説明

無線通信システムおよび無線通信方法

【課題】送信元無線局および宛先無線局の周辺に位置する複数の無線局が協調して無線パケットをマルチホップ中継を行う中継伝送技術を提供する。
【解決手段】無線局は、再送中継を行う通信エリアを分割して得られる分割領域のうち自局が位置する分割領域の識別子情報と、受信した無線パケットを再送中継する無線局が位置する受信領域の識別子情報を取得する領域情報取得手段と、受信した無線パケットの受信領域を示す識別子が、自局が位置する分割領域の識別子と一致するか判断する領域一致判断手段と、基地局識別子取得手段と、識別子一致判断手段と、再送中継実施判断手段と、送信元または宛先を示す識別子のいずれかが基地局の識別子と一致し、かつ受信領域を示す識別子が自局が位置する分割領域の識別子と一致し、かつ再送中継を実施すべきと判断された際に、受信した無線パケットに次の受信領域を記載して送信する無線パケット送信手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信元無線局が宛先無線局との間で無線パケットの送受信を行う無線通信システムにおいて、送信元無線局と宛先無線局の間の距離が離れている、ないしは見通し外などの理由で直接的な無線通信が困難な場合を含む環境でも安定した無線通信を行う無線通信システムおよび無線通信方法に関する。
【0002】
特に、送信元無線局と宛先無線局の間の直接通信が困難となる場合に、送信元無線局および宛先無線局の周辺に位置する複数の無線局が無線パケットを正常に受信できた際に、これらの無線局が協調してマルチホップ中継を行うための中継伝送技術に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、無線通信の普及が目覚しい。携帯電話等の移動通信から、準静止環境でのスポット的な無線LANサービスの提供、光ファイバ等の有線回線の代替として無線回線を各家庭に提供するFWA(Fixed Wireless Access )サービスの提供など、様々な形で無線通信の利点を利用したサービスが展開されている。この際、ビジネス的な見地からは、少ない基地局設備で広範囲のエリアをカバーし、より多くのユーザ端末を収容することが望ましい。しかし一般には、ひとつの基地局がカバーできるエリア面積は、そのシステム固有の条件(例えば周波数、送信出力、アンテナ利得、アンテナ設置場所、変調方式等)や伝搬環境により異なる。例えば、無線局の送信側の機能として、大出力の送信アンプを備えていた場合には、より広い領域をサービスエリアに設定することが可能である。また、一般には低い周波数ほど遠くまで伝達する。
【0004】
しかし、線形性の高い高機能の大出力送信アンプを利用することは、装置の価格を押し上げることになり、さらには電波法等の規定による送信出力の上限もあり、あまり大出力の送信アンプを利用してサービスエリア拡大を図るのは好ましくない。一方で、周波数の低いマイクロ波帯などは使い勝手の良い周波数帯として多くのシステムで利用されているために、既に周波数資源は枯渇しつつある状況であり、新たなシステムへの免許の割り当ては期待できない。
【0005】
この結果、比較的高い周波数帯を用いて広いサービスエリアに対してサービス提供を図る場合、回線設計から得られるサービスエリア面積はビジネス的な採算性の視点からは十分と言えないことが多い。この場合の対策としては、エリア内の多数の無線局を利用して、無線によるマルチホップネットワークを構築して中継伝送することが考えられる。この様なマルチホップネットワークの例としては、例えばIEEE802.11sと呼ばれる無線LAN規格におけるメッシュワークなどが有名であり(非特許文献1参照)、ここでは送信元無線局から宛先無線局へデータを到達させるためのルーチングとしてAODV等の方式が提案されている。
【0006】
図11は、従来技術の無線マルチホップネットワークにおけるルーチングの概要を示す。
図11において、100はネットワーク、101〜104は無線局(詳細には、101は送信元無線局、102は宛先無線局、103〜104は中継ノード)を表し、各無線局間リンクの数値は無線メトリック値を表す。例えば、ネットワーク100から無線局103にデータを転送する場合には、単純に無線局101と無線局103が直接的に無線回線を介して通信を行うことで対処可能である。一方、無線局101と直接的に通信を行うことができない無線局102に対してデータを転送する場合には、送信元無線局101→中継ノード103→宛先無線局102のルートと、送信元無線局101→中継ノード104→宛先無線局102のルートの様に、複数の選択肢が存在するルートの中から最適なルートを検索するルーチング処理が必要になる。
【0007】
このルーチング処理では、まず各無線局間で運用可能な伝送速度、トラフィック量、干渉量などの無線回線の状態を示す指標として定義された無線メトリックを利用する。説明を簡単にするため、ここでは無線メトリック値が少ない方が無線回線の状態が好ましいとする。例えば、図11において、送信元無線局101と中継ノード103との間の無線メトリック値は「12」、送信元無線局101と中継ノード104との間の無線メトリック値は「10」、中継ノード103と宛先無線局102との間の無線メトリック値は「20」、中継ノード104と宛先無線局102との間の無線メトリック値は「12」となっている。この条件において、ルーチングを行うための処理を以下に示す。
【0008】
(ステップ1)各無線局は、相互に近隣の無線局との間で無線メトリックを交換する。
(ステップ2)送信元無線局101は、リクエストパケットをマルチホップネットワーク内にブロードキャストする。具体的には、送信元無線局101からは近隣の中継ノード103〜104に対し、無線メトリック値を収容したリクエストパケットを送付する。
【0009】
(ステップ3)各中継ノード103〜104は、受信したリクエストパケット内の無線メトリック値に、次の無線局との間の無線メトリック値を追加(積算または加算)したリクエストパケットを更に先の無線局に宛てて送信する。図11においては、中継ノード103および中継ノード104共に中継先が宛先無線局102のみなので、この局宛にリクエストパケットを送信する。
【0010】
(ステップ4)宛先無線局102では、受信したリクエストパケットに収容された無線メトリック値を参照し、経路全体で積算または加算された無線メトリック値が最小なものを選択する。図11においては、経路として送信元無線局101→中継ノード103→宛先無線局102のルートは無線メトリック値「12」と「20」の積算(または加算)値、送信元無線局101→中継ノード104→宛先無線局102のルートは無線メトリック値「10」と「12」の積算(または加算)値となるので、経路としては送信元無線局101→中継ノード104→宛先無線局102のルートが好ましいと判断される。
【0011】
(ステップ5)宛先無線局102は、レスポンスパケットを用いて選択されたルートを中継ノードに通知する。図11においては、中継ノード104宛てにレスポンスパケットを送付する。
【0012】
(ステップ6)レスポンスパケットを受け取った中継ノード104は、この経路上の先の無線局に対しレスポンスパケットを転送する。具体的には、送信元無線局101にレスポンスパケットを送信し、マルチホップネットワーク内では送信元無線局101、中継ノード104、宛先無線局102のルートを選択して通信を行うことを決定する。
【0013】
以上がマルチホップネットワークにおけるルーチングの概要である。一般的に、多数の無線局が混在する場合には、論理的なルートの数は膨大となり、それらの中から最適なルートを選択するためには時間がかかる。したがって、この様なルーチング処理を適切に行うためには、ある程度の期間は当該マルチホップネットワークのトポロジーに変化がない、ないしは各ルートの個別のリンクの状態はある程度の期間は定常的で変化が小さいという前提が必要となる。
【0014】
図12は、従来技術における無線局装置の構成例を示す。
図12において、121は無線局装置、122は無線部、123はベースバンド信号処理部、124は無線パケット終端手段、125はインタフェース部、126はアンテナ、127は通信制御部、128は識別子取得手段、129は識別子一致判断手段、130は無線メトリック管理手段、131は制御部全体を示す。ここでの無線局装置とは、基地局および端末局を含む一般的な無線局装置であり、基本的な動作は、以下に説明するとおりである。なお、基地局であれば配下の端末局を管理するための機能などが追加されることになるが、例えばこれらの機能は通信制御部127の機能の一部と見ることができる。
【0015】
無線局装置121は、無線回線を介した信号をアンテナ126で受信し、無線部122で帯域外信号のフィルタリング、ローノイズアンプによる信号増幅、RF周波数からベースバンド帯への周波数変換、アナログ信号からデジタル信号へのA/D変換等の処理を行う。デジタル化されたベースバンド信号は、ベースバンド信号処理部123に入力され、タイミング検出、物理レイヤに関するヘッダ情報の終端、復調処理、誤り訂正などの一連のベースバンド信号処理が施される。ここでの具体的な処理内容は、この無線局装置が備える無線方式に依存したものとなるが、以下で説明する基本動作はその無線方式には依存しない。
【0016】
