルブタジエンスチレンを含む)、ナイロン、アクリル性材料、熱可塑性ウレタン、熱可塑性エラストマー、熱硬化性プラスチック、ポリアミド、ポリエステル、成形可能なシリコン、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール(PVA)、及びこれらのコポリマー又は配合物を含む(ただし限定せず)生体適合性の非吸収性ポリマーでも作成され得る。好適なポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらのコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、繊維製品を作る繊維は、ポリプロピレンで形成される。
【0025】
一実施形態では、強化無細胞マトリックスは、強化層と、無細胞マトリックス層と、無細胞マトリックス接着剤とを提供することによって調製される。無細胞マトリックス接着剤は、無細胞マトリックスのコラーゲン成分を変性させるために十分に有効な温度である、典型的には約50℃〜約90℃に加熱し、次いで、使用の前に所望の温度まで、典型的には約30℃〜約50℃、好ましくは約37℃に冷却させるべきである。次いで、十分な量の無細胞マトリックス接着剤を無細胞マトリックス層と強化層との間に配置し、それらのマトリックス層と強化層とを有効に結合し、従来のやり方で乾燥させて、強化無細胞マトリックスを形成する。例えば、マトリックスは、上側と下側とを有する強化層を提供し、その強化層の上側に無細胞マトリックス接着剤の層を配置し、次いで無細胞マトリックスを接着剤層上に配置することによって、強化層と無細胞マトリックス層とを共に接着して作製することができる。あるいは、マトリックスは、無細胞マトリックス層を提供し、無細胞マトリックス層上に無細胞マトリックス接着剤の層を配置し、次いで強化層を接着剤層上に配置することによって、強化層と無細胞マトリックス層とを共に接着して作製することができる。また、多層の強化無細胞マトリックスは、強化層と無細胞マトリックス接着剤層と無細胞マトリックス層とを繰り返し交互にすることによっても、又は構造物内の層状材料の位置を変化させることによっても、提供され得る。無細胞マトリックス接着剤及び無細胞マトリックス層は、本明細書に上述されているように、同じ組織型から調製されても、異なる組織型から調製されてもよい。一実施形態では、無細胞マトリックス層及び無細胞マトリックス接着剤層は、同じ組織型からのものである。
【0026】
所望により、強化無細胞マトリックスは、ホルムアルデヒド(formadehyde)蒸気、グルタルアルデヒド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)又は酸化多糖類のような従来の方法を用い無細胞マトリックス接着剤層と無細胞マトリックス層とを架橋することによって安定化することができる。多糖類としては、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸塩、デルマタン硫酸塩、ケラタン硫酸塩、ヘパラン、ヘパラン硫酸塩、デキストラン、デキストラン硫酸塩、アルギン酸塩、及び他の長鎖多糖類が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、強化無細胞マトリックスは、好ましくは約40%〜約70%の濃度でエタノール、イソプロパノール、プロパノールのようなアルコールを含有する溶液中1%のEDCを含むEDC架橋によって安定化される。
【0027】
一実施形態では、1つ以上の生物活性剤を、所望により強化無細胞マトリックスに組み込むこと及び/又は適用することができる。一実施形態では、生物活性剤は強化構成要素に組み込まれる、又はコーティングされる。別の実施形態では、生物活性剤は無細胞マトリックス接着剤に組み込まれる。更に別の実施形態では、生物活性剤は無細胞マトリックスに組み込まれる。
【0028】
好適な生物活性剤としては、感染予防剤(例えば、抗菌剤及び抗生物質)、炎症を緩和する製剤(例えば、抗炎症薬)、酸化再生セルロースのような、接着形成を防ぐ又は最低限にする製剤(例えば、Ethicon,Inc.から入手可能なINTERCEED及びSURGICEL)及びヒアルロン酸、免疫系を抑制する製剤(例えば、免疫抑制剤)、異種又は同種異系の増殖因子、タンパク質(マトリックスタンパク質を含む)、ペプチド、抗体、酵素、血小板、血小板の豊富な血漿、糖タンパク質、ホルモン、サイトカイン、グリコサミノグリカン、核酸、鎮痛剤、ウィルス、ウィルス粒子、及び細胞型、走化性物質、抗生物質、及びステロイド及び非ステロイド鎮痛剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
生存組織を本発明の強化無細胞マトリックスに含めることもできる。その出所は様々であってよく、組織は様々な形態を有することができるが、一実施形態では、組織は、所望により、組織の再成長の効果を増して例えば軟骨のような治癒反応を刺激することが可能な微細に砕かれた又は分割された組織破片又は片の形状である。別の実施形態では、生存組織は、所望により、組織の再生及び/又はリモデリングの能力のある生存細胞を含有する健常組織から収穫された組織スライス又はストリップの形状である場合がある。
