説明

無線機の中間周波回路

【課題】規格が異なる受信信号に対応する従来の中間周波回路では、複数の規格夫々に対応する複数のフィルタを備え、それらを切替えていたので、コスト上昇や、小型化が困難であった。本発明は、少数のフィルタによって複数の規格の無線信号を受信可能な無線機の中間周波回路を提供する。
【解決手段】占有周波数帯域幅や周波数偏移量が異なる複数規格の無線信号を受信復調するヘテロダイン方式無線機において、中間周波フィルタ入力端と出力端の少なくとも一方に、可変インピーダンス素子を備え、受信チャネルの占有周波数帯域や周波数偏移に対応するように可変インピーダンス素子値を制御する手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線機の中間周波回路に関し、詳しくは、占有周波数帯域幅や中心周波数等が異なる複数の規格の受信信号に対応可能な中間周波フィルタを備えた中間周波回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、業務用無線機(Land Mobile Radio)を始めとして各種無線通信システムでは周波数利用効率の観点から一チャネル当たりの占有周波数帯域の狭帯域化やデジタル化が推進されている。また、陸上移動無線システムにおいては、電界強度が変動しても復調信号レベルの変動が少ないFM変調が使用され、デジタル変調方式にはFSK(Frequency Shift Keying:周波数偏移変調)、PSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)等が採用されている。
過去に実施された狭帯域化の例としては、一チャネル当たりの占有帯域が25kHz(ワイド)であったものが、半分の12.5kHz(ナロー)となり、更に、その半分の6.25kHz(ベリーナロー)になると云うように、段階的に狭帯域化が推進されている。ベリーナロー化が進められている現在においても、今なお、ナローバンド用無線機のみならず、それ以前のワイドバンド用無線機も一部に使用されている。
【0003】
図4は、従来のヘテロダイン型受信機の一般的な構成を示す概要ブロック図である。この構成の無線機の動作について簡単に説明すると、アンテナ41に着信した信号を低域(ローパス)フィルタ42、帯域(バンドパス)フィルタ43を経て、高周波増幅器(AMP)44により増幅した後、フィルタ45により高調波信号等が除去される。フィルタリングされた信号は、出力混合器(ミキサー)46において、受信周波数に応じて発振周波数が調整される局部発振器47の出力信号と混合され、その混合信号のなかから第一中間周波フィルタ48により所定周波数の第一中間周波数信号(1stIF)が分離(周波数変換)される。第一中間周波数信号は第一中間周波増幅器49において所要レベルに増幅された後、第二中間周波ブロック50において、所要の周波集帯域に制限され、検波処理等が行われる。
第二中間周波ブロック50は、混合器46、局部発振器47、帯域フィルタ48、増幅器49を備えた第一中間周波回路と同様に、第二局部発振器51と、第二混合器52と、第二中間周波フィルタ53と、第二中間周波増幅器54を備えているが、このうち混合器52と第二中間周波増幅器54は集積回路化された中間周波回路IC55に含まれたものを使用することが多い。
一般に受信機の隣接チャネル信号や近傍の不要信号除去性能は、第二中間周波フィルタの性能に依存する度合いが高く、従来から、第二中間周波フィルタとしてはセラミックフィルタ(Ceramic Filter:CF)が使用されている。セラミックフィルタは水晶フィルタ等に比べ、安価で、無調整での使用が可能であり、種々の周波数帯域用に多くの種類のフィルタの入手が容易である。
【0004】
ところで、上述したように段階的な狭帯域化の結果、専用周波数帯域等の規格が異なる複数の規格が混在する無線信号を一台の受信機で受信するためには、夫々の専用周波数帯域毎に異なる第二中間周波フィルタが必要になる。即ち、占有周波数が異なると、隣接チャネルとの離間周波数(チャネル周波数セパレーション)や変調度が異なるので、それに応じて通過帯域幅、あるいは中心周波数が異なる場合が多い。
