説明

無線通信システム及び方法

【課題】タイムスロットの増加によるトータルの通信時間を増やすことなくスループットの向上を図る。
【解決手段】通信元の各無線通信デバイス2により、少なくとも通信先の無線通信デバイス2を指定した無線通信情報をコーディネータ3に通知し、コーディネータ3により、各無線通信デバイス2から通知されたそれぞれの無線通信情報に基づいて、通信元と通信先の無線通信デバイス2間で行われる各無線通信のうち、ネットワーク10内において互いに通信干渉が生じない2以上の無線通信を判別し、判別した2以上の無線通信が時間軸上で重複するようにタイムスロットを割り当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、WPAN(Wireless Personal Area Network)等に代表されるようにネットワーク内においてアドホックな時分割の無線通信を行う無線通信システム及び方法に関し、特にスループットの向上を図る上で好適な無線通信システム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年においてWPANの実用化に関する研究が進展している。このWPANは、通信距離10〜20mの近距離をカバーする無線ネットワークであり、PC(パーソナルコンピュータ)等を始めとした電子機器間でのアドホックな無線通信に用いられることが想定されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このようなWPANを始めとしたアドホック無線通信システムにおいて、特にGbpsレベルのスループットを実現するためには、先ず第1のパスロスを低減させることが重要である。60GHz帯域において、2mのパスロスは、約74dBの減衰につながるものとされている。これは、10dBmの信号伝送を行おうとした場合に、3mのパスロスが生じることを意味している。
【0004】
また60GHz帯域のアドホック無線通信システムにおいて、もう一つの大きな問題点は、通信障壁の存在である。無線通信における送信機と受信機の間を結ぶ直線距離(LOS Line of Sight)中に人間や静止物体が存在する場合、60GHz帯域の電波ではそれらが障害となって通過できない場合がある。仮にLOSパスがPCのディスプレイのような金属製の物体によって遮断されていた場合、約40dBm以上のパスロスが生じることが予測される。
【0005】
なお近年のビームフォーミング技術により、アンテナのゲインを増強させることが可能となったが、かかる信号の減衰の問題を解決するには至らなかった。また互いに位相を変えた2つの波の干渉を利用して信号波の連続的な変化を人工的に作り出すフェイズ・シフターも提案されているが、これを60GHz帯域において動作させた場合に4dBのロスを生み出すことにもなる。結局のところ、このようなフェイズ・シフターを用いても、ゲインを消費してしまうことに他ならない。
【0006】
また、ビームフォーミング技術は、隣接する他の無線通信デバイスに関する問題点を引き起こす場合がある。アンテナの種類によっては、無線通信デバイスから、通信先の無線通信デバイスの方向を識別するステップを踏むことが要求される場合があり、そのステップの存在が通信時間全体のロスを生み出すことにもなり、ひいてはスループットの減少にもつながる。特に隣接する他のデバイスの数が増加するにつれて、かかる通信時間全体のロスはより大きくなる。
【0007】
ちなみに、上述したLOSパス中に存在する障害物によるスループットの減少を防ぐために、例えば図5に示すようなリレータイプのアドホック無線通信システム7が提案されている。このリレータイプの通信方式は、安価でしかも簡易なシステムとすることができ、しかも広い範囲までの通信をもカバーできる点において有用である。このアドホック無線通信システム7では、ネットワーク70内において時分割でアドホックな無線通信する複数の無線通信デバイス71と、ネットワーク内で行われるアドホックな無線通信を時分割のタイムスロットに割り当てて制御するコーディネータ72とを備えている。
【0008】
この無線通信システム7は、例えば通信元の無線通信デバイス71aから通信先の無線通信デバイス71cに向けて無線通信を行う際に、LOSパス中に障害物がある場合、或いは、通信元の無線通信デバイス71aと通信先の無線通信デバイス71cとの距離が長い場合等に、途中で無線通信デバイス71bを中継させることによりリレー方式で無線通信を行う。即ち、無線通信デバイス71aから無線通信デバイス71bを介して通信先の無線通信デバイス71cへとデータを送信することとなる。これにより障害物を避けるようにしてデータを送信することが可能となり、或いは通信元と距離が離れている通信先へデータを送信することが可能となる。
