説明

無線通信システム及び無線通信方法

【課題】マルチホップのネットワークにおいて衝突することなくビーコン信号を送信すること。
【解決手段】上位層から送信されたビーコン信号に基づいて休止期間の開始タイミング及び終了タイミングを判定し、下位層に配置された通信装置が活性状態になる活性期間を休止期間内に設定し、休止期間以外の期間を、下位層に配置された通信装置が不活性状態になる不活性期間として設定し、この設定内容を下位層に配置された通信装置に通知するためのビーコン信号を生成し、休止期間内であって下位層の活性期間とは異なる期間にビーコン信号を送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチホップの無線通信システムにおいて、制御信号の衝突を回避するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、センサネットワーク等での活用、普及が期待されるシステムとして、ZigBee(登録商標)ネットワークがある(非特許文献1)。ZigBee(登録商標)ネットワークとしては、二つのトポロジが利用できる。一のトポロジは、スター型のトポロジであり、コーディネータと呼ばれる通信装置(ノード)を中心として、その周辺にエンドデバイスと呼ばれるノードが配置される。スター型のトポロジは、1ホップのみのシンプルなネットワークである。他のトポロジは、ツリー型のトポロジであり、コーディネータと呼ばれるノードを頂点(ルート)として、中継機能を有するルータと呼ばれるノードと、中継機能を有さないエンドデバイスと呼ばれるノードとが配置される。中継機能とは、ルーティングテーブルを備えて、これに基づいてデータの転送を行う機能である。ツリー型のトポロジは、マルチホップのネットワークを構成しうる。
【0003】
ZigBee(登録商標)ネットワークでは、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)方式が採用されている。CSMA/CAでは、ノードは、送信前にキャリアセンス(Carrier Sense)を行う。そして、ノードは、信号が無線チャネルに送出されていないことを確認してから送信する。そのため、ノードは、自らが信号を送信していないときでも、他ノードからの信号を受信するために待機している必要がある。そのため、消費電力が大きいという問題がある。
【0004】
このような問題に対して、Zigbee(登録商標)ネットワークでは、スーパーフレームを用いたビーコンモードが用意されている。ビーコンモードでは、ビーコン信号が送信されてから次のビーコン信号が送信されるまでの時間が、活性期間(active期間)と不活性期間(inactive期間)とに分割される。コーディネータは、活性期間と不活性期間とを表す情報をビーコン信号に含めて送信する。なお、ビーコン信号はキャリアセンスを行わず一定周期で強制的に送信される。活性期間では、ビーコン信号や、ビーコン信号以外の信号(データ信号)の送受信が行われる一方、不活性期間ではビーコン信号及びデータ信号の送受信が行われない。したがって、不活性期間ではノードは他ノードの送信状況を把握する必要が無く、消費電力を低減できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“IEEE Std 802.15.4”、[online]、[平成22年11月25日検索]、インターネット<URL: http://www.ieee802.org/15/pub/TG4.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ビーコンモードはスター型ネットワークへの適用のみを考慮して規定されていた。そのため、ツリー型ネットワークに代表されるマルチホップネットワークへそのまま適用すると不具合が生じてしまう。例えば、マルチホップネットワークでは全てのノードに対してビーコン信号を送信する必要がある。そのため、ルータはビーコン信号を送信する。このとき、コーディネータが送信したビーコン信号と、ルータが送信したビーコン信号とが衝突してしまうことがある。また、ビーコン信号同士が衝突しない場合であっても、活性期間に他のコーディネータ又はルータからビーコン信号が送信されてしまうと、活性期間中に送信されたデータ信号と該ビーコン信号とが衝突してしまうことがある。したがって、全てのノードにビーコン信号を正常に受信させることが困難となる。ビーコン信号は、データ信号とは異なり、キャリアセンスを行わずに周期的に自動送信されるために上記のような問題が生じてしまう。ビーコン信号は、スーパーフレームを構成するための制御情報を含むため、これが衝突により失われると、ネットワークが破綻してしまう。