【0030】
強化無細胞マトリックスはまた、そこに組み込まれた生存細胞を有することもできる。好適な細胞型としては、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、線維芽細胞、幹細胞、多能性細胞、軟骨細胞前駆体、軟骨細胞、内皮細胞、マクロファージ、白血球、含脂肪細胞、単球、形質細胞、マスト細胞、臍帯細胞、間質細胞、間葉幹細胞、上皮細胞、筋芽細胞、腱細胞、靭帯線維芽細胞、神経細胞、骨髄細胞、滑膜細胞、胚幹細胞、脂肪組織由来前駆細胞、末梢血前駆細胞、成体組織から単離される幹細胞、遺伝子組換え細胞、軟骨細胞とその他の細胞の組み合わせ、骨細胞とその他の細胞の組み合わせ、滑膜細胞とその他の細胞の組み合わせ、骨髄細胞とその他の細胞の組み合わせ、間葉細胞とその他の細胞の組み合わせ、間質細胞とその他の細胞の組み合わせ、幹細胞とその他の細胞の組み合わせ、胚幹細胞とその他の細胞の組み合わせ、成体組織から単離される前駆細胞とその他の細胞の組み合わせ、末梢血前駆細胞とその他の細胞の組み合わせ、成体組織から単離される幹細胞とその他の細胞の組み合わせ、遺伝子組換え細胞とその他の細胞の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明の強化無細胞マトリックスはまた、少なくとも1つの関心対象の遺伝子産物を特定の細胞又は細胞型にコード化する、核酸、ウィルス、又はウィルス粒子が関心対象の遺伝子を送達する遺伝子療法にも使用することができる。したがって、生物活性剤は、核酸(例えば、DNA、RNA、又はオリゴヌクレオチド)、ウイルス、ウイルス粒子、又は非ウイルスベクターであることができる。ウイルス及びウイルス粒子は、DNA又はRNAウイルスであってもよく、DNA又はRNAウイルス由来であってもよい。関心対象の遺伝子産物は、好ましくは、タンパク質、ポリペプチド、干渉リボ核酸(iRNA)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0032】
適用可能な核酸及び/又はウィルス性因子(すなわち、ウィルス又はウィルス粒子)の十分に有効な量が強化無細胞マトリックスに組み込まれたら、装置を特定の部位に移植して、望ましいタイプの生物学的反応を引き出すことができる。次に、核酸又はウィルス性因子は細胞に取り込まれることでき、この核酸又はウィルス性因子がコード化する任意のタンパク質が、この細胞によって局所的に生成され得る。一実施形態では、核酸又はウィルス性因子は、細分化組織懸濁液の組織片内の細胞に取り込まれることでき、又は、代替実施形態では、核酸又はウィルス性因子は、傷害組織部位を取り囲む組織の中の細胞に取り込まれることできる。生成されるタンパク質は、上記の種類のタンパク質であることができ、又は、損傷若しくは疾患を治癒する、感染と闘う、若しくは炎症反応を軽減する組織の能力を向上させるのを容易にする同様のタンパク質であることができることを、当業者は認識されよう。組織修復過程又はその他の通常の生物学的過程に悪影響を与える可能性がある不必要な遺伝子産物の発現を阻止するために、核酸を使用することも可能である。DNA、RNA、及びウイルス性因子は、従来、遺伝子発現ノックアウトとしても知られるこのような発現阻止機能を達成するために使用される。
【0033】
当業者は、外科医、医療従事者、又は他の生命科学従事者が医科学の原則及び適用され得る治療目的に基づいて生物活性剤の識別を決定し得ることを理解するであろう。また、強化無細胞マトリックスの製造の前、間若しくは後に、又はその外科的配置の前、間若しくは後に、生物活性剤を強化無細胞マトリックスに組み込むことができることも理解されたい。
【0034】
本発明の強化無細胞マトリックスは、ヘルニア修復及び骨盤底修復のような腹部手術、胸部リフティング及びフェースリフティングのような美容整形手術、及び回旋腱板修復のような他の組織修復手術を含む(ただし限定せず)、組織の強化が望まれる外科処置に用いることができる。無細胞マトリックスは、接着剤、縫合、ステープル、タックなど、従来の組織付着装置を用いて組織に取り付けることができる。
【0035】
下記の実施例は本発明の原理及び実践の説明のためであり、これらに限定されるものではない。本発明の範囲及び趣旨内の多くの追加の実施形態は、ひとたびこの開示の利益を得ると、当業者に明らかになるであろう。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
無細胞マトリックス接着剤の製剤プロセス
SPEX CertiPrep(ニュージャージー州Metuchen所在)の6800 Freezer Millを用い、Advanced UroScience(ミネソタ州St.Paul所在)が商品名DermMatrixで市販する無細胞ブタ真皮マトリックスをミリングして微粉末にした。無細胞真皮マトリックス粉末1.0グラムを、ポリプロピレン試験管内の水溶液10mL(グリセロール7%及び酢酸1.3%含有)に加えた。この試験管を80℃の水槽に入れ、磁気攪拌した。80℃で3時間培養した後、接着剤は不透明になった。接着剤を水槽から取り出し、37℃まで冷却させてから使用した。このプロセスは、図1に図示されている。
