説明

無線ICチップおよびそのICモジュール

【課題】 複数の異なる周波数帯で使用可能とし、かつ異なる周波数で交信することによって、異なる情報を読み出したり、情報の読み出しや書き込みに対する制限を行ったりすることが可能な利便性の高い無線ICチップを提供する。
【解決手段】 無線ICチップ100のICモジュール20が、複数のメモリ23と、このメモリ23に対するデータの読み書き処理を行う読み書き回路24と、無線信号を受信したアンテナ10から出力される、この無線信号と同一周波数の電気信号を入力し、この電気信号の周波数に応じて、読み書き回路24による読み書き処理の対象となるメモリ23を特定するセレクタ25とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波や電磁波を用いて非接触で情報の読み書きが可能な無線ICチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線IC(Integrated Circuit)チップを用いて人や物を識別・管理するRF−ID(Radio Frequency Identification)と呼ばれる技術が注目されている。RF−IDで使用される無線ICチップ(RF−IDタグ、無線ICタグ等とも呼ばれる)は、電波や電磁波でリーダー/ライターと交信し、アンテナ側からの非接触電力伝送技術により、電池を持たずに動作することができる(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
無線ICチップの規格では、現在利用可能な周波数は、135kHz以下の帯域、13.56MHz帯、いわゆるUHF帯に属する860M〜960MHz帯、2.45GHz帯という4種類の周波数である。使用する周波数帯によって、リーダー/ライターと交信可能な距離が変わる。そのため、個々の無線ICチップに対して個別に交信する個品管理などでは、13.56MHzなどの低い周波数を用い、多くの製品に付加された無線ICチップから一括読み取りを行うには、UHF帯を用いるなど、用途によって周波数を使い分ける必要がある。
【0004】
ところが、上述したように、無線ICチップは、リーダー/ライターとの交信用の電波や電磁波から電力を経ているため、無線ICチップ内部の動作周波数は、交信に使用される周波数に依存し、固定されることとなる。そのため、ユーザは、上述した個品管理や一括読み取りといった用途に応じて、周波数の異なる無線ICチップを選択して使用する必要があった。さらに、ある製品に対して、複数の用途で無線ICチップを用いようとする場合、用途に応じた周波数ごとに無線ICチップを用意する必要があった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−331238号公報
【特許文献2】“基礎から分かる無線ICタグ”、[online]、2004年1月20日、日経BP社、[2004年7月30日検索]、インターネット<http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NBY/RFID/20031204/3/mokuji.jsp>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、無線ICチップの動作周波数は交信用の周波数に依存するため、ユーザは、用途に応じて無線ICチップの種類を適切に選択しなければならず、ユーザにとって負担となっていた。また、複数の用途で無線ICチップを使用するためには、用途に応じて複数の無線ICチップを用意しなければならず、無線ICチップを用いたシステム等の導入コストを引き上げる原因となっていた。
【0007】
単一の無線ICチップが、複数の異なる周波数帯に対して使用可能であれば、用途に応じて無線ICチップの種類を選択したり、複数の無線ICチップを用意したりする必要がなく、無線ICチップを用いたシステムの利便性が向上し、また導入も容易となる。特に、そのような無線ICチップにおいて、異なる周波数での交信に対して異なる情報を読み出したり、どの周波数を用いるかに応じて情報の読み出しや書き込みに対する制限を行ったりすることができれば、システムの利便性はさらに向上する。
【0008】
