説明

無線機用自動検査システム

【課題】無線機の管理情報とリンクして検査データを表示・記録・保存でき、データ改変や点検漏れが生じ難く、電波法上の必要検査項目を備え全自動で検査可能なシステムを提供する。
【解決手段】無線機の局名と型式と製造番号の検査対象情報を設定し、検査対象の無線機に割当てられた送信周波数や受信周波数を設定し、所定周波数の信号を発生し、所定レベルの受信電力に調整して無線機の受信機入力端子に接続可能な受信接栓に標準信号発生し、無線機の送信機出力端子に接続可能な送信接栓及びアンテナに接続可能なアンテナ接栓からの送信成分を検出し、無線機のマイク等に接続されるケーブルに対し所定周波数の信号を送受信し、検出部で検出された各送信成分の電力及び周波数を計測して、送信パワー出力、送信周波数、変調度、スプリアス、VSWR、周波数特性及び受信感度をデータ演算表示し、表示されたデータと検査対象情報を記録保存する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線機を定期的あるいは不定期的に検査する場合に用いられる無線機用自動検査システムに関する技術であり、特に、列車の安全運行を図るために走行中の列車と中央制御局との間の通信手段として頻繁に使用されるように列車車上に装備されている列車無線機を確実・迅速に検査し、記録保存する無線機用自動検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、無線機の送信部及び受信部を点検検査するにあたっては、車上に装備されている無線機を取り外した上、テストベンチと呼ばれる別箇所に個別に設置されている終端型電力計、周波数計、標準信号発生器及び低周波発振器等といった商用交流電源(AC100v)駆動型の複数種類の測定器を用いて、各部を一つ一つ手動操作により測定することで点検検査を行ない、点検検査終了後、無線機を元の車上に再び取り付ける一方、空中線部の点検検査は車上において通過型電力計を用いて行なう手段が採られていた。このような従来の無線機の点検検査手段による場合は、複数種類の測定器が必要であるだけでなく、各測定器自体が大きく、かつ、商用交流電源を必要とすることから、測定器を列車内に持ち込んで検査することが困難であり、無線機の取り外し及び検査後の再取り付けに多大な手数、時間を必要としていた。
さらに、複数の測定器を順番に使用して測定する必要もあるので、全体として検査作業効率が非常に悪いという問題もあった。その上、無線機についての技術的知識だけでなく、複数の測定器それぞれについての使用要領及び操作手順といった専門的な知識が必要であり、そのために誰でも点検検査を行なえるものではなく、技術的、専門的な知識を有し、かつ、所定の検査に関して経験豊富な人でなければ正しい検査を行なうことができないという問題があった。
【0003】
そこで、特許文献1に示されるように、無線機の取り外し、再取り付けを要さず、車内に持ち込んで非常に効率よく点検検査することができるとともに、特別な技術的、専門的知識も要することなく、誰でも何処でも容易かつ正確に所定の点検検査を行なうことができる可搬型の無線機用検査装置を発案し、実際に活用している。
【0004】
この可搬型の無線機用検査装置は、無線機に割り当てられた少なくとも送受信周波数及び検査項目を記憶するメモリ部及びそれらを画面表示して必要な周波数及び検査項目を選択的に設定操作可能な表示部を有する制御部と、この制御部での設定操作に基づいて所定周波数の信号を発生するとともに、所定レベルの受信電力に調整して無線機における受信機入力端子に接続可能な受信接栓に出力する標準信号発生部と、無線機における送信機出力端子に接続可能な送信接栓及びアンテナに接続可能なアンテナ接栓からの送信成分をそれぞれ検出する結合部と、この結合部で検出された各送信成分の電力及び周波数を計測して上記制御部に送り、送信出力、送信周波数及び電圧定在波比として表示部に表示させることが可能な電力計測部及び周波数計測部と、上記各部に電源を供給する充電式電池を有する電源部とを備え、これら各部を単一の筺体に装着することで、可搬型とし、車内に持ち込んで非常に効率よく点検検査することができるとともに、特別な技術的、専門的知識も要することなく、誰でも何処でも容易かつ正確に所定の点検検査を行なうことができるものである。
【0005】
【特許文献1】特開2001-285185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている可搬型の列車無線機用検査装置は、次のような問題点があった。
先ず、この可搬型の列車無線機用検査装置は、車内に持ち込んで点検検査のために接続された無線機の送受信周波数を設定して検査した結果と、点検検査の対象となった当該無線機の管理情報とリンクしていないため、実際には点検作業者がノートに記録しているという状況が生じていた。