【0037】
(実施例2)
無細胞ブタ真皮マトリックスの薄層の調製
Advanced UroScience(ミネソタ州St.Paul所在)が商品名DermMatrixで市販する無細胞ブタ真皮マトリックスを、革分割機を使用して薄層に分割(ペンシルベニア州Columbia所在のColumbia Organ Leatherが実施)し、プロトタイプ製剤とした。この無細胞ブタ真皮マトリックスは、IPAに24時間浸してから分割された。8cm×8cm四方の無細胞ブタ真皮マトリックスを分割機に供給し、0.19mm〜0.10mmの範囲の最終厚に分割した。分割後、無細胞ブタ真皮マトリックスシートは、更に処理するための使用の準備ができるまでIPAに保管した。このプロセスを、全ての無細胞ブタ真皮マトリックスの試料に繰り返した。
【0038】
(実施例3)
強化無細胞ブタ真皮マトリックスの調製
メッシュ強化無細胞真皮マトリックスの調製プロセスを図1に示す。実施例2で調製された分割された無細胞真皮マトリックスの試料を、脱イオン水で洗浄してから20℃で凍結乾燥した。Ethicon Inc.(ニュージャージー州Somerville所在)のUltraproメッシュを50℃で10日間、脱イオン水中で培養して吸収性成分を取り除き、軽量のポリプロピレンメッシュを調整した。この軽量のポリプロピレンメッシュを、3×5cmの分割された無細胞真皮マトリックスの2層の間に配置し、37℃に維持された実施例1で調整された無細胞マトリックス接着剤3mLを用いて共に接着した。この構築物全体を室温に冷却し、細胞培養フッド内で空気乾燥した。
【0039】
(実施例4)
メッシュ強化無細胞ブタ真皮マトリックスの安定化処理
実施例3に記述されているように、調整された強化無細胞真皮マトリックスを、100mLのエタノールリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液(エタノール40%)で30分間洗浄した。次いで、洗浄された強化無細胞真皮マトリックスを、(調製された新鮮な)エタノールPBS中で、10mg/mLの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)50mLに移し入れた。室温で4時間培養後、架橋された強化無細胞マトリックスを水中6%(w/w)のグリセロールで2度洗浄した。架橋された強化無細胞マトリックスを空気乾燥した。
【0040】
(実施例5)
SEMによるメッシュ強化無細胞真皮マトリックスの評価
実施例4で調製した試料を顕微鏡のスタッドに装着し、EMS 550スパッタコーター(Electron Microscopy Sciences、ペンシルベニア州Hatfield所在)を用いて金の薄層をコーティングした。SEM解析は、JEOL JSM−5900LV SEM(JEOL(日本、東京所在))を用いて行った。各試料に関して表面及び断面を調べた。SEM画像(図2を参照)は、無細胞真皮マトリックスの2つの薄層の中央にメッシュが埋め込まれているのを示している。
【0041】
(実施例6)
動物のヘルニア修復モデル
ブタのモデルを使用し、被検体に従来の方法で麻酔を施して手術の準備をする。正中切開は、臍孔に対して上/頭及び/又は下/尾に入れる。腹側正中切開は皮膚から皮下の組織にかけて入れて、正中/白線の腹壁筋膜を露出する。長さ約3cmの臍孔の頭及び尾の2つの中央値の欠陥を白線に作り、前腹膜脂肪組織及び腹膜を露出する。メッシュ強化無細胞マトリックスをおよそのサイズにトリムし、PROLENE定着縫合糸サイズ3−0(Ethicon,Inc.、ニュージャージー州Somerville所在)と共に腹壁筋膜上に平らに配備する。皮下組織及び皮膚をMonocryl縫合糸サイズUSP3−0単糸で閉じる。更に、早期の創傷汚染を防ぐために、皮膚を局所皮膚接着剤で接着する。
【0042】
(実施例7)
強化無細胞マトリックスを用いた切開式ヒトヘルニア修復
ヒト患者を、切開式ヘルニア修復手術のために従来の方法で準備する。従来の方法で全身麻酔を与えるが、ヘルニアの位置及び修復の複雑さによっては所望により患者は従来の局所又は部分麻酔を受ける場合がある。所望により、カテーテルを膀胱に挿入して尿を取り除き、膀胱を収縮させる。
【0043】
ヘルニアの近くの腹壁から脂肪及び瘢痕組織を取り除くためにぎりぎりの大きさの切開を入れる。弱まったヘルニアエリアの外縁を画定し、そのエリアから余分な組織を取り除く。次いで、本発明の強化無細胞マトリックスを、その弱まったエリアの周囲全方向に数センチメートル(インチ)外側まで重なるように適用し、非吸収性縫合糸で適所に固定する。次いで、腹壁を近寄せ、非吸収性縫合糸で閉じる。縫合糸を結び、ノットにする。
【0044】
合成構築物と無細胞マトリックスとを組み合わせる従来のアプローチと比較して、本発明に開示されている構築物の合成構築物と無細胞マトリックスとはよく一体化され、層間剥離を回避する。結果として、これらの構築物はフレキシブルである。この無細胞マトリックス接着剤は、複合構築物に生理活性材料を組み込むための送達媒体を提供する。
