説明

無線通信装置および当該装置の移動速度推定方法

【課題】基地局を含むネットワークに負荷をかけることなく、極めて簡単な演算によって迅速に自端末の移動速度を推定することができる無線通信装置、およびこの無線通信装置の移動速度を推定する方法を提供する。
【解決手段】無線通信装置10は、複数の基地局についてドップラーシフト周波数をそれぞれ検出する検出部18と、各基地局についてのドップラーシフト周波数に基づいて、各基地局との間の相対速度をそれぞれ算出する算出部19と、算出された各相対速度に基づいて、無線通信装置10の移動速度を推定する移動速度推定部20と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自端末の移動速度を推定することができる携帯端末などの無線通信装置、および当該無線通信装置の移動速度を推定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基地局と携帯電話などの移動体端末との間で行う無線通信において、例えば通信中に無線チャネルを周波数の異なる他のチャネルに切り換える(ハンドオーバ)制御を行う際などに、移動体の移動速度の検出は重要な技術である。移動体端末の移動速度とハンドオーバ先の基地局の周波数とがわかれば、ハンドオーバ先の基地局からの電波のドップラーシフトした周波数を算出することができる。これにより、前もってハンドオーバの可否を判定したり、ハンドオーバ後のドップラーシフトした周波数に追従する措置を講じたりすることができる。そのため、基地局と無線通信を行う携帯端末などの移動体の移動速度を算出する方法として、従来、各種のものが提案されている。
【0003】
基地局と無線通信を行う移動体端末の速度の検出方法としては、ドップラーシフト周波数を測定または推定等することにより間接的に算出する方法が知られている。
【0004】
移動体端末から送出される電波は、移動体端末の周囲に散在して配置された複数の基地局で受信される。この受信電波の周波数には、移動体端末の移動に伴うドップラーシフト量が含まれる。各基地局で検出される受信電波のドップラーシフト量は、移動体端末の速度、および移動体端末の移動方向と各基地局の位置との関係に応じて変化する。移動体端末が移動する経路に沿って位置する基地局では、移動体端末との相対速度が大きくなるため、検出されるドップラーシフト量は大きくなる。移動体端末が接近している基地局では周波数が上側にシフトするアップシフト量が検出され、移動体が遠ざかっている基地局では周波数が下側にシフトするダウンシフト量が検出される。一方、移動体端末が移動する方向と直交する方向に位置する基地局では、移動体端末との相対速度が小さくなるため、検出されるドップラーシフト量は小さくなる。
【0005】
このような原理に基づいて、各基地局で検出されたドップラーシフト量を含む検出結果と各基地局の位置とから、すなわち、各基地局で検出されたドップラーシフト量の空間的な分布状況から、移動体の位置を検出することができる。さらに、必要に応じて移動体端末の移動方向や、移動速度なども検出することができる。
【0006】
例えば、移動体端末が発信する一定周波数の電波を、移動体端末が移動可能な領域内の複数の隔離した固定位置に設置した基地局が受信し、その受信電波の周波数を検出して、複数の各固定位置において検出される受信電波の周波数の一定の周波数からの変化量と、複数の固定位置とに基づいて移動体端末の位置を求めることにより、移動体端末の移動速度を算出する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、複数の基地局から電波を受信する移動体端末の移動速度を検出するために、端末があらかじめ位置情報を把握している少なくとも2つの基地局からの電波を受信して、各基地局からの電波を用いて各基地局との相対速度を検出し、各基地局との相対速度、および移動体端末の位置から移動速度を求める方法も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平07−111675号公報
【特許文献2】特開2004−104223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1または特許文献2に記載されているような方法を利用してドップラーシフト周波数を測定または推定等することにより、基地局と無線通信を行う移動体端末の速度を間接的に算出することができる。
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法においては、基地局が各端末の測定をし、対象端末の移動速度を算出するため、ネットワークに負荷がかかる。特に、速度の検出を要求する移動体端末の数が多くなると、ネットワークにかかる負荷は著しく大きくなることが懸念される。
【0011】