そこで本発明は、複数の異なる周波数帯で使用可能とし、かつ異なる周波数で交信することによって、異なる情報を読み出したり、情報の読み出しや書き込みに対する制限を行ったりすることが可能な利便性の高い無線ICチップを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、データの無線通信を行うためのアンテナと、データの処理および蓄積を行うICモジュールとを備えた無線ICチップとして実現される。この無線ICチップにおけるICモジュールは、複数のメモリまたはメモリ領域と、このメモリまたはメモリ領域に対するデータの読み書き処理を行う読み書き部(回路)と、無線信号を受信したアンテナから出力される、この無線信号と同一周波数の電気信号を入力し、この電気信号の周波数に応じて、読み書き部による読み書き処理の対象となるメモリまたはメモリ領域を特定するセレクタとを備えることを特徴とする。
【0010】
より好ましくは、このメモリまたはメモリ領域は、アンテナにより受信されることが想定される無線信号の周波数の種類ごとに個別に設けられる。また、特定の周波数にのみ対応して読み書き部による読み書き処理の対象となるメモリまたはメモリ領域と、複数の周波数に対して読み書き部による読み書き処理の対象となる共用のメモリまたはメモリ領域とが設けられる。
【0011】
さらに好ましくは、セレクタは、共用のメモリまたはメモリ領域を、電気信号が特定の周波数の場合にデータの読み書き処理の対象として特定し、電気信号が他の周波数である場合にデータを読み出す処理の対象としてのみ特定する。または、このセレクタは、共用のメモリまたはメモリ領域を、電気信号が特定の周波数の場合にデータの読み書き処理の対象として特定し、電気信号が他の周波数である場合にデータを書き込む処理の対象としてのみ特定する。または、このセレクタは、電気信号が特定の周波数の場合にデータを書き込む処理の対象として特定されたメモリまたはメモリ領域を、電気信号が他の周波数である場合にデータを読み出す処理の対象として特定する。あるいは、このセレクタは、同一の周波数に応じて処理対象のメモリまたはメモリ領域を特定する場合に、データを読み出す処理を行う場合とデータを書き込む処理を行う場合とで、異なるメモリまたはメモリ領域を処理対象として特定する。
【0012】
また、本発明の無線ICチップは、アンテナから出力される電気信号を入力し、この電気信号に基づいて動作クロックを生成し出力するPLL回路と、アンテナから出力される電気信号またはPLL回路の出力信号を入力し、これらの信号に基づいて、固定周波数の動作クロックを生成するようにPLL回路の分周比を動的に設定するPLL設定部とをさらに備える。これにより、読み書き部やその他の各データ処理手段は、アンテナから出力される信号の周波数(すなわち無線信号の周波数)にかかわらず、PLL回路から出力される固定周波数の動作クロックにしたがって動作する。
【発明の効果】
【0013】
以上のように構成された本発明によれば、ICモジュールに複数のメモリを搭載し、かつセレクタにより、受信周波数に応じて読み書き回路による読み書き処理の対象となるメモリを特定して使用するため、複数の周波数帯を使用して無線ICチップとの交信を行うことができ、かつセレクタの制御により、異なる周波数帯を使用して情報の読み出しが行われた場合に、任意に同じ情報を返したり異なる情報を返したりすることができる。さらに、セレクタの制御により、交信に使用する周波数帯に応じて情報の読み出しや書き込みに対する制限を任意に行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。
図1は、本実施形態の無線ICチップの構成を示す図である。
図1に示すように、無線ICチップ100は、リーダー/ライターと無線通信するためのアンテナ10と、データの処理(アンテナ10を用いた送受信を含む)および蓄積を行うICモジュール20を備える。無線ICチップ100の形状は、ラベル型、カード型など様々であり、用途に応じて使い分けることができる。
【0015】
アンテナ10は、電磁波(磁界変化)あるいは電波による無線信号を検出し、電気信号に変換して出力する。
ICモジュール20は、この電気信号を動作電力として動作すると共に、この電気信号に含まれる情報にしたがって処理(演算、メモリへの受信データの書き込み、メモリからのデータの読み出しおよび送信など)を実行する。
【0016】
図2は、本実施形態におけるICモジュール20の構成を示す図である。