ベースバンド信号処理部123から出力される復調処理された信号は無線パケット終端手段124に入力され、ここで無線通信用のフォーマットからイーサネット(登録商標)等の有線ネットワーク上で通信されるパケットのフォーマットに変換される。この無線パケットには、いわゆるヘッダ領域等のオーバヘッドが含まれており、各種の制御情報や誤り検出用のビットの終端が行われる。例えば、誤り検出機能で誤りなしと判断された無線パケットは、ヘッダ情報から宛先や送信元等を示す識別子が取り出され、これを通信制御部127に転送する。通信制御部127ではこれらのヘッダ情報を管理するが、この中から識別子取得手段128が宛先の識別子を抜き出し、識別子一致判断手段129にて自局の識別子との一致/不一致判定を行う。この結果は通信制御部127にフィードバックされ、宛先が自局であると判断された場合には、通信制御部127は無線パケット終端手段124に対してデータの出力を指示し、フォーマット変換されたパケットをインタフェース部125にて電気的な条件等を調整して、外部に対して出力する。
【0017】
逆に外部よりパケットが入力された際には、インタフェース部125を介して無線パケット終端手段124に入力され、ここで通信制御部124からの指示に従いヘッダ情報を付加し、更には誤り検出符号などを付加して無線パケットを生成する。ここでは宛先無線局の識別子に加え、送信元の識別子として自局の識別子が付与されている。この信号をベースバンド信号処理部123に入力し、ここで物理レイヤに関するヘッダ情報の付加や誤り訂正のための符号化に加え各種変調処理を施し、さらにプリアンブル信号の付加などを行い無線パケットのベースバンド信号を生成する。この信号は無線部122に入力され、デジタル信号からアナログ信号に変換するD/A変換、周波数変換、帯域外信号のフィルタリング、信号増幅などを行い、アンテナ126より送信される。
【0018】
なお、上述のルーチング処理を行う場合には、通信制御部127にてリクエストパケットやレスポンスパケットを生成、終端し、その際には周辺の無線局との間の通信状態である無線メトリック値を管理するための無線メトリック管理手段130を介して必要な情報をデータベース化して管理する。
【0019】
以上の一連の信号処理は全体的な概要を説明したものであり、詳細には更に細かい処理が含まれるが、例えば無線部における送信と受信の切り替えに相当する時分割スイッチの管理などの各種タイミング管理から様々な制御情報の生成/終端など、通信制御部127が中心となって制御を行う。また、ここでは敢えて識別子取得手段128、識別子一致判断手段129、無線メトリック管理手段130を通信制御部127から切り離して説明を行ったが、これら全てをひとつの制御部全体131と捉えることも可能である。つまりハードウエア的に異なる別回路として構成をする必要はなく、ソフトウエア的な処理を行うひとつの回路として制御部全体131が存在し、その内部処理的に論理的な機能が分かれているとみなすことが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】青木秀憲他「IEEE802.11s 無線LANメッシュネットワーク技術」NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナルVol.14 No.2 pp.14-pp.22, 2006年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
以上のルーチングを伴うマルチホップ中継には以下の課題が存在する。
(1) 従来技術のルーチング処理は、開始から完了までの間に時間がかかるため、中継ノードとなりうる各無線局のトポロジーや各リンクの通信状態が急激に変動する場合、頻繁に再ルーチングが必要となる。この頻発する再ルーチングのオーバヘッドにより通信効率が低下する。
【0022】
(2) ルーチングにより選択される通信は1対1通信を複数段組み合わせたものであるために、経路上の何処かに不安定なリングが存在する場合には、そのリンクが全経路の通信特性を左右するボトルネックになるリスクがある。
【0023】
上記の(1) の問題について、例えば高速移動する多数の車に搭載された無線局により構成されるマルチホップネットワークを考える。この場合、各車は高速で移動しており、特に互いに逆方向に向かう車が混在したネットワークでは、トポロジーは急激に変動することになる。多数の車が中継ノードになりうる場合、様々なルートに対して検索をかけると最適ルート検索には時間がかかる。例えば、ルーチングに1秒程度の時間を要すると仮定する。各車が時速60kmで移動していれば、互いに逆方向に進む車同士の相対速度は時速 120kmとなる。この速度で1秒間に移動する距離は約33mであるから、この距離の移動に伴ってトポロジーは大きく変化する。すなわち、ルーチング開始時の上記(ステップ1)で取得した無線メトリック値はルーチング完了時において全く別の値に変化しており、さらにその状態で1秒間通信を継続したとすると累積で車は約67m移動したことになる。この間には、見通しが確保されていたはずのリンクの間に別の車が入り、見通しがさえぎられる状況にもなりうる。すなわち、通信状態が安定していると考えられる時間スケールに対して、ルーチングに要する時間は無視できるほど十分に小さな時間スケールになければならない。しかし、上記の自動車間の無線マルチホップネットワークではこの条件を満たすことはできない。
【0024】
上記の(2) の問題について、例えばネットワークに接続された基地局が周辺の家庭に対してFWAサービスを提供する場合を考える。この場合の基地局は比較的高所にアンテナを設置していて、各ユーザ宅とは見通しが取れる可能性が高い。しかし、距離に伴う伝搬減衰が避けられないため、距離が大きくなると受信レベルが低下し、この結果として直接通信をすることが可能なエリアは限定される。この様な状態でマルチホップネットワークをユーザ宅内に設定されたFWAの端末局を中継ノードとして活用する場合を考える。
【0025】
各中継ノードは基地局に対して低い所に設置されているため、中継ノード間は見通しが確保できる可能性は低い。さらに、局所的に中継ノードとなりうる無線局の密度が非常に低い領域がある場合には、中継ノードと中継ノードとの通信の品質が劣化することとなり、選択された経路の中の何れかのリンクが不安定であると全体としての通信品質も不安定になる。そもそもこの様な問題が発生する理由は、基地局と一般の端末局の装置上の条件や設置環境が非対称であり、基地局と各端末局との通信は比較的条件的に良好であることが期待される一方、端末局と端末局との間の通信では基地局との通信に比べて一般的に通信品質が劣るため、その非対称性を補う要素がなければマルチホップネットワークの中継の効率は低下する。
【0026】
このように、マルチホップネットワークのトポロジーが急激に変化する場合や、マルチホップネットワーク内の基地局と端末局の間の非対象性が見られるような場合には、上記(1) ,(2) の問題を解決するための新たな技術が求められることになる。
【0027】
本発明は、マルチホップネットワークのトポロジーが急激に変化する場合でも、そのトポロジーの変化の影響を抑えて安定した通信を可能とし、また経路上のどこかに不安定なリンクが存在する場合でも、その不安定なリンクが全経路の通信特性を左右するボトルネックになるリスクを回避して安定した通信を可能とする無線通信システムおよび無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
第1の発明は、ひとつの基地局と複数の無線局により構成され、基地局と無線局の中の通信相手の無線局との間で、送信元および宛先を示す識別子情報を記載した無線パケットをマルチホップで再送中継する無線通信システムにおいて、無線局は、再送中継を行う対象となる通信エリアを分割して得られる複数の分割領域のうち自局が位置する分割領域の識別子情報と、受信した無線パケットを次の送信機会で再送中継する無線局が位置する分割領域である受信領域の識別子情報を取得する領域情報取得手段と、受信した無線パケットから取得した受信領域を示す識別子が、自局が位置する分割領域の識別子と一致するか否かを判断する領域一致判断手段と、自局が接続される基地局の識別子を取得する基地局識別子取得手段と、受信した無線パケットから取得した送信元または宛先を示す識別子が、基地局の識別子または自局を示す識別子と一致するか否かを判断する識別子一致判断手段と、無線パケット内に記載された再送中継の終了条件またはシステム上で定められた再送中継の終了条件のいずれかに従い、受信した無線パケットの再送中継を実施すべきか終了すべきかを判断する再送中継実施判断手段と、識別子一致判断手段で送信元または宛先を示す識別子のいずれかが基地局の識別子と一致すると判断され、かつ領域一致判断手段で受信領域を示す識別子が自局が位置する分割領域の識別子と一致すると判断され、かつ再送中継実施判断手段で再送中継を実施すべきと判断された際に、受信した無線パケットに次の受信領域を記載して送信する無線パケット送信手段と、識別子一致判断手段で宛先を示す識別子が自局を示す識別子と一致すると判断された際に、受信した無線パケットを終端してデータを抜き出す無線パケット終端手段とを備える。
【0029】
第1の発明の無線通信システムにおいて、無線パケット送信手段は、受信した無線パケットから取得した送信元を示す識別子が基地局の識別子と一致すればダウンリンクの無線パケットと判断し、受信した無線パケットから取得した宛先を示す識別子が基地局の識別子と一致すればアップリンクの無線パケットと判断し、ダウンリンクかアップリンクかに応じて無線パケットの次の受信領域を特定し、送信する無線パケットに記載する構成である。
