説明

無線タグ方向探知システム

【課題】方向判定精度と通信成功率をともに高くすることができる無線タグ方向探知システムを提供する。
【解決手段】無線タグ200は、偏波が互いに異なる第1アンテナ241、第2アンテナ242を備え、第1アンテナ241からデータを送信した後、第2アンテナ242からデータを送信する。無線タグリーダ100は、通信アンテナ140と方向探知アンテナ150を備え、通信アンテナ140は水平偏波を受信できるアンテナとし、方向探知アンテナ150は垂直偏波を受信できるアンテナとする。受信成功の判断には通信アンテナ140で受信した電波を用い、方向探知を行うための受信電力強度は、方向探知アンテナ150で受信した電波を用いる。通信アンテナ140で受信した電波によりデータの受信基準時点を定め、この受信基準時点に基づいて定まる期間に方向探知アンテナ150で受信した電波の受信電力強度から、無線タグ200の方向を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線タグ方向探知システムに関し、特に、方向探知精度と通信成功率をともに向上させることができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線タグの方向を無線タグリーダにより探知する無線タグ方向探知システムが知られている。例えば、特許文献1には、複数のアンテナ素子を備えて指向特性を変化させることができるアレーアンテナを用いた方向探知方法が開示されている。この方向探知方法は、具体的には、アレーアンテナの指向特性を順次変化させて、各指向特性で信号を受信して、受信電力強度に基づいて方向探知を行う方法である。
【0003】
また、特許文献2には、受信波の到来方向計測時に誤差要因となる偏波による影響を軽減する方法が開示されている。この方法は、具体的には、まず、受信波の電波諸元を取得し、これを検索キーにして、電波諸元と偏波情報とが関連づけられた偏波情報データベースを検索し、その偏波情報を推定する。そして、複数の測角テーブルの中から、この推定結果に対応した測角テーブルを選択するとともに、選択した測角テーブルを適用して受信波の到来方向を計測する。
【0004】
また、特許文献3には、受信装置が、互いに別の偏波面を有する2つの指向性アンテナを備え、送信装置から送信されるフレームをこれら2つの指向性アンテナを交互に用いて受信し、受信アンテナ毎のフレームの各受信信号強度を比較して到来方向を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3836080号公報
【特許文献2】特開2009−257893号公報
【特許文献3】特開2008−300937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2では、受信波の到来方向を推定するために、複数の測角テーブルを用意しており、この測角テーブルは、あらかじめ既知の試験信号により実測を行なって取得した計測特性に基づいて設定している。しかし、この実測時の環境は、電波到来方向を実際に推定するときの周囲環境とは異なる。その結果、特許文献2の方法では、方向推定精度が不十分であった。また、特許文献3では、送信装置から送信されるフレームの受信が、2つのアンテナを用いてそれぞれ成功する必要があることから、通信成功率が低下するという問題がある。
【0007】
このように、特許文献2の技術では方向推定精度が不十分であり、特許文献3の技術では通信成功率が低い。すなわち、従来、方向推定精度を高くしつつ、通信成功率も高くすることはできていなかった。
【0008】
ところで、方向推定には、水平面内の指向性が無指向性であるという理由から、無線タグリーダは、特許文献1のように垂直偏波を受信するためのアンテナを用いて方向推定を行うことが好ましい。しかし、垂直偏波を受信するためのアンテナでは、主偏波面が水平偏波の電波では垂直偏波成分が弱いので、主偏波面が水平偏波の電波を無線タグが送信した場合には、そもそも、データの受信ができず、その結果、無線タグを認識できない恐れがある。
【0009】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、方向判定精度と通信成功率をともに高くすることができる無線タグ方向探知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するために、本発明者は、無線タグリーダに、水平偏波を受信するためのアンテナと、垂直偏波を受信するためのアンテナを備える構成を検討した。より詳しくは、水平偏波を受信するためのアンテナで受信した電波は、データ受信期間の特定に用い、その特定した受信期間に垂直偏波を受信するためのアンテナで受信した電波の受信電力強度を用いて方向推定を行うことを検討した。
【0011】
しかしながら、それだけでは、まだ、通信成功率と方向推定精度をともに高くすることはできなかった。以下、詳しく説明する。無線タグは、人に携帯されるという特性から、無線タグのアンテナの向きは一定ではない。よって、無線タグからの電波は、水平偏波であったり、垂直偏波であったり、斜め偏波であったりする。
【0012】
無線タグからの電波が水平偏波であると、無線タグリーダ側において、垂直偏波を受信するための方向推定用アンテナで受信した電波の受信電力強度が大きく低下し、方向推定精度が低下してしまう。
【0013】
一方、無線タグからの電波が垂直偏波であると、無線タグリーダ側において、水平偏波を受信するためのデータ受信用アンテナで受信する電波の受信電力強度が大きく低下し、通信成功率があまり良くない。その上、垂直偏波は人体等に対する回折が弱い。よって、仮に、無線タグリーダから見て人体によって隠れる位置に無線タグが位置している場合であって、無線タグからの電波が垂直偏波であると、無線タグと無線タグリーダとの通信は成立し難い。このように、水平偏波受信時は方向判定精度が低く、垂直偏波受信時は通信成功率が低い。
【0014】
しかしながら、上記の検討や下記の実験の結果、水平偏波受信時は方向判定精度は低いものの通信成功率は高く、垂直偏波受信時は通信成功率は低いものの方向判定精度は高い、という知見を得るに至った。
【0015】
図10は、水平偏波受信時は方向判定精度は低いものの通信成功率は高く、垂直偏波受信時は通信成功率は低いものの方向判定精度は高いことを示す実験結果である。図10に示すグラフは、(a)、(b)ともに、無線タグを携帯した人が、無線タグリーダに対して180°方向(正面方向)から近づいたときの通信成功率、方向判定結果を示す図である。なお、無線タグリーダは、水平偏波を受信するためのアンテナと垂直偏波を受信するためのアンテナとを備え、前者のアンテナで通信を行い、後者のアンテナで方向推定を行う構成を備えたものである。また、無線タグは、1本のアンテナを備えたものである。
【0016】
図10(a)と(b)の違いは、(a)は、無線タグが水平偏波を送信しているのに対して、(b)は、無線タグが垂直偏波を送信している。また、(a)、(b)において、動線追跡処理結果とは、方向判定結果の移動平均値を示している。
【0017】
無線タグは、実際には180°方向に存在するのであるが、水平偏波受信時は、(a)に示すように、矢印A1、A2で示す範囲等において、誤った方向判定結果となっている。その結果、動線追跡処理結果でも、矢印Bで示す範囲において、精度が低下してしまっている。しかしながら、通信成功率については、最も低くなるときでも20%程度あり、通信成功率は比較的良好である。