図2に示すように、本実施形態のICモジュール20は、RFアンプ(高周波増幅回路)21と、クロック生成部22と、メモリ23と、読み書き回路24と、セレクタ25と、演算回路26と、認証回路27と、暗号回路28とを備える。
【0017】
RFアンプ21は、アンテナ10から電気信号を入力し増幅して出力する。この電気信号は、リーダー/ライターから送信された情報を含む。また、この電気信号は、ICモジュール20の動作電力として各回路に供給される。
【0018】
クロック生成部22は、RFアンプ21から出力された電気信号(受信信号)に基づいて動作クロックを生成し、受信信号と共にICモジュール20の各回路に供給する。
PLL回路221とPLL回路221の設定を行うPLL設定回路222とを備える。
PLL回路221は、RFアンプ21の出力から一定の周波数の動作クロックを生成し、出力する。ICモジュール20は、アンテナ10で受信される信号の周波数(受信周波数)に関わらず、この動作クロックにしたがって動作する。
PLL設定回路222は、アンテナ10で受信される信号の周波数に応じて、PLL回路221が一定周波数の動作クロックを生成するように、PLL回路221の設定を行う。具体的な設定方法については後述する。
【0019】
メモリ23は、無線により受信されたデータや、無線送信されるデータを記憶する。本実施形態では、ICモジュール20に複数のメモリ23が搭載される。
読み書き回路24は、クロック生成部22から出力された動作クロックと受信信号とを入力し、メモリ23に対してデータの読み取りおよび書き込みを行う。
セレクタ25は、メモリ23と読み書き回路24の間に介在する。そして、RFアンプ21の出力を直接入力し、その信号の周波数に応じて、読み書き回路24による読み書き処理の対象となるメモリ23を特定する。
【0020】
演算回路26は、クロック生成部22から出力された動作クロックと受信信号とを入力し、無線ICチップ100の使用目的に応じた、各種の論理演算や算術演算を行う。
認証回路27は、クロック生成部22から出力された動作クロックと受信信号とを入力し、ICモジュール20が動作する前提として、ユーザやリーダー/ライターの認証処理を行う。
暗号回路28は、クロック生成部22から出力された動作クロックと受信信号とを入力し、送信データや受信データに対する暗号化処理および復号処理を行う。
【0021】
上記構成において、読み書き回路24、演算回路26、認証回路27、暗号回路28は、既存の無線ICチップのICモジュールにおける同種の回路と同様である。また、暗号回路28は、データの送受信の際に暗号化を行わない場合は不要であり、必須の構成要素ではない。
【0022】
次に、本実施形態における、複数の周波数による受信信号に対して固定的な周波数の動作クロックを得る仕組みについて説明する。
上述したように、本実施形態では、RFアンプ21から得られた電気信号(受信信号)に基づき、PLL回路221が動作クロックを生成するのであるが、異なる周波数の受信信号から一定周波数の動作クロックを得るために、PLL設定回路222が動的にPLL回路221の設定変更を行う。受信信号の周波数に基づいてPLL回路221の設定を動的に変更することは、種々の既存技術で実現されるが、ここでは、3つの具体例を挙げて説明する。
【0023】
<第1の動的設定方法>
第1の方法としては、リーダー/ライターから送信される情報に周波数情報を埋め込んでおき、PLL設定回路222がこの周波数情報を読み取ってPLL回路221を設定する方法が考えられる。
図3は、この方法を実現するクロック生成部22の構成例を示す図である。
図3を参照すると、PLL設定回路222は、PLL回路221の出力信号を受信し、受信した信号から周波数情報を読み取ってPLL回路221の設定信号を出力する。
【0024】
例えば、無線ICチップ100が2.45GHzと13.56MHzの2種類の周波数に対応し、ICモジュール20は100MHzの動作クロックで動作するものとする。この場合、PLL回路221の初期設定を2.45GHzに対応させるとすると、このPLL回路221は、リーダー/ライターから信号を受信した場合、初期的には、受信された周波数(基準周波数)を1/24.5に分周してクロック信号を生成することとなる。
この場合、もし13.56MHzの信号を受信したとすると、PLL回路221は、0.55MHz(=13.56MHz/24.5)の動作クロックを出力する。PLL設定回路222は、この動作クロックで動作して、受信信号から周波数情報を読み取る。そして、得られた周波数情報に基づいて、PLL回路221の分周比が1/0.1356となるように設定変更を行う。これ以降、PLL回路221からは100MHzの動作クロックが出力されることとなる。