【0009】
ところで、このようなリレー方式によるアドホック無線通信は、例えばIEEE802.16jや、第3世代(3G)携帯端末等において取り入れられている。しかしながら、このようなリレー方式によるアドホック無線通信は、ミリ波によるWPANの無線通信には直接的に適用されていない。その理由として、WPANは、いわゆる半二重通信方式を採用しており、同時に双方からデータを送信したり、受信したりすることができず、時間を区切って片方向からの送信しかできない通信方式であるためである。
【0010】
このためWPANでは、例えば無線通信デバイス71aから無線通信デバイス71bを介して通信先の無線通信デバイス71cへとデータを送信する場合において、図6に示すように、第1タイムスロットにおいて、無線通信デバイス71aから無線通信デバイス71bまでの通信経路dabの通信を割り当てる。そして、次の第2タイムスロットにおいて、無線通信デバイス71bから無線通信デバイス71cまでの通信経路dbcの通信を割り当てる。その結果、同一のデータサイズからなるデータを送信する際において、無線通信デバイス71aから無線通信デバイス71cまで直接的にデータを送る場合と比較して、このリレー方式では、2倍の通信時間が必要となり、単位時間当たりのスループットが半減してしまうことにもなる。
【0011】
また図7は、無線通信デバイス71aから無線通信デバイス71cへ直接的にデータを送信することと、他の無線通信デバイス71d、71eからそれぞれ無線通信デバイス71fへデータを送信することをほぼ同時期に行う例を示している。かかる場合において、時分割で無線通信を行うWPANでは、例えば図8(a)に示すように、第1のタイムスロットにおいて、無線通信デバイス71aから無線通信デバイス71cまでの通信経路dacの通信を割り当て、第2のタイムスロットにおいて無線通信デバイス71dから無線通信デバイス71fまでの通信経路ddfの通信を、更に第3のタイムスロットにおいて無線通信デバイス71eから無線通信デバイス71fまでの通信経路defの通信を割り当てることになる。
【0012】
しかしながら、従来のリレー方式をこのWPANに当てはめた場合、例えば、図7に示すように、無線通信デバイス71aから無線通信デバイス71bを介して通信先の無線通信デバイス71cへとデータを送信する場合には、図8(b)に示すように、第1のタイムスロットに通信経路dabの通信を割り当て、更に第4のタイムスロットを設けてここに通信経路dbcの通信を割り当てる必要がある。その結果、リレー方式を用いなかった場合におけるトータルの通信時間Tに対して、このリレー方式を用いた場合には、この第4のタイムスロットの増加分t´だけ通信時間が長くなる。これがスループット減少の要因にもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−323375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、WPAN等に代表されるようにネットワーク内においてアドホックな時分割の無線通信を行う無線通信システム及び方法において、特にタイムスロットの増加によるトータルの通信時間を増やすことなくスループットの向上を図ることが可能な無線通信システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る無線通信システムは、上述した課題を解決するために、ネットワーク内において時分割でアドホックな無線通信する複数の無線通信デバイスと、上記ネットワーク内で行われるアドホックな無線通信を時分割のタイムスロットに割り当てて制御するコーディネータとを有する無線通信システムにおいて、通信元の各無線通信デバイスは、少なくとも通信先の無線通信デバイスを指定した無線通信情報を上記コーディネータに通知し、上記コーディネータは、上記各無線通信デバイスから通知されたそれぞれの無線通信情報に基づいて、通信元と通信先の無線通信デバイス間で行われる各無線通信のうち、上記ネットワーク内において互いに通信干渉が生じない2以上の無線通信を判別し、判別した2以上の無線通信が時間軸上で重複するようにタイムスロットを割り当てることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る無線通信方法は、上述した課題を解決するために、ネットワーク内において時分割でアドホックな無線通信する複数の無線通信デバイスと、上記ネットワーク内で行われるアドホックな無線通信を時分割のタイムスロットに割り当てて制御するコーディネータとを有する無線通信システムによる無線通信方法において、通信元の各無線通信デバイスにより、少なくとも通信先の無線通信デバイスを指定した無線通信情報を上記コーディネータに通知し、上記コーディネータにより、上記各無線通信デバイスから通知されたそれぞれの無線通信情報に基づいて、通信元と通信先の無線通信デバイス間で行われる各無線通信のうち、上記ネットワーク内において互いに通信干渉が生じない2以上の無線通信を判別し、判別した2以上の無線通信が時間軸上で重複するようにタイムスロットを割り当てることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明を適用した無線通信システムによれば、通信元の各無線通信デバイスにより、少なくとも通信先の無線通信デバイスを指定した無線通信情報をコーディネータに通知し、コーディネータにより、各無線通信デバイスから通知されたそれぞれの無線通信情報に基づいて、通信元と通信先の無線通信デバイス間で行われる各無線通信のうち、ネットワーク内において互いに通信干渉が生じない2以上の無線通信を判別し、判別した2以上の無線通信が時間軸上で重複するようにタイムスロットを割り当てる。
【0018】
これにより、本発明は、WPAN等に代表されるようにネットワーク内においてアドホックな時分割の無線通信を行う際において、特にタイムスロットの増加によるトータルの通信時間を増やすことなく通信を行うことが可能となる。その結果、ネットワーク内において存在する無線通信デバイスの数が増加してもスループットの向上を図ることが可能となり、WPANを始めとしたアドホック無線通信システムにおいて、特にGbpsレベルのスループットを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用した無線通信システムの構成図である。
【図2】本発明を適用した無線通信システムにおいて伝送されるデータフレームの構成について説明するための図である。
【図3】本発明を適用した無線通信方法のフローチャートである。
【図4】本発明を適用した無線通信システムにおいて割り当てられたタイムスロットの例を示す図である。
【図5】リレータイプのアドホック無線通信システムを示す図である。
【図6】従来のアドホック無線通信システムにおいて割り当てられたタイムスロットの例を示す図である。
【図7】リレータイプのアドホック無線通信システムを示す他の図である。
【図8】従来のアドホック無線通信システムにおいて割り当てられたタイムスロットの例を示す他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明を適用した無線通信システム1の構成例を示している。この無線通信システム1は、複数の無線通信デバイス2と、ネットワーク10全体を制御するコーディネータ3とを備えている。この無線通信システム1は、例えばIEEE802.15.3cやIEEE802.11ad等の規格に基づくものであり、例えばWPAN(Wireless Personal Area Network)や、WLAN(Wireless Local Area Network)等の通信規格に基づいて無線通信を行う。なお無線通信システム1は、図1に示すようなスター型に限定されるものではなく、ツリー型やメッシュ型等いかなるネットワーク10形態を適用してもよい。
【0021】
無線通信デバイス2は、例えばパーソナルコンピュータ(ノートPC)や、携帯電話等を初めとした各種携帯情報端末等で構成される。無線通信デバイス2は、少なくともWPANやWLAN等の規格に基づき、ネットワーク10内において時分割でアドホックな無線通信を行う。この無線通信デバイス2は、通信元の無線通信デバイス2から通信先の無線通信デバイス2に向けて無線通信を行う際に、LOSパス中に障害物がある場合、或いは、通信元の無線通信デバイス2と通信先の無線通信デバイス2との距離が長い場合等に、途中で他の無線通信デバイス2を中継させることによりリレー方式で無線通信を行う。また、この無線通信デバイス2は、必要に応じてコーディネータ3との間で無線通信を行うことができ、更にはコーディネータ3を介して無線通信デバイス2との間で無線通信を行うことも可能となる。
