説明

無線通信システム、送信装置、および通信信号送信方法

【課題】伝搬路特性を受信装置から送信装置へフィードバックすることなく、受信装置において通信信号が正しく復調される無線通信システム、送信装置、および通信信号送信方法を提供する。
【解決手段】送信装置201は、受信装置から送信装置201へ向かう方向の伝搬路特性を逆方向伝搬路特性として算出し、逆方向伝搬路特性と、受信装置から通知される無線受信部に係る受信側校正情報と、無線送信部204,205に係る送信側校正情報と、に基づいて、送信装置201から受信装置に向かう方向の順方向伝搬路特性を算出するSVD演算部207と、順方向伝搬路特性に基づいて重みづけされた通信信号を生成する重み合成部208と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線通信システム、送信装置、および通信信号送信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信において通信速度の向上を実現する通信方式としてMIMO(Multi―Input Multi―Output)方式がある。MIMO方式は、複数のアンテナを備える通信装置間の通信技術である。
【0003】
図5は、MIMO方式の無線通信システム501の構成を示す図である。
【0004】
MIMO方式では、送信側の通信装置(送信装置)502は、送信データを複数の部分データに分割して複数の送信アンテナに分配し、それぞれのアンテナから同じ周波数で送信する。図5では、2本の送信アンテナ504,505を備える例を示している。
【0005】
受信側の通信装置(受信装置)503は、複数の受信アンテナ(ここでは2本の受信アンテナ506,507)において、送信アンテナ504,505から送信された信号を受信する。受信装置503は、受信された信号から、送信アンテナ504,505と受信アンテナ506,507の間の、送信装置502から受信装置503へ向かう方向の伝搬路特性Hfwdを用いて、送信アンテナのそれぞれから送信された複数の部分データを取得し、それらを組み合わせることで受信データを生成する。
【0006】
ここで伝搬路特性Hfwdは、送信アンテナ504,505のそれぞれから、受信アンテナ506,507のそれぞれへの伝搬路特性h11、h12、h21、h22を要素とする行列であらわされる。
【0007】
MIMO方式による通信では、1本のアンテナを使用する場合に対し、最大で送信アンテナの本数分だけ乗算された通信速度が実現できる。
【0008】
さらに、伝搬路特性Hfwdを特異値分解(Singular Value Decomposition、SVD)することによって得られる、伝搬路特性fwdと等価な直交伝搬路特性を送信装置502および受信装置503で利用する、SVD−MIMO方式がある。
【0009】
以下に、M本(ここでは2本)の送信アンテナを備える送信装置502からN本(ここでは2本)の受信アンテナを備える受信装置へ信号を送信するSVD−MIMO方式の概略を示す。
【0010】
SVD−MIMO方式による通信においては、まず、送信装置502が送信側既知信号を送信アンテナ504,505のそれぞれから受信アンテナ506,507のそれぞれに送信する。
【0011】
受信装置503は、予め把握している送信側既知信号および受信アンテナ506,507で受信した、送信アンテナ504,505から送信された送信側既知信号を用いて、送信装置502から受信装置503へ向かう方向の伝搬路特性Hfwdを算出する。伝搬路特性Hfwdは、N行M列の無線チャネル行列である。
【0012】
次に、受信装置503は、伝搬路特性Hfwdを式(1)に示すように特異値分解する。
【数1】

【0013】
ここで、UはM行M列のユニタリ行列、VはN行N列のユニタリ行列であり、Vに付された「」は共役転置を示す。
【0014】
受信装置503は、得られたユニタリ行列Vを送信装置502へフィードバックする。
【0015】
送信装置502は、ユニタリ行列Vを、M(すなわち2)個の送信信号からなるベクトルsにかけることによって重みづけを行い、得られる信号Vsを送信アンテナ504,505から送信する。
【0016】
受信装置503は、送信アンテナ504,505から送信されたVsの各要素が重畳されたN(すなわち2)個の信号からなる受信信号ベクトルyを、受信アンテナ506,507で受信する。受信装置503は、信号yに、式(1)で示した特異値分解で得られたユニタリ行列Uの共役転置Uをかけて復調する。
【0017】
このようにして、複数の送信アンテナ504,505と複数の受信アンテナ506,507の間で、互いに相関のないデータのやりとりが実現されている。
【0018】