以上のようにして、ICモジュール20は、受信周波数が2.45GHzと13.56MHzのいずれであっても、100MHzで動作する。
【0025】
上記の動作例とは反対に、PLL回路221の設定が13.56MHzに対応している状態で、2.45GHzの信号を受信したならば、PLL設定回路222が受信信号から周波数情報を読み取ってPLL回路221の設定を動的に変更し、100MHzの動作クロックを出力させることも可能である。また、受信周波数が3種類以上である場合にも、PLL設定回路222が受信信号から周波数情報を読み取ることで、PLL回路221の設定を適切に変更し、受信周波数に関わらず100MHzの動作クロックを出力させることが可能である。なお、この第1の動的設定方法は、PLL回路221の設定変更専用のPLL設定回路222を設ける変わりに、演算回路26を各種周波数で動作させて、PLL回路221の設定変更を行わせることで実現しても良い。
【0026】
<第2の動的設定方法>
第2の方法としては、PLL回路221の出力にバンドパスフィルタを挿入しておき、その出力をフィードバックしてPLL回路221を設定する方法が考えられる。
図4は、この方法を実現するクロック生成部22の構成例を示す図である。
図4を参照すると、PLL回路221の出力は、バンドパスフィルタ223を経て出力される。PLL設定回路222は、バンドパスフィルタ223の出力を入力して監視し、その出力状態に基づいてPLL回路221を設定する。またPLL設定回路222は、RFアンプ21から直接電力供給を受けており、バンドパスフィルタ223の出力の有無に関わらず動作するようになっている。
【0027】
例えば、無線ICチップ100のICモジュール20が100MHzの動作クロックで動作するものとする。この場合、PLL回路221の出力には100MHzのバンドパスフィルタ223が挿入され、100MHz近辺の周波数のみが動作クロックとして出力されるようにする。
この状態で、RFアンプ21から信号が出力されると、PLL設定回路222は、バンドパスフィルタ223の出力を監視しながらPLL回路221の分周比を変更していく。そして、バンドパスフィルタ223から信号が出力されるようになると、この信号は100MHzのクロック信号なので、PLL設定回路222は、その時点でPLL回路221の分周比を固定する。これ以降、PLL回路221からは100MHzの動作クロックがバンドパスフィルタ223を介して出力されることとなる。
以上のようにして、ICモジュール20は、受信周波数がどの周波数帯であっても、100MHzで動作する。
【0028】
<第3の動的設定方法>
第3の方法としては、受信が想定される周波数帯に応じてRFアンプ21を複数設け、どのRFアンプ21から信号が出力されたかに応じて、PLL回路221の設定を変更する方法が考えられる。
図5は、この方法を実現するクロック生成部22の構成例を示す図である。
図5を参照すると、ICモジュール20は、受信が想定される周波数帯(すなわち無線ICチップ100が対応する各周波数帯)に応じてRFアンプ21を複数備える。各RFアンプ21には、受信が想定される各周波数帯に個別に対応するアンテナ10が、それぞれ接続される。また、PLL設定回路222は、各RFアンプ21の出力信号を直接入力する。PLL回路221は、PLL設定回路222から出力される設定信号および受信信号を入力する。
【0029】
図5の構成によれば、各種の周波数の信号に対して受信可能なアンテナ10は一つなので、受信周波数ごとに信号を出力するRFアンプ21は一つに限定される。したがって、PLL設定回路222は、どのRFアンプ21から信号が出力されたか(すなわちどのアンテナ10で無線信号が受信されたか)に基づいて受信周波数を判断し、その受信周波数にしたがってPLL回路221の分周比を設定する。
【0030】
以上、PLL回路221の分周比を動的に設定する方法およびそれを実現する構成について、具体例を挙げて説明したが、複数の受信周波数から固定的な動作クロックを得る技術は、これらの具体例に限定されない。PLL回路221を用いて固定的な動作クロックを得るために、既存の種々の技術を適用することが可能である。
【0031】
