説明

無線基地局、アンテナウェイト設定方法

【課題】アンテナにおいて送受信される電波の垂直面内および/または水平方向の指向性をより短時間で所望の方向に調整することを可能とする無線基地局、アンテナウェイト設定方法を提供すること。
【解決手段】無線基地局は、ウェイト設定部と受信部と制御部を備える。ウェイト設定部は、自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときの所定のアンテナウェイトを設定する。受信部は、自局に接続されている第1移動端末、および自局に隣接する第2無線基地局に接続されている第2移動端末から、参照信号を受信する。制御部は、第1移動端末から受信する前記参照信号と、第2移動端末から受信する前記参照信号とに基づく自局のエリア内の受信品質の指標値に応じたアンテナウェイトを前記所定のアンテナウェイトとしてウェイト設定部に与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信システムにおいて基地局で送受信される電波の垂直面内および/または水平方向の指向性を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動通信システムでは、予めサービスを提供する通信事業者がセルカバレッジ、すなわち無線基地局(以下、単に「基地局」という。)毎の移動端末に対するサービスエリアを決定し、そのサービスエリアが得られるように基地局に対して、アンテナのチルト角等の無線パラメータを設定している。所定の無線パラメータを設定してシステムの運用を開始した場合、システムの運用条件の変更、無線環境の変化(例えば、新規の建造物によるパスロス(path loss)の変化)によって当初予定していたサービスエリアが後発的に得られなくなることがある。そこで通信事業者は、システムのユーザに対する通信サービスの品質を維持するため、基地局からの電波の受信電力を電波測定装置等で測定することにより、基地局のサービスエリアを測定している。その測定結果としてのサービスエリアと、当初予定していた目標とするサービスエリアとが比較され、必要に応じて無線パラメータの変更が定期的又は不定期に行われる。
【0003】
上述した無線パラメータの変更は、トラフィックの変動等の無線環境の変化に応じて逐次行われることになるため、保守のための高いコストが掛かる。そこで、移動通信システムにおいて、基地局のアンテナのチルト角を動的に調整するチルト角決定方法が知られている。公知のチルト角決定方法の一例によれば、以下の複数のステップ、すなわち、チルト角の初期値を設定するステップと、チルト角が初期値でのシステム(サービスエリア等)の劣化率を計算するステップと、チルト角を小さくするアンテナを選出するステップと、選出したアンテナのチルト角を小さくするステップと、チルト角を小さくしたときの劣化率を計算するステップと、それら一連のチルト角を小さくする処理、あるいは大きくする処理を繰り返し、繰り返しの継続判定をするステップと、を有する。さらに、劣化率が小さくなるチルト角を出力するステップと、上記全体を繰り返す処理の終了を判定するステップとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開番号WO2005/013632
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アンテナのチルト角を動的に調整するための上述した従来の方法では、複数の基地局のアンテナのチルト角を決定するための装置が設けられており、その装置が各基地局のチルト角を変更しながらエリア内の品質変化を観測して最適なチルト角を探索する。つまりチルト角を少し変更する度にシステムの劣化率を算出し、許容できる劣化率になるまでチルト角の変更を繰り返す処理が行われる。そのため、チルト角の最適値の探索に時間が掛かり、最適値の探索中にエリア内の受信品質が頻繁に変動する虞がある。
【0006】
よって、発明の1つの側面では、アンテナにおいて送受信される電波の垂直面内および/または水平方向の指向性をより短時間で所望の方向に調整することを可能とする無線基地局、アンテナウェイト設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の観点は、アンテナを備え、送受信される電波の垂直面内および/または水平面内の指向性を前記アンテナに設定されるアンテナウェイトによって調整可能な無線基地局である。
この無線基地局は、
自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときの所定のアンテナウェイトを設定するウェイト設定部;
自局に接続されている第1移動端末、および自局に隣接する第2無線基地局に接続されている第2移動端末から、参照信号を受信する受信部;
第1移動端末から受信する参照信号と、第2移動端末から受信する参照信号とに基づく自局のエリア内の受信品質の指標値に応じたアンテナウェイトを上記所定のアンテナウェイトとしてウェイト設定部に与える制御部;
を備える。
【0008】
第2の観点は、別の無線基地局である。
この無線基地局は、
自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときの所定のアンテナウェイトを設定するウェイト設定部;
自局に接続されている各移動端末から、下りの参照信号の移動端末における受信電力である第1受信電力の報告を受ける受信部;
第1受信電力に対して自局から各移動端末までの距離に応じた係数を乗ずることによって、自局に隣接する第2無線基地局から当該第2無線基地局に接続している移動端末が受信する参照信号の受信電力である第2受信電力を推定する推定部;
各移動端末における第1受信電力と第2受信電力に基づく自局のエリア内の受信品質の指標値に応じたアンテナウェイトを上記所定のアンテナウェイトとしてウェイト設定部に与える制御部;
を備える。
【0009】
第3の観点は、アンテナを備え、送受信される電波の垂直面内および/または水平面内の指向性を前記アンテナに適用されるアンテナウェイトによって調整可能な無線基地局と、無線基地局と無線通信を行う移動端末とを含む移動通信システムにおいて、無線基地局が上りおよび下りリンクに共通のアンテナウェイトを設定するためのアンテナウェイト設定方法である。
【0010】
第4の観点は、アンテナを備え、送受信される電波の垂直面内および/または水平面内の指向性を前記アンテナに適用されるアンテナウェイトによって調整可能な複数の無線基地局と、前記複数の無線基地局の各々と通信して各無線基地局を制御するための制御局と、各無線基地局と無線通信を行う移動端末とを含む移動通信システムにおいて、各無線基地局における上りおよび下りリンクに共通のアンテナウェイトを設定するためのアンテナウェイト設定方法である。
このアンテナウェイト設定方法は、
各無線基地局は、自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときのアンテナウェイトを設定すること;
各無線基地局は、自局に接続されている各移動端末から、自局および隣接する他の無線基地局の下りの参照信号の移動端末における受信電力の情報を含む第1受信情報の報告を受けること;
各無線基地局は、前記第1受信情報に基づいて、自局および上記他の無線基地局の前記アンテナウェイトをキャンセルしたときの受信電力である基準電力を移動端末ごとに算出し、当該基準電力を制御局へ報告すること;
制御局は、各無線基地局から報告を受けた移動端末ごとの基準電力に基づいて、上記複数の無線基地局のエリア内の移動端末の平均受信品質の指標値に応じて、各無線基地局のアンテナウェイトの組み合わせを特定し、共通のデータを送信するときの新たなアンテナウェイトとして各無線基地局宛に通知すること;
を含む。
【発明の効果】
【0011】
開示の無線基地局、アンテナウェイト設定方法によれば、アンテナにおいて送受信される電波の垂直面内および/または水平方向の指向性をより短時間で所望の方向に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態の移動通信システムの概要を示す図。
【図2】第1の実施形態の基地局におけるアンテナシステムについて概念的に示す図。
【図3】第1の実施形態の移動通信システムにおいて、基地局において実行されるアンテナウェイト設定方法を示すフローチャート。
【図4】第1の実施形態の基地局の構成の要部を示すブロック図。