また、無線機の点検検査計画に沿って点検されるのであるが、点検結果レポートとしては、可搬型の列車無線機用検査装置の画面のハードコピーまたは点検作業者のノートへの記録であったため、データ改変,データ誤記,或いは点検もれが生じる可能性があった。
さらに、可搬型の列車無線機用検査装置においては、電波法上の必要な検査項目を備えておらず、全自動で検査が行えるというものではなかった。
【0007】
上述の問題点やニーズに対応すべく、本発明の無線機用自動検査システムは、点検検査の対象となった無線機の管理情報とリンクした形で、点検検査データを表示・記録・保存でき、点検結果レポートとして、データ改変,データ誤記,或いは点検漏れが生じ難いものにし、電波法上の必要な検査項目を備え全自動で検査が行えるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る無線機用自動検査システムは、
・少なくとも検査対象の無線機の局名(呼出名称)と型式と製造番号の検査対象情報を設定する検査対象情報設定手段と、
・前記検査対象の無線機に割り当てられた送信周波数及び/又は受信周波数を設定する周波数設定手段と、
・所定周波数の信号を発生するとともに、所定レベルの受信電力に調整して前記検査対象の無線機の受信機入力端子に接続可能な受信接栓に出力する標準信号発生手段と、
・前記検査対象の無線機の送信機出力端子に接続可能な送信接栓及びアンテナに接続可能なアンテナ接栓からの送信成分をそれぞれ検出する検出手段と、
・前記検査対象の無線機のマイク及びスピーカーに接続されるマイクケーブルに対し所定周波数の信号を送受信するマイク・スピーカー検査手段と、
・前記検出部で検出された各送信成分の電力及び周波数を計測して、少なくとも送信パワー出力、送信周波数、変調度、スプリアス、VSWR(電圧定在波比)、周波数特性及び受信感度をデータ演算して表示するデータ演算表示手段と、
・前記データ演算表示手段により表示されたデータと前記検査対象情報設定手段で設定された検査対象情報を記録保存する記録保存手段
とを備えたことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、点検検査の対象となった無線機の管理情報とリンクした形で、点検検査データを表示・記録・保存でき、点検結果レポートとして、データ改変,データ誤記,或いは点検もれが生じ難いものにし、電波法上の必要な検査項目を備え全自動で検査が行える。
すわなち、少なくとも検査対象の無線機の局名(呼出名称)と型式と製造番号の検査対象情報を設定する検査対象情報設定手段,およびデータ演算表示手段により表示されたデータと検査対象情報設定手段で設定された検査対象情報を記録保存する記録保存手段により、点検検査の対象となった無線機の管理情報が設定され、これにより、点検検査データを表示・記録・保存する際に、上記無線機の管理情報とリンクできることとなる。
また、少なくとも送信パワー出力、送信周波数、変調度、スプリアス、VSWR(電圧定在波比)、周波数特性及び受信感度をデータ演算して表示するデータ演算表示手段により、電波法上の必要な検査項目を備え全自動で検査が行える。
また、後述するデータベース化により、点検結果レポートとして、データ改変,データ誤記,或いは点検もれが生じ難いものにできる。
データベースは、汎用のリレーショナル・データベースでよいが、運用上、特定のセキュリティ権限を有する保守員でしかデータ編集できないこととしており、また、点検検査計画に対応した管理情報が予め設定されている。
【0010】
所定周波数の信号を発生するとともに、所定レベルの受信電力に調整して前記検査対象の無線機の受信機入力端子に接続可能な受信接栓に出力する標準信号発生手段と、前記検査対象の無線機の送信機出力端子に接続可能な送信接栓及びアンテナに接続可能なアンテナ接栓からの送信成分をそれぞれ検出する検出手段に関しては、上述した特許文献1に詳細に説明しているため、本明細書では割愛する。
【0011】
次に、本発明に係る無線機用自動検査システムは、上記の検査対象情報設定手段において、検査対象情報がデータベース化されており、該データベースから選択して設定し得ることがより好ましい。
【0012】
点検検査計画に挙げられた無線機をもれなく点検すべく、事前に検査対象情報をデータベース化しておくため、検査対象情報の誤設定・誤入力を防止し、検査対象情報の検査現場での記入作業をなくしてスムーズに点検検査作業を行えるといった効果がある。
【0013】
また、本発明に係る無線機用自動検査システムは、上記の周波数設定手段において、送信周波数及び受信周波数がデータベース化されており、該データベースから選択して設定し得ることがより好ましい。
【0014】
送信周波数及び受信周波数をデータベース化することで、検査現場での設定作業の効率化が図れるとともに、上記の検査対象情報のデータベース化と相俟って、検査対象情報を設定することで、自動的に当該無線機の送信周波数及び受信周波数を読み込み、自動設定することが可能となる効果がある。