従来、このような要請に対応し、ACR特性(Adjacent Channel Rejection:隣接チャネル除去特性)を確保するために、例えば図5に示すように、夫々の規格に対応する複数の第二中間周波フィルタ(セラミックフィルタCF1、CF2、CF3、・・・CFn)を並べたフィルタブロック56を備えるとともに、入力側及び出力側に備えた切替スイッチ57、58をチャネル切替信号59により制御することによって、必要なフィルタを選択するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−265021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したように複数のフィルタを多数配列する方法では、セラミックフィルタが安価とはいえ、その数が増加する分、製造コストの上昇を招くのみならず、小型化を行う上で大きな支障となる。また通常、第二中間周波フィルタとしてセラミックフィルタを使用する場合は、中間周波回路ICと直結して使用するが、複数のフィルタ全てについて正確なインピーダンス整合を図ることは困難である。即ち、従来のように、唯一のフィルタを使用するものでは、中間周波回路ICとの整合は比較的容易であったが、周波数帯域や中心周波数が異なる複数のフィルタと整合を図ることは難しく、特に、狭帯域のフィルタでは僅かなインピーダンスの不整合があると、フィルタ特性に影響を与え、群遅延特性のばらつきや歪みが増加する等の原因になることがあった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、周波数帯域や中心周波数等が異なる複数のチャネル信号に、一つのフィルタを制御して対応できるようにした無線機の中間周波回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1記載の無線機の中間周波回路は、占有周波数帯域幅及び又は周波数偏移量が異なる複数の無線信号を受信復調することが可能な無線機であって、受信信号をローカル発振器出力と混合し、中間周波フィルタによって所望の中間周波数信号を取り出すように構成された無線機の中間周波回路において、上記中間周波フィルタの入力端と出力端の少なくとも一方に、可変インピーダンス素子を備え、受信するチャネルの占有周波数帯域及び又は周波数偏移に対応するように上記可変インピーダンス素子値を制御する手段を備えたことを特徴とする。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の無線機の中間周波回路において、上記中間周波フィルタがセラミックフィルタであって、上記インピーダンス可変素子が可変容量ダイオードであり、受信チャネル設定手段の操作に基づいて、上記インピーダンス可変素子制御用信号を発生する手段を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の無線機の中間周波回路において、上記中間周波回路は、FM検波回路と、この中間周波回路に所要範囲の周波数走引信号が供給されたとき上記FM検波回路の周波数と検波出力信号との関係を示すFM検波特性信号を検出する手段と、を含むことを特徴とする。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一項記載の無線機の中間周波回路において、更に、上記FM検波特性信号検出手段の出力結果を表示する手段と、上記インピーダンス可変素子の制御信号を調整する手段と、調整した結果を記憶する手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上述したように、スーパーヘテロダイン方式の無線機の中間周波回路において、中間周波フィルタの入力端と出力端の少なくとも一方に、可変容量等の可変インピーダンス素子を備え、上記可変インピーダンス素子値を制御することによって中間周波フィルタが夫々異なる規格に対応できるように構成したものである。従って、一つ、あるいは必要最小限のフィルタによって、専用周波帯域や中間周波帯域の中心周波数等が異なる複数の受信信号を受信することが可能となる。また、上記可変インピーダンス素子を調整することによって、チャネル毎に微調整を行って、隣接チャネル除去機能を向上させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る中間周波回路を使用した無線受信機の一実施例を示すブロック図。
【図2】本発明において使用する中間周波フィルタ回路の一例の等価回路図。
【図3】本発明に係る中間周波回路の制御例を説明するための検波器特性図。
【図4】従来のデジタル無線受信機の構成例を示すブロック図。
【図5】従来の無線受信機の中間周波フィルタの構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明に係る無線機の中間周波回路の一実施形態例を示すブロック図であり、既に説明した図4の第二中間周波ブロック50に該当する部分の一部を示したものである。図1において1は、FM変調された受信信号に対応する機能を備えた中間周波回路IC(FM・IC)であり、図4に示したように、IC内部には第二中間周波生成用の第二混合器と、第二中間周波増幅器と、後述するようなFM検波器(周波数弁別器)を含んでいる。なお、第二局部発振器は図示を省略したが、ICによっては第二局部発振回路を内蔵し、水晶振動子のみを外部部品として付加する形式のものも存する。
そして、図4と同様にこの例においても第二中間周波フィルタ2が上記FM・IC1に、接続端子a、bを介して外付けされるとともに、その入力端と出力端には可変インピーダンスとして可変容量ダイオード(バリアブルキャパシタ)3、4が接続されている。FM・IC1からは内蔵するFM検波器により復調された信号5が出力され、図示を省略したオーディオ回路や、デジタル無線機の場合はベースバンド処理ブロック等に供給される一方、この復調信号の一部は、バッファアンプ5を経て各種の制御を行うCPU6にも供給される。また、上記可変容量ダイオード3、4には、CPU6から出力される直流電圧信号(制御信号:CONT)が高周波信号阻止用抵抗器R1、R2を介して印加される。なお、CPU6の制御信号出力ラインとアース間に接続されたコンデンサC1は高周波バイパス用の容量である。
【0012】
図2は、上記回路におけるセラミックフィルタとその両端に接続した可変容量ダイオードからなる回路の等価回路であり、本発明に係るフィルタの制御方法を説明するためのものである。周知のようにセラミックフィルタは、図2の破線で囲った部分のように、直列容量Co、直列インダクタンスLo、直列抵抗Roからなる等価直列共振回路と、それに並列に接続された等価並列容量Cpとの回路とて表わし得るので、可変容量ダイオード3、4を加味すると図2に示すものとなる。
このような等価回路において、可変容量ダイオード3、4は、印加される直流電圧値によって等価容量値が変化する。一般的に、印加する逆電圧値が大きくなるに従って等価容量値が小さくなる。従って、CPU6から供給する制御電圧によって、その等価容量を増減し、セラミックフィルタの総合的な通過帯域周波数幅や中心周波数を制御することができる。
なお、セラミックフィルタの等価回路は、その素子数や構造によって異なる場合があるが、並列、又は直列に接続したインピーダンス素子の値によって、中心周波数や通過帯域幅、通過帯域周波数等を変更可能であることには違いがない。なお、図2に示す等価回路を、中間周波フィルタの入力端、又は、出力端の一方における等価回路と考えれば、フィルタ全体の等価回路は、図2の回路を所定の結合容量を介して二つ連結した同調回路(所謂、タンク回路)となり、通過帯域フィルタの通過帯域幅や中心周波数を制御できることを理解する上で有用であろう。タンク回路における同調動作や、信号通過周波数帯域の設計や素子値の決定手法については良く知られているので説明は省略する。
【0013】
また、CPU6には、図示を省略したチャネル切替手段等から、受信チャネル情報と、そのチャネルの占有周波数や必要とする中間周波数フィルタ帯域情報が供給され、その情報に基づいて制御信号CONTの電圧値を決定する。
これらの各チャネルにおける中間周波フィルタ帯域情報は、チャネルと帯域周波数情報を対応させたテーブルをメモリに記憶しておき、チャネル選択制御に応じて、このテーブルを参照し、必要な制御電圧を発生するように構成することができる。
【0014】
図3は、FM・IC1に内蔵したFM検波器(周波数弁別器、Discriminatorとも呼ばれる)の動作を説明するための図で、縦軸は出力電圧、横軸は周波数である。中間周波数信号が無変調、即ち、信号によりFM変調されていない場合は、図3の中心周波数f0に位置し、その時のFM検波器の出力電圧はゼロとなる。一方、中間周波数信号の中心周波数がf0から増減すると、増減方向に応じて、出力信号電圧が変動するが、一定値以上に周波数が偏移すると、出力電圧値が減少するような特性を有している。つまり、FM検波器はその特性に応じて図3に示すように周波数軸方向に逆S字曲線となる。そして、この逆S字曲線の幅や、傾きは占有周波数帯域幅や変調度等に対応して適宜設定される。
そこで、本発明では、セラミックフィルタに付加した可変容量ダイオードのような可変インピーダンス素子を制御して、受信するチャネルの占有周波数帯域や変調度等の規格に適合するフィルタ特性になるように構成するものである。また、フィルタ帯域を変更する場合に限らず、同一の帯域であっても、チャネルを切換える毎に、僅かに異なるインピーダンスを調整して、理想に近い整合状態にすることもできるので、本発明の効果の一つと云うことができる。
【0015】
本発明は以上説明した例に限定する必要はなく種々変形が可能である。
例えば、多数の規格が異なるチャネル毎に、適正なフィルタとなるように制御電圧を設定する手間を簡単にするための手段を備えることも可能である。既に説明したように、FM検波器の特性は図3に示したように、中間周波信号の周波数に応じて、ほぼ直線的に出力電圧が変化する領域と、レベルの増加のピーク点とを含む逆S字形になるので、特性曲線を利用して可変容量ダイオード等の可変インピーダンス素子に供給すべき制御信号値を決定することができる。
このために例えば、上述した中間周波回路に、SSG(Standard Signal Generator:標準信号発生器)等からf0を中心とする所要範囲の周波数走引信号を供給し、そのときのFM検波回路出力信号をモニタする測定器を接続した状態で、図3に示すような周波数と検波出力信号との関係を検出する手段を備える(FM検波特性信号検出手段)。そして、無線機に受信チャネルデータを設定する際に、あるいはその他必要に応じて、上述した図3のFM検波器特性が所望のものになるように可変インピーダンス素子の制御電圧を決定し、それらのデータを上述したデータテーブルとしてメモリに記憶しておく。
【0016】
更に、そのようなFM検波器特性が表示できる液晶ディスプレイ等を備えるとともに、希望周波数範囲において逆S字曲線になるように制御電圧を設定することができるように調整用のアシスタントプログラムを搭載しておけば、実際に運用中の無線機においても必要に応じて調整が可能である。この場合、表示器に図3の特性曲線を表示し、希望する周波数やレベル位置をタッチするのみで、その点にS字曲線の変極点が位置するように自動的に制御電圧を計算し、必要なパラメータが上記テーブルに記憶されるようにすることも可能であろう。
なお、中間周波フィルタとしてはセラミックフィルタに限らず、その他のもの、例えば、空洞共振器、表面弾性波フィルタ等であっても構わない。また、可変インピーダンスとしても、可変インダクタンス素子や可変抵抗素子を必要に応じて使用可能であるし、それらの素子は、フィルタの入力端又は出力端の何れか一方のみに付加するもの、あるいは、一方端に可変容量を、他方端に可変インダクタを付加するものであっても構わない。
【0017】
更に、以上の説明では中間周波フィルタとして一つのフィルタを調整する場合を示したが、可変周波数範囲が広い場合は幾つかに区分して、個々の周波数範囲を一つのフィルタでカバーするように構成した周波数ブロックを複数備えることも可能であろう。
また、近年、CPUやDSP、メモリを備えたデジタル無線機が一般的であるので、上述した本発明の中間周波ブロックの処理機能を実行するように構成したプログラムやデータをインストールするとともに、中間周波フィルタの入出力端に可変容量ダイオードを付加するといった比較的簡単な改造によって、既存の無線機に対して本発明を実施することも可能であろう。
【符号の説明】
【0018】
1 FM・IC、2 セラミックフィルタ、3、4 可変容量ダイオード、5 バッファアンプ、6 CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
占有周波数帯域幅及び又は周波数偏移量が異なる複数の無線信号を受信復調することが可能な無線機であって、受信信号をローカル発振器出力と混合し、中間周波フィルタによって所望の中間周波数信号を取り出すように構成された無線機の中間周波回路において、前記中間周波フィルタの入力端と出力端の少なくとも一方に、可変インピーダンス素子を備え、受信するチャネルの占有周波数帯域及び又は周波数偏移に対応するように前記可変インピーダンス素子値を制御する手段を備えたことを特徴とする無線機の中間周波回路。
【請求項2】
請求項1記載の無線機の中間周波回路において、前記中間周波フィルタがセラミックフィルタであって、前記インピーダンス可変素子が可変容量ダイオードであり、受信チャネル設定手段の操作に対応して、前記インピーダンス可変素子制御用信号を発生する手段を備えたことを特徴とする無線機の中間周波回路。
【請求項3】
請求項1又は2記載の無線機の中間周波回路において、前記中間周波回路は、FM検波回路と、該中間周波回路に所要範囲の周波数走引信号が供給されたとき前記FM検波回路の周波数と検波出力信号との関係を示すFM検波特性信号を検出する手段と、を含むことを特徴とする無線機の中間周波回路。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項記載の無線機の中間周波回路において、更に、前記FM検波特性信号検出手段の出力結果を表示する手段と、前記インピーダンス可変素子の制御信号を調整する手段と、調整した結果を記憶する手段を備えたことを特徴とする無線機の中間周波回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−278621(P2010−278621A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127654(P2009−127654)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】