この方式は、受信装置503がユニタリ行列Vを送信装置502にフィードバックすることから「クローズドループSVD−MIMO方式」と呼ばれており、例えば非特許文献1に記載されている。
【非特許文献1】IEEE Computer Society and theIEEE Microwave Theory and Techniques Society, ”IEEE Standard for Localand metropolitan area networks Part 16: Air Interface for Fixed and MobileBroadband Wireless Access Systems Amendment2: Physical and Medium AccessControl Layers for Combined Fixed and Mobile Operation in Licensed Bands andCorrigendum 1”、(米国)、2006年2月28日、pp.421−422
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、上述したクローズドループSVD−MIMO方式では、受信装置503が、伝搬路特性を表すユニタリ行列Vを送信装置502にフィードバックするのに数フレーム程度の時間を要する。このフィードバックの間に、例えば送信装置502や受信装置503の移動等によって伝搬路が変化してしまった場合、送信装置502において送信時に行われるユニタリ行列Vを基にした重みづけは、実際に使用される伝搬路に対応したものではなくなり、こうして送信された通信信号は、受信装置503において正しく復調されない。
【0020】
本発明は上記従来の課題を鑑みてなされたものであり、伝搬路特性を受信装置から送信装置へフィードバックすることなく、受信装置において通信信号が正しく復調される無線通信システム、送信装置、および通信信号送信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するために、本発明に係る無線通信システムは、複数の受信アンテナおよび該複数の受信アンテナにそれぞれ接続される複数の無線受信部を備える受信装置と、複数の送信アンテナおよび該複数の送信アンテナにそれぞれ接続される複数の無線送信部を備える送信装置と、を含み、前記受信装置は、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の伝搬路特性に基づいて、前記複数の送信アンテナのそれぞれから送信される複数の通信信号を取得する、無線通信システムであって、前記受信装置は、前記複数の無線受信部に係る受信側校正情報を前記送信装置に通知する受信側校正情報通知手段を含み、前記送信装置は、前記受信装置から前記送信装置へ向かう方向の伝搬路特性を逆方向伝搬路特性として算出する逆方向伝搬路特性算出手段と、前記逆方向伝搬路特性と、前記受信装置から通知される前記受信側校正情報と、前記複数の無線送信部に係る送信側校正情報と、に基づいて、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の前記伝搬路特性に対応する順方向伝搬路特性を算出する順方向伝搬路特性算出手段と、前記複数の送信アンテナのそれぞれから、前記順方向伝搬路特性に基づいて重みづけされた前記複数の通信信号を送信する通信信号送信手段と、を含む。
【0022】
また、本発明に係る無線通信システムにおいて、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の前記伝搬路特性は、前記複数の送信アンテナのそれぞれから送信される複数の送信側既知信号と、前記複数の受信アンテナのそれぞれで受信される、前記複数の送信側既知信号が重なり合った複数の重畳信号と、に基づいて算出され、前記受信装置から前記送信装置に向かう方向の前記伝搬路特性は、前記複数の受信アンテナのそれぞれから送信される複数の受信側既知信号と、前記複数の送信アンテナのそれぞれで受信される、前記複数の受信側既知信号が重なり合った複数の重畳信号と、に基づいて算出される。
【0023】
さらに、本発明に係る無線通信システムにおいて、前記受信側校正情報は、前記複数の受信アンテナに入力され前記複数の無線受信部をそれぞれ経由する参照信号の変動量と、前記複数の無線受信部を経由し前記複数の受信アンテナからそれぞれ出力される参照信号の変動量と、に基づいて決定され、前記送信側校正情報は、前記複数の送信アンテナに入力され前記複数の無線送信部をそれぞれ経由する参照信号の変動量と、前記複数の無線送信部を経由し前記複数の送信アンテナからそれぞれ出力される参照信号の変動量と、に基づいて決定される。
【0024】
また、本発明に係る無線通信システムにおいて、前記変動量は、振幅変動量および位相変動量の少なくとも一方である。