【0030】
第1の発明の無線通信システムにおいて、基地局および無線局の無線パケット送信手段は、送信または再送中継する無線パケットに複数の受信領域を示す識別子を記載し、領域一致判断手段は、複数の受信領域のうち1つの受信領域を示す識別子が、自局が位置する分割領域の識別子と一致するか否かを判断する構成である。
【0031】
第1の発明の無線通信システムにおいて、領域情報取得手段は、無線パケットの宛先の無線局が位置する分割領域である宛先領域の識別子情報を取得する構成であり、領域一致判断手段は、受信した無線パケットから取得した宛先領域を示す識別子が、自局が位置する分割領域の識別子と一致するか否かを判断する構成であり、再送中継実施判断手段は、領域一致判断手段で宛先領域を示す識別子が自局が位置する分割領域の識別子と一致すると判断された際に、無線パケットの再送中継を終了すべきと判断する構成である。
【0032】
第2の発明は、ひとつの基地局と複数の無線局により構成され、基地局と無線局の中の通信相手の無線局との間で、送信元および宛先を示す識別子情報を記載した無線パケットをマルチホップで再送中継する無線通信方法において、無線局は、領域情報取得手段を用いて、再送中継を行う対象となる通信エリアを分割して得られる複数の分割領域のうち自局が位置する分割領域の識別子情報と、受信した無線パケットを次の送信機会で再送中継する無線局が位置する分割領域である受信領域の識別子情報を取得するステップと、領域一致判断手段を用いて、受信した無線パケットから取得した受信領域を示す識別子が、自局が位置する分割領域の識別子と一致するか否かを判断するステップと、基地局識別子取得手段を用いて、自局が接続される基地局の識別子を取得するステップと、識別子一致判断手段を用いて、受信した無線パケットから取得した送信元または宛先を示す識別子が、基地局の識別子または自局を示す識別子と一致するか否かを判断するステップと、再送中継実施判断手段を用いて、無線パケット内に記載された再送中継の終了条件またはシステム上で定められた再送中継の終了条件のいずれかに従い、受信した無線パケットの再送中継を実施すべきか終了すべきかを判断するステップと、無線パケット送信手段を用いて、識別子一致判断手段で送信元または宛先を示す識別子のいずれかが基地局の識別子と一致すると判断され、かつ領域一致判断手段で受信領域を示す識別子が自局が位置する分割領域の識別子と一致すると判断され、かつ再送中継実施判断手段で再送中継を実施すべきと判断された際に、受信した無線パケットに次の受信領域を記載して送信するステップと、無線パケット終端手段を用いて、識別子一致判断手段で宛先を示す識別子が自局を示す識別子と一致すると判断された際に、受信した無線パケットを終端してデータを抜き出すステップとを有する。
【0033】
第2の発明の無線通信方法において、無線パケット送信手段は、受信した無線パケットから取得した送信元を示す識別子が基地局の識別子と一致すればダウンリンクの無線パケットと判断し、受信した無線パケットから取得した宛先を示す識別子が基地局の識別子と一致すればアップリンクの無線パケットと判断し、ダウンリンクかアップリンクかに応じて無線パケットの次の受信領域を特定し、送信する無線パケットに記載する。
【0034】
第2の発明の無線通信方法において、基地局および無線局の無線パケット送信手段は、送信または再送中継する無線パケットに複数の受信領域を示す識別子を記載し、領域一致判断手段は、複数の受信領域のうち1つの受信領域を示す識別子が、自局が位置する分割領域の識別子と一致するか否かを判断する。
【0035】
第2の発明の無線通信方法において、領域情報取得手段は、無線パケットの宛先の無線局が位置する分割領域である宛先領域の識別子情報を取得し、領域一致判断手段は、受信した無線パケットから取得した宛先領域を示す識別子が、自局が位置する分割領域の識別子と一致するか否かを判断し、再送中継実施判断手段は、領域一致判断手段で宛先領域を示す識別子が自局が位置する分割領域の識別子と一致すると判断された際に、無線パケットの再送中継を終了すべきと判断する。
【発明の効果】
【0036】
本発明の無線通信システムおよび無線通信方法は、送信元無線局と宛先無線局が直接的にデータ通信を行うことが困難な状況において、マルチホップで再送中継することで送信元無線局と宛先無線局の間の通信を実現する際に、1対1の通信を多段に組み合わせたルートの最適化を図るルーチング処理を必要とせずに実現することが可能となる。その結果、マルチホップネットワークのトポロジーが急激に変化する場合であっても、そのトポロジーの変化の影響を抑えて安定した通信を提供することが可能となる。
【0037】
また、1対1の通信を多段に組み合わせる代わりに、複数の無線局が再送中継に関与することで、経路上の何処かに不安定なリングが存在する場合であっても、その他の多数の経路が同時並行的に運用されているために、不安定な局所的なリンクが全経路の通信特性を左右するボトルネックになるリスクを回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明における再送中継が適用されるシステム構成例を示す図である。
【図2】本発明における再送中継の基本動作例を示す図である。
【図3】本発明における無線局装置の基本構成例を示す図である。
【図4】本発明における再送中継の基本処理フローを示す図である。
【図5】本発明の実施例1における再送中継の動作例1を示す図である。
【図6】本発明の実施例1における再送中継の動作例2を示す図である。
【図7】本発明の実施例1における無線局装置の構成例を示す図である。
【図8】本発明の実施例1における再送中継の処理フローを示す図である。
【図9】本発明の実施例2における再送中継の動作例を示す図である。
【図10】本発明の実施例2における再送中継の処理フローを示す図である。
【図11】従来技術の無線マルチホップネットワークにおけるルーチングの概要を示す図である。
【図12】従来技術における無線局装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して本発明の無線通信システムの実施例について説明する。まず個々の実施例の説明の前に、全体的な基本動作について説明する。なお、本明細書においては「再送中継」という用語を用いているが、これはマルチホップ中継を行う際の1対1の通信を多段に組み合わせた通信と異なり、ヘッダ領域に記載される送信元および宛先無線局の識別子を書き換えることなしに中継することを意識したものであり、いわゆる誤り訂正のための再送(ARQ:Automatic Repeat reQest )を意味したものではない。
【0040】
図1は、本発明における再送中継が適用されるシステム構成例を示す。
図1において、1−1〜1−2は基地局、2−1〜2−7および3−1〜3−7は無線局、4−1〜4−2は無線パケット、5−1〜5−2は各基地局のサービスエリア、100はネットワークを表す。
【0041】
ネットワーク100に接続された基地局1−1,1−2は、それぞれがサービスエリア5−1,5−2を形成する。サービスエリア5−1は基地局1−1により管理されたエリアで、サービスエリア5−2は基地局1−2により管理されたエリアである。サービスエリア5−1内には無線局2−1〜2−7が存在し、サービスエリア5−2内には無線局3−1〜3−7が存在する。無線局2−1〜2−3は基地局1−1と通信できるが、その他の無線局2−4〜2−7は基地局1−1と直接通信を行うことはできない。なお、ここでのサービスエリアとは、たとえば、基地局1−1により管理される無線局によりマルチホップネットワークとして拡張される、無線局が基地局1−1と通信可能なエリアをいう。各基地局1−1〜1−2および各無線局2−1〜3−7にはそれぞれ識別子が付与されており、例えば基地局1−1には「A」、基地局1−2には「B」、無線局2−1には「a」、無線局2−2には「b」、…、無線局3−7には「n」の識別子が付与されている。
【0042】
各サービスエリア5−1〜5−2に所属する無線局2−1〜3−7は、そのサービスエリアを管理する基地局の識別子を把握しているものとする。この把握方法は如何なるものであっても良く、例えばFWAサービスであればサービス契約時にサービスエリア毎の基地局情報を設定しても構わないし、無線局の位置が分かればネットワーク上ないしは無線局が備えるデータベースと位置情報を参照して基地局の識別子を把握しても良い。さらには、基地局がエリア内のユーザに対して通知しても構わない。この様にして、例えばサービスエリア5−1内の無線局2−1〜2−7は、自局を管理する基地局1−1の識別子が「A」であることを事前に認識している。
【0043】
次に、ネットワーク100から無線局2−7に送信すべきデータが存在する場合を考える。このデータはネットワーク100から基地局1−1に入力され、基地局1−1は、ヘッダ領域に送信元識別子「A」と宛先識別子「g」を含む無線パケット4−1を生成し、これを送信する。この無線パケット4−1は基地局1−1の近傍の無線局2−1〜2−3が受信する。例えば、無線局2−1は無線パケット4−1を受信すると、そのヘッダ領域に付与された送信元識別子「A」と宛先識別子「g」を認識する。ここで、自局を管理する基地局1−1の識別子が「A」であることから、送信元が自局を管理する基地局1−1であると認識することができる。この様な条件の無線パケット4−1を受け取った無線局2−1〜2−3はその無線パケットを再送中継し、それを無線局2−4〜2−6が受信できたとする。これらの無線局2−4〜2−6も同様に、無線パケット4−1と同等の無線パケットを受信し、そのヘッダ領域に付与された送信元識別子「A」と宛先識別子「g」を認識する。