また、上記特許文献2に記載の方法では、端末が各基地局の位置情報を予め入手しておく必要があるため、各基地局の位置情報を入手する手段がない端末では、この方法により移動体端末の移動速度を検出することはできない。さらに、各基地局の位置情報を入手する手段を有する端末を使用する場合であっても、移動速度の検出に先立って測定対象となる基地局の位置情報をそれぞれ入手しておく必要があるため、処理が複雑になる恐れがある。
【0012】
したがって、かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、基地局を含むネットワークに負荷をかけることなく、極めて簡単な演算によって迅速に自端末の移動速度を推定することができる無線通信装置、およびこの無線通信装置の移動速度を推定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する請求項1に係る無線通信装置の発明は、
基地局との間で無線通信を行う無線通信装置において、
複数の前記基地局についてドップラーシフト周波数をそれぞれ検出する検出部と、
前記検出された各基地局についてのドップラーシフト周波数に基づいて、前記各基地局との間の相対速度をそれぞれ算出する算出部と、
前記算出された各相対速度に基づいて、前記無線通信装置の移動速度を推定する移動速度推定部と、
を備えることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の無線通信装置において、
前記移動速度推定部は、前記算出された各相対速度の絶対値のうち最大のものを前記移動速度と推定することを特徴とするものである。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の無線通信装置において、
前記移動速度推定部は、前記複数の基地局の数をnとするとき、前記算出された各相対速度の絶対値のうち最大のものをcos(π/2n)で除した値に基づいて、前記推定した移動速度を補正することを特徴とするものである。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3の何れか一項に記載の無線通信装置において、
前記無線通信装置の内部クロックを調整することができる制御部をさらに備え、
前記算出部は、前記各基地局についてのドップラーシフト周波数のシフト量をそれぞれ算出し、
前記移動速度推定部は、前記算出部が算出した前記各シフト量の平均が所定の閾値を超える場合、前記制御部による内部クロックの調整後に、前記無線通信装置の移動速度を推定することを特徴とするものである。
【0017】
また、上記目的を達成する請求項5に係る無線通信装置の移動速度推定方法の発明は、
基地局との間で無線通信を行う無線通信装置の移動速度を推定する方法であって、
複数の前記基地局についてドップラーシフト周波数をそれぞれ検出するステップと、
前記検出された各基地局についてのドップラーシフト周波数に基づいて、前記各基地局との間の相対速度をそれぞれ算出するステップと、
前記算出された各相対速度に基づいて、前記無線通信装置の移動速度を推定するステップと、
を含むことを特徴とするものである。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の方法において、
前記移動速度を推定するステップは、前記算出された各相対速度の絶対値のうち最大のものを前記移動速度と推定することを含むものである。
【0019】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の方法において、
前記移動速度を推定するステップは、前記複数の基地局の数をnとするとき、前記算出された各相対速度の絶対値のうち最大のものをcos(π/2n)で除した値に基づいて、前記推定した移動速度を補正することを含むものである。
【0020】
請求項8に係る発明は、請求項5乃至7の何れか一項に記載の方法において、
前記算出ステップは、前記各基地局についてのドップラーシフト周波数のシフト量をそれぞれ算出するサブステップを含み、
前記移動速度推定ステップは、前記算出ステップにおいて算出した前記各シフト量の平均が所定の閾値を超える場合、前記無線通信装置の内部クロックを調整した後に、無線通信装置の移動速度を推定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複数の基地局についてそれぞれ検出したドップラーシフト周波数に基づいて、各基地局との間の相対速度をそれぞれ算出することにより、無線通信装置の移動速度を推定するため、ネットワークに負荷をかけずに、さらに基地局の位置情報を要することもなく、極めて簡単な演算によって迅速に移動速度の推定が可能になる。このため、基地局の通信エリア内で速度の検出を行う移動体端末が増えても、これにより基地局を含むネットワークの負荷が増大することはない。さらに、移動体端末において基地局の位置情報は必要ないため、移動体端末の電源をオンにして起動直後から、または基地局の通信エリア圏外から通信エリア圏内に入った直後から、速やかに移動速度を検出することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各実施の形態では、本発明の無線通信装置の一例として携帯電話を想定して説明する。しかしながら、本発明の無線通信装置は携帯電話に限定されるものではなく、例えばPDAなど、無線通信を行う任意の移動体端末に適用できる。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る無線通信装置である携帯電話10の概略構成を説明するブロック図である。