【0022】
コーディネータ3も同様に上述した携帯情報端末と構成を同一とするものであってもよい。このコーディネータ3は、中央制御ユニットとしての役割を担う。そして、即ち、このコーディネータ3は、ネットワーク10内で行われるアドホックな無線通信を時分割のタイムスロットに割り当てて制御する。
【0023】
本発明を適用した無線通信システム1は、例えば図2に示すように、ビーコン21を使用したいわゆるスーパーフレーム構造を用いる。スーパーフレームは、ビーコン21の後にCAP(Contention Access Period)22と、CFP(Contention Free Period)23とを有している。2つのビーコン21間の時間は、スーパーフレームの周期に関係なく、所定数のスロットに分けられる。ちなみに、このスーパーフレーム構造において、CFP23を構成するスロット数は可変としており、CAP22を構成するスロット数は固定としている。CAP22は、全てのデバイス2がアクセス可能な期間であり、CFP23は、特定の無線通信デバイス2が専有してアクセス可能な期間である。
【0024】
次に、本発明を適用した無線通信システムの動作について説明をする。図3は、本発明を適用した無線通信システムによるアドホックな無線通信を実現する上でのフローチャートである。以下の説明においては、図1に示すように、無線通信デバイス2aから無線通信デバイス2cへ他の無線通信デバイス2bを介してデータを送信することと、他の無線通信デバイス2d、2eからそれぞれ無線通信デバイス2fへデータを送信することをほぼ同時に行う場合を例にとり説明をする。即ち、この例では、無線通信デバイス2aから無線通信デバイス2bにいたるまでの通信経路dab、無線通信デバイス2bから無線通信デバイス2cにいたるまでの通信経路dbc、無線通信デバイス2dから無線通信デバイス2fにいたるまでの通信経路ddf、無線通信デバイス2eから無線通信デバイス2fにいたるまでの通信経路defの4つの通信を時分割で行う。
【0025】
先ず、ステップS11において、通信元の無線通信デバイス2から通信開始要求をコーディネータ3へ送信する。ここで通信元の無線通信デバイス2とは、通信先の無線通信デバイス2へデータの送信を試みるデバイスであって、上述の例では、無線通信デバイス2a、無線通信デバイス2d、2eの3つである。これら無線通信デバイス2a、2d、2eからコーディネータ3へ通信開始要求を送信する。
【0026】
次にステップS12へ移行し、コーディネータ3は、係る通信開始要求を受けて、時分割でアドホック通信を行うための当初タイムスロットを設定する。この当初タイムスロットは、無線通信デバイス2毎に設定するものであり、特に各通信経路(dab、dbc、ddf、def)のそれぞれの無線通信間において何ら調整がなされたものでない。即ち、コーディネータ3は、無線通信デバイス2毎に専用のこの当初タイムスロットを単に設定すればよく、それらが時間的に重複したものであってもよい。
【0027】
次にステップS13へ移行し、コーディネータ3は各無線通信デバイス2に対して、それぞれに対して設定した当初タイムスロットを通知する。
【0028】
次にステップS14に移行した段階において、各無線通信デバイス2は、コーディネータ3からそれぞれの当初タイムスロットを受信した状態となっている。この状態で各無線通信デバイス2は、それぞれ通知された当初タイムスロットに基づいてネットワーク10内の不特定の他の無線通信デバイス2に対して電波を送信する。即ち、このステップS14において、各無線通信デバイス2は、独自に設定された当初タイムスロットにそって電波を試験的にブロードキャスティングする。
【0029】
次にステップS15へ移行し、無線通信デバイス2は、無線通信情報を作成する。この無線通信情報の作成は、主として他の無線通信デバイス2から送られてくる電波に基づいて作成する。即ち、ステップS14において一の無線通信デバイス2から電波をブロードキャスティングすると同時に、他の無線通信デバイス2も同様に電波をブロードキャスティングすることから、一の無線通信デバイス2には、他の無線通信デバイス2からの電波が送られてくる。各無線通信デバイス2は、他の無線通信デバイス2から送信されてくる電波を受信し、これを作成する無線通信情報に含める。また、通信元の無線通信デバイス2は、この無線通信情報に、通信先の無線通信デバイス2を指定する。無線通信情報の作成を終了後、ステップS16へ移行する。