【0025】
さらに、本発明に係る無線通信システムは、M本の送信アンテナを備える送信装置と、N本の受信アンテナを備える受信装置と、を含むMIMOシステムであり、前記複数の送信アンテナから前記複数の受信アンテナへ向かう方向の伝搬路特性は、N行M列の無線チャネル行列であり、前記複数の受信アンテナから前記複数の送信アンテナへ向かう方向の伝搬路特性は、M行N列の無線チャネル行列であり、前記受信側校正情報は、N個の要素からなる校正値ベクトルであり、前記送信側校正情報は、M個の要素からなる校正値ベクトルである。
【0026】
また、本発明に係る無線通信システムはSVD−MIMOシステムであり、前記複数の送信アンテナのそれぞれから送信される前記複数の通信信号は、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の伝搬路特性を特異値分解して得られるM次ユニタリ行列の複素共役転置に基づいて重みづけされている。
【0027】
また、本発明に係る送信装置は、複数の受信アンテナおよび該複数の受信アンテナにそれぞれ接続される複数の無線受信部を備え、該送信装置から受信装置へ向かう方向の伝搬路特性に基づいて、複数の送信アンテナのそれぞれから送信される複数の通信信号を取得する前記受信装置に、前記複数の通信信号を送信する送信装置であって、前記複数の送信アンテナと、前記複数の送信アンテナにそれぞれ接続される複数の無線送信部と、前記受信装置から前記送信装置へ向かう方向の伝搬路特性を逆方向伝搬路特性として算出する逆方向伝搬路特性算出手段と、前記逆方向伝搬路特性と、前記受信装置から通知される前記複数の無線受信部に係る受信側校正情報と、前記複数の無線送信部に係る送信側校正情報と、に基づいて、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の前記伝搬路特性に対応する順方向伝搬路特性を算出する順方向伝搬路特性算出手段と、前記複数の送信アンテナのそれぞれから、前記順方向伝搬路特性に基づいて重みづけされた前記複数の通信信号を送信する通信信号送信手段と、を含む。
【0028】
また、本発明に係る通信信号送信方法は、複数の受信アンテナおよび該複数の受信アンテナにそれぞれ接続される複数の無線受信部を備える受信装置と、複数の送信アンテナおよび該複数の送信アンテナにそれぞれ接続される複数の無線送信部を備える送信装置と、を含み、前記受信装置は、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の伝搬路特性に基づいて、前記複数の送信アンテナのそれぞれから送信される複数の通信信号を取得する、無線通信システムにおける通信信号送信方法であって、前記受信装置から前記送信装置へ向かう方向の伝搬路特性である逆方向伝搬路特性を算出するステップと、前記逆方向伝搬路特性と、前記複数の無線受信部に係る受信側校正情報と、前記複数の無線送信部に係る送信側校正情報と、に基づいて、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の前記伝搬路特性に対応する順方向伝搬路特性を算出するステップと、前記複数の送信アンテナのそれぞれから、前記順方向伝搬路特性に基づいて重みづけされた複数の通信信号を送信するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0029】
送信装置が送信装置から受信装置に向かう方向の順方向伝搬路特性を算出し、これに基づいて重みづけされた通信信号を送信する。このため、伝搬路特性を受信装置から送信装置へフィードバックすることなく、受信装置において通信信号が正しく復調される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明に係る無線通信システム101を示す図である。
【0032】
無線通信システム101は、2本の送信アンテナ202、203を備える送信装置201、2本の受信アンテナ302、303を備える受信装置301を含む。
【0033】
本実施の形態では、受信装置301がユニタリ行列Vを送信装置201にフィードバックする必要のない「オープンループSVD−MIMO方式」を実現する。
【0034】
なお、本実施の形態では、便宜上、オープンループSVD−MIMO方式によりデータを送信する通信装置を「送信装置」、受信する通信装置を「受信装置」と表記し、同様に「送信アンテナ」などの表記を用いる。しかしながら、これらは例えば「送信」が付された部材は送信処理のみを行うという意味ではなく、伝搬路特性の算出などのために、いずれの部材も、信号の送信処理および受信処理の両方に関する処理を実行する。
【0035】
