説明

無線通信端末、及び無線通信システム

【課題】通信相手との間の距離を正確に取得することが可能な無線通信端末を提供する。
【解決手段】無線通信端末は、指向方向が複数の向きに変更されるアンテナを備えている。無線通信端末は、アンテナの指向方向が異なる状態でそれぞれ、アンテナを介して、センサ端末と無線信号の送受信を行う(S102,S103)。そして、無線通信端末は、無線信号を送信してから、センサ端末から送り返された無線信号を受信する時点までの時間T1を計時して(S104)、計時した複数の時間のうち、最短時間に基づき、センサ端末との間の距離を測定する(S109)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信相手との間の距離を測定する機能を有する無線通信端末、及びこれを備えた無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2つの無線端末の間の距離を測定する機能を有する無線通信システムが開示されている。この無線通信システムでは、一方の無線端末が他方の無線端末へパケットを送信すると、他方の無線端末は、パケットを受信してから所定の時間が経過した後に、パケットを返送する。一方の無線端末は、返送されたパケットを受信し、パケットを送信してからパケットを受信するまでの時間から所定の時間を減算することで、パケットの往復時間を求め、当該往復時間に基づき、2つの無線端末間の距離を測定する。
【0003】
特許文献1に開示されている無線通信システムは、誤った距離が出力されることを防止するため、パケットの信号強度等が信憑性のあるときのみ測距を行う。具体的には、パケットの信号検出強度が適正な範囲に収まっているか否かのチェックやCRC(Cyclic Redundancy Check)チェックを行うことによって、パケットの信憑性を判別し、信憑性が高いと判別してから距離の計算を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−258009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される無線通信システムにおいて、無線端末の間の距離を正確に測定するためには、無線端末が送信する電波の内、直接波を受信して測距に用いる必要がある。しかし、屋内など電波を反射する壁面、床、天井などの壁材で囲まれた空間で用いる場合には、無線端末の配置関係やアンテナの指向性等により、反射波の強度が強くまた通信品質が良い場合があり、反射波を信頼度の高いものとして測距に用いてしまう場合が考えられる。この場合、反射経路と端末間直線距離の差分が計測値に含まれるため、無線端末間の距離を正確に測定することができない。
【0006】
さらに、誤った距離を測定した場合、測定した距離に基づいて何らかの処理・制御を行った場合に、処理・制御の結果も誤ったものとなる虞がある。例えば、室内に設置された空調設備などの設備機器が、距離を測定し、測定した距離に基づいて動作を制御する場合に、測定した距離が誤っていると、不適切な制御が行われる虞がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたものであり、通信相手との間の距離を正確に取得することが可能な無線通信端末、及びこれを備えた無線通信システムを提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、通信相手との間の距離を正確に測定し、正確な測定値に基づいて適切な制御を可能とすることを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の観点に係る無線通信端末は、指向方向が複数の向きに変更されるアンテナを備え、アンテナの指向方向が異なる状態でそれぞれ、該アンテナを介して、通信相手と無線信号の送受信を行う無線通信手段と、
前記無線通信手段が前記無線信号を送信してから、前記通信相手から送り返された前記無線信号を受信する時点までの時間を計時する計時手段と、
前記計時手段が計時した複数の時間のうち、最短時間に基づき、前記通信相手との間の距離を測定する距離測定手段と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無線通信端末と通信相手との間の距離の測定に、両者を結ぶ直線上を進行した無線信号の伝播時間が用いられる可能性が高くなる。これにより、無線通信端末と通信相手との間の距離を正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る空調システムが配置された室内の状況を示す図である。