【0024】
携帯電話10は、制御部11と、アンテナ部12と、無線通信部13と、マイク14と、スピーカ15と、表示部16と、操作入力部17とを備えている。制御部11は、携帯電話10全体の各機能部の動作を制御する。アンテナ部12は、図示しない基地局との無線通信を行う際に電波を送受信する。アンテナ部12は複数の基地局からの電波を受信することができる。無線通信部13は、アンテナ部12を介して、図示しない基地局と音声通話および電子メールのデータなど各種情報をインターネットや無線等を使って送受信する。マイク14は、音声通話を行う際にユーザの音声入力を受け付ける。スピーカ15は、受信した音声データをデコードした音声を出力する。表示部16は、受信した映像または画像データをデコードした映像または画像を表示する他、入力された文字または数字などの各種情報を表示する。操作入力部17は、例えばテンキーなどの各種キーまたはボタンなどにより構成され、ユーザの操作による入力を受け付ける。
【0025】
携帯電話10はさらに、検出部18と、算出部19と、移動速度推定部20とを備えている。検出部18は、図示しない複数の基地局から無線通信部13が受信した電波に基づいて、複数の基地局についてドップラーシフト周波数をそれぞれ検出する。算出部19は、検出部18により検出された各基地局についてのドップラーシフト周波数に基づいて、各基地局との間の相対速度をそれぞれ算出する。移動速度推定部20は、算出部19により算出された各相対速度に基づいて、携帯電話10の移動速度を推定する。なお、携帯電話10の周囲に散在し、携帯電話10と無線通信を行う複数の基地局は、既存のものと同じものを用いることができるため、詳細な説明は省略する。
【0026】
次に、図2を参照しながら、本実施形態による携帯電話10の移動速度の推定動作について説明する。
【0027】
図2は、携帯電話10の周囲に、複数の基地局である基地局1〜基地局7が設置されている様子の一例を概略的に表す図である。携帯電話10は、図中のベクトルが示す方向に、速度vで移動しているものとする。基地局1〜7は静止している。なお、基地局の数は、複数の任意の数とすることができる。また、携帯電話10の周囲にはさらに他の基地局が存在しても良いが、ここでは、携帯電話10は、ある瞬間に、図示した基地局1〜基地局7までの基地局の通信可能エリア圏内に存在するものとし、これらの基地局1〜7と無線通信を行うことができるものとする。基地局1〜7は、全て同じ送信周波数fの電波を発信するものとして説明する。
【0028】
自端末の移動速度を推定する要求を受け付けると、携帯電話10の無線通信部13は、基地局1〜基地局7からの電波(送信周波数f)を、アンテナ部12を介して受信する。次に、検出部18は、無線通信部13が受信した基地局1〜基地局7からの電波の周波数f’〜f’を検出する。各基地局1〜7が発信する電波の周波数fは、ある方向に速度vで移動している携帯電話10により受信されると、ドップラー効果のため、携帯端末10との相対速度に応じてドップラーシフトした周波数となる。以下、ドップラー効果によりドップラーシフトした周波数を「ドップラーシフト周波数」と記し、ドップラーシフトにより元の周波数からずれた量を「ドップラーシフト量」と記す。また、検出部18が検出した各基地局1〜基地局7からの電波のドップラーシフト周波数を、それぞれf’〜f’と記す。
【0029】
nを整数とすると、携帯電話10の検出部18が検出する基地局nからの電波のドップラーシフト周波数f’と、携帯電話10が基地局nの方向に向かう相対速度vとの間には、次の関係が成り立つことが知られている。なお、cは光速(すなわち電磁波の速度)とする。
【0030】
【数1】

【0031】
上記式により、基地局nから受信する電波のドップラーシフト周波数f’に基づいて、当該基地局nの方向に向かう携帯電話10の相対速度vを求めることができる。上記式をvについてまとめると、次式のようになる。この式に基づいて、携帯電話10の算出部19は、基地局1〜7の各方向に向かう携帯電話10の相対速度を算出する。
【0032】
【数2】

【0033】
各基地局が携帯電話10の周囲に散在していれば、携帯電話10の位置と各基地局1〜7の位置は絶えず変化するため、基地局nの方向に向かう携帯電話10の相対速度vは、それぞれ異なる値になる。上記式によれば、移動している携帯端末10と基地局nが、携帯電話10と基地局nとを結ぶ直線上において接近する関係にあればvは正の値として算出され、携帯端末10と基地局nが遠ざかる関係にあればvは負の値として算出される。