従来のフィードバックを行わないSVD−MIMO方式では、送信装置201は、受信アンテナ302,303のそれぞれから送信される受信側既知信号および送信アンテナ202,203のそれぞれで受信される、受信側既知信号が重なり合った信号から、受信装置301から送信装置201へ向かう方向の伝搬路特性Hrevを求め、このHrevをHfwdと見なして送信信号の重みづけに使用している。
【0036】
本実施の形態では、受信側校正情報、送信側校正情報、および受信装置301から送信装置201へ向かう方向の伝搬路特性Hrevを用いて、送信装置201から受信装置301への方向に特化した伝搬路特性Hfwdを算出して、この伝搬路特性Hfwdを送信信号の重みづけに用いることにより、より高精度な「オープンループSVD−MIMO方式」による通信を実現する。
【0037】
図2は、送信装置201の構成を示す図である。送信装置201は、送信アンテナ202、203、無線送信部204、205、ベースバンド部206を含む。
【0038】
送信アンテナ202、203は、無線送信部204,205からそれぞれ入力される信号を電波として送信する。また、送信アンテナ202、203は、電波を受信して無線送信部204,205へそれぞれ出力する。
【0039】
無線送信部204,205は半導体回路からなり、送信アンテナ202、203からそれぞれ入力される信号に対しダウンコンバート処理等を行い、ベースバンド部206へ出力する。また、無線送信部204,205は、ベースバンド部206から入力される信号に対しアップコンバート処理等を行い送信アンテナ202,203へそれぞれ出力する。
【0040】
ベースバンド部206は、CPU等からなり、ベースバンド信号の生成および処理を行う。ベースバンド部206は、SVD演算部207、重み合成部208、送信データ生成部211、変調部212、メモリー213、参照信号生成部214、参照信号変調部215、変動演算部216を含む。
【0041】
メモリー213は、送信装置201が使用する各種データを記憶する。
【0042】
参照信号生成部214は、変動演算部216で行われる位相振幅変動の演算に使用される参照信号を生成する。
【0043】
参照信号変調部215は、参照信号生成部214で生成される参照信号に対してマッピングを行い、生成された信号は無線送信部204,205を介して、送信アンテナ202,203から出力される。
【0044】
変動演算部216は、送信時の、無線送信部204,205を経由し、送信アンテナ202および203からそれぞれ出力される参照信号の変動量である送信時変動Etx_A(k)、受信時の、送信アンテナ202および203に入力され無線送信部204,205をそれぞれ経由する参照信号の変動量である受信時変動Erx_A(k)、および無線送信部204,205に係る送信側校正情報(送信側キャリブレーションベクトル)Cを算出する。
【0045】
ここでkは送信アンテナ202,203のそれぞれを指すアンテナ素子番号であり、2本のアンテナを備える本実施の形態ではk=1または2である。また、Aは、送信装置201に関する値であることを示す記号で、後述する受信装置301に関する値にはBを付する。
【0046】
変動演算部216は、無線送信部204,205を経由し送信アンテナ202,203からそれぞれ出力される参照信号の変動量を検出することにより、送信時の無線送信部204,205、および送信アンテナ202,203のそれぞれを流れる通信信号の変動量である送信時変動Etx_A(k)を算出する。
【0047】
送信時変動Etx_A(k)は、送信アンテナ202および203から送信される参照信号およびそれらを再帰的に送信アンテナ202および203が受信した受信信号を用いて、以下の式(2)から算出される。
【数2】

【0048】
ここでfは周波数方向シンボル、sは参照信号、yは受信信号である。
【0049】
また、変動演算部216は、送信アンテナ202,203に入力され無線送信部204,205をそれぞれ経由する参照信号の変動量を検出することにより、受信時の送信アンテナ202,203および無線送信部204,205のそれぞれを流れる通信信号の変動量である受信時変動Erx_A(k)を算出する。
【0050】
この参照信号は後述する受信アンテナ302および303のそれぞれから送信される。受信時変動Erx_A(k)は以下の式(3)から算出される。
【数3】

【0051】
ここでfは周波数方向シンボル、sは参照信号、yは受信信号である。
【0052】
なお、本実施の形態において求められている変動量とは、振幅変動量および位相変動量の少なくとも一方である。
【0053】
そして、変動演算部216は、得られた送信時変動Etx_A(k)および受信時変動Erx_A(k)を基に、以下の式(4)で表される送信側校正情報(送信側キャリブレーションベクトル)Cを算出する。