【図5】第1の実施形態の基地局の構成の詳細を示すブロック図。
【図6】第1の実施形態において、四角構成の平面アレーのアレーアンテナの物理的配置と、各アンテナに対して設定される概念的なアンテナウェイト設定とを示す図。
【図7】第1の実施形態において、基地局を平面視で見たときの水平面内の指向性と、移動端末からの信号到来方向とを示す図。
【図8】第2の実施形態において、参照信号の受信電力の推定方法を説明する図。
【図9】第3の実施形態の移動通信システムにおいて、基地局において実行されるアンテナウェイト設定方法を示すフローチャート。
【図10】第3の実施形態の移動通信システムにおいて、エリア内SINR算出の基礎とする移動端末を制限する状況を例示する図。
【図11】第3の実施形態の移動通信システムにおいて、エリア内SINR算出の基礎とする移動端末を制限する状況を例示する図。
【図12】第4の実施形態の移動通信システムの概要を示す図。
【図13】第4の実施形態の移動通信システムにおいて、各基地局のアンテナウェイト設定方法を示すフローチャート。
【図14】第4の実施形態の制御局および基地局の構成の要部を示すブロック図。
【図15】第4の実施形態の制御局および基地局の構成の詳細を示すブロック図。
【図16】第5の実施形態においてトリガ部の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、複数の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、基地局のセルまたはサービスエリアを適宜、単に「エリア」と表記する。また、例えば制御局によって管理される複数の基地局のエリアを包含する地理的領域を適宜、「管理エリア」と表記する。
【0014】
(1)第1の実施形態
(1−1)移動通信システム
図1に本実施形態の移動通信システムの概要を示す。図1に示すように、本実施形態の移動通信システムには、所定のエリア内に複数の無線基地局(以下、単に「基地局」という。)が存在する。図1では一例として互いに隣接して配置されている2基地局を示している。以下の説明では、送受信される電波の垂直面内の指向性の調整対象となる基地局を基地局#pとし、基地局#pに隣接する基地局(以下、適宜「隣接局」ともいう。)を基地局#p’とする。基地局#pは第1無線基地局の一例であり、基地局#p’は第2無線基地局の一例である。
なお、本実施形態の基地局は、アレーアンテナを備え、送受信される電波の垂直面内の指向性をアレーアンテナの各アンテナに設定されるアンテナウェイト(複素)によって調整可能となっている。かかるアレーアンテナを備えた基地局では、各アンテナに対するアンテナウェイトを変更することによって、アンテナの機構的配置を変更することなく電気的に電波の垂直面内の指向性(例えば、アンテナから放射される電波のメインローブの方向)を変更できる。
以下の説明では、アンテナウェイトにより電気的に設定される、電波の垂直面内の指向性を適宜、「チルト角」あるいは「チルト方向」と表記する。また、図1に示すように、水平方向に対してチルト方向の向く角度φをチルト角と定義する。
【0015】
図1において、移動端末#qは基地局#pのセル内に位置し、基地局#pとコネクションが確立されている。一方は、移動端末#q’は基地局#pの隣接局である基地局#p’のセル内に位置し、基地局#p’とコネクションが確立されている。移動端末#qは第1移動端末の一例であり、移動端末#q’は第2移動端末の一例である。
以下の説明では適宜、各端末とコネクションが確立している基地局を適宜、「接続局」という。
図1に示す移動通信システムでは、基地局#pは、自局配下の移動端末#qに加えて、自局に隣接する基地局#p’の配下の移動端末#q’から既知の系列の参照信号(例えばパイロット信号)を定期的に受信するようになっている。例えば、基地局#pは、移動端末#q’の参照信号の送信タイミングおよび参照信号を復号するための情報を基地局#p’から取得することで、移動端末#q’からの受信信号を処理できる。そのような基地局間の通信は、例えばLTE(Long Term Evolution)の場合にはX2インタフェースを利用することができる。
図1では、基地局#pが移動端末から受信する信号の、水平方向に対する信号到来角度あるいは信号到来方向をθにより表記している。例えば、移動端末#qからの受信信号の信号到来角度はθであり、移動端末#q’からの受信信号の信号到来角度はθq’である。
【0016】
図2は、本実施形態の基地局におけるアンテナシステムについて概念的に示す図である。図2に示すように、本実施形態の基地局では、複数のアンテナA〜AN−1からなるアレーアンテナが垂直面内に配置される。各アンテナにはそれぞれ、w〜wN−1のアンテナウェイトの設定された複素乗算器(あるいは位相器)M〜MN−1が接続されている。このアンテナシステムでは、例えば受信時には、各アンテナの受信信号が複素乗算器によって振幅および/または位相が調整されて、後段の加算器によって加算される。このようなアンテナシステムを備えた基地局では、アンテナウェイトを適切に調整することでアレーアンテナ全体の垂直面内の指向性のゲイン(あるいはアンテナパターン)を調整することができる。
【0017】
基地局#pは、自局配下のすべての移動端末に対して共通のデータを送信する(つまり、一斉同報(ブロードキャスト)する)場合には、すべての移動端末向けに共通のアンテナウェイトを設定することになる。本実施形態の基地局では、このような一斉同報時の好ましいアンテナウェイトの設定を、移動端末から基地局宛に送信される参照信号に基づいて行う。
【0018】
(1−2)アンテナウェイト設定方法
次に、図3を参照して、本実施形態の移動通信システムにおいて、基地局において実行されるアンテナウェイト設定方法について説明する。図3は、本実施形態の移動通信システムにおいて、基地局#pが一斉同報時に好ましいアンテナウェイトを設定するときの、基地局#p、隣接局#p’、基地局#pに接続している移動端末#q、および、隣接局#p’ に接続している移動端末#q’の間のフローを示す図である。
【0019】
図3において先ず、基地局#pは、自局が隣接局#p’に接続している移動端末#q’からの参照信号を適切に受信して復号することを可能にするため、隣接局#p’から、移動端末#q’の参照信号の送信タイミング、参照信号を復号するための系列情報を取得する(ステップS10)。また、基地局#pでは、初期の時点においてアンテナのチルト角がφp0に設定されている(ステップS20)。このチルト角の初期設定角φp0は、図3に示すフローにおける調整前のチルト角である。このチルト角φp0によって定まるアンテナウェイトは、第1アンテナウェイトの一例である。
基地局#pは、自局に接続されている各移動端末#qのほか、隣接局#p’に接続されている各移動端末#q’から既知の系列の参照信号(例えばパイロット信号)を受信する(ステップS30)。ここで、基地局#pは、ステップS10において移動端末#q’の参照信号の送信タイミング、参照信号を復号するための系列情報を既に取得しているため、移動端末#q’から送信された参照信号を適切に処理できる。
【0020】
次に基地局#pは、各移動端末#q,#q’からの参照信号のそれぞれの信号到来角度θ,θq’を算出する(ステップS40)。信号到来角度θ,θq’は、後述するように、基地局#pのアレーアンテナの各アンテナウェイトの特性がチルト角の関数で表される場合、アレーアンテナ全体のゲインを最大とするチルト角を信号到来角度とする方法を用いて算出することができる。
【0021】
基地局#pが移動端末#qからの参照信号の信号到来角度の算出例について以下で説明するが、移動端末#q’からの参照信号の信号到来角度を算出する場合も同様である。
例えば、最も基本的なアレーアンテナとして、垂直面内に直線的に上下に配列され、アンテナ間の間隔を等間隔dとした等間隔リニアアレーを想定する。ここでは、基地局#pのアレーアンテナの各々のアンテナは垂直面内に無指向性とする。このとき、チルト角をφ、λを電波の波長としたときの、m=0〜N−1のN本のアンテナの各々のアンテナウェイトw(j:虚数単位)を以下の式(1)のとおりに設定する場合を想定する。この場合に、アレーアンテナ全体のゲイン(あるいはアンテナパターン)G(φ,θ)は、以下の式(2)のとおり表わされる。各式については、“電子情報通信学会、野本真一著、ワイヤレス基礎理論(例えば225-226頁)”を参照されたい。
【0022】
【数1】

