説明

無線通信システム及び無線通信装置

【課題】端末間通信で起きるデータの衝突を回避し、スループットを向上させる。
【解決手段】無線通信装置200の隣接情報検出部24は、第1の無線通信I/F22により複数の周波数チャネルをスキャンして隣接ノードとその隣接ノードが使用している周波数チャネルを隣接情報として検出する。経路探索部25は、検出された隣接ノードとなる無線端末からその無線端末において検出された隣接情報を取得する。経路探索部25は、取得された隣接情報をもとに宛先の無線端末までの経路を探索して経路テーブル28を作成する。周波数選択部26は、経路テーブル28の経路において隣接する無線通信装置で使用される周波数チャネルの通信品質に基づいて周波数チャネルの中からいずれかを選択する。送信制御部27は、第2の無線通信I/F23により上記選択された周波数チャネルを用いて隣接ノードとなる無線端末に宛先を指示した情報データを送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基地局を介さずに直接端末間で無線通信を行う無線通信システム及び無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、無線通信(特に無線LAN)で利用されているアドホック通信方式は、1つの無線ネットワーク内で同一の周波数を利用するCSMA(Carrier Sense Multiple Access)方式により通信を行う方式が採用されている。
【0003】
CSMA方式は、データを送信する前にキャリアセンス(Carrier Sense:信号検出)を行い、信号が流れている場合はランダムな待ち時間を経過した後にデータを送信するようにしたものである。これによりデータの衝突を回避するようにしている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開2003−258816公報(第8ページ、図10)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記CSMA方式では、一つの無線ネットワーク上で発生するトラフィック量が多い場合には、データの衝突頻度が高くなるという欠点がある。また、お互いにキャリアセンスするカバレッジが見えない状況においては、隠れ端末という問題が発生する。アドホック通信を実現するためには、無線通信が確立されていることが前提条件となるので、周波数1チャネルによる通信はシンプルであるが、上記のような問題が発生するのが現状である。また中継を行うごとにスループットが低下するという問題があり、通信距離が離れた場合のデータ通信には不向きである。
【0005】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、端末間通信で起きるデータの衝突を回避し、データ通信のスループットを向上させることができる無線通信システム及び無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためにこの発明に係わる無線通信システムは、それぞれが中継機能を有する複数の無線通信装置を備え、個々の無線通信装置が通信範囲内にある1または複数の無線通信装置と複数の周波数チャネルのうちのいずれかを用いて無線通信を行うことで無線ネットワークを形成し、いずれかの無線通信装置から宛先を指示して出力される情報データを前記無線ネットワークにより宛先の無線通信装置へ伝送する無線通信システムであって、前記無線通信装置は、前記通信範囲内の他の無線通信装置との間で前記複数の周波数チャネルのうちの互いに異なるチャネルを用いて無線通信を行う第1及び第2の無線通信インタフェースと、前記第1の無線通信インタフェースにより前記複数の周波数チャネルをスキャンして隣接する無線通信装置とその装置で使用している周波数チャネルを隣接情報として検出する隣接情報検出手段と、前記隣接情報検出手段で検出された隣接情報を前記第1の無線通信インタフェースを通じて相互に提供し合い、この提供された隣接情報をもとに前記宛先の無線通信装置までの経路を探索する経路探索手段と、前記経路探索手段で探索された経路において隣接する無線通信装置で使用される周波数チャネルの通信品質に基づいて前記隣接情報検出手段により検出された周波数チャネルの中からいずれかを選択する周波数選択手段と、前記第2の無線通信インタフェースにより前記周波数選択手段で選択された周波数チャネルを用いて前記隣接する無線通信装置に前記宛先を指示した情報データを送信する送信制御手段とを具備することを特徴とする。
【0007】