【0030】
ステップS16に移行した場合、無線通信デバイス2は、作成した無線通信情報をコーディネータ3へ送信する。
【0031】
次にステップS17へ移行し、コーディネータ3は、各無線通信デバイス2から受信した無線通信情報を読み取り、タイムスロットの作成を行う。先ずコーディネータ3は、各無線通信デバイス2から受信した無線通信情報から、通信元の無線通信デバイス2がデータを送信しようとする通信先の無線通信デバイス2を識別することが可能となる。その結果、コーディネータ3は、これから各通信経路(dab、dbc、ddf、def)においてそれぞれ無線通信が行われようとしていることを識別することが可能となる。
【0032】
次に、このコーディネータ3は、各通信経路(dab、dbc、ddf、def)における無線通信のうち、ネットワーク10内において互いに通信干渉が生じない2以上の無線通信を判別する。この通信干渉が生じるか否かの判別は、いかなる方法で行うようにしてもよく、例えば無線通信情報に含めた各無線通信デバイス2の位置情報等から判断するようにしてもよい。
【0033】
なお、ステップS17において、コーディネータ3は、無線通信情報に基づいて、通信元と通信先の無線通信デバイス2間における電波強度と、通信先以外の無線通信デバイス2から通信元の無線通信デバイス2への電波強度とを比較することにより、通信干渉が生じるか否かの判別を行うようにしてもよい。例えば、通信元の無線通信デバイス2aと通信先の無線通信デバイス2bとの間で通信を行う上で、他の無線通信端末2c〜2fからの電波は通信干渉となる。このため、通信元の無線通信デバイス2aと通信先の無線通信デバイス2bとの間における電波強度に対する、他の無線通信端末2c〜2fからの電波とを比較し、その比率が予め設定した閾値以上又は未満の場合に通信干渉が生じるか否かを判別するようにしてもよい。
【0034】
その結果、例えば通信経路dbcの無線通信、通信経路ddfの無線通信は、互いに同時に行っても通信干渉が生じないものと判断したものとする。かかる場合には、例えば図4に示すように、互いに通信干渉が生じない通信経路dbcの無線通信、通信経路ddfの無線通信が時間軸上で重複するようにタイムスロットを割り当てる。即ち、この図4の例では、通信経路dbcの無線通信、通信経路ddfの無線通信は、互いに同時に行っても通信干渉が生じないが、通信経路dabの無線通信や、通信経路defの無線通信は、他の無線通信と通信干渉が生じる点を判別したものである。このため、第1のタイムスロットに、通信経路dabの無線通信を割り当て、第2のタイムスロットに、通信経路dbcの無線通信、通信経路ddfの無線通信を時間軸上で重複させ、第3のタイムスロットに、通信経路defの無線通信を割り当てる。
【0035】
次にステップS18へ移行し、コーディネータ3は、これら割り当てた時分割のタイムスロットを各無線通信デバイス2へ通知し、これらの通信を制御する。
【0036】
通信元の各無線通信デバイス2a、2d、2b、2eは、それぞれ通知されたタイムスロットに基づいて、通信先の無線通信デバイス2にデータを送信する。
【0037】
このように、本発明を適用した無線通信システム1によれば、通信元の各無線通信デバイスにより、少なくとも通信先の無線通信デバイスを指定した無線通信情報をコーディネータ3に通知し、コーディネータ3により、各無線通信デバイス2から通知されたそれぞれの無線通信情報に基づいて、通信元と通信先の無線通信デバイス2間で行われる各無線通信のうち、ネットワーク10内において互いに通信干渉が生じない2以上の無線通信を判別し、判別した2以上の無線通信が時間軸上で重複するようにタイムスロットを割り当てる。
【0038】
これにより、本発明は、WPAN等に代表されるようにネットワーク10内においてアドホックな時分割の無線通信を行う際において、特にタイムスロットの増加によるトータルの通信時間を増やすことなく通信を行うことが可能となる。その結果、ネットワーク10内において存在する無線通信デバイス2の数が増加してもスループットの向上を図ることが可能となり、WPANを始めとしたアドホック無線通信システムにおいて、特にGbpsレベルのスループットを実現することが可能となる。
【0039】
なお、本発明は、少なくともネットワーク10内において互いに通信干渉が生じない2以上の無線通信を判別すればよく、通信干渉が生じる2以上の無線通信の判別ステップを省略するようにしてもよい。