【0023】
【数2】

【0024】
アレーアンテナを用いて移動端末からの参照信号の信号到来角度を算出する方法の一例として、ビーム形成法(Beamformer法)を挙げることができる。ビーム形成法については、“電子情報通信学会、野本真一著、ワイヤレス基礎理論(例えば231頁)”を参照されたい。ビーム形成法によれば、上記式(1)に含まれるφを少しずつ(例えば、0〜90°の範囲で1°ずつ)変更させてG(φ,θ)を計算する。そして、G(φ,θ)が最大値となるφを、移動端末#qからの信号到来角度θとする。同様にして、移動端末#q’からの信号到来角度θq’も算出できる。
【0025】
図3において、基地局#pが各移動端末からの信号到来角度を算出すると(ステップS40)、受信した参照信号についてアンテナウェイトを掛ける前の、つまりアンテナウェイトをキャンセルしたときの各アンテナの受信電力Sを、移動端末ごとに算出する(ステップS50)。この受信電力Sは、後述するように、基地局#pのエリア内の受信品質の指標値を得るために予め算出される。なお、受信電力Sは基準電力の一例である。
受信電力Sの算出式を以下の式(3)に示す。式(3)の右辺のS(φp0,θ)は、ステップS20で設定された初期設定角φp0における、アンテナウェイトを掛けた後の受信信号(図2の各複素乗算器を経た後の各アンテナからの受信信号)である。また、式(3)の右辺のG(φp0,θ)は、ステップS20で設定された初期設定角φp0を例えば上記式(1)のφに代入することで算出できる。
【0026】
【数3】