【0034】
ここで、移動速度推定動作時の携帯電話10の位置と基地局nの位置とを結ぶ直線と、実際に携帯電話10が進む方向の直線が成す角度について考える。例えば図2に示す基地局4または基地局5のように、携帯電話10から基地局に向かう直線と、実際に携帯電話10が移動する方向vとの成す角度が直角に近い場合、携帯電話が当該基地局に向かう相対速度vはゼロに近くなる。一方、例えば基地局1または2のように、携帯電話10から基地局に向かう直線と、実際に携帯電話10が移動する方向vとの成す角度が小さい場合、携帯電話が当該基地局に向かう相対速度vの値は大きくなる。そこで、移動速度推定部20は、算出部19が算出した相対速度vの絶対値が最大となるものを、携帯電話10の移動する速度vとして推定する。
【0035】
すなわち、例えば図2に示す例においては、各相対速度v〜vのうち、携帯電話10が基地局2の方向に向かう相対速度vの絶対値が最大の値となり、この方向は実際に携帯電話10が移動する速度vの方向と成す角度θが最小になる。
【0036】
したがって、移動速度推定部20は、算出部19が算出したvのうち絶対値が最大となるものを携帯電話10の移動する速度vとして推定することにより、携帯電話10の実際の移動速度vに近い値を推定できる。このように、本実施形態では、ネットワークに負荷をかけずに、さらに基地局の位置情報を要することもなく、極めて簡単な演算によって迅速に移動速度の推定が可能となる。
【0037】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による携帯電話10の移動速度の推定動作について説明する。第2実施形態は、上述した第1実施形態で推定した携帯電話10の移動速度に補正を施すものである。したがって、第1実施形態の移動速度推定動作により携帯電話10の移動速度を推定するに際しての説明は省略する。
【0038】
上述した第1実施形態では、相対速度vのうち絶対値が最大となるものを携帯電話10の移動する速度vとして推定した。しかしながら、この推定においては、携帯電話10が、相対速度vに対応する基地局nに向かって移動している場合の速度を求めている。したがって、図2に示すような、携帯電話10の移動速度vと、携帯電話10から基地局2に向かう直線との成す角度をθとすると、携帯電話10が受信する電波のドップラーシフト周波数f’と携帯電話10の移動速度vとの関係は以下のようになる。
【0039】
【数3】

【0040】
現実的には、携帯電話10が、ある基地局nに向かって直線上を厳密に直進のみする、といった状況は想定し難い。そこで、第2実施形態では、このθを考慮することによって、携帯電話10の移動速度を推定する精度を向上する。
【0041】
θは、理論的には、基地局方向と端末移動方向が一致している場合のゼロから、基地局方向と端末移動方向が真逆の場合のπまでの値を取りうる。したがって、携帯電話10が、基地局1〜基地局7からの電波を受信することにより検出されるドップラーシフト周波数f’〜f’は、f×(1+v/c×cos0)からf×(1+v/c×cosπ)までの値を取りうる。ここで、cos0=1,cosπ=−1であることから、携帯電話10が検出した基地局1〜基地局7からの電波のドップラーシフト周波数は、基地局の送信周波数fを中心として、±f×v/cの範囲でばらつく。
【0042】
ここで、複数の基地局が携帯電話10の周囲に一様に設置されていると仮定すると、移動方向との角度θは0からπの範囲で一様に分布することになる。また、本実施形態では、携帯電話10の移動速度の推定に際して必要な測定値は、ドップラーシフト周波数の絶対値の大きさのみであるため、携帯電話10から見て右方と左方の区別をつける必要はない。そのため、図3(A)に示すように、例えば7つの基地局1〜7までが一様に分布していなかったとしても、図3(B)に示すように、複数の基地局を仮想的に携帯電話10の進行方向の片側に集約させて、これを一様な分布とみなすことができる。なお、図3(A)および(B)は、携帯電話10から見た各基地局の方向のみに着目して図示したものである。したがって、各基地局は、必ずしも携帯電話10から等距離の円周上に存在しなくてもよい。
【0043】
図3(B)に示すように、携帯電話10が例えば7つの基地局からの電波を受信できる場合、これらの基地局が携帯電話10の周囲に一様の角度で分布していると仮定すると、各基地局は平均してπ/7の間隔で分布していることになる。この場合、第1実施形態で算出したvのうち絶対値が最大となるドップラーシフト周波数に対応する基地局の方向は、携帯電話10の移動方向に対して、ゼロから最大でもπ/7までの範囲の角度でずれていることが期待できる。しかしながら、角度のずれがπ/7に近い状態であれば、携帯電話10の移動方向は、最大のドップラーシフト周波数に対応する基地局以外の基地局に近いことになる。すなわち、この場合、他に最大のドップラーシフト周波数に対応する基地局が存在することになるため、角度のずれはπ/7に近づくほど大きくはならないことが期待できる。したがって、次式に示すように、角度の平均間隔π/7の半分である角度θ=π/14を、ずれている角度の代表値として採用することにより、第1実施形態で推定により求めた速度vを補正することができる。