【0040】
また、上述したステップS17において、コーディネータ3は、通信元と通信先の無線通信デバイス2間における電波強度と、通信先以外の無線通信デバイス2から通信元の無線通信デバイスへの電波強度とを比較することにより、通信干渉が生じるか否かの判別を行うようにしてもよい。例えば、通信元の無線通信デバイス2aの場合、その通信先である無線通信デバイス2bとの間における電波強度と、通信先以外の無線通信デバイス2c〜2fとの間における電波強度とを比較することにより実行するようにしてもよい。かかる場合において、例えば下記式(1)に示すように、通信元と通信先の無線通信デバイス2間における電波強度をS、通信先以外の無線通信デバイス2から通信元の無線通信デバイスへの電波強度をI、ノイズをNとしたとき、S/(I+N)が、予め設定した閾値を超えるか否かに基づいて判別するようにしてもよい。
【実施例1】
【0041】
以下、本発明を適用した無線通信システム1の実施例について詳細に説明をする。
【0042】
ここで通信元の無線通信デバイス2sから通信先の無線通信デバイス2zまでのデータレートをRtis,zと定義する。各データストリームにおける効果的なスループットRは、(1)式のように現される。
【0043】
R=Rtis,z×t/T・・・・・・・・・・・・・(1)
【0044】
この(1)式は、図8(a)に示す例に対応するものである。ここでTは、タイムフレームの長さである。また、tは各タイムスロットの長さであり、3データストリームの場合、1≦i≦3で表される。また、Tは下記の(2)式で表される。
【0045】
T=ΣKi=1 +Tbeacon+Tcap・・・・・・・・・・・(2)
【0046】
ここでKはCTA(Channel Time Allocation)によってサポートされる数であり、この例ではKは3である。ここで、各データストリームは分割されたCTAを使用するため、スループットの減少を誘発するようなチャネル間の通信干渉が無いものと仮定する。また、このTbeaconは、ビーコン21の時間を、更にTcapは、CAP22の時間である。
【0047】
図8(b)の例は、新たに割り当てられた第4のタイムスロットにおいて、通信経路dbcが割り当てられることになるが、スループットREは、下記(3)式によって説明することができる。
【0048】
E=Rtis,r×t/(T+t’)・・・・・・・・・・(3)
【0049】
ここで、通信元の無線通信デバイス2sから中継点の無線通信デバイス2rまでを第1ホップ、中継点の無線通信デバイス2rから通信先の無線通信デバイス2zまでを第2ホップという。Rtis,rは、この第1ホップにおけるデータレートである。
【0050】
また、第1ホップにおけるデータ伝送期間は、第2ホップのデータ伝送期間と同一となるように調整される。tは、第1ホップが割り当てられるタイムスロットの時間である。
【0051】
tis,r×t=Rti'r,z×t’・・・・・・・・・・・(4)
【0052】
ここでRti'r,zは、第2ホップのデータレートである。t’は、第2ホップが割り当てられるタイムスロットの時間である。
【0053】
これに対して本発明では、図4に示すようなタイムスロットの割り当てで構成される。第2ホップにおいて新たにタイムスロットを割り当てる代わりに、互いに通信干渉の生じない通信経路の無線通信を同一のタイムスロットにおいて重複して割り当てる。本発明のスループットREは、下記(5)式で表すことが可能となる。
【0054】
E=1/T・min[Rtis,r・t・Kti、Rti'r,z・t’・Kti’}・・・・・(5)
【0055】
ここで、KtiとKti’は、スループットロス要因である。第1ホップにおいて送信を意図していない他の無線通信デバイス2に対してデータを送信してしまう場合等がこれに含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1 無線通信システム
2 無線通信デバイス
10 ネットワーク
3 コーディネータ
21 ビーコン
22 CAP
23 CFP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワーク内において時分割でアドホックな無線通信する複数の無線通信デバイスと、上記ネットワーク内で行われるアドホックな無線通信を時分割のタイムスロットに割り当てて制御するコーディネータとを有する無線通信システムにおいて、