【0027】
各アンテナの受信電力Sに対し、アンテナウェイトのゲインG(φ,θ)を乗算すれば、式(4)に示すように、個々の移動端末#qからの参照信号について任意のチルト角φに設定したときの各アンテナの受信電力S(φ,θ)を推定できる。ここで、チルト角φは変数であり、信号到来角度θはステップS40で算出済みである。同様にして、個々の移動端末#q’からの参照信号について任意のチルト角φに対する各アンテナの受信電力S(φ,θq’)を推定できる。
【0028】
【数4】

【0029】
次に、基地局#pは、上記式(4)によって得られる個々の移動端末#qからの参照信号を所望信号とし、個々の移動端末#q’からの参照信号を干渉信号としたときの、基地局#pのエリア内の受信品質の指標値を算出する。この指標値は例えば基地局#pのエリア全体のSINR(Signal to Interference-and-Noise Ratio)であり、このSINRをJ(φ)とする。このとき、基地局#pは、個々の移動端末に対する上記式(4)を用いて、J(φ)を以下の式(5)のとおり算出する(ステップS60)。なお、式(5)において、

は基地局#pに接続しているすべての移動端末#qについて積算することを意味し、

は隣接局#p’に接続しているすべての移動端末#q’について積算することを意味する。また、Nはノイズであり、参照信号の受信信号から、参照信号として既知の信号系列をキャンセルすることによって得られる。
【0030】
【数5】

【0031】
式(5)に示すJ(φ)は、基地局#pが隣接局#p’に接続している移動端末#q’による干渉を考慮に入れたものとなっている。このJ(φ)においてチルト角φは変数であり、任意のチルト角φにおけるJ(φ)を算出することができる。そこで、基地局#pは、チルト角φを0〜90°の範囲で微小角度ずつ(例えば1°ずつ)変化させてJ(φ)を算出することで、J(φ)が最大となるチルト角φを特定する(ステップS70)。これにより特定されたチルト角φが、基地局#pのエリア全体の受信品質を最も良好にするチルト角である。その後、基地局#pは自局のチルト角を、ステップS20の時点における初期設定角φp0に代えて、ステップS70で特定された新しいチルト角φに設定する(ステップS80)。ステップS70で特定された新しいチルト角φによって定まるアンテナウェイトは、第2アンテナウェイトの一例である。
【0032】
なお、ステップS80で設定される新しいφの、調整前の初期のチルト角φp0に対する変化量を所定の上限値以下とすることが好ましい。すなわち、ステップS70で特定されたチルト角φが、初期のチルト角φp0よりも上記所定の上限値以上変化した場合には、ステップS80では、ステップS70で特定されたチルト角φをそのまま設定しないようにする。これにより、エリア内の急激なSINRの変化を抑制することができる。
【0033】
上述したように、本実施形態のアンテナウェイト設定方法によれば、一斉同報を行う基地局#pでは、隣接局#p’に接続している移動端末からの干渉も考慮に入れたエリア内の受信品質が良好となるようなチルト角が特定される。そして、図3のステップS30〜S70で示したように、基地局#pは、いったん各移動端末から参照信号を受信した後は、自局内の演算処理によってエリア内の受信品質が良好となるようなチルト角を特定することができる。そのため、基地局#pのアンテナにおいて送受信される電波の垂直面内の指向性を短時間で所望の方向に調整することができる。
【0034】
また、複数の基地局のセルを含むエリアの全体的な受信品質の指標値をJとすると、Jは、以下の式(6)で表すことができるが、そのエリア内の各基地局がJ(φ)を最適化することで結果的に、エリア全体の受信品質の最適化を図ることができる。
【0035】
【数6】

【0036】
(1−3)基地局の構成
次に、上述したアンテナウェイト設定方法を実現するための基地局の構成について、図4を参照して説明する。図4は、基地局の構成の要部を示すブロック図である。
【0037】
図4を参照すると、本実施形態の基地局は、複数の受信アンテナRA〜RAN−1、複数の送信アンテナTA〜TAN−1、受信用の複数の複素乗算器RM〜RMN−1、送信用の複数の複素乗算器TM〜TMN−1、受信部10、送信部20、制御部30、ウェイト設定部40、およびトリガ部50、を備える。図4に示す構成では、受信部10、送信部20、制御部30、ウェイト設定部40、およびトリガ部50はそれぞれ、例えばDSP(Digital Signal Processor)等のデジタル回路で実装されうる。
【0038】
複数の受信アンテナRA〜RAN−1は垂直面内に配置されており、全体として受信アレーアンテナを構成する。複数の送信アンテナTA〜TAN−1は垂直面内に配置されており、全体として送信アレーアンテナを構成する。
複数の受信アンテナRA〜RAN−1にはそれぞれ、w〜wN−1のアンテナウェイトの複素乗算器RM〜RMN−1が接続されている。複数の送信アンテナTA〜TAN−1にはそれぞれ、w〜wN−1のアンテナウェイトの複素乗算器TM〜TMN−1が接続されている。w〜wN−1のアンテナウェイトは、ウェイト設定部40によって設定される。なお、複数の送信アンテナと複数の受信アンテナに対するアンテナウェイトは、同一でなくてもよい。
【0039】
受信部10は、自局および隣接局に接続されている各移動端末から送信される信号の受信処理を行う。より具体的には、受信部10は、受信用の複数の複素乗算器RM〜RMN−1から出力される受信信号を合成(加算)して、P/S(Parallel to Serial)変換を行う。受信部10はまた、この変換により得られた受信信号を、データ信号、制御信号および参照信号に分離するとともに、各信号に対して復調および復号処理を施す。
受信部10は、例えばX2インタフェース等、隣接局との通信を可能とするインタフェースを備えている。受信部10は、このインタフェースを介して隣接局から、隣接局に接続している移動端末の参照信号の送信タイミングおよび参照信号を復号するための情報を取得する。
【0040】
送信部20は、各移動端末に対する信号の送信処理を行う。より具体的には、データ信号(送信データ)、制御信号および参照信号に対して符号化および変調処理を施すとともに、これらの信号を多重化する。送信部20はまた、多重化された信号に対してS/P(Serial to Parallel)変換を施して、分離された各信号を送信用の複数の複素乗算器TM〜TMN−1へ送出する。複数の複素乗算器TM〜TMN−1の出力信号はそれぞれ、対応する複数の送信アンテナTA〜TAN−1へ与えられる。
【0041】
制御部30は、チルト角の初期設定、受信部10で得られた各移動端末からの参照信号に基づく自局のエリア内の受信品質の指標値(例えばSINR)の算出、チルト角の更新設定(すなわち、図3に示したステップS20,S40〜S80の処理)を行う。この更新設定の具体的な処理は、各ステップに関連付けて既に説明したとおりである。制御部30は、チルト角の初期設定、あるいはチルト角の更新設定の処理を行うときには、所望のチルト角に応じたアンテナウェイトの設定値(複素値)をウェイト設定部40に与える。
ウェイト設定部40は、制御部30により与えられたアンテナウェイトの設定値に従って、受信用の複数の複素乗算器RM〜RMN−1、送信用の複数の複素乗算器TM〜TMN−1の各々の乗算器に対するアンテナウェイトの設定処理を行う。
トリガ部50は、制御部30がチルト角の更新処理を行うタイミングを制御するために設けられている。つまり、制御部30は、トリガ部50から送出されるタイミング信号に同期して図3に示したステップS40〜S80の処理を行う。
【0042】
図5に、基地局の構成の詳細を示すブロック図を示す。図5に示すブロック図は、基本的には図4と同一であるが、ハードウエア要素についてさらに詳細に示した図である。
以下、図5を参照して、基地局の構成についてさらに説明する。
図5において、受信系では、各受信アンテナRA〜RAN−1で受信した無線信号は、無線処理部(RF)内の増幅器(AMP)によって増幅された後、ミキサ群63の対応する個々のミキサにおいて局部発振器(LO:Local Oscilator)の高周波信号と混合される。これにより、受信した無線信号は、ダウンコンバートされてベースバンド信号に変換される。このベースバンド信号は、A/D(Analogue/Digital)変換器群61の対応する個々のA/D変換器によってデジタル信号に変換された後、ベースバンド処理部(BB)内の複素乗算器RM〜RMN−1の各々に入力される。上述したように、受信用の複数の複素乗算器RM〜RMN−1から出力される受信信号は合成(加算)され、P/S(Parallel to Serial)変換がなされる。受信部10は、復調器(DEM)と復号器(DEC)を備え、受信信号に含まれるデータ信号、制御信号および参照信号に対して、それぞれ復調および復号処理を施す。
【0043】
一方、送信系では、送信部20は、符号化器(COD)と変調器(MOD)を備え、送信データのほか、制御信号および参照信号に対して符号化および変調処理を施し、これらの信号を多重化する。送信部20はまた、多重化された信号に対してS/P(Serial to Parallel)変換を施して、分離された各信号を送信用の複数の複素乗算器TM〜TMN−1へ送出する。複数の複素乗算器TM〜TMN−1の出力信号はそれぞれ、D/A(Digital/Analogue)変換器群62の対応する個々のD/A変換器によってアナログ信号に変換された後、無線処理部(RF)へ送出される。各D/A変換器のアナログ信号は、ミキサ群64の個々のミキサによって局部発振器(LO:Local Oscilator)の高周波信号と混合される。これにより、個々のベースバンド信号は、アップコンバートされて無線信号に変換される。無線信号は、増幅器(AMP)によって増幅された後に、複数の送信アンテナTA〜TAN−1の各々から空間へ放射される。
【0044】
(1−4)水平面内の指向性の調整
上述した議論では、基地局のアンテナのチルト角、つまり垂直面内のアンテナの指向性を調整対象としたが、これをさらに、水平面内のアンテナの指向性にも拡張するようにしてもよい。
以下、垂直面内および水平面内の指向性を調整するときのアンテナウェイト設定方法について説明する。
図6は、垂直方向にN本、水平方向にN本のアンテナからなる四角構成の平面アレーのアレーアンテナ(A0,0〜AN−1,N−1のN×Nのアンテナ)の物理的配置と、各アンテナに対して設定される概念的なアンテナウェイト設定とを示す図である。図6において、アンテナAm,n(m=0〜N−1,n=N−1)に対してそれぞれアンテナウェイトwm,nが設定されている。このとき、各アンテナは垂直面内および水平面内で無指向性とし、アンテナ間の間隔は垂直方向および水平方向共に等間隔dとする。
一方、図7は、基地局#pを平面視で見たときの水平面内の指向性と、移動端末からの信号到来方向とを示す図である。図7では、所定の基準方向を基準とした水平面内の指向性をψと定義し、その同じ基準方向を基準とした移動端末からの信号到来角度をωと定義している。
【0045】
このとき、上記式(1)のアンテナウェイト設定を水平面内に拡張して、以下式(7)のように設定する場合を想定する。この場合に、アレーアンテナ全体のゲイン(あるいはアンテナパターン)G(φ,θ,ψ,ω)は、以下の式(8)のように、垂直面内のゲイン(式(2)参照)と水平面内のゲインの積として表わすことができる。
【0046】
【数7】