【0044】
【数4】

【0045】
すなわち、移動速度推定部20は、算出部19が算出した相対速度vの絶対値が最大になる値を、無線通信部13が電波を受信した基地局の数をnとして、cos(π/2n)で割ることにより、携帯電話10の移動速度vの推定を補正することができる。このように、本実施形態では、第1実施形態で推定した携帯電話10の移動速度vを極めて簡単な演算によって迅速に補正することにより、さらに精度の高い移動速度の推定が可能となる。
【0046】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による移動速度推定動作について説明する。本実施形態では、上述した第1および第2実施形態において、携帯電話10自身が内包するクロックのずれを考慮した上で移動速度の推定動作を行う。
【0047】
上記第1および第2実施形態による移動速度の推定動作は、複数の基地局の配置がある程度一様であると想定した場合に著しい効果を発揮する。この想定に基づくと、携帯電話10が高速で移動している場合に距離が接近する基地局が存在し、この場合、携帯電話10が検出するドップラーシフト周波数は基地局の送信周波数fよりも高くなる。一方、携帯電話10と距離が遠ざかる基地局も存在し、この場合、携帯電話10が検出するドップラーシフト周波数は基地局の送信周波数fよりも低くなる。また、上記第1および第2実施形態による移動速度の推定動作は、携帯電話10が各基地局についてのドップラー周波数を測定する精度がある程度高いことを想定している。
【0048】
したがって、一様に分布した基地局の各ドップラーシフト周波数が正確に検出できれば、正のドップラーシフト量と、負のドップラーシフト量との総量は、ほぼ同じになると想定される。つまり、携帯電話10が周波数を測定する精度が充分高い場合には、各基地局が送信する電波の周波数fと、携帯電話10が受信する各基地局についてのドップラーシフト周波数f’との差(f’−f)を、全基地局について平均するとゼロに近くなる。
【0049】
しかしながら、携帯電話10のような無線通信装置においては、温度などの諸環境条件により、動作中、処理装置のクロック源の精度が変化することがある。仮に、携帯電話10の制御部11の内部クロック等にズレが生じている場合には、受信する電波の周波数もズレて測定されることになる。このような、無線通信装置による観測のズレは各基地局から到来する電波に対して一様に発生するため、無線通信装置の内部クロックのズレが大きいほど、基地局送信周波数fとドップラーシフト周波数f’との差の平均はゼロからズレることになる。
【0050】
したがって、各基地局から到来する電波のドップラーシフト周波数f’の測定値と基地局送信周波数fとの差の平均の分布がゼロから大きくズレる場合、このようなズレは、無線通信装置自身が抱える問題に起因するものである可能性がある。そこで、無線通信装置がこのズレを検出して、その検出に基づいてオフセット分を修正すれば、より正確な移動速度の推定が行えると共に、無線通信装置のクロックの異常を検出する手段ともなり得る。
【0051】
図4は、オフセット調整を含めた移動速度推定動作を説明するフローチャートである。
【0052】
本実施形態の移動速度推定動作が開始すると、まず、検出部18は、携帯電話10の周辺に存在する各基地局から受信する電波に含まれる基準信号の周波数を測定する(ステップS11)。検出部18はさらに、各基地局から受信する電波のドップラーシフト周波数を検出する(ステップS12)。次に、算出部19は、検出部18が検出した基準信号の周波数およびドップラーシフト周波数に基づいて、各基地局から受信する電波のドップラーシフト量を算出する(ステップS13)。各基地局からの電波のドップラーシフト量が算出されたら、制御部11は、各基地局に対応する各ドップラーシフト量を平均した値が(ゼロに近い)所定の閾値以内であるか否かを判定する(ステップS14)。
【0053】
ステップS14においてドップラーシフト量の平均値が所定の閾値以内である場合、携帯電話10の内部クロックは修正が必要なほどズレていないため、移動速度推定部20は第1または第2実施形態で説明した移動速度推定動作を行う(ステップS15)。このようにして、本実施形態の移動速度推定動作を終了する。一方、ステップS14においてドップラーシフト量の平均値が所定の閾値を超える場合、携帯電話10の内部クロックのオフセットを所定の方法により調整してから(ステップS16)、ステップS15の移動速度推定動作を行う。なお、携帯電話10の内部クロックのオフセットを調整する際には、制御部11は、従来既知の各種方法を用いて内部クロックを修正する。