結果として、マルチホップのネットワークではビーコンモードが利用できないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明ではかかる問題を鑑みて、マルチホップのネットワークにおいて、信号の衝突を生じさせることなく、制御信号を含むビーコン信号を送信するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、複数の階層により構成され、各階層に配置された通信装置を備える無線通信システムであって、第n(nは整数)層に配置された通信装置が、第n層よりも一つ下位の層である第n+1層に配置された通信装置が無線通信を行う活性状態になるn+1用活性期間と、前記n+1層に配置された通信装置が前記活性状態よりも消費電力が小さい不活性状態になるn+1用不活性期間と、を所定のビーコン周期内に設定し、前記第n+1層に配置された通信装置と自装置とが無線通信を休止するn+1用休止期間を前記n+1用活性期間内に設定するタイミング制御部と、前記タイミング制御部における設定内容を前記第n+1層に配置された通信装置に通知するためのn+1用ビーコン信号を生成するビーコン生成部と、前記所定のビーコン周期にしたがって、前記n+1用ビーコン信号を送信する送信処理部と、を備え、前記第n+1層に配置された通信装置が、前記第n層から送信されたn+1用ビーコンを受信する受信処理部と、前記第n層から送信されたn+1用ビーコンに基づいて前記n+1用休止期間の開始タイミング及び終了タイミングを判定し、第n+1層よりも一つ下位の層である第n+2層に配置された通信装置が前記活性状態になるn+2用活性期間を前記n+1用休止期間内に設定し、前記n+1用休止期間以外の期間を、前記n+2層に配置された通信装置が前記不活性状態になるn+2用不活性期間として設定するタイミング制御部と、前記タイミング制御部における設定内容を前記第n+2層に配置された通信装置に通知するためのn+2用ビーコン信号を生成するビーコン生成部と、前記n+1用休止期間内であって前記n+2用活性期間とは異なる期間に前記n+2用ビーコン信号を送信する送信処理部と、を備える。
【0009】
本発明の一態様は、複数の階層により構成され、各階層に配置された通信装置を備える無線通信システムが行う無線通信方法であって、第n(nは整数)層に配置された通信装置が、第n層よりも一つ下位の層である第n+1層に配置された通信装置が無線通信を行う活性状態になるn+1用活性期間と、前記n+1層に配置された通信装置が前記活性状態よりも消費電力が小さい不活性状態になるn+1用不活性期間と、を所定のビーコン周期内に設定し、前記第n+1層に配置された通信装置と自装置とが無線通信を休止するn+1用休止期間を前記n+1用活性期間内に設定するタイミング制御ステップと、前記タイミング制御ステップにおける設定内容を前記第n+1層に配置された通信装置に通知するためのn+1用ビーコン信号を生成するビーコン生成ステップと、前記所定のビーコン周期にしたがって、前記n+1用ビーコン信号を送信する送信処理ステップと、前記第n+1層に配置された通信装置が、前記第n層から送信されたn+1用ビーコンを受信する受信処理ステップと、前記第n層から送信されたn+1用ビーコンに基づいて前記n+1用休止期間の開始タイミング及び終了タイミングを判定し、第n+1層よりも一つ下位の層である第n+2層に配置された通信装置が前記活性状態になるn+2用活性期間を前記n+1用休止期間内に設定し、前記n+1用休止期間以外の期間を、前記n+2層に配置された通信装置が前記不活性状態になるn+2用不活性期間として設定するタイミング制御ステップと、前記タイミング制御部における設定内容を前記第n+2層に配置された通信装置に通知するためのn+2用ビーコン信号を生成するビーコン生成ステップと、前記n+1用休止期間内であって前記n+2用活性期間とは異なる期間に前記n+2用ビーコン信号を送信する送信処理ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、マルチホップのネットワークにおいて、信号の衝突を生じさせることなく、制御信号を含むビーコン信号を送信することが可能となる。また本発明は高QoSを必要とするノードに付与するGTS割当てに影響を与えずに運用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】無線通信システム100のシステム構成を表すシステム構成図である。
【図2】無線通信システム100で用いられるスーパーフレームの構成例を表す図である。
【図3】無線通信システム100の通信装置同士の無線通信処理の動作原理を表す図である。
【図4】ZigBee(登録商標)のBLEの原理を表す図である。