次に、本実施形態における、メモリ23の構成および利用態様を説明する。
図2を参照して説明したように、本実施形態において、ICモジュール20は、複数のメモリ23と、受信周波数に応じてデータの読み書き対象となるメモリ23を選択するセレクタ25とを備える。メモリ23は、受信が想定される周波数帯(無線ICチップ100が対応する周波数帯)ごとに個別に設けることができる。これにより、本実施形態では、無線ICチップ100に対してどの周波数で交信したかに応じて、異なる情報(異なるメモリ23のデータ)を読み出すことが可能となる。また、複数の受信周波数に対してデータの読み書き対象となる共用のメモリ23を設定することもできる。共用のメモリ23を設定すれば、ある周波数による交信で書き込んだデータを別の周波数による交信で読み出すことが可能となる。具体的なメモリ23の個数および周波数との対応関係は、セレクタ25の設定によって任意に定めることができる。
【0032】
また、セレクタ25は、ある特定の受信周波数による受信信号に基づいてデータの書き込みが行われる場合に処理対象とした特定のメモリ23を、別の受信周波数による受信信号に基づいてデータの読み出しが行われる場合に処理対象とすることができる。言い換えれば、特定のメモリ23に対して、データ書き込みに用いられる受信周波数と、データ読み出しに用いられる受信周波数とが異なるように制御することができる。
反対に受信周波数に着目すれば、セレクタ25は、ある特定の受信周波数に関して、その受信周波数による受信信号に基づいてデータの書き込みが行われる場合と、データの読み出しが行われる場合とで、異なるメモリを処理対象として選択することができる。
【0033】
さらに、共用のメモリ23を設定した場合、セレクタ25は、特定の受信周波数の場合にこの共用のメモリ23をデータの読み書き処理の対象として選択し、他の受信周波数の場合にこの共用のメモリ23をデータの読み出し対象としてのみ選択するといった制御を行うことができる。反対に、他の受信周波数の場合にこの共用のメモリ23をデータの書き込み対象としてのみ選択することもできる。
【0034】
これらの制御を行うことにより、無線ICチップ100へのデータの読み書きを行う場合に、データを書き込む場合とデータを読み出す場合とで異なるリーダー/ライターを使用しなければならない、データの読み出しはどのリーダー/ライターでもできるがデータの書き込みは特定の周波数を用いるリーダー/ライターでしかできない、などの制約を与えることができる。これにより、無線ICチップ100の使用態様によっては、データの読み出しや書き込みにおけるセキュリティを高めることができる。
【0035】
次に、本実施形態による無線ICチップ100の具体的な適用例を説明する。
例として、店舗における商品管理に本実施形態の無線ICチップ100を使用する場合を考える。この例において、無線ICチップ100は、13.56MHzの周波数帯に対応する第1のメモリ23と、UHF帯に対応する第2のメモリ23とを備える。使用する周波数帯の特性により、第1のメモリ23に格納された情報は近距離からしか読み取ることができず、第2のメモリ23に格納された情報はある程度離れた場所からでも読み取ることができる。そして、第1のメモリ23には、個々の商品に関して、種類やメーカー、ロットナンバー等の詳細な情報が格納され、第2のメモリ23には、個々の商品の識別情報(シリアルナンバーや重複のないランダムナンバー等)のみが格納されるものとする。
【0036】
店舗は、商品の在庫状況や販売状況を管理するために、商品の販売時にその商品の詳細な情報を取得する必要がある。そこで、代金支払いの際に、販売員が13.56MHzの周波数帯を用いるリーダー/ライターにより、第1のメモリ23から情報を読み出す。読み出された情報は、店舗の管理サーバに送られて格納される。また、店舗は、商品の盗難防止のために、出入り口に設置されたUHF帯を用いるリーダーにより第2のメモリ23から情報を読み出す。読み出された情報は店舗の管理サーバに送られ、管理サーバによって、その商品が代金を支払われたものか否かが確認される。商品の種類によっては(例えば衣類など個人の嗜好性の高いもの等)、比較的離れた位置から商品の詳細な情報を読み取り可能であることを購買者が嫌う場合がある。そこで、UHF帯に対応した第2のメモリ23には、商品の詳細な情報は格納せず、盗難防止に必要な商品の識別情報のみを格納する。
【0037】