【図2】空調機を拡大して示す斜視図である。
【図3】図2の範囲Aを拡大して示す斜視図である。
【図4】実施の形態に係る無線通信システムの構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示す基地局の構成を示すブロック図である。
【図6】アンテナの構造を示す概略図である。
【図7】アンテナの指向方向を示す概略図である。
【図8】無線通信端末とセンサ端末との間で送受信が行われる電波と、アンテナの指向方向との関係を示す概略図である。
【図9】無線通信端末とセンサ端末との間で送受信が行われる電波と、アンテナの指向方向との関係を示す概略図である。
【図10】電波の伝播距離と、電波の伝播時間が検出される頻度との関係を示す図である。
【図11】電波の伝播距離と、電波の伝播時間が検出される頻度との関係を示す図である。
【図12】端末コントローラで実行される測距処理(センサ端末との距離を測定する処理)のフローチャートである。
【図13】設備コントローラで実行される測位処理(センサ端末の位置を求める処理)のフローチャートである。
【図14】無線通信端末の位置座標を示す図である。
【図15】空調機を拡大して示す斜視図である。
【図16】図15の範囲Aを拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の第1の実施形態に係る無線通信システムを、空調システムに適用した例に基づいて説明する。
【0013】
本実施形態に係る空調システム1は、図1に示すように、空調機2(2a〜2d)と、無線通信端末3(3a〜3d)と、センサ端末4(4a〜4c)と、設備コントローラ5とを備える。
【0014】
図1の例では、空調機2(2a〜2d)は4台設置され、無線通信端末3(3a〜3d)は、各空調機2に対して1台ずつ設置されている。各無線通信端末3は、室内のフロアー上に分散して設置される3台のセンサ端末4(4a〜4c)と、室内の壁面に設置される1台の設備コントローラ5と、電波により、無線通信を行う。
【0015】
図2に示すように、空調機2(2a〜2d)は、室内の天井面に固定される本体部20を有している。本体部20は、4つの空気吹出口20aを有している。各空気吹出口20aには、ルーバー(細長い板)21が取り付けられている。図3は、図2の範囲Aを拡大して示しており、ルーバー21は、空気吹出口20aの外縁に支持される一端21aを回転中心として、矢印方向Bに角度が可変(回動可能)に設けられている。ルーバー21が回動することにより、空気吹出口20aから吹き出される空気の向きが変更される。以下、ルーバ21の一端21aを回動軸21aと記す。
【0016】
図1に示す無線通信端末3(3a〜3d)は、図4に示すように、端末コントローラ30と、ルーバー制御部31と、基地局32と、アンテナ33とを備えている。なお、端末コントローラ30とルーバー制御部31とは、空調処理を実行するために空調機2に本来的に備えられている構成であり、その機能を無線通信端末3の一部として使用するものである。
【0017】
端末コントローラ30は、空調機2を制御するために設けられているものであり、設備コントローラ5とネットワーク7を介して通信を行い、設備コントローラ5からの指示に従って、空調機2の空気温度、風量等を制御し、また、ルーバー制御部31を介してルーバー21の角度・回動を制御する。また、端末コントローラ30は、基地局32に指示して、各センサ端末4との距離を測定させる。
【0018】
ルーバー制御部31は、端末コントローラ30の制御に従って、風向きを制御するために、或いは、センサ端末4までの距離を正確に測定するために、ルーバー21の角度を調整(変更)するためのものであり、角度調整部として機能する。
【0019】
基地局32は、無線通信手段として通信相手であるセンサ端末4との間で電波による無線通信を行う装置であり、図5に示すように、信号処理回路321、送信回路323、受信回路324を備える。
【0020】
信号処理回路321は、無線通信手段、計時手段、距離測定手段等として機能するものである。具体的には、信号処理回路321は、プロセッサ、メモリ等から構成され、送信対象パケットを生成して送信回路323に供給し、受信回路324から受信パケットが供給され、受信パケットを処理する。
【0021】
また、信号処理回路321は、タイマ322を備え、タイマ322と共に計時手段として機能し、計測時間に基づいて、各センサ端末4までの距離を測定(計算)し、端末コントローラ30、ネットワーク7を介して設備コントローラ5に通知する。信号処理回路321は、センサ端末4までの距離を測定する際の信号処理回路321での処理時間T2と、センサ端末4での処理時間T3と、を予め記憶している。処理時間T2とT3の詳細については後述する。
【0022】
送信回路323は、信号処理回路321から送信パケットが提供され、ウルトラワイドバンドインパルスラジオ(以下、UWB−IR)方式により変調し、アンテナ33を介して送信する。
【0023】
受信回路324は、アンテナ33を介して電波を受信し、増幅し、UWB−IR方式により復調して、受信パケットを再生し、再生した受信パケットを信号処理回路321に供給する。
【0024】
アンテナ33は、図6に示すように、給電点33aから2つの直線状のアンテナエレメント33bが左右対称に延びるダイポールアンテナから構成される。2つのエレメント33bの長さの合計L1は、センサ端末4との間で送受信が行われる電波の半波長となるが広帯域なUWB−IR方式の電波を効率よく送受信するために実際のエレメント形状は広帯域化のためテーパー形状やその他の形状をとる場合もある。なお、図6において、Y軸は、エレメント33bが延びる方向を示し、Z軸はY軸と直交する高さ方向を示し、X軸はY軸及びZ軸と直交する方向を示している。
【0025】
アンテナ33は、図7(a)、(b)に示すように、Y軸(エレメント33bが延びる方向)にほぼ直角な方向に、Y軸を中心としてほぼ均一に、指向方向Hを有している。
【0026】
アンテナ33は、図3に示すように、回動軸21aに直交する向きにルーバー21に装着されている。このため、ルーバー21の回動に伴ってアンテナ33の指向方向も相対的に変化する。
【0027】
図4に示すように、設備コントローラ5は、入力装置50と、マスタコントローラ51と、親局52とを備えている。
【0028】
入力装置50は、ユーザによって操作される電源ボタン、動作モード設定ボタン、温度設定ボタン、等を備え、種々の設定及び指示を入力する。電源ボタンの操作により、この空調システム1の電源がON・OFFされる。動作モード設定ボタンの操作により動作モードが設定される。また、温度設定ボタンの操作により、目標温度等が設定される。
【0029】
マスタコントローラ51は、ネットワーク7を介して各無線通信端末3の端末コントローラ30に接続され、各センサ端末4の位置を測定(特定)する位置測定手段として機能すると共に4台の空調機2を統合的に制御する制御手段として機能する。具体的には、マスタコントローラ51は、各無線通信端末3から各センサ端末4までの距離を取得することにより、各センサ端末4の位置を特定する。マスタコントローラ51は、特定した各センサ端末4の位置と各センサ端末4から提供される測定情報に基づいて、空調機2を制御する。
【0030】
親局52は、センサ端末4が無線送信して来る情報を受信して、マスタコントローラ51に供給する。
【0031】
センサ端末4(4a〜4c)は、センサ機能と無線機能とを備える。センサ端末4は、空調機2が配置された室内の任意の位置に配置され、温度、人の在否、その他の室内の環境を測定し、測定データを親局52に送信する。また、センサ端末4は、各基地局32の通信相手となって、距離測定用の問い合わせに応答して、応答パケットを各基地局32に返信する。
【0032】
以上の構成を有する空調システム1において、各無線通信端末3は、各センサ端末4と交信して、該センサ端末4までの距離を測定し、設備コントローラ5に通知する。この際、無線通信端末3は、指向方向変更手段を構成するルーバー制御部31によりルーバー21の角度を変更させることによりアンテナ33の指向方向Hを変更しつつ、送信パケットをセンサ端末4に向けて複数回送信し、センサ端末4からの返信パケットを受信するまでの伝播時間を取得し、取得した複数の伝播時間のうち、最短の伝播時間に基づき、センサ端末4との間の距離を求める。この測距処理の概略を図8〜11を参照して説明する。
【0033】
図8,9は、センサ端末4(4a〜4c)から送信された電波A,B、Cが異なる経路を通ってアンテナ33に到達する様子を模式的に示している。電波Aは、無線通信端末3とセンサ端末4とを結ぶ直線上を進行してアンテナ33に受信されている。この結果、電波Aには、伝播経路長に応じた減衰γaが生じている。また、電波B,Cは、壁面によって反射された後に、アンテナ33に受信されている。この結果、電波Bでは、伝播経路長に応じた減衰γbに加えて、反射減衰αが生じ、また、電波Cでは、伝播経路長に応じた減衰γcに加えて、反射減衰2αが生じている。以下では、電波Aを直接波Aと記し、電波B,Cを反射波B,Cと記す。
【0034】
図8に示す例では、直接波Aは、感度最小の角度、即ち、アンテナエレメント33bとほぼ平行な方向からアンテナ33に入射している。これに対して、反射波B,Cは、アンテナ33の感度が高い角度(アンテナエレメント33bにほぼ直角な方向)から入射している。このため、反射波B,Cが、直接波Aよりも強く検出され、受信回路324の受信アンプのゲインが反射波Bの強度に基づいて調整され、反射波Bが距離測定に用いられる確率が高くなる。このよう測距処理が繰り返されると、図10に示すように、反射波B,Cが直接波Aに比して高い頻度で距離の測定に使用され、センサ端末4までの距離が誤って計測される可能性が高い。
【0035】
無線通信端末3(3a〜3d)からセンサ端末4(4a〜4c)に送信される電波に関しても同様の問題が発生する可能性がある。
【0036】
これに対して、アンテナ33の向きを90°変更した図9に示す配置では、直接波Aが、感度が高い直角方向からアンテナ33に入射し、反射波B,Cは、感度が低い角度から入射する。このため、直接波Aが、反射波よりも強く検出される。受信アンプのゲインは直接波Aの強度に基づいて調整される。このため、図11に示すように、直接波Aが反射波B,Cに比して高い頻度で距離の測定に使用され、無線通信端末3(3a〜3d)からセンサ端末4(4a〜4c)までの距離は正しく計測される可能性が高い。
【0037】
以上、図8〜図11を参照して説明したように、アンテナ33の向きとセンサ端末4の位置との関係によっては、距離Dを誤って測定する可能性がある。アンテナ33とセンサ端末4の位置関係が固定される場合には、アンテナ33の向きを適切に設置すれば、問題は解決されるが、センサ端末4が任意の位置に設置される場合或いは移動する場合には、位置関係を固定できない。
【0038】
一方、図8及び図9に示すように、アンテナ33の向きを変化させた前後では、距離Dの計算に使用される電波は異なる。このため、指向方向Hを変更し、変更の前後で伝播時間を計測することで、直接波Aの伝播時間を取得する可能性を高めることができる。そして、得られた複数の伝播時間のうち最短の伝播時間を選択すれば、無線通信端末3とセンサ端末4との間の直線距離に対応する直接波Aの伝播距離に基づいて距離Dが算出される可能性が高まる。
【0039】
そこで、本実施形態の無線通信端末3は、アンテナ33が設置されたルーバー21の向きを変更しながら距離の測定を実行することにより、正確に距離Dを測定する。
【0040】
次に、無線通信端末3が、アンテナ33の向きを変更しながら実行する測距処理を、図12のフローチャートを参照して具体的に説明する。
【0041】
なお、以下では、理解を容易とするため、無線通信端末3aが、センサ端末4aとの距離を測定する処理を例として説明する。
【0042】
図12の処理は、例えば、ユーザが設備コントローラ5の入力装置50を操作することによって、空調システム1の電源をONした際に、マスタコントローラ51が、初期化処理の一部として無線通信端末3の端末コントローラ30に指示して実行させる。
【0043】
端末コントローラ30は、マスタコントローラ51の指示に応答して、基地局32に測距処理の開始を指示する。
【0044】
この指示に応答して、基地局32の信号処理回路321は、図12の処理を開始させ、まず、端末コントローラ30を介してルーバー制御部31に、ルーバー21をホームポジション(例えば、全閉状態或いは全開状態)に制御させる(ステップS101)。
【0045】
続いて、信号処理回路321は、距離測定用の所定のメッセージにセンサ端末4aのアドレスを宛先アドレス、自己のアドレスを送信元アドレスとして付加して送信パケットを生成し、送信回路323に供給する(ステップS102)。また、タイマ322を起動する。送信回路323は、供給された送信パケットにUWB−IR変調を施し、アンテナ33から送信する(ステップS102)。
【0046】
センサ端末4aは、無線通信端末3aから送信されたパケットを受信すると共に、内部タイマを起動する。さらに、センサ端末4aは、受信したパケットを復調し、宛先アドレスが自己宛であることを検出し、所定の返信用メッセージに無線通信端末3aのアドレスを送信アドレス、自己のアドレスを送信元アドレスとして付加して返信パケットを生成する。センサ端末4aは、内部タイマが一定時間を計時したタイミングで、返信パケットをUWB−IR方式で送信する。
【0047】
無線通信端末3aの受信回路324は、センサ端末4aから送信された返信パケットをアンテナ33を介して受信し、増幅し、復調し、返信パケットを再生して信号処理回路321に供給する(ステップS103)。無線通信端末3が受信した電波には直接波や反射波が含まれているが、最も強い受信信号に応じて増幅率が設定され、他は微弱信号として無視される。
【0048】
信号処理回路321は、受信回路324から供給されたパケットを解析して、返信パケットであることを判別し、タイマ322を停止し、カウント時間、即ち、伝播時間T1を記憶する(ステップS104)。
【0049】
次に、信号処理回路321は、伝播時間T1の測定処理を所定回数行ったか否かを判別する(ステップS105)。
【0050】
測定回数が所定回数に達していないと判別した場合(ステップS105;No)、信号処理回路321は端末コントローラ30を介してルーバー制御部31に、ルーバー21の角度を所定角度変更させる(ステップS106)。これにより、ルーバー21は、例えば図3の実線に示す状態から破線に示す状態に変更される。ルーバー21の角度が変化することでアンテナ33の向きも変化し、アンテナ33の指向方向Hも変更される。
【0051】
次に、フローは、ステップS102にリターンし、基地局32は上述と同様の動作を繰り返し、伝播時間T1を測定する(ステップS102〜S106)。この結果、アンテナ33の指向方向Hが複数の向きに変更され、指向方向Hが変更されるたびに、伝播時間T1が測定される。
【0052】
ステップS105で、伝播時間T1が所定回数測定されたと判断されると(ステップS105;Yes)、信号処理回路321は、ステップS104で記憶した複数の伝播時間T1のうち、最短の伝播時間T1を特定する(ステップS107)。なお、異常な最小値を排除するため、適当なチェック処理を加えてもよい。最短伝播時間は、正常範囲内の伝播時間のうちの最小値の意味である。
【0053】
次に、信号処理回路321は、特定した最短の伝播時間T1から、予め設定されている時間T2と時間T3を減算し、無線通信端末3aのアンテナ33とセンサ端末4aのアンテナとの間での伝播の伝播時間T(=T1−T2−T3)を求める(ステップS108)。
【0054】
ここで、時間T2は、センサ端末4aが送信パケットをアンテナで受信してから、返信パケットをアンテナから出射するまでの時間に相当し、予め求められてメモリに格納されている。また、時間T3は、信号処理回路321が、タイマ322を起動してから、送信パケットがアンテナ33から送信されるまでに要する時間T31と、返信パケットをアンテナ33で受信してから、信号処理回路321が再生パケットが返信パケットであることを判別し、タイマ322を停止するまでに要する時間T32と、の和(T3=T31+T32)であり、予め測定され、メモリに格納されている。
【0055】
次に、信号処理回路321は、D=T・C/2を、センサ端末4aまでの距離Dとして求める(ステップS109)。なお、Cは予めメモリ時格納されている定数である。
【0056】
次に、信号処理回路321は、ステップS109で計算した距離Dを、端末コントローラ30及びネットワーク7を介して、設備コントローラ5のマスタコントローラ51に送信する(ステップS110)。
【0057】
設備コントローラ5は、通知された無線通信端末3aとセンサ端末4aとの距離Dを内部メモリに記憶する。
【0058】
設備コントローラ5のマスタコントローラ51は、同様にして、無線通信端末3aに、センサ端末4bとの距離及びセンサ端末4cとの距離を測定させる。さらに、無線通信端末3b〜3dにも、センサ端末4a〜4cとの距離を測定させる。
【0059】
マスタコントローラ51は、一連の測距処理が終了すると、求められた距離Dに基づいて各センサ端末4(4a〜4c)の位置を求めるために、図13に示す処理を開始する。
【0060】
まず、マスタコントローラ51は、各無線通信端末3(3a〜3d)の位置を内部メモリから読み出す(ステップS201)。例えば、図1に示す室内空間に、図14に示すような座標系を設定し、各無線通信端末3a〜3dの座標(Ua,Va,Wa)〜(Ud,Vd,Wd)を予め求めておき、内部メモリに格納しておく。マスタコントローラ51は、この座標を内部メモリから読み出す。
【0061】
次に、マスタコントローラ51は、センサ端末4のいずれかを特定する(ステップS202)。
【0062】
次に、マスタコントローラ51は、特定したセンサ端末4(ここでは、4aとする)に関し、求められた距離Da〜Ddを読み出して、各無線通信端末3a〜3dの位置及び読み出した距離Da〜Ddから、三角測量の要領で、センサ端末4aの三次元的な位置(座標)を求める(ステップS203)。なお、4つ以上の距離のうちから3つを選択して位置をもとめてもよい。
【0063】
次に、マスタコントローラ51は、全てのセンサ端末4の位置を特定したか否かを判別し(ステップS204)、未特定のセンサ端末が残っていれば(ステップS204;No)、ステップS202にリターンし、次のセンサ端末4について同様の処理を実行する。
【0064】
全てのセンサ端末4の位置を特定すると(ステップS204;Yes)、センサ端末4a〜4cの位置を記憶する(ステップS205)。
【0065】
設備コントローラ5は、算出されたセンサ端末4の位置(座標)と、センサ端末4a〜4cから送信されてくる温度、人の存在・不存在を示す情報等とに基づき、例えば、室内の温度分布、人の位置などを求め、設定・動作モードなどに従って、例えば、センサ端末4の位置が目的温度となるように、空調機2の作動を制御する。
【0066】
本実施の形態によれば、ルーバー21を稼働することによりアンテナ33の指向方向Hを変更し、その度に、無線通信端末3とセンサ端末4との間で電波を送受信して、伝播時間を取得し、取得した伝播時間のうち、最短の伝播時間に基づき、無線通信端末3とセンサ端末4との間の距離を計算する。この結果、距離の計算に直接波の伝播時間が用いられて、無線通信端末3とセンサ端末4との間の距離が正確に計算される可能性が高くなる。これにより、測距精度が向上して、無線通信端末3とセンサ端末4との間の距離、ひいては、センサ端末4の位置を正確に取得することが可能となる。そして、この位置を用いて、空調機2の作動を制御することにより、空調機2を適切及び効率的に稼働させることが可能となる。
【0067】
また、無線通信端末3とセンサ端末4との間の通信方式としてUWB−IR方式を採用していることで、無線通信端末3とセンサ端末4との間では、短いインパルス状の電波の送受信が行われる。これにより、直接波の伝播時間と反射波の伝播時間との相違が明確に捉えられ、無線通信端末3とセンサ端末4との間の正確な距離を取得する上で有利になる。
【0068】
また、アンテナ33の指向方向Hを変更させるための手段として、既存設備の稼動部である空調機2のルーバー21を用いているため、空調システム1の製造コストを安価に抑える上で有利となる。
【0069】
本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変更することが可能である。
【0070】
ルーバー21に対するアンテナ33の取り付け角度等も任意であるが、ルーバー21の角度変更に伴ってアンテナ33の指向方向Hが変化するように、回動軸21aに直交する方向に配置されることが望ましい。
【0071】
上記第1の実施の形態では、アンテナ33の指向方向Hを変更するため、アンテナ33をルーバー21に固定したが、アンテナの指向方向Hを変更する手段は任意である。例えば、他の既存の可動部に配置してもよい。また、専用の可動部を設置し、そこに配置してもよい。また、アンテナ33は、ダイポールに限らず、所定の指向特性を有するものであっても良い。
【0072】
(第2実施形態)
第1実施形態では、指向方向変更手段を構成するルーバー制御部31とルーバー21とが、アンテナ33の向きを物理的に変更することによりアンテナの指向方向を変更したが、アンテナの指向方向を実質的に変更できるならば、変更するための手法は任意である。
【0073】
例えば、指向方向変更手段が、アンテナ33の位置自体は変更せずに、アンテナ33の周囲の通信環境(電波の伝播環境)を変更することにより、アンテナ33の指向方向Hを実質的に変更することも可能である。
【0074】
例えば、図15,16に示すように、アンテナ33を、ルーバー21の近傍に設け、ルーバー21を金属等の導体または誘電体から構成してもよい。或いは、ルーバー21の表面に金属箔や金属板等の導体箔(導体板)や誘電体膜(誘電体板)を設置してもよい。この構成によれば、ルーバー21の角度が図16の矢印方向Bに変更されることに応じて、アンテナ33の周囲に生じる電界の分布(電場の形状)が変化し、その結果、アンテナ33の指向方向Hが変更される。この場合には、アンテナ33がルーバー21から離隔する距離L2は、無線通信端末3とセンサ端末4との間で送受信が行われる電波の半波長よりも短く設定されることが好ましい。このようにすることで、ルーバー21が稼働することに応じて、アンテナ33の指向方向Hを確実に変更させることができる。
【0075】
上記実施の形態においては、無線通信端末3に1つのアンテナを配置したが、図15に示すように、2つのアンテナ33を設置することで、多くの角度からの電波を受信できるように構成してもよい。さらに、一のアンテナ33をルーバー21に固定し、他のアンテナ33をルーバー21の近傍に配置する等してもよい。
【0076】
上記実施の形態においては、無線通信端末3とセンサ端末4との距離を、空調システム1の電源投入時に実行したが、距離を測定するタイミング自体は任意である。例えば、空調システム1の電源投入後一定時間経過した時に、距離を測定する動作をおこなってもよい。また、電源投入後、周期的に測定する等してもよい。
【0077】
また、図12のステップS101で、ルーバー21をホームポジションに移動したが、ステップS101を除去し、電源投入時のルーバー21の位置から測定動作を開始してもよい。
【0078】
また、図12のフローチャートに示す測定手順は、一例であり、同様の測定結果が得られるならば、任意に変更可能である。また、ルーバー21の角度の変更回数は、1回あたりの変更角度等は任意である。例えば、1回だけ90°変更するようにしてもよい。
【0079】
また、ルーバー21が停止した状態で、距離(伝播時間)を測定する必要はなく、ルーバー21を回動させながら、距離を測定してもよい。
【0080】
センサ端末4までの距離を測定するためにルーバー21を稼働するのではなく、ルーバー21を稼働する必要が生じたときに、距離の測定を自動的に開始するようにしてもよい。この場合、例えば、端末コントローラ30は、ルーバー制御部31にルーバー21の稼働を指示した際に、併せて、基地局32に距離の測定を指示する。そして、基地局32は、指示に応答して、上述と同様にして各センサ端末4までの距離を求めて、マスタコントローラ51に通知する。
【0081】
また、無線通信端末3や、センサ端末4や、空調機2や、設備コントローラ5の設置数は任意である。また、各無線通信端末3のアンテナ33の数も1つ又は2つに限られず、より大きな数であっても良い。
【0082】
また、端末コントローラ30、ルーバー制御部31、及び基地局32の空調機2の本体部20内における配置は、任意に設定される。
【0083】
また、ネットワーク7も、UWB−IR方式により、設備コントローラ5のマスタコントローラ51と、無線通信端末3の端末コントローラ30に無線通信を行わせるものであってもよい。
【0084】
また、無線通信端末3の基地局32とセンサ端末4との無線通信を、超音波、赤外線、可視光などによって行い、これらの無線信号の伝播時間に基づき、無線通信端末3とセンサ端末4との距離が測定されても良い。この場合には、指向性マイクや受光素子などの受信部が、ルーバー21上に設置される。そして、ルーバー21が稼働することに応じて、受信部の指向方向が変更される。また、上記受信部はルーバー21の近傍に配置されてもよい。この場合には、ルーバー21が稼働することに応じて、ルーバー21による反射で受信部の指向方向が変更される。以上のように通信を超音波等で行う場合には、壁面、床、天井、その他の什器などの反射による信号の散乱の影響が低く抑えられて、測距精度が向上する。
【0085】
さらに、空調システム1内で、上述の機能の分担を適宜変更することも可能である。例えば、上記の実施形態では、基地局32でセンサ端末4までの距離を求めたが、例えば、各基地局32が伝播時間T1をマスタコントローラ51に伝達し、マスタコントローラ51が基地局32からセンサ端末4までの距離Dを求めるようにしてもよい。
【0086】
上記実施の形態では、空調システム1において、任意の位置に設置されるセンサ端末4の位置を特定するために、無線通信による測距処理を実施したが、この発明は、可動部を備え、無線により距離を測定するシステムに広く適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、無線測位システムの適用例として、オフィスや工場など複数の人が作業をする空間に配置される空調機の省エネルギ化や、温度や湿度や照度などにより定点観測が行われる環境計測システムの省エネルギ化を図るために適用できる。
【符号の説明】
【0088】
1 空調システム
2 空調機
3 無線通信端末
4 センサ端末
5 設備コントローラ
7 ネットワーク
20 空調機の本体部
20a 空気吹出口
21 ルーバー
21a 回動軸
30 端末コントローラ
31 ルーバー制御部
32 基地局
33 アンテナ
33a 給電点
33b アンテナエレメント
50 入力装置
51 マスタコントローラ
52 親局
321 信号処理回路
322 タイマ
323 送信回路
324 受信回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向方向が複数の向きに変更されるアンテナを備え、アンテナの指向方向が異なる状態でそれぞれ、該アンテナを介して、通信相手と無線信号の送受信を行う無線通信手段と、
前記無線通信手段が前記無線信号を送信してから、前記通信相手から送り返された前記無線信号を受信する時点までの時間を計時する計時手段と、
前記計時手段が計時した複数の時間のうち、最短時間に基づき、前記通信相手との間の距離を測定する距離測定手段と、
を有することを特徴とする無線通信端末。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信端末と、
前記アンテナの指向方向を複数の向きに変更する指向方向変更手段と、を有し、
前記指向方向変更手段は、前記アンテナの角度を変えることによって、前記アンテナの指向方向を変更させる、ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
前記指向方向変更手段は、空調機のルーバーと該ルーバーの角度調整部とから構成され、
前記アンテナは、前記ルーバーに設置され、前記角度調整部により前記ルーバーの角度が変更されることに応じて向きが変えられる、
ことを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
請求項1に記載の無線通信端末と、
前記アンテナの指向方向を複数の向きに変更する指向方向変更手段と、を有し、
前記指向方向変更手段は、前記アンテナの周囲の通信環境を変化させることで、前記アンテナの指向方向を変更させる、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
前記指向方向変更手段は、空調機のルーバーの角度調整部と、前記ルーバーに含有される導体又は誘電体とから構成され、
前記アンテナは、前記ルーバーの近傍に設置される、
ことを特徴とする請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記指向方向変更手段は、空調機のルーバーの角度調整部と、前記ルーバーの表面に設置された導体又は誘電体とから構成され、
前記アンテナは、前記ルーバーの近傍に設置される、
ことを特徴とする請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記アンテナが前記ルーバーから離隔する距離は、前記無線信号を構成する波動の半波長よりも短いことを特徴とする請求項5又は6に記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記距離測定手段が計測した距離データに基づいて、前記通信相手の位置を測定する位置測定手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項2乃至7のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項9】
前記通信相手として、前記空調機が配置された室内の温度を計測するセンサ端末と、前記空調機を制御する制御手段とをさらに有し、
前記センサ端末は、前記室内の情報を前記制御手段へ送信し、
前記制御手段は、前記位置測定手段により測定された前記センサ端末の位置と、前記センサ端末から受信した情報とに基づき、前記空調機の作動を制御することを特徴とする請求項8に記載の無線通信システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2011−95015(P2011−95015A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247133(P2009−247133)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】