=Erx_A(k)/Etx_A(k) …(4)
は、メモリー213に保存される。
【0054】
SVD演算部207は、受信装置301から送信装置201へ向かう方向の伝搬路特性である逆方向伝搬路特性Hrev、送信側および受信側の校正情報を反映した、送信装置201から受信装置301へ向かう方向の伝搬路特性である順方向伝搬路特性Hfwd’、およびユニタリ行列U,Vを算出する。
【0055】
逆方向伝搬路特性Hrevは、後述する受信アンテナ302,303から送信される受信側既知信号と、送信アンテナ202、203のそれぞれで受信される、受信側既知信号が重なり合った重畳信号と、に基づいて算出される。受信側既知信号は予め規定されており、メモリー213に保存されている。
【0056】
次に、順方向伝搬路特性Hfwd’の算出方法を説明する。順方向伝搬路特性Hfwd’は、以下の式(5)で表される。
fwd’=Etx_A × Hfwd ×Erx_B …(5)
【0057】
ここで、Hfwdは送信アンテナ202,203と受信アンテナ302,303との間の伝搬路特性であり、式(5)は、伝搬路特性Hに、送信装置201の送信時変動Etx_Aおよび受信装置301の受信時変動Erx_Bを乗じることにより、送信装置201および受信装置301におけるアンテナ間の変動も考慮した順方向伝搬路特性Hfwd’が得られることを表している。
【0058】
式(5)は以下のように変形できる。
fwd=Etx_A × H ×Erx_B …(5)
=(Etx_B × H ×Erx_A)
×(Erx_B/Etx_B)/(Erx_A/Etx_A) …(6)
【0059】
ここで、逆方向伝搬路特性Hrevは(5)と同様に
rev=Etx_B × H ×Erx_A …(7)
と表され、後述する受信装置301の無線受信部304,305に係る受信側校正情報Cは式(4)と同様に
=Erx_B(k)/Etx_B(k) …(8)
と表されるため、式(4)、(6)、(7)、(8)より
fwd=Hrev × C/C …(9)
が得られる。
SVD演算部207は式(9)を用いて順方向伝搬路特性Hfwd’を算出する。
【0060】
さらに、SVD演算部207は、式(9)から得られるHfwd’を特異値分解してユニタリ行列UおよびVを生成し、Vを重み合成部208に出力する。
【0061】
送信データ生成部211は、受信装置301に送信される送信データを生成し、変調部212へ出力する。ここで生成される送信データには、受信装置301で伝搬路特性の算出に用いられる送信側既知信号も含まれる。
【0062】
変調部212は、送信データ生成部211から入力された送信データに対しマッピングを行い、送信信号yを生成する。
【0063】
重み合成部208は、SVD演算部207から出力されるユニタリ行列Vと変調部212から出力される送信信号yとを掛け合わせることにより重みづけを行い、送信アンテナ202,203のそれぞれから送信される通信信号を生成する。なお、送信側既知信号に対しては重みづけを行わない。
【0064】
図3は、受信装置301の構成を示す図である。受信装置301は、受信アンテナ302,303、無線受信部304,305、ベースバンド部306を含む。
【0065】
受信アンテナ302,303は、無線受信部304,305からそれぞれ入力される信号を電波として送信する。また、受信アンテナ302,303は、電波を受信して無線受信部304,305へそれぞれ出力する。
【0066】
無線受信部304,305は、半導体回路からなる。無線受信部304,305は、受信アンテナ302,303からそれぞれ入力される信号に対しダウンコンバート処理等を行い、ベースバンド部306へ出力する。また、無線受信部304,305は、ベースバンド部306から入力される信号に対しアップコンバート処理等を行い受信アンテナ302,303へ出力する。
【0067】
ベースバンド部306は、CPU等からなり、ベースバンド信号の生成および処理を行う。ベースバンド部306は、SVD演算部307、重み合成部308、復調部309、復号部310、送信データ生成部311、変調部312、メモリー313、参照信号生成部314、参照信号変調部315、変動演算部316を含む。
【0068】
メモリー313は、受信装置301が使用する各種データを記憶する。
【0069】
参照信号生成部314は、送信装置201における動作と同様に、参照信号を生成し、参照信号は参照信号変調部315を介して送信される。
【0070】
変動演算部316は、送信装置201における変動演算部216と同様に、受信時変動Erx_B(k)、送信時変動Etx_B(k)、および無線受信部304,305に係る受信側校正情報(受信側キャリブレーションベクトル)Cを算出する。
【0071】