【0018】
一方、垂直偏波受信時は、(b)に示すように、矢印Cで示す付近で通信成功率が低下してしまっている。その結果、矢印Dで示す範囲で、動線追跡結果を得られなくなってしまっている。つまり、矢印Dで示す範囲では、無線タグが存在しているか否かも不明となってしまっている。ただし、動線追跡結果が得られている範囲では、その動線追跡結果の精度は高い。
【0019】
この図10から、水平偏波受信時は方向判定精度は低いものの通信成功率は高く、垂直偏波受信時は通信成功率は低いものの方向判定精度は高いことが分かる。この知見に基づいて成された請求項1記載の発明は、無線タグと、その無線タグと通信を行う無線タグリーダとを備え、無線タグリーダが無線タグの方向探知を行う無線タグ方向探知システムであって、無線タグは、偏波が互いに異なるタグ側第1アンテナおよびタグ側第2アンテナを備え、タグ側第1アンテナから第1データを送信した後、タグ側第2アンテナから第2データを送信する。なお、これら第1データ及び第2データは、予め決めたタグデータ送信時間以上の長さを持つ。一方、無線タグリーダは、水平偏波を受信するためのリーダ側第1アンテナと、垂直偏波を受信するためのリーダ側第2アンテナと、リーダ側第1アンテナに接続され、リーダ側第1アンテナが受信した電波を復調および復号する受信手段と、リーダ側第2アンテナに接続され、リーダ側第2アンテナの指向性を順次設して、無線タグがタグ送信時間以下の時間で、予め設定された探知範囲分、指向性を変化させる指向性制御手段と、リーダ側第2アンテナに接続され、リーダ側第2アンテナが受信した電波の電力強度を検出する受信電力検出手段と、指向性制御手段が設定した指向性に関連付けて、その指向性で受信電力検出手段が検出した受信電力強度を記憶する電力強度記憶手段と、受信手段が復号した信号を取得して第1データおよび第2データの受信が成功したか否かを決定し、受信が成功したデータに基づいて、第1データおよび第2データの少なくとも一方の受信基準時点を決定する受信基準時点決定手段と、その受信基準時点決定手段が決定した受信基準時点に基づいて、電力強度記憶手段に記憶されている受信電力強度のうち、データの受信期間内であって、指向性が探知範囲分を変化したときの受信電力強度を取得し、取得した受信電力強度を用いて無線タグの方向を決定する方向決定手段とを備えることを特徴とする。
【0020】
この請求項1記載の発明によれば、無線タグは、偏波が互いに異なる2つのタグ側アンテナから第1、第2データを送信する。なお、水平偏波と垂直偏波という互いに直交する2種類の偏波に大別される直線偏波においては、偏波が互いに異なるとは、偏波面が実質的に直交する(90°異なる)ことを意味する。実質的に直交していればよいことから、当然、89°や91°は実質的に直交することになる。また、別の表現をすれば、ほぼ直交していればよい。
【0021】
前述のように、無線タグは、人に携帯されるという特性から、無線タグのアンテナの向きも一定しないが、本発明では、無線タグが、偏波が互いに異なる2つのタグ側アンテナから第1、第2データを送信するので、1つのアンテナのみを備える場合よりも、2つのアンテナのいずれか一方は、水平偏波成分の強い電波を送信できる可能性が高くなる。そして、無線タグリーダの受信手段は、通信成功率の高い水平偏波を受信するためのリーダ側第1アンテナが受信した電波を復調および復号する。よって、第1データおよび第2データの少なくとも一方の受信に成功する受信成功率は、無線タグが1つのアンテナのみからデータを送信する場合や、無線タグリーダが、垂直偏波を受信するためのアンテナにより受信した電波を用いてデータの復調、復号を行う場合よりも高くなる。
【0022】
また、前述のように、方向推定には垂直偏波が好まく、無線タグリーダは、垂直偏波を受信するためのリーダ側第2アンテナも備えており、方向決定手段は、リーダ側第2アンテナにより受信された電波の受信電力強度のうち、データが受信された期間内であって、指向性が探知範囲分を変化したときのものを電力強度記憶手段から取得して無線タグの方向を決定する。ここで、無線タグの方向を精度よく決定するためには、リーダ側第2アンテナにより受信された電波の受信電力強度を用いさえすればよい訳ではなく、データが受信された期間内であって、指向性が探知範囲分を変化したときを精度よく決定して、受信電力強度を取得する必要もある。無線タグから送信される電波を用いて無線タグの方向を決定するのであるから、方向を決定する電波は、データが受信された期間内である必要があり、また、データ受信期間内であっても、指向性が探知範囲分を変化していなければ、変化していない範囲に無線タグが存在していたとしても、その変化していない範囲に無線タグが存在するとの決定をすることができないからである。
【0023】
ところで、仮に、垂直偏波を受信するためのリーダ側第2アンテナが受信した電波を復調、復号してデータ受信の成否を判断する場合にはデータ受信成功率が低下する。しかし、本発明では、データの受信が成功したか否かは、水平偏波を受信するためのリーダ側第1アンテナが受信した電波を用いていることから、受信成功率が高い。よって、受信基準時点決定手段は、データの受信基準時点を精度よく決定できる。すなわち、受信電力強度自体は、垂直偏波を受信するためのリーダ側第2アンテナで受信した受信電力強度を用い、且つ、無線タグの方向決定に利用する受信電力強度の期間の決定には、データの受信基準時点を精度よく決定できる、水平偏波を受信するためのリーダ側第1アンテナが受信した電波を用いている。よって、無線タグの方向を精度よく決定することができる。
【0024】
無線タグは、前述のように、人に携帯されるものであり、この特性から、タグ側第1アンテナ、第2アンテナが送信する電波は、通常は、いずれも、水平偏波成分あるいは垂直偏波成分のいずれかが強く他方が弱いものの、水平偏波成分および垂直偏波成分の両方が含まれる。よって、第1データおよび第2データの受信がともに成功することもある。
【0025】
請求項2記載の発明では、受信基準時点決定手段は、第1データおよび第2データの受信がともに成功したと決定した場合には、受信が成功した第1データを用いて第1データの受信基準時点を決定し、受信が成功した第2データを用いて第2データの受信基準時点を決定し、方向決定手段は、受信基準時点決定手段が決定した第1データの受信基準時点および第2データの受信基準時点に基づいて、電力強度記憶手段に記憶されている受信電力強度のうち、第1データの受信期間内であって、指向性が探知範囲分を変化したときの第1受信電力強度と、第2データの受信期間内であって、指向性が探知範囲分を変化したときの第2受信電力強度とを取得し、取得した前記第1受信電力強度及び前記第2受信電力強度を用いて無線タグの方向を決定する。
【0026】
このようにすれば、第1データの受信期間および第2データの受信期間の2つの受信期間に受信した受信電力強度を利用して、無線タグの方向を決定するので、無線タグの方向決定精度がより向上する。
【0027】
請求項3記載の発明では、無線タグは、第1データの送信時間、第2データの送信時間、および、第1データの送信終了から第2データの送信開始までの時間が予め定まっている。よって、無線タグリーダが第1データを受信した期間のうちの基準となる時点(すなわち第1データの受信基準時点)および無線タグリーダが第2データを受信した期間のうちの基準となる時点(すなわち第2データの受信基準時点)との時間差は予め決定することができる。無線タグリーダは、この時間差を記憶しており、受信基準時点決定手段は、第1データおよび第2データのいずれか一方のみ受信が成功したと決定した場合には、受信が成功したデータの受信基準時点と時間差とに基づいて、他方のデータの受信基準時点を決定する。