またこの発明に係わる無線通信装置は、それぞれが中継機能を有する複数の無線通信装置を備え、個々の無線通信装置が通信範囲内にある1または複数の無線通信装置と複数の周波数チャネルのうちのいずれかを用いて無線通信を行うことで無線ネットワークを形成し、いずれかの無線通信装置から宛先を指示して出力される情報データを前記無線ネットワークにより宛先の無線通信装置へ伝送する無線通信システムに用いられる無線通信装置であって、前記通信範囲内の他の無線通信装置との間で前記複数の周波数チャネルのうちの互いに異なるチャネルを用いて無線通信を行う第1及び第2の無線通信インタフェースと、前記第1の無線通信インタフェースにより前記複数の周波数チャネルをスキャンして隣接する無線通信装置とその装置で使用している周波数チャネルを隣接情報として検出する隣接情報検出手段と、前記隣接情報検出手段で検出された隣接情報を前記第1の無線通信インタフェースを通じて相互に提供し合い、この提供された隣接情報をもとに前記宛先の無線通信装置までの経路を探索する経路探索手段と、前記経路探索手段で探索された経路において隣接する無線通信装置で使用される周波数チャネルの通信品質に基づいて前記隣接情報検出手段により検出された周波数チャネルの中からいずれかを選択する周波数選択手段と、前記第2の無線通信インタフェースにより前記周波数選択手段で選択された周波数チャネルを用いて前記隣接する無線通信装置に前記宛先を指示した情報データを送信する送信制御手段とを具備することを特徴とする。
【0008】
上記構成による無線通信システム及び無線通信装置では、無線通信装置において、第1の無線通信インタフェースにより複数の周波数チャネルをスキャンして隣接する無線通信装置とその隣接ノードが使用している周波数チャネルを隣接情報として検出する。検出された隣接する無線通信装置からその無線通信装置において検出された隣接情報を取得し、取得された隣接情報をもとに宛先の無線通信装置までの経路を探索する。そして、探索された経路において隣接する無線通信装置で使用される周波数チャネルの通信品質に基づいて周波数チャネルの中からいずれかを選択して、第2の無線通信インタフェースにより上記選択された周波数チャネルを用いて隣接ノードとなる無線通信装置に宛先を指示した情報データを送信する。
【0009】
すなわち、各無線通信装置に2系統独立の無線通信インタフェースを設け、そのうちの1系統により隣接する無線通信装置と、その装置が使用している周波数チャネルとを隣接情報として検出する。そして、隣接する無線通信装置間でお互いに検出された隣接情報を提供し合うことで、どの周波数チャネルで通信できるのかを把握するようにする。そして、例えば、端末間の距離が離隔することで通信不能に陥った場合や機器障害発生時に、通信可能な周波数チャネルを選択して経路を探索する。このようにすることで、複数の周波数チャネルを用いて効率的なデータ通信が可能なアドホックネットワークを構築することができる。
【発明の効果】
【0010】
したがってこの発明によれば、端末間通信で起きるデータの衝突を回避し、データ通信のスループットを向上させることができる無線通信システム及び無線通信装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、この発明に係わる無線通信システムの一実施形態を示す概略構成図である。このシステムは、携帯電話等の移動通信可能な無線端末A,B,C,D,Eにより構成される。これらの無線端末は、互いに通信範囲内で自律的に無線ネットワークを形成し、かつ個々の無線端末が中継装置として機能する。また、無線端末A〜Eは、TRTR方式、すなわちTR(Transmit/Receive:送受信ユニット)が2系統独立に設けられ、複数の周波数チャネルf1〜f5のうちのいずれかの周波数チャネルを用いて上記無線ネットワークを形成する。無線端末A〜Eは、このように形成される無線ネットワークを介して宛先を指示して出力される情報データを宛先の無線端末へ伝送する。
【0012】
図2は、図1に示す無線通信システムに用いられる無線通信装置の構成を示すブロック図である。無線通信装置200は、無線端末A〜Eにそれぞれ搭載されるもので、制御部21と、第1及び第2の無線通信インタフェース(無線通信I/F)22,23と、隣接情報検出部24と、経路探索部25と、周波数選択部26と、送信制御部27と、経路テーブル28とを備える。以下、無線端末Aに設けられる無線通信装置200として説明する。
【0013】
第1及び第2の無線通信I/F22,23は、制御部21の制御により、上記複数の周波数チャネルf1〜f5のいずれかを用いて通信範囲内に存在する他の無線端末B〜Eとの間で、直接又は中継装置となる無線端末を介して無線通信を行う。なお、この実施形態では、第1の無線通信I/F22は当該無線端末と隣接する無線端末及び周波数チャネルの検出に用いられ、第2の無線通信I/F23はデータの送信に用いられる。