【図5】BLEによるスーパーフレームの変化の具体例を表す図である。
【図6】コーディネータ10の構成を表す機能ブロック図である。
【図7】無線通信システム100において設定されるスーパーフレームの具体例を表す図である。
【図8】休止期間のスロット数が2の冪乗である場合のスーパーフレームの具体例を表す図である。
【図9】休止期間のスロット数が2の冪乗でない場合のスーパーフレームの具体例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
無線通信システム100では、周期的にビーコン(Beacon)信号が送信され、ビーコン信号が送信されてから次のビーコン信号が送信されるまでの期間が活性期間と不活性期間とに割り振られる。活性期間とは、無線通信システム100の通信装置が通信可能な状態(以下、「活性状態」という。)となっている期間である。不活性期間とは、無線通信システム100の通信装置が通信を行わない状態(以下、「不活性状態」という。)となっている期間である。不活性状態にある通信装置は、活性状態にある通信装置に比べて消費する電力が低い。また、活性期間の中に、休止期間が設けられる。休止期間とは、無線通信システム100が通信を休止した状態(以下、「休止状態」という。)となっている期間である。休止状態は、不活性状態と同じ状態であっても良いし、不活性状態と異なる状態であっても良い。
【0013】
無線通信システム100は、複数の階層から構成されたネットワークを備える。上位の階層に配置された通信装置における活性期間に設けられた休止期間に、下位の階層に配置された通信装置がビーコン信号を送信し、自装置に関する活性期間を設定する。このようなネットワークは、例えば、ZigBee(登録商標)ネットワークを用いて構成される。その場合、上記の活性期間及び不活性期間はスーパーフレーム構造を用いて構成される。また、上記の休止期間はBLE(Battery Life Extension)モードを適用することによって設定される。以下の説明では、無線通信システム100がZigBee(登録商標)ネットワークを用いて構成された場合について説明する。
【0014】
図1は、無線通信システム100のシステム構成を表すシステム構成図である。無線通信システム100は、複数台の通信装置を備え、マルチホップネットワークとして構成される。無線通信システム100に備えられる通信装置には、コーディネータ10、ルータ20、エンドデバイス30の三種類がある。
コーディネータ10は、無線通信システム100のネットワークを制御する通信装置であり、最上位(第0階層)に配置される。コーディネータ10の直下の階層(第1階層)には、エンドデバイス30は複数台接続されても良いが、ルータ20は最大で1台だけ接続される。コーディネータ10は、ビーコン周期に応じてビーコン信号を生成し、直下の階層(第1階層)に配置された通信装置にビーコン信号を送信する。
【0015】
ルータ20は、中継機能を有する通信装置である。ルータ20は、最上位(第0階層)及び最下位(第3階層)以外の階層に配置され、コーディネータ10又はルータ20の直下の階層に接続される。また、ルータ20の直下の階層には、ルータ20又はエンドデバイス30が接続される。ただし、ルータ20の直下の階層には、エンドデバイス30は複数台接続されても良いが、ルータ20は最大で1台だけ接続される。
エンドデバイス30は、中継機能を有していない通信装置である。そのため、エンドデバイス30の直下の階層には、通信装置は接続されない。
【0016】
無線通信システム100では、各通信装置は、自装置よりも一つ上の階層又は一つ下の階層に配置された通信装置であって自装置に通信可能に接続された通信装置と、無線で信号の送受信を行う。すなわち、通信装置は、二つ以上の階層を越えて配置された通信装置との間で、直接的に無線で信号の送受信を行うことはない。また、通信装置は、自装置と同じ階層の通信装置との間で、直接的に無線で信号の送受信を行うこともない。通信装置は、二つ以上の階層を越えて配置された通信装置や、自装置と同じ階層に配置された通信装置へ信号を送信する場合には、その間に位置するコーディネータ10又はルータ20を介して信号を送信する。
【0017】
