無線通信システム及びその通信方法
【課題】通信速度の高速化を実現する無線通信システムを提供する。
【解決手段】第1のアンテナ10と第2のアンテナ20との間で無線通信を行う無線通信システム1であって、第1のアンテナ10及び第2のアンテナ20は、それぞれ複数のアンテナ素子11、21からなり、該複数のアンテナ素子11、21は、3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成し、第1のアンテナ10における各アンテナ素子11が形成する偏波面が、第2のアンテナ20の各アンテナ素子21が形成する偏波面に対して相対向する位置に、第1のアンテナ10及び第2のアンテナ20が配置され、第1のアンテナ10及び第2のアンテナ20は、互いに相対向する位置に偏波面を形成する各アンテナ素子11、21との間で通信を行う。
【解決手段】第1のアンテナ10と第2のアンテナ20との間で無線通信を行う無線通信システム1であって、第1のアンテナ10及び第2のアンテナ20は、それぞれ複数のアンテナ素子11、21からなり、該複数のアンテナ素子11、21は、3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成し、第1のアンテナ10における各アンテナ素子11が形成する偏波面が、第2のアンテナ20の各アンテナ素子21が形成する偏波面に対して相対向する位置に、第1のアンテナ10及び第2のアンテナ20が配置され、第1のアンテナ10及び第2のアンテナ20は、互いに相対向する位置に偏波面を形成する各アンテナ素子11、21との間で通信を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナを用いて無線通信を行う無線通信システム及びその通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信機能は、パーソナルコンピュータ等の情報処理機器や、携帯電話機及びPDA(Personal Digital Assistance)等の通信端末機器に限らず、オーディオ機器、ビデオ機器、カメラ機器、及びプリンタにも搭載されている。無線通信機能が様々な機器に搭載されるのに伴って、電波を送受信するアンテナに関して、様々な形態・特性を有するものが要求されている。
【0003】
このような無線通信機能を有する機器には、送信側の無線機器と受信側の無線機器との間の通信速度を速くするため、複数のアンテナを搭載して異なる偏波により送信又は受信するものがある。複数の異なる偏波により通信を行う場合には、理論上偏波面が少しでも異なれば、それぞれの偏波面に対応するアンテナを用いて通信を行うことができるが、実際には各偏波面同士に生じる干渉を抑えるため互いの偏波面が直交になるように、それぞれの偏波面に対応したアンテナを無線機器に搭載しなければならない。
【0004】
このような機器ではアンテナの占有領域が大きくなってしまう。特許文献1には、このような問題を解決するため、固体電解質からなる基板の両面に、互いに直交する偏波を受信及び/又は送信する2つの導電性プラスチック製のアンテナパターンが配設されてなるアンテナ装置が記載されている。
【0005】
続いて、送信用アンテナ及び受信用アンテナによって形成される偏波面に応じた通信感度の変化に関して説明する。例えば、図14に示すように、XYZ軸からなる直交三次元座標上において、Z軸上に離れた設置点G及び設置点Hに、それぞれ送信用アンテナ30及び受信用アンテナ40を設置して通信を行うものとする。
【0006】
ここで、各設置点において、各XYZ軸方向を長手方向として互いに直交する3つのアンテナ素子を設置した場合には、送信用アンテナ30の各アンテナ素子が形成する偏波面に対して、受信用アンテナ40の各アンテナ素子が形成する偏波面を相対向させて、受信側及び送信側にある3つのアンテナ素子の間で独立した3つの偏波により通信を行うことができると考えられる。
【0007】
しかしながら、Z軸方向を長手方向とした送信用アンテナ30のアンテナ素子から送信される電波の伝搬成分は、送信用アンテナ30と受信用アンテナ40の位置がZ軸方向の同一直線延長上であるため、設置点Hに到達するまでに大きく減衰して、受信用アンテナ40のアンテナ素子で受信することができない。したがって、通信を行うのに有効に用いられる偏波面は、X軸を中心軸とした放射方向及びY軸を中心とした放射方向に形成されるため、受信側及び送信側にある2つのアンテナ素子の間で互いに独立して通信を行うことになる。
【0008】
また、通信に用いられている波長の数倍程度に離間された位置に送信用アンテナと受信用アンテナを配置した近距離通信を行う場合、及び、この波長に対して十分離れた距離に離間して送信用アンテナと受信用アンテナを配置した長距離通信を行う場合のいずれにも、上述したように互いに独立した偏波を用いた通信が行われている。
【0009】
そして、このような近距離通信では、コネクタ等で接触させて電気的に接続した通信の代わりとして、例えば非接触型ICカードなどがあり、長距離通信にはない特長をいかした通信速度の高速化が望まれる。
【0010】
【特許文献1】特開2005−184564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、従来の二次元直交偏波を用いた通信方法よりもさらに通信速度の高速化を実現する無線通信システム及びその通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するために、本発明に係る無線通信システムは、第1のアンテナと第2のアンテナとの間で無線通信を行う無線通信システムであって、上記第1のアンテナは、3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成する複数のアンテナ素子からなり、上記第2のアンテナは、3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成する複数のアンテナ素子からなり、上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナは、上記第1のアンテナにおける各アンテナ素子が形成する偏波面が、上記第2のアンテナの各アンテナ素子が形成する偏波面に対して相対向する位置に配置され、互いに相対向する位置に偏波面を形成する各アンテナ素子との間で互いに独立して通信を行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る無線通信システムの通信方法は、3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成する複数のアンテナ素子を有するアンテナを用いて無線通信を行う無線通信システムの通信方法であって、第1のアンテナにおける各アンテナ素子が形成する偏波面が、第2のアンテナの各アンテナ素子が形成する偏波面に対して相対向する位置に、上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナを配置し、上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナが、互いに相対向する位置に偏波面を形成する各アンテナ素子との間で互いに独立して通信を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナがそれぞれ互いに偏波面が直交する状態で3軸方向に形成されたアンテナ素子からなり、さらに上記第1のアンテナの各アンテナ素子が形成する偏波面が、上記第2のアンテナの各アンテナ素子が形成する偏波面に対して相対向する位置に上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナを配置することにより、同一周波数で3つの独立した偏波により通信することにより、通信速度を高速化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
まず、本実施の形態に係る無線通信システム1の構成と動作について説明する。無線通信システム1は、図1〜3に示すXYZ軸からなる直交三次元座標に設置されてなる送信用アンテナ10と受信用アンテナ20とからなり、これらのアンテナ間で信号の伝送を行うものである。
【0017】
送信用アンテナ10は、中心点10aから各XYZ軸方向をそれぞれ長手方向とした送信素子11x、11y、11z(以下、個別に説明する場合を除いて送信素子11と総称する。)から構成される。各送信素子11は、指向性をもつアンテナ素子であって、例えばダイポールアンテナを用いると、送信素子11xがX軸を中心軸とした放射方向に、送信素子11yがY軸を中心軸とした放射方向に、送信素子11zがZ軸を中心軸とした放射方向に、それぞれ偏波面を形成する。よって、送信用アンテナ10は、互いに直交した3つの偏波面を形成するので、3つの独立した偏波を送信することができる。
【0018】
また、各送信素子11は、全て同一の周波数の電波を放出するものとする。このようにすることで、送信用アンテナ10は、全て同一の特性を持つアンテナ素子を用いることができ、異なる周波数毎に複数の搬送波生成回路を備える必要がない。このように、複数の互いに独立した偏波を用いて通信を行う場合には、一般的に上述した利点により、同一の周波数の電波が用いられている。
【0019】
ここで、アンテナの特性上、送信素子11x、11y、11zから放出される電波の伝搬成分が、それぞれX軸延長上、Y軸延長上、Z軸延長上に近づくにつれて0に収束する。このように、各送信素子11は、その長手方向延長上へ電波を放出することができない。
【0020】