Erx_B(k)は、受信アンテナ302,303へ入力され無線受信部304,305をそれぞれ経由する参照信号の変動量を算出することにより得られ、Etx_B(k)は、無線受信部304,305を経由し受信アンテナ302,303からそれぞれ出力される参照信号の変動量を算出することにより得られる。
【0072】
そして、変動演算部316は、得られた送信時変動Etx_B(k)および受信時変動Erx_B(k)を基に、以下の式(10)で表される送信側校正情報(送信側キャリブレーションベクトル)Cを算出する。
=Erx_B(k)/Etx_B(k) …(10)
は通信開始時に送信装置201に、例えば受信装置301から送信される送信データに含まれることにより通知される。
【0073】
SVD演算部307は、送信側既知信号と、受信アンテナ302,303のそれぞれで受信される、送信アンテナ202,203から送信された送信側既知信号が重なり合った重畳信号と、に基づいて、送信側および受信側の校正情報も反映された、送信装置201から受信装置301へ向かう方向の伝搬路特性である順方向伝搬路特性Hfwd’を算出する。
【0074】
さらに、SVD演算部307は、順方向伝搬路特性Hfwd’を特異値分解してユニタリ行列U、Vを生成し、ユニタリ行列Uを復調部309に、ユニタリ行列Vを重み合成部308に、それぞれ出力する。
【0075】
送信データ生成部311は、送信装置201に送信される送信データを生成する。ここで生成される送信データには、送信装置201で伝搬路特性の算出に用いられる送信側既知信号も含まれる。
【0076】
送信データは、送信装置201と同様に、変調部312、重み合成部308を介して送信される。なお、重み合成部308においては、送信装置201における重み合成部208と同様、送信側既知信号に対しては重みづけを行わない。
【0077】
復調部309は、送信アンテナ202,203から送信され、受信アンテナ302,302で受信された信号と、SVD演算部307で生成されたユニタリ行列Uの共役転置とを掛け合わせて復調することで、送信アンテナ202,203から送信された通信信号を取得する。
【0078】
復号部310は、復調部309で取得された通信信号に対し、ターボ復号、CRC確認等を行う。
【0079】
以下、本実施例に係る無線通信システム101の動作を、シーケンスを用いて説明する。
【0080】
図4は、無線通信システム101の動作を示すシーケンスである。
【0081】
まず、起動時もしくは通信の開始前に、送信装置201の変動演算部216は、無線送信部204,205の送信側校正情報Cを算出する(S101)。
【0082】
また、受信装置301の変動演算部316は、無線受信部304,305の受信側校正情報Cを算出する(S102)。
【0083】
次に、通信開始時に、受信装置301は、送信装置201に、受信側校正情報Cを通知する(S103)。
【0084】
次に、送信装置201は、送信アンテナ202,203から送信側既知信号を送信し、受信装置301は、これらの信号が重なり合った重畳信号を受信アンテナ302,303で受信する(S104)。また、受信装置301は、受信アンテナ302,303から受信側既知信号を送信し、送信装置201は、これらの信号が重なり合った重畳信号を送信アンテナ202,203で受信する(S105)。
【0085】
送信装置201のSVD演算部207は、メモリー213に保存されている受信側既知信号およびS104で受信した重畳信号から逆方向伝搬路特性Hrevを算出する(S106)。
【0086】
次に、送信装置201のSVD演算部207は、S101で算出された送信側校正情報C、S103で通知された受信側校正情報、およびS106で算出された逆方向伝搬路特性Hrevから、順方向伝搬路特性Hfwd’を算出する(S107)。
【0087】
続いて、送信装置201のSVD演算部207は、S107で算出された順方向伝搬路特性Hfwd’を特異値分解して、ユニタリ行列Vを算出する(S108)。
【0088】
受信装置301のSVD演算部307は、メモリー313に保存されている送信側既知信号およびS104で受信した重畳信号から順方向伝搬路特性Hfwd’を算出する(S109)。
【0089】
次に、受信装置301のSVD演算部307は、S109で算出された順方向伝搬路特性Hfwd’を特異値分解して、ユニタリ行列Uを算出する(S110)。
【0090】
送信装置201の重み合成部208は、ユニタリ行列Vと送信信号sを掛け合わせる(S111)。得られた信号Vsは、送信アンテナ202,203から送信され、これらの信号が重なり合った重畳信号yが受信アンテナ302、303で受信される(S112)。
【0091】
受信装置301は、S110で算出したユニタリ行列Uの共役転置UとS112で受信した信号yとを掛け合わせ、復調する(S113)。