図1に示されるネットワークの具体例について説明する。図1のネットワークは、ツリー型ネットワークであり、第0階層〜第3階層の4つの階層から構成されている。コーディネータ10の一つ下の階層(第1階層)には、ルータ20−1と、エンドデバイス30−1及びエンドデバイス30−2が配置される。第1階層の一つ下の階層(第2階層)には、ルータ20−2、エンドデバイス30−3、が配置される。ルータ20−2及びエンドデバイス30−3はいずれもルータ20−1に接続される。第2階層の一つ下の階層(第3階層)には、エンドデバイス30−4〜30−7が配置される。エンドデバイス30−4〜30−7はルータ20−2に接続される。この場合、例えばエンドデバイス30−4がコーディネータ10へ信号を送信する場合には、エンドデバイス30−4からコーディネータ10までの間に存在するルータ20−2及びルータ20−1によって信号が中継される。なお、図1は無線通信システム100のネットワークの一例にすぎず、このような構成に限定されない。例えば、無線通信システム100の階層数は4に限定されず、4よりも少なくても良いし、4よりも多くても良い。また、コーディネータ10に接続されるエンドデバイス30の台数も2に限定されず、2よりも少なくても良いし、2よりも多くても良い。また、ルータ20−1及びルータ20−2に接続されるエンドデバイス30の台数も、それぞれ1及び4に限定されない。
【0018】
図2は、無線通信システム100で用いられるスーパーフレームの構成例を表す図である。図2において、横軸は時間を表し、右へいくほど時間が進んでいる。図2Aは、スーパーフレーム構造の全体を表す図である。図2Bは、一つのビーコン周期の構成を表す図である。図2Cは、ビーコン信号の送信期間及び活性期間の構成を表す図である。
図2A及び図2Bに図示されるように、ビーコン信号が送信される期間は周期的に設定されており、ビーコン信号が送信されてから次のビーコン信号が送信されるまでの期間が、活性期間と不活性期間とに分けられる。順番は、ビーコン信号が送信された直後に活性期間が設定され、活性期間の直後に不活性期間が設定される。不活性期間の直後に次のビーコン信号が送信される。
【0019】
図2Cに図示されるように、ビーコン信号を送信する期間と活性期間とを足した期間(スーパーフレーム)は、16等分の長さのスロット(slot)に分割される。また、活性期間は、CAP(Contention Access Period)期間とCFP(Contention Free Period)期間に割り振られる。CFP期間は一つ以上のGTS(Guaranteed Time Slot)期間により構成される。一つのGTSは、特定の通信装置に対して割り当てられる。GTSを割り当てられた通信装置は、このGTSにおいてはキャリアセンスをすることなく排他的に信号を送信することができる。なお、一つのCFP期間に対して設定できるGTSの最大数は7である。また、それぞれのGTSを構成するスロットの数は、15を最大値として任意に設定可能である。
ビーコンには、制御情報が含まれる。制御情報は、ビーコンを送信する通信装置のネットワークアドレス、ビーコン周期、スーパーフレーム長、CAP期間の情報、CFP期間の情報、BLE(Battery Life Extension)のオン/オフ情報を含む。
【0020】
図3は、無線通信システム100の通信装置同士の無線通信処理の動作原理を表す図である。図3では、CAP期間及びCFP期間における無線通信の仕組みの理解を容易とするため、休止期間が設定されていない場合(すなわち、BLEがオフになっている場合)の動作原理を表す。図3に示されるネットワークは、第n階層(nは整数)に配置される通信装置(親ノード)と、第n階層よりも一つ下位の階層である第n+1階層に配置される三台の通信装置(子ノード1、子ノード2、子ノード3)により構成される。図3に示されるネットワークの構成は、例えば図1における第0階層及び第1階層の構成に該当する。
【0021】
まず親ノードがビーコン信号を送信する。親ノードが送信したビーコン信号は、第n+1階層に配置された各子ノード(子ノード1〜3)によって受信される。各子ノードは、ビーコン信号の受信によって、活性期間の長さ、CAP期間の長さ、各GTSの長さ、自装置に割り当てられたGTSの開始タイミング及び終了タイミング等の情報を取得する。
【0022】
ビーコン信号に続いてCAP期間が開始する。図3の場合、CAP期間は9スロット分継続する。CAP期間は、親ノード及び各子ノードは、Slotted CSMA/CAのアクセス方式により信号を送信する。図3では、まず、子ノード1が送信を行う。続いて、子ノード3、親ノード、子ノード3、子ノード2、子ノード1、親ノード、子ノード2、親ノードの順に送信を行う。CAP期間が終了すると、CFP期間が開始する。CFP期間を構成するGTSは、各子ノードに対して排他的に割り当てられている。図3の場合では、1番目、2番目、7番目のGTSは子ノード1に割り当てられ、3番目、4番目のGTSは子ノード2に割り当てられ、5番目、6番目のGTSは子ノード3に割り当てられている。各子ノードは、自装置に割り当てられたGTSに親ノードと通信を行っている。上記のように1ノードに対しCAP期間とCFP期間の2期間でのアクセスが許容され、CFP期間はプリアサイン型の多元接続となっているため、より高いQoS(Quality of Service)の提供が可能となる。ただしCFP期間は必須ではない。CFP期間が終了すると、不活性期間が開始する。不活性期間が終了すると、次のビーコン信号が送信される。