【0015】
また、本発明に係る無線機用自動検査システムは、上記のデータ演算表示手段において、表示データが予め設定された閾値範囲から外れた値であるときに、表示色を変える若しくはフリッカ(点滅)表示させることがより好ましい。
【0016】
表示データが予め設定された閾値範囲から外れた値であるときに、表示色を変える若しくはフリッカ(点滅)表示させることにより、点検検査の合格・不合格を容易に作業者が判断、認識することができる。
また、このような表示情報も記録することにより、後でどの検査項目が異常であったのかが容易に判別可能となる。
【0017】
また、本発明に係る無線機用自動検査システムは、上記の記録保存手段において、さらに計測日時及び/又は計測者情報を記録保存することがより好ましい。
【0018】
記録保存手段において、データ演算表示手段により表示されたデータと検査対象情報設定手段で設定された検査対象情報に加えて、さらに計測日時及び/又は計測者情報を記録保存することで、いつ、誰が、点検検査したかを記録することができる。これにより、定期的あるいは不定期的に検査する必要がある無線機の点検検査履歴が容易に得られるようになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の無線機用自動検査システムによれば、点検検査の対象となった無線機の管理情報とリンクした形で、点検検査データを表示・記録・保存でき、点検結果レポートとしてデータ改変,データ誤記,或いは点検もれが生じ難いものにし、電波法上の必要な検査項目を備え全自動で検査が行えるといった効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の無線機用自動検査システムの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。ただし、本発明の範囲は、図示例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の無線機用自動検査システムの概略システム構成図を示している。無線機用自動検査システム1は、自動検査装置2と操作端末コンピュータ3で構成される。自動検査装置2と操作端末コンピュータ3は、USB(Universal Serial Bus)ケーブル11で接続されている。また、自動検査装置2は、検査対象の無線機4との間で、アンテナ接続ケーブル12とマイクケーブル13と同軸ケーブル14で接続されている。
【0022】
図2は、操作端末コンピュータ3の画面に表示される本発明の無線機用自動検査システムの自動測定画面の一例を示している。
先ず、検査を始める前に、図2の画面上部にある、「局名(呼出名称)」,「無線機型式」,「製造番号」,「製造年月」を設定する。これらの無線機の管理情報のうち、局名(呼出名称)は、実際に運用している状態によって決定され管理されるものであり、無線機を利用する側のシステムにより決まる項目である。また、無線機型式と製造番号と製造年月は、無線機本体の属性である。
少なくとも検査対象の無線機の局名(呼出名称)と型式と製造番号の検査対象情報を設定することで、利用する側のシステムのどの無線機であるかが一意に定まるのである。
本実施例のシステムでは、画面で直接入力するものとしている。よりユーザーフレンドリーにするために、予め検査対象の無線機のこれらの情報をデータベース化しておき、インデックスを入力してこれらをデータベースから取り込むことでもよい。これらは自由な設計が可能と考える。
【0023】
次に、「送信」及び/又は「受信」の表示の前にあるチェックボックスを選択することで、検査する項目が決定する。通常は両方を選択し、送受信とも自動で検査する。
検査対象の無線機に割り当てられた送信周波数及び受信周波数が各々異なるため、「送信周波数」,「受信周波数」のカラムで周波数の値を設定している。これらは幾つかの周波数のメニューが事前に決められており、メニューから選択することになっている。
これで、検査前の設定は完了であり、あとは、画面右上の「測定開始」ボタンを押下することで、一連の検査が自動的に実施される。
【0024】
自動的に、所定周波数の信号を発生し、所定レベルの受信電力に調整して無線機の受信機入力端子に接続可能な受信接栓に標準信号発生し、無線機の送信機出力端子に接続可能な送信接栓及びアンテナに接続可能なアンテナ接栓からの送信成分を検出し、無線機のマイク等に接続されるケーブルに対し所定周波数の信号を送受信し、検出部で検出された各送信成分の電力及び周波数を計測するのである。
【0025】
そして、図2の画面で示されているように、送信パワー出力、送信周波数、変調度、スプリアス、VSWR(電圧定在波比)、周波数特性及び受信感度をデータ演算して表示するのである。これらは、現在の電波法で検査に必要な対象とされている項目である。