このように、異なる周波数帯を用いて異なる情報の読み書きを行おうとする場合、従来の無線ICチップでは、各周波数帯に対応する無線ICチップをそれぞれ用意して商品に付加しなければならない。しかし、本実施形態の無線ICチップ100ならば、単一の無線ICチップ100で複数の周波数帯に対応し、かつ異なる周波数帯での交信において異なる情報を返すことができるので、経済的である。
【0038】
また、上記の第2のメモリ23を、13.56MHzの周波数帯およびUHF帯に対応する(すなわち共用の)メモリに設定して、販売管理のための情報を格納させることもできる。この場合、第1のメモリ23には上記と同様に、個々の商品に関して、種類やメーカー、ロットナンバー等の詳細な情報が格納され、第2のメモリ23には、代金の支払いに関する情報が格納されるものとする。代金支払いの際には、販売員が13.56MHzの周波数帯を用いるリーダー/ライターにより、第1のメモリ23から情報を読み出すと共に、第2のメモリ23に代金が支払われたことを示す情報を書き込む。そして、出入り口に設置されたUHF帯を用いるリーダーにより第2のメモリ23から情報を読み出し、その商品が代金を支払われたものか否かを確認する。このような構成であれば、店舗の管理サーバに問い合わせるまでもなく、リーダーによって読み取られた情報から直ちに、その商品に対して代金が支払われたか否かを判断することができる。
【0039】
同様のことを周波数帯ごとに複数の無線ICチップを用いる場合、販売員が、商品の詳細な情報を読み取る場合と代金が支払われたことを示す情報を書き込む場合とで、異なる周波数帯を使用するリーダー/ライターに持ち替える必要がある。しかし、上記の第2のメモリ23のように、複数の周波数帯による通信に対応させた共用のメモリ23を設定すれば、販売員が第2のメモリ23に代金が支払われたことを示す情報を書き込む際にリーダー/ライターを持ち替える煩雑な動作を行う必要はなく、利便性が向上する。
【0040】
別の適用例として、商品の流通過程における商品管理に本実施形態の無線ICチップ100を使用する場合を考える。この例において、無線ICチップ100は、UHF帯の複数の周波数(例えば868MHz、950MHz)に対応する第1のメモリ23と、UHF帯の868MHzに対応する第2のメモリ23と、UHF帯の950MHzに対応する第3のメモリ23とを備える。そして、第1のメモリ23には商品の種類の情報が格納され、第2のメモリ23にはその商品の個別の情報(例えば果物であれば収穫値や等級等、工業製品であれば、製造データや品質データ等)が格納される。また、第3のメモリ23には流通の過程で流通データ(流通業者や経路、日程等)が書き込まれるものとする。
【0041】
小売店では、商品管理のために商品の種類と個別情報とが必要となるので、868MHzの周波数帯を使用するリーダー/ライターを用いて、第1、第2のメモリ23から情報が読み取られる。
一方、流通業者は、流通過程における商品管理のために商品の種類の読み出しと流通データの読み書きを行う必要がある。そこで、950MHzの周波数帯を使用するリーダー/ライターを用いて、第1のメモリ23から情報が読み取られると共に、第3のメモリ23に対して情報の読み書きが行われる。
いずれの場合も、必要とする情報以外の情報を読み取ってしまっても情報処理上の問題はないが、必要な情報のみを限定して読み取ることにより、全商品の読み取りに要する時間を短縮することができる。
【0042】
流通過程においては、商品は複数個まとめて梱包されている場合があり、また小売店においても、商品を入荷した時点では流通過程と同様に梱包されている。したがって、UHF帯を用いて梱包の外から情報の読み書きを行う方法が、利便性が高い。そして、上述したように、UHF帯の異なる周波数帯に応じて各々メモリ23を設定することにより、使用する周波数帯の異なるリーダー/ライターを使い分けることにより、所望のカテゴリで情報を取得し、分類/集計することが可能となる。
【0043】
なお、この適用例で、商品の種類や個別情報は初期的に付与されたまま変更されない情報であるが、流通データは流通過程で随時交信される情報である。したがって、第1、第2のメモリ23はデータの読み出しのみが可能であり、第3のメモリ23はデータの読み書きとも可能となるように、セレクタ25による制御を行うようにしても良い。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の無線ICチップ100は、クロック生成部22により受信周波数に関わらず固定の動作クロックで動作すると共に、ICモジュール20に複数のメモリ23を搭載し、かつセレクタ25により、受信周波数に応じて読み書き回路24による読み書き処理の対象となるメモリ23を特定して使用する構成とした。このため、複数の周波数帯を使用して無線ICチップ100との交信を行うことができ、かつセレクタ25の制御により、異なる周波数帯を使用して情報の読み出しが行われた場合に、任意に同じ情報を返したり異なる情報を返したりすることが可能である。
【0045】
したがって、本実施形態は、複数の周波数帯を用いた交信を行うために各周波数帯に対応する無線ICチップをそれぞれ用意する必要がなく、単一の無線ICチップ100を用意するだけで済むので経済的である。
また、本実施形態は、セレクタ25の制御方法を適宜設定することにより、異なる周波数帯を使用したデータの読み書きを任意かつ多様に制御することができるので、非常に利便性が高い。
【0046】
なお、上記の実施形態では、複数の周波数帯による通信に対応させるために、ICモジュール20に複数のメモリ23を搭載することとした。これは、物理的に複数個のメモリ23を設けるのみならず、物理的には単一もしくはいくつかのメモリ23を搭載し、そのメモリ23内で複数の周波数帯にそれぞれ対応するメモリ領域や共用のメモリ領域を設定し、各メモリ領域に対する制御をセレクタ25が行う場合を含む。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態の無線ICチップの構成を示す図である。
【図2】本実施形態におけるICモジュールの構成を示す図である。
【図3】本実施形態におけるクロック生成部の構成例を示す図である。
【図4】本実施形態における他のクロック生成部の構成例を示す図である。
【図5】本実施形態におけるさらに他のクロック生成部の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
10…アンテナ、20…ICモジュール、21…RFアンプ、22…クロック生成部、23…メモリ、24…読み書き回路、25…セレクタ、26…演算回路、27…認証回路、28…暗号回路、221…PLL回路、222…PLL設定回路、223…バンドパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データの無線通信を行うためのアンテナと、
データの処理および蓄積を行うICモジュールとを備え、
前記ICモジュールは、
複数のメモリまたはメモリ領域と、
前記メモリまたはメモリ領域に対するデータの読み書き処理を行う読み書き部と、
無線信号を受信した前記アンテナから出力される電気信号を入力し、当該電気信号の周波数に応じて、前記読み書き部による読み書き処理の対象となるメモリまたはメモリ領域を特定するセレクタと
を備えることを特徴とする無線ICチップ。
【請求項2】
前記メモリまたはメモリ領域は、前記アンテナにより受信されることが想定される無線信号の周波数の種類ごとに個別に設けられることを特徴とする請求項1に記載の無線ICチップ。
【請求項3】
特定の周波数にのみ対応して前記読み書き部による読み書き処理の対象となるメモリまたはメモリ領域と、複数の周波数に対して前記読み書き部による読み書き処理の対象となる共用のメモリまたはメモリ領域とが設けられることを特徴とする請求項1に記載の無線ICチップ。
【請求項4】
前記セレクタは、前記共用のメモリまたはメモリ領域を、前記電気信号が特定の周波数の場合にデータの読み書き処理の対象として特定し、前記電気信号が他の周波数である場合にデータを読み出す処理の対象としてのみ特定することを特徴とする請求項3に記載の無線ICチップ。
【請求項5】
前記セレクタは、前記共用のメモリまたはメモリ領域を、前記電気信号が特定の周波数の場合にデータの読み書き処理の対象として特定し、前記電気信号が他の周波数である場合にデータを書き込む処理の対象としてのみ特定することを特徴とする請求項3に記載の無線ICチップ。
【請求項6】
前記セレクタは、前記電気信号が特定の周波数の場合にデータを書き込む処理の対象として特定されたメモリまたはメモリ領域を、前記電気信号が他の周波数である場合にデータを読み出す処理の対象として特定することを特徴とする請求項1に記載の無線ICチップ。
【請求項7】