【0047】
【数8】

【0048】
移動端末からの参照信号の信号到来角度を算出する方法は、垂直方向に配置された場合と同様にすることができる。例えば、ψを少しずつ(例えば、0〜90°の範囲で1°ずつ)変更させてG(ψ,ω)を計算し、G(ψ,ω)が最大値となるψを、移動端末#qからの信号到来角度ωとする。
あるいは、垂直方向と水平方向の信号到来角度を同時に算出するようにしてもよい。つまり、(φ,ψ)の組合せを少しずつ(例えば、0〜90°の範囲で1°ずつ)変更させてG(φ,θ,ψ,ω)を計算する。そして、G(φ,θ,ψ,ω)が最大値となる(φ,ψ)の組合せを、移動端末#qからの信号到来角度(θ,ω)とする。同様にして、移動端末#q’からの信号到来角度(θq’,ωq’)も算出できる。
【0049】
上記式(7)を用いて基地局#pが、個々の移動端末#qからの参照信号を所望信号とし、個々の移動端末#q’からの参照信号を干渉信号としたときの、基地局#pのサービスエリア内の受信品質の指標値(例えばSINRであるJ(φ,ψ))を算出する方法は、垂直方向のみのアンテナ配置の場合も同じである。このとき、SINRであるJ(φ,ψ)は、φ,ψの2変数で表されるため、基地局#pは、(φ,ψ)の組合せを少しずつ(例えば、0〜90°の範囲で1°ずつ)変更させてJ(φ,ψ)が最大となる(φ,ψ)の組合せを探索する。
【0050】
(2)第2の実施形態
次に、第2の実施形態について説明する。なお、以下の各実施形態では、基地局のアンテナのチルト角、つまり垂直面内のアンテナの指向性を調整対象とする場合についてのみ言及するが、上述したように、水平面内のアンテナの指向性にも拡張できることは言うまでもない。
【0051】
第1の実施形態では、基地局が移動端末から受信する上りの参照信号の受信電力に基づいて、基地局からの一斉同報時のアンテナウェイトを設定する方法について説明した。一方、本実施形態では、基地局が移動端末から報告を受ける下りの参照信号の移動端末における受信電力に基づいて、基地局からの一斉同報時のアンテナウェイトを設定する点で、第1の実施形態とは異なる。
下りの参照信号の移動端末における受信電力に基づく場合も、第1の実施形態で述べた方法と同様にしてJ(φ)を算出できる。この場合、アンテナウェイトを掛ける前の移動端末における受信電力Sを算出し、アンテナウェイトのゲインG(φ,θ)を乗算することで、式(4)に示したのと同様に、任意のチルト角φに設定したときの個々の移動端末における参照信号の受信電力S(φ,θ)を推定できる。しかしながら、ある基地局#pは、その隣接局#p’に接続している移動端末#q’における参照信号の受信電力を取得できない。そこで、本実施形態では、基地局は、自局に接続している移動端末における下りの参照信号の受信電力の報告値に基づいて、隣接局による干渉も考慮した受信品質が良好となるように自局のアンテナウェイトを設定する。
【0052】
本実施形態の基地局の構成は、図4に示したものと同一とすることができる。本実施形態の基地局において、制御部30は、自局に接続している移動端末における参照信号の受信電力に係数を乗ずることにより、隣接局に接続している移動端末における参照信号の受信電力を推定する推定部としても機能する。
【0053】
本実施形態のアンテナウェイト設定方法では、垂直面内のアンテナの指向性の調整を行う基地局は、移動端末が自局から離れているほどその移動端末が隣接局に接続している確率が高いという前提の下、自局に接続している移動端末から報告される参照信号の下りの受信電力に基づいて、後述するαpqを算出する。そして、基地局は、このαpqを用いて、下りの参照信号の移動端末における受信電力に基づくJ(φ)を近似的に算出する。なお、基地局は移動端末から、移動端末における下りの参照信号の受信電力について、移動端末のハンドオーバ時、あるいは基地局が定めたタイミングで移動端末から報告を受ける。
【0054】
以下、αpqについて図8を参照して説明する。
図8(a)において、縦軸は、基地局#pと基地局#p’の間に在る移動端末の、両基地局からの所定の系列の参照信号を受信するときの受信電力を示したものである。基地局#pからの信号の移動端末#qにおける受信電力S(q)は、移動端末#qが基地局#pから離れていくにつれて単調減少していき、基地局#p’からの信号の移動端末#qにおける受信電力Sp’(q)は、移動端末#qが基地局#p’から離れていくにつれて単調減少していく。そこで、基地局#pは、移動端末から受ける下りの参照信号の受信電力の値に基づき、図8(b)に示すように、両局間に存在する移動端末#qが基地局#pにどれだけ近いかを示す指標であるαpqを算出する。なお、αpqの添え字pおよびqは、基地局#pに接続している移動端末#qに対する値であることを示している。このとき、αpqは、以下の式(9)のように表される。
【0055】
【数9】