受信用アンテナ20は、中心点20aから各XYZ軸方向をそれぞれ長手方向とする受信素子21x、21y、21z(以下、個別に説明する場合を除いて受信素子21と総称する。)から構成される。また、各受信素子21は、例えばダイポールアンテナ等の指向性をもつアンテナ素子であって、受信素子21xがX軸を中心軸とした放射方向に、受信素子21yがY軸を中心軸とした放射方向に、受信素子21zがZ軸を中心軸とした放射方向に、それぞれ偏波面を形成する。このように、受信用アンテナ20では、互いに直交した3つの偏波面を形成するので、3つの独立した偏波を受信することができる。また、各受信素子21は、全て同一の周波数の電波を放出するものとする。
【0021】
ここで、アンテナの特性上、受信素子21x、21y、21zから放出される電波の伝搬成分が、それぞれX軸延長上、Y軸延長上、Z軸延長上に近づくにつれて0に収束する。このように、各受信素子21は、その長手方向延長上から伝搬してくる電波を受信することができない。
【0022】
次に、XYZ軸からなる直交三次元座標上において、図1〜3に示される位置関係に送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20を設置した場合の通信感度に関して、以下説明する。本実施形態では、アンテナ間の距離が、通信に用いられる波長の数倍程度に離れた近距離での通信に注目し、送信用アンテナ10と受信用アンテナ20との間での通信速度を高速化することを目的とする。
【0023】
まず、図1に示すように、送信用アンテナ10の設置位置を原点(0、0、0)とし、受信用アンテナ20が原点に対して波長λの数倍程度離れた位置、すなわち座標が(0、0、4λ)となるように配置する。この場合、送信素子11xの長手方向が受信素子21xの長手方向に対して平行な位置に、及び、送信素子11yの長手方向が受信素子21yの長手方向に対して平行な位置になる。したがって、送信素子11x及び受信素子21xがそれぞれ形成する偏波面が相対向するとともに、送信素子11y及び受信素子21yがそれぞれ形成する偏波面が相対向するので、2つの独立した偏波により通信を行うことができる。しかしながら、送信素子11zの長手方向と受信素子21zの長手方向とが同一直線延長上に位置するため、送信素子11zと受信素子21zとの間では通信することができない。
【0024】
これに対して、図2に示すように、送信用アンテナ10の設置位置を原点(0、0、0)とし、受信用アンテナ20の設置位置の座標が(4λ、4λ、4λ)となるように配置する。この場合には、各送信素子11の長手方向が各受信素子21の長手方向に対してそれぞれ平行となるため、互いに独立した3つの偏波で通信を行うことができる。
【0025】
また、図3に示すように、例えば、送信用アンテナ10の設置位置を原点(0、0、0)として、受信用アンテナ20の設置位置の座標が(4λ、0、4λ)となるように配置されている場合も同様に、各送信素子11の長手方向が各受信素子21の長手方向に対してそれぞれ平行となるため、互いに独立した3つの偏波によって通信を行うことができる。
【0026】
したがって、例えば、1つの偏波でk[bps]のデータレートで情報を送れるとすると、図1及び上述した従来の無線通信で用いられる配置では、無線通信システム1全体のデータレートが2k[bps]となるが、図2及び図3に示す配置では無線通信システム1全体のデータレートが3k[bps]となる。
【0027】
よって、図2及び図3に示すように送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20を配置した場合には、従来のアンテナの配置位置に比べて、通信用のチャンネルを1つ増加するので、無線通信システム1全体での通信速度を高速化することができる。
【0028】
また、図1に示すアンテナの配置では、送信素子11zの長手方向と受信素子21zの長手方向が同一直線延長上に位置するため、送信素子11zと受信素子21zとの間では通信を行うことができないが、X軸に直交する平面、すなわちYZ平面上に反射素子を用いることによって、送信素子11zと受信素子21zとの偏波面を相対向させて、3つの独立した偏波で通信可能とすることもできる。
【0029】
さらに、上述したような、3つの独立した偏波を用いて通信を行うことを可能とする送信用アンテナ10と受信用アンテナ20の配置は、個々のアンテナ素子を異なる場所に設置するようにしても良い。例えば、図4に示すように、送信用アンテナ10の設置位置AをXYZ座標の原点(0、0、0)として、受信用アンテナ20のアンテナ素子21zを座標B1(4λ、0、0)に、アンテナ素子21x、21yを座標B2(0、0、4λ)に設置しても、各送信素子11の長手方向に対して各受信素子21の長手方向が平行となり、無線通信システム1全体でデータレート3k[bps]で通信を行うことができる。
【0030】
また、送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20では、図5(A)のように配置することもできる。すなわち、図5(A)に示すような配置は、図3に示す送信用アンテナ10の位置及び姿勢を固定した状態において、受信素子21yを軸として、受信素子21x、21zを180°回転させたものである。このような姿勢に変更した無線通信システム1は、送信素子11y及び受信素子21yの長手方向に対して垂直な断面図である図5(B)が示すように、送信素子11xの長手方向が各受信素子21xの長手方向に対して平行となるので通信を行うことができる。また、この無線通信システム1では、送信素子11y、11zの長手方向に対して受信素子21y、21zの長手方向がそれぞれ平行となるので、互いに直交する偏波により通信を行うことができる。
【0031】
さらに、無線通信システム1は、図5(B)に示す配置の変形として、図6のように送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20を配置しても、互いに独立した3つの偏波によって通信を行うことができる。すなわち、図5(B)に示す受信用アンテナ20を受信素子21yの長手方向を軸として180°回転させるとともに、受信素子21yを送信素子11yに距離を近づける。さらに、送信素子11x、11zをそれぞれ受信素子21x、21zに対して平行となるようにするため、送信素子11x、11zとの位置を、送信素子11yから受信素子21yへの電波の伝搬方向に対して垂直方向に平行移動させる。このようにして、この無線通信システム1では、3つの独立した偏波により通信を行うことができる。
【0032】
上述したような位置・姿勢にアンテナ素子を配置した状態で、数波長程度、本実施形態では便宜上約4波長離間するように送信用アンテナ10と受信用アンテナ20とを配置した場合には、三次元直交座標上に3つの独立した偏波を用いて通信することが可能である。
【0033】
しかしながら、各アンテナから数波長程度の範囲内にアンテナ素子を配置する場合には、たとえ互いに独立した3軸の位置及び姿勢にアンテナ素子を配置しても、受信用アンテナ20が複数の偏波成分を受信して干渉を起こしてしまう。このような干渉は、通信データを受信する際の誤りの原因となるので除去することが望ましい。
【0034】
そこで、無線通信システム1は、送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20に加えて、図7に示すように、偏波間の干渉を補正する干渉補正回路30を備えることとする。
【0035】
干渉補正回路30は、図7に示すように、受信用アンテナ20の各受信素子21x、21y、21zから受信された3つの受信信号が供給され、これらの3つの信号に補正を施して、干渉の影響を低減した信号を出力するものである。ここで、送信用アンテナ10と受信用アンテナ20との間で実際の通信信号の伝送を開始する前に、まず、送信用アンテナ10を備える送信装置及び受信用アンテナ20を備える受信装置がともに既知の信号パターンを、送信用アンテナ10から受信用アンテナ20へ送信する。そして、干渉補正回路30は、この信号パターンに基づいて補正処理を行うため必要となるパラメータを求める。
【0036】
例えば、送信用アンテナ10から既知の信号パターンに基づいて、(送信素子11x)→(送信素子11y)→(送信素子11z)の順番で異なる偏波を送信するものとする。この場合に、受信用アンテナ20は、既知の信号パターンに基づいて、最初に送信素子10xから信号が受信したと判断することができる。そして、干渉補正回路30は、送信素子11xからの信号に応じて干渉を補正する各受信素子11x、11y、11zの補正パラメータaxx、axy、axzをそれぞれ算出する。続いて、送信素子11y及び送信素子11zから送信される信号に応じて、同様に補正パラメータを算出する。その後、3つの偏波が同時に送信されても、干渉補正回路30は、以上のように算出された補正パラメータに基づいて、補正を行うことにより干渉の影響のない信号を出力することができる。
【0037】
以上のように、無線通信システム1が、干渉補正回路30を備えることにより、各偏波の伝搬成分の干渉を補正しない場合に比べて、受信用アンテナ20で誤って通信データが受信される確率が低下するので通信の信頼性を向上することができる。
【0038】
なお、干渉補正回路30は、上述した受信側に設けられる場合に限らず、送信側で各偏波が干渉しないような信号を生成するための干渉補正回路を備えるようにしても良い。
【0039】
続いて、本実施形態に係る無線通信システム1の具体例として、送信用アンテナ10をデバイス100の表面近傍に内蔵され、受信用アンテナ20がデバイス200の表面近傍に内蔵されたものを説明する。
【0040】
具体的に、各デバイス100、200に内蔵された送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20は、送信素子11x、11yをスロットアンテナ、送信素子11zをループアンテナとしてそれぞれ構成されているものとし、受信素子21x、21yをスロットアンテナ、受信素子21zをループアンテナとしてそれぞれ構成されているものとする。そして、デバイス100は、各送信素子11を介してデバイス200へ所定の信号を送信するものとし、デバイス200は、デバイス100から送信された信号を各受信素子21を介して受信するものとする。