【0023】
図4は、ZigBee(登録商標)のBLEの原理を表す図である。BLEでは、ビーコン信号の送信期間の後に設定されるCAP期間が2スロット分と定められている。そのため、BLEがオンになると、スーパーフレーム長に応じて、休止期間の開始タイミングが一意に決定する。以下、BLEに関してさらに詳細に説明する。BLEではビーコン信号が送信された後のIFS(Inter Frame Spacing)期間後、120シンボルの変調シンボルに渡るキャリアセンス期間が設けられる。このキャリアセンス期間にCSMA/CAに基づき通信を開始できた通信装置は、通信を開始したスロットの期間内に通信を終える必要がある。ただし、キャリアセンスはビーコン送信時点から20シンボル毎に設けられるバックオフ周期のタイミングで実施しなくてはならない。そして、次のスロットから休止期間が開始する。CFP期間が設定されている場合には、休止期間はCFP期間が開始する直前のスロットまで続く。一方、CFP期間が設定されていない場合には、休止期間は不活性期間が開始する直前のスロットまで続く。従って、BLEがオンに設定されたビーコン信号を受信した通信装置は、ビーコンを受信した時点からビーコン長(最小36シンボル可変長)+IFS長(12または40シンボル)+120シンボル点が存在するスロットの次のスロットを、BLEにより設定された休止期間が開始するスロットであると判定する。
【0024】
ここで、ZigBeeの規格では、スーパーフレーム長SDは、BSD(基本となるスーパーフレーム長)に対して2の冪乗倍となると定められている。このことを式に表すと、以下の式1のようになる。
【0025】
【数1】

【0026】
式1において、SOはスーパーフレームオーダであり、整数の値をとる。SOは、実質的にスーパーフレーム長SDを規定するための変数であり、ビーコン信号によって下位の階層に配置された通信装置へ通知される。上述したように、スーパーフレームは16のスロットで構成される。また、第n+1階層のスーパーフレームは、第n階層のスーパーフレームの休止期間に包含される。以上のことから、第n+1階層のスーパーフレーム長SD’は、第n階層のスーパーフレームの休止期間に割り当てられたスロット数(割当てスロット数)に応じて以下の式2〜5のように表される。割当てスロット数が1の場合は、SD’は式2のように表される。割当てスロット数が2又は3の場合は、SD’は式3のように表される。割当てスロット数が4〜7の場合は、SD’は式4のように表される。割当てスロット数が8〜15の場合は、SD’は式5のように表される。
【0027】
【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【0028】
これは、BSDに対して2の冪乗倍で表現不可能な部分のスロットについては使用できず、切り捨てられるためである。なお、上式の“SO”はZigBee(登録商標)の規格により14が最大値であることが規定されている。また、式1の2の指数が0になると、スーパーフレーム長が基本長(最短長)となる。そのため、それ以上休止期間を活用したビーコン中継は不可能となる。
【0029】
図5は、BLEによるスーパーフレームの変化の具体例を表す図である。図5Aは、BLEがオフとなっている場合のスーパーフレームの具体例を表す。図5Bは、BLEがオンとなっている場合のスーパーフレームの具体例を表す。図5に図示されるように、BLEがオンになっている場合とオフになっている場合とで、CFP期間、各GTS、不活性期間、スーパーフレーム長、ビーコン周期には変化はない。一方、BLEがオンになっている場合には、CAP期間が短縮され、その分だけ休止期間が設けられる。図5Bの場合には、CAP期間とCFP期間との間に休止期間が設けられる。休止期間の間は、BLEのオンを指示した通信装置と、BLEのオンの指示を受けた通信装置との間では無線通信が行われない。
【0030】
図6は、コーディネータ10の構成を表す機能ブロック図である。コーディネータ10は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、コーディネータ用プログラムを実行する。コーディネータ10は、アンテナ101、スイッチ102、受信処理部103、データ処理部104、制御部105、タイミング制御部106、ビーコン生成部107、送信処理部108を備える装置として機能する。なお、通信装置10の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されても良い。