【0044】
ここで、無線局2−4〜2−6も自局を管理する基地局1−1の識別子が「A」であることから、送信元が自局を管理する基地局1−1であると認識することができる。そして同様にその無線パケットを再送中継し、それを無線局2−7が受信する。無線局2−7は、受信した無線パケットのヘッダ領域に付与された送信元識別子「A」と宛先識別子「g」を認識し、宛先識別子が自局の識別子と一致することを認識する。これにより、この無線パケットが自局宛であることを認識し、この無線パケットを終端し、中に収容されたデータを取り出すことができる。この様にして、基地局1−1から無線局2−7への通信を実現する。
【0045】
次に、マルチホップネットワークの下流から上流方向へのアップリンクの通信に関して説明する。例えば、無線局3−7からネットワーク100側に送信すべきデータが存在する場合を考える。無線局3−7は、ヘッダ領域に送信元識別子「n」と宛先識別子「B」を含む無線パケット4−2を生成し、これを送信する。この無線パケットは無線局3−7の近傍の無線局3−4〜3−6が受信する。例えば、無線局3−4は無線パケット4−2を受信すると、そのヘッダ領域に付与された送信元識別子「n」と宛先識別子「B」を認識する。ここで、自局を管理する基地局1−2の識別子が「B」であることから、宛先が自局を管理する基地局1−2であると認識することができる。この様な条件の無線パケット4−2を受け取った無線局3−4〜3−6は、その無線パケットを再送中継し、これを無線局3−1〜3−3が受信できたとする。これらの無線局3−1〜3−3も同様に、無線パケット4−2と同等の無線パケットを受信し、そのヘッダ領域に付与された送信元識別子「n」と宛先識別子「B」を認識する。
【0046】
ここで、無線局3−1〜3−3も自局を管理する基地局1−2の識別子が「B」であることから、宛先が自局を管理する基地局1−2であると認識することができる。そして同様に、その無線パケットを再送中継し、これを基地局1−2が受信する。基地局1−2は、受信した無線パケットのヘッダ領域に付与された送信元識別子「n」と宛先識別子「B」を認識し、宛先識別子が自局の識別子と一致することを認識する。これにより、この無線パケットが自局宛であることを認識し、この無線パケットを終端し、中に収容されたデータを取り出しネットワーク100に転送することができる。この様にして、無線局3−7から基地局1−2への通信を実現する。
【0047】
ここで注意しておくこととして、例えば近接するサービスエリアからの電波の漏れ込み等により、無線局3−4が再送中継した無線パケット4−2と同等の信号を、基地局1−1の配下(基地局1−1のサービスエリア5−1内に存在することを意味する)の例えば無線局2−3や無線局2−6が受信できたとする。この際、無線局2−3または2−6は、受信した無線パケットのヘッダ領域に付与された送信元識別子「n」と宛先識別子「B」を認識することができるが、そのいずれも自局を管理する基地局1−1の識別子「A」と一致しないため、再送中継を行うことはない。
【0048】
以上が基本的な動作である。その特徴は、再送中継を行う無線局は複数存在し、それらは全て同一の内容の信号を同一周波数でかつ同一タイミングで送信する点にある。それぞれの無線局の周波数誤差が無視できる場合には、若干のタイミング誤差があったとしても、それはあたかもマルチパスの信号と等価な信号とみなすことができる。しかも、図1では3つの無線局が同時に送信するため、総送信電力は3倍となり、かつ物理的に異なる場所からの信号であるためにダイバーシチ効果も得られる。受信側では複数の無線局からの信号が合成されて受信することになるため、無線局毎に特性のばらつきが出ることは予想されるが、平均受信電力について中継局の数だけ利得が向上するため、システム全体としての回線利得が大幅に改善することが期待される。特に、局所的に見通しが利かないリンクがあっても、複数の無線局から信号を受信可能で、かつ受信側も複数の候補が存在するために、ダイバーシチ効果は非常に大きい。さらに、1対1の通信を多段に構成する構成ではないため、最適なルートを選定するルーチング処理が不要であり、トポロジーの急激な変化にも柔軟に対応可能である。
【0049】
図2は、本発明における再送中継の基本動作例を示す。
図2において、11は基地局、12−1〜12−9は再送中継を行う無線局、13は宛先の無線局を表す。図2(1) は基地局11および無線局12−1〜12−9および宛先の無線局13の位置関係を示し、図2(2) はタイムスロット#1〜#8における各無線局の送信または受信状態を示し、横軸は時間を示す。
【0050】
タイムスロット#1では、基地局11が無線局13宛てに無線パケットを送信すると、無線局12−1〜12−3がこの信号を受信する。次のタイムスロット#2では、前のタイムスロット#1で送信していた基地局11と、受信していた無線局12−1〜12−3が再送中継を行い、無線局12−4〜12−6がこの無線パケットを受信する。次のタイムスロット#3では、前のタイムスロット#2で送信していた基地局11および無線局12−1〜12−3と、受信していた無線局12−4〜12−6が再送中継を行い、無線局12−7〜12−9がこの無線パケットを受信する。次のタイムスロット#4では、前のタイムスロット#3で送信していた基地局11および無線局12−1〜12−6と、受信していた無線局12−7〜12−9が送信動作を行い、この無線パケットを宛先の無線局13が受信する。これにより、基地局11が送信した無線パケットを宛先の無線局13で受信することができる。
【0051】
同様に、無線局13が基地局11宛てに無線パケットを送信する場合、タイムスロット#5で無線局13が無線パケットを送信すると、無線局12−7〜12−9がこの無線パケットを受信する。次のタイムスロット#6では、前のタイムスロット#5で送信していた無線局13と、受信していた無線局12−7〜12−9が再送中継を行い、無線局12−4〜12−6がこの無線パケットを受信する。次のタイムスロット#7では、前のタイムスロット#6で送信していた無線局13および無線局12−7〜12−9と、受信していた無線局12−4〜12−6が再送中継を行い、無線局12−1〜12−3がこの無線パケットを受信する。次のタイムスロット#8では、前のタイムスロット#7で送信していた無線局13および無線局12−4〜12−9と、受信していた無線局12−1〜12−3が再送中継を行い、この無線パケットを宛先の基地局11が受信する。これにより、無線局13が送信した無線パケットを基地局11で受信することができる。
【0052】
ここでは、所定のタイムスロットまでの間は、各無線局は受信した無線パケットを何度も繰り返して送信し続ける。この様にして、トータルの送信電力を高めることで、最終的な無線パケットの送達を確実なものにすることができる。
【0053】
図3は、本発明における無線局装置の基本構成例を示す。
図3において、21は無線局装置、22は無線部、23はベースバンド信号処理部、24は無線パケット終端手段、25はインタフェース部、26はアンテナ、27は通信制御部、28は識別子取得手段、29は識別子一致判断手段、30は基地局識別子取得手段、31は再送中継実施判断手段、32は制御部全体を示す。従来技術の説明でも述べたとおり、ここでの無線局装置とは、基地局および端末局を含む一般的な無線局装置であり、基地局であれば配下の端末局を管理するための機能などが追加されることになるが、これらの機能は通信制御部27の機能の一部と見ることができるため、基本的には以下の説明で基地局および端末局を含めた理解が可能である。
【0054】
基本的な動作は従来技術の通りであるが、自局宛の無線パケット以外を再送中継する場合の動作が異なるので、その点に絞ってここでは説明を行う。無線回線を介した信号をアンテナ26で受信し、無線部22、ベースバンド信号処理部23で処理された信号は無線パケット終端手段24に入力され、ここで無線通信用のフォーマットからネットワーク上で一般的なパケットのフォーマットに変換される。ここでは、この無線パケットに付与されたヘッダ情報が取り出され、これを通信制御部27に転送する。通信制御部27ではこれらのヘッダ情報を管理するが、この中から識別子取得手段28が送信元識別子および宛先識別子を抜き出し、識別子一致判断手段29にて自局の識別子および自局が接続する基地局の識別子との一致/不一致判定を行う。この結果は通信制御部27にフィードバックされ、宛先が自局であると判断された場合には、通信制御部27は無線パケット終端手段24に対してデータの出力を指示し、フォーマット変換されたパケットをインタフェース部25にて電気的な条件等を調整して、外部に対して出力する。
【0055】