【0041】
送信素子11及び受信素子21をダイポールアンテナで実現した場合には、送信素子11及び受信素子21がそれぞれ互いに直交する3軸方向に配置され、各送信素子11に対して平行となる位置に各受信素子21が配置されれば、3つの独立した偏波で通信を行うことができることを示した。以下に示す実施例では、各送信素子11及び各受信素子21が互いに性質の異なるループアンテナとスロットアンテナにより実現されるため、これらの素子の配置に関して上述したダイポールアンテナの場合と異なる条件が必要となるが、各送信素子11及び各受信素子21のそれぞれが互いに直交する3つの偏波面を形成し、さらに、各送信素子11が形成する3つ偏波面が、各受信素子21が形成する3つの偏波面にそれぞれ相対向する位置・姿勢となるように、送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20が設置されれば、3つの独立した偏波により通信を行うことができる。
【0042】
なお、このような配置に関する条件が満たされれば、具体例として挙げたダイポールアンテナ、ループアンテナ、スロットアンテナ以外のアンテナ素子を用いても、3つの独立した偏波を用いて通信することが可能である。
【0043】
続いて、3つの独立した偏波により通信を行うために必要となる送信素子11及び受信素子21の具体的な配置について、以下に説明する。
【0044】
まず、デバイス100、200内に、どのように送信素子11z及び受信素子21zをそれぞれ配置するかについて説明する。
【0045】
図8(A)は、デバイス100の表面E及びデバイス200の表面F、すなわちXY平面を互いに接するようにした場合の断面図である。デバイス100は、図8(A)に示すように、その表面近傍において、二層構造からなるグランド層103、104と、グランド層103、104とを接合するスルーホール105とからなり、他の表面近傍部分が誘導体106となっている。ここで、送信素子11zは、グランド層103、104及びスルーホール105に囲まれた領域内に配置される。
【0046】
デバイス200も、デバイス100と同様に、その表面近傍において、二層構造からなるグランド層203、204と、グランド層203、204を接合するスルーホール205とからなり、他の表面近傍部分が誘導体206となっている。ここで、受信素子21zは、グランド層203、204及びスルーホール205に囲まれた領域内に配置される。
【0047】
ここで、送信素子11zから送信される電波は、デバイス100の表面Eとデバイス200表面Fとの間のE−F層を伝搬して、受信素子21zによって受信される。また、デバイス100のグランド層103及びデバイス200のグランド層203は、送信素子11zから受信素子21zに亘る範囲以外に電波が伝搬されるのを防止することによって、送信素子11zから送信される電波が、受信素子21z以外の受信素子によって受信されるのを抑制している。
【0048】
図8(B)は、E−F層に対する垂直上方向、すなわち−Z軸方向からデバイス100を見た正面図である。送信素子11z及び受信素子21zがそれぞれ形成する偏波面は、図8(B)に示すように、共にXY平面であって相対向しているので、デバイス100とデバイス200とが接する面に対して垂直な伝搬方向、すなわち−Z軸方向に伝搬する電波によって通信を行う。
【0049】
次に、デバイス100及びデバイス200の接触面に凹凸形状が形成された変形例を図9に示す。具体的には、送信素子11zが内設されるデバイス100の表面、及び、受信素子21zが内設されるデバイス200の表面をそれぞれ突起させた凸部107a、207aを形成する。また、デバイス100の凸部107aに係合可能な凹部207bをデバイス200の表面上に形成するとともに、デバイス200の凸部207aに係合可能な凹部107bをデバイス100の表面上に形成する。ここで、デバイス100及びデバイス200に形成される凹部107b、207bは、グランド層103とグランド層104との間に形成されている誘電体、及び、グランド層203とグランド層204との間に形成されている誘電体がそれぞれ取り除かれることによって形成されるものである。このような誘電体が取り除かれた部分の周囲には、デバイス100及びデバイス200の内部に二層構造からなるグランド層が形成されているため、当該周囲外へ送信素子11zから放出される電波が漏れにくくなっている。
【0050】
このように、デバイス100及びデバイス200の表面に凹凸形状を設けて係合可能とすることによって、デバイス100とデバイス200とを容易に位置合わせを行うことができる。さらに、送信素子11zが配設されている凸部107aから受信素子21zが配設されている凸部207aに亘る係合部分において、誘電体が存在しないので、図8(B)の接触面に比べて、送信素子11zから受信素子21zへ電波が伝搬する際に生じる誘電体損失が軽減され、各送信素子11と各受信素子21との間で通信感度を向上することができる。
【0051】
次に、送信素子11x、11y及び受信素子21x、21yに注目して、その配置と通信に関して説明する。図10は、図8(B)と同様に、デバイス100のE−F層に対する垂直上方向、すなわち、−Z軸方向からデバイス100を眺めた図である。
【0052】
送信素子11x、11yは、ともにデバイス100の表面に対して平行に配設する。また、送信素子11x、11yは、その長手方向が互いに垂直となるように配設する。
【0053】
受信素子21x、21yは、ともにデバイス100の表面に対して平行に配設する。また、受信素子21x、21yは、それぞれ送信素子11x、11yに相対向する位置に配置されている。図10では、受信素子21x、21yがそれぞれ送信素子11x、11yに重なる位置に配置されているものとする。
【0054】
ここで、ループ型送信素子11z及びループ型受信素子21zが形成する磁界が共にデバイス同士が接する表面すなわち、XY平面に垂直である。そして、送信素子11x及び受信素子21xとの間では、これらの偏波面を共にXY平面上に相対向させて通信を行う。また、送信素子11yと受信素子21yとの間では、送信素子11xと直交する偏波面で共にXY平面に相対向させて通信を行う。
【0055】
以上のように、送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20を、それぞれデバイス100及びデバイス200に内蔵させることによって、互いに独立した3つの偏波を用いて通信を行うことができる。
【0056】
なお、図9において、受信素子21x、21yがそれぞれ送信素子11x、11yに重なる位置に配置されているが、このような位置に限定されるものではない。具体的には、受信素子21x、21yのそれぞれの長手方向が、同一直線延長上を除く、送信素子11x、11yの長手方向に対して平行となる位置に配置されていればよい。例えば、受信素子21xがY軸方向に水平移動し、受信素子21yがZ軸方向に水平移動しても、それぞれの偏波面が相対向するので、3つの偏波が互いに独立して通信することができる。
【0057】
また、本実施例では、デバイス100に3つの送信素子11x、11y、11zが内蔵され、デバイス200に3つの送信素子21x、21y、21zが内蔵されており、デバイス100からデバイス200への片方向通信を行うような構成となっているが、このような構成に限られるものではない。具体的には、デバイス100が2つの送信素子及び1つの受信素子を備えるとともに、デバイス200が1つの送信素子及び2つの受信素子を備え、デバイス100とデバイス200との間で双方向通信を行うこともできる。
【0058】
続いて、本実施形態に係る無線通信システム1の用途をさらに明確にするために、具体的な情報機器等に用いた使用例について説明する。上述したように、3つの独立した偏波により通信を行うには、送信用アンテナ10と受信用アンテナ20とが離間した距離が数波長程度であることが条件となる。この点を考慮すると、例えば、デバイス100及びデバイス200を携帯型の情報機器に内蔵する場合には、これらのデバイス及び携帯端末機器の大きさに鑑みてアンテナ間の距離が数cm程度である必要がある。
【0059】
具体的に、アンテナ間の距離が20mm前後であって、この距離を4波長分とした場合には、約5mmの波長を用いることになる。そして、この波長に応じてアンテナ素子を設計する場合、例えば、ダイポールアンテナ素子を用いると、アンテナ素子の長手方向は波長の半分の長さ、本具体例の場合2.5mm程度となる。このような長さのアンテナ素子は、携帯端末機器等に内蔵することが十分に可能な大きさであるといえる。よって、上述した3つの独立した偏波を用いた無線通信システム1として最も適した用途の一つとして、携帯用機器等に用いられることが考えられる。
【0060】
以下では、偏波の波長を5mm程度、すなわち65GHzの通信周波数を用いて機器間で無線接続を行うことを想定した使用例を示す。なお、上述したように、デバイス100及びデバイス200間での通信は、片方向でもよいし、双方向であっても良い。
【0061】
まず、第1の使用例として、デバイス100がノートPC110(Personal Computer)に内設されており、デバイス200が携帯端末機器210に内設されているものとし、これらの機器間においてデバイス100とデバイス200との間で通信を行うものとする。
【0062】
一般的なノートPC110には、図11(A)に示すように、ディスプレイ112とキーボード113とマウスパット114とが備えられている。また、デバイス100は、ノートPC110において、ユーザがキーボード113をタイプする際にユーザの掌を載せることを主な目的として、マウスパット114の両脇に何も設けられていない表面の近傍に内設されているものとする。以下では、便宜上、通常ユーザの左の掌が載せられる表面を通信面116aとし、また、右の掌が載せられる表面を通信面116bと呼ぶことにする。
【0063】
ここで、上述したように、デバイス100とデバイス200との間で互いに独立した3つの偏波によって通信を行うには、デバイス100、200にそれぞれ内設されているアンテナ素子の位置を正確に合わせる必要がある。このような正確な位置合わせは、図9に示したように、デバイスの表面が係合するような凹凸形状を、通信面116及び携帯端末機器210に設けることによって、容易に実現することができる。しかしながら、通信面116には、従来から掌を載せるという主な機能を果たしているため、凹凸形状を形成することは望ましくない。したがって、通信面116が平面状であっても、正確なアンテナ素子の位置合わせを容易に行うことが望まれる。
【0064】
そこで、本使用例では、図11(B)に示すように、通信面116aに携帯端末機器210を置いたときに、デバイス100とデバイス200との間の通信状態をノートPC110が計測して、その結果をディスプレイ112に表示するものとする。本使用例では、ディスプレイ112に表示された結果に基づいて、ユーザが最適な位置合わせを行うものとする。このように、本使用例では、ディスプレイ112に表示された視覚情報に応じて、ユーザが容易にデバイス100とデバイス200との位置合わせを行うことができる。
【0065】
次に、第2の使用例として、図12(A)に示すように、デバイス100が携帯電話機、PDA等の携帯端末機器120に内設され、デバイス200が携帯端末機器120を保持するクレードル機器220に内設されるものについて説明する。
【0066】
まず、従来の携帯端末機器の底面部には、クレードル機器と電気的に接続するためのコネクタが設けられている。一方、クレードル機器には、携帯端末機器が装着可能な凹部が形成されている。凹部は携帯端末機器の底面部の外周に合わせた形状に形成されており、その底面部に携帯端末機器のコネクタと電気的に接続する凸形状のコネクタが設けられている。このように、従来の携帯端末機器とクレードル機器とでは、コネクタを抜き差しする構造が必要であり、コネクタの配設位置が制約される。
【0067】
これに対して、本使用例では、コネクタを用いて電気的に機器間を接続する代わりに、デバイス100とデバイス200との間で無線接続されるので、上述したコネクタの抜き差し動作を行う必要がなく、デバイス100及びデバイス200の配置位置の制約が緩和され、機器の形状を設計する際の自由度が高くなる。
【0068】
具体的に、図12(B)は、本使用例において、携帯端末機器120の姿勢が水平面に対して斜方向となるようにクレードル機器220に装着した際の、デバイス100及びデバイス200の間で無線接続を行う要部を示す断面図である。また、図12(C)は、携帯端末機器120の姿勢が略鉛直上方となるようにクレードル機器220に装着した際の、デバイス100及びデバイス200の間で無線接続を行う要部を示す断面図である。図12(B)及び図12(C)が示すように、デバイス100は、携帯端末機器120の背面部に配設することができる。一方、デバイス200は、クレードル機器220の側面部、すなわち、デバイス100に相対向する位置に配設することができる。
【0069】
さらに、従来の携帯無線機器とクレードル機器との接続で用いられるコネクタは、経年変化により接触面が劣化して通信の信頼性が低下する。これに対して、本使用例に係る携帯端末機器120及びクレードル機器220では、機器間での接続を行うアンテナ素子が内蔵され、上述したような接触不良等を考慮しなくても良いといった利点がある。
【0070】
ところで、携帯端末機器は、外力から保護や美観のため、その外周を覆うケースに入れられて使用される場合がある。このようなケースには、携帯端末機器がクレードル機器とコネクタを介して電気的に接続できるようにするため、コネクタの接続部に該当する位置に穴を空けておく必要があった。これに対して、本使用例に係る携帯端末機器110では、コネクタを用いて電気的に接続される代わりに、機器間で無線通信することができるので、上述したケースに穴を空ける必要がない。
【0071】
しかし、ケースの厚みにより、携帯端末機器120をクレードル機器220に装着したときに、デバイス100とデバイス200との位置がずれてしまい、これに伴って通信感度が大きく劣化してしまう虞がある。
【0072】
具体的には、図13(A)に示すように、ケース121の厚みによって、デバイス100とデバイス200との間で予め設定されている位置に合わせることができない。
【0073】
そこで、予めケース121の厚みに応じて、デバイス100及びデバイス200にそれぞれ内設されているアンテナ素子を傾けて配置する本使用例の変形例を以下に示す。
【0074】
図13(B)はケース121の厚みにより、携帯端末機器120及びクレードル機器220の装着位置が変化した場合の模式的な断面図である。図13(B)に示すY軸方向の変位は、クレードル機器220の底面部に対する携帯端末機器120の底面部の変位である。また、図13(B)に示すX軸方向の変位は、クレードル機器220の側面部に対する携帯端末機器120の背面部の変位である。
【0075】
ここで、例えば、ケース121の厚みが一様であれば、携帯端末機器120及びクレードル機器220の接地面において、図13(B)に示すX軸方向及びY軸方向の変位が等しいものとなる。したがって、このような場合には、デバイス100内の各アンテナ素子の姿勢をYZ平面に対する垂直方向を軸として45°下方向、すなわち、−Y軸方向に傾けるとともに、デバイス200内の各アンテナ素子の姿勢をYZ平面に対する垂直方向を軸として45°上方向すなわち、+Y軸方向に傾けることによって、デバイス100及びデバイス200との間がケース121により隔てられても、それぞれのアンテナ素子の偏波面を相対向させて通信を行うことができる。なお、この場合には、図13(C)に示すように、ケース121を用いない場合でも互いの偏波面を相対向するようにして通信を行うことができるので、ケース121の有無に応じて通信感度が大きく変化することなく使用することができる。
【0076】
なお、本発明は、上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】送信用アンテナ及び受信用アンテナの配置を模式的に示す斜視図である。
【図2】送信用アンテナ及び受信用アンテナの配置を模式的に示す斜視図である。
【図3】送信用アンテナ及び受信用アンテナの配置を模式的に示す斜視図である。
【図4】送信用アンテナ及び受信用アンテナの配置を模式的に示す斜視図である。
【図5】送信用アンテナ及び受信用アンテナの配置を模式的に示す斜視図(A)、及び、C−D層に対して垂直方向にデバイスの断面を示す断面図(B)である。
【図6】送信用アンテナ及び受信用アンテナの配置を模式的に示す断面図である。
【図7】干渉補正回路の構成と動作を示すブロック図である。
【図8】互いのデバイスの表面を接触させた場合の、送信用アンテナと受信用アンテナとの配置を示す断面図(A)、及び、デバイス表面に対する鉛直下方向から当該デバイス表面を見た正面図(B)である。
【図9】互いのデバイスの表面に凹凸形状を形成して互いに係合させた場合の、送信用アンテナと受信用アンテナとの配置を示す断面図である。
【図10】デバイス表面に対する鉛直下方向から当該デバイス表面を見た正面図である。
【図11】ノートPCの構成を示す斜視図(A)とノートPCと携帯端末機器との間で通信を行う使用例を示した斜視図(B)である。
【図12】携帯端末機器にクレードル機器を装着させた斜視図(A)と、携帯端末機器の背面部とクレードル機器の正面部との間での接触面に対して垂直な断面図(B)と、携帯端末機器の背面部とクレードル機器の正面部との間での接触面に対して垂直な断面図(C)である。
【図13】ケースに入れられた携帯端末機器の背面部とクレードル機器の正面部との間での接触面に対して垂直な断面図(A)と、断面図(A)の接触面を拡大した断面図(B)と、ケースにいられていない携帯端末機器の背面部とクレードル機器の正面部との間での接触面に対して垂直な断面を示した断面図(C)である。
【図14】従来のアンテナの配置位置を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0078】
1 無線通信システム、10 送信用アンテナ、11 送信素子、20 受信用アンテナ、21 受信素子、100、200 デバイス、110 ノートPC、120、210 携帯端末機器、220 クレードル機器
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナを用いて無線通信を行う無線通信システム及びその通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信機能は、パーソナルコンピュータ等の情報処理機器や、携帯電話機及びPDA(Personal Digital Assistance)等の通信端末機器に限らず、オーディオ機器、ビデオ機器、カメラ機器、及びプリンタにも搭載されている。無線通信機能が様々な機器に搭載されるのに伴って、電波を送受信するアンテナに関して、様々な形態・特性を有するものが要求されている。
【0003】
このような無線通信機能を有する機器には、送信側の無線機器と受信側の無線機器との間の通信速度を速くするため、複数のアンテナを搭載して異なる偏波により送信又は受信するものがある。複数の異なる偏波により通信を行う場合には、理論上偏波面が少しでも異なれば、それぞれの偏波面に対応するアンテナを用いて通信を行うことができるが、実際には各偏波面同士に生じる干渉を抑えるため互いの偏波面が直交になるように、それぞれの偏波面に対応したアンテナを無線機器に搭載しなければならない。
【0004】