【0026】
検査の結果、上述の送信パワー出力、送信周波数、変調度、スプリアス、VSWR(電圧定在波比)、周波数特性及び受信感度のデータのいずれかに、異常なデータ値が生じた場合、赤字でデータを表示する(正常値であれば黒色で表示する)。
【0027】
検査が完了すると、データ演算表示手段により表示されたデータ(送信パワー出力、送信周波数、変調度、スプリアス、VSWR(電圧定在波比)、周波数特性及び受信感度のデータ)と検査対象情報設定手段で設定された検査対象情報(局名(呼出名称),無線機型式,製造番号,製造年月)を記録保存する。
このとき、同時に操作端末コンピュータから日付・時刻を取得し、測定日時として併せて記録している。
【0028】
以上説明したように、本発明の無線機用自動検査システムは、点検検査の対象となった無線機の管理情報とリンクした形で、点検検査データを表示・記録・保存でき、点検結果レポートとしてデータ改変,データ誤記,或いは点検漏れが生じ難いものにし、電波法上の必要な検査項目を備え全自動で検査が行っているのである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の無線機用自動検査システムは、列車の安全運行を図るために走行中の列車と中央制御局との間の通信手段として、頻繁に使用されるように列車車上に装備されている列車無線機を確実・迅速に検査し、記録保存する列車無線機用自動検査システムに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の無線機用自動検査システムの概略構成図
【図2】本発明の無線機用自動検査システムの自動測定画面の一例
【符号の説明】
【0031】
1 無線機用自動検査システム
2 自動検査装置
3 操作端末コンピュータ
4 検査対象の無線機
11 USB(Universal Serial Bus)ケーブル
12 アンテナ接続ケーブル
13 マイクケーブル
14 同軸ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも検査対象の無線機の局名(呼出名称)と型式と製造番号の検査対象情報を設定する検査対象情報設定手段と;前記検査対象の無線機に割り当てられた送信周波数及び/又は受信周波数を設定する周波数設定手段と;所定周波数の信号を発生するとともに、所定レベルの受信電力に調整して前記検査対象の無線機の受信機入力端子に接続可能な受信接栓に出力する標準信号発生手段と;前記検査対象の無線機の送信機出力端子に接続可能な送信接栓及びアンテナに接続可能なアンテナ接栓からの送信成分をそれぞれ検出する検出手段と;前記検査対象の無線機のマイク及びスピーカーに接続されるマイクケーブルに対し所定周波数の信号を送受信するマイク・スピーカー検査手段と;前記検出部で検出された各送信成分の電力及び周波数を計測して、少なくとも送信パワー出力、送信周波数、変調度、スプリアス、VSWR(電圧定在波比)、周波数特性及び受信感度をデータ演算して表示するデータ演算表示手段と;前記データ演算表示手段により表示されたデータと前記検査対象情報設定手段で設定された検査対象情報を記録保存する記録保存手段とを備えたことを特徴とする無線機自動検査システム。
【請求項2】
前記検査対象情報設定手段において、前記検査対象情報がデータベース化されており、該データベースから選択して設定し得ることを特徴とする請求項1に記載の無線機自動検査システム。
【請求項3】
前記周波数設定手段において、前記送信周波数及び前記受信周波数がデータベース化されており、該データベースから選択して設定し得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の無線機自動検査システム。
【請求項4】
前記データ演算表示手段において、表示データが予め設定された閾値範囲から外れた値であるときに、表示色を変える若しくはフリッカ(点滅)表示させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の無線機自動検査システム。
【請求項5】
前記記録保存手段において、さらに計測日時及び/又は計測者情報を記録保存することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の無線機自動検査システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−72282(P2008−72282A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247701(P2006−247701)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(500085275)株式会社中松商会 (2)
【Fターム(参考)】