一方、識別子一致判断手段29にて、送信元識別子または宛先識別子が自局宛ではないが自局が接続する基地局の識別子と一致すると判定した際には、この結果を再送中継実施判定手段31に通知し、再送中継実施判定手段31では後述する様々な判断条件を加味して再送中継の実施の可否を判断し、その結果を通信制御部27に通知する。通信制御部27では再送中継の実施指示を受けた際には、無線パケット終端手段24に対して受信した無線パケットをそのまま、ないしはヘッダ情報を所定のルールで変更し、誤り検出符号化などの処理を施し無線パケットを更新し、これをベースバンド信号処理部23、無線部22、アンテナ26を介して無線回線に送信する。この様にして再送中継を実施する。
【0056】
なお、無線パケットのヘッダ情報の変更ルールや、再送中継実施判断の判断条件等は以下の実施例の中で説明を行うが、これらの例に限定されない。また、基地局識別子取得手段30は、基地局により報知された基地局識別子を通信制御部27が取得することにより、または自ら備えている様々な情報の中から、自局が接続すべき基地局の識別子情報を取得する。すなわち、基地局の識別子は基地局から受信した無線パケットから取得したものでも構わないし、自局がもつデータベースなどから参照したものでも構わない。この場合、当該無線局がGPS等の自局の位置情報を取得できる場合には、当該位置情報とデータベース上の基地局の位置に基づいて、最も近い基地局に対応する識別子を取得するなど、別の情報をもとにして取得することも可能である。また、FWAサービスなどの場合であれば、契約時、機器設置時などに設定しても構わない。この様に、基地局識別子取得手段30による「識別子の取得」の意図するところは、必ずしも能動的な取得である必要はなく、装置内の設定値の読み込みやデータベースからの検索という処理であっても良い。この様に様々な形で取得される識別子情報を基地局識別子取得手段30が管理し、識別子一致判断手段29の問合せに対して応答する。また、通信制御部27、識別子取得手段28、識別子一致判断手段29、基地局識別子取得手段30、再送中継実施判断手段31は、通信制御部27から切り離して説明を行ったが、これら全てをひとつの制御部全体32と捉えることも可能である。すなわち、ハードウエア的に異なる別回路として構成する必要はなく、ソフトウエア的な処理を行うひとつの回路として制御部全体32が存在し、その内部処理的に論理的な機能が分かれているとみなすことも可能である。
【0057】
以上は無線回線で無線パケットを受信した場合の動作であるが、外部よりパケットが入力された際には、当然ながら識別子などの参照を省略して従来技術と同様の送信動作を行うことになる。ただし、従来技術ではルーチングのための動作が規定されていたが、ここではルーチングを行わずに無線パケットの転送を行うので、これらの機能は必要ない。
【0058】
以上の一連の信号処理は全体的な概要を説明したものであり、詳細には更に細かい処理が含まれるが、例えば無線部における送信と受信の切り替えに相当する時分割スイッチの管理などの各種タイミング管理から様々な制御情報の生成/終端など、通信制御部27が中心となって制御を行う。
【0059】
図4は、本発明における再送中継の基本処理フローを示す。
図4において、各無線局は無線パケットを受信する(S1 )と、受信した無線パケットの所定のフィールドから送信元識別子および宛先識別子を取得し(S2 )、宛先識別子が自局の識別子に一致するか否かを判定する(S3 )。一致した場合には、無線パケットを終端してデータの出力処理を実施し(S6 )、「再送中継なし」として処理を終了する(S7)。
【0060】
一方、処理S3 にて一致しなかった場合は、送信元識別子または宛先識別子が自局を管理する基地局の識別子に一致するか否かを判断し(S4 )、一致しない場合には「再送中継なし」として処理を終了する(S7 )。一方、一致した場合には再送中継実施条件に合致するか否かの判断を行い(S5 )、再送実施条件に合致する場合には再送中継を実施し(S9 )、合致しない場合には再送中継を終了する(S8 )。なお、処理S9 にて再送中継を実施した場合には、再送中継の実施後に再度処理S5 に戻り、引き続き再送中継の実施条件に合致するか否かの判断を行う。繰り返し再送実施条件に合致する場合には、複数回の再送中継を継続し、条件に合致しなくなった段階で再送中継を終了する。なお、ここでの再送中継実施条件とは、以下の実施例でも具体例を示すが、例えば再送中継をどのタイムスロットまで継続するかや、何回まで再送中継を行ったら再送中継を終了するかなどの条件を意味する。
【0061】
以上の説明では、従来技術において説明したようなルーチング処理は一切伴わない。基地局または端末局が送信局となる場合には、必要に応じて無線パケットのヘッダ情報を適宜設定したり、フレーム条件や報知情報などを再送中継条件に適合させるなどの整合性を確保する必要がある。さらに、送信局は無線パケットの新規送信(S10)の後、無線パケットの受信時と同様に処理S5 に移行し、この後の処理は無線パケット受信時と同様であり、再送実施条件に合致するか否かの判断を行い、その判断結果により再送中継の終了(S8 )または再送中継実施(S9 )の処理を実施する。
【0062】
ここで、無線局が再送中継を繰り返す再送中継実施条件について説明する。再送実施条件として各無線局における再送回数を規定する場合は次のようになる。例えば、再送中継の実施は無線パケットを受信した次のタイムスロットのみの1回と限定しても構わない。同様に、無線パケットを受信した次のタイムスロットと更にその次のタイムスロットのみという様に2回と限定しても構わない。いずれにしても、先々の無線局で再送中継が繰り返されるが、各無線局における再送回数は限定される。
【0063】
また、再送実施条件として再送中継が継続するタイムスロット(ホップ数)を規定する場合は次のようになる。無線パケット内に残りの再送回数を把握可能な条件として、例えば再送カウンタを記録しておき、無線パケットを受信した際に再送カウンタ数に残りがある場合には、残りがある間だけ再送中継を実施する。仮に再送カウンタ(以下「RC」という)が残りの再送回数を示すのであれば、RC=2と受信した場合には最初の再送中継時には、カウンタ値を1減算してRC=1、次の再送中継時にはRC=0として、このカウンタ値を更新して無線パケットに収容し、送信する。RC=0の無線パケットを受信した無線局は、次の再送中継を行わない。すなわち、最初に無線パケットを送信した無線局が再送カウンタに設定するタイムスロット(ホップ数)までの再送中継に限定される。なお、この動作では、再送中継の都度、無線パケットの中身は変更されることになるが、全ての無線局が同一のルールで無線パケットの中身を更新するため、結果的に同一の無線パケットを送信することが可能である。
【0064】
以上説明した再送中継の基本概念は、先願(特願2011−082022)に記載の発明の技術的特徴である。
【0065】
ここでの再送実施条件は、無線パケットを受信した各無線局が、再送回数等の条件を満たしている場合に再送中継を実施するものであり、同時に再送中継する無線局の数や位置を特定することができない。したがって、同時に再送中継する無線局の範囲が不必要に広範な領域に及ぶ場合があり、他の無線パケットの伝送に不要な干渉を与える可能性が生じる。本発明では、各無線局の位置情報を利用するによって、同時に再送中継を行う無線局を制限することで、不要な再送中継を防止すると共に干渉制御を容易にする。
【実施例1】
【0066】
図5は、本発明の実施例1における再送中継の動作例1を示す。
図5において、11は基地局(A)、12−1〜12−15は無線局、13は宛先の無線局(Z)を示す。分割領域a1〜a8は基地局(A)11が管理する領域であり、基地局(A)11が直接通信またはマルチホップ通信によって各無線局と通信する領域とする。この分割領域は、全通信領域を仮想的に複数の領域に分割したものである。
【0067】
各無線局は、これらの分割領域の構成情報(以下、分割領域構成情報)を有しており、各分割領域とその領域間の境界情報とが座標等で管理されている。各無線局は、基地局(A)11によって作成・報知される分割領域構成情報を受信することで、これらの情報を把握することができる。または、各無線局に事前に分割領域構成情報が保存されているデータベースが与えられていてもよい。このデータベースは、無線局内に固定的に設定される以外にも、別の機会にネットワークにアクセスして所定のサイトなどからダウンロードすることで情報を設定する構成であっても構わない。また、各無線局は、自局の位置情報を把握する手段を有しており、その位置情報と分割領域構成情報を比較することで、自局が複数の分割領域のうち、いずれの分割領域に位置しているかを把握することができる。無線局が移動局である場合は、自局の位置情報の把握はGPSによる座標値の取得によって行うのが一般的である。固定局である場合または準静止環境で通信中の移動を伴わない場合には、その無線局が配置された住所情報を入力することで、位置情報を把握してもよい。
【0068】
各無線局によって送受信される無線パケットは、ヘッダ領域とデータ領域から構成され、ヘッダ領域では、送信元識別子、宛先識別子に加えて、「受信領域」を示す受信領域識別子が含まれる。「受信領域」は、受信した無線パケットを再送中継する無線局が位置している分割領域を示し、再送中継毎に更新される。すなわち、無線パケットを受信した無線局は、自局が位置する分割領域が受信した無線パケットの「受信領域」と一致する場合に、再送中継を担う無線局と判断して次の「受信領域」を特定し、無線パケットの受信領域を更新して再構成し、再送中継を実施する。
【0069】