【0014】
隣接情報検出部24は、一定時間ごとに周波数チャネルを切り替えてf2〜f5の周波数チャネルをスキャンし、この無線端末Aに隣接する無線端末とその端末で使用している周波数チャネルを隣接情報として検出する。このとき、隣接情報検出部24は、検出された各周波数チャネルの通信品質をモニタリングする。経路探索部25は、隣接情報検出部24により検出された隣接情報を第1の無線I/F22を通じて他の無線端末と相互に提供し合い、この提供された隣接情報をもとに宛先の無線端末までの経路を探索し経路テーブル28に記憶する。
【0015】
図3に無線端末Aの無線通信装置200に設けられる経路テーブル28の構成の一例を示す。ここでは、宛先の無線端末を無線端末Cとする。図3に示すように、隣接する無線端末(隣接ノード)とその周波数チャネルとNext Hopアドレスとが記憶される。周波数選択部26は、経路テーブル28に記憶された経路において隣接する無線通信装置で使用される周波数チャネルの通信品質に基づいて周波数チャネルの中からいずれかを選択して経路を決定する。送信制御部27は、第2の無線通信I/F23により周波数選択部26で選択された周波数チャネルを用いて隣接ノードとなる無線端末に宛先を指示した情報データを送信する。
【0016】
次に、このように構成される無線通信装置200の動作について説明する。
図4は、無線通信装置200のデータ送信処理の手順とその内容を示すフローチャートである。
制御部21は、宛先の無線端末を指示した情報データを受け付ける(ステップS41)。隣接情報検出部24は、第1の無線通信I/F22により周波数チャネルf2〜f5をスキャンして隣接ノードとその隣接ノードが使用している周波数チャネルを隣接情報として検出する(ステップS42)。隣接情報検出部24において隣接ノードが検出されると(ステップS43)、経路探索部25は、隣接ノードとなる無線端末からその無線端末において検出された隣接情報を取得する(ステップS44)。経路探索部25は、取得された隣接情報をもとに宛先の無線端末までの経路を探索して経路テーブル28を作成する(ステップS45)。
【0017】
周波数選択部26は、経路テーブル28の経路において隣接する無線通信装置で使用される周波数チャネルの通信品質に基づいて周波数チャネルの中からいずれかを選択する(ステップS46)。送信制御部27は、第2の無線通信I/F23により上記選択された周波数チャネルを用いて隣接ノードとなる無線端末に宛先を指示した情報データを送信する(ステップS47)。
【0018】
以上述べたように、上記実施形態では、無線通信装置200において、隣接情報検出部24は、第1の無線通信I/F22により複数の周波数チャネルをスキャンして隣接ノードとその隣接ノードが使用している周波数チャネルを隣接情報として検出する。経路探索部25は、検出された隣接ノードとなる無線端末からその無線端末において検出された隣接情報を取得する。経路探索部25は、取得された隣接情報をもとに宛先の無線端末までの経路を探索して経路テーブル28を作成する。周波数選択部26は、経路テーブル28の経路において隣接する無線通信装置で使用される周波数チャネルの通信品質に基づいて周波数チャネルの中からいずれかを選択する。送信制御部27は、第2の無線通信I/F23により上記選択された周波数チャネルを用いて隣接ノードとなる無線端末に宛先を指示した情報データを送信する。
【0019】
従来では、各無線端末は同一の周波数チャネルで通信を行うために、隠れ端末問題、晒され端末問題が発生する。同一の周波数チャネルを用いた無線ネットワークにおいて、例えば、無線端末Bに対して無線端末Aと無線端末Cとが同一のタイミングでデータを送信すると、無線端末Bではデータ衝突が発生し受信不可となる。これを隠れ端末問題と言い、無線端末Aと無線端末Cとの距離が離れているために、お互いにキャリアセンスできないために生じるものである。また、無線端末Bがデータ送信中は、隣接ノードはキャリアセンスをするためにデータ送信待ち状態になるため、効率的な通信ができないという、晒され端末問題が生じる。また、データの到達率は、発生するトラフィック量にも左右され、また中継する度にスループットの低下が伴っていた。
【0020】
これに対し、本発明では、無線ネットワークが複数の異なる周波数で構成されるために、スループットの低下は発生しない。つまり、無線ネットワークが切り替わる中継を行う場合には、別の周波数に変換するため、スループットの低下が発生しないというメリットがある。また、上記無線通信装置200は、第1及び第2の無線通信I/F22,23を備え、第1の無線通信I/F22を用いて隣接する無線端末で使用している周波数チャネルをサーチするようにする。これにより、複数の周波数チャネルを利用した移動通信において無線ネットワークが常に変化する状況においても、通信可能な周波数チャネルを把握することができる。
【0021】
したがって上記実施形態によれば、アドホック通信において、端末間通信で起きるデータの衝突を回避し、データ通信のスループットを向上させることが可能となる。
【0022】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明に係わる無線通信システムの一実施形態を示す概略構成図。
【図2】図1に示す無線通信システムに用いられる無線通信装置の構成を示すブロック図。
【図3】図2に示す無線通信装置に設けられる経路テーブルの構成の一例を示す図。
【図4】データ送信処理の手順とその内容を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0024】
A,B,C,D,E…無線端末、200…無線通信装置、21…制御部、22…第1の無線通信インタフェース、23…第2の無線通信インタフェース、24…隣接情報検出部、25…経路探索部、26…周波数選択部、27…送信制御部、28…経路テーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが中継機能を有する複数の無線通信装置を備え、個々の無線通信装置が通信範囲内にある1または複数の無線通信装置と複数の周波数チャネルのうちのいずれかを用いて無線通信を行うことで無線ネットワークを形成し、いずれかの無線通信装置から宛先を指示して出力される情報データを前記無線ネットワークにより宛先の無線通信装置へ伝送する無線通信システムであって、
前記無線通信装置は、
前記通信範囲内の他の無線通信装置との間で前記複数の周波数チャネルのうちの互いに異なるチャネルを用いて無線通信を行う第1及び第2の無線通信インタフェースと、
前記第1の無線通信インタフェースにより前記複数の周波数チャネルをスキャンして隣接する無線通信装置とその装置で使用している周波数チャネルを隣接情報として検出する隣接情報検出手段と、
前記隣接情報検出手段で検出された隣接情報を前記第1の無線通信インタフェースを通じて相互に提供し合い、この提供された隣接情報をもとに前記宛先の無線通信装置までの経路を探索する経路探索手段と、
前記経路探索手段で探索された経路において隣接する無線通信装置で使用される周波数チャネルの通信品質に基づいて前記隣接情報検出手段により検出された周波数チャネルの中からいずれかを選択する周波数選択手段と、
前記第2の無線通信インタフェースにより前記周波数選択手段で選択された周波数チャネルを用いて前記隣接する無線通信装置に前記宛先を指示した情報データを送信する送信制御手段と
を具備することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
それぞれが中継機能を有する複数の無線通信装置を備え、個々の無線通信装置が通信範囲内にある1または複数の無線通信装置と複数の周波数チャネルのうちのいずれかを用いて無線通信を行うことで無線ネットワークを形成し、いずれかの無線通信装置から宛先を指示して出力される情報データを前記無線ネットワークにより宛先の無線通信装置へ伝送する無線通信システムに用いられる無線通信装置であって、
前記通信範囲内の他の無線通信装置との間で前記複数の周波数チャネルのうちの互いに異なるチャネルを用いて無線通信を行う第1及び第2の無線通信インタフェースと、
前記第1の無線通信インタフェースにより前記複数の周波数チャネルをスキャンして隣接する無線通信装置とその装置で使用している周波数チャネルを隣接情報として検出する隣接情報検出手段と、
前記隣接情報検出手段で検出された隣接情報を前記第1の無線通信インタフェースを通じて相互に提供し合い、この提供された隣接情報をもとに前記宛先の無線通信装置までの経路を探索する経路探索手段と、
前記経路探索手段で探索された経路において隣接する無線通信装置で使用される周波数チャネルの通信品質に基づいて前記隣接情報検出手段により検出された周波数チャネルの中からいずれかを選択する周波数選択手段と、
前記第2の無線通信インタフェースにより前記周波数選択手段で選択された周波数チャネルを用いて前記隣接する無線通信装置に前記宛先を指示した情報データを送信する送信制御手段と
を具備することを特徴とする無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−141598(P2008−141598A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327228(P2006−327228)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】