【0031】
コーディネータ10は、アンテナ101を介して、他の通信装置(ルータ20又はエンドデバイス30)から無線信号を受信する。受信される無線信号は、他の通信装置が送信したデータ信号又はビーコン信号である。アンテナ101を介して受信された無線信号は、スイッチ102を介して受信処理部103に入力される。スイッチ102は、一つのアンテナ101を送信処理と受信処理とで共用するために設けられたものである。スイッチ102は、受信処理時には、受信処理部103とアンテナ101とを接続し、送信処理時には送信処理部108とアンテナ101とを接続する。
【0032】
受信処理部103は、受信した無線信号について、A/D変換、周波数変換、復調等の処理を行い、ベースバンド信号を抽出する。ベースバンド信号は、制御部105に入力される。制御部105は、ベースバンド信号をデータ処理部104に出力する。
【0033】
データ処理部104は、制御部105からデータ信号の入力を受けると、入力されたデータ信号に応じて処理を行う。また、データ処理部104は、送信すべきデータを生成すると、生成したデータを制御部105に出力する。
【0034】
タイミング制御部106は、ビーコン信号を送信するタイミング及びビーコン信号に含まれる制御情報の内容を制御する。具体的には、タイミング制御部106は、ビーコン信号を送信するタイミングになると、ビーコン生成部107に対してビーコン生成を指示する信号(以下、「生成指示信号」という。)を出力する。コーディネータ10のタイミング制御部105は、予めネットワークに設定されているビーコン周期を記憶している。タイミング制御部105は、記憶しているビーコン周期にしたがって、ビーコン生成部107に生成指示信号を出力する。また、タイミング制御部106は、第1階層の通信装置に対する活性期間及び不活性期間を設定する。より具体的には、タイミング制御部106は、第1階層に対して設定する活性期間をさらに、CAP期間とCFP期間とに分割する。また、タイミング制御部106は、CFP期間を、第1階層に配置された通信装置に対してGTSとして割り当てる。タイミング制御部106は、これらの設定内容をビーコン生成部107に通知する。
【0035】
ビーコン生成部107は、タイミング制御部106から生成指示信号を受けると、タイミング制御部106から通知される設定内容に基づいてビーコン信号を生成して、送信処理部108に出力する。このとき、ビーコン生成部107は、中継処理を行うルータ20が第1階層に配置されているか否かについて制御部105から通知を受ける。中継処理を行うルータ20が第1階層に配置されている場合には、ビーコン生成部107は、制御情報に含まれるBLEのオン/オフ情報を“オン”としてビーコンを生成する。一方、中継処理を行うルータ20が第1階層に配置されていない場合には、ビーコン生成部107は、制御情報に含まれるBLEのオン/オフ情報を“オフ”としてビーコンを生成する。なお、このようにBLEのオン/オフ情報を“オン”とするか“オフ”とするかについては、タイミング制御部106によって判定されても良い。この場合、判定結果が上記の設定内容としてビーコン生成部107に通知される。
【0036】
送信処理部108は、ビーコン生成部107により生成されたビーコン信号や、制御部105を介してデータ処理部104により出力されたデータ信号に対し、変調、D/A変換、周波数変換等の処理を行う。そして、送信処理部108は、スイッチ102及びアンテナ101を介して無線信号として送信する。
【0037】
第n階層に配置されるルータ20の構成は、制御部105に代えて制御部205を備える点と、タイミング制御部106に代えてタイミング制御部206を備える点と、ビーコン生成部107に代えてビーコン生成部207を備える点とでコーディネータ10と異なり、他の構成は基本的にコーディネータ10と同じである。
制御部205は、受信されたベースバンド信号がビーコン信号であった場合は、ビーコン信号の中に含まれる制御情報を抽出し、タイミング制御部106に出力する。一方、受信されたベースバンド信号がデータ信号であった場合は、制御部205は制御部105と同様に、データ信号をデータ処理部104へ出力する。
【0038】