次の「受信領域」の特定方法は、受信した無線パケットの送信元が基地局であればダウンリンク、宛先が基地局であればアップリンクという伝達方向を把握した上で、各無線局が把握する分割領域構成情報を参照して、自局が位置する分割領域から伝達方向に位置する分割領域が選択される。
【0070】
基地局(A)11から無線局(Z)13を宛先とする無線パケットを送信する。当該無線パケットの送信元識別子は「A」、宛先識別子は「Z」、受信領域識別子は「a1」である。ここで、送信元識別子が「A」であることから、この無線パケットを受信したあらゆる領域の無線局は、この通信がダウンリンク方向の通信であると把握することができる。さらに、分割領域a1に位置する無線局12−1〜12−3は、タイムスロット#1で受信した無線パケットのヘッダ領域の受信領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致することから、次のタイムスロット#2で再送中継を実施することを把握する。一方、同じ無線パケットを受信する分割領域a2の無線局12−4は、受信領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致しないので、次のタイムスロット#2で再送中継を実施しない。
【0071】
分割領域a1の無線局12−1〜12−3は、タイムスロット#1で受信した無線パケットがダウンリンク方向であることから、次の「受信領域」がa3であることを特定し、受信した無線パケットの受信領域識別子を「a3」に更新して再構築した無線パケットをタイムスロット#2で再送中継する。分割領域a3に位置する無線局12−5〜12−7は、タイムスロット#2で受信した無線パケットのヘッダ領域の受信領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致することから、次のタイムスロット#3で再送中継を実施することを把握する。一方、同じ無線パケットを受信する分割領域a4の無線局12−8は、受信領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致しないので、次のタイムスロット#3で再送中継を実施しない。
【0072】
分割領域a3の無線局12−5〜12−7は、タイムスロット#2で受信した無線パケットがダウンリンク方向であることから、次の「受信領域」がa5であることを特定し、受信した無線パケットの受信領域識別子を「a5」に更新して再構築した無線パケットをタイムスロット#3で再送中継する。分割領域a5に位置する無線局12−9〜12−10は、タイムスロット#3で受信した無線パケットのヘッダ領域の受信領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致することから、次の送信機会で再送中継を実施することを把握する。また、分割領域a5に位置する宛先の無線局13は、タイムスロット#3で受信した無線パケットの宛先識別子が自局の識別子と一致することから、当該無線パケットを終端する。一方、タイムスロット#3で同じ無線パケットを受信する分割領域a6の無線局12−11は、受信領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致しないので、次のタイムスロット#4で再送中継を実施しない。
【0073】
分割領域a5の無線局12−9〜12−10は、タイムスロット#3で受信した無線パケットがダウンリンク方向であることから、次の「受信領域」がa7であることを特定し、受信した無線パケットの受信領域識別子を「a7」に更新して再構築した無線パケットをタイムスロット#4で再送中継する。分割領域a7に位置する無線局12−12〜12−14は、タイムスロット#4でその無線パケットを受信する。しかし、この再送中継は、すでに同じ分割領域a5の基地局13が当該無線パケットを受信していれば無駄にある。そこで、自局宛ての無線パケットを受信した無線局13がタイムスロット#4で例えばACKを送信し、これを同じ分割領域a5に位置する無線局12−9〜12−10が受信することにより、タイムスロット#4における再送中継を停止することができる。一方、タイムスロット#3で宛先の無線局13が当該無線パケットを受信できていない場合は、タイムスロット#4で分割領域a5の無線局12−9〜12−10が再送中継する無線パケットを受信することができ、必ずしも無駄にならない。また、タイムスロット#5で無線局13が送信するACKを分割領域a7に位置する無線局12−12〜12−14が受信すれば、それ以降の再送中継を停止することができる。
【0074】
無線局13から基地局11宛てに送信される無線パケットについても同様に、分割領域a5,a3,a1に順次伝送され、分割領域a1の無線局12−1〜12−3は、受信した無線パケットがアップリンク方向であることから、次の「受信領域」を基地局の識別子「A」に更新して再構築した無線パケットを再送中継する。
【0075】
また、「受信領域」として領域を規定する情報は、広大なサービスエリアで唯一となるグローバルな領域情報である必要はなく、「宛先」または「送信元」に記載の基地局のサービスエリア内の何処に相当するかのローカルな領域情報であっても構わない。例えば、基地局が管理する領域が1次元的エリアの場合、基地局からの距離が概ね等距離になるように領域を定義し、ローカルな識別子は近い方から順番に「0」、「1」、「2」、「3」、…と順番づけて、基地局からのホップ数を示しても構わない。2次元的エリアの場合は、距離に加えて方角で方向を指定し、基地局の周りの 360度方向を固定的にN分割した領域を用いても構わない。また、所定の方向を0度方向として、中心の方向とその前後±α度の範囲と指示する様に領域が運用時に動的に変る指定の仕方であっても構わない。さらには、前述のデータベース上で複雑な領域情報を規定することも可能である。
【0076】
なお、図5の動作例は、各無線局が受信した無線パケットを1回のみ再送中継する場合を示すが、各無線局の再送中継の回数は2回以上であってもよい。各無線局における再送中継の回数を2回とした場合の動作例2を図6に示す。
【0077】
図6において、基地局(A)11から無線局(Z)13を宛先とする無線パケットを送信する。当該無線パケットの送信元識別子は「A」、宛先識別子は「Z」、受信領域識別子は「a1」である。ここで、送信元識別子が「A」であることから、この無線パケットを受信したあらゆる領域の無線局は、この通信がダウンリンク方向の通信であると把握することができる。さらに、分割領域a1に位置する無線局12−1〜12−3は、タイムスロット#1で受信した無線パケットのヘッダ領域の受信領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致することから、次のタイムスロット#2で再送中継を実施することを把握する。
【0078】
分割領域a1の無線局12−1〜12−3は、次の「受信領域」がa3であることを特定し、無線パケットの受信領域識別子を「a3」に更新して再構築した無線パケットをタイムスロット#2で再送中継する。また、基地局11は、タイムスロット#1で送信した無線パケットの受信領域識別子を「a3」に更新して再構築した無線パケットをタイムスロット#2で再送中継(2度目)する。分割領域a3に位置する無線局12−5〜12−7は、タイムスロット#2で受信した無線パケットのヘッダ領域の受信領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致することから、次のタイムスロット#3で再送中継を実施することを把握する。
【0079】
分割領域a3の無線局12−5〜12−7は、次の「受信領域」がa5であることを特定し、無線パケットの受信領域識別子を「a5」に更新して再構築した無線パケットをタイムスロット#3で再送中継する。また、分割領域a1の無線局12−1〜12−3は、タイムスロット#2で送信した無線パケットの受信領域識別子を「a5」に更新して再構築した無線パケットをタイムスロット#3で再送中継(2度目)する。分割領域a5に位置する無線局12−9〜12−10は、タイムスロット#3で受信した無線パケットのヘッダ領域の受信領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致することから、次のタイムスロット#4で再送中継を実施することを把握する。また、分割領域a5に位置する宛先の無線局13は、タイムスロット#3で受信した無線パケットの宛先識別子が自局の識別子と一致することから、当該無線パケットを終端する。
【0080】
分割領域a5の無線局12−9〜12−10は、次の「受信領域」がa7であることを特定し、受信した無線パケットの受信領域識別子を「a7」に更新して再構築した無線パケットをタイムスロット#4で再送中継する。また、分割領域a3の無線局12−5〜12−7は、タイムスロット#3で送信した無線パケットの受信領域識別子を「a7」に更新して再構築した無線パケットをタイムスロット#4で再送中継(2度目)する。ここで、上記のように、タイムスロット#4で宛先の無線局13が送信するACKを受信することにより、それぞれの再送中継を停止するようにしてもよい。
【0081】