【0028】
受信が成功するかどうかに関わらず、受信電力検出手段では、受信電力強度を検出することができるものの、データの受信基準時点を決定しなければ、受信電力強度記憶手段から受信電力強度を取得することができない。しかし、このようにすれば、一方のデータしか受信成功しなかった場合にも、他方のデータの受信基準時点を決定できる。よって、一方のデータしか受信成功しなかった場合にも、両方のデータの受信期間に受信した受信電力強度を利用して、無線タグの方向を決定することができる。その結果、一方のデータしか受信成功しなかった場合にも、両方のデータの受信に成功した場合と同等の方向決定精度が得られる。
【0029】
請求項4記載の発明では、第1データ及び第2データは、無線タグを特定するためのタグ識別情報を含んでいる。無線タグリーダは、第1データおよび第2データの受信がともに成功したと決定した場合に、受信が成功したそれら第1データ、第2データに基づいて時間差を決定して記憶し、且つ、受信が成功した第1データまたは第2データに含まれるタグ識別情報を時間差とともに記憶する。そして、受信基準時点決定手段は、第1データおよび第2データのいずれか一方のみ受信が成功したと決定した場合には、受信したデータから得たタグ識別情報に基づいて、記憶している時間差から当該タグ識別情報に対応する時間差を決定し、決定した時間差と受信が成功したデータの受信基準時点とに基づいて、他方のデータの受信基準時点を決定する。
【0030】
このようにすれば、受信が成功していない他方のデータの受信基準時点を決定するために、受信が成功したデータに含まれているタグ識別情報に応じて異なる時間差を用いることができる。よって、無線タグのバージョンが異なる等により、第1データとの受信基準時点と第2データの受信基準時点との時間差が複数種類存在するとしても、受信が成功していない他方の受信基準時点を正しく決定することができる。
【0031】
請求項5記載の発明では、無線タグリーダは、逐次、リーダ側第1アンテナから、無線タグに、方向判定モードを指示するコマンドを送信する。無線タグは、逐次、無線タグリーダから送信されるコマンドを受信するためのコマンド受信処理を行うようになっており、且つ、タグ側第1アンテナおよびタグ側第2アンテナを交互に用いて当該コマンド受信処理を行う。
【0032】
この請求項5記載の発明では、無線タグリーダは、リーダ側第1アンテナから、方向判定モードを指示するコマンドを逐次送信する。このリーダ側第1アンテナは、水平偏波を受信するためのアンテナであることから、送信される電波も水平偏波が強い電波となり、また、水平偏波は通信成功率が高い。さらに、無線タグは、タグ側第1アンテナおよびタグ側第2アンテナを交互に用いてコマンド受信処理を行う。これらタグ側第1アンテナおよびタグ側第2アンテナは偏波が互いに異なることから、水平偏波に対する受信感度は、いずれか一方が他方よりも高くなる。よって、いずれか一方のアンテナのみを用いて常にコマンド受信処理を行う場合に比較して、受信成功率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態の無線タグ方向探知システムのシステム構成を説明する図である。
【図2】無線タグリーダ100の構成を示す図である。
【図3】無線タグ200の構成を示す図である。
【図4】無線タグ200の制御部260の動作を示すフローチャートである。
【図5】無線タグリーダ100の制御部110が実行する方向検出処理を示すフローチャートである。
【図6】図5のステップS30で開始する受信電力強度測定処理を示すフローチャートである。
【図7】図5のステップS43の方向判定処理を示すフローチャートである。
【図8】(A)は無線タグのデータ送信期間を示し、(B)は無線タグリーダのデータ受信期間、受信電力強度、受信電力強度バッファを示す図である。
【図9】本実施形態の無線タグ方向探知システムを適用し、無線タグを携帯した人が、無線タグリーダに対して180°方向から近づいたときの通信成功率、方向判定結果を示す図である。
【図10】本発明の課題を説明するための実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態の無線タグ方向探知システムのシステム構成を説明する図である。この図1に示すように、本実施形態の無線タグ方向探知システムは、無線タグリーダ100と無線タグ200を備えており、また、図2に示すコントローラ300や、移動物体が監視エリア内に存在しているか否かを検知する物体検知センサも備えている。この物体検知センサとしては、たとえば、レーザレーダ、カメラ、人感センサなどを用いる。なお、無線タグリーダ100は、物体検知センサの監視エリア内に配置される。
【0035】
無線タグ200は人に携帯されるものであり、無線タグリーダ100と通信を行う。無線タグリーダ100は、無線タグ200からの電波を受信し、その電波の到来方向を、無線タグ200の方向として推定する。
【0036】
図2は、無線タグリーダ100の構成を示す図である。図2に示すように、無線タグリーダ100は、制御部110、送信部120、受信部130、通信アンテナ140、方向探知アンテナ150、方向検知部160を備えている。
【0037】
制御部110は、外部へ無線送信させる信号を送信部120へ送るとともに、通信アンテナ140によって受信され、受信部130によって復調・復号された信号をその受信部130から取得する。そして、復号部132から取得した信号から、正常にコマンドやデータが認識できたか否かにより、受信成功したか、受信エラーとなったかの判断を行う。最初のコマンドなど一部のコマンドや、一部のコードは認識できたが、全部を認識することはできなかった場合には、受信エラーと判断する。また、制御部110は、内部にメモリ111とタイマ112とを備えている。メモリ111は、特許請求の範囲の電力強度記憶手段としても機能するものであり、後述する受信電力強度バッファとして用いる。また、メモリ111には、無線タグ200が送信する第1データ、第2データの互いの送信終了時点の時間差も記憶されている。
【0038】
送信部120は、符号部121、変調部122、増幅部123を備えている。符号部121は、制御部110から供給されたコマンドを符号化する。このコマンドとしては、方向判定コマンドがある。この方向判定コマンドは、無線タグ200に方向判定モードを指示するコマンドである。符号部121は、符号化したコマンドを変調部122へ出力する。変調部122は、符号部121にて符号化されたコマンドを電気的デジタル信号に変換した後に、予め設定されている通信チャンネルを用いて位相偏移変調や周波数偏移変調等の所定の変調方式により変調する。増幅部123は、変調部122で変調された信号を増幅する。増幅された信号は、通信アンテナ140から電波として送信される。
【0039】
通信アンテナ140は、水平偏波を受信するためのアンテナであり、アンテナ素子が水平に配置される。この通信アンテナ140は、特許請求の範囲のリーダ側第1アンテナに相当する。無線タグ200から送信され、この通信アンテナ140により受信された電波は、復調部131において復調される。復調された信号は復号部132において符号化され、符号化された信号が制御部110に送られる。
【0040】
方向探知アンテナ150は、垂直偏波を受信するためのアンテナであり、また、指向性を水平方向において種々の方向に変化させることができる。この方向探知アンテナ150は特許請求の範囲のリーダ側第2アンテナに相当する。本実施形態では、方向探知アンテナ150として、特許文献1記載のアンテナと同様のアンテナを用いている。すなわち、本実施形態の方向探知アンテナ150は、1本の励振素子151と、その励振素子151を中心とする円周上に等間隔に設けられた6本の非励振素子152とを備えている。これら励振素子151と非励振素子152は、いずれも、接地導体153の上に鉛直に配置される。また、励振素子151は、電力受信部162に接続されている。
【0041】
さらに、方向探知アンテナ150の各非励振素子152には、図示していないが、可変リアクタンス素子を備えた可変リアクタンス回路がそれぞれ接続されており、この可変リアクタンス素子は、指向性制御部161によりリアクタンス値が変化させられる。
【0042】
指向性制御部161は、特許請求の範囲の指向性制御手段に相当し、方向探知アンテナ150の指向性を、制御部110から指示された指向性とするために、可変リアクタンス素子のリアクタンス値を、指向性に基づいて定まる値に設定する。
【0043】
電力受信部162は、方向探知アンテナ150の励振素子151が受信した受信信号の電力強度(受信電力強度)を検出する回路であり、特許請求の範囲の受信電力検出手段に相当する。この電力受信部162は、無線信号の電力を検出する種々の公知の回路を用いることができ、たとえばダイオード検波器を含む回路構成のものである。電力受信部162は、検出した受信電力強度を示す信号を図示しないAD変換回路を介して制御部110へ供給する。
【0044】
前述の制御部110は、さらに、指向性制御部161に指向性を指示する信号を出力する指向性指示処理を行う。指向性制御部161は、制御部110からの信号により、予め設定された探知範囲分、方向探知アンテナ150の指向性を変化させる。探知範囲は、本実施形態では0〜360°までであり、また、指向性の変化は、所定角度毎であって、ここでは30°毎である。また、360°指向性を変化させる時間は、無線タグ200が第1データあるいは第2データを送信する時間と同じに設定されている。なお、無線タグ200は、第1データ、第2データを、予め設定されたタグ送信時間で送信するようになっている。
【0045】
さらに、制御部110は、指向性制御処理を実行して指向性を指示する毎に、電力受信部162から取得した受信電力強度を、メモリ111の受信電力強度バッファ領域(以下、単に受信電力強度バッファ)に逐次記憶する。受信電力強度バッファには、インデックスが付与されており、インデックスと指向性との対応関係が予め設定されている。より具体的には、図8に示すように、インデックス1〜12は、そのまま指向性の設定方向1〜12に対応する。インデックスが12よりも大きい値の場合には、そのインデックスを12で割った余りの値が設定方向に対応する。なお、指向性の設定方向1〜12は、これらの数値に30を乗じた方位に指向性を設定することを意味する。制御部110は、指向性を次の設定方向とする指示を行った後に取得した受信電力強度を、受信電力強度が記憶済みのインデックスに1を加えたインデックスに記憶する。
【0046】
また、制御部110は、復号部132から取得した信号に基づいて、無線タグ200が送信した第1データ、第2データの受信に成功したか否かを判断し、少なくともいずれか一方の受信に成功していれば、第1データの受信終了時点および第2データの受信終了時点をともに決定する。これら受信終了時点は、特許請求の範囲の受信基準時点に相当する。また、それらデータの受信終了時点と、受信電力強度バッファの記憶内容とを利用して、無線タグ200の方向を決定する。これらの処理の詳細は後述する。
【0047】
コントローラ300は、前述の物体検知センサに接続されており、物体検知センサから、監視エリア内への移動物体の侵入を検知したことを示す信号を取得する。そして、コントローラ300は、この信号を取得した場合には、監視エリア内への移動物体の侵入を検知したことを示す信号を、無線タグリーダ100に出力する。
【0048】
次に、図3を用いて、無線タグ200の構成を説明する。図3は、無線タグ200の構成を示す図である。無線タグ200は、アクティブ方式の無線タグであり、内蔵電源210を備えている。この内蔵電源210の他に、無線タグ200は、送信部220、受信部230、アンテナ部240、切り替えスイッチ250、制御部260を備えており、内蔵電源210は、これらに電力を供給する。
【0049】
送信部220は、符号部221、変調部222を備えている。符号部221は制御部260から供給されるデータを符号化して変調部222に送る。変調部222は、符号部221からの符号を、たとえば、振幅変位変調などの変調方式により変調する。変調された信号は、図示しない増幅部により増幅された後、アンテナ部240へ出力される。
【0050】
アンテナ部240は、第1アンテナ241と第2アンテナ242とを備えており、第1アンテナ241と第2アンテナ242は、アンテナの角度が互いに異なる角度とされており、これにより、偏波が互いに異なっている。たとえば、第1アンテナ241および第2アンテナ242には、いずれも、チップアンテナあるいはパターンアンテナを用い、互いの角度が90°異なるようにする。これら第1アンテナ241、第2アンテナ242は、それぞれ、特許請求の範囲のタグ側第1アンテナ、タグ側第2アンテナに相当する。
【0051】
アンテナ部240と送信部220との間には、切り替えスイッチ250が配置されている。切り替えスイッチ250は、送信部220或いは受信部230を、第1アンテナ241に接続する状態と、第2アンテナ242に接続する状態とを切り替えるスイッチであり、制御部260により、接続状態が切り替えられる。
【0052】
送信部220から出力された信号は、切り替えスイッチ250の導通状態に応じて定まるアンテナ241、242から外部に送信される。また、切り替えスイッチ250により受信部230と接続状態となっている側のアンテナ241、242により受信された電波は、電気信号として受信部230に供給される。
【0053】
受信部230は、アンテナ部240が受信した電波を復調する復調部231と、復調部231が復調した信号を復号する復号部232とを備えている。復号部232は、復号した信号を制御部260へ供給する。
【0054】
制御部260は、送信部220および受信部230を制御する。また、制御部260は、タイマ261、メモリ262を備えている。タイマ261は、クロック発振器(図示せず)のクロックを計数することで計時を行う。メモリ262には、この無線タグ200のIDデータが記憶されている。
【0055】
制御部260は周期的に起動する。そして、動作モードを確認し、通常モードであればIDデータの送信等を行い、方向判定モードであれば、第1データ、第2データの送信等を行う。この制御部260の処理を図4のフローチャートを用いて詳しく説明する。また、図4の説明においては、図8に示す、無線タグ200および無線タグリーダ100の通信タイミング図も参照する。
【0056】
まず、ステップS1では、所定時間スリープする。この所定時間とは、次の動作周期の開始時が来るまでである。動作周期の開始時が来た時点で起動し、ステップS2において動作モードを確認する。動作モードは通常モードか方向判定モードのいずれかであり、ステップS10またはステップS22で動作モードが設定される。
【0057】