【0045】
本発明はその詳細な実施形態に関して図示及び説明が行われたが、当業者には、当該形態及び詳細におけるさまざまな変更は、本請求発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく行われ得ることが理解されるであろう。
【0046】
〔実施の態様〕
(1) 無細胞マトリックス接着剤の製造方法であって、
無細胞マトリックスを提供する工程と、前記無細胞マトリックスを水溶液に添加して混合物を提供する工程と、前記混合物を十分に有効な温度で十分に有効な時間をかけて培養して無細胞マトリックス接着剤を形成する工程と、を含む、方法。
(2) 前記温度が約70℃〜約100℃の範囲内である、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記時間が約10分〜約48時間の範囲内である、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記無細胞マトリックス接着剤を使用前に約37℃に冷却させる追加工程を含む、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記無細胞マトリックスが、ヒト、ヤギ、ブタ、ウシ、ヒツジ、及びウマからなる群から選択される哺乳類源から得られる脱細胞化組織を含む、実施態様1に記載の方法。
(6) 前記脱細胞化組織が、心弁、小腸粘膜下層、真皮、羊膜、膀胱、大網、心膜、靭帯、及び血管からなる群から選択される、実施態様5に記載の方法。
(7) 前記水溶液が、水、生理緩衝液、及び生理食塩水からなる群から選択される、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記無細胞マトリックス接着剤が、グリセロール、プロピレングリコール、及びポリエチレングリコールからなる群から選択される可塑剤を追加的に含む、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記無細胞マトリックス接着剤が、約2(w/v)%の無細胞マトリックスと約30(w/v)%の水溶液とを含む、実施態様1に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞マトリックス接着剤の製造方法であって、
無細胞マトリックスを提供する工程と、前記無細胞マトリックスを水溶液に添加して混合物を提供する工程と、前記混合物を十分に有効な温度で十分に有効な時間をかけて培養して無細胞マトリックス接着剤を形成する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記温度が約70℃〜約100℃の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記時間が約10分〜約48時間の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記無細胞マトリックス接着剤を使用前に約37℃に冷却させる追加工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記無細胞マトリックスが、ヒト、ヤギ、ブタ、ウシ、ヒツジ、及びウマからなる群から選択される哺乳類源から得られる脱細胞化組織を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記脱細胞化組織が、心弁、小腸粘膜下層、真皮、羊膜、膀胱、大網、心膜、靭帯、及び血管からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記水溶液が、水、生理緩衝液、及び生理食塩水からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記無細胞マトリックス接着剤が、グリセロール、プロピレングリコール、及びポリエチレングリコールからなる群から選択される可塑剤を追加的に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記無細胞マトリックス接着剤が、約2(w/v)%の無細胞マトリックスと約30(w/v)%の水溶液とを含む、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−501732(P2012−501732A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526085(P2011−526085)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2009/053509
【国際公開番号】WO2010/027613
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(591286579)エシコン・インコーポレイテッド (170)
【氏名又は名称原語表記】ETHICON, INCORPORATED
【Fターム(参考)】