タイミング制御部206は、制御部205から出力された制御情報を解析する。BLEのオン/オフ情報として“オン”が検出されると、タイミング制御部206は、制御情報に含まれるスーパーフレーム長に基づいて、休止期間が開始するタイミングを判定する。また、タイミング制御部206は、スーパーフレーム長及びCFP期間の有無に基づいて、休止期間が終了するタイミングを判定する。すなわち、CFP期間が設定されていれば、CFP期間の開始直前が休止期間の終了タイミングであり、CFP期間が設定されていなければ、不活性期間の開始直前が休止期間の終了タイミングである。タイミング制御部206は、休止期間の開始タイミング及び終了タイミングをビーコン生成部107へ通知する。また、タイミング制御部206は、自装置よりも下位の階層の通信装置に対する活性期間及び不活性期間を設定する。より具体的には、タイミング制御部206は、下位の階層の通信装置に対して設定する活性期間をさらに、CAP期間とCFP期間とに分割する。また、タイミング制御部206は、CFP期間を、下位の階層に配置された通信装置に対してGTSとして割り当てる。タイミング制御部206は、これらの設定内容をビーコン生成部207に通知する。
【0039】
ビーコン生成部207は、タイミング制御部206により通知された休止期間の開始タイミング及び終了タイミングと設定内容とに基づいてビーコン信号を生成し、送信処理部108に出力する。このとき、ビーコン生成部207は、中継処理を行うルータ20が第n+1階層に配置されているか否かについて制御部205から通知を受ける。中継処理を行うルータ20が第n+1階層に配置されている場合には、ビーコン生成部207は、制御情報に含まれるBLEのオン/オフ情報を“オン”としてビーコン信号を生成する。一方、中継処理を行うルータ20が第n+1階層に配置されていない場合には、ビーコン生成部207は、制御情報に含まれるBLEのオン/オフ情報を“オフ”としてビーコン信号を生成する。なお、このようにBLEのオン/オフ情報を“オン”とするか“オフ”とするかについては、タイミング制御部206によって判定されても良い。この場合、判定結果が上記の設定内容としてビーコン生成部207に通知される。
【0040】
また、ビーコン生成部207は、ビーコン信号に含まれる制御情報のスーパーフレーム長を、休止期間内に収まるように設定する。このようにスーパーフレーム長を設定することによって、自装置よりも上位の階層(第n−1階層、第n−2階層、・・・、第0階層)に配置された他の通信装置から送信される信号との干渉を避けることが可能となる。
【0041】
図7は、無線通信システム100において設定されるスーパーフレームの具体例を表す図である。以下の説明では、第n階層のコーディネータ10又はルータ20によって設定されるスーパーフレームを「親スーパーフレーム」と呼び、第n階層よりも1階層下に位置する第n+1階層のルータ20によって設定されるスーパーフレームを「子スーパーフレーム」と呼び、第n+1階層よりも1階層下に位置する第n+2階層のルータ20によって設定されるスーパーフレームを「孫スーパーフレーム」と呼ぶ。
【0042】
図7Aは親スーパーフレームの具体例を表し、図7Bは子スーパーフレームの具体例を表し、図7Cは孫スーパーフレームの具体例を表す。図示されるように、子スーパーフレームのビーコン信号の送信期間及び活性期間は、親スーパーフレームの休止期間の中に設定される。また、孫スーパーフレームのビーコン信号の送信期間及び活性期間は、子スーパーフレームの休止期間の中に設定される。図7では、孫スーパーフレームまでしか示していないが、さらに下の階層のルータ20によって同様にスーパーフレームが設定されても良い。
【0043】
図8は、休止期間のスロット数が2の冪乗である場合のスーパーフレームの具体例を表す図である。図8Aは親スーパーフレームの具体例を表し、図8Bは子スーパーフレームの具体例を表す。図9は、休止期間のスロット数が2の冪乗でない場合のスーパーフレームの具体例を表す図である。図9Aは親スーパーフレームの具体例を表し、図9Bは子スーパーフレームの具体例を表す。式1〜式5を用いて説明したように、スーパーフレーム長には制限がある。そのため、図8のように、親スーパーフレームに設定された休止期間のスロット数が2の冪乗である場合には、全ての休止期間を子スーパーフレームのビーコン信号の送信期間及び活性期間として用いることができる。一方、図9のように、親スーパーフレームに設定された休止期間のスロット数が2の冪乗でない場合には、全ての休止期間を子スーパーフレームのビーコン信号の送信期間及び活性期間として用いることができない。そのため、ビーコン生成部207は、上述した式1の条件を満たすようにスーパーフレームを設定する。
【0044】