動作モードが通常モードである場合にはステップS3へ進み、方向判定モードである場合にはステップS11へ進む。ステップS3ではIDデータを送信する。具体的には、制御部260は、IDデータを送信部220へ出力する。送信部220はIDデータを符号化した後に変調してアンテナ部240へ出力する。送信部220からアンテナ部240へ出力された信号は、切り替えスイッチ250により送信部220と接続されている側のアンテナ241、242から送信される。
【0058】
続くステップS4ではカウンタを1つインクリメントする。ステップS5では、カウンタが偶数であるか否かを判断する。この判断が肯定判断であればステップS6を実行し、否定判断であればステップS17を実行する。ステップS6では、受信を行うアンテナとして第1アンテナ241を選択する。具体的には、第1アンテナ241と接続する信号を切り替えスイッチ250に出力する。一方、ステップS7では、受信を行うアンテナとして第2アンテナ242を選択する。これらステップS6またはステップS7を実行後は、ステップS8へ進む。ステップS8では、コマンド受信処理を行う。この処理は、受信部230が復号した信号を制御部260が取得し、制御部260は、取得した信号にコマンドが含まれているかを判断し、コマンドが含まれている場合には、コマンドに応じた処理を行うものである。
【0059】
ステップS9では、上記ステップS8で方向判定コマンドを受信したか否かを判断する。この判断が否定判断であれば、ステップS10を実行せずにステップS1へ戻る。一方、肯定判断であればステップS10を実行する。ステップS10では、動作モードを方向判定モードに設定する。
【0060】
ステップS2において方向判定モードであると判断した場合には、ステップS11において、切り替えスイッチ250を第1アンテナ241と接続することにより、データ送信に用いるアンテナとして、第1アンテナ241を選択する。続くステップS12では、第1データを、第1アンテナ241から送信する。この第1データは予め設定された内容であり、よって、送信時間が一定となる。図8(A)に示す第1データ送信期間が、このステップS12において第1データを送信する期間である。
【0061】
続くステップS13では、切り替えスイッチ250を第2アンテナ242と接続することにより、データ送信に用いるアンテナとして、第2アンテナ242を選択する。
【0062】
ステップS14では、送信タイミング調整を行う。送信タイミング調整とは、第1データの送信終了から第2データの送信開始までの時間を所定のインターバル時間とすることである。図8(A)において、第1データ送信期間と第2データ送信期間の間が、このインターバル時間である。送信タイミング調整の後、すなわち、インターバル時間が経過した後、ステップS15において、第2アンテナ242から第2データを送信する。この第2データも予め設定された内容であり、第1データと区別可能な内容となっているが、送信時間は第1データと同じ送信時間となるようになっている。図8(A)に示す第2データ送信期間が、このステップS15において第2データを送信する期間である。
【0063】
続くステップS16ではカウンタを1つインクリメントする。そして、ステップS17では、カウンタが偶数であるか否かを判断する。この判断が肯定判断であればステップS18を実行後、ステップS19へ進むが、否定判断であれば、直接、ステップS19へ進む。
【0064】
ステップS18では、切り替えスイッチ250を第1アンテナ241と接続する。その後、ステップS19へ進む。なお、ステップS18を実行せずにステップS19に進んだ場合には、ステップS13で第2アンテナ242を選択したままとなっている。
【0065】
ステップS19では、一定期間、コマンド受信処理を行う。このステップS19の処理はステップS8と同じである。また、一定期間は、後述する図5においてステップS43(方向判定コマンドを送信するステップ)を実行後、次にそのステップS43を実行するまでの期間である。
【0066】
続くステップS20では、方向判定コマンドを受信したか否かを判断する。後述するが、無線タグリーダ100は、無線タグ200からのデータを受信した場合には、方向判定コマンドを送信するようになっている。よって、方向判定コマンドを受信しない場合には、無線タグ200は、無線タグリーダ100の通信圏外になったと判断できる。そこで、このステップS20の判断が否定判断であった場合にはステップS22にて、動作モードを通常モードに設定する。その後、ステップS1へ戻る。一方、ステップS20の判断が肯定判断であった場合にはステップS21へ進み、方向判定モードを継続すると決定する。その後、ステップS1へ戻る。
【0067】
次に、無線タグリーダ100の制御部110の動作を説明する。図5は、無線タグリーダ100の制御部110が実行する方向検出処理を示すフローチャートである。この方向検出処理は、物体検知センサの監視エリア内への物体の侵入を検知したことを示す信号をコントローラ300から取得したことにより開始する。そして、物体検知センサが監視エリア内に移動物体を検知しなくなるまで、この方向検出処理を継続する。
【0068】
ステップS30では、受信電力強度測定処理を開始する。受信電力強度測定処理は図6に示す。この受信電力強度測定処理をまず説明する。ステップS301では、指向性制御部161に指向性を指示する信号を出力することにより、方向探知アンテナ150の指向性を設定する。設定する指向性は、初回の実行時は、予め設定された初期方位(たとえば0°)であり、2回目以降は、その時点における方位に30°を加えた方位である。
【0069】
続くステップS302では、予め設定された測定タイミングとなるまで待つ。測定タイミングとは、上述のステップS301にて指向性を指示する信号を出力してから、その信号に応じてリアクタンス素子のリアクタンス値が変更になって、方向探知アンテナ150の指向性が、指示した指向性に実際になるまでの時間を考慮したものである。図8(B)(2)において、多数の下向きの矢印が、この測定タイミングを示している。なお、図8(B)(1)に示すように、無線タグリーダ100の受信部130は、無線タグ200の第1データ送信期間および第2データ送信期間に対応して、第1データ受信期間、第2データ受信期間に、それぞれ、第1データ、第2データを受信する。また、方向検知部160(より正確には方向検知部160の電力受信部162)は、図8(B)(2)に示すように、連続的に受信電力強度を検出する。
【0070】
測定タイミングとなった場合には、ステップS303にて受信電力強度を測定する。より詳しくは、測定タイミングとなったときに、電力受信部162から受信電力強度を取得する。続くステップS304ではインデックスを1つインクリメントする。なお、インデックスの初期値は0であり、初回の実行時は、このステップS304の処理により、インデックスが1となる。そして、ステップS305では、ステップS303で測定した受信電力強度を、受信電力強度バッファにおいて、ステップS304でインクリメントした後のインデックスに保存する。図8(B)(3)には、このステップS305で順次保存される受信電力強度を概念的に示している。なお、この図8(B)(3)には、インデックス、受信電力強度の他に、説明の都合上、設定方向も示している。受信電力強度バッファは、インデックスに受信電力強度を記憶するものであり、指向性の設定方向は記憶されない。しかし、設定方向は、前述のように、インデックスとの対応関係が予め設定されている。つまり、インデックスが定まれば指向性は一義的に定まるようになっており、インデックスにより、指向性と受信電力強度は互いに関連付けられている。
【0071】
このステップS305を実行後は、ステップS301へ戻る。この図6に示す処理を繰り返していくことにより、図8(B)(3)に示すように、受信電力強度バッファには、順次、受信電力強度が保存されていくことになり、且つ、その受信電力強度は、時間の経過に対応した大きさのインデックスに対応付けられることになる。
【0072】
説明を図5に戻す。ステップS31では、タグデータの受信処理を行う。タグデータとは、無線タグ200から送信されるデータのことであり、具体的には、IDデータ、第1データ、第2データである。ステップS31における具体的な処理は、受信部130から信号を取得し、取得した信号が無線タグ200からの信号であるかどうかを判断する処理である。
【0073】
ステップS32では、上記ステップS31の処理の結果、タグデータを受信できたか否かを判断する。前述した受信成功となった場合には、タグデータかどうかの判断が可能である。一方、受信エラーの場合には、タグデータかどうかの判断はできない。従って、このステップS32の判断が肯定判断となった場合には、受信に成功している。この判断が肯定判断である場合にはステップS33へ進み、否定判断である場合にはステップS45へ進む。
【0074】
ステップS33では、受信したタグデータが、IDデータであるか、第1あるいは第2データであるかを判断する。IDデータを受信した場合にはステップS34へ進み、方向判定コマンドを送信する。このステップS34で送信した方向判定コマンドを無線タグ200が受信すると、図4のステップS9が肯定判断となって、無線タグ200は方向判定モードに移行する。そして、第1データ、第2データを送信するようになる。
【0075】
ステップS33において、受信したデータが第1データであると判断した場合にはステップS35へ進み、第2データであると判断した場合にはステップS38へ進む。ここで、第2インデックスは、第2データの受信終了時点のインデックスを意味し、第1インデックスは、第1データの受信終了時点のインデックスを意味する。
【0076】
ステップS35では、ステップS33で受信したと判断した第1データの受信終了時点のインデックスを第1インデックスとする。
【0077】
ステップS36では、第2データを受信できないときに備えて、タイムアウト時間(受信できないと判断するまでの時間)を設定する。ステップS37では、第1データが受信できたことを示す第1データ受信フラグを設定する。ステップS37を実行後は、ステップS31へ戻る。
【0078】
第2データを受信したと判断した場合に実行するステップS38では、ステップS33で受信したと判断した第2データの受信終了時点のインデックスを第2インデックスとする。ステップS39では、第2データ受信に対するタイムアウトをクリアする。続くステップS40では、第1データを受信しているか否かを、第1データ受信フラグにより判断する。第1データを受信していると判断した場合には、ステップS41を実行せずに、直接、ステップS42へ進む。一方、第1データを受信していないと判断した場合には、ステップS41へ進む。
【0079】
ステップS41では、第2インデックスを用いて第1インデックスを算出する。このステップS41を実行する状況では、第2データの受信には成功したが、第1データは受信できていない。そこで、受信に成功した第2データの受信終了時点を示している第2インデックスを用いて、第1インデックスを算出するのである。ステップS41の処理を詳しく説明すると次の通りである。前述したように、無線タグリーダ100は、メモリ111に、第1データ、第2データの互いの送信終了時点の時間差を記憶している。この時間差分のインデックスを、第2インデックスから減算することで、第1インデックスを算出する。図8の例で説明すると、上記時間差分のインデックスは「15」であり、第2インデックスは「31」である。よって、31−15=16となり、第1インデックスを「16」に設定することになる。
【0080】
ステップS41を実行したら、ステップS42において方向判定コマンドを送信する。このステップS42で送信した方向判定コマンドを無線タグ200が受信すると、図4のステップS20が肯定判断となって、無線タグ200は方向判定モードを継続する。
【0081】
ステップS42を実行後は、ステップS43の方向判定処理を実行する。このステップS43を説明する前に、ステップS44以降を説明する。タグデータを受信していないと判断した場合に実行するステップS44では、第2データの受信に対して、ステップS36で設定したタイムアウト時間に到達したか否かを判断する。この判断が否定判断であればステップS31へ戻り、肯定判断であればステップS45へ進む。
【0082】
このステップS45に進むのは、第2データの受信に対して、ステップS36で設定したタイムアウト時間に到達した場合であり、第1データの受信には成功している。
【0083】
このステップS45では、第1インデックスを用いて第2インデックスを算出する。この算出には、メモリ111に記憶されている前述の時間差、すなわち、第1データ、第2データの互いの送信終了時点の時間差を用いる。この時間差分のインデックスを第1インデックスに加算することで、第2インデックスを算出する。図8の例で説明すると、上記時間差分のインデックスは「15」であり、第1インデックスは「16」である。よって、16+15=31となり、第2インデックスを「31」に設定することになる。このステップS45の処理により、図8(B)(1)に例示したように、第1データは受信できたが、第2データは受信エラーとなった場合であっても、第2インデックスは、第2データの受信終了時点のインデックスとなる。
【0084】
続くステップS46では、第1データ受信フラグをクリアし、その後、ステップS42に進む。ステップS42に進む状態では、第1データ、第2データともに受信しているか(ステップS40がYES)、受信が成功したデータによって決定した第1インデックスあるいは第2インデックスから、受信ができなかった他方のインデックスを算出している(ステップS41、S45)。よって、第1インデックス、第2インデックスがともに正確に決定されている状態である。なお、第1インデックス、第2インデックスは、特許請求の範囲の受信基準時点に相当しており、これら第1インデックス、第2インデックスを設定するステップS35、38、41、45が受信基準時点決定手段に相当する。
【0085】
ステップS42は既に説明したので、次にステップS43を説明する。ステップS43の方向判定処理の内容は図7に示している。なお、この方向判定処理は、特許請求の範囲の方向決定手段に相当する。まず、ステップS441では、第1インデックスを最後のインデックスとして、受信電力強度バッファから、方向探知アンテナ150の12方位分(すなわち指向性の変化が360°分)の受信電力強度を取得する。図8(B)(3)の例では、第1インデックスには「16」が入っていることになり、この「16」を最後のインデックスとして12インデックス分、すなわち、インデックス5〜16が、12方位分のインデックスとなる。よって、インデックス5〜16に対応する受信電力強度を取得する。このインデックス5〜16の期間には、第1データを受信しており、このインデックス5〜16に対応する受信電力強度が第1受信電力強度である。
【0086】