【0056】
式(9)において、p’∈Nb(q)は移動端末#qから見た隣接局集合、すなわち、自端末の接続局#p’に隣接しているすべての隣接局#p’の集合を意味し、Σの項はすべての隣接局からの参照信号の受信電力、つまり干渉電力を加算することを示している。移動端末#qは、隣接局からの参照信号の受信電力の値についても基地局#pへ報告する。
なお、図8では、一例として隣接局p’が1局のみの場合を示しており、|S(q)−Sp’(q)|が所定の電力差分ΔS以下となる領域で、αpqは0〜1の値をとるように設定されている。|S(q)−Sp’(q)|が所定の電力差分ΔS以上となる領域は、隣接する互いの基地局間にとって干渉を考慮することがないと考えられ、その領域では、αpqは0または1の固定値をとる(図8(b)参照)。
【数10】

【0057】
上記αpqを用いると、本実施形態では、J(φ)を以下の式(11)のとおり表すことができる。式(11)に示すように、本実施形態では、基地局#pは、J(φ)を算出するに当たり、分母において上述したαpqによって定められる係数をS(φ,θ)に乗ずることによって、隣接局p’に接続している移動端末#q’が隣接局#p’から受ける電力(同一の位置に在る移動端末#qにとっては干渉電力)を推定している。なお、式(11)において、S(φ,θ)は第1受信電力の一例であり、分母のΣ内の値は第2受信電力の一例である。
【0058】
【数11】

【0059】
本実施形態のアンテナウェイト設定方法によれば、自局に接続している移動端末における下りの参照信号の受信電力のみに基づいて、自局のサービスエリア内の受信品質の指標値(SINR)を算出することができる。このとき、本実施形態の基地局では、上述したαpqを用いて近似的に、隣接局に接続している移動端末における隣接局からの参照信号の受信電力(同一の位置に在る自局の移動端末にとっては干渉電力)を推定しており、基地局における演算処理の負荷も低い。
なお、上記式(9)に示したαpqの算出例では、距離に応じてリニアにαpqが減少する関数を用いる場合を示したが、これは一例に過ぎない。距離に応じた電波の伝播減衰を模擬するために、αpqの算出にあたっては、距離に応じて単調減少する任意の関数を用いることができる。
【0060】
(3)第3の実施形態
以下、第3の実施形態のアンテナウェイト設定方法について説明する。
第1および第2の実施形態のアンテナウェイト設定方法では、アンテナの指向性の調整を行う基地局は、自局のエリア内のSINRを算出に当たって、自局あるいは隣接局に接続している移動端末の内、その算出の基礎とする移動端末を制限することについて言及しなかった。しかしながら、その算出の基礎とする移動端末を制限することが、エリア内のSINRの算出処理の負荷を軽減させる観点、あるいは算出されるSINRの精度を高める観点から好ましい場合がある。そこで、本実施形態では、基地局がエリア内のSINRを算出に当たって、自局あるいは隣接局に接続している移動端末の内、その算出の基礎とする移動端末を制限する形態について説明する。
【0061】
本実施形態のアンテナウェイト設定方法を示すフローチャートを図9に示す。図9に示すフローチャートは、図3に対して、ステップS35が追加された点が異なる。ステップS35では、ステップS40以降の処理の基礎とする移動端末を基地局#pが選別する。なお、隣接局p’に接続している移動端末#q’の選別については、ステップS10で隣接局p’が自局の移動端末#q’についての情報(送信タイミングおよび参照信号を復号するための情報)を基地局#p宛に送信しないことで、実質的にSINRの算出の基礎とする移動端末#q’が制限されるようにしてもよい。
以下、SINR算出の基礎とする移動端末のいくつかの制限例について説明する。
【0062】
(3−1)SINR算出の基礎とする移動端末の制限例1
アンテナの指向性の調整を行う基地局に接続している移動端末のうち、自局に比較的近い位置に存在する移動端末は、アンテナウェイトによってメインビームの指向性を変更に対して大きく影響を受けることがないと考えられる。つまり、そのような移動端末では、アンテナウェイトの設定如何に関わらず受信品質は劣化しないと考えられる。そこで、アンテナの指向性の調整を行う基地局は、自局から所定の第1閾値よりも遠い距離にある移動端末のみを、エリア内のSINRを算出の基礎としてもよい。これによって、エリア内のSINRを算出の基礎となる移動端末の数が低減するため、エリア内のSINRの算出処理の負荷が軽減する。
なお、測位情報を得ることができる移動端末の場合には、測位情報を含む制御信号を基地局が得ることで、自局からの距離を算出することができる。測位情報を得ることができない移動端末の場合には、その移動端末からの参照信号に基づいて算出される信号到来角度θが比較的大きい場合に、その移動端末が基地局に近い位置に在ると判断してよい。あるいは、基地局が受信する移動端末からの参照信号の受信電力を評価基準としてもよい。参照信号の受信電力が大きい場合には、その参照信号を送信する移動端末が基地局に近い位置に在ると判断できる。
【0063】
(3−2)SINR算出の基礎とする移動端末の制限例2
図10に例示するように、建造物の配置等の無線環境によっては、アンテナの指向性の調整を行う基地局#pのエリアのうち一部エリアが、隣接局#p’のエリアの閉領域内に入り込んでいる場合がある。この一部エリア内に存在する移動端末#qからの受信品質を向上させることは、隣接局#p’に対する干渉を増大させる要因になりうる。そこで、このような一部エリア内に存在する移動端末#qは、基地局#pのエリア内のSINRの算出の基礎としないようにすることが好ましい。換言すると、アンテナの指向性の調整を行う基地局は、自局から所定の第2閾値(なお、第2閾値は第1閾値よりも大きい。)よりも近い距離にある移動端末のみを、エリア内のSINRを算出の基礎としてもよい。
なお、測位情報を得ることができる移動端末の場合には、測位情報を含む制御信号を基地局が得ることで、自局からの距離を算出することができる。測位情報を得ることができない移動端末の場合には、その移動端末からの参照信号に基づいて算出される信号到来角度θが比較的小さい場合に、その移動端末が基地局に遠い位置に在ると判断してよい。
【0064】
(3−3)SINR算出の基礎とする移動端末の制限例3
図11に例示するように、図10とは逆に、建造物の配置等の無線環境によっては、アンテナの指向性の調整を行う基地局#pの隣接局#p’のエリアのうち一部エリアが、基地局#pのエリアの閉領域内に入り込んでいる場合がある。この一部エリア内に存在する移動端末#q’を基地局#pのエリア内のSINRの算出の基礎とすると、この一部エリア内の移動端末#q’による干渉を回避するようにチルト角が設定され、最適なチルト角が得られない可能性がある。そこで、このような一部エリア内に存在する移動端末#q’は、基地局#pのエリア内のSINRの算出の基礎としないようにすることが好ましい。換言すると、アンテナの指向性の調整を行う基地局#pは、隣接局p’に接続している移動端末#q’の隣接局p’からの距離が所定の第3閾値より遠い場合、その移動端末#q’を基地局#pのエリア内のSINRを算出の基礎から除外してもよい。
なお、基地局#pは、移動端末#q’から制御信号を受信することができないため、隣接局#p’と移動端末#q’の間の距離についての情報を、隣接局#p’から取得する。この場合、隣接局#p’は、自局に接続している移動端末のうち測位情報を得ることができる移動端末から、測位情報を含む制御信号を得ることで、自局からの距離を算出することができる。測位情報を得ることができない移動端末の場合には、その移動端末からの参照信号に基づいて算出される信号到来角度θq’を算出するようにしてもよい。
【0065】
(3−4)SINR算出の基礎とする移動端末の制限例4
アンテナの指向性の調整を行う基地局#pに接続している移動端末#qから見ると、干渉信号となるのは主として基地局#pのセル端近傍に在る隣接局p’の移動端末#q’である。そこで、基地局#pのエリア内のSINRの算出処理の負荷を軽減させる観点から、基地局#pのエリア内のSINRを算出するに当たって、隣接局p’のすべての移動端末#q’を対象とするのではなく、基地局#pのセル端近傍に位置する移動端末#q’のみを対象とするようにしてもよい。セル端近傍に位置する移動端末#q’からの隣接局p’における参照信号の受信電力は小さいはずであるから、隣接局p’は、移動端末#q’からの受信電力が所定の第4閾値よりも小さい場合に、その移動端末#q’についての情報(送信タイミングおよび参照信号を復号するための情報)を基地局#p宛に送信する。これにより、算出されるSINRの精度を大きく低下させることなく、SINRの算出負荷を軽減させることができる。
【0066】
(4)第4の実施形態
次に、第4の実施形態について説明する。
【0067】
(4−1)移動通信システム
本実施形態では、所定の管理エリア内の複数の基地局を管理する制御局を含む移動通信システムについて説明する。図12は、本実施形態の移動通信システムの構成例を示す。図12では、それぞれセルを形成する複数の基地局(ここでは、一例として7局の基地局)#p1〜#p7は、制御局が管理する所定の管理エリア内に存在し、各基地局は、制御局と無線あるいは有線によって通信可能に接続されている。ここでは、複数の基地局#p1〜#p7のチルト角をそれぞれ、チルト角φp1〜φp7としている。本実施形態の移動通信システムにおいて、制御局は一元的に、各基地局が設定すべきチルト角を決定し、各基地局へ通知するようにしている。なお、第1の実施形態と同様に、本実施形態においても各基地局はアレーアンテナを備え、各アンテナに設定されるアンテナウェイトによって実質的に、垂直面内のアンテナの指向性、すなわちチルト角が調整される。
【0068】
本実施形態では、第2の実施形態と同様に、各基地局が移動端末から報告を受ける下りの参照信号の移動端末における受信電力に基づいて、各基地局からの一斉同報時のアンテナウェイトを設定する。管理エリア内の各基地局は、他の基地局、例えば隣接局に接続している移動端末における自局からの下りの参照信号の受信電力の値を知り得ない。そこで、本実施形態では、接続局は各基地局から、チルト角に応じて基地局のエリア内SINRを算出するためのデータの報告を受け、管理エリア内の平均的なSINR(本実施形態では、移動端末ごとの平均の受信SINR)が良好となるように、各基地局のチルト角、すなわちアンテナウェイトを設定する。
【0069】
(4−2)アンテナウェイト設定方法
本実施形態の移動通信システムにおける各基地局のアンテナウェイト設定方法のフローチャートを図13に示す。
図13において先ず、制御局から複数の基地局#p1〜#p7の各々に対して報告指示メッセージが送信されると(ステップS100)、複数の基地局#p1〜#p7の各々は、下りの受信電力について、例えば図3のステップS10〜S50と同様の処理を行う(ステップS110)。ここでは、各基地局は、自局の初期のチルト角φpを設定するとともに、配下の移動端末について、各移動端末からの信号到来方向θ、およびアンテナウェイトを掛ける前の、つまりアンテナウェイトをキャンセルしたときの各移動端末における参照信号の受信電力Sを算出する。さらに、各基地局は、設定したチルト角φp、移動端末ごとの信号到来方向θおよび移動端末ごとの受信電力Sを、接続局へ報告する(ステップS120)。
なお、移動端末は、収容されている基地局のほか、その隣接局からの参照信号を受信しており、その受信電力を基地局へ報告する。そして、基地局は、アンテナウェイトを掛ける前の各移動端末における参照信号の受信電力Sについて、自局および隣接局についてそれぞれ算出して接続局へ報告する。ここで、受信電力Sの値は、第1受信情報の一例である。
【0070】
接続局では、各基地局について、チルト角を変数としたときのアンテナウェイトのゲインG(φ,θ)の関数(例えば上記式(2))、あるいは、任意のチルト角に対応するアンテナウェイトのゲインG(φ,θ)のデータを備えている。そのため、接続局は、各基地局から報告される受信電力Sに対し、アンテナウェイトのゲインG(φ,θ)を乗算することで、管理エリア内の個々の移動端末における参照信号について、任意のチルト角φに設定したときの移動端末ごとの受信電力S(φ,θ)を推定できる。同様にして、接続局は、各移動端末について、収容されている基地局の隣接局からの、任意のチルト角の受信電力である受信電力S(φp’,θ)を推定できる。
そこで、接続局は、以下の式(12)に従って、管理エリア内の移動端末ごとの平均の受信SINRを算出する(ステップS130)。
【0071】
【数12】