このように構成された無線通信システム100では、上位の階層に配置された通信装置によって設定された休止期間の間に、下位の階層に配置された通信装置がビーコン信号の送信を行う。また、この休止期間の間に、下位の階層に配置された通信装置のCAP期間及びCFP期間が設定される。そのため、上位の階層に配置された通信装置によって送信されるビーコン信号や他の信号と、下位の階層に配置された通信装置によって送信されるビーコン信号や他の信号とが衝突することを防止できる。そのため、マルチホップネットワークでも、ZigBeeのビーコンモードを活用し、消費電力の低減を図ることが可能となる。また、BLEオンによりCAP期間は減少するものの、本発明は高QoSや大トラフィックが必要なユーザへ割り当てるGTSに影響を及ぼすことはない。
【0045】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0046】
10…コーディネータ, 20…ルータ, 30…エンドデバイス, 101…アンテナ, 102…スイッチ, 103…受信処理部, 104…データ処理部, 105,205…制御部, 106,206…タイミング制御部, 107,207…ビーコン生成部, 108…送信処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の階層により構成され、各階層に配置された通信装置を備える無線通信システムであって、
第n(nは整数)層に配置された通信装置が、
第n層よりも一つ下位の層である第n+1層に配置された通信装置が無線通信を行う活性状態になるn+1用活性期間と、前記n+1層に配置された通信装置が前記活性状態よりも消費電力が小さい不活性状態になるn+1用不活性期間と、を所定のビーコン周期内に設定し、前記第n+1層に配置された通信装置と自装置とが無線通信を休止するn+1用休止期間を前記n+1用活性期間内に設定するタイミング制御部と、
前記タイミング制御部における設定内容を前記第n+1層に配置された通信装置に通知するためのn+1用ビーコン信号を生成するビーコン生成部と、
前記所定のビーコン周期にしたがって、前記n+1用ビーコン信号を送信する送信処理部と、
を備え、
前記第n+1層に配置された通信装置が、
前記第n層から送信されたn+1用ビーコンを受信する受信処理部と、
前記第n層から送信されたn+1用ビーコンに基づいて前記n+1用休止期間の開始タイミング及び終了タイミングを判定し、第n+1層よりも一つ下位の層である第n+2層に配置された通信装置が前記活性状態になるn+2用活性期間を前記n+1用休止期間内に設定し、前記n+1用休止期間以外の期間を、前記n+2層に配置された通信装置が前記不活性状態になるn+2用不活性期間として設定するタイミング制御部と、
前記タイミング制御部における設定内容を前記第n+2層に配置された通信装置に通知するためのn+2用ビーコン信号を生成するビーコン生成部と、
前記n+1用休止期間内であって前記n+2用活性期間とは異なる期間に前記n+2用ビーコン信号を送信する送信処理部と、
を備える、無線通信システム。
【請求項2】
複数の階層により構成され、各階層に配置された通信装置を備える無線通信システムが行う無線通信方法であって、
第n(nは整数)層に配置された通信装置が、
第n層よりも一つ下位の層である第n+1層に配置された通信装置が無線通信を行う活性状態になるn+1用活性期間と、前記n+1層に配置された通信装置が前記活性状態よりも消費電力が小さい不活性状態になるn+1用不活性期間と、を所定のビーコン周期内に設定し、前記第n+1層に配置された通信装置と自装置とが無線通信を休止するn+1用休止期間を前記n+1用活性期間内に設定するタイミング制御ステップと、
前記タイミング制御ステップにおける設定内容を前記第n+1層に配置された通信装置に通知するためのn+1用ビーコン信号を生成するビーコン生成ステップと、
前記所定のビーコン周期にしたがって、前記n+1用ビーコン信号を送信する送信処理ステップと、
前記第n+1層に配置された通信装置が、
前記第n層から送信されたn+1用ビーコンを受信する受信処理ステップと、
前記第n層から送信されたn+1用ビーコンに基づいて前記n+1用休止期間の開始タイミング及び終了タイミングを判定し、第n+1層よりも一つ下位の層である第n+2層に配置された通信装置が前記活性状態になるn+2用活性期間を前記n+1用休止期間内に設定し、前記n+1用休止期間以外の期間を、前記n+2層に配置された通信装置が前記不活性状態になるn+2用不活性期間として設定するタイミング制御ステップと、
前記タイミング制御部における設定内容を前記第n+2層に配置された通信装置に通知するためのn+2用ビーコン信号を生成するビーコン生成ステップと、
前記n+1用休止期間内であって前記n+2用活性期間とは異なる期間に前記n+2用ビーコン信号を送信する送信処理ステップと、
を有する無線通信方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate