説明

無線通信方法、及び無線通信システム

【課題】通信セルが近接する状況において、スループットを向上させる。
【解決手段】端末局装置は、自装置と同じ通信セルに属している基地局装置との間の第1の伝搬チャネルを推定するとともに、近接する通信セルに属している基地局装置との間の第2の伝搬チャネルを推定する伝搬チャネル取得部と、第1の伝搬チャネルを示す行列を特異値分解して算出される左特異値行列に基づいて、自装置の受信ウエイトを算出する受信ウエイト算出部と、第2の伝搬チャネル及び受信ウエイトを含む通知信号を基地局装置に送信する第1の無線部とを備え、基地局装置は、第2の伝搬チャネルを示す行列と受信ウエイトを乗じて得られる行列を特異値分解して算出される右特異値行列に基づいて、自装置の送信ウエイトを算出する送信ウエイト算出部と、自装置と同じ通信セルに属している端末局装置宛のデータに送信ウエイトを乗じて算出した送信信号を送信する第2の無線部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局装置及び複数の端末局装置を有する通信セルが近接して複数存在する環境における無線通信方法、及び無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
5GHz帯を用いた高速無線アクセスシステムとして、IEEE802.11a規格がある。この無線通信システムでは、マルチパスフェージング環境での特性を安定化させるための技術である直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式を用い、最大で54Mbpsのスループットを実現している。ただし、ここでのスループットとは、物理レイヤ上でのスループットであり、実際にはMAC(Medium Access Control:メディアアクセス制御)レイヤでの伝送効率が50〜70%程度であるため、実際のスループットの上限値は、30Mbps程度である。
【0003】
更に、IEEE802.11nでは、複数のアンテナを用いて同一時刻及び同一周波数チャネルを用いて空間多重を実現することが可能なMIMO(Multiple input multiple output:多入力多出力)技術や、これまで個別に用いられていた20MHzの周波数チャネルを2つ同時に利用して40MHzの周波数チャネルを利用するチャネルボンディング技術などの技術により高速通信の実現を目指し、最大600Mbpsの伝送速度を実現することが可能である。
【0004】
更に、現在、規格が策定中であるIEEE802.11acでは、20MHzの周波数チャネル4つを同時に利用して80MHzの周波数チャネルとして利用する通信技術や、同一周波数チャネル、同一時刻に、複数の無線局と通信を行うMU−MIMO(Multi-User MIMO)技術により、1Gbpsを超えるIEEE802.11nより高速な無線通信の実現を目指している。
【0005】
また、無線通信の需要が急速に高まっており、家庭や、駅等に設置される無線LANの基地局の数が増加している。しかし、通信セル(1台の基地局と複数台の端末局とで構成される)が近接する環境(例えば、集合住宅等)では、近接する通信セルの信号が互いに干渉となり、良好な無線通信ができなくなるという問題があった。この問題に対して、無線LANでは異なる周波数チャネルを割り当てたり、同一周波数チャネルの通信帯域を時間軸上で按分して用いたりして、干渉を回避してきた(非特許文献1)。
【0006】
更に、干渉が存在しても良好な通信を行うことが可能な技術が検討されている。この技術は、近接する基地局装置間で連携を行い、それぞれの基地局装置が個々に備えられているアレーアンテナを制御する。これにより、近接する通信セルの端末局装置に対する干渉を抑圧し、各基地局装置が自身と通信をする端末局装置にデータを同時に送信する技術である。同一の周波数チャネルかつ同一の時刻で送信することが可能となり、スループットの増加効果は非常に大きい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】守倉正博、久保田周治、「改訂三版802.11高速無線LAN教科書」、インプレスR&D、2008年3月27日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これまで無線LANで用いられてきた異なる周波数チャネルや時間を割り当てる場合には、近接する通信セルが増加した場合、各通信セルに割り当てる無線資源(周波数チャネルや、時間)は有限であるため、1つの通信セル当たりに割り当てられる無線資源が減少し、各通信セルのスループットが劣化してしまうという問題があった。例えば、近接する通信セルが複数存在する場合、近接通信セルが存在しないときのスループットよりも、約(1/(近接する通信セルの数))にまで低下する。
【0009】
また、IEEE802.11a、IEEE802.11n、IEEE802.11acの順に標準化規格が進むにつれて、通信に用いる周波数帯域幅が広くなるので、近接するセル間で周波数帯域の重複を回避しつつ割り当てることができる周波数チャネルが少なくなる。その結果、同一周波数チャネルを用いて通信を行う近接通信セルが多くなる可能性がより高くなり、スループットの劣化の要因となる。
【0010】
一方、互いに近接する基地局装置が連携し、それぞれのアレーアンテナを用いて干渉を抑圧する技術では、互いに近接する通信セルの端末局のアンテナに対して干渉を抑圧することができる。ここで、干渉を抑圧できるアンテナ数は、それぞれの基地局装置が有するアレーアンテナのアンテナ自由度数によって決定される。具体的には、それぞれの基地局装置が有するアンテナ数を4本とした場合、干渉を抑圧することができるアンテナ数は最大4本となる。
しかし、すべてのアンテナ自由度を用いて近接する通信セルの端末局装置のアンテナに対して干渉を抑圧した場合、自身の通信セルの端末局装置へ信号を送信することができなくなる。これは、送信するためのアンテナ自由度が残っていないからである。この場合、アンテナ自由度よりも少ないアンテナを有する端末局装置に対し干渉の抑圧を行うことしかできなくなってしまう。また、基地局装置間で連携を行う必要があるが、無線LANにおいて、基地局装置は自律分散制御に基づいて通信を行っているため、基地局装置間で連携を行うフローなどは規定されておらず、実現は困難であった。
【0011】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、通信セルが近接する状況において、スループットを向上させることができる無線通信方法、及び無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するために、本発明の無線通信方法は、基地局装置及び端末局装置を有する通信セルが近接して複数存在する無線通信システムにおける無線通信方法であって、前記基地局装置と、該基地局装置が属している通信セルの前記端末局装置との間の第1の伝搬チャネルを推定する第1の伝搬チャネル推定ステップと、前記基地局装置と、該基地局装置が属している通信セルに近接する通信セルに属している前記端末局装置との間の第2の伝搬チャネルを推定する第2の伝搬チャネル推定ステップと、前記第1の伝搬チャネルを示す行列を特異値分解して算出される左特異値行列に基づいて、前記端末局装置が用いる受信ウエイトを算出する受信ウエイト算出ステップと、前記第2の伝搬チャネルを示す行列と、前記受信ウエイトを乗じて得られる行列を特異値分解して算出される右特異値行列に基づいて、前記基地局装置が用いる送信ウエイトを算出する送信ウエイト算出ステップと前記基地局装置から該基地局装置と同じ通信セルに属している前記端末局装置に送信するデータに前記送信ウエイトを乗じた送信信号を送信する送信ステップとを有する。