このような機器ではアンテナの占有領域が大きくなってしまう。特許文献1には、このような問題を解決するため、固体電解質からなる基板の両面に、互いに直交する偏波を受信及び/又は送信する2つの導電性プラスチック製のアンテナパターンが配設されてなるアンテナ装置が記載されている。
【0005】
続いて、送信用アンテナ及び受信用アンテナによって形成される偏波面に応じた通信感度の変化に関して説明する。例えば、図14に示すように、XYZ軸からなる直交三次元座標上において、Z軸上に離れた設置点G及び設置点Hに、それぞれ送信用アンテナ30及び受信用アンテナ40を設置して通信を行うものとする。
【0006】
ここで、各設置点において、各XYZ軸方向を長手方向として互いに直交する3つのアンテナ素子を設置した場合には、送信用アンテナ30の各アンテナ素子が形成する偏波面に対して、受信用アンテナ40の各アンテナ素子が形成する偏波面を相対向させて、受信側及び送信側にある3つのアンテナ素子の間で独立した3つの偏波により通信を行うことができると考えられる。
【0007】
しかしながら、Z軸方向を長手方向とした送信用アンテナ30のアンテナ素子から送信される電波の伝搬成分は、送信用アンテナ30と受信用アンテナ40の位置がZ軸方向の同一直線延長上であるため、設置点Hに到達するまでに大きく減衰して、受信用アンテナ40のアンテナ素子で受信することができない。したがって、通信を行うのに有効に用いられる偏波面は、X軸を中心軸とした放射方向及びY軸を中心とした放射方向に形成されるため、受信側及び送信側にある2つのアンテナ素子の間で互いに独立して通信を行うことになる。
【0008】
また、通信に用いられている波長の数倍程度に離間された位置に送信用アンテナと受信用アンテナを配置した近距離通信を行う場合、及び、この波長に対して十分離れた距離に離間して送信用アンテナと受信用アンテナを配置した長距離通信を行う場合のいずれにも、上述したように互いに独立した偏波を用いた通信が行われている。
【0009】
そして、このような近距離通信では、コネクタ等で接触させて電気的に接続した通信の代わりとして、例えば非接触型ICカードなどがあり、長距離通信にはない特長をいかした通信速度の高速化が望まれる。
【0010】
【特許文献1】特開2005−184564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、従来の二次元直交偏波を用いた通信方法よりもさらに通信速度の高速化を実現する無線通信システム及びその通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するために、本発明に係る無線通信システムは、第1のアンテナと第2のアンテナとの間で無線通信を行う無線通信システムであって、上記第1のアンテナは、3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成する複数のアンテナ素子からなり、上記第2のアンテナは、3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成する複数のアンテナ素子からなり、上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナは、上記第1のアンテナにおける各アンテナ素子が形成する偏波面が、上記第2のアンテナの各アンテナ素子が形成する偏波面に対して相対向する位置に配置され、互いに相対向する位置に偏波面を形成する各アンテナ素子との間で互いに独立して通信を行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る無線通信システムの通信方法は、3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成する複数のアンテナ素子を有するアンテナを用いて無線通信を行う無線通信システムの通信方法であって、第1のアンテナにおける各アンテナ素子が形成する偏波面が、第2のアンテナの各アンテナ素子が形成する偏波面に対して相対向する位置に、上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナを配置し、上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナが、互いに相対向する位置に偏波面を形成する各アンテナ素子との間で互いに独立して通信を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナがそれぞれ互いに偏波面が直交する状態で3軸方向に形成されたアンテナ素子からなり、さらに上記第1のアンテナの各アンテナ素子が形成する偏波面が、上記第2のアンテナの各アンテナ素子が形成する偏波面に対して相対向する位置に上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナを配置することにより、同一周波数で3つの独立した偏波により通信することにより、通信速度を高速化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
まず、本実施の形態に係る無線通信システム1の構成と動作について説明する。無線通信システム1は、図1〜3に示すXYZ軸からなる直交三次元座標に設置されてなる送信用アンテナ10と受信用アンテナ20とからなり、これらのアンテナ間で信号の伝送を行うものである。
【0017】
送信用アンテナ10は、中心点10aから各XYZ軸方向をそれぞれ長手方向とした送信素子11x、11y、11z(以下、個別に説明する場合を除いて送信素子11と総称する。)から構成される。各送信素子11は、指向性をもつアンテナ素子であって、例えばダイポールアンテナを用いると、送信素子11xがX軸を中心軸とした放射方向に、送信素子11yがY軸を中心軸とした放射方向に、送信素子11zがZ軸を中心軸とした放射方向に、それぞれ偏波面を形成する。よって、送信用アンテナ10は、互いに直交した3つの偏波面を形成するので、3つの独立した偏波を送信することができる。
【0018】
また、各送信素子11は、全て同一の周波数の電波を放出するものとする。このようにすることで、送信用アンテナ10は、全て同一の特性を持つアンテナ素子を用いることができ、異なる周波数毎に複数の搬送波生成回路を備える必要がない。このように、複数の互いに独立した偏波を用いて通信を行う場合には、一般的に上述した利点により、同一の周波数の電波が用いられている。
【0019】
ここで、アンテナの特性上、送信素子11x、11y、11zから放出される電波の伝搬成分が、それぞれX軸延長上、Y軸延長上、Z軸延長上に近づくにつれて0に収束する。このように、各送信素子11は、その長手方向延長上へ電波を放出することができない。
【0020】
受信用アンテナ20は、中心点20aから各XYZ軸方向をそれぞれ長手方向とする受信素子21x、21y、21z(以下、個別に説明する場合を除いて受信素子21と総称する。)から構成される。また、各受信素子21は、例えばダイポールアンテナ等の指向性をもつアンテナ素子であって、受信素子21xがX軸を中心軸とした放射方向に、受信素子21yがY軸を中心軸とした放射方向に、受信素子21zがZ軸を中心軸とした放射方向に、それぞれ偏波面を形成する。このように、受信用アンテナ20では、互いに直交した3つの偏波面を形成するので、3つの独立した偏波を受信することができる。また、各受信素子21は、全て同一の周波数の電波を放出するものとする。
【0021】
ここで、アンテナの特性上、受信素子21x、21y、21zから放出される電波の伝搬成分が、それぞれX軸延長上、Y軸延長上、Z軸延長上に近づくにつれて0に収束する。このように、各受信素子21は、その長手方向延長上から伝搬してくる電波を受信することができない。
【0022】
次に、XYZ軸からなる直交三次元座標上において、図1〜3に示される位置関係に送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20を設置した場合の通信感度に関して、以下説明する。本実施形態では、アンテナ間の距離が、通信に用いられる波長の数倍程度に離れた近距離での通信に注目し、送信用アンテナ10と受信用アンテナ20との間での通信速度を高速化することを目的とする。
【0023】
まず、図1に示すように、送信用アンテナ10の設置位置を原点(0、0、0)とし、受信用アンテナ20が原点に対して波長λの数倍程度離れた位置、すなわち座標が(0、0、4λ)となるように配置する。この場合、送信素子11xの長手方向が受信素子21xの長手方向に対して平行な位置に、及び、送信素子11yの長手方向が受信素子21yの長手方向に対して平行な位置になる。したがって、送信素子11x及び受信素子21xがそれぞれ形成する偏波面が相対向するとともに、送信素子11y及び受信素子21yがそれぞれ形成する偏波面が相対向するので、2つの独立した偏波により通信を行うことができる。しかしながら、送信素子11zの長手方向と受信素子21zの長手方向とが同一直線延長上に位置するため、送信素子11zと受信素子21zとの間では通信することができない。
【0024】
これに対して、図2に示すように、送信用アンテナ10の設置位置を原点(0、0、0)とし、受信用アンテナ20の設置位置の座標が(4λ、4λ、4λ)となるように配置する。この場合には、各送信素子11の長手方向が各受信素子21の長手方向に対してそれぞれ平行となるため、互いに独立した3つの偏波で通信を行うことができる。
【0025】
また、図3に示すように、例えば、送信用アンテナ10の設置位置を原点(0、0、0)として、受信用アンテナ20の設置位置の座標が(4λ、0、4λ)となるように配置されている場合も同様に、各送信素子11の長手方向が各受信素子21の長手方向に対してそれぞれ平行となるため、互いに独立した3つの偏波によって通信を行うことができる。
【0026】
したがって、例えば、1つの偏波でk[bps]のデータレートで情報を送れるとすると、図1及び上述した従来の無線通信で用いられる配置では、無線通信システム1全体のデータレートが2k[bps]となるが、図2及び図3に示す配置では無線通信システム1全体のデータレートが3k[bps]となる。