【0054】
このように、本実施形態では、各基地局からの電波の周波数を測定することにより、携帯電話10の内部クロックのズレを検知してから移動速度を推定するため、一層精度の高い移動速度の推定が可能となる。
【0055】
なお、本発明は、上述した実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変更または変形が可能である。例えば、上記各実施形態において、携帯電話10が所定数以上の基地局からの電波を受信できる場合にのみ、上述した移動速度推定動作を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る無線通信装置である携帯電話の概略構成を説明するブロック図である。
【図2】携帯電話の周囲に複数の基地局が設置されている様子の一例を概略的に示す図である。
【図3】携帯電話から見た各基地局の方向のみに着目した各基地局の配置状態を示す図である。
【図4】オフセット調整を含めた移動速度推定動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
10 携帯電話
11 制御部
12 アンテナ部
13 無線通信部
14 マイク
15 スピーカ
16 表示部
17 操作入力部
18 検出部
19 算出部
20 移動速度推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局との間で無線通信を行う無線通信装置において、
複数の前記基地局についてドップラーシフト周波数をそれぞれ検出する検出部と、
前記検出された各基地局についてのドップラーシフト周波数に基づいて、前記各基地局との間の相対速度をそれぞれ算出する算出部と、
前記算出された各相対速度に基づいて、前記無線通信装置の移動速度を推定する移動速度推定部と、
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記移動速度推定部は、前記算出された各相対速度の絶対値のうち最大のものを前記移動速度と推定することを特徴とする、請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記移動速度推定部は、前記複数の基地局の数をnとするとき、前記算出された各相対速度の絶対値のうち最大のものをcos(π/2n)で除した値に基づいて、前記推定した移動速度を補正することを特徴とする、請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記無線通信装置の内部クロックを調整することができる制御部をさらに備え、
前記算出部は、前記各基地局についてのドップラーシフト周波数のシフト量をそれぞれ算出し、
前記移動速度推定部は、前記算出部が算出した前記各シフト量の平均が所定の閾値を超える場合、前記制御部による内部クロックの調整後に、前記無線通信装置の移動速度を推定することを特徴とする、請求項1乃至3の何れか一項に記載の無線通信装置。
【請求項5】
基地局との間で無線通信を行う無線通信装置の移動速度を推定する方法であって、
複数の前記基地局についてドップラーシフト周波数をそれぞれ検出するステップと、
前記検出された各基地局についてのドップラーシフト周波数に基づいて、前記各基地局との間の相対速度をそれぞれ算出するステップと、
前記算出された各相対速度に基づいて、前記無線通信装置の移動速度を推定するステップと、
を含むことを特徴とする無線通信装置の移動速度推定方法。
【請求項6】
前記移動速度を推定するステップは、前記算出された各相対速度の絶対値のうち最大のものを前記移動速度と推定することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記移動速度を推定するステップは、前記複数の基地局の数をnとするとき、前記算出された各相対速度の絶対値のうち最大のものをcos(π/2n)で除した値に基づいて、前記推定した移動速度を補正することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記算出ステップは、前記各基地局についてのドップラーシフト周波数のシフト量をそれぞれ算出するサブステップを含み、
前記移動速度推定ステップは、前記算出ステップにおいて算出した前記各シフト量の平均が所定の閾値を超える場合、前記無線通信装置の内部クロックを調整した後に、無線通信装置の移動速度を推定することを特徴とする、請求項5乃至7の何れか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−38825(P2010−38825A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204386(P2008−204386)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】