【0072】
式(12)において、Φ={φp1,φp2,…,φp7}はチルト角の集合、|P|は、制御局に接続されている基地局数、N(p)は基地局#pに接続されている移動端末数を示す。式(12)において、


の部分は、複数の基地局のうち単一の基地局のエリア内SINRを示している。そして、式(12)は全体として、制御局が管理する管理エリア内の移動端末ごとの平均の受信SINRを示している。
【0073】
制御局は、ステップS130では、Φ={φp1,φp2,…,φp7}の各々を0〜90°を少しずつ(例えば、0〜90°の範囲で1°ずつ)組み合わせて変更させ、上式(12)のJ(Φ)が最大となるΦ={φp1,φp2,…,φp7}の組み合わせを特定する(ステップS140)。その後、制御局は、ステップS140で特定したチルト角を複数の基地局#p1〜#p7へ通知し(ステップS150)、各基地局が通知されたチルト角に基づいて自局のアンテナウェイトを設定(更新)する(ステップS160)。
【0074】
本実施形態によれば、制御局によって複数の基地局のアンテナの指向性に対する制御を一元的に行うため、制御局が管理する広範囲な管理エリア内の一斉同報時の受信品質を良好なものにすることができる。
また、管理エリア内の各基地局は、他の基地局、例えば隣接局に接続している移動端末における自局からの下りの参照信号の受信電力の値を知り得ないため、特定の基地局が単独でチルト角の調整を行うことが管理エリア全体として好ましい調整結果とならない場合がある。しかしながら、本実施形態では、管理エリア内の移動端末における下りの受信電力に基づくデータを接続局に集約するため、管理エリア内の全体的な受信品質の最適化を図ることができる。
【0075】
なお、複数の基地局のいずれかの基地局が実質的に、上述した制御局の機能を実行するようにしてもよい。その場合には、制御局の機能を実行するマスタ基地局が、他の複数のスレーブ基地局からステップS120の報告を受けて自局を含む複数の基地局のチルト角を特定し、通知する。
また、図13のステップS120では、各基地局は、アンテナウェイトをキャンセルしたときの各移動端末における参照信号の受信電力Sを接続局へ報告しているが、基地局は、各移動端末から報告される下りの受信電力をそのまま接続局へ報告してもよい。接続局は、各基地局のチルト角の情報を備えているため、アンテナウェイトをキャンセルしたときの各移動端末における参照信号の受信電力Sを算出できる。
【0076】
(4−3)制御局、基地局の構成
図14に本実施形態のアンテナウェイト設定方法を実現するための制御局および基地局の構成を示す。図4に示した基地局の構成と異なる点は、図4における基地局の制御部30とトリガ部50が制御局に設けられる点である。この構成では、制御局のトリガ部80においてタイミング信号が、自局の制御部81および各基地局の受信部10に通知され、これを契機としてチルト角の更新処理が開始される。図13のステップS120で示したように、各基地局から情報が制御局の制御部81へ通知され、制御部81は、決定したチルト角を各基地局のウェイト設定部40へ通知する。
【0077】
図15に、制御局、基地局の構成の詳細を示すブロック図を示す。図15に示すブロック図は、基本的には図14と同一であるが、ハードウエア要素についてさらに詳細に示した図である。
以下、図15を参照して、制御局、基地局の構成についてさらに説明する。
図15において、受信系では、各受信アンテナRA〜RAN−1で受信した無線信号は、無線処理部(RF)内の増幅器(AMP)によって増幅された後、ミキサ群63の対応する個々のミキサにおいて局部発振器(LO:Local Oscilator)の高周波信号と混合される。これにより、受信した無線信号は、ダウンコンバートされてベースバンド信号に変換される。このベースバンド信号は、A/D(Analogue/Digital)変換器群61の対応する個々のA/D変換器によってデジタル信号に変換された後、ベースバンド処理部(BB)内の複素乗算器RM〜RMN−1の各々に入力される。上述したように、受信用の複数の複素乗算器RM〜RMN−1から出力される受信信号は合成(加算)され、P/S(Parallel to Serial)変換がなされる。受信部10は、復調器(DEM)と復号器(DEC)を備え、受信信号に含まれるデータ信号、制御信号および参照信号に対して、それぞれ復調および復号処理を施す。その後、基地局から情報が制御局の制御部81へ通知される。制御部81は、CPUおよび/またはDSPによって構成されうる。
【0078】
一方、送信系では、送信部20は、符号化器(COD)と変調器(MOD)を備え、送信データのほか、制御信号および参照信号に対して符号化および変調処理を施し、これらの信号を多重化する。送信部20はまた、多重化された信号に対してS/P(Serial to Parallel)変換を施して、分離された各信号を送信用の複数の複素乗算器TM〜TMN−1へ送出する。複数の複素乗算器TM〜TMN−1の出力信号はそれぞれ、D/A(Digital/Analogue)変換器群62の対応する個々のD/A変換器によってアナログ信号に変換された後、無線処理部(RF)へ送出される。各D/A変換器のアナログ信号は、ミキサ群64の個々のミキサによって局部発振器(LO:Local Oscilator)の高周波信号と混合される。これにより、個々のベースバンド信号は、アップコンバートされて無線信号に変換される。無線信号は、増幅器(AMP)によって増幅された後に、複数の送信アンテナTA〜TAN−1の各々から空間へ放射される。
【0079】
(5)第5の実施形態
以下、第5の実施形態について説明する。本実施形態では、基地局のアンテナの指向性の好ましい更新タイミングについて説明する。図16は、トリガ部の構成例を示す図である。
【0080】
図16に示すトリガ部は、タイマ191、モジュロ演算器192、及び信号生成器193を含む。タイマ191は、基地局の電源投入後の時刻を計測する。例えば基地局の電源投入後の時刻を秒単位で示す値がモジュロ演算器192に与えられる。モジュロ演算器192は、例えばタイミング信号の送出間隔をN(秒)(N:整数)とした場合、そのNを法とする剰余をとり、信号生成器193に与える。信号生成器193は、入力が所定の値、例えば0のときにタイミング信号を出力する。このタイミング信号に同期して、制御部が例えば図3のステップS40以降の処理を開始する。
【0081】
図16に示すトリガ部の構成によれば、基地局のアンテナの指向性の更新が定期的に行われるが、不定期に行われるようにしてもよい。例えば、トリガ部によるタイミング信号の送出間隔、及び/又はアンテナの指向性の変更量(|Δφ|および/または|Δψ|)の上限値を、直前のエリア内SINRの変化量に応じて変更する。
具体的には、直前のエリア内SINRの変更量が所定値よりも大きい場合には、トリガ部によるタイミング信号の送出間隔を短縮して、より頻繁にアンテナの指向性の処理を起動して早期に好ましい指向性の値(角度)に収束させるようにする。また、直前のエリア内SINRの変化量が所定値よりも大きい場合には、次の指向性調整時に許容するSINRの変更量に対してより大きな上限値を許容するようにし、早期に好ましい指向性の値(角度)に収束させるようにする。かかる処理は以下のようにして行うことができる。すなわち、直前のエリア内SINRの変更量をΔTとしたときに、基地局は、タイミング信号の送出間隔Nを、N=Int(α−βΔT)に従って算出する。また、基地局は、指向性の変更量の絶対値|Δφ|または|Δψ|をγΔTに従って算出する。ここでα、β、γは任意の定数であり、Int()は小数点以下を切り捨てる関数である。
【0082】
上記タイミング信号の送出間隔、及び/又はアンテナの指向性の変更量は、別の観点から変更するようにしてもよい。例えば、移動通信システム内のある基地局が故障した場合には、その基地局の故障によってその基地局のセル内の移動端末を、その基地局に隣接する基地局によってカバーすることになる。このような場合には、早期に隣接する基地局のセルを拡張することが好ましい。かかる観点から、隣接する基地局から例えばX2インタフェース等で故障であることを通知された基地局は、上記タイミング信号の送出間隔を短縮する、及び/又はアンテナの指向性について許容する変更量を大きくするようにしてもよい。
【0083】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の無線基地局、アンテナウェイト設定方法は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのは勿論である。
【0084】
以上の各実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0085】
(付記1)
アンテナを備え、送受信される電波の垂直面内および/または水平面内の指向性を前記アンテナに設定されるアンテナウェイトによって調整可能な無線基地局であって、
自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときの所定のアンテナウェイトを設定するウェイト設定部と、
自局に接続されている第1移動端末、および自局に隣接する第2無線基地局に接続されている第2移動端末から、参照信号を受信する受信部と、
第1移動端末から受信する前記参照信号と、第2移動端末から受信する前記参照信号とに基づく自局のエリア内の受信品質の指標値に応じたアンテナウェイトを前記所定のアンテナウェイトとしてウェイト設定部に与える制御部と、
を備えた、無線基地局。
【0086】
(付記2)
前記制御部は、
移動端末から受信した前記参照信号の、第1アンテナウェイトをキャンセルしたときの各アンテナの受信電力である基準電力を、移動端末ごとに算出し、
自局が採りうる複数のアンテナウェイトの各々に対して、第1移動端末の各々の基準電力に乗じた値の総和を、第2移動端末の各々の基準電力に乗じた値の総和で除算することによって、前記指標値を算出し、前記複数のアンテナウェイトの中から指標値が最大となるアンテナウェイトを特定する、
付記1記載の無線基地局。
【0087】
(付記3)
前記制御部は、
第1移動端末のうち、自局からの距離が所定の第1閾値よりも遠く、かつ、前記第1閾値よりも大きい第2閾値よりも近い距離に在る端末からの参照信号を、前記指標値の算出の基礎とする、
付記1または2に記載された無線基地局。
【0088】
(付記4)
前記制御部は、
第2移動端末のうち、第2無線基地局との距離が所定の第3閾値よりも遠い位置に在る端末からの参照信号を、前記指標値の算出の基礎から除外する、
付記1〜3のいずれかに記載された無線基地局。
【0089】
(付記5)
前記制御部は、
第2移動端末のうち第2無線基地局における上りの参照信号の受信電力が所定の第4閾値よりも小さい端末の情報を、前記第2無線基地局から取得し、取得した第2移動端末を、前記指標値の算出の基礎とする、
付記1〜3のいずれかに記載された無線基地局。
【0090】
(付記6)
アンテナを備え、送受信される電波の垂直面内および/または水平面内の指向性を前記アンテナに設定されるアンテナウェイトによって調整可能な無線基地局であって、
自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときの所定のアンテナウェイトを設定するウェイト設定部と、
自局に接続されている各移動端末から、下りの参照信号の移動端末における受信電力である第1受信電力の報告を受ける受信部と、