【0027】
よって、図2及び図3に示すように送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20を配置した場合には、従来のアンテナの配置位置に比べて、通信用のチャンネルを1つ増加するので、無線通信システム1全体での通信速度を高速化することができる。
【0028】
また、図1に示すアンテナの配置では、送信素子11zの長手方向と受信素子21zの長手方向が同一直線延長上に位置するため、送信素子11zと受信素子21zとの間では通信を行うことができないが、X軸に直交する平面、すなわちYZ平面上に反射素子を用いることによって、送信素子11zと受信素子21zとの偏波面を相対向させて、3つの独立した偏波で通信可能とすることもできる。
【0029】
さらに、上述したような、3つの独立した偏波を用いて通信を行うことを可能とする送信用アンテナ10と受信用アンテナ20の配置は、個々のアンテナ素子を異なる場所に設置するようにしても良い。例えば、図4に示すように、送信用アンテナ10の設置位置AをXYZ座標の原点(0、0、0)として、受信用アンテナ20のアンテナ素子21zを座標B1(4λ、0、0)に、アンテナ素子21x、21yを座標B2(0、0、4λ)に設置しても、各送信素子11の長手方向に対して各受信素子21の長手方向が平行となり、無線通信システム1全体でデータレート3k[bps]で通信を行うことができる。
【0030】
また、送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20では、図5(A)のように配置することもできる。すなわち、図5(A)に示すような配置は、図3に示す送信用アンテナ10の位置及び姿勢を固定した状態において、受信素子21yを軸として、受信素子21x、21zを180°回転させたものである。このような姿勢に変更した無線通信システム1は、送信素子11y及び受信素子21yの長手方向に対して垂直な断面図である図5(B)が示すように、送信素子11xの長手方向が各受信素子21xの長手方向に対して平行となるので通信を行うことができる。また、この無線通信システム1では、送信素子11y、11zの長手方向に対して受信素子21y、21zの長手方向がそれぞれ平行となるので、互いに直交する偏波により通信を行うことができる。
【0031】
さらに、無線通信システム1は、図5(B)に示す配置の変形として、図6のように送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20を配置しても、互いに独立した3つの偏波によって通信を行うことができる。すなわち、図5(B)に示す受信用アンテナ20を受信素子21yの長手方向を軸として180°回転させるとともに、受信素子21yを送信素子11yに距離を近づける。さらに、送信素子11x、11zをそれぞれ受信素子21x、21zに対して平行となるようにするため、送信素子11x、11zとの位置を、送信素子11yから受信素子21yへの電波の伝搬方向に対して垂直方向に平行移動させる。このようにして、この無線通信システム1では、3つの独立した偏波により通信を行うことができる。
【0032】
上述したような位置・姿勢にアンテナ素子を配置した状態で、数波長程度、本実施形態では便宜上約4波長離間するように送信用アンテナ10と受信用アンテナ20とを配置した場合には、三次元直交座標上に3つの独立した偏波を用いて通信することが可能である。
【0033】
しかしながら、各アンテナから数波長程度の範囲内にアンテナ素子を配置する場合には、たとえ互いに独立した3軸の位置及び姿勢にアンテナ素子を配置しても、受信用アンテナ20が複数の偏波成分を受信して干渉を起こしてしまう。このような干渉は、通信データを受信する際の誤りの原因となるので除去することが望ましい。
【0034】
そこで、無線通信システム1は、送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20に加えて、図7に示すように、偏波間の干渉を補正する干渉補正回路30を備えることとする。
【0035】
干渉補正回路30は、図7に示すように、受信用アンテナ20の各受信素子21x、21y、21zから受信された3つの受信信号が供給され、これらの3つの信号に補正を施して、干渉の影響を低減した信号を出力するものである。ここで、送信用アンテナ10と受信用アンテナ20との間で実際の通信信号の伝送を開始する前に、まず、送信用アンテナ10を備える送信装置及び受信用アンテナ20を備える受信装置がともに既知の信号パターンを、送信用アンテナ10から受信用アンテナ20へ送信する。そして、干渉補正回路30は、この信号パターンに基づいて補正処理を行うため必要となるパラメータを求める。
【0036】
例えば、送信用アンテナ10から既知の信号パターンに基づいて、(送信素子11x)→(送信素子11y)→(送信素子11z)の順番で異なる偏波を送信するものとする。この場合に、受信用アンテナ20は、既知の信号パターンに基づいて、最初に送信素子10xから信号が受信したと判断することができる。そして、干渉補正回路30は、送信素子11xからの信号に応じて干渉を補正する各受信素子11x、11y、11zの補正パラメータaxx、axy、axzをそれぞれ算出する。続いて、送信素子11y及び送信素子11zから送信される信号に応じて、同様に補正パラメータを算出する。その後、3つの偏波が同時に送信されても、干渉補正回路30は、以上のように算出された補正パラメータに基づいて、補正を行うことにより干渉の影響のない信号を出力することができる。
【0037】
以上のように、無線通信システム1が、干渉補正回路30を備えることにより、各偏波の伝搬成分の干渉を補正しない場合に比べて、受信用アンテナ20で誤って通信データが受信される確率が低下するので通信の信頼性を向上することができる。
【0038】
なお、干渉補正回路30は、上述した受信側に設けられる場合に限らず、送信側で各偏波が干渉しないような信号を生成するための干渉補正回路を備えるようにしても良い。
【0039】
続いて、本実施形態に係る無線通信システム1の具体例として、送信用アンテナ10をデバイス100の表面近傍に内蔵され、受信用アンテナ20がデバイス200の表面近傍に内蔵されたものを説明する。
【0040】
具体的に、各デバイス100、200に内蔵された送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20は、送信素子11x、11yをスロットアンテナ、送信素子11zをループアンテナとしてそれぞれ構成されているものとし、受信素子21x、21yをスロットアンテナ、受信素子21zをループアンテナとしてそれぞれ構成されているものとする。そして、デバイス100は、各送信素子11を介してデバイス200へ所定の信号を送信するものとし、デバイス200は、デバイス100から送信された信号を各受信素子21を介して受信するものとする。
【0041】
送信素子11及び受信素子21をダイポールアンテナで実現した場合には、送信素子11及び受信素子21がそれぞれ互いに直交する3軸方向に配置され、各送信素子11に対して平行となる位置に各受信素子21が配置されれば、3つの独立した偏波で通信を行うことができることを示した。以下に示す実施例では、各送信素子11及び各受信素子21が互いに性質の異なるループアンテナとスロットアンテナにより実現されるため、これらの素子の配置に関して上述したダイポールアンテナの場合と異なる条件が必要となるが、各送信素子11及び各受信素子21のそれぞれが互いに直交する3つの偏波面を形成し、さらに、各送信素子11が形成する3つ偏波面が、各受信素子21が形成する3つの偏波面にそれぞれ相対向する位置・姿勢となるように、送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20が設置されれば、3つの独立した偏波により通信を行うことができる。
【0042】
なお、このような配置に関する条件が満たされれば、具体例として挙げたダイポールアンテナ、ループアンテナ、スロットアンテナ以外のアンテナ素子を用いても、3つの独立した偏波を用いて通信することが可能である。
【0043】
続いて、3つの独立した偏波により通信を行うために必要となる送信素子11及び受信素子21の具体的な配置について、以下に説明する。
【0044】
まず、デバイス100、200内に、どのように送信素子11z及び受信素子21zをそれぞれ配置するかについて説明する。
【0045】
図8(A)は、デバイス100の表面E及びデバイス200の表面F、すなわちXY平面を互いに接するようにした場合の断面図である。デバイス100は、図8(A)に示すように、その表面近傍において、二層構造からなるグランド層103、104と、グランド層103、104とを接合するスルーホール105とからなり、他の表面近傍部分が誘導体106となっている。ここで、送信素子11zは、グランド層103、104及びスルーホール105に囲まれた領域内に配置される。
【0046】
デバイス200も、デバイス100と同様に、その表面近傍において、二層構造からなるグランド層203、204と、グランド層203、204を接合するスルーホール205とからなり、他の表面近傍部分が誘導体206となっている。ここで、受信素子21zは、グランド層203、204及びスルーホール205に囲まれた領域内に配置される。
【0047】
ここで、送信素子11zから送信される電波は、デバイス100の表面Eとデバイス200表面Fとの間のE−F層を伝搬して、受信素子21zによって受信される。また、デバイス100のグランド層103及びデバイス200のグランド層203は、送信素子11zから受信素子21zに亘る範囲以外に電波が伝搬されるのを防止することによって、送信素子11zから送信される電波が、受信素子21z以外の受信素子によって受信されるのを抑制している。