【0013】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記基地局装置が前記送信ウエイトを用い、前記端末局装置が前記受信ウエイトを用いて通信をする際における前記基地局装置と該基地局装置と同じ通信セルに属している前記端末局装置との間の第3の伝搬チャネルを推定する第3の伝搬チャネル推定ステップと、前記第3の伝搬チャネルを示す行列を特異値分解して算出される左特異値行列に基づいて、前記端末局装置の受信ウエイトを更新する受信ウエイト更新ステップと、前記第2の伝搬チャネルを示す行列と、前記更新された受信ウエイトを乗じて得られる行列を特異値分解して算出される右特異値行列に基づいて、前記基地局装置が用いる送信ウエイトを更新する送信ウエイト更新ステップと、を更に有し、前記送信ステップにおいて、前記データに前記更新した送信ウエイトを乗じて前記送信信号を算出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記基地局装置がマルチユーザMIMO通信方式を用いる場合、前記送信ウエイト算出ステップにおいて、前記基地局装置と該基地局装置が属している通信セルに近接する通信セルに属している前記端末局装置が用いる前記受信ウエイトと、前記第2の伝搬チャネルとを乗じて得られる行列を特異値分解して算出される右特異値行列に基づいて算出される第1の送信ウエイトと、前記第1の伝搬チャネルとを乗じて得られる行列を特異値分解して算出される右特異値行列に基づいて算出される第2の送信ウエイトと乗じて、前記送信ウエイトを算出することを特徴とする。
【0015】
また、上記問題を解決するために、本発明の無線通信システムは、基地局装置及び端末局装置を有する通信セルが近接して複数存在する無線通信システムであって、前記端末局装置は、自装置と自装置と同じ通信セルに属している前記基地局装置との間の第1の伝搬チャネルを推定するとともに、自装置が属する通信セルに近接する通信セルに属している前記基地局装置との間の第2の伝搬チャネルを推定する伝搬チャネル取得部と、前記第1の伝搬チャネルを示す行列を特異値分解して算出される左特異値行列に基づいて、自装置の受信ウエイトを算出する受信ウエイト算出部と、前記第2の伝搬チャネル及び前記受信ウエイトを含む通知信号を前記基地局装置に送信する第1の無線部と、を備え、前記基地局装置は、前記第2の伝搬チャネルを示す行列と前記受信ウエイトを乗じて得られる行列を特異値分解して算出される右特異値行列に基づいて、自装置の送信ウエイトを算出する送信ウエイト算出部と、自装置と同じ通信セルに属している前記端末局装置宛のデータに前記送信ウエイトを乗じて算出した送信信号を送信する第2の無線部と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、基地局装置と端末局装置とを有する通信セルが複数近接する状況において、それぞれの基地局装置が、近接する通信セルの端末局装置が使用する受信ウエイトを考慮した送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを用いて送信を行う。これにより、端末局装置は、近接する通信セルの基地局装置から受ける干渉を抑圧することができ、各基地局装置が同一周波数チャネル及び同一時刻で送信することができる。その結果、各基地局装置から送信されるデータ量を増加させることができ、無線通信システムにおけるスループットを向上させることができる。
また、基地局装置のアンテナ自由度数を超えた端末局装置のアンテナ数を有する場合にも干渉を抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態における無線通信システム1の構成例を示す概念図である。
【図2】同実施形態における基地局装置100及び端末局装置200の構成を示す概略ブロック図である。
【図3】同実施形態における無線パケットを送信する処理を示すタイムチャートである。
【図4】第2実施形態における基地局装置300及び端末局装置400の構成を示す概略ブロック図である。
【図5】同実施形態における無線パケットを送信する処理を示すタイムチャートである。
【図6】第3実施形態における基地局装置500及び端末局装置200の構成を示す概略ブロック図を示す。
【図7】第4実施形態における無線通信システム4の構成例を示す概念図である。
【図8】同実施形態における無線パケットを送信する処理を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の特徴は、基地局装置と端末局装置から構成される通信セルが複数近接して配置された無線通信システムにおいて、基地局装置が、自装置の通信セルと近接する通信セルの端末局装置が用いる受信ウエイトに基づいて、当該端末局装置に与える干渉を低減する送信ウエイトを用いて送信を行う。これにより、各基地局装置が同時に送信をしても、各端末局装置が近接する通信セルの基地局装置から干渉を受けることなく受信を行うことができる。各基地局装置が同時に送信を行うことにより、送信するデータ量を増加させることができ、無線通信システムにおけるスループットを向上させる。なお、通信セルが近接して配置されているとは、他の通信セルの基地局装置から干渉を受ける端末局装置が存在する可能性があるように通信セルが配置されていることである。
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態における無線通信システム、及び無線通信方法を説明する。
【0020】
(A.第1実施形態)
図1は、第1実施形態における無線通信システム1の構成例を示す概念図である。同図に示すように、無線通信システム1は、2つの基地局装置100−1、100−2と、基地局装置100−1と無線パケット通信をする端末局装置200−1と、基地局装置100−2と無線パケット通信をする端末局装置200−2とを具備している。
端末局装置200−1は、基地局装置100−1がなす通信セル101−1に属し、基地局装置100−1を介して不図示の外部のネットワークと通信を行う。また、端末局装置200−2は、基地局装置100−2がなす通信セル101−2に属し、基地局装置100−2を介して不図示の外部のネットワークと通信を行う。
【0021】
各基地局装置100−1、100−2と、各端末局装置200−1、200−2とは、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access / Collision Avoidance;搬送波検知多重アクセス/衝突回避)方式を用いて無線パケット通信を行う。また、2つの通信セル101−1、101−2における無線パケット通信は、同一の周波数チャネルを用いて行われる。無線パケット通信において、送受信される無線パケットには、送信局、宛先局を示す識別子が含まれる。ここで、送信局は無線パケットを生成し送信した装置であり、宛先局は無線パケットの宛先となる装置である。
【0022】
基地局装置100−1、100−2は、例えば、無線LANにおけるアクセスポイントなどである。端末局装置200−1、200−2は、コンピュータや携帯型の情報電子機器などである。また、外部のネットワークとは、基地局装置100−1、100−2が形成するローカルネットワーク以外のネットワークであり、例えば、インターネットなどである。
【0023】
また、図1に示すように、基地局装置100−1から端末局装置200−1、200−2との間の伝搬チャネルをH、Gで表す。基地局装置100−2から端末局装置200−1、200−2との間の伝搬チャネルをH、Gで表す。
基地局装置100−1と基地局装置100−2とは同じ構成を有しており、以下、基地局装置100−1又は基地局装置100−2のいずれか一方、あるいは両方を示すときに基地局装置100という。また、端末局装置200−1と端末局装置200−2とは同じ構成を有しており、以下、端末局装置200−1又は端末局装置200−2のいずれか一方、あるいは両方を示すときに端末局装置200という。
【0024】
図2は、本実施形態における基地局装置100及び端末局装置200の構成を示す概略ブロック図である。
同図に示すように、基地局装置100は、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナ111と、無線部112と、通知信号取得部113と、情報記憶部114と、送信ウエイト算出部115と、ネットワークインターフェース116とを備えている。
【0025】
無線部112は、アレーアンテナ111を介して、端末局装置200から送信された信号を受信し、受信した受信信号から無線パケットを検出する。また、無線部112は、検出した無線パケットを、通知信号取得部113と、ネットワークインターフェース116とに出力する。
また、無線部112は、情報記憶部114に記憶されている送信ウエイトを読み出し、読み出した送信ウエイトと、ネットワークインターフェース116から入力される送信データとを乗算して生成した無線パケットを、アレーアンテナ111を介して端末局装置200に送信する。
【0026】
通知信号取得部113は、無線部112から入力された無線パケットから、近接する通信セルに属する端末局装置200から送信された通知信号を検出し、検出した通知信号から、伝搬チャネルGと、当該端末局装置200における受信ウエイトを取得する。また、通知信号取得部113は、取得した伝搬チャネルG及び受信ウエイトを情報記憶部114に記憶させる。また、通知信号取得部113は、無線部112から入力された無線パケットから、自装置が属する通信セルの端末局装置200から送信された通知信号に基づいて、伝搬チャネルHを取得し、取得した伝搬チャネルHを情報記憶部114に記憶させる。
なお、基地局装置100−1において、通知信号取得部113は、伝搬チャネルGと、端末局装置200−2における受信ウエイトを取得するとともに、端末局装置200−1との間の伝搬チャネルHを取得する。一方、基地局装置100−2において、通知信号取得部113は、伝搬チャネルGと、端末局装置200−1における受信ウエイトを取得するとともに、端末局装置200−2との間の伝搬チャネルHを取得する。
【0027】
情報記憶部114には、通知信号取得部113が取得した伝搬チャネルG、受信ウエイト、及び伝搬チャネルHと、送信ウエイト算出部115が算出した送信ウエイトとが記憶される。
送信ウエイト算出部115は、情報記憶部114に記憶されている、自装置と同じ通信セルに属する端末局装置200との間の伝搬チャネルHと、近接する通信セルに属する端末局装置200との間の伝搬チャネルG及び受信ウエイトとを読み出す。送信ウエイト算出部115は、読み出した伝搬チャネルHと、伝搬チャネルGと、受信ウエイトとから送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを情報記憶部114に記憶させる。
【0028】
ネットワークインターフェース116は、無線部112から入力された無線パケットを、外部のネットワークにおいて用いられているパケットに変換して外部のネットワークに送信する。また、ネットワークインターフェース116は、外部のネットワークから受信したパケットのうち、自装置と同一通信セルに属する端末局装置200宛てのパケットを無線パケットに変換して無線部112に出力する。
【0029】
続いて、端末局装置200の構成について説明する。図2に示すように、端末局装置200は、複数のアンテナ素子を有するアレーアンテナ211と、無線部212と、伝搬チャネル取得部213と、情報記憶部214と、受信ウエイト算出部215と、通知部216とを備えている。
無線部212は、アレーアンテナ211を介して受信した受信信号から無線パケットを検出し、検出した無線パケットを伝搬チャネル取得部213に出力する。また、無線部212は、通知部216から入力された無線パケットを、アレーアンテナ211を介して基地局装置100に送信する。
【0030】
伝搬チャネル取得部213は、無線部212から入力された無線パケットから自身が接続する基地局装置100との間の伝搬チャネルHを推定し、推定した伝搬チャネルHを情報記憶部214に記憶させる。また、伝搬チャネル取得部213は、無線部212から入力された無線パケットから、近接する通信セルに属する基地局装置100との間の伝搬チャネルGを取得し、取得した伝搬チャネルGを情報記憶部214に記憶させる。
なお、端末局装置200−1において、伝搬チャネル取得部213は、伝搬チャネルH及び伝搬チャネルGを取得する。また、端末局装置200−2において、伝搬チャネル取得部213は、伝搬チャネルH及び伝搬チャネルGを取得する。
【0031】
情報記憶部214には、伝搬チャネル取得部213が取得した伝搬チャネルH及び伝搬チャネルGと、受信ウエイト算出部215が算出した受信ウエイトとが記憶される。
受信ウエイト算出部215は、情報記憶部214から伝搬チャネルHを読み出し、読み出した伝搬チャネルHに対して特異値分解を用いて受信ウエイトを算出する。受信ウエイト算出部215は、算出した受信ウエイトを情報記憶部214に記憶させる。
通知部216は、情報記憶部214に記憶されている伝搬チャネルG及び受信ウエイトを読み出し、読み出した伝搬チャネルG及び受信ウエイトを含む無線パケットを生成し、生成した無線パケットを無線部212に出力する。
【0032】
以下、端末局装置200に備えられている受信ウエイト算出部215が受信ウエイトを算出する方法と、基地局装置100に備えられている送信ウエイト算出部115が送信ウエイトを算出する方法とを説明する。ここでは、基地局装置100に備えられているアレーアンテナ111のアンテナ素子数が2N個であり、端末局装置200に備えられているアレーアンテナ211のアンテナ素子数が2N個であり、それぞれの基地局装置100から送信されるストリーム数がNである場合について説明する。ストリームとは、同一時刻及び同一周波数チャネルを用いて送信することが可能な送信データストリーム数である。
【0033】
受信ウエイト算出部215は、自装置と同じ通信セルに属する基地局装置100との間の伝搬チャネルHに対して特異値分解を行う。伝搬チャネルHは、特異値分解を行うと次式(1)のように表すことができる。
【0034】
【数1】

【0035】
式(1)において、行列Uは左特異値行列であり、行列Σは固有値の平方根を対角にもつ対角行列であり、行列Vは右特異値行列である。行列U、行列Σ、及び行列Vは、次式(2)〜(4)として表される。
【0036】
【数2】

【0037】
【数3】

【0038】
【数4】

【0039】
N本のストリームを送信するこの例では、式(2)の一部の行ベクトルである次式(5)で表される行列Wが受信ウエイトとなる。すなわち、基地局装置100と端末局装置200との間の伝搬チャネルHを特異値分解して得られる行列Uの要素(成分)の一部を用いて、次式(5)によって表される行列Wが受信ウエイトとして算出される。
【0040】
【数5】

【0041】
次に、送信ウエイト算出部115が送信ウエイトを算出する方法について説明する。送信ウエイト算出部115は、近接する通信セルの端末局装置200に干渉を与えることなく、それぞれの通信セルの端末局装置200にデータを送信するための送信ウエイトを以下のように算出する。
送信ウエイト算出部115は、各端末局装置200において算出された受信ウエイト及び伝搬チャネルGを用いて、近接する通信セルの端末局装置200ごとに送信ウエイトの算出を行う。送信ウエイト算出部115は、近接する通信セルの端末局装置200に対して、受信ウエイトが適用された際の伝搬チャネル ̄Gを次式(6)を用いて算出する。ここで、式(6)において、「 ̄(オーバーライン)」が上に付されたGを「 ̄G」と表記する。以下、数式等において、「^(ハット)」や、「´(ダッシュ)」「`(グレイヴ・アクセント)」などの記号が文字の上に付されている文字を表記する場合、当該記号を文字の前に表記する。
【0042】
【数6】

【0043】
式(6)の行列 ̄Gは、式(1)と同様に特異値分解を行うことにより、次式(7)のように変換することができる。なお、式(6)は、基地局装置100−1の送信ウエイト算出部115が算出する伝搬チャネル ̄Gを示している。基地局装置100−2の送信ウエイト算出部115は、伝搬チャネルGに替えて伝搬チャネルGを用いて、伝搬チャネル ̄Gを算出する。
【0044】
【数7】

【0045】
式(7)において、行列 ̄U、行列 ̄Σ、及び行列 ̄Vは、次式(8)〜(10)として表される。
【0046】
【数8】

【0047】
【数9】

【0048】
【数10】

【0049】
ここで、送信ウエイト算出部115は、式(10)で表される行列 ̄Vの列ベクトルの一部を送信ウエイトWとする。送信ウエイトWは、次式(11)で表される。
【0050】
【数11】

【0051】
すなわち、基地局装置100と、当該基地局装置100の通信セルに近接する通信セルに属する端末局装置200との間の伝搬チャネルを特異値分解することにより、式(8)〜(10)で示されているそれぞれの行列が得られる。式(10)の得られた行列 ̄Vの要素(成分)の一部を用いて、式(11)の送信ウエイトWが得られる。
【0052】
次に、本実施形態における受信ウエイトを考慮した通信セル間の干渉抑圧方法についてタイムチャートを用いて具体的に説明する。
図3は、本実施形態における無線パケットを送信する処理を示すタイムチャートである。同図において、基地局装置100−1では端末局装置200−1宛の送信データが生起し、基地局装置100−2では端末局装置200−2宛の送信データが生起している。また、「基地局装置100−1のランダム時間」<「基地局装置100−2のランダム時間」の関係により、基地局装置100−1が最初の呼出信号を送信する場合について説明する。ここで、ランダム時間について説明すると、基地局装置100−1は乱数に基づいて設定される期間(ランダム時間)に渡ってキャリアセンス(Carrier Sense:CS)を行う。
【0053】
基地局装置100−1は、設定される期間に亘って他の信号を検出しなかった場合、すなわちアイドル中の場合、宛先アドレスと、近接する通信セル(周辺通信セル)の基地局装置100−2のアドレスと、チャネル推定用のトレーニング信号とを含む呼出信号を、時刻t31において送信する。
このとき、端末局装置200−1は、基地局装置100−1から受信した呼出信号に基づいて、伝搬チャネルHを推定し、推定した伝搬チャネルHを用いて受信ウエイトを算出する。また、端末局装置200−2は、基地局装置100−1から受信した呼出信号に基づいて、伝搬チャネルGを推定する。伝搬チャネルの推定は、例えば、受信した呼出信号に含まれるトレーニング信号と、自装置に記憶されているトレーニング信号との相関をとることにより行う。
【0054】
基地局装置100−1が呼出信号の送信を完了してから所定の期間Tが経過した後、基地局装置100−2は、基地局装置100−1と同様に、ランダムな時間間隔でキャリアセンス(CS)を行い、宛先アドレスと、近接する通信セル(周辺通信セル)の基地局装置100−2のアドレスと、チャネル推定用のトレーニング信号とを含む呼出信号を、時刻t32において送信する。
このとき、端末局装置200−1は、基地局装置100−2から受信した呼出信号に基づいて、伝搬チャネルGを推定する。また、端末局装置200−2は、基地局装置100−2から受信した呼出信号に基づいて、伝搬チャネルHを推定し、推定した伝搬チャネルHを用いて受信ウエイトを算出する。
【0055】
最後の呼出信号を受信後の所定期間(T)が経過した後の時刻t33において、端末局装置200−1は、算出した受信ウエイト及び伝搬チャネルGを含む通知信号を送信する。また、端末局装置200−2は、算出した受信ウエイト及び伝搬チャネルGを含む通知信号を送信する。このとき、端末局装置200は、通知信号に対して端末局装置200ごとに異なる互いに直交する符号(例えば、CDMA通信の拡散符号)を用いる場合、周辺通信セルの端末局装置200と同時に通知信号の送信を行うことができる。また、直交する符号を用いない場合、端末局装置200は、呼出信号のアドレス順に期間Tの間隔で順次応答信号の送信を行う。
【0056】
端末局装置200−1は伝搬チャネルHから受信ウエイトWを算出し、端末局装置200−2は伝搬チャネルHから受信ウエイトWを算出する。基地局装置100−1は、端末局装置200−2が算出した受信ウエイトWと伝搬チャネルGとを用いて、送信ウエイトWを算出する。また、基地局装置100−2は、端末局装置200−1が算出した受信ウエイトWと伝搬チャネルGとを用いて、送信ウエイトWを算出する。
そして、各基地局装置100は、算出した送信ウエイトWを用いてそれぞれの基地局装置100と同じ通信セルに属する端末局装置200に送信するデータに対して、次式(12)の信号処理を行って送信する。この送信方法を用いることで、端末局装置200において近接する通信セルの基地局装置100からの干渉を抑制することができる。
【0057】
【数12】

【0058】
式(12)において、Xは送信データを表し、X’は送信信号を表す。また、Wは、式(11)で表される送信ウエイトである。
時刻t34において、基地局装置100−1は、端末局装置200−1に送信するデータ1に対して、算出した送信ウエイトWを乗算して得られた送信信号を無線パケットとして送信する。また、基地局装置100−2は、端末局装置200−2に送信するデータ2に対して、算出した送信ウエイトWを乗算して得られた送信信号を無線パケットとして送信する。
【0059】
次に、各データの宛先の端末局装置200−1、200−2は、誤りなく無線パケット信号を復号した場合は、無線パケットを受信後の期間Tが経過した後の時刻t34に、確認信号ACKを基地局装置100に送信する。このとき、各端末局装置200は、異なる直交する符号を用いて同時に送信してもよし、呼出信号のアドレス順に期間Tの間隔で順次確認信号を送信してもよい。
【0060】
上述のように、基地局装置100は、端末局装置200で受信ウエイトWを用いて信号処理される受信信号に干渉成分が含まれないように、送信ウエイトWを算出する。そして、近接する通信セルの基地局装置100それぞれが、算出した送信ウエイトWを用いて送信を行うことにより、各端末局装置200において、近接する通信セルの基地局装置100から受ける干渉を抑圧することができる。すなわち、各基地局装置100は、近接する通信セルに属する端末局装置200が使用する受信ウエイトを考慮して、干渉を抑圧する送信ウエイトを用いることで、近接する通信セルに属する端末局装置200における干渉を抑圧することができる。このとき、基地局装置100のアンテナ自由度数を超えたアンテナ数を有する端末局装置200がある場合でも、干渉を抑圧することができる。
これにより、各通信セルの基地局装置100が同一周波数チャネル及び同一時刻で無線パケットの送信を行って伝送するデータ量を増加させ、無線通信システム1におけるスループットを向上させることができる。
【0061】
(B.第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明する。第2実施形態では、第1実施形態において端末局装置200が受信ウエイトを算出していたが、基地局装置100が端末局装置200の受信ウエイトを算出する。
【0062】
図4は、第2実施形態における基地局装置300及び端末局装置400の構成を示す概略ブロック図である。基地局装置300は、受信ウエイト算出部317を更に備えている点が、第1実施形態の基地局装置100(図2)と異なる。端末局装置400は、受信ウエイト算出部215を備えていない点が、第1実施形態の端末局装置200と異なる。第2実施形態における無線通信システム2の基地局装置300及び端末局装置400の構成を説明するにあたり、第1実施形態と同じ構成には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0063】
基地局装置300において、受信ウエイト算出部317には、通知信号取得部113から伝搬チャネルHが入力される。受信ウエイト算出部317は、第1実施形態の受信ウエイト算出部215と同様に、入力された伝搬チャネルHから特異値分解を用いて、式(5)で表される受信ウエイトを算出する。受信ウエイト算出部317は、算出した受信ウエイトを情報記憶部114に記憶させる。
【0064】
図5は、本実施形態における無線パケットを送信する処理を示すタイムチャートである。ここでは、基地局装置300−1において端末局装置400−1宛の送信データが生起し、基地局装置300−2において端末局装置400−2宛の送信データが生起し、「基地局装置300−1のランダム時間」<「基地局装置300−2のランダム時間」の関係により基地局装置300−1が最初の呼出信号を送信する場合について説明する。
【0065】
基地局装置300−1はランダムな時間間隔でキャリアセンス(CS)を行い、他の信号を検出しなかった場合、すなわちアイドル中の場合、宛先アドレスと、周辺通信セルの基地局装置300−2のアドレスと、チャネル推定用のトレーニング信号とを含む呼出信号を時刻t51において送信する。
このとき、端末局装置400−1は、基地局装置300−1から受信した呼出信号に基づいて、自装置と基地局装置300−1との間の伝搬チャネルHを推定する。また、端末局装置400−2は、基地局装置300−1から受信した呼出信号に基づいて、自装置と基地局装置300-1との間の伝搬チャネルGを推定する。
【0066】
基地局装置300−1が呼出信号の送信を完了してから所定期間Tが経過した後、基地局装置300−2も同様にランダムな時間間隔に亘ってキャリアセンス(CS)を行い、他の信号を検出しなかった場合、すなわちアイドル中の場合、宛先アドレスと、周辺通信セルの基地局110−1のアドレスを含む呼出信号を、時刻t52において送信する。
このとき、端末局装置400−1は、基地局装置300−2から受信した呼出信号に基づいて、伝搬チャネルGを推定する。また、端末局装置400−2は、基地局装置300−2から受信した呼出信号に基づいて、伝搬チャネルHを推定する。
【0067】
次に、端末局装置400−1、400−2は、最後の呼出信号を受信してから所定期間Tが経過した後の時刻t53において、通知信号を送信する。通知信号の宛先は、基地局装置300−1及び基地局装置300−2である。端末局装置400−1が送信する通知信号には、推定した伝搬チャネルGと、伝搬チャネルHとが含まれている。また、端末局装置400−2が送信する通知信号には、推定した伝搬チャネルGと、伝搬チャネルHとが含まれている。
【0068】
基地局装置300は、無線部112が端末局装置400から通知信号を受信すると、それぞれの通信セルの端末局装置400が受信の際に用いる受信ウエイトを、受信ウエイト算出部317が式(1)〜(5)を用いて算出する。
以後、時刻t54及び時刻t55における処理は、第1実施形態における図3の時刻t34及び時刻t35における処理と同じであるので、その説明を省略する。
【0069】
(C.第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態について説明する。第3実施形態における無線通信システムでは、基地局装置において送信ウエイトの算出を行う際に、複数回の送信ウエイト更新を行う例である。
【0070】
図6は、第3実施形態における基地局装置500及び端末局装置200の構成を示す概略ブロック図を示す。第3実施形態の無線通信システム3において、基地局装置500は、受信ウエイト更新部518と、送信ウエイト更新部519とを更に備える点が、第1実施形態の基地局装置100と異なる。端末局装置200は、第1実施形態の端末局装置200と同じ構成である。以下、第3実施形態における無線通信システム3の基地局装置500及び端末局装置200を説明するにあたり、第1実施形態と同じ構成には同じ符号を付してその説明を省略する。また、基地局装置500及び端末局装置200の配置は、第1実施形態において示した図1と同じ配置とする。
【0071】
基地局装置500において、受信ウエイト更新部518は、情報記憶部114に記憶されている伝搬チャネルHと、更新を行う前の受信ウエイトWと、更新を行う前の送信ウエイトWとを用いて、新たな受信ウエイトWを算出して受信ウエイトWの更新を行う。受信ウエイト更新部518は、算出した新たな受信ウエイトWを情報記憶部114に記憶させる。
送信ウエイト更新部519は、情報記憶部114に記憶されている伝搬チャネルGと、受信ウエイト更新部518が更新した受信ウエイトWとを用いて、新たな送信ウエイトWを算出して送信ウエイトWの更新を行う。送信ウエイト更新部519は、算出した新たな送信ウエイトWを情報記憶部114に記憶させる。
【0072】
第3実施形態では、送信ウエイトW及び受信ウエイトWを更新する処理が、第1実施形態に追加された処理である。したがって、追加された各ウエイトを更新する処理について説明する。ここで、式(6)における受信ウエイトWを、最初に算出された受信ウエイトWu,1とする。また、式(11)における送信ウエイトWを、最初に算出された送信ウエイトWv,1とする。
【0073】
まず、受信ウエイト更新について説明する。受信ウエイトWu,1及び送信ウエイトWv,1を用いた際の基地局装置500−1と端末局装置200−1との間の伝搬チャネル´Hは、次式(13)のように表される。なお、基地局装置500−2と端末局装置200−2とにおける処理も同様に行われるので、その説明を省略し、基地局装置500−1及び端末局装置200−1における処理を説明する。
【0074】
【数13】

【0075】
新たな受信ウエイトWu,2は、式(13)により表される伝搬チャネル´Hに対して特異値分解をすることにより算出される。伝搬チャネル´Hは、特異値分解の結果、次式(14)のように表すことができる。
【0076】
【数14】

【0077】
式(14)において、行列´Uは左特異値行列であり、行列´Σは固有値の平方根を対角にもつ対角行列であり、行列´Vは右特異値行列である。行列´U、行列´Σ、及び行列´Vは、次式(15)〜(17)として表される。
【0078】
【数15】

【0079】
【数16】

【0080】
【数17】

【0081】
ここで、式(15)で表される行列´Uが受信ウエイトWu,2となる。
以上の方法で、新たな受信ウエイトWu,2が算出され、この受信ウエイトWu,2を新たな受信ウエイトとして更新を行う。
【0082】
次に、送信ウエイトの更新方法の説明を行う。近接する通信セルの端末局装置200に対して、受信ウエイトWu,2を考慮した際の伝搬チャネル´Gは式(18)のように表される。
【0083】
【数18】

【0084】
式(18)の行列´Gに対する特異値分解の結果、行列´Gは次式(19)のように表すことができる。
【0085】
【数19】

【0086】
式(19)において、行列`Uは左特異値行列であり、行列`Σは固有値の平方根を対角にもつ対角行列であり、行列`Vは右特異値行列である。行列`U、行列`Σ、及び行列`Vは、次式(20)〜(22)として表される。
【0087】
【数20】

【0088】
【数21】

【0089】
【数22】

【0090】
式(22)で表される行列`Vが送信ウエイトWv,2となる。
以上の方法で送信ウエイトがWv,2算出され、この送信ウエイトWv,2を新たな送信ウエイトとして更新を行う。
上記と同様に、受信ウエイトWu,2を受信ウエイトWu,1に、送信ウエイトWv,2を送信ウエイトWv,1とし、受信ウエイトの更新及び送信ウエイトの更新を繰り返して用いることで、複数回に亘って受信ウエイト及び送信ウエイトの更新を行うことが可能である。
【0091】
基地局装置500は、予め定められた回数に亘って、受信ウエイト及び送信ウエイトの更新を行い、最終的に算出された送信ウエイトを用いて、自装置と同一の通信セルに属する端末局装置200に対してデータを送信する。
無線通信システム3における無線パケットを送信する処理は、第1実施形態と同様であるので、処理の説明を省略する。
なお、受信ウエイト及び送信ウエイトの更新は、更新により変化する値が予め定めた値より小さくなるまで繰り返すようにしてもよい、すなわち収束するまで繰り返して行うようにしてもよい。
【0092】
このように、繰り返して受信ウエイト及び送信ウエイトを算出することにより、近接する通信セルに属する端末局装置200に対して与える干渉を更に低減することができる。その結果、各通信セルの基地局装置500が同一周波数チャネル及び同一時刻で無線パケットの送信を行って伝送する際に、より伝送効率の高い変調方式や符号化レートを選択することができ、無線通信システム3におけるスループットを更に向上させることができる。
【0093】
(D.第4実施形態)
次に、本発明に係る第4実施形態について説明する。第4実施形態では、それぞれの基地局装置がマルチユーザMIMO通信方式を用いて複数の端末局装置に対して、同時に無線パケットを送信する。
【0094】
図7は、第4実施形態における無線通信システム4の構成例を示す概念図である。同図に示すように、無線通信システム4は、基地局装置100−1、100−2と、基地局装置100−1と無線パケット通信をする端末局装置200−1、200−3と、基地局装置100−2と無線パケット通信をする端末局装置200−2、200−4とを具備している。端末局装置200−1、200−3は、基地局装置100−1がなす通信セル101−1に属し、基地局装置100−1を介して不図示の外部のネットワークと通信を行う。端末局装置200−2、200−4は、基地局装置100−2がなす通信セル101−2に属し、基地局装置100−2を介して不図示の外部のネットワークと通信を行う。
本実施形態の無線通信システム4は、端末局装置200−3、200−4を具備している点が第1実施形態と異なる。
【0095】
また、図7に示すように、基地局装置100−1と端末局装置200−1、200−2、200−3、200−4との間のぞれぞれの伝搬チャネルをH、G、H、Gとする。また、基地局装置100−2と端末局装置200−1、200−2、200−3、200−4との間のぞれぞれの伝搬チャネルをG、H、G、Hとする。
なお、基地局装置100及び端末局装置200の構成は、図2に示した第1実施形態の基地局装置100及び端末局装置200の構成と同じであるので、その説明を省略する。
【0096】
本実施形態における受信ウエイトを考慮したセル間干渉抑圧方法についてタイムチャートを用いて具体的に説明する。
図8は、本実施形態における無線パケットを送信する処理を示すタイムチャートである。ここでは、基地局装置100−1において端末局装置200−1、200−3宛ての送信データが生起し、基地局装置100−2において端末局装置200−2、200−4宛ての送信データが生起し、「基地局装置100−1のランダム時間」<「基地局装置100−2のランダム時間」の関係により基地局装置100−1が最初の呼出信号を送信する場合について説明する。
【0097】
基地局装置100−1はランダムな時間間隔でキャリアセンス(CS)を行い、他の信号を検出しなかった場合、すなわちアイドル中の場合、宛先アドレスと、周辺通信セルの基地局装置100−2のアドレスと、チャネル推定用のトレーニング信号とを含む呼出信号を、時刻t81において送信する。
このとき、端末局装置200−1、200−3は、基地局装置100−1から受信した呼出信号に基づいて、伝搬チャネルH、Hを推定し、推定した伝搬チャネルH、Hを用いて受信ウエイトを算出する。また、端末局装置200−2、200−4は、基地局装置100−1から受信した呼出信号に基づいて、伝搬チャネルG、Gを推定する。
【0098】
基地局装置100−1が呼出信号の送信を完了してから所定の期間Tが経過した後、基地局装置100−2は、基地局装置100−1と同様に、ランダムな時間間隔でキャリアセンス(CS)を行い、他の信号を検出しなかった場合、すなわちアイドル中の場合、宛先アドレスと、周辺通信セルの基地局装置100−1のアドレスと、チャネル推定用のトレーニング信号とを含む呼出信号を、時刻t82において送信する。
このとき、端末局装置200−1、200−3は、基地局装置100−2から受信した呼出信号に基づいて、伝搬チャネルG、Gを推定する。また、端末局装置200−2、200−4は、基地局装置100−2から受信した呼出信号に基づいて、伝搬チャネルH、Hを推定し、推定した伝搬チャネルH、Hを用いて受信ウエイトを算出する。
【0099】
最後の呼出信号を受信後の所定期間(T)が経過した後の時刻t83において、端末局装置200−1〜200−4は、算出した受信ウエイト及び伝搬チャネルG〜Gを含む通知信号を送信する。通知信号には、各端末局装置200が算出した受信ウエイト及び伝搬チャネルG〜Gが含まれている。
【0100】
ここで、それぞれの端末局装置200で算出される受信ウエイトの算出方法を具体的に説明する。ここでは、基地局装置100のアンテナ数を4Nとし、端末局装置200のアンテナ数を2Nとし、各端末局装置200に送信するストリーム数はNとした場合について説明する。
伝搬チャネルHは、特異値分解を行うと式(23)〜(26)のように表すことができる。なお、伝搬チャネルH〜Hについても、伝搬チャネルHと同様に計算を行うことができるので、以下、伝搬チャネルHについて説明する。すなわち、端末局装置200−1に対する送信の処理を説明し、端末局装置200−2〜200−4に対する送信の処理の説明を省略する。
【0101】
【数23】

【0102】
【数24】

【0103】
【数25】

【0104】
【数26】

【0105】
式(24)における行列U´は左特異値行列であり、式(25)における行列Σ´は固有値の平方根を対角にもつ対角行列であり、式(26)における行列V´は右特異値行列である。各端末局装置200が受信するストリーム数がNであるこの例では、式(24)の一部である次式(27)が受信ウエイトW´となる。
【0106】
【数27】

【0107】
ここで、近接する通信セルの端末局装置200−1〜200−4で算出された受信ウエイトを、行列W´、W´、W´、W´とする。
【0108】
また、各端末局装置200は、通知信号に対して端末局装置200ごとに異なり直交する符号(例えば、CDMA通信の拡散符号)を用いる場合、周辺通信セルの端末局装置200と同時に通知信号の送信を行う。各端末局装置200は、通知信号に対して直交する符号を用いない場合、呼出信号のアドレス順に期間Tの間隔で順次応答信号の送信を行う。
【0109】
各基地局装置100は、各端末局装置200から通知信号を受信すると、各端末局装置200が算出した受信ウエイト及び伝搬チャネルG〜Gを用いて、送信ウエイトの算出を行う。
ここで、それぞれの基地局装置100における送信ウエイトの算出方法を具体的に説明する。基地局装置100−1、100−2における送信ウエイトの算出方法は、同じであるので、以下、基地局装置100−1における算出方法を示す。
【0110】
近接する通信セルの複数の端末局装置200に対して、受信ウエイトを考慮した際の伝搬チャネル^Gは、次式(28)のように表される。
【0111】
【数28】

【0112】
式(28)で表される伝搬チャネル^Gは、特異値分解を行うことにより式(29)〜(32)のように変換することができる。
【0113】
【数29】

【0114】
【数30】

【0115】
【数31】

【0116】
【数32】

【0117】
式(30)における行列^Uは左特異値行列であり、式(31)における行列^Σは固有値の平方根を対角にもつ対角行列であり、式(32)における行列^Vは右特異値行列である。端末局装置200−1、200−3それぞれにストリーム数Nの送信を行うこの例では、式(32)で表される行列^Vの一部が、近接する通信セルの端末局装置200への干渉を抑圧する送信ウエイトW´となる。送信ウエイトW´は式(33)で表される。
【0118】
【数33】

【0119】
各基地局装置100は、マルチユーザMIMO通信を行うために、データを送信する対象の端末局装置200ごとに送信ウエイトを算出する。ここでは、基地局装置100−1が端末局装置200−3に対する送信ウエイトを算出する処理を説明する。
近接する通信セルの端末局装置200への干渉を抑圧する送信ウエイトW´を用いたときの基地局装置100−1から端末局装置200−3への伝搬チャネルH´は、次式(34)のように表される。
【0120】
【数34】

【0121】
式(34)で表される行列H´は、特異値分解を行うことにより、式(35)〜(38)のように変換することができる。
【0122】
【数35】

【0123】
【数36】

【0124】
【数37】

【0125】
【数38】

【0126】
式(36)における行列U´は左特異値行列であり、式(37)における行列Σ´は固有値の平方根を対角にもつ対角行列であり、式(38)における行列V´は右特異値行列である。ここで、式(38)で表される行列V´が自装置と同一の通信セルに属する端末局装置200−1以外の端末局装置200に対する干渉を抑圧する送信ウエイトW´´となる。
以上より、基地局装置100−1から端末局装置200−1に対してマルチユーザMIMO通信を行い、かつ近接する通信セルの端末局装置200に対する干渉を抑圧するウエイトは次式(39)で算出される送信ウエイトW´´´となる。
【0127】
【数39】

【0128】
同様に、基地局装置100−1、100−2では、自装置と同じ通信セルに属する端末局装置200ごとに、送信ウエイトW´´´(i=1,2,3,4)を算出し、算出した送信ウエイトW´´´と送信データとから送信信号を算出する。
時刻t84において、基地局装置100−1は、端末局装置200−1宛ての送信データ1−1と送信ウエイトW´´´とから算出した送信信号を含む無線パケットと、端末局装置200−3宛ての送信データ1−2と送信ウエイトW´´´とから算出した送信信号を含む無線パケットとを、同時に送信する。このとき、基地局装置100−2は、端末局装置200−2宛ての送信データ2−1と送信ウエイトW´´´とから算出した送信信号を含む無線パケットと、端末局装置200−4宛ての送信データ2−2と送信ウエイトW´´´とから算出した送信信号を含む無線パケットと、を同時に送信する。
【0129】
次に、宛先の端末局装置200−1〜200−4は、誤りなく無線パケットを復号した場合、無線パケットを受信した後の期間Tが経過した後の時刻t85において、確認信号ACKを基地局装置100に送信する。このとき、端末局装置200は、それぞれが異なり直交する符号を用いて確認信号ACKを同時に送信してもよいし、呼出信号のアドレス順に、期間Tの間隔で順次確認信号ACKを送信してもよい。
【0130】
上述のように、各基地局装置100がマルチユーザMIMO通信を行う場合においても、近接する通信セルに属する端末局装置200が使用する受信ウエイトを考慮して、干渉を抑圧する送信ウエイトを算出し、近接する通信セルに属する端末局装置200における干渉を抑圧することができる。
これにより、各通信セルの基地局装置100が同一周波数チャネル及び同一時刻で無線パケットの送信を行って伝送するデータ量を増加させ、無線通信システム4におけるスループットを向上させることができる。
【0131】
なお、本実施形態において、第3実施形態において説明したように、送信ウエイト及び受信ウエイトの更新を繰り返して行うようにしてもよい。
【0132】
なお、上述の各実施形態において、基地局装置は、端末局装置から受信する通知信号に含まれる伝搬チャネルHを用いて送信ウエイト等を算出する構成について説明した。しかし、これに限ることなく、端末局装置は、通知信号にトレーニング信号等を含めて送信し、基地局装置において伝搬チャネルHを推定し、推定した伝搬チャネルHを用いて送信ウエイト等を算出するようにしてもよい。
【0133】
なお、本発明における基地局装置及び端末局装置の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、受信ウエイト及び送信ウエイトを算出する処理をコンピュータシステムに行わせてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0134】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。更に、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組合せで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0135】
1,2,3,4…無線通信システム
100,100−1,100−2,300,300−1,300−2,500,500−1,500−2…基地局装置
111,211…アレーアンテナ
112,212…無線部
113…通知信号取得部
114,214…情報記憶部
115…送信ウエイト算出部
116…ネットワークインターフェース
200,200−1,200−2,200−3,200−4,400,400−1,400−2…端末局装置
213…伝搬チャネル取得部
215,317…受信ウエイト算出部
216…通知部
518…受信ウエイト更新部
519…送信ウエイト更新部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局装置及び端末局装置を有する通信セルが近接して複数存在する無線通信システムにおける無線通信方法であって、
前記基地局装置と、該基地局装置が属している通信セルの前記端末局装置との間の第1の伝搬チャネルを推定する第1の伝搬チャネル推定ステップと、
前記基地局装置と、該基地局装置が属している通信セルに近接する通信セルに属している前記端末局装置との間の第2の伝搬チャネルを推定する第2の伝搬チャネル推定ステップと、
前記第1の伝搬チャネルを示す行列を特異値分解して算出される左特異値行列に基づいて、前記端末局装置が用いる受信ウエイトを算出する受信ウエイト算出ステップと、
前記第2の伝搬チャネルを示す行列と、前記受信ウエイトを乗じて得られる行列を特異値分解して算出される右特異値行列に基づいて、前記基地局装置が用いる送信ウエイトを算出する送信ウエイト算出ステップと
前記基地局装置から該基地局装置と同じ通信セルに属している前記端末局装置に送信するデータに前記送信ウエイトを乗じた送信信号を送信する送信ステップと
を有することを特徴とする無線通信方法。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信方法であって、
前記基地局装置が前記送信ウエイトを用い、前記端末局装置が前記受信ウエイトを用いて通信をする際における前記基地局装置と該基地局装置と同じ通信セルに属している前記端末局装置との間の第3の伝搬チャネルを推定する第3の伝搬チャネル推定ステップと、
前記第3の伝搬チャネルを示す行列を特異値分解して算出される左特異値行列に基づいて、前記端末局装置の受信ウエイトを更新する受信ウエイト更新ステップと、
前記第2の伝搬チャネルを示す行列と、前記更新された受信ウエイトを乗じて得られる行列を特異値分解して算出される右特異値行列に基づいて、前記基地局装置が用いる送信ウエイトを更新する送信ウエイト更新ステップと、
を更に有し、
前記送信ステップにおいて、前記データに前記更新した送信ウエイトを乗じて前記送信信号を算出する
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載の無線通信方法であって、
前記基地局装置がマルチユーザMIMO通信方式を用いる場合、
前記送信ウエイト算出ステップにおいて、前記基地局装置と該基地局装置が属している通信セルに近接する通信セルに属している前記端末局装置が用いる前記受信ウエイトと、前記第2の伝搬チャネルとを乗じて得られる行列を特異値分解して算出される右特異値行列に基づいて算出される第1の送信ウエイトと、前記第1の伝搬チャネルとを乗じて得られる行列を特異値分解して算出される右特異値行列に基づいて算出される第2の送信ウエイトと乗じて、前記送信ウエイトを算出する
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項4】
基地局装置及び端末局装置を有する通信セルが近接して複数存在する無線通信システムであって、
前記端末局装置は、
自装置と自装置と同じ通信セルに属している前記基地局装置との間の第1の伝搬チャネルを推定するとともに、自装置が属する通信セルに近接する通信セルに属している前記基地局装置との間の第2の伝搬チャネルを推定する伝搬チャネル取得部と、
前記第1の伝搬チャネルを示す行列を特異値分解して算出される左特異値行列に基づいて、自装置の受信ウエイトを算出する受信ウエイト算出部と、
前記第2の伝搬チャネル及び前記受信ウエイトを含む通知信号を前記基地局装置に送信する第1の無線部と、を備え、
前記基地局装置は、
前記第2の伝搬チャネルを示す行列と前記受信ウエイトを乗じて得られる行列を特異値分解して算出される右特異値行列に基づいて、自装置の送信ウエイトを算出する送信ウエイト算出部と、
自装置と同じ通信セルに属している前記端末局装置宛のデータに前記送信ウエイトを乗じて算出した送信信号を送信する第2の無線部と、を備える
ことを特徴とする無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−30896(P2013−30896A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164281(P2011−164281)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】