続くステップS442では、上記ステップS441で取得した12方位分の受信電力強度のうちの最大値を、第1データに基づく無線タグ200の推定方向(第1推定方向という)に決定する。
【0087】
続くステップS443では、第2インデックスを最後のインデックスとして、受信電力強度バッファから、方向探知アンテナ150の12方位分の受信電力強度を取得する。図8(B)(3)の例では、第2インデックスには「31」が入っていることになり、この「31」を最後のインデックスとして12インデックス分、すなわち、インデックス20〜31が、12方位分のインデックスとなる。よって、インデックス20〜31に対応する受信電力強度を取得する。このインデックス20〜31の期間には、第2データを受信しており、このインデックス20〜31に対応する受信電力強度が第2受信電力強度である。
【0088】
続くステップS444では、上記ステップS443で取得した12方位分の受信電力強度のうちの最大値を、第2データに基づく無線タグ200の推定方向(第2推定方向という)に決定する。
【0089】
最後のステップS445では、ステップS442で決定した第1推定方向の受信電力強度と、ステップS444で決定した第2推定方向の受信電力強度とを比較して、より強度が強い側を、最終的に、無線タグ200が存在する方向に決定する。
【0090】
以上、説明した本実施形態によれば、無線タグリーダ100の受信部130は、通信アンテナ140を、受信成功率の高い水平偏波を受信可能なアンテナとしており、その通信アンテナ140が受信した電波を復調および復号する。しかも、無線タグ200は、偏波が互いに異なる2つのアンテナ241、242から第1、第2データを送信する。よって、第1データおよび第2データの少なくとも一方の受信に成功する受信成功率は、無線タグ200が1つのアンテナのみからデータを送信する場合や、無線タグリーダ100が、垂直偏波を受信するためのアンテナにより受信した電波を用いてデータの復調、復号を行う場合よりも高くなる。
【0091】
さらに、無線タグリーダ100は、方向探知アンテナ150も備えており、この方向探知アンテナ150は垂直偏波を受信可能なアンテナである。図5のステップS44の方向判定処理では、方向探知アンテナ150により受信された電波の受信電力強度のうち、データが受信された期間内であって、探知範囲分(360°分)を指向性が変化したときのものを受信電力強度バッファから取得して無線タグ200の方向を決定する。ここで、仮に、垂直偏波を受信可能な方向探知アンテナ150が受信した電波を復調、復号してデータ受信の成否を判断する場合にはデータ受信成功率が低下する。
【0092】
しかし、本実施形態では、データの受信が成功したか否かは、水平偏波を受信するための通信アンテナ140が受信した電波を用いていることから、受信成功率が高い。よって、第1データ、第2データの受信終了時点を精度よく決定できる。すなわち、第1データ、第2データの受信終了時点を精度よく決定でき、且つ、垂直偏波を受信するための方向探知アンテナ150で受信した受信電力強度を用いて無線タグ200の方向を決定するので、無線タグ200の方向を精度よく決定することができる。
【0093】
さらに、本実施形態によれば、第1データ受信期間および第2データ受信期間の2つの受信期間に受信した受信電力強度を利用して、無線タグ200の方向を決定しているので、無線タグ200の方向決定精度がより向上する。しかも、第1データおよび第2データのいずれか一方のみしか受信できなかった場合であっても、一方のデータの受信終了時点(第1インデックスあるいは第2インデックス)から他方のデータの受信終了時点を算出するので(ステップS41、S45)、両方のデータの受信電力強度を比較することができる。よって、一方のデータしか受信できなかった場合にも、両方のデータが受信成功した場合と同じ精度で方向判定ができる。
【0094】
この本実施形態の効果を図9を用いて説明する。図9は、図10と同様に、無線タグを携帯した人が、無線タグリーダに対して180°方向(正面方向)から近づいたときの通信成功率、方向判定結果を示す図である。ただし、無線タグリーダおよび無線タグには、本実施形態のものを用いている。この図9に示すように、通信成功率は、最も低いときでも、40%以上となっており、また、方向判定結果も、180°から大きくずれる点が少なくなっている。その結果、動線追跡処理結果は、ほぼ、180°方向に無線タグ200を推定できている。なお、動線追跡処理結果は、方向判定結果の8つのデータの移動平均値である。
【0095】
また、本実施形態によれば、無線タグ200の受信成功率も向上している。その理由は次の通りである。無線タグリーダ100は、アンテナ素子が水平に配置された通信アンテナ140から、方向判定コマンドを逐次送信している。よって、方向判定コマンドは通信成功率が高い水平偏波で送信される。また、無線タグ200は、第1アンテナ241、第2アンテナ242を交互に用いてコマンド受信処理を行う。これら第1アンテナ241および第2アンテナ242は偏波が互いに異なることから、水平偏波に対する受信感度は、いずれか一方が他方よりも高くなる。よって、いずれか一方のアンテナのみを用いて常にコマンド受信処理を行う場合に比較して、受信成功率を向上させることができるのである。
【0096】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0097】
たとえば、前述の実施形態では、通信アンテナ140は、水平偏波を受信できるようにするために、アンテナ素子を水平に配置していた。しかし、これに限られず、円偏波を受信できるアンテナや斜め偏波を受信できるアンテナでも、水平偏波を受信することができる。そこで、円偏波を受信できるアンテナや斜め偏波を受信できるアンテナを通信アンテナ140として用いてもよい。
【0098】
また、前述の実施形態では、方向探知アンテナ150が360°指向性を変化させる時間は、無線タグ200が第1データあるいは第2データを送信する時間とほぼ同じに設定されていた。しかし、方向探知アンテナ150が360°指向性を変化させる時間を、無線タグ200が第1データあるいは第2データを送信する時間よりも短い時間としてもよい。
【0099】
また、前述の実施形態では、第1データおよび第2データのいずれか一方のみの受信に成功し、他方は受信エラーとなった場合、受信が成功したデータに基づいて、受信エラーとなったデータの受信終了時点を算出していた(ステップS41、S45)。そして、このようにして算出した受信終了時点を用いることで、受信エラーとなったデータも用いて方向判定を行うことができるようにしていた。しかし、受信が成功したデータのみを利用して方向判定を行ってもよい。受信が成功したデータのみを利用する場合にも、無線タグ200が、偏波が互いに異なる第1、第2アンテナからデータを送信し、無線タグリーダ100が水平偏波を受信することができる通信アンテナ140によりデータ受信成否を判断する構成により受信成功率が向上し、また、方向判定を行うための受信電力強度は、垂直偏波を受信できる方向探知アンテナ150が受信したものを用いる構成により、方向判定精度も向上する。
【0100】
また、前述の実施形態では、無線タグリーダ100は、第1データ、第2データの互いの送信終了時点の時間差を予めメモリ111に記憶していた。しかし、これに限られず、第1データ、第2データの受信にともに成功したとき(図5のステップS40がYES)、受信が成功したそれら第1データ、第2データから時間差を決定してメモリ111に記憶するようにしてもよい。
【0101】