通信元の各無線通信デバイスは、少なくとも通信先の無線通信デバイスを指定した無線通信情報を上記コーディネータに通知し、
上記コーディネータは、上記各無線通信デバイスから通知されたそれぞれの無線通信情報に基づいて、通信元と通信先の無線通信デバイス間で行われる各無線通信のうち、上記ネットワーク内において互いに通信干渉が生じない2以上の無線通信を判別し、判別した2以上の無線通信が時間軸上で重複するようにタイムスロットを割り当てること
を特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
上記コーディネータは、更に上記ネットワーク内において互いに通信干渉が生じる2以上の無線通信を判別し、判別した2以上の無線通信を時間軸上で異ならせたタイムスロットにそれぞれ割り当てること
を特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
上記コーディネータは、通信元の各無線通信デバイスから通信開始要求を受けて、上記通信元の無線通信デバイス毎に当初タイムスロットを設定し、設定した当初タイムスロットを各無線通信デバイスに通知し、
上記各無線通信デバイスは、それぞれ通知された当初タイムスロットに基づいて上記ネットワーク内の不特定の無線通信デバイスに対して電波を送信するとともに、他の無線通信デバイスから送信される電波を受信し、受信した電波に基づいて上記無線通信情報を作成すること
を特徴とする請求項1又は2記載の無線通信システム。
【請求項4】
上記コーディネータは、上記無線通信情報に基づいて、通信元と通信先の無線通信デバイス間における電波強度と、通信先以外の無線通信デバイスから通信元の無線通信デバイスへの電波強度とを比較することにより、通信干渉が生じるか否かの判別を行うこと
を特徴とする請求項3記載の無線通信システム。
【請求項5】
ネットワーク内において時分割でアドホックな無線通信する複数の無線通信デバイスと、上記ネットワーク内で行われるアドホックな無線通信を時分割のタイムスロットに割り当てて制御するコーディネータとを有する無線通信システムによる無線通信方法において、
通信元の各無線通信デバイスにより、少なくとも通信先の無線通信デバイスを指定した無線通信情報を上記コーディネータに通知し、
上記コーディネータにより、上記各無線通信デバイスから通知されたそれぞれの無線通信情報に基づいて、通信元と通信先の無線通信デバイス間で行われる各無線通信のうち、上記ネットワーク内において互いに通信干渉が生じない2以上の無線通信を判別し、判別した2以上の無線通信が時間軸上で重複するようにタイムスロットを割り当てること
を特徴とする無線通信方法。
【請求項6】
上記コーディネータにより、更に上記ネットワーク内において互いに通信干渉が生じる2以上の無線通信を判別し、判別した2以上の無線通信を時間軸上で異ならせたタイムスロットにそれぞれ割り当てること
を特徴とする請求項5記載の無線通信方法。
【請求項7】
上記コーディネータにより、通信元の各無線通信デバイスから通信開始要求を受けて、上記通信元の無線通信デバイス毎に当初タイムスロットを設定し、設定した当初タイムスロットを各無線通信デバイスに通知し、
上記各無線通信デバイスにより、それぞれ通知された当初タイムスロットに基づいて上記ネットワーク内の不特定の無線通信デバイスに対して電波を送信するとともに、他の無線通信デバイスから送信される電波を受信し、受信した電波に基づいて上記無線通信情報を作成すること
を特徴とする請求項5又は6記載の無線通信方法。
【請求項8】
上記コーディネータにより、上記無線通信情報に基づいて、通信元と通信先の無線通信デバイス間における電波強度と、通信先以外の無線通信デバイスから通信元の無線通信デバイスへの電波強度とを比較することにより、通信干渉が生じるか否かの判別を行うこと
を特徴とする請求項7記載の無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−120039(P2012−120039A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269590(P2010−269590)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)総務省委託「電波資源拡大のための研究開発」の一環、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】