また、図5および図6の例では、再送中継の際に1つの受信領域を指定していたが、複数の受信領域を指定しても構わない。この場合、再送中継毎に受信領域を更新するルールを事前に規定して置けばよい。例えば、受信領域が「a1とa3」の場合、その次の再送中継では受信領域を「a3とa5」、さらに次は受信領域を「a5とa7」というように、受信領域をオーバーラップさせながら再送中継を繰り返すことで、再送中継の確実性を向上させることができる。図5の例では、基地局11がタイムスロット#1で送信する無線パケットの受信領域を「a1/a3」とすると、分割領域a1,a3の無線局12−1〜12−3,12−5〜12−7のうち、タイムスロット#1でその無線局パケットを受信できた無線局は、受信領域を「a3/a5」とした無線パケットをタイムスロット#2で再送中継することになる。したがって、分割領域a3の無線局12−5〜12−7のうち、タイムスロット#1で受信できなかった無線局は、分割領域a1および同じ分割領域a3の無線局からタイムスロット#2で再送中継された無線パケットを受信することになり、再送中継の確実性が向上する。
【0082】
図7は、本発明の実施例1における無線局装置の構成例を示す。
図7において、実施例1の無線局装置は、図3に示す無線局装置の基本構成例に対して、位置情報取得手段35、分割領域構成情報管理手段36、領域情報取得手段37および領域一致判断手段38を追加した構成である。位置情報取得手段35は、GPS装置により位置情報を取得する手段でも、固定局である場合はその住所情報の記憶手段であってもよい。後者の場合であれば、入力のためのユーザインタフェースを伴う構成となっても構わない。分割領域構成情報管理手段36には、分割領域識別子と分割領域間の境界情報が保存されている。
【0083】
本構成例では、無線回線を介して分割領域構成情報を取得する場合を例示したが、ネットワーク経由で情報を取得する場合には、インタフェース部25を介して情報を取得しても構わない。通信制御部27は、位置情報取得手段35によって把握した現在位置の情報と、分割領域構成情報管理手段36の情報を領域情報取得手段37に転送し、領域情報取得手段37はそれらの情報(座標値)を比較することで自局が位置している分割領域の識別子を把握する。また、通信制御部27は、無線パケットのヘッダ領域に記載されている各領域の識別子も領域情報取得手段37に転送する。領域情報取得手段37は自局が位置している分割領域の識別子と、ヘッダ領域に記載されている領域の識別子を、領域一致判断手段38に出力する。領域一致判断手段38は、出力された識別子から、自局が位置している分割領域が、ヘッダ領域に記載されている領域と一致しているかを判断し、その結果を再送中継実施判断手段31に出力する。また、図3の構成例と同様に、通信制御部27は受信した無線パケットに付与された制御情報から、宛先識別子および送信元識別子を識別子取得手段28に転送し、さらに識別子一致判断手段29にて宛先識別子または送信元識別子が自局が所属する基地局の識別子と一致するかを判断し、その結果を再送中継実施判断手段31に出力する。
【0084】
また、図5および図6で示した動作例では、再送中継実施条件として、各無線局は無線パケット受信後に固定的に所定回数の再送中継を実施しているが、必ずしもこれに限るものではない。例えば送信元が予め宛先無線局に無線パケットが到達するまでの再送数を推定し、これを再送カウンタとして無線パケットに格納する。再送カウンタは再送中継を実施する度に1を減算した値に更新される。再送中継実施条件として、受信または再送した無線パケットの再送カウンタが所定値に達するまで(例えば再送カウンタがゼロになるまで)再送中継を実施する。なお、再送カウンタの値を1つずつ加算し、再送カウンタが所定値に達するまで再送中継を実施することもできる。再送中継実施判断手段31は、出力された一致情報に基づいて、再送中継の要否を判断する。
【0085】
図8は、本発明の実施例1における再送中継の処理フローを示す。
図8において、各無線局は無線パケットを受信する(S101 )と、受信した無線パケットの所定のフィールドから送信元識別子と宛先識別子と受信領域識別子を取得し(S102 )、宛先識別子が自局の識別子と一致するか否かを判断する(S103 )。一致する場合(S103 でYes )は、無線パケットを終端してデータの出力処理を実施し(S104 )、「再送中継なし」として処理を終了する(S105 )。一方、自局の識別子が宛先識別子と一致しない場合(S103 でNo)は、送信元識別子または宛先識別子が自局を管理する基地局の識別子と一致するか否かを判断する(S106 )。一致しない場合(S106 でNo)は「再送中継なし」として処理を終了する(S105 )。一致する場合(S106 でYes )は、受信領域識別子が自局の位置する分割領域と一致するか否かを判断する(S107 )。一致しない場合(S107 でNo)は「再送中継なし」として処理を終了する(S105 )。一致する場合(S107 でYes )は、再送実施条件に合致するか否かを判断し(S108 )、合致する限り(S108 でYes )、再送中継を実施する(S111 )。
【0086】
ここでの再送実施条件は、図5に示すようにパケット受信後に1回のみ再送中継することを条件にしてもよいし、図6に示すようにパケット受信後に所定回数だけ再送中継することを再送実施条件に設定してもよい。また、無線パケットに収容する再送カウンタを用いて、再送中継毎に再送カウンタの値を減算し、再送カウンタの値が所定値(例えば0)になることを条件にしてもよい。なお、再送カウンタの値を1つずつ加算し、再送カウンタが所定値に達するまで再送中継を実施することもできる。あるいは、宛先の無線局13が自局宛ての無線パケットを受信したときに送信するACKを受信したときに再送中継を終了するようにしてもよい。
【実施例2】
【0087】
実施例1では、次に再送中継を行う無線局が位置する分割領域を「受信領域」として指定することにより再送中継する無線局が拡散するのを防いでいるが、実施例2では、さらに宛先の無線局が位置する分割領域を「宛先領域」として指定することにより、再送中継によって無線パケットが宛先領域に到達したら、再送中継を終了することを特徴とする。この「受信領域」と「宛先領域」を無線パケットのヘッダ領域に記載することで、再送中継に関与する無線局の数と位置が不必要に拡大することを防止することができる。
【0088】
なお、本実施例では、送信元(基地局)が宛先の無線局の位置している分割領域である「宛先領域」の情報を把握している必要があるが、無線局が基地局に対して行う帰属処理や通常の通信の中で自局が位置する場所情報を通知することによって、通知された位置情報から宛先の無線局の位置する分割領域を特定することは可能である。
【0089】
図9は、本発明の実施例2における再送中継の動作例を示す。
図9において、基地局(A)11から無線局(Z)13を宛先とする無線パケットを送信する。当該無線パケットの送信元識別子は「A」、宛先識別子は「Z」、受信領域識別子は「a1」、宛先領域識別子は「a5」である。ここで、送信元識別子が「A」であることから、この無線パケットを受信したあらゆる領域の無線局は、この通信がダウンリンク方向の通信であると把握することができる。さらに、分割領域a1の無線局12−1〜12−3は、タイムスロット#1で受信した無線パケットのヘッダ領域の受信領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致し、宛先領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が不一致であることから、次のタイムスロット#2で再送中継を実施することを把握する。
【0090】
分割領域a1の無線局12−1〜12−3は、次の「受信領域」がa3であることを特定し、無線パケットの受信領域識別子を「a3」に更新して再構築した無線パケットをタイムスロット#2で再送中継する。分割領域a3に位置する無線局12−5〜12−7は、タイムスロット#2で受信した無線パケットのヘッダ領域の受信領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致し、宛先領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が不一致であることから、次のタイムスロット#3で再送中継を実施することを把握する。
【0091】
分割領域a3の無線局12−5〜12−7は、次の「受信領域」がa5であることを特定し、無線パケットの受信領域識別子を「a5」に更新して再構築した無線パケットをタイムスロット#3で再送中継する。分割領域a5に位置する無線局12−9〜12−10は、タイムスロット#3で受信した無線パケットのヘッダ領域の受信領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致し、宛先領域識別子と自局が位置する分割領域の識別子が一致することから、ここで再送中継を終了する。また、分割領域a5に位置する宛先の無線局13は、タイムスロット#3で受信した無線パケットの宛先識別子が自局の識別子と一致することから、当該無線パケットを終端する。
【0092】
なお、以上の例では、自局が宛先領域である場合に、その無線局は再送中継を終了している。しかし、宛先領域の一部の無線局が無線パケットを受信していても、宛先の無線局が無線パケットを受信していない場合も考えられる。したがって、通信の確実性を高めるために、自局が宛先領域である場合でも直ちに再送中継を終了するのではなく、1回再送中継を実施してから終了してもよい。いずれにしても、本実施例では、分割領域を単位として「宛先領域」であるかを判断し、宛先領域に位置する無線局以降の不要な再送中継を防止することが可能である。