前記第1受信電力に対して自局から各移動端末までの距離に応じた係数を乗ずることによって、自局に隣接する第2無線基地局から当該第2無線基地局に接続している移動端末が受信する参照信号の受信電力である第2受信電力を推定する推定部と、
各移動端末における前記第1受信電力と前記第2受信電力に基づく自局のエリア内の受信品質の指標値に応じたアンテナウェイトを前記所定のアンテナウェイトとしてウェイト設定部に与える制御部と、
を備えた、無線基地局。
【0091】
(付記7)
アンテナを備え、送受信される電波の垂直面内および/または水平面内の指向性を前記アンテナに適用されるアンテナウェイトによって調整可能な無線基地局と、無線基地局と無線通信を行う移動端末とを含む移動通信システムにおいて、無線基地局が上りおよび下りリンクに共通のアンテナウェイトを設定するためのアンテナウェイト設定方法であって、
第1無線基地局は、自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときの第1アンテナウェイトを設定し、
第1無線基地局に接続されている第1移動端末、および第1無線基地局に隣接する第2無線基地局に接続されている第2移動端末は、第1無線基地局宛に参照信号を送信し、
第1無線基地局は、第1移動端末から受信した前記参照信号と、第2移動端末から受信した前記参照信号とに基づく自局のエリア内の受信品質の指標値を、自局が採りうる複数のアンテナウェイトの各々に対して算出し、
第1無線基地局は、前記複数のアンテナウェイトのうち前記指標値に応じた第2アンテナウェイトを、前記第1アンテナウェイトに代えて、自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときのアンテナウェイトに設定する、
ことを含む、アンテナウェイト設定方法。
【0092】
(付記8)
第1無線基地局が前記指標値を算出することは、
移動端末から受信した前記参照信号の、第1アンテナウェイトをキャンセルしたときの各アンテナの受信電力である基準電力を、移動端末ごとに算出し、
前記複数のアンテナウェイトの各々に対して、第1移動端末の各々の基準電力に乗じた値の総和を、第2移動端末の各々の基準電力に乗じた値の総和で除算することによって、前記指標値を算出する、
ことを含む、付記7記載のアンテナウェイト設定方法。
【0093】
(付記9)
第1移動端末のうち、自局からの距離が所定の第1閾値よりも遠く、かつ、前記第1閾値よりも大きい第2閾値よりも近い距離に在る端末からの参照信号を、前記指標値の算出の基礎とする、
付記7または8に記載されたアンテナウェイト設定方法。
【0094】
(付記10)
第2移動端末のうち、第2無線基地局との距離が所定の第3閾値よりも遠い位置に在る端末からの参照信号を、前記指標値の算出の基礎から除外する、
付記7〜9のいずれかに記載されたアンテナウェイト設定方法。
【0095】
(付記11)
第2移動端末のうち第2無線基地局における上りの参照信号の受信電力が所定の第4閾値よりも小さい端末の情報を、前記第2無線基地局から取得し、取得した第2移動端末を、前記指標値の算出の基礎とする、
付記7〜9に記載されたアンテナウェイト設定方法。
【0096】
(付記12)
アンテナを備え、送受信される電波の垂直面内および/または水平面内の指向性を前記アンテナに適用されるアンテナウェイトによって調整可能な複数の無線基地局と、前記複数の無線基地局の各々と通信して各無線基地局を制御するための制御局と、各無線基地局と無線通信を行う移動端末とを含む移動通信システムにおいて、各無線基地局における上りおよび下りリンクに共通のアンテナウェイトを設定するためのアンテナウェイト設定方法であって、
各無線基地局は、自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときのアンテナウェイトを設定し、
各無線基地局は、自局に接続されている各移動端末から、自局および隣接する他の無線基地局の下りの参照信号の移動端末における受信電力の情報を含む第1受信情報の報告を受け、
各無線基地局は、前記第1受信情報に基づいて、自局および前記他の無線基地局の前記アンテナウェイトをキャンセルしたときの受信電力である基準電力を移動端末ごとに算出し、当該基準電力を制御局へ報告し、
制御局は、各無線基地局から報告を受けた移動端末ごとの基準電力に基づいて、前記複数の無線基地局のエリア内の移動端末の平均受信品質の指標値に応じて、各無線基地局のアンテナウェイトの組み合わせを特定し、共通のデータを送信するときの新たなアンテナウェイトとして各無線基地局宛に通知する、
ことを含む、アンテナウェイト設定方法。
【符号の説明】
【0097】
RA〜RAN−1 複数の受信アンテナ
TA〜TAN−1 複数の送信アンテナ
RM〜RMN−1 受信用の複数の複素乗算器
TM〜TMN−1 送信用の複数の複素乗算器
10 受信部
20 送信部
30,81 制御部
40 ウェイト設定部
50,80 トリガ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを備え、送受信される電波の垂直面内および/または水平面内の指向性を前記アンテナに設定されるアンテナウェイトによって調整可能な無線基地局であって、
自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときの所定のアンテナウェイトを設定するウェイト設定部と、
自局に接続されている第1移動端末、および自局に隣接する第2無線基地局に接続されている第2移動端末から、参照信号を受信する受信部と、
第1移動端末から受信する前記参照信号と、第2移動端末から受信する前記参照信号とに基づく自局のエリア内の受信品質の指標値に応じたアンテナウェイトを前記所定のアンテナウェイトとしてウェイト設定部に与える制御部と、
を備えた、無線基地局。
【請求項2】
前記制御部は、
移動端末から受信した前記参照信号の、第1アンテナウェイトをキャンセルしたときの前記アンテナの受信電力である基準電力を、移動端末ごとに算出し、
自局が採りうる複数のアンテナウェイトの各々に対して、第1移動端末の各々の基準電力に乗じた値の総和を、第2移動端末の各々の基準電力に乗じた値の総和で除算することによって、前記指標値を算出し、前記複数のアンテナウェイトの中から指標値が最大となるアンテナウェイトを特定する、
請求項1に記載された無線基地局。
【請求項3】
前記制御部は、
第1移動端末のうち、自局からの距離が所定の第1閾値よりも遠く、かつ、前記第1閾値よりも大きい第2閾値よりも近い距離に在る端末からの参照信号を、前記指標値の算出の基礎とする、
請求項1または2に記載された無線基地局。
【請求項4】
前記制御部は、
第2移動端末のうち、第2無線基地局との距離が所定の第3閾値よりも遠い位置に在る端末からの参照信号を、前記指標値の算出の基礎から除外する、
請求項1〜3のいずれかに記載された無線基地局。
【請求項5】
前記制御部は、
第2移動端末のうち第2無線基地局における上りの参照信号の受信電力が所定の第4閾値よりも小さい端末の情報を、前記第2無線基地局から取得し、取得した第2移動端末を、前記指標値の算出の基礎とする、
請求項1〜3のいずれかに記載された無線基地局。
【請求項6】
アンテナを備え、送受信される電波の垂直面内および/または水平面内の指向性を前記アンテナに設定されるアンテナウェイトによって調整可能な無線基地局であって、
自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときの所定のアンテナウェイトを設定するウェイト設定部と、
自局に接続されている各移動端末から、下りの参照信号の移動端末における受信電力である第1受信電力の報告を受ける受信部と、
前記第1受信電力に対して自局から各移動端末までの距離に応じた係数を乗ずることによって、自局に隣接する第2無線基地局から当該第2無線基地局に接続している移動端末が受信する参照信号の受信電力である第2受信電力を推定する推定部と、
各移動端末における前記第1受信電力と前記第2受信電力に基づく自局のエリア内の受信品質の指標値に応じたアンテナウェイトを前記所定のアンテナウェイトとしてウェイト設定部に与える制御部と、
を備えた、無線基地局。
【請求項7】
アンテナを備え、送受信される電波の垂直面内および/または水平面内の指向性を前記アンテナに適用されるアンテナウェイトによって調整可能な無線基地局と、無線基地局と無線通信を行う移動端末とを含む移動通信システムにおいて、無線基地局が上りおよび下りリンクに共通のアンテナウェイトを設定するためのアンテナウェイト設定方法であって、
第1無線基地局は、自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときの第1アンテナウェイトを設定し、
第1無線基地局に接続されている第1移動端末、および第1無線基地局に隣接する第2無線基地局に接続されている第2移動端末は、第1無線基地局宛に参照信号を送信し、
第1無線基地局は、第1移動端末から受信した前記参照信号と、第2移動端末から受信した前記参照信号とに基づく自局のエリア内の受信品質の指標値を、自局が採りうる複数のアンテナウェイトの各々に対して算出し、
第1無線基地局は、前記複数のアンテナウェイトのうち前記指標値に応じた第2アンテナウェイトを、前記第1アンテナウェイトに代えて、自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときのアンテナウェイトに設定する、
ことを含む、アンテナウェイト設定方法。
【請求項8】
アンテナを備え、送受信される電波の垂直面内および/または水平面内の指向性を前記アンテナに適用されるアンテナウェイトによって調整可能な複数の無線基地局と、前記複数の無線基地局の各々と通信して各無線基地局を制御するための制御局と、各無線基地局と無線通信を行う移動端末とを含む移動通信システムにおいて、各無線基地局における上りおよび下りリンクに共通のアンテナウェイトを設定するためのアンテナウェイト設定方法であって、
各無線基地局は、自局に接続されている移動端末に対して共通のデータを送信するときのアンテナウェイトを設定し、
各無線基地局は、自局に接続されている各移動端末から、自局および隣接する他の無線基地局の下りの参照信号の移動端末における受信電力の情報を含む第1受信情報の報告を受け、
各無線基地局は、前記第1受信情報に基づいて、自局および前記他の無線基地局の前記アンテナウェイトをキャンセルしたときの受信電力である基準電力を移動端末ごとに算出し、当該基準電力を制御局へ報告し、
制御局は、各無線基地局から報告を受けた移動端末ごとの基準電力に基づいて、前記複数の無線基地局のエリア内の移動端末の平均受信品質の指標値に応じて、各無線基地局のアンテナウェイトの組み合わせを特定し、共通のデータを送信するときの新たなアンテナウェイトとして各無線基地局宛に通知する、
ことを含む、アンテナウェイト設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−156589(P2012−156589A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11216(P2011−11216)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】