【0092】
以上の構成により、送信装置201においてユニタリ行列が算出されるため、ユニタリ行列を受信装置301から送信装置201にフィードバックする必要がなく、受信装置301は通信信号を正しく復調できる。
【0093】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0094】
例えば、本実施の形態においては、送信装置201と受信装置301が異なる構成を有する例を説明したが、これらが互いに同じ構成を有し、いずれの装置も、本実施の形態において述べた送信処理および受信処理を実行できる構成としてもよい。
【0095】
また、例えば、本実施の形態においては、送信装置201および受信装置301がそれぞれ2本のアンテナを備える構成を説明したが、アンテナの本数はさらに多くしてもよく、また、送信装置201と受信装置301とにおいてアンテナの本数が異なる構成としてもよい。
【0096】
また、本実施の形態では、SVD−MIMO方式の無線通信システムにおける構成を説明したが、本発明は本方式に限らず、伝搬路特性を送信信号の変調および受信信号の復調に用いるさまざまな方式の無線通信システムに応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明に係る無線通信システムを示す図である。
【図2】送信装置の構成を示す図である。
【図3】受信装置の構成を示す図である。
【図4】無線通信システムの動作を示すシーケンスである。
【図5】MIMO方式の無線通信システムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
101 無線通信システム、201 送信装置、202 送信アンテナ、203 送信アンテナ、204 無線送信部、205 無線送信部、206 ベースバンド部、207 SVD演算部、208 重み合成部、211 送信データ生成部、212 変調部、213 メモリー、214 参照信号生成部、215 参照信号変調部、216 変動演算部、301 受信装置、302 受信アンテナ、303 受信アンテナ、304 無線受信部、305 無線受信部、306 ベースバンド部、307 SVD演算部、308 重み合成部、309 復調部、310 復号部、311 送信データ生成部、312 変調部、313 メモリー、314 参照信号生成部、315 参照信号変調部、316 変動演算部、501 無線通信システム、502 送信装置、503 受信装置、504 送信アンテナ、505 送信アンテナ、506 受信アンテナ、507 受信アンテナ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受信アンテナおよび該複数の受信アンテナにそれぞれ接続される複数の無線受信部を備える受信装置と、複数の送信アンテナおよび該複数の送信アンテナにそれぞれ接続される複数の無線送信部を備える送信装置と、を含み、
前記受信装置は、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の伝搬路特性に基づいて、前記複数の送信アンテナのそれぞれから送信される複数の通信信号を取得する、
無線通信システムであって、
前記受信装置は、
前記複数の無線受信部に係る受信側校正情報を前記送信装置に通知する受信側校正情報通知手段を含み、
前記送信装置は、
前記受信装置から前記送信装置へ向かう方向の伝搬路特性を逆方向伝搬路特性として算出する逆方向伝搬路特性算出手段と、
前記逆方向伝搬路特性と、前記受信装置から通知される前記受信側校正情報と、前記複数の無線送信部に係る送信側校正情報と、に基づいて、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の前記伝搬路特性に対応する順方向伝搬路特性を算出する順方向伝搬路特性算出手段と、
前記複数の送信アンテナのそれぞれから、前記順方向伝搬路特性に基づいて重みづけされた前記複数の通信信号を送信する通信信号送信手段と、
を含むことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の前記伝搬路特性は、前記複数の送信アンテナのそれぞれから送信される複数の送信側既知信号と、前記複数の受信アンテナのそれぞれで受信される、前記複数の送信側既知信号が重なり合った複数の重畳信号と、に基づいて算出され、
前記受信装置から前記送信装置に向かう方向の前記伝搬路特性は、前記複数の受信アンテナのそれぞれから送信される複数の受信側既知信号と、前記複数の送信アンテナのそれぞれで受信される、前記複数の受信側既知信号が重なり合った複数の重畳信号と、に基づいて算出される、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無線通信システムにおいて、