【0048】
図8(B)は、E−F層に対する垂直上方向、すなわち−Z軸方向からデバイス100を見た正面図である。送信素子11z及び受信素子21zがそれぞれ形成する偏波面は、図8(B)に示すように、共にXY平面であって相対向しているので、デバイス100とデバイス200とが接する面に対して垂直な伝搬方向、すなわち−Z軸方向に伝搬する電波によって通信を行う。
【0049】
次に、デバイス100及びデバイス200の接触面に凹凸形状が形成された変形例を図9に示す。具体的には、送信素子11zが内設されるデバイス100の表面、及び、受信素子21zが内設されるデバイス200の表面をそれぞれ突起させた凸部107a、207aを形成する。また、デバイス100の凸部107aに係合可能な凹部207bをデバイス200の表面上に形成するとともに、デバイス200の凸部207aに係合可能な凹部107bをデバイス100の表面上に形成する。ここで、デバイス100及びデバイス200に形成される凹部107b、207bは、グランド層103とグランド層104との間に形成されている誘電体、及び、グランド層203とグランド層204との間に形成されている誘電体がそれぞれ取り除かれることによって形成されるものである。このような誘電体が取り除かれた部分の周囲には、デバイス100及びデバイス200の内部に二層構造からなるグランド層が形成されているため、当該周囲外へ送信素子11zから放出される電波が漏れにくくなっている。
【0050】
このように、デバイス100及びデバイス200の表面に凹凸形状を設けて係合可能とすることによって、デバイス100とデバイス200とを容易に位置合わせを行うことができる。さらに、送信素子11zが配設されている凸部107aから受信素子21zが配設されている凸部207aに亘る係合部分において、誘電体が存在しないので、図8(B)の接触面に比べて、送信素子11zから受信素子21zへ電波が伝搬する際に生じる誘電体損失が軽減され、各送信素子11と各受信素子21との間で通信感度を向上することができる。
【0051】
次に、送信素子11x、11y及び受信素子21x、21yに注目して、その配置と通信に関して説明する。図10は、図8(B)と同様に、デバイス100のE−F層に対する垂直上方向、すなわち、−Z軸方向からデバイス100を眺めた図である。
【0052】
送信素子11x、11yは、ともにデバイス100の表面に対して平行に配設する。また、送信素子11x、11yは、その長手方向が互いに垂直となるように配設する。
【0053】
受信素子21x、21yは、ともにデバイス100の表面に対して平行に配設する。また、受信素子21x、21yは、それぞれ送信素子11x、11yに相対向する位置に配置されている。図10では、受信素子21x、21yがそれぞれ送信素子11x、11yに重なる位置に配置されているものとする。
【0054】
ここで、ループ型送信素子11z及びループ型受信素子21zが形成する磁界が共にデバイス同士が接する表面すなわち、XY平面に垂直である。そして、送信素子11x及び受信素子21xとの間では、これらの偏波面を共にXY平面上に相対向させて通信を行う。また、送信素子11yと受信素子21yとの間では、送信素子11xと直交する偏波面で共にXY平面に相対向させて通信を行う。
【0055】
以上のように、送信用アンテナ10及び受信用アンテナ20を、それぞれデバイス100及びデバイス200に内蔵させることによって、互いに独立した3つの偏波を用いて通信を行うことができる。
【0056】
なお、図9において、受信素子21x、21yがそれぞれ送信素子11x、11yに重なる位置に配置されているが、このような位置に限定されるものではない。具体的には、受信素子21x、21yのそれぞれの長手方向が、同一直線延長上を除く、送信素子11x、11yの長手方向に対して平行となる位置に配置されていればよい。例えば、受信素子21xがY軸方向に水平移動し、受信素子21yがZ軸方向に水平移動しても、それぞれの偏波面が相対向するので、3つの偏波が互いに独立して通信することができる。
【0057】
また、本実施例では、デバイス100に3つの送信素子11x、11y、11zが内蔵され、デバイス200に3つの送信素子21x、21y、21zが内蔵されており、デバイス100からデバイス200への片方向通信を行うような構成となっているが、このような構成に限られるものではない。具体的には、デバイス100が2つの送信素子及び1つの受信素子を備えるとともに、デバイス200が1つの送信素子及び2つの受信素子を備え、デバイス100とデバイス200との間で双方向通信を行うこともできる。
【0058】
続いて、本実施形態に係る無線通信システム1の用途をさらに明確にするために、具体的な情報機器等に用いた使用例について説明する。上述したように、3つの独立した偏波により通信を行うには、送信用アンテナ10と受信用アンテナ20とが離間した距離が数波長程度であることが条件となる。この点を考慮すると、例えば、デバイス100及びデバイス200を携帯型の情報機器に内蔵する場合には、これらのデバイス及び携帯端末機器の大きさに鑑みてアンテナ間の距離が数cm程度である必要がある。
【0059】
具体的に、アンテナ間の距離が20mm前後であって、この距離を4波長分とした場合には、約5mmの波長を用いることになる。そして、この波長に応じてアンテナ素子を設計する場合、例えば、ダイポールアンテナ素子を用いると、アンテナ素子の長手方向は波長の半分の長さ、本具体例の場合2.5mm程度となる。このような長さのアンテナ素子は、携帯端末機器等に内蔵することが十分に可能な大きさであるといえる。よって、上述した3つの独立した偏波を用いた無線通信システム1として最も適した用途の一つとして、携帯用機器等に用いられることが考えられる。
【0060】
以下では、偏波の波長を5mm程度、すなわち65GHzの通信周波数を用いて機器間で無線接続を行うことを想定した使用例を示す。なお、上述したように、デバイス100及びデバイス200間での通信は、片方向でもよいし、双方向であっても良い。
【0061】
まず、第1の使用例として、デバイス100がノートPC110(Personal Computer)に内設されており、デバイス200が携帯端末機器210に内設されているものとし、これらの機器間においてデバイス100とデバイス200との間で通信を行うものとする。
【0062】
一般的なノートPC110には、図11(A)に示すように、ディスプレイ112とキーボード113とマウスパット114とが備えられている。また、デバイス100は、ノートPC110において、ユーザがキーボード113をタイプする際にユーザの掌を載せることを主な目的として、マウスパット114の両脇に何も設けられていない表面の近傍に内設されているものとする。以下では、便宜上、通常ユーザの左の掌が載せられる表面を通信面116aとし、また、右の掌が載せられる表面を通信面116bと呼ぶことにする。
【0063】
ここで、上述したように、デバイス100とデバイス200との間で互いに独立した3つの偏波によって通信を行うには、デバイス100、200にそれぞれ内設されているアンテナ素子の位置を正確に合わせる必要がある。このような正確な位置合わせは、図9に示したように、デバイスの表面が係合するような凹凸形状を、通信面116及び携帯端末機器210に設けることによって、容易に実現することができる。しかしながら、通信面116には、従来から掌を載せるという主な機能を果たしているため、凹凸形状を形成することは望ましくない。したがって、通信面116が平面状であっても、正確なアンテナ素子の位置合わせを容易に行うことが望まれる。
【0064】
そこで、本使用例では、図11(B)に示すように、通信面116aに携帯端末機器210を置いたときに、デバイス100とデバイス200との間の通信状態をノートPC110が計測して、その結果をディスプレイ112に表示するものとする。本使用例では、ディスプレイ112に表示された結果に基づいて、ユーザが最適な位置合わせを行うものとする。このように、本使用例では、ディスプレイ112に表示された視覚情報に応じて、ユーザが容易にデバイス100とデバイス200との位置合わせを行うことができる。
【0065】
次に、第2の使用例として、図12(A)に示すように、デバイス100が携帯電話機、PDA等の携帯端末機器120に内設され、デバイス200が携帯端末機器120を保持するクレードル機器220に内設されるものについて説明する。
【0066】
まず、従来の携帯端末機器の底面部には、クレードル機器と電気的に接続するためのコネクタが設けられている。一方、クレードル機器には、携帯端末機器が装着可能な凹部が形成されている。凹部は携帯端末機器の底面部の外周に合わせた形状に形成されており、その底面部に携帯端末機器のコネクタと電気的に接続する凸形状のコネクタが設けられている。このように、従来の携帯端末機器とクレードル機器とでは、コネクタを抜き差しする構造が必要であり、コネクタの配設位置が制約される。
【0067】
これに対して、本使用例では、コネクタを用いて電気的に機器間を接続する代わりに、デバイス100とデバイス200との間で無線接続されるので、上述したコネクタの抜き差し動作を行う必要がなく、デバイス100及びデバイス200の配置位置の制約が緩和され、機器の形状を設計する際の自由度が高くなる。
【0068】
具体的に、図12(B)は、本使用例において、携帯端末機器120の姿勢が水平面に対して斜方向となるようにクレードル機器220に装着した際の、デバイス100及びデバイス200の間で無線接続を行う要部を示す断面図である。また、図12(C)は、携帯端末機器120の姿勢が略鉛直上方となるようにクレードル機器220に装着した際の、デバイス100及びデバイス200の間で無線接続を行う要部を示す断面図である。図12(B)及び図12(C)が示すように、デバイス100は、携帯端末機器120の背面部に配設することができる。一方、デバイス200は、クレードル機器220の側面部、すなわち、デバイス100に相対向する位置に配設することができる。