【0093】
本実施例における無線局装置の構成は、図7に示す実施例1と同一である。領域情報取得手段37で自局が位置する分割領域を把握し、領域一致判断手段38で無線パケットに記載される「受信領域」および「宛先領域」との一致を判断することが可能だからである。宛先情報との一致に関する情報は領域一致判断手段38から再送中継実施判断手段31に入力され、再送中継の実施判断は入力された情報に基づいて決定される。
【0094】
本実施形態における再送中継の動作フローを図10に示す。実施例1と異なる点は、ステップS107 の次に、宛先領域識別子が自局の位置する分割領域に一致するか否かを判断し(S112 )、一致しない場合(S112 でNo)は「再送中継なし」として処理を終了する(S105 )。一致する場合(S112 でYes )は、再送実施条件に合致するか否かを判断し(S108 )、合致する限り(S108 でYes )、再送中継を実施する(S111 )。
【符号の説明】
【0095】
1−1〜1−2 基地局
2−1〜2−7、3−1〜3−7 無線局
4−1〜4−2 無線パケット
5−1〜5−2 各基地局のサービスエリア
100 ネットワーク
11 基地局
12−1〜12−11 再送中継を行う無線局
13 宛先の無線局
21 無線局装置
22 無線部
23 ベースバンド信号処理部
24 無線パケット終端手段
25 インタフェース部
26 アンテナ
27 通信制御部
28 識別子取得手段
29 識別子一致判断手段
30 基地局識別子取得手段
31 再送中継実施判断手段
32 制御部全体
35 位置情報取得手段
36 分割領域構成情報管理手段
37 領域情報取得手段
38 領域一致判断手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひとつの基地局と複数の無線局により構成され、前記基地局と前記無線局の中の通信相手の無線局との間で、送信元および宛先を示す識別子情報を記載した無線パケットをマルチホップで再送中継する無線通信システムにおいて、
前記無線局は、
前記再送中継を行う対象となる通信エリアを分割して得られる複数の分割領域のうち自局が位置する分割領域の識別子情報と、受信した前記無線パケットを次の送信機会で再送中継する無線局が位置する分割領域である受信領域の識別子情報を取得する領域情報取得手段と、
受信した前記無線パケットから取得した前記受信領域を示す識別子が、前記自局が位置する分割領域の識別子と一致するか否かを判断する領域一致判断手段と、
自局が接続される基地局の識別子を取得する基地局識別子取得手段と、
受信した前記無線パケットから取得した送信元または宛先を示す識別子が、前記基地局の識別子または自局を示す識別子と一致するか否かを判断する識別子一致判断手段と、
前記無線パケット内に記載された再送中継の終了条件またはシステム上で定められた再送中継の終了条件のいずれかに従い、受信した前記無線パケットの再送中継を実施すべきか終了すべきかを判断する再送中継実施判断手段と、
前記識別子一致判断手段で送信元または宛先を示す識別子のいずれかが前記基地局の識別子と一致すると判断され、かつ前記領域一致判断手段で前記受信領域を示す識別子が前記自局が位置する分割領域の識別子と一致すると判断され、かつ前記再送中継実施判断手段で再送中継を実施すべきと判断された際に、受信した前記無線パケットに次の受信領域を示す識別子を記載して送信する無線パケット送信手段と、
前記識別子一致判断手段で宛先を示す識別子が自局を示す識別子と一致すると判断された際に、受信した前記無線パケットを終端してデータを抜き出す無線パケット終端手段と
を備えたことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記無線パケット送信手段は、受信した前記無線パケットから取得した送信元を示す識別子が前記基地局の識別子と一致すればダウンリンクの無線パケットと判断し、受信した前記無線パケットから取得した宛先を示す識別子が前記基地局の識別子と一致すればアップリンクの無線パケットと判断し、ダウンリンクかアップリンクかに応じて前記無線パケットの次の受信領域を特定し、送信する無線パケットに記載する構成である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記基地局および前記無線局の前記無線パケット送信手段は、送信または再送中継する無線パケットに複数の前記受信領域を示す識別子を記載し、
前記領域一致判断手段は、前記複数の受信領域のうち1つの受信領域を示す識別子が、前記自局が位置する分割領域の識別子と一致するか否かを判断する構成である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記領域情報取得手段は、前記無線パケットの宛先の無線局が位置する分割領域である宛先領域の識別子情報を取得する構成であり、
前記領域一致判断手段は、受信した前記無線パケットから取得した前記宛先領域を示す識別子が、前記自局が位置する分割領域の識別子と一致するか否かを判断する構成であり、
前記再送中継実施判断手段は、前記領域一致判断手段で前記宛先領域を示す識別子が前記自局が位置する分割領域の識別子と一致すると判断された際に、前記無線パケットの再送中継を終了すべきと判断する構成である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
ひとつの基地局と複数の無線局により構成され、前記基地局と前記無線局の中の通信相手の無線局との間で、送信元および宛先を示す識別子情報を記載した無線パケットをマルチホップで再送中継する無線通信方法において、
前記無線局は、
領域情報取得手段を用いて、前記再送中継を行う対象となる通信エリアを分割して得られる複数の分割領域のうち自局が位置する分割領域の識別子情報と、受信した前記無線パケットを次の送信機会で再送中継する無線局が位置する分割領域である受信領域の識別子情報を取得するステップと、
領域一致判断手段を用いて、受信した前記無線パケットから取得した前記受信領域を示す識別子が、前記自局が位置する分割領域の識別子と一致するか否かを判断するステップと、
基地局識別子取得手段を用いて、自局が接続される基地局の識別子を取得するステップと、
識別子一致判断手段を用いて、受信した前記無線パケットから取得した送信元または宛先を示す識別子が、前記基地局の識別子または自局を示す識別子と一致するか否かを判断するステップと、
再送中継実施判断手段を用いて、前記無線パケット内に記載された再送中継の終了条件またはシステム上で定められた再送中継の終了条件のいずれかに従い、受信した前記無線パケットの再送中継を実施すべきか終了すべきかを判断するステップと、
無線パケット送信手段を用いて、前記識別子一致判断手段で送信元または宛先を示す識別子のいずれかが前記基地局の識別子と一致すると判断され、かつ前記領域一致判断手段で前記受信領域を示す識別子が前記自局が位置する分割領域の識別子と一致すると判断され、かつ前記再送中継実施判断手段で再送中継を実施すべきと判断された際に、受信した前記無線パケットに次の受信領域を示す識別子を記載して送信するステップと、
無線パケット終端手段を用いて、前記識別子一致判断手段で宛先を示す識別子が自局を示す識別子と一致すると判断された際に、受信した前記無線パケットを終端してデータを抜き出すステップと
を有することを特徴とする無線通信方法。
【請求項6】
請求項5に記載の無線通信方法において、
前記無線パケット送信手段は、受信した前記無線パケットから取得した送信元を示す識別子が前記基地局の識別子と一致すればダウンリンクの無線パケットと判断し、受信した前記無線パケットから取得した宛先を示す識別子が前記基地局の識別子と一致すればアップリンクの無線パケットと判断し、ダウンリンクかアップリンクかに応じて前記無線パケットの次の受信領域を特定し、送信する無線パケットに記載する
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項7】
請求項5に記載の無線通信方法において、
前記基地局および前記無線局の前記無線パケット送信手段は、送信または再送中継する無線パケットに複数の前記受信領域を示す識別子を記載し、
前記領域一致判断手段は、前記複数の受信領域のうち1つの受信領域を示す識別子が、前記自局が位置する分割領域の識別子と一致するか否かを判断する
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項8】
請求項5に記載の無線通信方法において、
前記領域情報取得手段は、前記無線パケットの宛先の無線局が位置する分割領域である宛先領域の識別子情報を取得し、
前記領域一致判断手段は、受信した前記無線パケットから取得した前記宛先領域を示す識別子が、前記自局が位置する分割領域の識別子と一致するか否かを判断し、
前記再送中継実施判断手段は、前記領域一致判断手段で前記宛先領域を示す識別子が前記自局が位置する分割領域の識別子と一致すると判断された際に、前記無線パケットの再送中継を終了すべきと判断する
ことを特徴とする無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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