前記受信側校正情報は、前記複数の受信アンテナに入力され前記複数の無線受信部をそれぞれ経由する参照信号の変動量と、前記複数の無線受信部を経由し前記複数の受信アンテナからそれぞれ出力される参照信号の変動量と、に基づいて決定され、
前記送信側校正情報は、前記複数の送信アンテナに入力され前記複数の無線送信部をそれぞれ経由する参照信号の変動量と、前記複数の無線送信部を経由し前記複数の送信アンテナからそれぞれ出力される参照信号の変動量と、に基づいて決定される、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
請求項3に記載の無線通信システムにおいて、
前記変動量は、振幅変動量および位相変動量の少なくとも一方である、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の無線通信システムにおいて、
前記無線通信システムは、M本の送信アンテナを備える送信装置と、N本の受信アンテナを備える受信装置と、を含むMIMOシステムであり、
前記複数の送信アンテナから前記複数の受信アンテナへ向かう方向の伝搬路特性は、N行M列の無線チャネル行列であり、
前記複数の受信アンテナから前記複数の送信アンテナへ向かう方向の伝搬路特性は、M行N列の無線チャネル行列であり、
前記受信側校正情報は、N個の要素からなる校正値ベクトルであり、
前記送信側校正情報は、M個の要素からなる校正値ベクトルである、
ことを特徴とする、無線通信システム。
【請求項6】
請求項5に記載の無線通信システムにおいて、
前記無線通信システムはSVD−MIMOシステムであり、
前記複数の送信アンテナのそれぞれから送信される前記複数の通信信号は、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の伝搬路特性を特異値分解して得られるM次ユニタリ行列の複素共役転置に基づいて重みづけされている、
ことを特徴とする、無線通信システム。
【請求項7】
複数の受信アンテナおよび該複数の受信アンテナにそれぞれ接続される複数の無線受信部を備え、該送信装置から受信装置へ向かう方向の伝搬路特性に基づいて、複数の送信アンテナのそれぞれから送信される複数の通信信号を取得する前記受信装置に、前記複数の通信信号を送信する送信装置であって、
前記複数の送信アンテナと、
前記複数の送信アンテナにそれぞれ接続される複数の無線送信部と、
前記受信装置から前記送信装置へ向かう方向の伝搬路特性を逆方向伝搬路特性として算出する逆方向伝搬路特性算出手段と、
前記逆方向伝搬路特性と、前記受信装置から通知される前記複数の無線受信部に係る受信側校正情報と、前記複数の無線送信部に係る送信側校正情報と、に基づいて、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の前記伝搬路特性に対応する順方向伝搬路特性を算出する順方向伝搬路特性算出手段と、
前記複数の送信アンテナのそれぞれから、前記順方向伝搬路特性に基づいて重みづけされた前記複数の通信信号を送信する通信信号送信手段と、
を含むことを特徴とする送信装置。
【請求項8】
複数の受信アンテナおよび該複数の受信アンテナにそれぞれ接続される複数の無線受信部を備える受信装置と、複数の送信アンテナおよび該複数の送信アンテナにそれぞれ接続される複数の無線送信部を備える送信装置と、を含み、
前記受信装置は、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の伝搬路特性に基づいて、前記複数の送信アンテナのそれぞれから送信される複数の通信信号を取得する、
無線通信システムにおける通信信号送信方法であって、
前記受信装置から前記送信装置へ向かう方向の伝搬路特性である逆方向伝搬路特性を算出するステップと、
前記逆方向伝搬路特性と、前記複数の無線受信部に係る受信側校正情報と、前記複数の無線送信部に係る送信側校正情報と、に基づいて、前記送信装置から前記受信装置へ向かう方向の前記伝搬路特性に対応する順方向伝搬路特性を算出するステップと、
前記複数の送信アンテナのそれぞれから、前記順方向伝搬路特性に基づいて重みづけされた複数の通信信号を送信するステップと、
を含むことを特徴とする通信信号送信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−109631(P2010−109631A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278946(P2008−278946)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】