【0069】
さらに、従来の携帯無線機器とクレードル機器との接続で用いられるコネクタは、経年変化により接触面が劣化して通信の信頼性が低下する。これに対して、本使用例に係る携帯端末機器120及びクレードル機器220では、機器間での接続を行うアンテナ素子が内蔵され、上述したような接触不良等を考慮しなくても良いといった利点がある。
【0070】
ところで、携帯端末機器は、外力から保護や美観のため、その外周を覆うケースに入れられて使用される場合がある。このようなケースには、携帯端末機器がクレードル機器とコネクタを介して電気的に接続できるようにするため、コネクタの接続部に該当する位置に穴を空けておく必要があった。これに対して、本使用例に係る携帯端末機器110では、コネクタを用いて電気的に接続される代わりに、機器間で無線通信することができるので、上述したケースに穴を空ける必要がない。
【0071】
しかし、ケースの厚みにより、携帯端末機器120をクレードル機器220に装着したときに、デバイス100とデバイス200との位置がずれてしまい、これに伴って通信感度が大きく劣化してしまう虞がある。
【0072】
具体的には、図13(A)に示すように、ケース121の厚みによって、デバイス100とデバイス200との間で予め設定されている位置に合わせることができない。
【0073】
そこで、予めケース121の厚みに応じて、デバイス100及びデバイス200にそれぞれ内設されているアンテナ素子を傾けて配置する本使用例の変形例を以下に示す。
【0074】
図13(B)はケース121の厚みにより、携帯端末機器120及びクレードル機器220の装着位置が変化した場合の模式的な断面図である。図13(B)に示すY軸方向の変位は、クレードル機器220の底面部に対する携帯端末機器120の底面部の変位である。また、図13(B)に示すX軸方向の変位は、クレードル機器220の側面部に対する携帯端末機器120の背面部の変位である。
【0075】
ここで、例えば、ケース121の厚みが一様であれば、携帯端末機器120及びクレードル機器220の接地面において、図13(B)に示すX軸方向及びY軸方向の変位が等しいものとなる。したがって、このような場合には、デバイス100内の各アンテナ素子の姿勢をYZ平面に対する垂直方向を軸として45°下方向、すなわち、−Y軸方向に傾けるとともに、デバイス200内の各アンテナ素子の姿勢をYZ平面に対する垂直方向を軸として45°上方向すなわち、+Y軸方向に傾けることによって、デバイス100及びデバイス200との間がケース121により隔てられても、それぞれのアンテナ素子の偏波面を相対向させて通信を行うことができる。なお、この場合には、図13(C)に示すように、ケース121を用いない場合でも互いの偏波面を相対向するようにして通信を行うことができるので、ケース121の有無に応じて通信感度が大きく変化することなく使用することができる。
【0076】
なお、本発明は、上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】送信用アンテナ及び受信用アンテナの配置を模式的に示す斜視図である。
【図2】送信用アンテナ及び受信用アンテナの配置を模式的に示す斜視図である。
【図3】送信用アンテナ及び受信用アンテナの配置を模式的に示す斜視図である。
【図4】送信用アンテナ及び受信用アンテナの配置を模式的に示す斜視図である。
【図5】送信用アンテナ及び受信用アンテナの配置を模式的に示す斜視図(A)、及び、C−D層に対して垂直方向にデバイスの断面を示す断面図(B)である。
【図6】送信用アンテナ及び受信用アンテナの配置を模式的に示す断面図である。
【図7】干渉補正回路の構成と動作を示すブロック図である。
【図8】互いのデバイスの表面を接触させた場合の、送信用アンテナと受信用アンテナとの配置を示す断面図(A)、及び、デバイス表面に対する鉛直下方向から当該デバイス表面を見た正面図(B)である。
【図9】互いのデバイスの表面に凹凸形状を形成して互いに係合させた場合の、送信用アンテナと受信用アンテナとの配置を示す断面図である。
【図10】デバイス表面に対する鉛直下方向から当該デバイス表面を見た正面図である。
【図11】ノートPCの構成を示す斜視図(A)とノートPCと携帯端末機器との間で通信を行う使用例を示した斜視図(B)である。
【図12】携帯端末機器にクレードル機器を装着させた斜視図(A)と、携帯端末機器の背面部とクレードル機器の正面部との間での接触面に対して垂直な断面図(B)と、携帯端末機器の背面部とクレードル機器の正面部との間での接触面に対して垂直な断面図(C)である。
【図13】ケースに入れられた携帯端末機器の背面部とクレードル機器の正面部との間での接触面に対して垂直な断面図(A)と、断面図(A)の接触面を拡大した断面図(B)と、ケースにいられていない携帯端末機器の背面部とクレードル機器の正面部との間での接触面に対して垂直な断面を示した断面図(C)である。
【図14】従来のアンテナの配置位置を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0078】
1 無線通信システム、10 送信用アンテナ、11 送信素子、20 受信用アンテナ、21 受信素子、100、200 デバイス、110 ノートPC、120、210 携帯端末機器、220 クレードル機器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のアンテナと第2のアンテナとの間で無線通信を行う無線通信システムであって、
上記第1のアンテナは、3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成する複数のアンテナ素子からなり、
上記第2のアンテナは、3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成する複数のアンテナ素子からなり、
上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナは、上記第1のアンテナにおける各アンテナ素子が形成する偏波面が、上記第2のアンテナの各アンテナ素子が形成する偏波面に対して相対向する位置に配置され、互いに相対向する位置に偏波面を形成する各アンテナ素子との間で互いに独立して通信を行うことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
上記第1のアンテナ又は上記第2のアンテナにおける少なくとも一方のアンテナには、異なる軸方向の電波による干渉を補正する補正手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成する複数のアンテナ素子を有するアンテナを用いて無線通信を行う無線通信システムの通信方法であって、
第1のアンテナにおける各アンテナ素子が形成する偏波面が、第2のアンテナの各アンテナ素子が形成する偏波面に対して相対向する位置に、上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナを配置し、
上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナが、互いに相対向する位置に偏波面を形成する各アンテナ素子との間で互いに独立して通信を行うことを特徴とする無線通信システムの通信方法。
【請求項1】
第1のアンテナと第2のアンテナとの間で無線通信を行う無線通信システムであって、
上記第1のアンテナは、3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成する複数のアンテナ素子からなり、
上記第2のアンテナは、3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成する複数のアンテナ素子からなり、
上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナは、上記第1のアンテナにおける各アンテナ素子が形成する偏波面が、上記第2のアンテナの各アンテナ素子が形成する偏波面に対して相対向する位置に配置され、互いに相対向する位置に偏波面を形成する各アンテナ素子との間で互いに独立して通信を行うことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
上記第1のアンテナ又は上記第2のアンテナにおける少なくとも一方のアンテナには、異なる軸方向の電波による干渉を補正する補正手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
3軸方向に互いに直交する偏波面をそれぞれ形成する複数のアンテナ素子を有するアンテナを用いて無線通信を行う無線通信システムの通信方法であって、
第1のアンテナにおける各アンテナ素子が形成する偏波面が、第2のアンテナの各アンテナ素子が形成する偏波面に対して相対向する位置に、上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナを配置し、
上記第1のアンテナ及び上記第2のアンテナが、互いに相対向する位置に偏波面を形成する各アンテナ素子との間で互いに独立して通信を行うことを特徴とする無線通信システムの通信方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−306059(P2007−306059A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129511(P2006−129511)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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