さらに、以下のようにすることもできる。無線タグ200は、上記第1データ、第2データとしてIDを含んだデータを送信し、無線タグリーダ100は、第1データ、第2データの受信にともに成功したときは、それらのデータから時間差を決定するとともに、それらのデータに含まれているIDを、時間差に対応付けてメモリ111に記憶する。その記憶後、第1データ、第2データのいずれか一方のみ受信が成功したときは(図5のステップS40がNO、あるいはステップS44がYES)、メモリ111に記憶している時間差のうち、受信が成功したデータに含まれているIDと対応付けられている時間差を用いて、第1インデックスあるいは第2インデックスを算出する。
【0102】
このようにすれば、受信が成功していない他方のデータのインデックスを算出するために、受信が成功したデータに含まれているIDに応じて異なる時間差を用いることができる。よって、無線タグ200のバージョンが異なる等により、第1インデックスと第2インデックスとの時間差が複数種類存在するとしても、受信が成功していない他方のインデックスを正しく決定することができる。
【符号の説明】
【0103】
100:無線タグリーダ、 101:通信圏、 110:制御部、 111:メモリ(電力強度記憶手段)、 112:タイマ、 120:送信部、 121:符号部、 122:変調部、 123:増幅部、 130:受信部、 131:復調部、 132:復号部、 140:通信アンテナ(リーダ側第1アンテナ)、 150:方向探知アンテナ(リーダ側第2アンテナ)、 151:励振素子、 152:非励振素子、 160:方向検知部、 161:指向性制御部、 162:電力受信部(受信電力検出手段)、 200:無線タグ、 210:内蔵電源、 220:送信部、 221:符号部、 222:変調部、 230:受信部、 231:復調部、 232:復号部、 240:アンテナ部、 241:第1アンテナ(タグ側第1アンテナ)、 242:第2アンテナ(タグ側第2アンテナ)、 250:切り替えスイッチ、 260:制御部、 261:タイマ、 262:メモリ、 300:コントローラ、 S37:方向判定処理(方向決定手段)、 S35、36、42、46、47:受信基準時点設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線タグと、その無線タグと通信を行う無線タグリーダとを備え、無線タグリーダが無線タグの方向探知を行う無線タグ方向探知システムであって、
前記無線タグは、
偏波が互いに異なるタグ側第1アンテナおよびタグ側第2アンテナを備え、
前記第1アンテナから第1データを送信した後、第2アンテナから第2データを送信し、
前記第1データ及び前記第2データは、予め決めたタグデータ送信時間以上の長さを持ち、
前記無線タグリーダは、
水平偏波を受信するためのリーダ側第1アンテナと、
垂直偏波を受信するためのリーダ側第2アンテナと、
前記リーダ側第1アンテナに接続され、リーダ側第1アンテナが受信した電波を復調および復号する受信手段と、
前記リーダ側第2アンテナに接続され、リーダ側第2アンテナの指向性を順次設定して、前記無線タグが前記タグ送信時間以下の時間で、予め設定された探知範囲分、指向性を変化させる指向性制御手段と、
前記リーダ側第2アンテナに接続され、リーダ側第2アンテナが受信した電波の電力強度を検出する受信電力検出手段と、
前記指向性制御手段が設定した指向性に関連付けて、その指向性で前記受信電力検出手段が検出した受信電力強度を記憶する電力強度記憶手段と、
前記受信手段が復号した信号を取得して第1データおよび第2データの受信が成功したか否かを決定し、受信が成功したデータに基づいて、第1データおよび第2データの少なくとも一方の受信基準時点を決定する受信基準時点決定手段と、
その受信基準時点決定手段が決定した受信基準時点に基づいて、前記電力強度記憶手段に記憶されている受信電力強度のうち、データの受信期間内であって、指向性が前記探知範囲分を変化したときの受信電力強度を取得し、取得した受信電力強度を用いて前記無線タグの方向を決定する方向決定手段と
を備えることを特徴とする無線タグ方向探知システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記受信基準時点決定手段は、第1データおよび第2データの受信がともに成功したと決定した場合には、受信が成功した第1データを用いて第1データの受信基準時点を決定し、受信が成功した第2データを用いて第2データの受信基準時点を決定し、
前記方向決定手段は、前記受信基準時点決定手段が決定した第1データの受信基準時点および第2データの受信基準時点に基づいて、前記電力強度記憶手段に記憶されている受信電力強度のうち、第1データの受信期間内であって、指向性が前記探知範囲分を変化したときの第1受信電力強度と、第2データの受信期間内であって、指向性が前記探知範囲分を変化したときの第2受信電力強度とを取得し、取得した前記第1受信電力強度及び前記第2受信電力強度を用いて無線タグの方向を決定することを特徴とする無線タグ方向探知システム。
【請求項3】
請求項2において、
前記無線タグは、前記第1データの送信時間、前記第2データの送信時間、および、第1データの送信終了から第2データの送信開始までの時間が予め定まっており、
前記無線タグリーダは、前記第1データの受信基準時点と第2データの受信基準時点との時間差を記憶しており、
前記受信基準時点決定手段は、第1データおよび第2データのいずれか一方のみ受信が成功したと決定した場合には、受信が成功したデータの受信基準時点と前記時間差とに基づいて、他方のデータの受信基準時点を決定することを特徴とする無線タグ方向探知システム。
【請求項4】
請求項3において、
前記第1データ及び前記第2データは、前記無線タグを特定するためのタグ識別情報を含み、
前記無線タグリーダは、第1データおよび第2データの受信がともに成功したと決定した場合に、受信が成功したそれら第1データ、第2データに基づいて前記時間差を決定して記憶し、且つ、受信が成功した前記第1データまたは前記第2データに含まれる前記タグ識別情報を前記時間差とともに記憶し、
前記受信基準時点決定手段は、第1データおよび第2データのいずれか一方のみ受信が成功したと決定した場合には、受信したデータから得たタグ識別情報に基づいて、記憶している時間差から当該タグ識別情報に対応する時間差を決定し、決定した時間差と受信が成功したデータの受信基準時点とに基づいて、他方のデータの受信基準時点を決定することを特徴とする無線タグ方向探知システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、
前記無線タグリーダは、逐次、前記リーダ側第1アンテナから、前記無線タグに、方向判定モードを指示するコマンドを送信し、
前記無線タグは、逐次、前記無線タグリーダから送信されるコマンドを受信するためのコマンド受信処理を行うようになっており、且つ、前記タグ側第1アンテナおよびタグ側第2アンテナを交互に用いて当該コマンド受信処理を行うことを特徴とする無線タグ方向探知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−211778(P2012−211778A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76481(P2011−76481)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】