前記セレクタは、同一の周波数に応じて処理対象のメモリまたはメモリ領域を特定する場合に、データを読み出す処理を行う場合とデータを書き込む処理を行う場合とで、異なるメモリまたはメモリ領域を処理対象として特定することを特徴とする請求項1に記載の無線ICチップ。
【請求項8】
前記アンテナから出力される前記電気信号を入力し、当該電気信号に基づいて動作クロックを生成し出力するPLL回路と、
前記アンテナから出力される前記電気信号または前記PLL回路の出力信号を入力し、当該電気信号または出力信号に基づいて、固定周波数の動作クロックを生成するように前記PLL回路を動的に設定するPLL設定部とをさらに備え、
前記読み書き部は、前記PLL回路から出力される固定周波数の動作クロックにしたがって動作することを特徴とする請求項1に記載の無線ICチップ。
【請求項9】
データの無線通信を行うためのアンテナと、
データの処理および蓄積を行うICモジュールとを備え、
前記ICモジュールは、
前記アンテナから出力される前記電気信号を入力し、当該電気信号に基づいて動作クロックを生成し出力するPLL回路と、
前記アンテナから出力される前記電気信号または前記PLL回路の出力信号を入力し、当該電気信号または出力信号に基づいて、固定周波数の動作クロックを生成するように前記PLL回路を動的に設定するPLL設定手段と、
前記PLL回路から出力される固定周波数の動作クロックにしたがって動作するデータ処理手段と
を備えることを特徴とする無線ICチップ。
【請求項10】
無線ICチップのICモジュールであって、
複数のメモリまたはメモリ領域と、
前記メモリまたはメモリ領域に対するデータの読み書き処理を行う読み書き部と、
無線信号を受信したアンテナから出力される電気信号を入力し、当該電気信号の周波数に応じて、前記読み書き部による読み書き処理の対象となるメモリまたはメモリ領域を特定するセレクタと
を備えることを特徴とするICモジュール。
【請求項11】
前記メモリまたはメモリ領域は、前記アンテナにより受信されることが想定される無線信号の周波数の種類ごとに個別に設けられることを特徴とする請求項10に記載のICモジュール。
【請求項12】
特定の周波数にのみ対応して前記読み書き部による読み書き処理の対象となるメモリまたはメモリ領域と、複数の周波数に対して前記読み書き部による読み書き処理の対象となる共用のメモリまたはメモリ領域とが設けられることを特徴とする請求項10に記載のICモジュール。
【請求項13】
前記アンテナから出力される前記電気信号を入力し、当該電気信号に基づいて動作クロックを生成し出力するPLL回路と、
前記アンテナから出力される前記電気信号または前記PLL回路の出力信号を入力し、当該電気信号または出力信号に基づいて、固定周波数の動作クロックを生成するように前記PLL回路を動的に設定するPLL設定部とをさらに備え、
前記読み書き部は、前記PLL回路から出力される固定周波数の動作クロックにしたがって動作することを特徴とする請求項10に記載のICモジュール。
【請求項14】
無線ICチップのICモジュールであって、
前記アンテナから出力される前記電気信号を入力し、当該電気信号に基づいて動作クロックを生成し出力するPLL回路と、
前記アンテナから出力される前記電気信号または前記PLL回路の出力信号を入力し、当該電気信号または出力信号に基づいて、固定周波数の動作クロックを生成するように前記PLL回路を動的に設定するPLL設定手段と、
前記PLL回路から出力される固定周波数の動作クロックにしたがって動作するデータ処理手段と
を備えることを特徴とするICモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−85548(P2006−85548A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271184(P2004−271184)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【復代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
【復代理人】
【識別番号】100118201
【弁理士】
【氏名又は名称】千田 武
【復代理人】
【識別番号】100118108
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 洋之
【Fターム(参考)】